副総督室での顔合わせ
時は本日正午。場所は副総督室。つまり、私用の、私の仕事部屋。
お昼休憩に行こうかと思ったのですが、本日此処へこの時間。いらっしゃる方を待つため、私は自室を動かずに居りました。
それは先刻の事。総督室にて、エリア11総督であるコーネリアお姉様よりお聞きした事が切っ掛けです。
『ユフィ、お前の昼休憩の時間に清掃員がお前の部屋を訪れる。扉の鍵は開けておいてやってくれ』
清掃員。広い政庁内では複数の清掃作業員の方がいらっしゃるけれど、総督室と、副総督室の清掃を為さる方となれば、大凡知る限り一人しか居ない。
総督の、お姉様よりの信頼も得ているあの方。私の大切な殿方。
彼の方の家の地下室に空き時間には呼び出され、また自身も自身の意思で赴く。そして時の許す限りを睦み合う、あの方。
そう、おぢさまです。
政庁内では声を掛けるなと仰られてしまい、自身も自重している間柄。あまり出逢う事も、すれ違う事も無い私たち。
彼のお仕事時間と、私のお仕事のお時間が重なる事が少ない為に、必然的にそうなってしまう事なのですが、せっかく彼と同じく政庁内でのお仕事に励んでいる私としては、政庁内でも顔を合わせ、語りたいと思う物。
ただ、彼はそうは取らず。極力私と顔を合わさない様に為さってお出での様なのです。副総督室に私が居るだろう時間は敢えて避けている。狙い澄まして回避している。それがその証拠。
ですが、本日は私が時間を合わせれば、私が昼休憩を自室で取れば、彼と顔を合わせる事が出来るのです。
“コンコンッ”
ノックされる扉の音。時間的に丁度ぴったりでしょう。
“失礼致します副総督閣下ぁ”
室内に誰も居ないと思っているのでしょう彼は、呑気な挨拶を扉に向けて行い。
「ええ~、改めまして失礼致しますです副総督閣下。本日の室内清掃に参りましたぁ」
扉を開いて、そのお姿をお見せになりました。
中年太りでありながらも力強さを感じさせる逞しい体躯。
世間的には醜いと評されるのでしょうお顔立ち。
バケツに雑巾。箒にちりとり。それらを持って入室なさる頭髪の寂しい、年の頃五十代後半から六十程の、中高年のイレヴン男性。
「ご機嫌よう、清掃員さん」
私は満面の笑みで彼を出迎えます。
「のあッ?!」
驚く彼。あのお姉様の前でさえ堂々と為さってお出でだと伺うおぢさまが、果たして今の様に政庁で驚きをお見せになる事、あるのでしょうか?
「お、お、おま、あ、ああ~ッ、ゆ、ユーフェミア副総督閣下。何故に貴女様が此処にお出でになっているのでございましょうかッッ?!」
うふふふ。おかしな事をお尋ねになりますね。
「此処はわたくしの執務室ですよ? わたくしが居るのは当然でしょうし、何も驚きになる事ではありません」
「い、いや、あ、そ、それは、そうで御座いましょうが、その、今のお時間は居ない筈ではぁ~……守衛様方にも止められる事も無くぅなのですがァ……?」
居ない事を知っている前提のお返事。やはりおぢさまは政庁内では私を避けていらっしゃるのですね。
「くすくす、とりあえずは扉をお閉めください。鍵も掛けて」
何処に目が耳が有るか分かりませんからね。
「は、ああ、いや、副総督閣下がイレヴンの清掃員如きと二人きりになるのは、不味ぅ御座いませんですかぁ~ッ、外には守衛様方もお出ででしてェ」
焦りを隠さない彼。私と二人きりの何処が不味いのでしょう。耳目さえ無ければ何も問題とはしませんよ?
「いいから扉をお閉めなさい。命令です」
命令。彼に対してその様な事はしたくないのですが、職場に於いて私は副社長的な立場であり、彼は平社員的立場。
業務命令の一つくらいは出すべきでしょう。その方が彼を説得、納得させるに足る条件も整う事ですし。
「は、はあ……、それでは、失礼して」
“パタンっ、カチャっ”
扉が閉まり、鍵も掛けられます。私の声が聴こえているのでしょう、外の守衛の方々にも制止はされず。
これで見聞きされる心配もありませんね。
「おぢさま♪」
私は執務机を回り込んで彼に歩み寄り、そのまま彼に抱き着きます。
「こ、皇女殿下っ、お戯れはお止めくださいませェっ!」
いつも通りの事なのに、いつもと勝手の違う事。
だからか彼の焦りはまだ続きます。しかし、私とあなたの間でこうしないなどあり得ませんわ。
「二人きりですよ? いつもの要領で問題ないかと思うのですが」
外には聴こえません。
私が言うと、彼はハァァ~っ、と大きなため息を吐きました。
「あのなァ、問題しかねーだろがよォユーフェミア皇女ぉ。こんなとこ見つかったらやべェだろうが」
いつもの、普段の口調に戻る彼。素の彼は乱暴な口調と、丁寧な口調を混じり合わせて言葉を使う。
自身を“俺”とも呼べば、“私め”とも呼ぶ。彼独特の言い回しを。
それはさておき。
「分厚い扉の鍵まで施錠したのです。言葉が漏れる事も、此処での行動が誰かの目に触れる事もありません。心配無用ですわ」
「簡単に言ってくれるなぁオイ。おめェの姉ちゃんに見つかったら多分俺斬首よ? おめェのその根拠のある様で無い様な自信は何処から来るわけェ?」
何処からと? それは勿論決まっております。
「わたくしの胸の内よりです。それにお姉様にはわたくしとおぢさまの結婚の承諾も得なければならないのですから、認知させてしまえば宜しいかと」
どうせ事実婚の間柄。もう既に私とおぢさまは婚姻関係を築いている。子作りだって行っております。
近く私はおぢさまの御子を妊娠し、産む事となるでしょう。
ですから、いっその事お姉様に全てを打ち明け、認知をして頂く方が、今後を考えれば良いのではないかと私は考えます。
以前の様な私が彼を縛る意味での、脅迫としての意味ではなく。私と彼の仲をお姉様に真正面から打ち明け、認めて頂くのです。
行政特区日本さえ作ってしまえば私とおぢさまの身分格差も解消されますので。
勿論、私が神聖ブリタニア帝国第三皇女の身である事実は変わりませんが、身分に捕らわれない枠の中ならば、私とおぢさまは皇女とイレヴン――皇女と日本人の平民という間柄であっても、正式に結婚できるのですから。
「宜しくないっつーの。お前よぉ、ユーフェミア皇女よぉ、簡単に言ってくれるがなぁ、お前の姉ちゃんはお前の事を溺愛してんのよ。これお分かり?」
彼が言うには、彼に対してもお姉様は副総督の、私の大切さを懇々と語っているのだそう。
彼が総督室を清掃なさる時、彼とお姉様が二人だけの時になど、お姉様は彼にどれだけユーフェミアを愛しているかを話す事があるのだと。
「そんなお前が俺に犯されまくって、結果として愛し合って、挙げ句に子作りしてるだなんて事がバレたら怒り狂うだろぉ」
どうでしょうか? お姉様が真に私を大切に思うのならばこそ、私が愛した殿方の事を認めてくださるのではないか。
近頃、私はそう考える様になっていた。私を大切に思うお気持ちがあらば、私の幸せを願ってくださると。
「おぢさま」
「んあ?」
「わたくしはおぢさまを愛しております。わたくし、ユーフェミア・リ・ブリタニアはおぢさまを愛し、おぢさまに愛されて幸せです」
幸せ。ええ、そう。私は今、この頃、愛し愛される幸せの只中にあるのです。
何物にも代えがたい幸せを、私はこの身と心に抱いている。
「知ってる。よ~っく、知ってますよぉ。若くお美しいユーフェミア皇女様が俺に、俺みたいな不細工な中高齢のイレヴンなんかに、身分違いにも惚れてくださってる事なんてなぁ今更の話だ。俺も同じだしよぉ、つーか申し訳なくも思えるわ。こんな醜い中高齢イレヴンで元性犯罪者な俺なんかが、若くて美しいブリタニアの第三皇女様にマジ惚れされちまって」
はい。私とおぢさまは幸せなの。愛し合う夫婦なのですもの。
美醜? 年齢差? 身分違い? その様な物は、私たちの愛の前では何らの意味も持たず、不必要な事柄と言えるでしょう。
私は幸せなのです。あなたと愛し合えてそれだけで幸せなの。
「そんな幸せなわたくしの、その幸福を、お姉様が壊したりなさるでしょうか? わたくしを大切だというのならば、わたくしの幸せをこそお祝いくださるのではないのでしょうか?」
そう主張する私の頭に、彼はそっと手を置いた。
「……、ちょ~っと、待ってくれェ……、ユーフェミア皇女、おめェまだ幸福フィルターが掛かってんの?」
「いいえ?」
心配げに私を見る彼の濁った双眸。こんなにも濁りきっているのにその瞳はいつも私唯一人を映し出している。
私はそれを知っている。泥の中を生きてきた様な、碌でもない人生を生きてきたという彼の瞳は、私を映して……。そう、私だけを映して。
彼の瞳の中に、紫色の私の瞳が映っている。ああ、見つめ合っているだけなのに、幸せ。
「わたくしはきちんと現実を見ておりますよ? 現実を知りましたよ? この身、この心で」
彼に犯される事で現実の非情さを知り。彼に犯されたが故に愛も知った。彼との逢瀬がイレヴンの現状を知る切っ掛けともなった。
切っ掛けや形はどうあれ、今の私と彼が、愛し合う夫婦としての関係にあるのは間違いない。
お互いに妻であり夫であると認め合い、愛を交わしておりますもの。
そこに在るは、何処まで行っても現実だけ。フィルターの取り払われた末の幸せな現実。
今の私にはもう、幸福フィルターは無い。
「だったらお前の姉ちゃんの事も幸福フィルター無しで見りゃよ、上手くいくかどうかくらい分かるモンだろ……」
「そこは何れはっきりさせなければならないのですから、フィルターを外して現実路線でお姉様にご納得頂くしか」
だって、私はおぢさまを、おぢさまだけを愛しておりますもの。
おぢさまだけを愛し、おぢさまだけに抱かれ、おぢさまだけの御子を産むのですもの。
歳の差があっても私たちは愛し合っています。愛があれば乗り越えられますわ、どの様な困難も。
それに、歳の差を論うならば、私の父である皇帝陛下も多くの歳の離れた妃を娶ってお出でです。
「寧ろフィルターを外して頂かなくてはならない相手はお姉様となるでしょう」
お姉様の私を溺愛していらっしゃるという思いがフィルターの掛かった物であれば、私はそのフィルターを外してご覧に入れますわ。
「妹大好きお姉ちゃんのフィルターね……、確かにそいつも濾過器っていやあ濾過器か……、でも、すげー爆弾だぞ」
「では逃げますか? わたくしが妊娠し、その事実をお姉様がお知りになったならおぢさまはお逃げなさいますの?」
逃げる、と仰っても、私は逃がしませんけれど。
「ねェよンな事ァ。……逃げるなら、そん時ァユーフェミア皇女も一緒につってるだろ」
でしょうね。逃げるなら私を連れてお逃げになる。私は物語にあるような攫われの姫となるでしょう。
「ユーフェミア皇女を置いて何処にも逃げたりしねェよ俺ぁ」
彼は言うと、私の髪と頭を撫でてくださいます。
政庁内での通常の執務中、なので私は公務服を着て居る。
髪は大きな白い髪留めで纏めた大きなポニーテール。
彼と愛し合うあの地下室での服装と同じ出で立ち。
腰まで流れる私の大きなポニーテール。その纏められた髪の束の中に、彼の五指が梳き通されていく。
ごつごつとした指に絡めとられながら梳かれる私の髪、指に絡まり髪を引かれるその感触が、とても心地いい。
「んっ……」
ああ、また彼の髪へのコンプレックスを刺激してしまうかも知れない。
彼は私の長い髪を代償行為として良く撫でる。頭髪が無い彼のコンプレックスは私の髪を触る行為に集約される。
それでも、この髪の中を梳きさらわれる感覚が好きな私は、彼に身を任せてしまうのです。
「俺ぁ、俺ァなぁ、汚泥を生きてきた様な屑だ。屑は屑だがな、それでもよぉ……てめェ自身が心底愛した女を放って逃げるまでには成り下がったつもりはねェ」
私との恋が初恋である彼は、恋については経験不足。それでも彼のその言葉、その本心が私は唯々嬉しい。
私は彼が私の髪を撫でさらう様に、私も彼の頭髪の無い頭に手を乗せ、撫でた。
「うふふっ、つるつる」
「悪う御座いましたねェ禿げで……、羨ましいですねェ髪が豊かで長くて綺麗で、嫌味に感じますよォホント」
産毛が少しだけで、つるつると触り心地の良い彼の頭。私の手の平と頭とが擦れ合う。
この頭髪の無い頭。仏門を叩いた僧侶の様。
そんな徳とは無縁な彼の在り方と見合って無く、少しおかしく感じます。
未だしも出所したばかりの囚人といった方が見合っていて、本当に自分とは正反対な在り方の彼と出逢った事が、今では不思議でならなかった。
「気持ちいいですか?」
私の髪を撫でる事と、私に頭を撫でられる事、その双方について。
「ああ~気持ちいいぜェ。ユーフェミア皇女の、ユフィの髪はいつも通り触り心地が良いし、俺の毛の無い頭を柔らかくて温かいユフィの手の平で撫でられるのも、ああそりゃあ気持ちいいさ」
場所柄、彼がこんな事をしてくださる事は少ないだろう。
政庁内では私と距離を取って居るのだから。
それでもこうして彼と触れ合うこの瞬間が愛おしい。
これなら、彼と二人きりになる為に、この部屋や、倉庫や、何処か人目の無い場所で逢瀬をする事も適うのではないでしょうか。
「間近で見るおぢさまの顔(かんばせ)」
とても醜悪な容姿で、中高齢で、イレヴンな彼の顔。
人はきっと醜いというのでしょう。心も醜かった事は事実。だって、彼との始まりは、望んだ末の物では無いのですもの。穢し穢されが始まりなのに。それでもこの今を、私は、幸せであると断言致します。
齢16歳の私とは四十以上も歳の離れた殿方。ブリタニア帝国第三皇女の私と、ナンバーズ、イレヴンである彼。身分の違い。
私と彼は正反対で、私たちの間には幾つもの壁があった。
だけれど、私は、私は、彼が愛おしい。
おぢさまが、おぢさまの事が、どうしようも無く愛おしい。
愛し、愛される様になってより分かったのは、彼の醜悪なその心の奥に隠されていた、純粋な一人の殿方としての姿と、真心。
私を愛し抜き、私を守り、私だけを想い私との子を欲する、私という、この世でただ一人の惚れた女だけを愛する殿方としての、純粋なる気持ち。
この身を幾度穢されても、この身を幾度抱かれても、幾度の口付けを交わし、幾度この髪を梳きとかれようとも、心の全てが満たされる事は無い。
足るを知るという言葉がある。しかし、愛は、愛とはどれだけ想い想われても、けして満たされつくす事は無いのではないのだろうか。
満たされるのは一時で、また満たさなければ我慢のならない物なのでは。
私はずっと愛されたい。あの地下室でも、この政庁でも、場所も時も問わずに彼より愛され続けたい。
私はブリタニア帝国第三皇女ですが、あなたを愛する一人の女なのです。
「俺の顔がどしたよ? 不細工だってか? ンな事ァ言われんでも分かって──」
彼が所謂容姿の悪い醜男だなんて分かっております。ですが、私を想うその心はとても純粋で。私はそんなあなたが──。
彼の言葉を遮った私は。
「口付けても、宜しいですか?」
「は?」
私は、その愛おしい殿方の唇を。
「ん──」
「んむぅっ!」
不意を以って奪った。
短編集内の各お話と投稿予定(未定)の続きやお話で読んでみたい作品はありますか?(ご期待に副える事が出来るかどうか分かりませんが、一ご意見としてお伺いしたいと思います)
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コードギアス
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コードギアスR2
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此花トゥルーリポート
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FF4×FF6
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カオシックルーン
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学園黙示録
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ルパン三世 ワルサーP38
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幕末風来伝 斬郎汰
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ニードレス
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ヨルムンガンド
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少女少年
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北の告発
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サラダデイズ
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クレセントノイズ
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ひとひら(甲斐×理咲の近親相姦物)
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ESアザーワイズ(戒×瑠璃)
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