※この作品はR-18です。

二次創作SS集   作:夜半の月

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友人よりの掲載許可作品です

***まえがき***
 性懲りも無くまた新作をがががっと書いてしまいました。
15巻の四コマに触発された勢いで……。
以前15巻で記したアークライト×梔を題材としたNEEDLESS二次創作SSです。
ギャグ要素とエロパロ要素を多大に含むので、苦手な方はご注意くださいませー。
本文は続きを読むからどうぞ。


二―ドレス 預かり物
***[おとうさんとよんでください]***


 

 

 

 

 ***[おとうさんとよんでください]***

 

 

 

 思いも寄らぬ来訪が社長室にあったのは、暑い夏の日のことである。白昼の太陽が荒野に佇立する只一つのビルを真上から照らしていたその頃。熱に歪む景色を窓越しに眺めやり、手元のジェラートを誰に知られる事もなくこっそりと食べていたアークライトは、扉の向こうに誰かの存在を感じるとバミューダアスポートで氷菓を隠した。

 

「……入りたまえ」

 

 厳かな声を発する彼の後ろ手には、肌を冷ます見えない菓子が未だにある。

 

 そんな様子も露知らず、言葉も発する事なく一礼をしながら[失礼します]と掛かれたスケッチブックを翳し少女は社長室に足を踏み入れた。男の視界に入ったのは、腰まで伸びた波打つ絹を思わせる金の髪と、しなやかな体付きの少女。

 

「……梔か、急に私の所に何用だ」

 

 現われた金髪の少女を脚から顔まで上向きに一瞥した彼は、外面で不愉快そうに振る舞えども内心は彼女の来訪に喜んでいた。というのも、梔の衣服が普段と異なる夏期用の制服に、即ち『夏服』を着用していたからであるのだ。自然と浮かぶ汗が布の繊維を透かせ、膨らみかけの柔丘が為す谷間が宝石のように映えるのも、格子模様の短いスカートと膝を越えた長さの靴下らが為す絶対領域に滲む汗の軌跡は夏服にしか有り得ないものだから、彼は初めて夏の暑さに感謝した。しかし、こうして見ると薄着の良さが少し理解出来る。只衣服を剥ぎ取った裸体にはない色香が、薄布が数枚存在するだけで妄想力を奮わせてくれるし、程よく腕や首元に見える白肌の露出は日焼けすることのない雪のようだ。今手にしているジェラートよりも若しかしたら白く、甘そうな肌にアークライトは唾を飲んだ。

 

 [アークライト様、聞いていますか? ]

 

「ん……? ああ、すまない。聞いていなかった。いや、読んでいなかった、か……。もう一度頼む」

 

 狼狽の混じった彼の言葉に、側にまで寄って来ていた梔は怪訝な顔をしながら、アークライトに伝えるべく書いたページを開き直した。

 

「……何々。拝啓、社長。ローズ学園の夏休みが半ばを過ぎた今日この頃、日々暑い日が続いておりますね。社長は如何お過ごしで御座いますか。私は山田に押しつけていた宿題がセツナを通して帰ってきたもので、日々拷問に似つかわしい課題に明け暮れております。そこで社長に御相談願いたい所存でありまして、一つ私の宿題を手助けして頂きたいのですが……。一ページ目から長いな……それで、何を私に頼みたいのだ」

 

 音読し始めた事を後悔したアークライトは、残り数十枚にも及ぶ原稿を見て結論を急いだ。梔は[頑張って徹夜で書いたのに]と不満をスケッチブックの端に記しながら、新たな白紙の頁に何かを記していく。

 

 微積問題やL関数、マクローリン展開応用題だったら「右天なら手が空いているだろうな」と帰って貰おう、

 

 機械論的自然観の結論についてだったら「ハットフィールドは哲学が好きそうだ」で御引き取り願い、

 

 論語の完訳だったら「石山に尋ねてみなさい」、

 

 有機構造異性体の特定と性質分析や量子論の軌跡問題なら「物理科学男のSFマニアに聞け」で左天に任せよう。

 

 等といった逃げの口上を合わせて考えつつ遠くを見ていたアークライトが向き直すと、新たな一文が白紙の中央に横書で記されているのに気がついた。そこに書かれていたのは、

 

 [夏休みの研究課題。お義父さんのお仕事について]との簡潔な文だった。

 

「えっ……何、えっ? お義父さんって、お、お義父さん? 私が、手伝うの? おとうさんを?」

 

 たった一行が引き起こした衝撃と困惑に慌てて素を曝露してしまったアークライトは透明化したままのジェラートを机に震えたまま音を立てて置き、両手を訳もなく広げた。

 

「そもそも梔ちゃん、あっ、梔は、お・おとうさんいるの? 良く知らないのだが?」

 

 完全に動揺している──その様子に梔は若干引きつつも、またペンを走らせた。アークライトは背中に大量の汗を感じて、冷房の温度設定を弄り気を紛らわし始めた。室温は摂氏十九度であったのが、只今八度に設定された。

 

 [父親は実際いるかいないか良く分からないんで、親代りになってくれてるアークライト様でいいかなあと]

 

 アークライトに反して梔の行動は思い付きに近い軽いものだった。しかし、そんな事を言われてしまった彼は一層慌てふためき首に埋め込まれた輪を「そ、それにしても暑いな」と引っ張る。室内は充分に冷えているのに、何を言っているのかと梔は眉を潜めながら[まあそういうわけで、一日私のお義父さんになってくれませんか]と続けた。アークライトはもう限界に近かった。先日テスタメントの擬人化個体を技術部に発注し、隠密に開発された試作品を遠目に見ただけでも劣情を激しく煽られたというのに、今日はまさか当社屈指の激萌幼女に父親になってほしいと頼まれるなんて、理性が惑星砕きしてしまいそうな衝撃であるのだ。しかしアークライトは、喉奥に生じそうな下卑た返事を飲み込んで、一息ついてポーズを決めれば毅然たる態度でこう言った。

 

「いいだろう! 今日一日、私が貴様の父親になってやろう……! 但し、条件が一つある……! 私の事は、お義父さんと呼んでください! いいね?」

 

 指を立てて熱く確認する彼に梔は[はい、おとうさん。今日一日仲良くしようね]とあっさり頷いた。その一言にアークライトは回転しながら宙を舞い喜んだ。日は未だ高い午前と午後の狭間に、奇妙なる一日親子関係が此所に始まったのである。

 

 ****

 

「さて、早速父親になったのはいいが……何をすれば良いものか……」

 

 親子の契約を仮にも結んだとはいえ、自分も親を持たなかった身であるアークライトは頭を抱えて悩んだ。娘となった可愛らしい金髪の幼女は、早速社長室でまったりと寛いで、室温調整をしたりラッコの真似をしたり、本棚を物色したり、冷蔵庫の中身を漁ったりしている。眺めているだけでも悪くはないが、少女部隊の彼女と部下としてでは無く肉親として触れ合える機会など二度と無いだろう。折角なのでこの好機を存分に堪能したいのだが、幼い子供に対し背徳的な思想ばかり夢に見る傾向のある彼には中々名案が浮かばない。悩み過ぎてアークライトは高級座椅子の上で海老反りになっていた。

 

 そんな彼の背中を指先でつついて、梔はある提案をした。

 

 [ねえ、お義父さん。一緒にこのアイス食べようよ]

 

「ええ!?」

 

 少女が指示していたのは冷蔵庫に閉まっていた秘蔵の氷菓であった。透明な硝子の容器に入った半円の白い冷菓子は冷たさを仄かに漂わせ、甘い匂いを発している。ただアークライトが瞠目したのは備え付けられたスプーンが一つしかないという点。

 

 それ即ち、一つの食器で一つのアイスを食す事成り! 頭の中で何故か、そんな石山の声が木霊した。

 

(馬鹿な、これでは間接的接吻は免れないぞ……。バミューダアスポートを解除すれば、私も自身のアイスを食べることは容易い。が、この据膳を食わずにいて良いのか……?)

 

 梔は思案に冷や汗を垂らすアークライトの事は余り気にせず、彼の膝の上に座りアイスを一口食べた。

 

 [おっじゃまー いただきまー]

 

「ヌゥワォウ!!??」

 

 予期せぬ奇襲に、アークライトの上体は大きく身悶えた。膝上では制服姿の美少女がアイスを貪っていて、下半身には発育の目覚ましい太股と臀部の柔らかさが伝わってくる官能的状態に、アークライトは硬直した。離瑠の肌とは全く違う別次元の柔らかな感触がそこにはある──。年齢が僅かに異なるだけで、大人の女性と年頃の少女の肌は比べ物にならない程差があるのか。お陰で我慢するのが辛すぎる、辛すぎて仕方がない。

 

 男性の本能現象を御しつつ、アークライトは上体をのけ反らし耐えた。だが、梔の追い討ちは容赦がない。膝上で僅かに腰を動かし、彼の方に振り向けば[おとうさん、食べないと無くなっちゃうよ。はい、あーん]と先程まで口にしていた食器を用いてアイスを彼の口に運んだ。白く甘いアイスが、言葉にならない奇声をあげる彼の口内に侵入していく。僅かにねとつく、口溶けの良いジェラートの味も分からず、下腹部に伝わった優しい刺激にアークライトは自らを律し続けていた。

 

(父親というより……これでは違う意味での『お義父さん』に……なって……しまう……)

 

 彼女が膝上を去るまで、アークライトは全く生きた心地を感じられなかったのは言うまでもない。机上の氷菓は白濁に浮かび、日照りの中に溶けている──。

 

 ***

 

 さて三時のおやつが終わると、次は何をすべきか。

 

 水平線に沈み始めた太陽を見送る中、アークライトは机仕事を粗方片付けつつその事ばかりをずっと考えていた。お陰で、後に当社の資産運営を混沌とした惨状に直面させるであろう出鱈目な会計書らはあっさりと捺印を頂いていき、山積していく。梔の方は机の片隅で宿題に取組んでいるのだが、時折退屈そうに大きく欠伸をしている。思えば、あれ以降碌に会話をしていない。此の部屋に娯楽がある訳でもない、音楽が響いている訳でもない、筆が机を叩く音が単調に在るのみだ。独りきりの時とは違い、無言はとても気まずかった。

 

(くっ……このまま無為な時間を延々と続けて良いものだろうか……否、言い筈がない……。考えてもみるのだ……夏の夕暮れ時に極上幼女と二人きりなんて日はそう簡単には再来しないぞ……考えろ……梔ちゃんを喜ばす遊びを……考えるのだ……!!)

 

 地響きが鳴り響きそうな程真剣な表情で彼は思考を走らせていた。そして、長い思索の先に行き着いた発想が言葉となり放たれる。

 

「……うむ、梔ちゃん。こう宿題ばかりしていても退屈だろう。お義父さんもデスクワークだけでは退屈な所だ。

 

 そこでだ、良かったら一緒に……ツイスターゲームをやってみないか?」

 

 理性は半分崩壊していた──。本棚の最奥に隠された聖域から薄い本を何冊か落としつつ引き出されたそれは、四色の円模様が正方形の内に収められた禁忌の布である。このゲーム、ルールは至って単純だ。指定された色を左右の手足で踏んでいき、身体が地面に着く、若しくは指定された色を踏む事が出来なくなれば敗北。特に罰則や禁止事項はないが、身体を妙な形で交差させる事が定番の為、初々しいカップルからは忌避されている遊戯である。右天から暑中見舞いに頂いたトランプも、左天から残暑見舞いに届いたSFボードゲームの存在も忘れて、彼は一人燥ぐようにゲームの準備をしていた。

 

「それでは梔ちゃん……始めようか、親子水入らずの桃色の遊戯を!」

 

 梔は若干引きながらも、少し面白げに[領海]と頭を振った。

 

「さて、色の指定は父親権限で私に行わせさせて貰うとしよう……まず、右脚を左隅赤に、右手を左上段中央緑に」

 

 [お安い土曜だっ]

 

 口で咥えたスケッチブックに文字を記す余裕を見せながら、梔はアークライトの指示に従った。

 

「続いて私は!! 右手を中央最上段青ッ! 左足を左寄り中段下部黄色にッ! うむ、余裕だな! 続いて梔ちゃん、左手を中央上段段黄色に、左脚を中段下部黄色にッ! そして私は右手を中央最上段赤に! 右足を左寄り下段緑に移動だ!」

 

 指示がやたら細かいのだが、行なっている事は以外と豪快である。あっという間に少女を組臥すような態勢に仕立て上げたアークライトは、自らの胸の下で維持が困難である態勢に震える梔を見下ろした。

 

「どうかね、中々難しくてやり甲斐のある遊戯だろう……」

 

 アークライトは誇らしげに囁くが、筆を持つ事の出来ない彼女から返答はない。親子関係でも口を開く事はないようだ。しかし改めて凝視すると、戦闘要員なのが信じられない程に綺麗な身体をしているものだ。抱き締めれば折れてしまいそうな線の細さ、薄手の白シャツに膨らむ発育途上の双丘は吐息に揺れ弾み、衣服の合間から覗く臍は健康的に小さく窪み可愛らしく、赤と黒の格子模様の布に隠された腰はなだらかな曲線を妖艶に描いて白い太股の下端にある黒い靴下へと続かせている。身体を近付ければ近付ける程に薫る彼女の香りは甘く恍惚を誘う麻薬を思わせ、冷房で僅かに靡く髪は羽毛布団よりも遥かに心地良さげな触感を視界から伝えてくる。長い睫毛を額縁にした黄色い瞳は黄玉のように煌めき、自分だけを見つめている。何と官能的で煽情的な姿態だろうかと、アークライトは思わず陶酔の溜め息を漏らした。

 

 [お義父さん、次の指示は……]

 

 どの位そのままの態勢でいたのか分からなくなった頃、突如視界に広がった金釘流の一文に彼は意識を取り戻した。我を失って見とれてしまった油断に、思わず息を飲んだ。

 

「す、すまない。それでは、私は右手と左手を離して、梔ちゃんは俯せに四つん這いになって左手を赤、右手を緑、左脚を黄色、右脚を青に移動したまえ」

 

 無意識に口から零れた新たな指示に彼は我ながら後悔した。自らは直立し、目下で恥じらいながら指示に従った彼女の姿は余りにも羞恥的なものだったから。腰を突出すような態勢で四つん這いを強いられた梔が恥じらいに顔を紅潮させているのが目前の硝子に映っている。だが負けず嫌いな彼女が自ら勝負を降りることもない。彼女の秘部を覆い隠す純白の薄布は丈の短いチェックスカートにちらちらと見え隠れして、彼の視線を釘付けにしていた事は言うまでも無かった。(此が……神の領域……此が……時の経過と共に崩壊していく若い柔肌……)

 

 両手を震わせながらアークライトは本能の赴くままに顔を禁断の三角地帯へと近付けていく。左目は興奮に血走り見開き、右目の義眼は狂ったように内蔵された小型カメラで情景を撮影しており、脳裏では終末を歌う彼の聖歌が響き、絶え間なく或る言葉が流れ続けている。

 

 ─────Gott ist tot! Gott ist tot! Gott ist tot! Gott ist tot! 

 

「神は死んだァ──!」

 

 アークライトが理性の崩壊に叫び、蠱惑の臀部に顔を埋めようとした正にその時、社長室の扉がけたたましく開いた。

 

「アークライト様、ご注文されていました『紳士の為社交術~年下女性編~』が届きましたよ~」

 

 扉を開いたのはセクンダリアだった。小包を持った彼女は、注文した商品名を読み上げながらにこやかに部屋へ足を踏み入れたのだが、室内の状況を把握すると凍て付いた笑みを浮かべながら立ち止まっていた。

 

「アークライト様……? 荷物、此所に置いておきますね。お楽しみ中、失礼致しました」

 

 梱包された書籍を床にそっと置くと、セクンダリアは早足でその場から立ち去ろうとした。痴態を目撃されたアークライトは、思わず全速力で彼女の行く手へ先回りし弁解する。セツナの能力はこんな非常時にも役に立つ。

 

「誤解だ! プリマリア! 待ってくれたまえ、この事は絶対他言しないでくれ! 此れは事故なのだ! 愚かなる人間の情が招いた事故なのだ! だから……!!」

 

 懇願するアークライトに、セクンダリアはにっこりと承諾の笑みを浮かべる。

 

「勿論、誰にも言いません。社長が欲に駆られて年端も行かぬ女性と事後を過ごしていた事は、私の胸の内にのみぞ閉まっておきます。あと、私はセクンダリアです」

 

「あっ……す、すまん……沢山いるものだから……」

 

 笑顔のまま言い放ち去って行くセクンダリアに、謝る事も出来ず彼は立ち竦んでいた。

 

 丁度その頃、[いい加減疲れた]と梔は力無く床に崩れ、敗北を認めたのであった。夕焼けの中にスケッチブックの一節が、冷房に揺れていた。

 

 ***

 

 日が暮れた頃も社長室にはやはり、未だ無気力な表情で箸を徐に進めるアークライトと、彼とは対照的に箸を素早く動かす梔の姿があった。普段以上に豪華な夕食を取る事にしたのは、勿論梔がいる為だが、常飲しているデロドロンドリンクより遥かに味覚を刺激する料理の味は良く分からなかった。それどころか、先程のプリマ……セクンダリアの冷笑を思い出すと、口内に苦味が充満し、胃は締め付けられるように痛くなった。

 

 [ご馳走さまるとりあ]

 

 あっという間に食事を終えた梔は爪楊枝を咥えて、腹鼓を打っている。ご馳走は余程美味しかったらしい。今の彼女は離瑠様と一夜を過ごした後に見せる笑顔に近い微笑みを浮かべていた。

 

 [さて、食後はお風呂お風呂]

 

「ああ、そうだな……お風呂だな……お風呂……えっ、何、おふろ!!? どうしたの!?」

 

 食器を咥えて悩んでいたアークライトは、何気なく衣服を脱ぎ出し始めた彼女に驚き、間違えてスプーンを噛み千切りながら叫んだ。

 

 [むしろそっちがどうしたの!!!? 

 

 だってお義父さんの部屋お風呂備え付けられてるしー、入らないと損だものー]

 

 そういえばブラックスポットの住人は羞恥心と言うものが殆ど欠如しているのを忘れていた……先程のように他人から強いられた行為等には羞恥を感じるが、自発的な行為にはさほど恥じらいを感じないといった問題点があるのだ。羞恥行為が好きな紳士からは幾度と無く議論されていた事を思い返しつつ、アークライトは唾を飲んだ。幾ら部下と言えども、男性として目を背けられない桃源郷が再び展開されようとしていた。だが、此所は先程の二の轍を踏むような真似はしない。彼は落ち着き払って、顔の前で手を組みこう言った。

 

「こらこら娘よ、幾ら親だからと言えども、男の目の前で裸になるとは愚かしい行為だぞ。大体、男が期待するものは無味乾燥とした裸体では無く含羞に震える姿というものでな────もういい、浴室に一緒に来たまえ。塩梅に服を脱がせてあげよう」

 

 全く落ち着きの無い内容だった。溌剌とした動作で梔を引き連れ、浴室の扉がしっかりと閉まった事を確認すると、アークライトはまず自分の服を全て脱いだ。露になった男の下腹部から、塔は天に向かい聳え立っていた。

 

 [これが……エデンズシード……! ]

 

 危機感無く梔は目の前の裸体に感想を添える。

 

「その通り……。脆弱な神父とは違う勇ましき神の槍だ……なんて事は置いといてだな、お義父さんが服を脱がしてあげるから、じっとしているのだよ」

 

 最早威厳も何もあったものではない。涎を飲み込みながら、息を荒げ、彼女の女性的な所ばかりを見つめ手早く服を脱がしていく様は変態のそれに違いなかった。彼は腰布とブラジャーだけを取り去ると、並々と湯を張った浴室の鏡に彼女の姿を映して見せた。

 

「これが神の嗜好というものだ!!」

 

 鏡面にあるのは湯気に湿り薄らいだ白いワイシャツと、レース木地の紐下着、太股の半分を占める黒い靴下のみの梔の姿であった。湿り気を帯びるに連れて徐々に透度を増していく衣類の嫌らしさに、梔は思わず自分の身を抱いた。そんな彼女の様子を見て、神は満足気に何回も首を振っている。

 

「さて梔ちゃん、一緒にお風呂に入ろう!!」

 

 段々口調も兄弟に近付いてきている。無言で恥じらう彼女を抱き上げ、熱い湯船にそのまま入ると、白地の服はあっという間に水分を含んで意味を為さない物に変わった。

 

 膝上に彼女をこちら向きに体育座りさせて落ち着くと、彼は幸せに溜息を漏らした。半裸の女子高生風少女と一つの湯船にある現状、生まれてきて本当に良かったと感慨に耽りながら、過去の走馬燈に薄ら涙を頬に流している。臥せ目がちに身を捩る少女の肌の滑らかさを全身に感じ、彼女を抱き寄せると再びあの言葉が脳裏を駆け巡る。

 

 ─────Gott ist tot! Gott ist tot! Gott ist tot! Gott ist tot! Gott ist tot! Gott ist tot! Gott ist tot! Gott ist tot! 

 

「神は死んだァァァアァ──!!!!」

 

「御無事ですかアークライト様!」

 

 雄叫びを上げた次の瞬間、浴室の扉が煮え立ち溶解し吹き飛んだ。アークライトが瞠目したのは無論だが、更に驚くべき事に、扉を破ったのは四天王が一人、アルカであったのだ。彼女もまた、彼と同じく予期せぬ光景に眼を瞠っている。

 

「私用で参った社長室が賊に遭ったかのように荒れ果て、食事も中途のままに、果てには貴方の姿も見えず、浴室から不気味な笑い声だけが響いている事を不可解と思い駆け付けてみれば……一体何をされているのですか……」

 

 アルカは落ち着き払った声色で、冷淡な目付をしながら湯船に半分着衣の梔の抱いている全裸の社長を見下ろした。

 

 アークライトは、態勢を変える事も忘れた侭、必死に弁解する。

 

「いやこれはだな……? 本人の希望もあってね、一日保護者としての義務を真っ当する為に成り行きでこうなってしまっただけでね、何も疚しい気持ちがあってこうなった訳じゃ」

 

「……もう何もおっしゃらなくて結構です。全て内密にしておきます故。失礼」

 

 敵に見せるよりも迫力のある表情を浮かべた彼女は平坦に、それだけ告げると彼の言い訳も聞かずに去っていった。

 

(ペンが無いから何も言えない)

 

 梔が退屈から彼の膝上の座り辛さに腰をにじらせると、硬まった神槍は雪肌の摩擦に果てた。

 

 夜は、刻々と更け始めている。

 

 ***

 

 一日の終わりを迎えて、アークライトは梔と同衾していた。思い返せば、様々な物を得て、様々な物を失った目眩るしい一日だった。星空のみが広がる夜の窓枠の先に瞬く星へ、過去の威厳ある自分の姿に別れを告げたアークライトは、自らの腕の中ですっかり眠りについている梔の髪を優しく撫でた。彼女にとって害のある行為は、もう念頭に無い。そこにあるのは、只純粋な少女への愛情のみ。今日という素晴らしい思い出を産んでくれた金髪の妖精に感謝の笑みを向け、小さな頭の重みを二の腕に感じながら、アークライトは職務も忘れて目を閉じた。この重みを守り、見守り、育むことが我々先駆者の使命なのだろう。

 

「父親というものも、悪くはないかもしれんな」

 

 青い月明りのみが照らす部屋でアークライトは一人、そんな事を呟いて眠った。

 

 ****

 

 黒を基調とした薄暗い廊下を、一人の老人が進む。赤い光に照らされたその男は、老体に似合わぬ凛々しさを直立した背に漂わせている。彼は廊下の半ばで、腕組みをしながら壁に寄り掛かっている大男に気がついた。

 

「石山さん、この前の研究報告……見たかい」

 

 嗄れた独特な声の主に、石山は返す。

 

「左天君か……勿論見たとも。興味深い内容だったよ……しかし衝撃と落胆は免れなかったがね」

 

「嫌な……報告だったな……」

 

 男達が振り向き見た廊下の先では、と或る記事が赤色光に照らされ人だかりを作っていた──。

 

『自称神のお義父さんとの一日を振り返って』

 

 梔の著した、あの一日を細微に語った報告書はシメオン社の末端から上層部まで知れ渡り、機関に暗雲を漂わせていた。

 

 記事を取り囲む群衆の中でも、一際妖艶な婦人は、怒りに握り拳を震わせ血を滴らせている事を、社長室で薄い本を読み耽る神は未だ知らない。

 

 その後シメオンBS支社のビルが再建目前で崩壊した事は、今となっては誰も語らない黒の歴史。元凶は過去を思い返す事もなく、[へくちっ]と呑気な朝日にくしゃみする。

 

(終わり)

 

短編集内の各お話と投稿予定(未定)の続きやお話で読んでみたい作品はありますか?(ご期待に副える事が出来るかどうか分かりませんが、一ご意見としてお伺いしたいと思います)

  • コードギアス
  • コードギアスR2
  • 此花トゥルーリポート
  • FF4×FF6
  • カオシックルーン
  • 学園黙示録
  • ルパン三世 ワルサーP38
  • 幕末風来伝 斬郎汰
  • ニードレス
  • ヨルムンガンド
  • 少女少年
  • 北の告発
  • サラダデイズ
  • クレセントノイズ
  • ひとひら(甲斐×理咲の近親相姦物)
  • ESアザーワイズ(戒×瑠璃)
  • 遊戯王GX(十代×カミューラ)
  • 魔装機神(マサキ×モニカ)
  • 椎名君のリーズニングファイル
  • RAVE(ハル×絶望のジェロ)
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