※この作品はR-18です。

二次創作SS集   作:夜半の月

6 / 98
描写は薄いです。


皇女の考えと彼の考え

 

 

 皇女の考えと彼の考え

 

 

 

「はあっ、はあっ、はふうぅぅ……、もう、限界ですわっ、おぢさま……っ」

 

 場所はいつもの地下室。

 

 木椅子があり、ビデオテープや漫画本が乱雑に置かれ。

 部屋の端っこにはビデオデッキと、テレビが置いてある。

 

 そのテレビの反対側にあるベッドの上。こちらもいつもと同じくして、白と薄紅色の衣装、華やかさと静謐さを併せ持つ公務服姿の、神聖ブリタニア帝国第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニア皇女が、彼の膝を跨いで両脚を広げて、いつぞやと似たような台詞を呟いた。

 

 ユーフェミアの秘部は五十代から六十程の醜悪な容姿を持つ、頭髪の薄い男の、年齢にそぐわぬたくましいペニスを、根元までを呑み込んだまま、彼と股間同士を重ね合わせている交接の体勢。

 

 対面座位。向かい合わせで抱き合ったまま、息を切らせつつ。

 

「つ、つかれ、ました」

 

 交接したまま、一言告げてこてんと、互いの腰に腕を回して抱き合っていた、彼の、その左肩に頭を乗せて、身体を休めるユーフェミア皇女。

 大きな白い髪留めで、大きく一つに纏められた、彼女の長いポニーテールの一房が、彼の左肩をするりと跨いで、彼の背中へさらりと流れ落ちた。

 

「そりゃ、お前、疲れる、でしょうよっ、まーた十二回くらいヤッたんじゃねーか?」

 

 背中に感じたユーフェミアの髪の一房の感触を受け、自分の頭には産毛が生えているくらいで、自分には無い物、彼女の髪の触感を覚え。

 背中に気持ち良さを感じた彼は、これが自分の髪の毛だったらなあと、考えても詮無き事を思い浮かべながら、彼も彼で疲れた様子で息をついていた。

 

 今は身体に掛かる、気持ち良さや、心地良さを、楽しむ余裕すら無い。

 

 いつもなら余韻に浸り、お互いにキスをしてみたり、頬ずりをしてみたりと、互いを感じて愛の余韻に浸るところ。

 

 だが今は余韻も何も楽しめない。

 

 身体を抱き締め合ったまま、互いの身を預け合う格好だ。

 

 単純な体力の限界だった。

 

 出し尽くして、また絞り尽くして、互いに果てたのだ。

 

 十回以上の交接。それも絶え間なくの。

 

 正確な回数は数えていないが、十数回は行っただろう。

 

 互いの肉体はいったい何時間一つに繋がっているのだろうか?

 

 精力も体力も共に絶大な絶倫体質な彼が、弱音を吐いてしまうほどに、この日は時間を掛けに掛け、深く交接を交わし合ったのだ。

 

 齢16と若いユーフェミア。彼女は初体験よりこれまでの交接を経験し、身体がすっかり彼と馴染んできたのか。

 或いは、運命と呼んでも差し障りの無い程の、彼との身体の相性の良さ故か。彼の絶倫振りに大分と付いていけるようになっていた。

 

 もちろん、ユーフェミアには性交に対して彼ほどの体力は無く、彼女の方が先に果て、果てた彼女をベッドに寝かせるか、彼自身の身体に抱き着かせるかしたまま。

 そうされたまま、彼からの一方的な交接を行われる事の方が多い。彼が未だ満足して居らず、彼女の身に時間があるのなら、そうなる事もままあった。

 

 無論、果てた彼女には、彼もそれまで以上となる優しい交接に切り替え。

 けして彼女に負担を掛けたりなどしない様にと努めて、心掛けながらの、静かな交接を行うのだが。

 

 ユーフェミア皇女を何よりも心配し、大切にしている、彼らしさ。

 

 その際には――

 

『んっ……、あっ……、あぁ……』

 

 本格的事後の後からの優しい交接には、ユーフェミアは小さく喘ぐだけで、全身の力を抜いて、彼に身を預け。

 そうして彼が満足するまで、静かな静かな、とても優しい交接を続けられるのだ。

 

 それは一方的な彼からの交接。そうでありながら、その優しい交接には、愛しか乗せられて居らず。

 彼女は果てたまま、ただ身を委ねる事の幸せを味わわされながら、彼からの幾度かの膣内射精を受けて、愛の時間は静かに終わる。

 

 大体はその様に流れるか、または彼とユーフェミア二人が充分と互いに感じたときに、事は終わり、以後は事後として過ごす事となるか。また、少し時間を置いてから、もう数度の交接をユーフェミアが受けるかだ。

 事後は二人でアニメーションビデオや短時間の映画などを観て、何気ない会話に花を咲かせながらの団欒を楽しみながら過ごすのだが、視聴しているビデオ映像のその中身が少し性的な物があると、再度の延長として愛し合う事がある為、事後交接も十二分にあり得る事。

 

 この再延長の交接は、子を成す意味というよりも、単純に求め合いたいという気持ちの高まりが、二人をそうさせる。

 

 愛したい、愛されたい、ユーフェミア皇女が欲しい、彼が欲しい。互いに互いを望むままの求め合い。

 

 愛おしく、切なく、熱くも優しい、静かな。

 

 当然、彼の側よりもう少しだけさせてくれと始めるのだが、ユーフェミアもこれを大人しく受け入れ、暫しの交合と相成る形だ。

 

 この時の交接は、主に彼の性的欲求から来ている事もあって、ユーフェミアには何もしなくて良いと言って、彼だけがユーフェミアを抱く形となる事が多い。

 ただでさえ疲れているユーフェミアを、これ以上疲れさせたくないからという彼なりの気遣いだが。

 

 そうした流れで行われている一度の交接全体での平均回数は五回から七回、延長で九回から十回と言ったところ。如何に彼が絶倫体質なのかがよく分かる回数だった。

 

 時折ある休憩を入れてのまさかの二十前後という彼の絶倫振りには、当然うら若いユーフェミアも付いていけず、途中から彼に身体を預けたまま、半ば気絶している様に抱かれるのだが。

 

 その中にあっても、ユーフェミアは気持ち良くされ、唯々幸せだけを感じ、彼との交接の中のその最中を幸福感で満たされゆく。

 

『ああっ……、アアっ……、どう、して……、どうして、おぢさまは……、わ、わたくしばかりを……、優先、なさいます……の?』

 

 優しさに満ちた交接の最中に尋ねる彼女に、彼は言う。

 

『ユーフェミア皇女を気持ち良くさせたいというのが私めの一番の悦びなのでして……、ええ、いい感じか? どうだ、気持ちいいか? ユーフェミア皇女……』

 

『は、い……、おぢさま、を……、か、感じ……、ます』

 

『そう、か、そりゃ、いいなあ……、よし、もっと気持ち良くしてやる』

 

『アアっ……、おぢ、さまぁぁっ』

 

 この、事後からの延長のセックスは、ユーフェミアの負担になる。だが、そうならない様にと静かに優しくしてくれる事が、ユーフェミアは好きだった。

 

 気持ちが良いからではない。彼の優しさと労りを直接感じる事が出来る、それが嬉しいから。

 

 

 そして、今日この日は、互いに時間はたっぷり。

 

 尚の事、交接に時間を掛けようと考え、彼女も彼女なりに頑張ったのだ。

 

 交接に時間を掛けるとは、子供を作る為にと愛し合う、大切な事。

 

 ユーフェミアは時間を掛けて、じっくりと彼を受け入れ、彼の子をお腹に宿そうとしていた。

 

 本質的にとして交接は、彼との愛を育み交わし合う、大切な時間である。

 

 ユーフェミアは彼と愛し合う。正しく愛の交合を行い、彼との愛を育てゆくのだ。

 

 夫婦として愛し合うのは大切で、とても幸せでいて、切なくて。

 

 女としての幸せを知ったユーフェミアは、こうして彼に交接を求められる事がとても愛おしかった。ああ、彼はこれほどまでに私を愛しているのだと、心で、身体で、感じられるから。

 

 だが、同じくらいユーフェミアに取って、彼との交接とは、愛を高め合うと同じくして、彼との子を成すという尊い行為でもあった。

 

 彼の子を産むと約束し、自ら彼との子を儲けようとしている彼女には、一度ごとの交接がその一歩ずつの歩みと同義である為。

 

 ひとたび、またひとたび。交接のごとに、子を授かる確率は増していく。

 

 初めての時よりだったが、彼はユーフェミアとの交接に置いては、一切避妊をしない。

 

 積極的に中に出す。外に出した事その物が無い。ユーフェミアはその在り方に、彼が自身に子を産ませたいという、その、揺るぎない思いの強さと願いを、感じ取らされていた。

 

 ユーフェミア・リ・ブリタニア皇女を愛しているから。

 

 ユーフェミア皇女を愛しているから。

 

 愛する女との子が欲しいから。

 

 

 ――ゆ、ユーフェミア皇女、俺の子を、産んでくれ。──俺の、子を、産んで、くれ。

 

 

 彼はいつもそう告げて、自身との交接に及び、子を成そうとする。

 

 それは、とても優しく深く、身体の最奥までを貫き通す、甘く切なく、深い、交接。

 

 

 ――んっあ、わ、わたくし、は、ゆ、ユーフェミア、は、お、おぢさまの御子を、産みます──産み、ます。

 

 

 応じるユーフェミア。彼女も彼の求めに応じて、彼を受け入れる。

 

 最奥まで受け入れ、そしてその最奥に出され来る彼の子種を、あるがままに受け止め。

 

 ユーフェミア自身が彼と二人、互いに、共に子を望み、深く愛し合う。

 

 そんな子作りを意識した行為は、回数だけを考えるのなら、今この時にも受精していて不思議ではない程に、彼との熱く深い交接は出逢いからずっと繰り返されてきた。

 

 交接による愛も大きく育ちきり、今では彼の居ない生活など考えられないし、考えたくもない、心から愛し合う関係にあった。

 

 性的な意味ではなく、一人の女として愛する殿方である彼を、ユーフェミアは必要としているのだ。

 

 彼との関係の中で、自分には無いイレヴンとしての彼の視点も感じる事が出来た。

 

 この彼の住居である廃屋の地下室。此処へと来るまでの道すがらに知り合いが出来、その方達の視点も知る事が出来た。

 

 ブリタニア帝国の皇女としての自身が知らない世界が、彼女の前に現れた。その切っ掛けが彼との関係であり、それは今やとても大切な、無くてはならない関係でもあり。

 

 禁忌的な形として始まってしまった関係だが、いま、彼女は、確かに彼の事を心から愛している。

 

『おぢさま、わたくし、ユーフェミア・リ・ブリタニアはおぢさまを愛しております……、おぢさまの事が好きなのです……』

 

 直接言葉にして訴えてきたし、心でも思い浮かべている、彼を愛するという感情。

 

 彼が欲している様に、ユーフェミアも彼との子が欲しいのだ。彼との子をこの身に宿し、産みたい。

 

 ユーフェミアは一人の女として彼を愛し、彼との子を欲していた。おぢさまが好き――ただその感情だけを以て。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 それは何も彼女だけに限らない。彼もまた、ユーフェミアとの交接で愛を育みながら、子作りに勤しむという、大切で尊い時間であるとの認識を、彼女と同じくしていた。

 

 この歳になっての初恋であり、ユーフェミア皇女に子を産ませたいと強く願い、彼なりに彼女を愛しているからこその、大切な行為。

 これまで、かつてエリア11ではなく日本が日本であった頃、多数の女性を襲ってきた彼が、心の部分で本気にさせられた女ユーフェミア・リ・ブリタニア皇女。

 

 彼に取り彼女とは、一人の男として大切な守るべき女であるという認識が強く、彼女の為なら命をかけても良いとすら考える程に、彼女を純粋に愛している。

 

 彼もこの様な気持ちを抱いたのは初めての事で、当初は自分でも頭がおかしくなったのかと考えた物だ。

 

 だが、ユーフェミアを想うとき、ドキドキとした鼓動の早鐘が訪れて、これが世に言う恋やら愛という感情だと気付かされていった。

 

 初恋だ。本当にこれまで生きてきた人生で、初めての純な恋心だった。

 

 女とは、ただ性的充足感を得る為だけの相手。それなりの年齢であれば基本は誰でも良かった。容姿が整っているかどうかは所詮オマケ程度で、やれたら誰でも良いが基本だった。

 

 良い意味でも悪い意味でも自分は女性に対しては平等なのだろう。

 

 今まではそうだった。これまではそうだった物が、ユーフェミアという女の前では変化した。

 

 ユーフェミアを初めて抱いた日の事だ、その時も今までと同じだったのだが。

 彼女を犯し抱きながら、直ぐに心に変調を来したのだ。

 

 まさかの事だった。思いだにしない事であった。だが、確かに思い、願ったのだ。

 

“この女に、ユーフェミアにこそ自分の子を産んで貰いたいと”

 

 身体の相性が良すぎたからではない。身体の相性が良いだけの女ならば風俗でも強姦でも経験した事はあるが、別に子が欲しい等と考えた事は無かった。何ならきっちりと外に出だすかして避妊は徹底させてきたくらいだ。

 

 相手の女を精神的には追い詰めたが、肉体的には壊した事も無い。性的欲望に従っての碌でもない生き方をしてきたが、相手を壊すまで落ちぶれたつもりは無かった。ただ自分の欲望を満たす事、それだけがこれまでの女との関係だった。

 

 だが、ユーフェミアは違う。ユーフェミアを犯しているとき初めて思ったのだ、この女との子が欲しいと。

 他ならぬユーフェミアに自身の子を産んで欲しいと強く願っていた。

 

 この女とずっと一緒に居たい。この女を守りたい。

 

 本当に初めて抱いた感情に自身、戸惑いながらも受け入れていった。

 ああ、これが愛とか言う甘ったるくて、考えたくもなかった感情なのだと。

 

 この女に自分は惚れてしまったのだと。

 

 だが、だが悪くはなかった。ユーフェミア皇女に恋心を抱いてみて悪いと感じた事など、一度として無かった。

 クソみたいな人生で、命をかけてまで想える女に、初めて出逢えたのだから。

 

 一人の女に固執したのも初めて。何度も呼び出し、何度も犯し、それを繰り返した。そういう方法でしか自分の愛情を伝えられなかったから。

 

 出逢いが彼女に取って最悪なのだ。強姦された相手に惚れられる等、きっとあの時の彼女には絶望的だったろう。

 

 最悪をこのまま突っ走るしか、彼には無かった。そうして変化のない、ただ犯し犯されの関係だった物が変わっていったのは、凡そ二週間の時を交接に費やした頃の事。

 

 ただでさえ良かったユーフェミアとの交接が、これまでと比較にならない心地良さに変わったのだ。

 

 あれは劇的だった。具合が良いとか、そんな言葉で表せられる様なちっぽけな物では無い。あれが、あれこそが愛し愛される幸せだったのだろう。

 

 身体で感じた明らかな変化。それは、彼女が自身を本当の意味で受け入れてくれた証だった。

 

 悦びに打ち震えた。表情には出さなかったが、あの時、自分は泣いていたのだろう。

 

 こんなクズ野郎を、この女は受け入れたのだ。まさか本当に受け入れられるなど思っても居なかった。拒絶対象にしかならない、それしか成立し得ない関係なのに。

 

 それからは、顕著な形となって感情は表れていった。

 

 交接の最中、互いを呼び合い、熱く抱擁を交わし、深く口付け、抱き締め合ったりする様になった。

 

 それは正しく愛の発露で、愛し合い、求め合う、関係に変化していった。

 

 呼び出しの電話でも怖々としていたそれまでの声音が変わり、優しい彼女らしい声になっていった。

 

 気安い会話を交わす様になった、彼女に微笑みが多くなった、いやらしいビデオを観ていたら嫉妬もされた。

 

 クソみたいだった灰色の日々に、色彩が生まれた。ユーフェミア・リ・ブリタニア皇女――たった一人、ただ一人、唯一の女の存在が色をくれたのだ。

 

 ああ、俺は、今、充足している……。そう思った。

 

 そうして、いつの間にやら彼女との仲は、酸いと甘いとを経験するはずの恋人関係を経る事も無く、夫婦関係へ一歩飛び越え進んだのだ。

 

 私と彼は、俺とこの女は、誰にも認められずとも良い。二人だけで誓い合った、夫婦なのだ。

 

 交接に愛を混ぜ込み、子を成さんというのは、原始的で自然的な行為である事に帰結するのだ。

 

 愛し合う男と女が子を求めずしてどうしよう。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 この世に二人と居ない肉体的相性の良さ故に、気持ち良さを求めてという意味も大いにあれども、その本質としては愛を育み、子を成す事を、第一義としている。

 

 大体にして求め合わずに居られるかという話だ。

 

 彼が手を出す形で始まる事が多いが、ユーフェミアとて彼と求め合いたいという気持ちを、いついつでも持ち合わせているのだ。

 

 この時の様に、ユーフェミアより彼を求めて、彼との愛の交接に深く入っていく事も、往々にしてあろうという物。

 

 一体何時間愛し合ったのか。分からないくらいの交接の果てに。

 

 結果として、彼と二人、共倒れの様相を呈する格好と相成った。

 

「お前、今日っ、求めすぎだぞっ、こっちはお前よりずーっと年上なんだから、マジの体力勝負となったら、若いお前のが、なあっ」

 

「だ、だって、おぢさまったら、こんなにもっ、わたくしの事をっ、お求めになさるのですもの……っ、わたくしも妻として応えねばとっ、頑張りましたのよっ」

 

 ユーフェミアの主張に間違いは無い。

 

 求め合いではあれど、基本的に求める側は、彼なのだから。

 

 彼から求められ、犯される様な形で始まり、そうして自然な交接へと移行していく。これが二人の交接の基本形。

 

 夫婦なのに犯されるというのはこれ如何な物か? 彼女も考えはしたが、事始まりが彼からの強引ながらも優しい交接なので文句は言わない。

 

 性的欲望の強さを知っている為、自身を前にした彼の抑制が効かなくなる事も、ユーフェミアは熟知している為、時折『雰囲気という物を作ってからにしてください』と不満を呈するだけに留まっている。

 

 それに、いざ事が始まってしまえば、本当に愛おしい気持ちでいっぱいになる為、彼女も敢えて受け入れていた。

 

 本日は少しその基本形が変わっていただけ。だから自分の方から頑張った。それに事が進む中で彼からも求めて来たではないか。というのが、ユーフェミアの主張だった。

 

 だが、そんな彼にも己の言い分はあった。

 

「ユーフェミア皇女が頑張るから俺も頑張ったんでございますよっ……、――大体、今日はおめーの方から求めて来ただろうがよぉ」

 

 愛する妻が求めてくれているから、だからこそ、自身の側もこれに応じた。

 

 今日はユーフェミアの方から求めて来た。犯し犯されでもなければ、犯され犯しでもない。

 

 きちんと求め合った。互いに愛し合った。これ程までかと思えるほどに深く深く。

 

 いつも以上、本当に愛して愛して、愛し合った。

 

 子作りという意味よりも、純粋に愛し合いたいという意図の方が強かったように思える。

 

 これも間違いでは無い。

 

「もう充分だったろうが、やり過ぎなんだよ……、俺が言うのもアレだが、自分の身体を労れって、な……、俺ぁな、俺なんかに合わせてお前が無茶してないかが心配なんだよ」

 

 二十回程度の交接を行う事はある。時折。いつだろうか、昔、自慰行為の世界記録は三十回ちょっとと聞いた事があったが、若い頃の自分ならそれすら越えていたという自負を持つ彼。

 若い頃なら連続何回でもユーフェミアと出来た事だろう。しかし現在はそこまでの精力は無い。いや持続力とでも言うのか、それが全盛期ほどではないのだ。

 

 休みながらの二十回とは、何も大切なユーフェミアの事だけを考えての事ではなく、自分自身の体力とも向き合っての話。もちろん第一にはユーフェミアの事を考えての話だが。

 

 ユーフェミアを散々犯してきた彼だが、ユーフェミアが無茶をする事を何よりも心配し、嫌う。

 

 彼女が無理なら後はその身体を預けてくれるだけで良い。こちらで好きに抱かせて貰う。

 

 本当に無理ならば止めて良い、止める。彼女が限界だから無理だと分かれば彼はそれ以上はしない。とにかく彼に取り第一優先はユーフェミアなのだから。

 

「はあ、はあ、そ、それはですがっ、子作りっ、ですものっ、わたくしだって、頑張りますっ」

 

「が、頑張るったってよぉおめェっ、前も同じ様な無茶してたが、十回以上の休みも無くとかいくら何でも頑張りすぎだろ」

 

 十どころか、確かにそれ以上を数える交接もあるにはあった。

 

 今の様に求め合い、愛し合いの交接となるよりも以前。

 彼に犯されていた頃より、ユーフェミアは、日によって二十を数える交接を受けて来たのだから。

 

 その頃からユーフェミアは、彼に言われ続けてきた、『俺の子を産んでくれ』と。

 命令では無く、請願。産めという言い方ながらも、産んで欲しいという意味でのそれを一体何度聴かされたか。

 

 それが今では自分自身も、彼との子を求めて、彼と交接を交わすのだから、変われば変わる物だと彼女は思う。

 

 一方的だった強姦が、愛し合う交接に変わった。彼を愛してしまったから、幸せだから、愛し合う事の悦びを知ったから、という事もあるだろう。

 

 彼とのそんな交接は、その最初期の頃より平均で五回から七回、多くて休みを入れながらの二十前後。

 

 二十前後、ああそうだ。彼との交接は二十前後に及ぶ日もある。絶倫体質の彼は今の年齢となってもこれを可能としていた。

 

 常が受ける側のユーフェミアもこれを良く理解していた。己の身を以て。

 今までも何度、果てたままで抱かれた事やら。

 

 但しそれは、繰り返しになるが小休止を挟んで、体力を回復させながらの事で。

 彼はユーフェミアを気遣って、自分の体力面の事もあり、その上で彼女に併せて交接のペース配分を考えているのだ。

 

 それを今日、ユーフェミアは自ら崩した。

 

 公務と勉強で自分の時間に空きが無く。そして彼曰く『お仕事があるから』そう伝えられて、少しの間、交接に及んでいなかった為、ユーフェミアも寂しかったのだ。

 

 慈愛の皇女、エリア11副総督等と言っても、ユーフェミアも、彼の前では彼を愛するただの一人の女なのだ。

 

 彼との求め合いの無い日、彼と触れ合えない日、彼の顔を見ない日、彼と話さない日、それは辛い。

 

 いつでも彼を感じたいのに、彼を感じる事が出来ないのだ。恋する女としては耐え難い物があった。

 

 もしかすると、その募る想いが、形となって表れたのかも知れない。

 

 連続での十回以上の交接は、AV女優への嫉妬で怒った自身が、彼を逆レイプしたあのとき以来かも知れない。

 

「はあ……、はあ……、んっ……、はあ」

 

 思いながらユーフェミアは、彼の肩に頭を載せたまま、話し続けるのも辛いとでも言いたげに、甘い喘ぎと吐息を漏らしていた。

 

「はあっ、ふうっ、俺ぁっ、俺ぁもう無理っ、これ以上は駄目だわぁっ」

 

 彼の側も限界を伝えてくる。ユーフェミアがそうしている様に、彼もユーフェミアの肩にこてんと頭を乗せた。

 

「ふうううう~~~っ、あ~疲れた」

 

 細い彼女の肩の上で、息を吐いた。事実限界だった。

 

 幾ら無尽蔵の精力、体力を、共に誇るとの自負を持つ彼としても、流石にこれは度を越えていた。以前、同様の事をしたときも疲れたと言っていた彼、事実その通りで。

 これ以上は無理。もしもここでユーフェミアがまだ等と言い出したのならば、彼は謝り倒すつもりだった。勘弁してくれと。

 

「先ほど、申し上げましたが、わたくしも、もうっ、これ以上はっ、はあっ、はあっ、無理、ですっ」

 

 そして、こちらももう限界だと再度伝えるユーフェミア皇女。

 

 幾度彼と求め合い、幾度の射精を深奥で受け止めたのか。

 

 彼とまぐわうは、彼との子を、この身に宿さんが為。

 

 交接に交接を重ねて愛を交わし、愛を育て、子を成す為に励むのは、夫婦としての当然の在り方。

 

 彼が彼女を求めるからこそ、彼女は応じ。

 

 彼女が彼を求めているから、彼は応じる。

 

 そうして、夫婦としての子作りの為にと、愛し合う為にと、愛を交わし合うのだ。

 

 愛あればこそ、愛し合わずに居られない。お互いに。

 

 だが、この日この時は、互いに互いを求めすぎた。

 

 愛が暴走した。ユーフェミアが暴走させ。

 

 当然として彼女も、彼と共に、体力が尽きたのだ。

 

「おぢさまがっ、お時間を儲けて、くださらないからっ」

 

 ユーフェミアの口を突いて出た不満。

 

 自分をここまでの深い男女の関係にしてしまった彼が、彼の側より『今日は別に良い、こっちも時間が空いてないのでございましてねェ』そうして、はぐらかす様にユーフェミアの事を躱していたのだ。

 

 ここまで、事実婚にまでなっているのに夫婦生活を躱されるのは、流石に慈愛の皇女と呼ばれる優しい彼女でも不満に思う。

 

 大切にしてくださるというお言葉は偽りなのですかと。

 

「お、お前っ、だからそりゃ仕事だってェっ、時間が作れない日だってそりゃあンだろぉ? そもそもユーフェミア皇女よぉ、お前、一応副総督閣下なんだから、仕事以外では勉強も必要だろう?」

 

 彼はユーフェミアの事情をいつも優先する。

 

 ユーフェミアはお飾りと呼ばれていても、此処、エリア11の副総督なのだ。

 公務に、勉強にこそ、時間を費やすべきが、最優先なのだと。

 

 実はこの辺り、コーネリア総督の部屋の清掃をしていた折りに、彼女自身から聞かされていた。

 曰く、『一清掃業者のお前に愚痴っても仕方の無い話だが、最近ユフィの、副総督の公務時間外での外出が増えている様子なのだ。プライベートにまで口出しをするつもりは無いが、何処で何をしているのやら』だそうだ。

 

 これは間違いなく自分のところへ来ている、愛し合いに来ているその関係での外出だ。

 

 あれほど無理をするな、自分の事情を優先しろと言い含めているのにこれだったから、これは不味いと彼も考えたのだ。

 

「おぢさま……」

 

「そりゃなあ、俺がお前を犯したよ。俺がこの関係を始めたよ。お前の事を呼び出して散々っぱら犯してるよ」

 

 彼女はこうなりたくてなった訳ではない。最初からこの様な関係を望んでいた訳ではない。最初の頃は嫌々犯されていたのだから。

 それが徐々に彼を受け入れ始め、心を通わせ合い、愛し合う関係と、夫婦の関係となっていった。

 

 こんなにも、これ程までに子を求められるとは、これ程までに深く愛されるとは、彼女自身も思っていなかったのだ。

 犯されていたはずなのに、どうして? 自分でも分からないくらいに彼からの執拗な求めを受けている内に、心身で受け止めていった彼の歪な愛情。

 

 彼には私が必要なのだ。彼は私との子を望んでいるのだ。

 他の誰でもない、この世で私との間にだけ子が欲しいと。

 

 殿方よりこれ程までに積極的に求められる事は、女として求められたのは、生まれて初めての経験。

 

『ユーフェミア皇女に惚れたっっ!』

 

 こんな情熱的に直情的に愛情を伝えられた事も初めて。

 

 そんな関係が続いていく間、彼女もまたこの純粋に自身だけを想い来る愛情に心を開き、犯し犯されが、次第に静かに求め合う形へと変化していった。

 

 気が付けば互いに望む形、恋人を通り越して、一息に事実婚の関係にまで至っていた。

 

 恋人同士では満足できない、私と彼との関係とは、夫婦としてしかあり得ないのだと。

 

 今現在、ユーフェミアは心から彼を夫だと見ているし、彼も心から彼女を妻だと感じている。

 

 そうなっていった切っ掛けを作ったのも、彼自身だった。

 

「お前にゃいつも感謝してるよ、俺みてェな屑を受け入れてくれてよ……、いっぱい抱かせてくれるし、身体の相性が抜群だから気持ちいいし、そりゃ毎日だってしてェよこっちも。別にしてェだけじゃねえ、一緒に居てくれるだけでもなんつーの。その、満足なんだよ」

 

 交接ももちろん行うが、ただ彼女と一緒に居る。彼女と話し、接しているだけでも充足感があった。それはユーフェミア皇女が自身の愛する女だからだろう。

 

「だがよぉ、俺ァいつも言ってンだろ。ユーフェミア皇女の時間が最優先だってよ。毎日毎日政庁抜け出して、ぎりぎりの時間まで俺に犯されて、それが原因で必要な時間が割かれてるとしちゃ、俺も放置は出来ねェってもんよ」

 

 だが、一方でその愛する女ユーフェミアは、神聖ブリタニア帝国第三皇女にしてエリア11副総督。やるべき事は少なくても、お飾りではあっても、必要な勉学には励むべきなのだ。

 

 一エリア民、一イレヴンとしての彼の意見だった。彼女の在り方が、近い将来、エリア11の在り方を変えるかも知れない。

 

 こんな、自身を犯した様な屑男と事実婚にまでなって、求めに応じて子供を産むという決断までしてくれた。そんな優しい副総督だからこそ、クソみたいな現状しかないエリア11に、別の形を作ってくれるかも知れないと。

 

「正味の話、俺ァエリア11やら、イレヴンやらがどうなろうが、自分の事と周囲以外はどうでもいいんだ。優先順位がユーフェミア皇女第一だからお前の事を守れたらソレでもう満足だよ」

 

 ユーフェミアを第一として、自分の周囲で大きな騒ぎやら不幸やらが無いなら特に否やは無い。少なくとも彼は全てを守る様な英雄などとは違うのだ。ユーフェミアを守る為だけならヒーローにでも何でもなってやるが、その他大勢の見知らぬ誰かまで背負える様な、そんな大層な人間でも無かった。

 

「今のままでも充分食ってけてるし、政庁からの三次受けとはいえ、政庁内での仕事ってなァ良くも悪くも安定してる。女にゃ苦労していたが、今ではユーフェミア皇女って大切な女が出来てそれもクリアして、何だったら日本だった頃より良いかもしれん。何にも不満はねェンだがよ、そうじゃない奴らが暴れてくれたりしちゃあこっちが迷惑なんだよ。その為に、エリア11を少しでも良い方向に持ってこうってお偉いさんが一人は居たら、連中だって少しくらい大人しくなんだろ」

 

 ユーフェミアであれ、コーネリアであれ、誰でも良い。

 現状を少し変えてくれる立場ある誰かならば。

 

 そのお偉いさんで顔見知りとなると、総督のコーネリアか、秘密の事実婚関係となってしまっている副総督のユーフェミアなのだ。

 

 それ以外のブリタニアのお偉いさんにも知り合いは居るが、皇室関係者で知っていたのは、死んでしまったクロヴィス前総督のみ。

 

 彼ともそれなりの顔見知りだった。政庁への出入り業者であり、清掃員。

 向こうは顔を覚えていなくとも、クロヴィスの前で何度も謙った態度で接してきていたりする。

 

『よく知らないが態度の良いイレヴン』

 

 という印象を持たれてもいたらしい、と、一次受けの上司から聴かされてもいた。

 

 そんな彼の胸の内を聞かされたユーフェミアは、彼の左肩に乗せたままで居る頭を、彼の頬に擦り付ける。

 

 すりすり。

 

 桃色の髪が、白磁の肌が、優しく彼の肌に擦れ合わされ、彼はユーフェミアへの愛おしさを募らせる。

 

「わたくしは、わたくしは、夫婦としての時間を、大切にしたいのです……、駄目、なのでしょうか?」

 

 頭を、髪を、すり寄せて、続いて頬をすり寄せるユーフェミア。自分に甘えてくれるユーフェミア。彼はそんな可愛らしい彼女の事が愛おしくて堪らない。

 

 こんないい女が、よくもまあ俺みたいなクズ野郎と出逢ったモンだと、俺みたいな思いっきり年上の醜男に惚れてくれたモンだ。思いながら、大切な彼女の身体を抱き締めた。

 

「駄目じゃねェよ、俺だっていつでも一緒に居れるんならいつでも一緒に居てェよ。だがな、お前の姉ちゃんもお前の事色々考えてンだ。将来とかそんな事を。空いた時間に此処に来る。そりゃ俺も望んでるところだし大歓迎だが、でも自分を優先しろって。やる事はやれ。ユーフェミア副総督閣下」

 

 副総督閣下と強めに言った彼の言葉に、彼女は不満そうに彼の耳を甘噛みした。

 

「かぷっ」

 

「痛っ、こ、こら耳を噛むなよ」

 

 嫌がるそぶりを見せない彼の耳を、もう二度三度、はむっ、はむっ、と、甘噛みしたユーフェミアは、彼の耳に吐息を掛けながら呟いた。

 

「馬鹿――あむっ」

 

 呟き再度彼の耳を甘く噛んだ。

 

「こ、こらぁっ、だから耳を噛むなぁっ、ただでさえお前の髪の毛の一房が俺の背中に流れ落ちて背中の肌を撫でてンのにっ、耳まで噛まれたら余計に背筋ぞくぞくするだろぉっ」

 

 今日はもう無理だというのに感じさせてくるユーフェミア。

 

 彼女はもう一戦は来ないと見て彼を煽るのだ。

 

「お前、分かっててやってるだろユーフェミア皇女っ、俺もう無理なのっ、勘弁してくれェっ」

 

「妻を、わたくしを蔑ろにする悪い夫にはこうですっ、ぺろ――」

 

 今度は噛んでいた耳を舐めた、舌を這わせたのだ。

 

「うひゃっ、こ、こらっ、やめっ」

 

「わたくしだって、ぺろっ、やるべき事は、ちゅっ、きちんとしております」

 

「こ、こそばゆいっ、背筋がぞくぞくするっ、マジやめっ」

 

「馬鹿――ちゅっ」

 

「ひあうっ、お、お前、ユフィっ、マジでやめろって!」

 

「嫌です――ちゅ、ぺろっ」

 

 彼女のこの攻勢に待ったと止める彼はだが、そこから更に彼女との交接には進まない。

 

 いつもはこんな煽りを入れられたら、堪らずユーフェミアとの交接を再開させ、彼女の中へと出すまで止まらないところだが。

 

 今日は本当にもう無理なのだ。

 

「んっ、あっ、おぢさま……また、大きくなって」

 

 それでも正確には勃起はする。それは彼女と繋がったままこの様に煽られたら当然として。

 

 だが、もう体力が無い。

 

「あ、あのねユーフェミア皇女、ユフィちゃん、頼むからおぢさんの事そう虐めないでくれないっ?!」

 

「だって、おぢさまわたくしの気持ちを理解してくださらないのですもの」

 

「してるよしてます、ユーフェミア皇女の事はふかーく理解してる、行き過ぎた理想主義の持ち主で、でも最近は俺含めたイレヴンと関わったりする様になって、現実を見てきてるってな」

 

 彼は、彼女の背に回して彼女を抱き締めていた右手を離し、その背中をぽんぽんと優しく叩いてやった。

 

 まずはとりあえず落ち着いてくれと。

 

「人類皆平和、世界中の人の誰もが笑顔で暮らせる世界を実現したい……今まではそんな夢想家だったろ。禄に世の中を見てねえ戯けたクソガキが描いた夢物語のお花畑だ。でも、今は違う、現実って奴の無情さを身体で知って、そこらのイレヴンと顔見知りになって更に一歩現実を知った」

 

 そう、今までは、禄に世の中を知らない齢16歳の小娘の描いた夢物語に生きていた。

 

 自国こそが、その夢物語を非現実に変えて踏みにじっている事を知りながら、それでもみんなが笑顔で暮らせる世界を作れると、自分勝手に信じていた。そして教えられた。現実はもっと非情なのだと。

 

「……。わたくしは……、これまでのわたくしは、夢に夢を見ておりました。フィルター越しにしか世界が見えていなかった」

 

 ユーフェミアは彼を煽る行為を一時止め、彼の頬に髪と肌を擦り付けたままに呟いた。きちんと世の中が見えていなかったと。

 

「ああそうだ。だがな。だが、今は現実を知った。幸せって濾過器を取り除いてやったからなこの俺が。俺の周りや、お前が知り合ったイレヴンがな」

 

 その日を生きるのも苦労する。明日の食べ物以前の問題。医療もろくに受けられない。働き口は奴隷の様。そんな綺麗事では無い現実が直ぐ目の前には広がっていた。

 

「お前は銃を突きつけてる側の後ろから、皆さん仲良く幸せに笑顔で暮らしましょうねって言ってんのと同じだったよ。俺は別にお前がどうあれ良いんだが、そんなざけた話、何処のナンバーズが信じるよ? 何処のイレヴンが信じるよ?」

 

 侵略者側のお姫様の甘い言葉を、世の中をろくに見てもないで平和だ優しさだと呟いてるお姫様の言葉など、被侵略者側に立つイレヴンは誰も信じはしないだろう。

 

「だから無理しなくって良い、不可能なモンは何をどうやったって不可能なんだ。じゃあ、可能な範囲でそれをやりゃあ良いだけよ。お前、前から枠を作りたいとか言ってたろ? 行政特区たら言うの、まずはそれをやってみろよ」

 

 作れば良いだろう。その為のお勉強だ。

 

 そう言うと、彼は口を閉ざした。

 

 そんな彼に、彼女は思い描いていた事の名を口にした。

 

「行政特区日本」

 

「んあ?」

 

「いまおぢさまが仰った行政特区の構想の名です。今すぐには無理かも知れません。お姉様を説得し、ご理解いただけない事には進まない事ですもの」

 

「日本……、再現しようってのか、このエリア11に」

 

「はい、身分に捕らわれない。そこでは誰もが、ブリタニア人もイレヴン――いいえ、日本人も関係なく、接し合う事が出来る。そんな特区をわたくしは作りたいのです……おぢさま、その時はわたくしも責任者の一人となるでしょう」

 

 なるだろう。ブリタニアの皇女が自ら提案し、作った特区なのだから。

 

「その時、おぢさまはわたくしの傍でわたくしを支えてくださいますか?」

 

「俺が、ユフィを支える?? いや、俺なんにも出来ねェぞ?」

 

 出来る事など何も無い。ただの市井に生きる一民間人の元犯罪者に、政治経験は無いのだから。

 

 あるとしたら、心に闇を抱えている者を見極められやすくなった嗅覚だけだろうか。

 

 日陰者として生きてきた性か、彼には心に闇を持つ者の、良くない物を嗅ぎ分ける様な感覚が身についていた。

 

 このお姫様はソレを求めている訳でも無いだろうに、何をと問うと。

 

「傍に居てくださるだけで良いのです。わたくしの、正式な夫として」

 

 正式な夫。つまりは結婚。事実婚では無く、正真正銘の結婚をして欲しいと言ったのだ。

 

「はあっ?! そんなん無理だろォ!!」

 

 無理だ。ブリタニアの皇女様と、平民以下のイレヴンが正式に結婚などと。

 

「不可能ではありません。身分に捕らわれない枠組みですもの。わたくしは確かに皇女ですが、その枠の中ではただの一責任者の立場となる訳でして、おぢさまを婿としてお迎えする事も可能ですわ」

 

「無茶苦茶言い出すなよっ?! 俺、コーネリア皇女に殺されるぞっ!?」

 

 妹を、ユーフェミアを溺愛するコーネリア総督。彼女とも職場の都合上知らない間柄では無く、一定の距離を保ちながらも自らに接してくれる関係上にはあった。

 一清掃業者のイレヴンながら、彼女の執務室の清掃、政庁庁舎の清掃では一切手を抜かない、妙なところで真面目人間な彼の覚えは、コーネリア総督にも良く、褒美だとして寸志を直接手渡される事もある。

 

 良好な関係だ。だが、これが妹に手を出していたと知られたら……。

 

「ユーフェミア皇女、頼むから性急な行動は慎んでくれよっ、本気で首を切り落とされかねんっっ!」

 

「大丈夫ですわ。お姉様、おぢさまの事だと思われる方のお仕事振りを褒めてらしたもの。あの男の仕事はいつも完璧だ。埃一つ無いと」

 

「そりゃ仕事だから手は抜かねーよ。だからってお前と事実婚にまでなって子供作ろうとしてるなんて知られたらっ」

 

「おぢさま、お忘れではありませんか? わたくしがおぢさまの御子を身籠もれば何れは公、いいえ、公にはされずとも、お姉様のお耳には入ってしまうと。おぢさまの御子を妊娠して大きくなっていくわたくしのお腹は隠せませんよ?」

 

「ああ~、いや、考えてない訳じゃないんだが、どうすりゃ良いかと頭悩ましては居た……、知り合いに腕の良い闇医者が居てな、そんじょそこらの名医が適わないくらいの腕のが……、ユーフェミア皇女が妊娠した時にゃその医者を紹介するつもりなんだよ」

 

「信用できる御方なのですか? その、わたくしの身分や正体が知られても……」

 

「そこは安心して良い。口は硬いし身分やどうこうで騒ぎ立てる様なやつでもねェから。事実、ブリタニアの貴族を何人も相手してる」

 

「それならば……、ですが、大きくなっていくお腹は隠せませんし、わたくしは逃げ隠れも出来ない身……」

 

 ユーフェミアはブリタニア帝国第三皇女。

 

 その身分が彼女の身一つでの行方をくらませるという選択肢に枷を掛けて塞ぐのだ。

 

「妊娠して確か四ヶ月から六ヶ月くらいで腹は大きくなるよな。六ヶ月と見た場合はそれから三ヶ月か四ヶ月で子供は産まれる。十月十日なんて言われてるくらいだから、九ヶ月か十ヶ月だろう。その数ヶ月だけ行方をくらませる方法もあるにはあるんだが」

 

「嫌です」

 

 彼の提案を斬って捨てたユーフェミア。彼女は彼の頬に強く頭を押し付けて擦り込んだ。

 

「逃げ隠れして御子を産むなんて……、それに、その後はどうなさるのですか? 御子はおぢさまがお育てになるとでも?」

 

 頭と頬を擦り付けてくるユーフェミアの長い髪を撫で、背中を優しく撫で、彼女と触れ合いながら彼は答える。

 

「まあ、それも考えてた。此処と、闇医者ンとこで行ったり来たりしながらなら、俺一人でも」

 

 だが――その提案も直ぐさま却下された。

 

「駄目ですっ!」

 

「うおぅっ!」

 

 耳元で叫ばれた彼の鼓膜がびりびりと震える。

 

「子供は父と母。おぢさまとわたくしの二人で育てる物ですわ!」

 

 私とおぢさまの二人で子育てをするべき。夫婦とは、家族とは、そういう物でしょうと言うのだ。

 

「だからちょっと待って、そんな興奮すんな。今まで通り、日毎に此処に来りゃユーフェミア皇女もママとして会えるだろ」

 

「いいえ、わたくしは周囲に認知させてみせますわ。お姉様にも誰にも文句は言わせません!」

 

「む、無茶な事すんなよォ~っ、マジで俺斬首か銃殺かされちまいかねん」

 

 無論、彼はそうなっても逃げるつもりは無い。

 

 散々逃げてきたり、身元を偽って底辺労働で生計を立てたりしてきたが、流石に愛する妻を一人にして逃げようという気は無かった。

 

 もし、逃亡という選択を選ぶとしても、それはユーフェミア皇女も共にであって、一人で逃げようなんぞ端から考えてない。

 

「行政特区」

 

「んん?」

 

「身分に捕らわれない行政特区日本がやはり必要です。現状に苦しみ喘ぐイレヴンの方達の為にも、わたくしとおぢさまとわたくしたちの子、家族で暮らしていく為にも」

 

「……はぁ、まあ無理すんな。最悪二人で逃げる手もあるし伝手もある」

 

 それに本当の最悪の最悪としてだが、この小汚い身を差し出す代わりに、ユーフェミアと子供の安全の確保をコーネリア総督に直談判する手も、彼は彼なりに考えていた。

 

 ユーフェミアの為に死ねるのなら、多少はこの屑の命にも意味があるのかも知れない。最愛の妹を汚されたコーネリアの怒りをこの身に受けるのもまあ、自業自得の末路である。

 

 そんな事を考えながら、ユーフェミアの髪と背を撫でつつ、けして悪い仲でも無いコーネリア総督の勇壮な姿を思い浮かべていた。

 

 同時に妹思いのコーネリア総督は、ユーフェミアの『子を産みたい』という懇願と哀願を無碍にはしないだろうとも。自身は処刑されてもユーフェミアと子は無事、それならそれで良いと。

 

 ただ、こんな屑その物な自分に愛を捧げてくれている女ユーフェミアが、この屑の死に悲しむというのも考えたくは無かった。どんな形であれ、自分の命よりも大切な彼女を傷つけてしまう事になるのだから。

 

 ああ、いや考えても仕方の無いこと。傷ならこれまで彼女を犯し続けて散々に傷つけている。受け入れられたから、こんな屑を愛してくれたからといってソレが無かった事にはならない。

 

 結局、どこまで行っても自分は屑なのだろう、そう自嘲する彼に――

 

「おぢさま、今わたくし以外の女性の事を考えましたね?」

 

「なんでそんな鋭いわけ?」

 

 ――ユーフェミアは不満そうな表情を浮かべて彼の頬から、肩から、頭を離すと、ゼロ距離で彼と向き合い。

 

「んっ」

 

「んうっ」

 

 桃色のリップが引かれた唇で、彼の唇を塞ぎ、甘い口付けを交わした。

 

 身体を一つに繋げたままでの語らいと、甘い口付け。

 

 ユーフェミアの頬が火照り、薄紅色に色付いたまま、彼女は彼と抱き締め合いながら、静かな余韻に浸り続けた。

 

 

 ◇

 

 

 事が終わり、ユーフェミアが彼の膝から静かに立ち上がり、ゆっくりと彼のたくましい男を引き抜いていくと。

 

「んはっ、ぁぁぁ……っ」

 

 こぽっ、どろり、と、秘部の割れ目より、白く濁った彼の精が溢れ出した。

 

 垂れ落ちていくソレは、彼女の膝の肌を流れていく分と、彼女の秘部の口から糸を引いてぽたぽたと滴り落ちていく分がある。

 

 散々受け止め続けたのだから、胎内を圧して収まりきらない分が零れ出てしまうのも致し方なし。

 

「もったい、ない、ですね」

 

 この零れ落ちてしまった白濁の中にも多くの子種が入っていると考えると、なんだかいけない事をしてしまった様にユーフェミアは感じたのだ。

 

 この子たちの中にも、我が子となれた子が居たかも知れないと考えると、切なくなってしまう。

 

「仕方ない事でございますですよぉ、幾ら私めがユーフェミア皇女の中に全部出そうが、がなぁ、入りきらない分はどうしても、なあ」

 

 一方で彼はソレもまた無理の一つだと割り切っていた。収まりきらない分は収まりきらないのだからと。

 

 ベッドの傍に用意していた少し湿らせたタオルを、彼は取り、彼の目の前で膝立ちになって居るユーフェミアの太ももに流れ落ちてきた白濁を拭い、彼女の白いタイトスカートを彼女の腰の目いっぱいまでめくり上げると、そのまま濡れタオルを彼女の秘部に宛がった。

 

「んあっ、や、優しく、拭ってくださ、い」

 

 彼女は敏感なところに濡れたタオルを充てられ、びくんと身体を震わせると、彼の頭髪の薄い頭を抱きすくめる様にしてしがみ付いた。

 

 さらりと流れた桃色の大きなポニーテール。その長い髪の房が、彼の薄い頭部に流れ落ちた。

 

「そうやって俺の頭の上に髪の毛を振りかけられますと、嫌味に感じるんですけどねェ……まあ、気持ちいいから良いがよぉ」

 

「んっ、いいなら、よろしいでは、ありませんか、んん──」

 

 この辺りもいつもの事。長く豊かな髪を持つユーフェミア、産毛しかないほぼ頭髪の無い彼の、二人の触れ合い方の一つだろう。

 

「まあいいわ。とりあえずふきふきと……」

 

「んあっ」

 

「こら、感じるなよ」

 

「だ、だって、おぢさまったら、そんなにも優しく撫でるのですもの」

 

「そんな事言ってっと、適当に拭いて終わらせるぞ?」

 

「い、嫌ですっ、綺麗に拭いてくださいっ」

 

 帰る途中で溢れてきたりしたら困惑してしまうだろう。

 

 その時には当然穿いている下着。それが秘部より漏れ出てきた精液で濡れてしまう。

 

 勝手知ったる裏通り、彼も政庁が見える途中までは送り届けて下さるが、かといって歩いている最中にそんな恥ずかしい目にも遭いたくない。

 

「じゃあ、綺麗綺麗にしましょうねェ」

 

「んっんん──」

 

 割れ目の外側からなぞる様に拭いていく。縦筋にはすうっと柔らかく一拭き。

 

 口の周りは丁寧に優しく。

 

 それは優しく愛撫されている様にも思え。

 

「ふあっあ──」

 

 感じるなと言われても感じてしまうユーフェミア。

 

 愛する殿方より大切なところを愛撫される様に拭かれて感じるなという方が無体だ。

 

「恥辱、です──」

 

「これで恥辱なら普段は何なんだよ……」

 

「感じさせて、欲しいのですっ」

 

「我慢しろっつーの」

 

 彼の言葉を受け、ユーフェミアは益々を以って彼の頭を掻き抱く。腕の中に収めた愛しい彼の頭には、相変わらず頭髪が無く。

 自身の桃色の髪が被さる様にして掛かっている為、一見かつらでも被っているかの様に見えてしまう。

 

「んっ、ふふっ」

 

「なんだ、どうしたよ?」

 

「んあっ、ん、ふふふっ、な、なんでもありませんわ」

 

 それが滑稽に見えてユーフェミアは感じながら、含み笑いを零してしまった。

 

「変な皇女様だなぁ、──さてと、こんなもんか」

 

 綺麗に拭き終わったユーフェミアの秘部と太もも。

 多少の湿り気はあれど、それは濡れタオルの水気だろう。

 

「一応綺麗なタオルだから変に気にしなくていいぜ」

 

 未だ頭を抱きすくめられたままの格好で居た彼は、顔を上げてユーフェミアを見て告げた。

 

「気にしてなど……、おぢさまですもの、わたくしはいつでも安心してこの身を委ねられます」

 

 桃色の長い髪と、彼女の腕、彼女の顔が、それぞれ自身の顔や頭に触れている。

 

 繋がり重なっていた身体は離しても、お互いの身体は相変わらずのゼロ距離。

 

 彼女とのこの甘い関係と、事終わりの余韻は、彼も好きだった。

 

「それでは、今度はわたくしが──」

 

 抱きすくめていた彼の頭を離し、言いかけた彼女だが、彼のたくましい物にはもう既に濡れタオルが被され、彼自身の手で拭き拭きと拭かれていた。

 

「いや、自分で拭くわ。いつも拭いて貰って悪いしな」

 

「……もうっ、おぢさま、そういう事は妻たるわたくしの責務ですのよっ」

 

「いやいや、そんな責務ねェし、もう拭いちまったし。スカートも降ろすぞ、つーか下着穿きなさいよ皇女様ァ」

 

「分かっておりますっ! もうっ、わたくしが拭いて差し上げたかったのに」

 

 彼の膝を降り、純白の下着に足を通していくユーフェミア。

 

 脛を通り、膝を上り、股間を隠し穿き終えたところで、彼がユーフェミアの白いタイトスカートを触り。

 

「じゃあ、スカートも降ろしましょうねェ」

 

「ん、おぢさま自分で出来ます」

 

「いいのいいの、おぢさんにさせてくださいませ皇女様ァ」

 

「もう、調子が良いのですから、馬鹿……」

 

 ユーフェミアの腰を下着越しに撫でながら、彼女の腰から後ろを覆う、暖色の薄紅色の羽スカートを触った彼は、彼女の白いタイトなスカートをゆっくりと降ろしていく。

 

 そうして表れていた太ももを、白いスカートが隠してしまった。

 

 先ほどまで交接を交わしていた彼女の面影は、精々その赤く火照った両頬と肌のみに残り。他には何もおかしなところは無かった。

 

「さあ、これでいつもの清純なお姫様の出来上がりだ」

 

 この部屋から外に出るとしたらば、後は桃色の長い髪を帽子に詰めて、サングラスをかけてしまえば、もう誰に見られても大丈夫な、見せ掛けビジネスウーマンの完成である。

 

「その仰り様、まるでわたくしが淫乱だとでも申していらっしゃる様です」

 

「いやいや、そんなとんでもございません。いつでもどこでも、どんな時でもユーフェミア皇女は、俺だけの可愛いお姫様でございますよォ。可愛い可愛い」

 

 彼女の髪を撫でる彼。

 

「んっ……」

 

 その言葉は本物だ。自身は彼の大切な妻なのだから、そうユーフェミアは心に思い浮かべ。

 

「──馬鹿」

 

 でも、好き──そう言って彼を抱き締めた彼女は、自身に取っても大切な、夫たる彼の唇に口付けた。

 

 

 ◇

 

 

 事後処理も終えたこと。

 

 二人はベッドに座ったまま。

 

 彼の膝の上にユーフェミアが横向きに座るという体勢で暫しの休憩に入っていた。

 

「おぢさま、枢木准尉ってご存知ですか?」

 

 その静かなひと時の中、ユーフェミアが切り出した。

 

 枢木准尉という名前を。

 

 無論彼は知っている。

 

「政庁で勤務してる俺が知らないわけないでしょうが……、休憩中にだが時々顔を合わせて話してるよ。それに、あの坊ちゃんについては出生の関係でイレヴン、旧日本人なら知ってる奴ぁ多いよ」

 

 枢木准尉。枢木スザク。かつてエリア11が日本だった頃の、その日本の総理大臣、枢木ゲンブの息子だった少年だ。だったという過去形なのは、既に枢木スザク少年の父ゲンブが故人である為。

 

「あの坊ちゃんがどうした?」

 

 あの坊ちゃん、スザクの事は彼も時々気にかけていた。

 

 彼には暗い物を抱える者を見抜く勘がある。勘というよりももう能力に近い。

 

 その彼の目から見て、そして視て、枢木スザクという少年は、暗い物を抱えているように見えた。

 

 他者を優先し自身を蔑ろにしている雰囲気があった。

 

 ああいう手合いは、自身の命を軽んずるというか、投げ出すタイプだ。

 

 人によってはこういう呼び方をする者も居るだろう、曰く『死にたがり』と。

 

 それを彼は直感的に見抜いていた。これは能力と言ってもいいだろう。マイナス方面にのみ鋭い感知能力だが。

 

 そのスザク少年、彼の少年は、彼の様な男にも気さくに話しかけてきてくれては、良き話し相手になってくれていた。

 

 政庁やら軍関連施設で働く三次受けの清掃作業員兼日雇い労働者な彼だが、そんな彼にも優しく接してくれていたのだ。

 

 名誉ブリタニア人という事から、イレヴン世間の評判はあまりいい物とは言えないかもしれない。

 

 無論、彼が付き合っている人間の中では間違いなく善人なのだが、何処かしら矛盾した物を感じた事がある。

 

 ブリタニアを内側から変えたいと語っていた思いは本物。

 

 真っすぐで優しく、誰からも好かれるタイプで、そんなスザク少年の在り方は、彼もけして嫌いではなく、コーネリア総督を含め、政庁や軍関係者で良く話す一人でもあった。

 

 そんなスザクだが、ここ最近で顔を合わせた時、明らかに空気が変わっていた。

 

 暗い物が薄れている感じがしたのだ。張り詰めていた空気が消えていた様にも思える。

 

 憑き物が取れた様にも。

 

 何かあったのか?

 

「どうしたと申し上げましょうか、彼、最近とても良い事があったらしくて、機嫌が良かった事をふと思い出しまして。声が弾んでおりましたので、なにかあったのかなとお聞きしたところ、守りたい方が出来たのだと申しておりましたの」

 

「ほう?」

 

 そういえば少し前に話した時。

 

『知り合いに、幼馴染に、昔から付き合いのある、ある兄妹の妹の子が居るんですけどね。僕はその子に、救われたんです』

 

 内緒の話だとかで話してくれた。

 

「……そうか」

 

 守りたい者を持つってのは良い事だ。今だからこそ分かるその気持ちを。

 

 その兄妹の妹って子に、心って奴を救われたのかも知れねーな。

 

 暗い憑き物を落としてしまうくらいの優しさを持った誰かに。

 

「俺みたいに、な」

 

 俺に取ってのユーフェミア皇女がそうである様に。

 

「え?」

 

 彼の膝の上で横座りになっているユーフェミアがきょとんと、彼を見る。

 

「なんでもありませんですよォ」

 

 ぶっきらぼうに言って、ユーフェミアを抱き締めた彼は、そのまま彼女の頭を撫で、髪を撫で。

 

 俺もお前に救われたと心の中で礼を述べ。

 

「おぢさま、気持ち、良いです……」

 

「そう、か……まあ、ちょっと休んでろ」

 

「はい……」

 

 ただユーフェミアをあやすようにして、彼女の頭と髪と背中を、繰り返し撫でていた。

 

 

短編集内の各お話と投稿予定(未定)の続きやお話で読んでみたい作品はありますか?(ご期待に副える事が出来るかどうか分かりませんが、一ご意見としてお伺いしたいと思います)

  • コードギアス
  • コードギアスR2
  • 此花トゥルーリポート
  • FF4×FF6
  • カオシックルーン
  • 学園黙示録
  • ルパン三世 ワルサーP38
  • 幕末風来伝 斬郎汰
  • ニードレス
  • ヨルムンガンド
  • 少女少年
  • 北の告発
  • サラダデイズ
  • クレセントノイズ
  • ひとひら(甲斐×理咲の近親相姦物)
  • ESアザーワイズ(戒×瑠璃)
  • 遊戯王GX(十代×カミューラ)
  • 魔装機神(マサキ×モニカ)
  • 椎名君のリーズニングファイル
  • RAVE(ハル×絶望のジェロ)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。