ディクロニウスなどは出て来ません。
主人公のコウタくんと一話で首をねじ切られて殺害され、死体は機関銃の盾にされてしまった悲しい女性如月さんが幼馴染だったらというお話です。
昔書いたえち描写があまりに稚拙でしたので省いておりますのでR18ではありません。
コウタくんと如月さん
コウタくんと如月さん
今年の冬、大学受験に不安だったコウタは、彼が10歳の時に東京へと引っ越していった東大卒の幼馴染、如月に電話をした。
勉強を見てくれないかという相談のために。
電話では度々連絡を取り合う間柄、けして他人ではない、友達でもない、そして幼馴染みでありながらも幼馴染みではないと感じる……そんな年上の家族以上に馴染みの深かったであろう女性に。
『如月さん、おれ勉強にちょっと自信が無くて。塾行くお金も足りないし、良ければだけど如月さんにおれの先生を頼まれてほしいんだ。いいかな?』
『うん、うん、いいよコウタくん。私でよければぁ、コウタくんの先生ぇ、承るよ~!!』
頼んでみると、二つ返事でOKだった。
コウタくんの力になれるなら、そう喜んで引き受けてくれたのである。
上京後に訪れた如月の家。
当然のこと下宿することになった彼女の家で、昔からコウタを知る彼女の両親共々、昔を懐かしむ話を交えながらの歓迎を受け。
良好な環境の下での気心知れた幼馴染み如月との勉強は染み入るように頭へと入っていき。
それから数ヶ月。
自らのひたむきな努力と、彼女の熱心な指導のおかげもあって、なんとか首の皮一枚でだが、コウタは大学受験に臨み、見事合格を果たすのだった。
「コウタくんおめでとう~」
合格を知り、いの一番に抱き着いてきた女性は、心からの喜びを表していた。
「如月さんのおかげだよ。おれ一人の力じゃとても合格なんてできなかった……ありがとう如月さん」
「そんなことないよー、コウタくんががんばったからだよー、私はぁ、ちょっとだけ背中を押しただけだもん」
どことなくボケっとした感じの髪の長いポニーテールの女性、彼の幼馴染みの如月だ。
恐ろしいほどの楽天的性格。
ぼーっとしての失敗の数々。
異様に間延びしたその舌っ足らずな言葉遣い。
とろい、どんくさい、不器用の三拍子が揃った、普通あり得ないだろうと言われるくらいのドジっ子属性の塊のような女性なのだ。
どう贔屓目に見ても24を数えるような立派な大人とはとても思えない。
とても美人なのだがコウタが思うに「美人よりも美少女、美しいよりも可愛い」という感じの女性であった。
実際、高校生くらいに思われることも良くあったしコウタ自身、「一部においては子供」とさえ考えていた。
ただコウタはそれでもいいと思っていた。
コウタより年上だというのによく迷子になって、当時子供だったはずのコウタが迎えに行ったり。
何も無い所で転んで泣いては子供のコウタに慰められたり。
とにかく手のかかるお姉さんだった。
当然として、面倒くさい、鬱陶しい、関わり合いになりたくない。
そう忌避されても仕方がない人だったのだろう。
庇護欲をそそられる面は捨てがたいのだろうが、しかし、基本時に自由で好きに遊びたい子供達にとっては、手の掛かるとろい子というのはいじめの対象にされたりと、とかく厄介な存在なのだ。
実際に、歳こそ離れてはいる物の、いつも如月と一緒だったコウタの事を同級生達は、こいついっつも女と一緒なんだぜ~、等、嫌がらせのような行為、言葉を投げ掛けていた。
それでもコウタはいつだって彼女と一緒に居たのだ。手の掛かる彼女、年上なのにまったく頼りにならない彼女、泣き虫で迷子になってばかりの彼女。
そんな如月を、コウタはどうしても放っておくことが出来なかったのだ。
生来の優しさ。友達だから。言い訳など幾らでも思いつけよう。
しかし本音はずっと一緒だった、小さい頃、物心付いた頃より常に遊んでいた彼女と離れるなど、そもそも彼の中にはなかったのである。
いつしかコウタはそんな如月の事を好きになっていた。
切っ掛けなんてわからない。
どれほど真剣に悩み考えても“如月が好き”という感情だけが其処にある、というただそれだけしか浮かばない。
面倒を見られてきたのならばわかる。しかし自分は面倒を見ているほうの側だった。それなのに。
周りに如月以外の異性がいなかったという事もあるだろう。
ずっと一緒だったからというのも。
でもどうして彼女なのか?
結局、理由などないのかもしれない。
ただ気が付けば好きな女性が彼女だけだった。
特別に余計な事を考えずとも、自然に心に浮かんだ女性はいつも彼女だけだった。
単純な話、如月という女性が好きだから好き。
それ以上の何かを彼に求めたところで回答など出せようはずが無い。
既に出てしまった回答には、もはや答えなどありはしないのだから。
だからこそ、コウタは決意を固めていた。
この大学受験に合格したら、そのときこそ、長年秘めていた想いを口にするときだと、如月に告白するときなのだとして。
ずっと、ずっと前から。東京に行き、大学を目指す。そう決めたときから。
本当の目的が逆になっていたのかもしれない。
如月を頼って大学に合格することを目指すのではなく。
如月に告白するために大学合格を目指すという物に。
だったらそれでいい。いまこの瞬間のために頑張ってきたというのならばそれでいい。
「如月さん、大事な話があるんだけど聞いてくれるかな?」
心を決めて、勇気を振り絞って、秘めていた想いを口にする。
この瞬間、きっと受験よりも緊張していたに違いない。
動悸は激しく、手には汗が滲み、息は苦しい。
だが、彼は決意を以て、自らの気持ちを伝えると決めていた。
「ふえ?」
なにも分かってません。惚けた表情で見返してくる如月を黙って見つめ返しながら、一呼吸おいてコウタは決意した自らの意思を貫く。
「おれっ、おれ如月さんが好きなんだ──!」
真剣なる告白の言葉。
目を逸らすことなく、真正面を見据えて、ただ彼女の瞳だけを、射貫くように見つめていた。
口は引き締まり、いつものからかうような軽い口調と空気の一切を廃しながら、ひたすらに彼女だけをコウタは見ていたのだ。
その瞬間、如月の顔は真っ赤に染まった。
「ふ……ふえええ~、あ、ああ、あの、えっとぉぉっ」
コウタからのいきなりの告白。
理解したそのときにはもう如月はパニックを起こしていた。
元よりぼけっとした性格の彼女、いざという事態や思いも寄らない事が起きたときには、まともな対応が出来ないのだ。
そうであると知りつつも、自らもまた秘めてきた彼女への想いを告げたことで冷静さを欠いていたコウタは、一刻も早く返事が聞きたかった。
彼女の本音を、彼女の心の内を、いつの日か、憧れを抱くようになっていた優しいお姉さんの、自分への本当の気持ちを。
自分の事をどう思ってくれていたのか。いまこの時、自分という一人の男に成長したかつての幼馴染みのことを、どう思っているのかを知りたい。
「如月さん、返事……聞かせてよ」
急かすように答えをせまった。
急かしながらも静かに、脅えさせたりしないように。
彼女の性格は誰よりも良く知っている。
ずっと見てきた自分なのだから。
彼女の家族よりも自分と過ごしてきた時間の方が長いとさえ思えるほどの自覚がコウタにはあった。
彼女は優しく、そして脅えやすく、それでいてとても芯の強い女性だ。だから脅えさせないように語りかける。
最初の一歩を間違えなければ、彼女は、自身よりもずっと心の強い彼女は、欲しい答えも、聞きたくない答えも、つまりコウタにとっては辛い結果となる回答と彼女自身がわかっていても、はぐらかさずに必ず答えてくれる、そんな強い女性だから。
返事を引き出したい、聞かせて欲しいという意思だけは決して崩すことなく、彼は待ち続けた。
どちらに転んでも、これが最初で最後の告白だ、そう覚悟を決めて。
すると、そんな鬼気迫るコウタへ、如月は俯きながら話し始めた。
「わ、私すぐに迷子になって、転んでばっかりで」
昔からのことだ。彼女自身の事だった。
「私のほうがお姉さんなのに、コウタくんに迷惑ばっかり掛けて」
迷惑、掛けられた。確かに掛けられてきた。一度や二度じゃない、数えるのも馬鹿らしくなるくらいに。
まるで実の親のように、彼女の兄にでも為ったように、本来ならば面倒を見られる側であるはずの歳の離れた幼馴染みであるコウタは、ずっとこの年上の女性の面倒を見てきた。
「だ、だからいつかは私がコウタくんのお役に立ちたくて」
如月の独白は続く。
「勉強を教えてって言われて嬉しくて」
勉強では間違いなく如月の方が上、自分は教えて貰う側。
コウタも分かっている。東大卒の才女である如月は、あらゆる面を除き、その賢さだけは間違いなく本物であると。
だから教えを請う。賢くて優秀な才女で、幼馴染みで、自由奔放な、大好きなお姉さんに。
頭が良いからではない、ただの幼馴染みだからでもない、彼女だからこそコウタは助けを求めたのだ。
彼女、如月だからこそ、好きな女性であったからこそ。
「でも、コウタくんの役に立ててるか……、自身が……無くて~……」
如月の独白を聞いていたコウタはもう一度言った。
「違うよ如月さん、それは違う」
「ふえっ?」
「おれはね、おれは……ドジでズッコケていて、すぐに迷子になって……それでもひたむきにがんばる。遂には東大を首席で卒業するくらいになった、そんなひたむきに頑張れて。自由に、静かで、ぼんやりと、優しい春風のように生きている。そんな如月さんがおれは好きなんだ」
本当の強さ以外はどうだっていい。コウタの同級生からは『ポンコツ女』などと悪口を言われてもいた。
そのたびにコウタは取り消せと殴りかかり、怪我をして擦り傷だらけになって、如月を悪く言う者を決して許さなかった。
“ドジでズッコケていて、すぐに迷子になって、でもそんな如月さんがおれは好きだ”
その言葉を聞いた如月の瞳からは涙が溢れだしていた。
自分はドジだ。自分はズッコケている。自分はボーッとしてて直ぐ迷子になっては周りに、コウタに迷惑ばかり掛けてきた。
勉強だけは頑張って自分なりの成果を出せたけれど、それでも自分という人間は社会的には駄目人間なのではないか。そう、ずっと思ってきた。
だが、コウタは、幼馴染みは、それをこそ好きだという。
そんな如月さんだから、おれは好きになったんだという。
如月は、彼女はずっとコウタのことが好きだった。
幼い頃より、歳の離れたこの幼馴染みに、秘やかな想いを寄せていた。
自分が何処で迷子になっていても、必ず最後には彼が迎えに来てくれる。
手を繋いで、離れないように。
一緒に帰ろうね。
もう大丈夫だよ。
何度そう勇気付けられ、元気付けられてきたことか。
いつの頃からなのだろう。
自分でも分からない。
ただ……そう、ただ気が付いたときには、彼女はコウタに想いを寄せるようになっていた。
きっと、今にして思えば、ずっと自分の事を見てくれていた彼、ずっと手を繋いでくれていた彼に。いつかは抱き締められたい、共に歩いてみたい、そういう想いが募り積み重なり。いつしか蕾と為って、この心に花を咲かせてしまっていたのだろう。恋という、一度花開けば二度と枯れない、純粋な輝きを持つ花を。
「わ、わ、私も、ひっくっ」
泣き虫故に。
「こ、コウタくんが」
舌足らずな故に。
「ぐすっ、えぐっ」
上手く伝えられない如月は。
「す、好きです~~っ!!」
それでも精一杯の気持ちを彼にぶつけていた。
彼からの想いを、受け取った大きな愛を、私も彼と一緒に育てていきたいと、そう願ったから。
「如月、さん……おれ、おれ嬉しい、よっ……。こんなに、こんなに嬉しい事って、ないよ──」
コウタは彼女の言葉を、彼女の返事を、己の中で噛み砕きながら、彼女をそっと抱き締めた。
「如月さん……」
「ん……コウタくん」
迫るコウタの顔。
目を閉じる如月。
二人の唇はゆっくりと近付き、そして、一つに重なった。
「──」
想いを伝え合い、世間的にはいわゆる恋人同士になった泣き続けている如月に、コウタは深い口付けをして、如月が泣き止むのを待って彼女を布団に寝かせた。
もう、自分を止められそうもない。このまま、如月と最後まで共に在りたい。
そう願うのは、愛を交わした者としてけして間違っては居ない。
愛するが故に結ばれたい──世の中の総ての恋人達が願い、いつかは至るその道。
コウタもそう願った、誰よりも大切で、誰よりも愛する彼女を前に。
しかしコウタにはひとつだけ見誤っていた事がある。
それは、如月という愛する女性が、ぼけっとした子供のような性格をした、大人の女ならぬ、大人な少女だったということだ。
自らがよく知りながら、自ら失念していた事実を、彼は事ここに至って突き付けられる事となる。
「あの~コウタくん」
「どうしたの?」
「まだ寝るの早いよ~」
「…………」
このままの流れの中で如月を抱くために布団にと寝かせたのだが、如月はというと、おやすみをすると受け取ったようなのだ。
とても彼女らしい受け取り方。そして彼女のそう言う性格を失念していた彼は頭を抑えて反論せざるを得なかった。苦言という形で。
「ねえ、如月さん……。この流れでどう考えたらそうなるんだよ……」
額に手を当てて呆れているコウタを如月はきょとん、と見上げている。
とりあえずコウタはなにも分かっていないらしき彼女に説明することにした。
一から説明しなければ始まらない大人の関係というのも、日本広しと言えど彼女くらいでは無かろうか。
「あのね如月さん、おれは如月さんが好きで、如月さんもおれが好きって告白しただろ」
「う、うん」
先程の告白を思い出したのか如月は恥ずかしそうに俯いた。
「で、おれと如月さんは恋人になったんだ。いま、おれたちは暦とした恋人なんだよ? 長年の想いを伝え合って、愛し合う関係に漸くなれたんだ」
「は、はぅぅ~」
如月はそこまで聞くと、指をもじもじとし始めた。
(可愛いなぁ)
コウタはもうこのまま如月を抱いてしまいたくなったがなんとか堪える。
「その後にキスをして、おれは如月さんを布団に寝かせた……如月さんを抱くために。男として、愛する女である貴女を、抱くためにね」
ここでようやく彼がなにをしようと試みていたのか。男と女の愛し合い、性的なる愛の交合を交わしたいと考えているのだと理解した如月は、再び思考回路が焼き切れてしまいそうな程の混乱をきたしてしまった。
精神の幼い彼女らしいと言えばらしいのだろう。
「ふ、ふえええ~、で、でも、でも、そんな」
だがそんな彼女にコウタはかまわず続けた。
彼女を優先させてしまうと、きっと暫くどころか、当分、愛し合う事も出来ずに、小学生のような恋を続けていく事となってしまいそうだからだ。
もちろんそれでもコウタはよかった。彼に取って大事なのは、漸く愛し合う彼氏彼女に如月と成れたことひとつだけ。
それさえあれば、別に大きく進んだ大人の恋愛関係にならずともまだいいくらいだ。
しかし、其処へと至る流れと為っているこの時。自然に流れ至ろうと考えていた為に、引くにも引けなくなっていたわけである。
コウタは、如月を愛したい。
彼女の総てに、自らの総てをぶつけて愛したかった。
愛する者をただ思うがままに愛したいがために。
「如月さんはおれに抱かれるの嫌? おれとさ、その……エッチするの……、嫌、なのかな?」
抱かれるのが嫌なのか。
「あのさ、嫌だったらいいんだ……。まだお互い想いを告げ合ったばかりだし、おれだって如月さんに無理強いとかはしたくないから」
その問いには一つの答えだけしか持ち合わせていない。
事を理解した如月もそのたった一つの答えを彼に伝えた。
そう、自らの意思で。
「そ、そんなことないよ~、でも……恥ずかしい……よ」
消え入りそうなほど小さな声で、上目遣いに彼女は訴える。
愛する人への想いと、女としての羞恥を。
「だって、だって、エッチって裸になって、全部見せ合うんでしょ~?」
全部、とは。生まれたままの姿になること。愛し合うとは、当然そうなって行う行為。大切な人と行う大切な、愛という形を成す行為。
それは嬉しいと同時に恥ずかしくもあった。
「それはおれも同じだよ、初めてなんだから恥ずかしいに決まってるさ。おれの大切なところを総て如月さんに見せることになる。親だけしか見た事無いおれの裸を貴女ただ一人に、貴女だから見せられるんだ。如月さんが恥ずかしいのはよくわかるよ。今言ったようにおれも同じだからさ。それでも……それでもね、おれは……如月さんを抱きたいんだ」
恥ずかしいのはお互い様。でもその恥ずかしい事を可能とするのは相手が貴女だから。
相手が貴女だからこそ共有出来ることであり、すべてをさらけ出して見せることが出来る。
愛し合う自分たちに、見せられないものなんてない。
真剣に自分の瞳を見つめて訴えてくるコウタを見て、如月も戸惑いながら覚悟を決めた。
彼女は決めるしかなかった、彼の強い想いを受けては、だって私は彼よりもお姉さんなのだから。
「う、うん……わかった……」
如月は、そうしてコウタにその身を任せる。
「いい、よ?」
他にはなにもいらない。
「き、如月さん……」
ただコウタだけを見つめ、彼に己が身を預けるだけ。それだけできっと、すべて上手く行く。子供の頃から、そうだったように。
「コウタくん……その~……優しく……、してね」
「優しい以外の方法を知らないよ……。だっておれ、ずっと、優しさの塊だった如月さんだけを、小さい頃から見ていたんだからさ」
そう、いま一つになり。
愛を紡ぎ始めたこのいと深き大切な時間でさえも。
彼女から伝わるのは優しさだけで。
彼が彼女へ送るのも、優しさのみであったように。
コウタと如月。
二人の満たされた刻は、静かにしめやかに、終わりなき愛を紡ぎ出す。
彼が打ち鳴らす熱く響く調べと。
奏で謡う彼女の甘く切ない音色。
コウタの解き放つ想いと、如月へと届けられた想い。
演奏に終局はなく、ただエンドレスとして果てしなく続いて行く。
奏で合わせる旋律はやがて、如月に届けられる想いを彼女の中で一つの形にしていく。
調べに合わせて吹き込まれていく命は謡い手に宿り、確かな形を成し行くまでけして終わらない。
共に、力尽きるその時まで……。
エピローグ
とあるデパートにて店員の男性が小さな女の子に話し掛けられていた。
「あのー、おじさん」
「(お、おじ)お兄さんに何か用かな?」
「あのね、迷子なの」
どうやら親とはぐれたらしい。
見た感じ5,6歳くらいの長いポニーテールの女の子だ。
ずいぶんと可愛らしく、そっち方面の人が見たら放っておかなそうな容姿をしていた。
自分はロリコンではないが。
「大丈夫だよ、お兄さんと一緒にお母さんが迎えに来るの待っていようね」
「違うの“お母さんを迎えに来た”の」
「え?」
母親を迎えに? こんな小さな子供が?
「あのねお嬢ちゃん。お母さんじゃなくてお嬢ちゃんが迷子なんだよ。お母さんきっと心配してるから一緒に迷子センター行こうね~」
「むー、本当に違うんだもん。いっつも向かえに行ってるの椛のほうだもん」
そんな馬鹿な。
何れにしても迷子は迷子。センターに連れて行くためにも迷子を見つけたことは連絡しておかなければならない。
「あ、すみません、いま迷子の女の子を見つけたんですけどね。なにかお母さんを迎えに来たとかなんとかぐずってますが、今から連れて行きますので──―えッ! い、いや、はあっ!? 本当ですか?! ち、ちょっと待って下さいっ」
店員は女の子を振り返ると聞いてみた。
なぜ聞くのか? それはセンター側からの話と、そして件のこの女の子の話に問題が生じていたからだった。
「お嬢ちゃん、お母さんってどんな人?」
センター側は、子供と来ていてはぐれたという迷子の“女性を”預かっていて、いつも娘に“迎えに来て”貰っているとその女性は泣きながら話しているというのだ。
丁度そう、いま彼が確保した女の子の主張とまったく同じ話をセンター側に居る女性がしていたわけで。
「えっとね、髪は私と同じで長くてポニーテールで、ぼけっとしてて、間延びした喋り方で、あと迷子になってるから泣いてると思う」
「ち、ちょっと待っててねお嬢ちゃん」
迷子だという“女性側の”特徴を念のために問い合わせてみる店員。
「はい、ロングヘアでポニーテール……。ぼけっとした感じで間延びしたような特徴的な言葉遣い……。センターに着いてからめそめそと泣いている……」
無線機を片手に問い合わせる店員の隣では、うんうんと、相槌を打つ女の子が店員のことを見上げている。
ほら言った通りでしょう。とでも言いたげに手を腰に当てながら胸を張って、威張っている様子が背伸びをしているかのようで可愛らしいが、事実として迷子の母親の迎えに来た少女だったから洒落になってなかった。
「……あ、もしもし、その方の、あのー、なんといいますか……迷子の方の迎えのお嬢さんがいらっしゃいました……」
***
「遅いなぁ、どうしたんだろ?」
午前中、用事が有った“如月コウタ”は、昼から妻と娘と買い物に行く約束をしていたのでデパートで合流することになっていたが、待ち合わせ場所についてより20分が過ぎてもまだ姿を見せない二人を心配していた。
「ひょっとして、またか?」
まさかと思うが、行き違いになっても不味いので彼はもう少し待つことに。
彼の思ったまさかというのは、もしかすると迷子になっているのかも知れないという意味である。
娘が──ではなく、母親、つまり妻の方がだ。
迷子率がかなり高い妻はなにもないところでも平気ではぐれること今までに数え知れず。
子供の頃から数えるのならば余裕で三桁を更新しているくらい酷い物であった。
その都度迎えに行く側にあったコウタだが、今ではその回数が半減していた。
何故なら、もう半分は娘が担っているからだ。
よく迷子になる母が反面教師となったのか、娘は幼いというのにしっかりし過ぎな面がある。
親としては手の掛からない子ながら、反対に掛からなすぎて寂しい気がしないでもなかった。
そうしてコウタがぼーっと考え事に熱中しながら更に10分ほど待っていると。
「お母さん泣かないで、もう大丈夫だから」
人ごみの中から妻を慰める娘と。
「ぐすっ……ぐすっ……」
娘に手を引かれながら『くすんくすん』と泣いている妻が姿を現わした。
(やっぱり……)
娘、椛が気づいて此方に歩いて来るのを見ていると昔を思い出し、微笑んでしまわずにはいられない。
(小学生に手を引かれていた高校生は、遂に幼稚園児に手を引かれる30歳にパワーアップか。……しかし、5歳の娘に泣きながら手を引かれている姿はシュールな光景だ)
「ほらお母さん、お父さんだよ」
「ふえ? コウタくん?」
娘の指摘にコウタを見つけた妻は、目を涙でいっぱいにしながら走ってくる。
まるで親鳥を見つけた雛が追い掛けてくるような彼女を、コウタは手を広げて迎え入れた。
「うわぁ~~ん、コウタくぅぅぅん、怖かったよ~~」
そして抱き付いてはお約束の如く大泣きに泣いて泣きじゃくる妻の頭を、彼は撫でながら慰める
「よしよし、もう大丈夫だから」
いつもこうだった、いつも小さな自分に泣き付いては自分が慰めてきた。
昔からずっと変わらず、同じ様に。
(何か昔と全然変わってないな、それにしても我が妻ながらいつも思うけど歳を取らないなぁ)
もう30歳になるというのにコウタの妻、如月は、外見上ではまったく歳を取っておらず、今以てなお高校生と間違われるくらいの外見をしていた。
これは今やコウタの義母でもある如月の母の遺伝なのは間違いない。
何せ如月の母は50を越えても20代にしか見えないほど、羨ましいくらいの若々しさを保っていたからだ。
のんびりした性格もあの母の遺伝だろう、ただ如月の場合個人のものとしてズッコケてる所もあるが、そこはコウタにとって大好きな長所といえなくもない。
一方コウタと如月の間に産まれた娘の椛は、如月とは異なりコウタに似てしっかりしていた。
容姿は如月に似ているのでいずれ永遠の18歳になるかもしれないが。
あの、如月と初めて結ばれた日から数ヵ月後。彼女は妊娠した。
コウタは無論、彼女が妊娠したのを知り、一も二もなくすぐに結婚を申し込んだ。
元々する予定ではあったが大学卒業後にと家族計画を立てていたのが一瞬で狂ってしまったのだ。それも良い方へと。
彼も彼女も、またコウタが居候している彼女の家の主たる彼女の両親にとっても、それは福音的な意味での実に悦ばしき出来事であった。
当の如月など、子供を妊娠したのとコウタとの結婚が重なったことで、嬉しさのあまり『もう、死んでもいいよ~~~っ』と気絶してしまうほどに喜び。コウタが慌てて起こしたのは言うまでもない、といったお約束的な事まであったり。
もちろん如月の両親は、心配していた娘の結婚に、良く知るコウタが息子となること、そして孫が同時に出来たと喜び。
コウタはコウタで自らが如月よりも年下である事と、このまま如月家で住むことになった事を理由に、如月の性を貰い婿入りしていた。
そして二人の娘である“如月椛”が産まれたのである。
まあなんにせよ幸せな事が続いていた。
ようやく泣き止んだ如月にコウタは手を差し出した。
「ほら、おれの手握って」
「う、うん」
如月は恥ずかしげにコウタの手を握る。昔と同じように、いまは大きくなった彼の手を。昔は幼馴染みで、いまは夫となった彼の手を。
「お母さん何だか子供みたい」
この、いつも仲の良い両親が大好きな椛は母を見て言う。
「だからいつも言ってるだろう? お母さんはお父さんが一生引っ張っていてあげないとダメなんだってさ」
傲慢とも取れかねない夫の言葉を。
「うん、コウタくんは私が迷子にならないようにずっと放さないでね~~」
妻はその通りなんだよと肯定のみを示す。
実際そうだから、自分にはコウタの手が必要だから。
コウタもまた同様に、自分には如月の優しさと、その頼りない手が何よりも必要であったから。
どちらが欠けても二人は生きていけない。
ずっと、幼い頃から、どこへ行くのも、なにをするにも、ずーっと、一緒だったのだから。
「じゃあ私もお母さんを引っ張るね」
そんな大好きな母の空いている方の手を握る娘、椛。
「それは心強いな。おれが居ないときはお母さんの事しっかり頼んだぞ椛隊員」
「了解でありますお父さん隊長っ」
「ふえええ~~っ私お母さんなのに~~っ」
いつまでたってもズッコケている如月と、そんな如月をいつまでも引っ張り続けるコウタ、そして二人の間に産まれた椛、 幸せいっぱいの三人の親子はとりあえず買い物をすることに。
そんな何でもない一日を終えた三人はもう二人の家族、如月父と如月母が待つ我が家への家路につくのだった。
平凡な幼馴染みの二人が結ばれた日より続く幸せは、いまもこうして続いているのだ。
そして、これからもずっと続いて行く。
今日という日は、その幸せの一ページ。
明日はまた新しい一ページが刻まれていく。
穏やかなる日々の中で。
短編集内の各お話と投稿予定(未定)の続きやお話で読んでみたい作品はありますか?(ご期待に副える事が出来るかどうか分かりませんが、一ご意見としてお伺いしたいと思います)
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コードギアス
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