刻の大地 十六夜とリーノア
薄暗く深い森の中を、一人の少年が歩いていた。どこにでも居そうな少年が。
子供は勿論、大人でも常に危険が付きまとうような森。進んで入る子供は居ないと思われる場所にたった一人で、である。
当然、この少年も進んで入ったのではなく、迷い込んでしまっていただけなのだが、それがどれだけ危険なことかを少年は理解していなかった。
昼間でも深く暗いこの森には、魔物や野生の動物も多く、いつ何時襲われ、場合によっては命を落とす事になるかも分からない。
たったひとりの子供にとり、どれだけ危険な場所なのだろうか?
「ココどこ~?」
彷徨い歩く少年は、進めど進めど開けた場所に出ることはなく、森の奥へ奥へと自ら入って行っているかのようだった。
この少年の名は十六夜、年齢は13歳。癖のある黒い短髪で、身長は145センチと低く、体重も軽い。
円らで大きな黒い瞳、もちもちとした丸い顔、幼く可愛らしいその外見からは到底13歳には見えず、性格・思考も実年齢以下。
平和をこよなく愛し、いつもぽよぽよと脳天気。
誰とでも──たとえ恐ろしく凶暴な魔物とであっても仲良くなれる、いや、なろうとする。
そんな心優しい少年だった。
十六夜は迷子だった。
自分の家も町も、どこの地方にいたのかもまったくわからず、あてもなく歩いていて、気がつくと森に迷い込んでしまっていたのだ。
◇
時を同じくして、深い森の中を、女性が一人、彷徨い歩いていた。
「どこまできてしまったのかしら……」
いま、自らの立つ場所が何処かも彼女にはわからなかった。
右を向いても、左を向いても、前に進んでも、来た道を戻っても、見えるのは同じ景色ばかり。
まるで同一の場所をぐるぐると回り続けているような不快感が際立ち、不安だけが募っていく。
ざわり。
吹き抜ける風に木々がざわめく。
自然、びくりと震える彼女の身体。
風の音に紛れて魔物が現れるのではないか?
もし、本当に魔物と出会ってしまったら?
恐怖、不安、喪失感、負の感情ばかりが嫌でも表面に出てきてしまう。
考えたくもないことが次々と思い浮かんでは消えを繰り返す。
木々のざわめきは、それ自体が自らを威嚇しているかのようにも聞こえ、森を抜け出るためにもひたすらに歩き続けなければならない状況に追い込まれている彼女を、更に心細くさせていた。
彼女の名はリーノア。旅の僧侶だった。
但し、僧侶とはいっても未だ修行中の身である為、正確には修行僧といった具合の立場であった。
無論、多くの魔物が生息し、盗賊や野党の類が蔓延る場所も当然としてあるこの世界、女性の一人旅には危険が常に付きまとう。
だが僧侶を目指す者としては、その危険な旅と修行を無事に終え、修業課程を修めてこそ一人前として認められるのだ。
しかし女性であることには変わらない。故に彼女も一人で旅をしているわけでは当然なかった。
ただ、彼女はいま一人。周りには誰も、居ない。
たった一人で孤独に深い森の中を彷徨っている。
どうしてこんな事になってしまったのか?
それは、修行の為に歩いていた旅路、街道を外れたこの森で、連れの女性とはぐれてしまったからであった。
話は、そんな迷子の少年十六夜と、同じく迷ってしまった女性リーノア。
二人が別々の場所より彷徨い入っていった森の中にて、偶然にも出逢うところから始まる。
刻の大地 十六夜とリーノア
迷子の少年と迷子の僧侶は森の中で出逢った
オッツ・キイム4996年
◇
「こんにちはーお姉さん」
それは、大きく、元気な、明るい挨拶だった。
森の中を彷徨い歩く少年と女性の、数奇な出逢いの瞬間であった。
「え? ……あ、ええっ……、こ、こんにちは?」
女性は、リーノアは、唐突な明るい挨拶に戸惑っていた。戸惑い、そしてなぜこんな森の中に少年がと思った。
それもそうだろう、こんな深い森の中で脅えるでもなく、気楽で気ままに歩いている少年に出会えば誰であっても戸惑いを覚える事だろう。
しかしその少年、十六夜にとっては別だった。彼にとってはこの森は怖い場所ですらなかったのだ。
お花さんに出会えば話し掛け、動物さんに出会えば話し掛け、魔物さんに出会えば話し掛ける。そして当然いま出会った女の人にも嬉しそうに話し掛けた。軽いピクニックでもしているような気分で。
彼に取りこの果てしなく暗い森の中とは、色んな物と触れ合う事が出来る程度の場所であり、恐怖などまるで感じてはいないのだった。
十六夜は出会った女の人を、ただその大きくて黒い円らな瞳で見つめていた。
見つめられる側のリーノアも、なんだか不思議な気分になってくる。
こんな小さな男の子が、こんなにも平然としているというのに、自分ひとりが脅えている事が、なんだか恥ずかしくなったのだ。
「お姉さん髪の毛すっごく長くて綺麗だね~」
どんなものにでも興味を抱く生来の気質を持った十六夜は、リーノアの髪を差して言った。
頭の高い位置にリボンで纏められた彼女の髪は、彼の言葉通りにとても長く伸ばされている。
そうして纏めていてもまだ毛先が膝下まで届いているくらいで、その為、背中の裏側辺りと、腰の後ろ辺りを、更にビーズの髪留めでしっかりと束ねており、ただ頭の後ろで纏めるだけではなく邪魔にならないようにと一手間加えて工夫していた。
そんな彼女の髪に琴線を擽られたらしい十六夜はといえば、駆け寄った、というか、遠慮という言葉を知らないかのように飛び付いていた。
飛び付きそして、そのひとつに纏められた彼女の髪の束をぺたぺた撫で撫でと、とても興味深げに触り始めるのだ。綺麗だねと言葉を紡ぎながら。
「さらさら~つやつや~、いい匂い~」
手を伸ばして背中の辺りで指を差し入れ、ゆっくり、丁寧に、梳き下ろしながら、彼は鼻を近付けては匂う。
理由も分からずのリーノアも、邪魔をしてはいけないような気がして、幼い少年の行動を静かに見守りながら、好きに髪を触らせていた。
懐かしい匂いがした、故郷のお姉さんの匂いが。
彼は瞳を閉じてそっと髪を撫でながら、故郷の姉の顔を思い出しながら静かに呟いていた。
「僕のお姉さんもねー、とっても良い匂いがするんだよ~」
また、腰の下辺りで優しく手にとっては、髪の束を撫で続ける。
十六夜に下心はない、ただ綺麗だから触ってみたかった、で触った。
そしてなによりも、リーノアの髪に故郷のお姉さんを思い出してしまったから。
迷い子となってより長らく会えないでいる、優しいお姉さんのことを。
「お姉さんの髪の毛と色は違うんだけどね、僕のお姉さんの髪の毛と同じ良い匂いと手触りがして気持ちいいよ♪」
「くすっ、ありがとう。でもね、女の子の髪なんだから勝手に触っちゃ駄目でしょう?」
こんな少年がするから可愛らしい行為だが、もしもっと大きな男の人が同じ行為をしようとしてきたならば、手に持つ杖で打ち据えていただろう。
比較的に穏やかな性格をしているリーノアだが、彼女とて我慢の限界はあるのだから。もちろん、彼のような子にならば幾ら触られて構わない。
故郷のお姉さんを思い出しているのなら尚更彼女には拒絶する理由など無かった。
「うにゅ~ごめんね、お姉さん……」
そして当事者の十六夜はというと、いつの間にやら目をうるうるさせて泣きそうになっていた。
いまの簡単な女性へのマナーや注意を怒られたと思い違いをしていたのだ。
「あっ、べ、別に怒ってるんじゃないのっ、勝手にじゃなければいいから、ね?」
リーノアもこれには慌てて手を振り、怒ってないアピールをするしかなかった。
本当に怒っているわけでもないし、一般的なマナーを口にしただけなのだから。
幾らでも触っていいよ。彼女が笑顔で言えば、萎れた花が咲くように彼もにこっと笑った。
「あっ、おでこの石もとってもきれー。ぴかぴかー」
そして十六夜の興味が次に向った先は、彼女の額に向けてであった。
センターで分けられたリーノアの前髪の下、額に見えるのは宝石の付いたサークレットに同じ宝石のイヤリング。
髪から手を放した十六夜は、ぴょんぴょん飛び跳ねてはそのサークレットに付く宝石を触ろうとしている。
「触ってみたいの?」
彼女が問い掛けると。
「うんっ」
十六夜は元気よく返事をする。
リーノアはなんとなしにその面白くて可愛らしい少年を抱き上げて、自らの額に掛かる宝石を触らせてあげた。
「うわ~っ、つるつるしてるねー。綺麗な色だねー」
髪を触っていたときと同じ様にぺたぺた。
ついでにおでこまで撫で撫で。
「あはっ、くすぐったい」
そのくすぐるような感触に、むずむずとなるリーノアはツボを刺激されてくすくすと笑った。
本当にくすぐったかった。ある種の気持ちいい笑いというものを、この森に入ってより始めて浮かべられ、暗く落ちきっていた気分が晴れてくる。
(なんだか不思議)
たったいま、偶然であったばかりの少年のおかげで、心を包み込んでいた暗い気持ちが霧散していくのだ。
これを不思議と言わずして、なにを不思議と言えばいい?
そうして気の晴れつつあるリーノアを余所に、十六夜は十六夜で、彼女の他の部分にも興味を持ってじろじろと目移りさせていた。
「お姉さんは戦士さん? それとも魔法使いさん? ひょっとして旅芸人さんだったりするのかなぁ?」
「う、うう~ん、どれも違うかな」
苦笑いになる彼女に十六夜は今度はこう訊ねていた。
「あっ、わかった! お坊さん!」
「お、お坊さんって……、せ、せめて聖職者とか別の呼ばれ方がいいな……」
上部が十字になっている部位、つまり先端部が丸い円になった杖を手に持つ、僧侶などの聖職者が着るような衣服を着た人となれば自ずとその職も予想できよう。
ただ18、9の女性に対してお坊さんはない、それはリーノア以外誰が聞いていても同じ事を突っ込んだだろう。
指摘こそ間違いじゃない物の、彼女もそんな十六夜に対してまたぞろ苦笑いを繰り返さざるを得なかった。
「にょ~? 聖職者ってなぁに?」
「君のいうお坊さんとか、物を教える先生とか。私はまあそのお坊さん……僧侶ね」
「僧侶さん?」
「そう、まだ修行中なのだけれどね。名前はリーノアっていうの」
「お姉さんリーノアっていうんだぁ、いい名前だね。あ、僕はねぇ、十六夜って言うんだよ。よろしくねリーノア」
「うん、よろしくね十六夜」
偽りの欠片もない笑顔。本心から彼女の名をいい名前だといい、また名前を教えてくれたことを喜んでいる。
リーノアも彼に同じだった。彼の名を素直にいい名だと思った。
彼女の巡り来た地域には無い珍しいその名、遠い異国の名だろういい響きを持つ名前であると。
「これで僕とリーノアは友達だね。だって名前を教えて呼び合ったんだもん。だから、お友だち、だよ?」
友達、不意にそう言う十六夜。
名前を呼び合うのは友達だから、僕らはもうお友だち。
とっても簡潔で分かりやすくて、純粋な、十六夜らしさであった。
彼女は自然に応じる。
「ふふ、そうね。友達ね」
無論一も二もなく、友達だと。
たったいま成ったばかりだけれど、私たちは友達なのだと。
そうして友達になった彼女に、十六夜は訊ねていた。
「あのね、僕迷子なんだけど、リーノアも迷子なの?」
「うーん、十六夜はどうしてそう思うの?」
「だってリーノアひとりぼっちだし、森の中をあっちへ行って、こっちへ行ってってしてるんでしょ~? それって僕もおんなじなんだもん」
森の中を一人で歩いていたので、十六夜は自分と同じで彼女も迷子なのかと考えたわけだ。
だが彼女は大人。ならば一人旅をしている等、その他の可能性も有るというのにも関わらず、一人=迷子の単純な図式を思い描くのは、良くも悪くも脳天気で純粋な十六夜らしい結論だった。
しかし、その脳天気さと同じくらいに異様なほど鋭いところがあるのもまた十六夜の特徴である。
無論出逢ったばかりのリーノアには知る由もない物の、彼はリーノアの現状について見事に言い当てていたのだ。
「当たり。とっても残念なことに十六夜の言うとおりなの、連れとはぐれてしまって」
「連れ、お友だちと……リーノア可哀想……」
また泣きそうになる十六夜。彼女を思い、彼女の身になって涙してくれようとしているのだ。
でも、と。涙を溜め始めた少年を諭すように、リーノアは別の方向で考えてみた。
「十六夜とは一緒だよ」
すると泣いた子は直ぐに向日葵となる。
「僕と一緒……、う~ん……、うん、そうだねー。リーノアと一緒~」
「迷子仲間っていう意味でも、お友だちっていう意味でもね。ふふ」
ころころと表情の変わる変わった子。そして、相手を思い共に泣く、とても優しい子。
それがこの短い付き合いの中でリーノアが抱いた十六夜の印象だった。
一人で心細い思いをしていたところに明るい少年と触れ合ったことで次第にリーノアは心が落ち着いてきた。そんな彼女に十六夜もにっこり微笑んだ。
そうして彼女が抱き上げていた十六夜を地面に降ろすと、降ろされた彼は彼女の現状を知り思うままを口にしだす。
「それじゃあね~、僕も一緒にお友だちを捜してあげるね~」
「え、でも」
自分も迷子だというのに。
普通は(可哀想)(大変だ)と思いはしても、自分自身が楽観的ではない状況に置かれて居る場合は、自分を優先させるのが人間という物だ。
振り返って見れば十六夜は迷子であり、決して楽観的な状況ではないだろう。
しかし、優しさの塊で出来ているような彼は、生憎と困っている人を放って置く事など出来ない性格だった。
誰かが傷付いていれば文字通りにその痛みを自身も感じて共に泣き。
誰かが笑っていれば、その喜びを我が事のように心から喜び分かち合える。
とてつもないほどの感受性の高さと、相手を思い遣り、相手の感じる物を共有してしまえるという不思議な能力を持っている。
いやそれは、能力ではないのかも知れない。しかしながら、その不思議な何かは特殊なもの、彼だけが持つなにかとしか考えられない程に他者からの目には映ってしまう。
そんな十六夜は、常に自分よりも他人を、それが人間でも魔物でも関係なく、相手を優先するのだ。
誰彼構わず、善も悪もない。澄み切った純粋なる曇り無き真っ白な心。
どんな色に染まっても、どんな色と交わっても、必ず透明に戻り、透明であり続ける不思議な少年。
「だって僕とリーノアはお友だちだもん」
一緒に探すと申し出られたリーノアも、そんな総てを引き寄せ、総てに共感することの出来る無垢な少年の申し出を断ることなど出来なかった。
「そうだったわね、うん……私と十六夜はお友だちだものね。……それじゃ、私の仲間を一緒に捜してくれる?」
「わーい、一緒に捜索~♪」
十六夜自身もまた迷子である事はわかっていたので、何れにしても彼女に彼を放って置くことなど出来よう筈もない。
彼女自身一人で彷徨い続け、正直心細く寂しかった。
彼という存在と出逢えたことは、間違いなく幸運なことであり、彼女の心の助けとなったのだ。
「僕、ひとりぼっちで寂しかったんだ~」
それは心優しいこの少年にとっても、同じ事だった。
◇
結果的に言えば、リーノアは十六夜と共に探したことで連れのルブルと再会する事が出来た。
森の中ではなく、森を抜けた直ぐ傍で。
あれだけ森の中を彷徨い続けていた二人がどうしてこうも簡単に森を抜ける事が出来たかと言うと、ルブルを探している最中に十六夜が助けた傷だらけの動物──魔物のおかげだったのだ。
森の中を捜索中、ケガをした魔物が横たわっているのを二人は見つけた。
その魔物に十六夜が駆け寄り手当をした事が、森を抜け、ルブルと無事再会できる事となる切っ掛けだった。
そのとき、リーノアは『危ないから近寄ってはダメ』と彼を注意していた。
魔物とは、どのような小さき存在であっても決して人に慣れることはない。慣れるどころか襲い来る。それがこの世界に生きる人間の共通した認識である故に。
しかし素直で純粋で、そして優しい十六夜には、他の人達が見るような“魔物は危険な存在”などという考えは元々無かった。
同じ世界に生きる仲間である、傷ついているならば助けなければ。魔物が“痛そう、かわいそう”と思い行動する、人の世の常識に縛られない少年であったのだ。
怪我をしたちいさな魔物を見つけたとき、リーノアの制止を聞かずに自然に助けるという行動を彼は採った。
彼にしてみれば、いつもと同じ事をしているだけに過ぎないだろう。実際、今までずっとそうしてきたのだ。そこに躊躇する余地も、ためらう必要も有りはしない。
しかし、リーノアに取ってはそうではなかった。
彼女はそう、世の普通の考えを持つ人達と同じ側に立つ人間だった。
十六夜が採った咄嗟の行動に、一瞬付いていけなくなりそうだったのも詮無き事なのだ。
そんな普通の人、普通の考えの持ち主であるリーノアに、ハラハラしながら心配そうに見守るリーノアに、十六夜は言った。
“みんなと仲良くしたい”
“人間と魔物だって仲良くなれるし、きっと助け合う事が出来るはずだ”と。
それはとても甘い考えだった。
それはただの理想だった。
そんな事は不可能だった。
魔物は凶暴で人間を襲う、というのが、この世界の常識だ。
毎日のように、世界の何処かで魔物に襲われ、傷ついている人が居る。
場合によっては命を落とすことさえ有り、その数も決して少なくはない。
十六夜の考え方は世界中何処に行っても通用するものではなく、酷い言い方をする人なら「頭がおかしい」とでも言うような考え方であり、異端中の異端であった。
場所や国によっては迫害されてもおかしくないだろう。
自分達人間を襲い、傷つけ、殺すような存在と仲良くしようというのだから……。
リーノアの頭の中で次々と否定の言葉が浮かんでは消える。
彼女自身、この旅で何度も魔物に襲われそうになったのだ。
自分の実体験を通しての事であるので彼女が十六夜の考え方を否定するのは至極当然の事。
しかし、目の前で必死に魔物の手当をしている少年を見ていると、本来ならば正しいはずの自分の考えの方こそが間違っているような──そんな気にさせられるのだ。
皆が皆「リーノアが正しい」そう言うだろうにもかかわらず。
魔物の手当を終えた十六夜は、その小さな魔物を抱きかかえ、警戒しているリーノアに見せた。
「ほら、危なくないでしょ」
ニコニコと、笑顔でそう言う十六夜の腕の中で、魔物は大人しそうにしている。
確かに襲い掛かってくるような様子はなく、自分を助けてくれた十六夜に懐いているようにもさえ見えた。
「リーノアも撫でてあげて」
そう言う十六夜に、若干警戒心を緩めたリーノアも、おずおずと手を伸ばして撫でてみる。
『きゅうう』
彼女が撫でてあげると、魔物は気持ち良さそうに喉を鳴らせながら、猫のように頭を擦り付けてきた。
(私……魔物を触っているんだ)
凶暴で危険な魔物の筈なのに……それなのに何故か怖くない。
今まで、一度たりとてそんなことは考えた事もなかったというのに。
リーノアは唯々不思議で仕方がなかった。
こんな状況をいとも簡単に作り出し、本来ならば不可能とさえ思える魔物と心通わせてしまう十六夜が。
その後、十六夜がその魔物を地面に下ろし、離してあげると、魔物は二人の少し前まで歩いて振り返りまるで「ついてこい」と言わんばかりの行動を取り始めた。
「ついてきてって言ってるよ」
「で、でもっ」
多少警戒心を緩めた物の、魔物の恐ろしさを知っているリーノアは逡巡していたが。
「リーノア、行こうよ」
「う、うん……」
大丈夫だとでも言うように、自分の手を握ってきた十六夜に促され、彼に手を引かれるまま、彼女も共に二人で、魔物の後へついていった。
こうして二人は、仄暗く深い森の中より抜ける事が出来たのだ。
そしてリーノアは気づく、これは助けられた事に対する魔物からのお礼なのだと。
二人が後ろを振り返ると、魔物はまるで“気をつけて”とでも言うように一声鳴き声を上げ、そのまま森の中へと引き返していった。
「魔物さんありがとーっ!」
手を振る十六夜と、森に引き返していった魔物を交互に見ながら、(不思議な事も有るんだな)とリーノアは思った。
たとえ一時の僅かな時間の間だったとは言え、自分たち人間と、人間に取って凶暴で怖ろしい存在でしかない魔物が心通わせ助け合ったのだ。
何よりも不思議なのはそれを当たり前と考えて受け入れる十六夜という少年であった。
◇
ルブルと無事合流出来たリーノアは、彼女と話しをした後「私達と一緒に行こう」と十六夜を誘った。
十六夜の話を聴くに、迷子は迷子でもあの森で迷子なのではなく、自分の住んでいた家も町も地方も分からないという、とんでもなくスケールの大きい迷子であったという事がわかってきたのだ。
という事は、このまま十六夜と別れると、彼は家に帰れる目処も立たないまま彷徨い続け、やがては野垂れ死にしてしまうかも知れない、という不吉な結論に辿り着いてしまう。
その為リーノアは、もし彼が一人で行くと言い出しても無理にでも連れて行く気でいた。
尤も、リーノアと友達になった十六夜が彼女の申し出を断る事など無く。
「うんっ、僕もリーノアとルブルと一緒に行くー」
そうリーノアに抱き着いて嬉しそうにしていたが。
彼の意思を確認できて一安心した彼女は内心ホッとしながら満面の笑みを浮かべていた。
「これからよろしくね十六夜」
「よろしくねーリーノア」
自分に抱き着いたまま同じように満面の笑みで返事をする十六夜。
異端その物の少年を、リーノアはあらためてじっと見つめる。
彼はずっと変わらない笑顔を向けていた、あの森で彷徨い歩いていたときに勇気付けられた向日葵のような笑顔を。
抱き着いて甘えるような仕草をしたり、今度はルブルに飛び付いていたり、そうと思えばまたこちらへと飛び付いて、ぐるぐるぐるぐるはしゃいでいる。
十六夜は言い続けていた『魔物は友達』だと。
きっと、友達になれるはずなのだと。
それを間違っていると否定するリーノアを余所に、彼は己の主張を曲げずにこうして自分を助けてくれた。
だが、十六夜の言葉に、彼の考えに通じる思想の持ち主が、かつてこの世界には居たのだ。
それは当の十六夜は知らずとも、リーノア……いや、世界の誰もが知っている人物であった。
この世界の魔物達の王とされる邪神竜ディアボロスを倒したとされ、世界を救った勇者ザード。
ザードほどには知られて居らず、また多くの真実は伝わって居らずとも、ウリックと名を変え、兄と同じ旅路に出た勇者ザードの妹、イリア。
世界を救った英雄たちと十六夜は、とても似た思想を持っていた。
“魔物は友達”
その異端な思想を、誰に教わるでもなく、誰かの影響を受けるでもなく、彼等は自然に己の物とし、己の生き方として信じていたのだ。
無論、十六夜と、彼の勇者たちに接点はない。
これから先も、きっと道を交差させることはないだろう。
リーノアも含め、世界中の人々でザードの考えを真に知る物など殆どいないのだろう。
知っているのはごく一部、彼と最も親しき間柄にあった者達のみ。
それでも、その考えに辿り着く者達は、確かに存在していた。
そして、その十六夜の思いが、リーノアを救うことになったのだ。
リーノアは自分でも気づかない内に十六夜に惹かれ始めていた。
このポカポカと温かい気持ちにさせられる、明るく脳天気でぽよぽよとした。
そして誰よりも不思議で心優しい少年に。
一見微笑ましい光景であったが、敏い者が見ればリーノアの頬に赤みが射している事に気付いただろう。
自分に抱き着く十六夜に極めて普通に接しているつもりだったリーノアだったが、彼女の胸は熱くなってきており、ドキドキと高鳴る鼓動のリズムは明らかに平常時よりも早くなっていたのだ。
(あれ……? どうしたのかしら私)
この時、無邪気に笑う十六夜を見ていた彼女の心には小さな灯火が付いていた。
まだ本人も気づかない程の小さな種火は彼と接し続ける内に、少しずつだが確実に大きくなっていったことに、彼女はまだ気付く術を持ち合わせてはいなかった。
出会いは一期一会。
そしてまた、ある感情の灯火その物もまた一期一会。
大きな形となるのか?
消えゆく小さな灯のままで終わるのか?
きっと、その解を知る者はこの世に存在しないのだろう。
ただあるのは。小さな少年と僧侶が出逢った。
そのたったひとつの事実のみであった……。
それから十六夜、リーノア、ルブルの三人は世界を回り旅をした。
リーノアとルブルは僧侶の修行、十六夜は故郷を探すために。
様々な国、様々な町、様々な地域を旅する内に、三人は最近魔物が凶暴化してきている事を知る。
十六夜達も凶暴化した魔物に襲われたりもした。
そしてその原因は復活した邪神竜ディアボロスにあると公然と囁かれ始めていた。
邪神竜ディアボロス──全ての魔物を束ねる悪の権化。
オッツ・キイム4982年に勇者ザードに倒されたと伝えられるが、4年前……4992年に突如復活したと言われ、その頃から比較的大人しくなっていた魔物達が再び凶暴化し、以前にも増して人間を襲うようになったらしい。
これを知った十六夜は『ディアボロスに会いに行く』と言い出したのだ。
魔物達が凶暴化した原因と言われているディアボロスに会って、魔物と人間「みんな仲良くしよう」と説得するのだという。
当然リーノアもルブルも反対した。
旅の途中、十六夜が襲われ怪我をしながらも魔物と仲良くなるのを幾度となく見ていた二人は、魔物と人間が仲良くするのは決して不可能な事では無いと考え始めてはいた。
特に十六夜が助けた魔物によって自らも助けられた経験を持つリーノアは、(十六夜なら出来るかも知れない)との思いがより強い。
しかし邪神竜ディアボロスを説得しに行くとなると話しは別だ。
伝えられる話を聴けば聴くほどに怖ろしい存在であり、とても話しが通じるとは思えない。
それ以前に辿り着けるかも分からない。
何せ何処に居るのかも分からない上、勇者ザード以外に姿を見た者さえ居ないのだ。
もし、仮にもし辿り着けたとしても、生きて帰れる保証など何処にも無い。
再三思い止まるよう説得するリーノア達。
『もしもの時、十六夜が怪我をしたときに、十六夜の身になにかあったときに、残された家族がどれだけ悲しむのか……私たちが、私がどれだけ悲しむのか考えた事あるのっ……!!』
故郷に残されたお姉さんが居る。もしも何かがあればお姉さんは泣いてしまう。ずっと悲しませる事になってしまう。ルブルも私も、悲しむ。
十六夜に何かがあれば私の胸は張り裂け、心は壊れてしまうだろう。リーノアはそう思いの丈を解き放つ。
ずっと旅をしてきた大切な仲間達と家族が感じさせてしまう事になるかもしれない“痛み”。
誰よりも純粋で、誰よりも感受性の強い少年は、これを感じ取った。
この“痛みを”この“激痛”を。そうして悩んで悩んで、難しい事を考えるのが苦手な十六夜が悩み抜いた末に出した答えが。
“このまま、故郷を探す旅をリーノアたちと続ける”
その自ら選んだ選択を、少しの間ずっと思い悩んでいた十六夜だったが、涙を流しながら己を引き留めるリーノアの説得を受け入れたことを彼は後悔しなかった。
彼の硬い鉄の意志を砕いたその涙を、そして十六夜は考え始める。
どうしてリーノアはあんなにまで自分を止めたのだろう。
ともすれば、十六夜を止めるために自らの胸をナイフで突く、そのくらいの事をしかねなかったとルブルからは伝えられていた。
「うにゅう……リーノア……。僕が、いなくなっちゃったら、リーノア……死んじゃうの?」
考えれば考える程苦しくなる。
そしてその事を境に、十六夜はよくリーノアの事を考えるようになった。
行く街。
訪れる国。
歩き続ける街道。
見るもの、来る場所、出会う人々。
続く、ずっと続いて行く旅の中。
十六夜の頭の片隅を独占していたリーノアの涙。
ディアボロスに会いに行く。
会いに行けば殺されてしまうかも知れないという旅に赴くという自分を必死に止めながら。
『行かないで十六夜──っ、お願いだから私と一緒に居て──っ』
あの時流れた涙を、抱き締められていた十六夜は頬に、目に、口に、服に。あらゆる場所に、受け止めていた。
リーノアの涙と、彼女の心の“激痛”。痛いくらいに感じてからずっと十六夜は彼女の心に触れ続けていた。
その色も、苦しみも、温かさも、痛みも、楽しいも、辛いも、幸せも。
いま、十六夜はリーノアという女性の持つ心の総てを感じ、触れていたのだ。
朝も、昼も、夜も。
まるで自分の事のように。
そうして、旅をし、彼女との時間を過ごす中で少しずつ理解していった。
「リーノアのこと考えてるとね、なんだか……あったかい。ポカポカするね……嬉しいね」
眠るとき。
十六夜はいつもリーノアの隣で眠る。
いつの時だったろう、ルブルが言い出した。
『十六夜はリーノアと寝て』
今まではベッド三つの部屋だった。
しかしベッド三つの部屋よりも、二つの部屋の方が当然料金も安い。
十六夜は13歳の男の子ながら幼い精神の持ち主であり、良く言われるような良からぬ事態になったりすることもない純粋なお子様。
だからリーノアと寝てと、なんだか強引に決められたのだが別に十六夜には不満など無かった。
一方でリーノアはというと、真っ赤になって大慌て。
散々ルブルに抗議していた物の、その様子に『うにゅ、僕のこと嫌いなの』という十六夜の一撃に了承していたという経緯があった。
そうしてより近く接するようになった事で彼女の心に触れる機会も増えたのだ。
彼女が十六夜の心へと触れる機会も。交わす言葉も。
十六夜は、宿の窓辺から星を見ていた。
「僕はお姉さんが好き」
星空を眺めながら呟いた。
大好きなお姉さんのことを。
「僕はルブルが好き」
流れる星を見ながら呟いた。
大好きな旅の仲間のことを。
僕は──
そして、一番輝いている星を瞳に写して呟いたのは。
“──―リーノアが好きなんだね”
一番一緒に時間を過ごしてきた大好きな──女の子のことだった。
**
とある町の外れを歩く十六夜とリーノア。
あれから数ヶ月。
結局、十六夜は故郷を探すよりも先にディアボロスに会いに行く事にしたのだ。
勿論、十六夜を一人で行かせられないリーノアも彼の旅に同行する事にし、自らの僧侶の修行を一時中断。
ルブルもそんな二人が心配で旅に付いて来て居たが、彼女の場合は自身の修行を続けなければならない為、この町で二人と別れる事になっていた。
今日はそのルブルとのお別れ会。
二人はお別れ会の為の必要な買い物を済ませた後、宿に向かってのんびりと歩いていた。
町外れまで来ていたので辺りに人影は少なく、それ程人口の多い町ではない事も相俟って辺りはとても静かだ。
だからなのだろうか? 何か秘密の事をする場所に適しているのは。
その声が聞こえてしまうのは。
二人が歩いている道のすぐ横に有る茂みの中から、声が聞こえてきたのは……
“ん、はっ、あん”
二人の耳に聞こえてきたのは女の人の小さな喘ぎ声。
「にょ~? 何してるのかなぁー」
「こ、これって……」
好奇心を刺激された十六夜は茂みの中を覗き込む。
こういう人気のない静かな場所で有る以上、その声から何をしているのか予想は付いていたし、“十六夜が見る物じゃない”と思いつつ、年頃の女性であるリーノアも気にはなるので、思わず彼と同じように覗いてしまう。
するとそこには……予想通り、男と女が裸で絡み合う姿が有った。
男が一心不乱に腰を突き込み、女は気持ち良さそうに喘ぐ。
深々と咥え込まれた男の肉棒。咥え込んでいる女の割れ目。
男と女が行う性の営み。
二人ともバッチリそれを見てしまう。
「ダ、ダメ十六夜っ! 見ちゃダメっ!」
何をしているのかハッキリと分かり、リーノアは慌てて十六夜の目を手で塞いで見えないようにして
彼を引っ張り、茂みから離れた。
向こうには此方の声は聞こえていなかったようで、男と女は何事もなく性交を続けているようだ。
「ねえリーノア、あれってえっちでしょー? 僕知ってるよ」
「え、ええっ!?」
十六夜の知ってる発言に驚くリーノアだったが無理もない。
いつもぽよぽよと脳天気で歳の割には幼い雰囲気の彼が、まさか男女の秘め事を知っているとは思ってもみなかったからだ。
そもそも彼女自身あの行為を見るのは初めての事。
しかし当の十六夜はそういう行為を見たことがあった。
自分の父と母がしていたのと同じ行為だからだ。
勿論、当時初めて目にして気になった彼は、父にそれがどういう行為かを訊いた事もあった。
「えっちって良い事なんでしょ? お父さんが言ってたよ?」
「え、えーと、それは……」
そんな十六夜にどう答えていいのか分からないリーノアは、このまま此所に留まる訳にもいかないので、とりあえずその場を離れようと彼の手を掴んだまま足早に歩き出した。
**
「上手くいってるかなあの二人……」
その頃、宿で留守番をしていたルブルは二人の事を考えていた。
彼女は何かにつけて十六夜とリーノアが二人きりになるように仕向けている。
今日、二人に買い出しに行って貰ったのもそうだ。
それは親友であるリーノアの幸せを考えての事。
彼女はリーノアが十六夜に好意を抱いている事を以前から知っていた。
本人から直接告げられた訳ではなかったが、十六夜への接し方や彼を見つめる瞳など、見ていれば自然に分かるものだ。
あれは正しく‟女”の目。女性の目。友達を見る目でも保護者としての目でもない。リーノアは十六夜に恋をしている。
ルブルはその恋の成就を願ってやまない。
一つ問題が有るとすればそれは十六夜だ。
彼はとても純粋で、リーノアにも良く「大好き」と言っているけど、それは人が好き、魔物が好き、生きとし生ける全ての存在が好きという友愛の“好き”であって、男女間の恋愛感情的なものではないだろう。
彼の場合、普段の様子を見ているだけでは分からないのだ。純粋、そうあまりにも無垢で透明過ぎて裏表がないから。
そもそもいつも脳天気で子供っぽい(実際に子供)彼には、まだ恋愛感情は分からない物かも知れず、余計にルブルを焦らせている。
それこそ直接訊くしかないのだが、それを訊くのは自分ではなく、リーノアが訊かなければ意味がない。
彼女が焦る一番の理由は明日には二人と別れる事になるからだ。
当然、これからはリーノアの背中を押してあげたり、何かをする事が出来なくなってしまう。
奥手なリーノアが自分の気持ちを伝えられるか不安なルブルは、明日までには何とか決着を付けさせてあげたいのだ。
(何か切っ掛けでも有れば……)
そんなことを考え、妙案が浮かばないまま徒に時は過ぎていき、とうとう二人が帰ってきてしまった。
「ただいまー♪」
「お帰りなさい」
明るく元気な声でただいまを言った十六夜に返事を返しながら、良い案が想い浮かずに内心落ち込み気味だったルブルがふと彼と一緒に部屋に入ってきたリーノアを見ると、何故か彼女は口を引き結んで黙っていた。
顔はリンゴのように真っ赤で様子がおかしい。
「どうしたのリーノア?」
「えっ!? う、ううんっ、何でも……ないの」
何でもないことは無いだろう、現に焦ったように言い繕っている。
十六夜と二人きりだったからという訳でもない。
それならば二人きりになるたびにそうなるはずである。
ひょっとしたら何か二人の仲が進展したのかも知れないと考えたルブルはもしそうなら自分が居たら邪魔になると思った。
若干、希望的観測が入ってはいた物の打つ手がない以上、良い方に考えて掛けてみるしかなかった。
「十六夜、リーノア、私も買わなければいけない物があるの忘れていたからちょっと出掛けてくる」
「にょ? ルブルもお買い物があったの?」
「ええ」
「そーなんだ。いってらっしゃいルブル」
**
「えっ! 待ってルブルそれなら私が……」
先程男女の情事を見てしまったリーノアは十六夜と二人きりになるのが何となく恥ずかしかった。
その為、出掛けようとするルブルを引き留めて自分が行こうとしたのだが、ルブルは「リーノア……頑張って」
と一言応援の言葉を残して出て行ってしまい、残されたリーノアは再び十六夜と二人きりになってしまったのだ。
いつもなら嬉しいというのに今は気恥ずかしくて仕方がない。
するとベッドに腰掛けて休憩していた十六夜が。
「お兄さんとお姉さん、気持ち良さそうだったねー♪」
と明るく無邪気に言ったのだ。
「そっ、そうね」
さっきもそうだったがリーノアはどう答えていいのか悩んでしまう。
この手の話しは付き合いの長いルブルともしたことがない。
知識としては知っているし、見た事もあるのだがどうも苦手なのだ。
ましてや自分が好意を抱いている十六夜とこんな話しはとても出来そうにない。
「ねえリーノア。えっちって良い事なんでしょ?」
そんな彼女の思いを無視するように、男女の行為についての話しばかりする十六夜。
勿論リーノアは純粋な彼に下心が無い事など分かりきっている。
だからこそ、どう返事をしたら良いのか判断出来ないのだ。
「あ、あのね十六夜、それはね……」
わてわてと焦りながら答えようとするリーノアに、十六夜は続けて言った。
それは彼女が予想もしてなかった衝撃の一言。
「僕もしてみたいなーえっち。 リーノア、僕リーノアとえっちしてみたいっ!」
「なっ?!」
いきなりそんなことを言われたリーノアは混乱してしまう。
十六夜にエッチをしたいなんて言われるとは思ってもみなかったから当たり前だ。
話しの流れから十六夜がそう言うのは分かりそうな物だが、どうしても普段の彼を側で見続けている彼女には、十六夜がこんな話しをするなど想像出来ないのだ。
「あ、あのね十六夜……、その…… エッチはしたいからするっていうものじゃなくて……」
好きな相手と性行為の話しをするのはとても恥ずかしくて、彼女は上手く話せないでいた。
もちろん恥ずかしいとは言ってもリーノアは十六夜に求められて嬉しいと思っているし、もしも恋人になれたらそういう事もするんだろうなと考えた事もあった。
森の中で迷っていた時に出会った少年、十六夜。
旅の途中、何度も遭遇した魔物……その全てに話し掛け、理解し、心を通わせた不思議な少年。
そんな誰とでも、魔物とでさえも仲良くしようとする心優しい彼に惹かれ、好きになってしまったのだから。
それ故に大好きな彼に求められるのは嬉しい……。
でも、だからこそ興味本位でしようとするのには応えられない。
彼女はそれを伝えようとした。だが……
「知ってるよ。好きな女の子とだけしかしちゃいけないんでしょ? 僕はリーノアのこと好きだよー」
「っ!?? えっ? あ……、え?」
“リーノアが好き”その言葉は彼女が一番欲しい言葉だ。
その欲しかった言葉が今十六夜の口より発せられたのだ。彼女の混乱はピークを迎え、言葉詰まって出てこない。
しかし一方でその“好き”という言葉を軽い感じで言う十六夜に思わず考えてしまう。
その好きは“友達”の好きではないのかと。
良くも悪くも純粋で無邪気、そして子供っぽい彼は普段からこうなのだから。
それではダメだ。男としての十六夜が、女としての自分を好きでなければ性交に応じる事は出来ない。
正直を言えばこのまま彼に身を委ねてしまいたいと思わないでもない。
“好きな人に抱かれたい”
女なら誰しも思う事だ。何より自身がそれを望んでいる。
でもやはり二の足を踏んでしまう。
僧侶を目指すリーノアに取って男女の交わりはそれだけ慎重になる物なのだ。
目まぐるしく変わり続ける彼女の心は不安をかき立てられ、正常な判断も、答えも出せないままで居た。
だが、そうした彼女の不安になってしまう心を救ったのは、やはり想い人から掛けられた言葉だった。
**
「うん、リーノアってとってもいい匂いがするし、暖かいし、リーノアのこと考えてるとドキドキポカポカするし大好きだよー」
いつもと同じで無邪気に言う十六夜。
とても愛の告白や想いを伝えるようには見えないその言葉。
しかし、リーノアには分かった。
十六夜が本当に自分を想ってくれている事が。
何故なら彼の言った事と同じだから……十六夜の事を考えるといつもドキドキと胸がときめく。心が暖かくなって嬉しくなる。
そう、全く同じなのだ。十六夜がリーノアの事を考えているときと、
リーノアが十六夜の事を考えているときに感じる物が。
そんな自分が感じるのと同じ想いをストレートにぶつけてくれる十六夜に
リーノアの顔は真っ赤に染まり、言いたいことが言えなくなった。
「それでね。えっちは好きな人に好きって伝えることだから、とっても良い事なんだって」
「う、うん」
緊張と戸惑いを隠せないリーノア。
「だからね」
そんな彼女にいつものように明るく無邪気に話し、それでいて真剣そのものの十六夜は靴を脱いでベッドの上に乗り
ベッドに腰掛けたままのリーノアの腰と背中に手を回して抱き付く。
彼女の身体が “びくっ” と震えた。緊張が最高潮に達している。
「僕、大好きなリーノアとえっちがしたいんだー」
「い、いざ……よい……あっ……。んうっ?!」
そこまで言うと、十六夜はリーノアの唇を自分の唇で塞いだ。
もう言葉はいらない。それに言葉だけでは上手く言えない。
リーノアのように恋に臆病でもなければ、恥ずかしいから口に出せない訳でも無い十六夜だったが、彼の場合、言葉の表現が拙く“ぽわぽわ”や“ふわふわ”といったような言葉で表すので伝わりにくい物が有るのだ。
勿論既にリーノアを好きな気持ちは彼女にしっかりと伝わっているので、結局最後の一押しは行為を以てしてするしかなかったのだが。
「んちゅ んむぅ んんっ 」
温かく湿ったリーノアの唇の味は甘酸っぱく、十六夜は昔聴いた“キスは甘酸っぱい”というのは本当だったんだと思った。
唇を啄むような口づけをした後、リーノアの口の中に舌を入れ、彼女の舌に自分の舌を絡ませる。
突然キスをされたリーノアは戸惑いと嬉しさで心の中がゴチャゴチャになり、何も考えられなくなっていた。リーノアの頬が真っ赤に染まり瞳が涙でにじむ。
二人は共にこれが生まれて初めてのキスである。
ファーストキスの意味、大切さは思考が幼い十六夜には理解出来て居らず、“キスとエッチは好きな女の子とする物”というのが分かっているだけだ。
しかしリーノアに取っては非常に大切で、“嬉しい”という感情のメーターを振り切るには十分過ぎる物。
その為、嬉しさの余り涙まで溢れていた。
「んくっ んふぅ あむっ」
積極的に口づけ続ける十六夜はリーノアに好きという気持ちを目一杯伝える為に、中々キスを止めようとしない。
思考が極めてお子様な十六夜がここまでするのは、“リーノアが好き”というただ一点のみからくる行動で、下心など全くなかったりする。
そもそもエッチな事を考える事がないほど頭の中がお子様でお花畑なのだ。
だからリーノアとのエッチに拘っているのも、それが愛情表現であるからしたいのであって、情欲や性欲からくるものではなかったりする。
それにエッチをする事で大好きなリーノアを気持ち良くさせてあげたいのだ。
以前両親がしていたのを見たときの記憶は随分と薄れていたが、今日見た男の人と女の人はとても気持ち良さそうにしていた。
(あのお姉さんみたいに、リーノアが気持ち良くなるように僕 頑張る)
「ん、ふぅ、んん……」
十六夜はキスをしながらそんな事を考えていた。
**
漸くリーノアとの長いキスを終えた十六夜はゆっくり唇を離した。
唇の間には銀色の糸が長く伸びて、混じり合った唾液の粘性を示している。
こんなになるまでキスをされていたのかとカーッとなるリーノアに、無邪気な十六夜の言葉が響いた。
「えへへ、リーノアの唇とっても美味しいんだねぇ」
(わ、私、い、十六夜と……。き、キス……したんだ……)
「レモンの味がしたよ♪」
唇が美味しいと言う十六夜だったがリーノアの耳には入っていない、ずっと好きだった十六夜にキスされた彼女は、ポーッとなって頬を赤らめたまま何も答えない。
十六夜は十六夜で美味しいリーノアの唇を味わえて満足げに笑っている。
「リーノア!」
「ひゃいッ!」
「僕とえっち……してくれるでしょ?」
小首を傾げ、つぶらな瞳で見つめてくる十六夜にリーノアは断る事など出来そうになかった。
お互いに想い合っている事が分かり、気持ちを確かめ合ったとは言え、こういう事はまだ早いと彼女は思う。
十六夜については実年齢的にも、精神年齢的にも早すぎる。
しかし、早いと思いつつも彼女には了承する以外の選択肢は残されていないのだ。
何せ十六夜はリーノアを想うが故にエッチがしたいと言っているのだから。
「ん……うん」
「それじゃ服を脱がすよー」
リーノアの返事を聴いた十六夜はそのまま彼女の服に手をかけ脱がし始めた。
パサッ パサッ……
次々と衣服を剥ぎ取られていくリーノア。了承した以上は抱かれる、若しくは抱き合う覚悟は出来ている。
最後の一枚を脱がされ、服の上からでは分からなかった大きくて豊かな二つの実りが外気に曝された。
緊張のせいか身体が熱くなっているので、服を脱がされても以外と寒くはない。
リーノアが身体を動かせば“ぷるん”と音を立てて揺れそうな大きな胸を見た十六夜は早速その膨らみを触ってみた。
「んっ」
“ぺたり”と十六夜の手の平がリーノアの乳房に触れた。
彼の温かい手が自分の肌と触れ合い、更に身体が熱くなってくる。
胸を触られるのが初めてだからなのか、彼女は敏感に反応してしまう物の、不思議と恥ずかしいという感じを抱く事はなく、逆に心地良く、そして嬉しくなってきた。
「わぁー。リーノアのおっぱい大きいね~」
「そ、そうかしら」
十六夜は相も変わらず無邪気に言うと、リーノアの乳房に触れている手を“ギュッ ギュッ”と握り、彼女の乳房を揉みし抱いた。
彼は粘土遊びをするかのように乳房を捏ねくり回し、勃起した乳首を摘んでコリコリと愛撫してみたりと自分の思うように彼女の胸を揉んでいく。
どうすればリーノアが気持ち良くなるのか?
それを彼女の反応を見ながら手探りで実践しているのだ。
「あうぅっ! ひぁぁっ!」
当然そんな揉み方をされてリーノアが何も感じない筈は無く、与えられる快感に嬌声を上げていた。
十六夜はその気持ち良さげな声に一様の満足を覚えながらも、まだまだ足りないと思い、再び買い物帰りに見た光景を思い出してリーノアの股間に目を向けた。
散々胸を揉みし抱かれ、感じさせられていた彼女の股間からは愛液が染み出していて、それを見た十六夜は(リーノア、お漏らししてるのかなぁ~?)と見当違いな事を考えたりしていたが、如何に思考がお子様でも彼の身体はキチンと反応を示し、男としての機能を発揮させ始めた。
「あれぇ~? 僕のおちんちん、立っちゃったよー?」
股間の性器が勃起したのがそれ程不思議なのか、彼はリーノアの胸を揉んでいた手を止めて硬く勃起した自分の性器と、彼女の股間に有る穴を交互に見ながら、これでエッチの準備が出来たのだと本能的に理解して、大きく勃起した性器をリーノアの女性器に添えてみた。
**
「んっ! い、十六夜っ……」
股間に触れた亀頭の感触に“びくんっ”と身体を震わせたリーノアは、十六夜が自分の膣に挿入しようとしている事を理解し、心の中を不安に支配されながらも逃げたりしないでその瞬間を待った。
受け入れられる覚悟と態勢の整ったリーノアの入り口に数回スリスリと亀頭の先を擦り付けた十六夜は。
男の本能で此処に挿れてあげることで僕とリーノアはもっと好き合えるようになると悟り。
「リーノア、気持ち良くしてあげるね♪」
一言彼女に伝えて腰を前に出しながら。
“つぷっ”
「んんっっ!!」
膣口に添えていた性器を中に潜り込ませる。
“ずず…… ずぷずぷずぷ……”
「んはぁぁぁっ あっ ああぁぁぁっ!!」
男性器を初めて受け入れる事になった膣は侵入を拒否するかの如く、きつく締まって奥へ進むのを邪魔してくる。
「にゅ~っ 入らない~っ」
膣の中に挿れた瞬間から感じた温かく湿った粘膜の感触に心地良さを感じていた十六夜は、急にきつく締まって進みにくくなった事に苛立ちを覚えながらも、めげずにグイグイと腰を押していく。
「アアッ! 痛ッ! アアアぁぁぁッッ!!」
窮屈な膣内を力任せに入ってくる性器に、無理に押し割られる形となったリーノアはベッドのシーツを掴んで歯を食いしばりながら痛みを堪える。
ベッドの上でとぐろを巻いていたリーノアの長い長い髪。頭の後ろ上高くで一つに纏め、流れる髪はそれでも膝下に届くほどの長さがあるため、髪先までの途中を更に二カ所ビーズの髪留めで纏めているその長い髪の束が振り子のように揺れつつ、痛みの度合いを指し示している。普段ならその様子に気付いていただろう十六夜。
だが彼は、リーノアの膣奥へ己の物を入れる事に集中しているために彼女が痛がっている事に気付かない。
しかし気付いたら気付いたで自分が痛いのもリーノアが痛いのも嫌な心優しい十六夜の場合、途中で止まって性行為自体を止めてしまう可能性がある。
その為、リーノアの痛みに彼が気付かなかった事は幸いとも言えた。
十六夜はそのまま膣奥に入れていき、もう進まない所まで入れてしまうと一度動きを止めてリーノアの顔を見る。
キュッと口を引き結んで目を閉じ、何かを堪えている彼女はとても痛そうな感じがして、自分が考えていた“気持ちいい”とは真逆の表情に漸く気付いた十六夜は、悲しくなって目を潤ませた。
気持ち良くしてあげたいのに痛い思いさせてしまったのだから無理もない。
「うにゅう~、痛いのリーノア?」
初めて性交を行う時に女性なら誰しも味わう破瓜の痛みは悲しいかな男の十六夜には分からない。
ましてや性の知識など皆無に等しい彼は初めては痛いという事自体知らないのだ。
しかし、どうして痛いのかが分からずとも自分のした事が痛みに繋がっている事くらいは分かる。
心配して声を掛ける十六夜は既に泣く一歩手前だ。自分のモノはきゅうきゅと締められて温かく気持ちが良いのにリーノアは痛い。そんなの嫌だ。
「だ、大丈夫っ!」
十六夜に心配を掛けさせたくないリーノアは痛みを堪えて微笑み痛くないと伝えた。
女である以上一度は通る道なのでどうすることも出来ないのだから。
「ホントに?」
「うんっ、ホント……っ」
それにこれは彼女に取って本当に嬉しい痛みなのだ。
何せこの痛みは好きな人と一つになれた証でもある。
嬉しく思う事は有っても苦しいなどとは絶対に思わない。
**
「良かった~」
十六夜も彼女の言葉を聴いて安心したようで溜まっていた涙が引いていき、いつものニコニコした笑顔に戻る。
「一緒に気持ち良くなろうねリーノア♪」
「ええ、い、一緒に……」
さっき言った気持ち良くしてあげるではなく、一緒に気持ち良くなろうと微妙に言い方を変える十六夜は、こうしてリーノアと身体を一つにしてみて分かったのだ。
自分も気持ち良くしてもらうという事に。
実際に膣内に挿れている性器から伝わってくる感触は、今まで感じたどの気持ちいいという感触より“気持ちいい”のだ。
それ以前に比べる対象が無いほどの快感で、とても自分だけが気持ち良くしてあげるとは言えず、まさに“自分も一緒に”なのであった。
“ずずず……”
「あァァ……っ」
十六夜が腰を手前にゆっくり引いていくと埋没していた肉の棒が穴から抜き出されていき、根元の方から顔を覗かせた。
挿れる前とは違ってべちょべちょに濡れているそれは、宛ら樹液や蜂蜜が掛かっているかのようにも見える。
「うわぁ、僕のおちんちんべちょべちょ~」
勿論、十六夜には自分の性器に蜂蜜を掛けたりする変な性癖など無いので、自分のモノがこうなるのは初めての事だ。
それが不思議なのかリーノアの膣口から竿の部分だけが覗く自分の性器を物珍しそうに見ている。
「そう……ねっ……っ」
一方のリーノアは膣内の粘膜が十六夜の性器に擦られた事で来る痺れるような快感に、言葉を返すのもやっとという感じで声を震わせながら応えた。
“じゅぶぅぅ……”
「あぅぅぅっ!」
続いて十六夜は腰を前に出し、カリ首が顔を出すギリギリの処まで抜き出ていた性器を、再び膣の中に挿れていき股間をぴったりくっつけた。
リーノアの背が反り返り、一つに束ねられている彼女の長い髪が揺れる。
擦れ合う粘膜はリーノアと同じく十六夜の身体にも電気が走る感触を与えて、彼に性の悦びを教えていた。
**
「気持ちいいね~」
それを言葉にすると更に快感は増すようで、十六夜は“もっともっと”とおねだりするみたいに性器の抜き刺しを繰り返す。
「アアっ! ふぁぁっ あんっ!」
自分の思うように腰を動かす十六夜、身体だけではなく耳から入ってくるリーノアの喘ぎにも心地良さを感じた。それが性交の気持ち良さから来ている物である事が分かっているので尚嬉しい。
十六夜の性器は年齢的な物もあってそれほど大きい物ではない為、初体験のリーノアには丁度良い大きさだったので、始めこそ痛みを感じた物の直ぐに快感のみを感じるようになり、自分の方からも腰を擦り付け十六夜を求めるようになっていた。
「ンッ ンッ アアッ アッ ソコッ 十六夜ッ ソコぉ! そこが気持ちいいよぉっ!!」
「ココが良いの?」
「アアッ! アアアッ! いいっ! そこいいっっ! 十六夜ぃぃっ!!」
リーノアは奥の方で抽挿を繰り返していた十六夜に最も感じた場所を伝える。
指示された場所を擦ると彼女は大きな声で喘ぎ、より深く繋がり、感じたいのか十六夜は小さな身体を強く抱き締められた。
「うにゅ? 何か狭くなってきたよ? ああ、とっても温かくって」
彼女が感じるという一番奥で一突する度に膣が収縮していき、徐々に動き辛くなってくる。
「でも……とっても気持ちいい」
動きにくくなっては来た物の、それとは逆に感じる気持ち良さは正に極上の物となっていた。
腰に力を入れなければ動けないので自然に強く早い突き込みへと変わっていき、粘膜同士の摩擦も激しくなる。
「あうッ! んんッ! イッ、イクッ! いざよ……いッ! イクぅッ!!」
当然ながらそれは二人を絶頂へと誘導する物であり、性器と性器の擦れ合いによってもたらされていた快楽は、遂に弾ける時が来た。
「うう~ッ、僕も、僕も何か出ちゃうッ おしっこが出ちゃうよ~ッ」
限界の訪れた十六夜はリーノアの膣に挿れている性器から何かが出そうになっているのを感じて必死に堪えていた。
彼はそれを小水と勘違いしているのだ。
セックスという行為について“好きな男と女がするもの”と認識し、知っている十六夜ではあったが、
生憎と性交の果てに出る物については知らなかった。
「ち、ちがッ あうッ 十六夜ッ! 違うからッ! それっ はッ おしっこじゃないッ……からッ!」
射精を我慢する十六夜に間違いを指摘して我慢するのを止めさせるリーノア。
女ではあっても、出せないのは苦しいらしいという事くらい知っている。
「じゃ、あっ……いい、の? 出していいのッ!」
「ええッ、出していい……のッ!」
出そうになっている物が小水ではないと教えられた十六夜は、性器を根元まで挿れた瞬間、我慢して力んでいた力を抜いた。
“ドクゥッ”
「ァァッ!」
“ドクン ドクン ビュクビュク……”
「うううううう~~~~っっ」
「アアアァァ~~~ッッ!」
我慢に我慢を重ねた事で溜まりきっていた精液は爆発的な勢いで亀頭から飛び出し、亀頭の先とくっついていた子宮口からリーノアの子宮内へと飛び込み、内部を白く染め上げていく。
思いっきりの膣内射精に背をお思い切り反らせたリーノア。彼女の長い髪の束は大きく揺れ、ベッドでとぐろを巻いていた髪束の部位がつられて少し浮き上がる。
「中に……ッ 私の中に……いっぱい……ッあああ」
「うう~、何か気持ちいいよ~」
ただ精子を出すというだけで気持ちが良いのを不思議に思いながら、出てくる物が無くなるまで出し続ける十六夜も。
子宮に溜まり続けている熱い物を感じ取っているリーノアも。
共に満足感と幸福感、そして愛情を共有しながら、初めての性交を終えた……。
**
想いを伝えて十六夜と抱き合ったリーノアは、暫くの間彼と二人して余韻に浸り幸せな気分を味わっていたのだが、ルブルが出掛けてから結構な時間が過ぎている事に気付き。
依然裸のままで居た十六夜に服を着せ、自らも手早く服を着ると、先程まで十六夜と共に熱い時間を過ごしていたベッドのシーツや布団を急いで元に戻す。
いくらルブルが親友だとはいえ、流石に抱き合っていた痕跡を残して知られたくはない。
そう、知られたくはなかったのだが……帰ってきたルブルに十六夜が、
「ぐちゅぐちゅーで、べちょべちょーで、どくどくーだったんだよ~♪」
と嬉しそうに話してしまったのだ。
勿論その言葉だけでは普通分からない物だが、言われてしまったリーノアが顔を真っ赤にして“わてわて”と大慌てで誤魔化そうとしたせいで、余計なヒントを与えてしまい、結果的にルブルに知られてしまった。
まさか一足飛びでそんな事になっているとは想像してなかったルブルも、行為に及んでいる二人を想像して固まってしまい、大人二人が赤面して、お子様一人が冷静? になるという実におかしな場が出来上がってしまうのだった。
翌日。
「それじゃここでお別れ……だったけれど」
「けれど?」
「私もいくわ」
二股に分かれる街道でルブルは十六夜とリーノアに別れの挨拶をしかけ、やめた。
今日此所で二人と別れる事になっていたルブルは寂しい気持ちでいっぱいではある物の、懸案だった二人が結ばれた事で思い残す事はなかった。
なかったのだが、やはり二人との旅をこれからも。
そんな思いが強くなり、二人と旅をしながら修行を行う方針に舵を切ったのだ。
「ルブル……ありがとう」
ルブルの手を握って彼女の心遣いと友情にお礼を言うリーノア。
ルブルが居なければ、応援してくれなければ、自分と十六夜が結ばれる事はなかったと感謝の気持ちを込めて、お礼の言葉を述べる彼女の目には涙が浮かんでいた。
「うにゅう~……ルブル、これからも一緒だね~」
十六夜も目を潤ませながらルブルに抱き着き、小さな身体全体で嬉しさを表現する。
十六夜とリーノア、ルブルはそれぞれの道を定めながらも共に歩み始めた。
北を目指して歩き始めた三人は間もなく出会う。
たった一人のダークエルフの剣士と、悩み続けて答えを探す陽気な剣士に。
その二人との出会いこそが、十六夜とリーノアの旅の真の始まり。
「リーノア、手繋ごうっ」
「うん」
「ふふ、一線を越えたら本当に仲良くなったわね」
新たな気持ちで歩き始めた二人は手を繋ぎ、一人はそんな二人を応援する。
この先何が有っても離れないようにと……。
短編集内の各お話と投稿予定(未定)の続きやお話で読んでみたい作品はありますか?(ご期待に副える事が出来るかどうか分かりませんが、一ご意見としてお伺いしたいと思います)
-
コードギアス
-
コードギアスR2
-
此花トゥルーリポート
-
FF4×FF6
-
カオシックルーン
-
学園黙示録
-
ルパン三世 ワルサーP38
-
幕末風来伝 斬郎汰
-
ニードレス
-
ヨルムンガンド
-
少女少年
-
北の告発
-
サラダデイズ
-
クレセントノイズ
-
ひとひら(甲斐×理咲の近親相姦物)
-
ESアザーワイズ(戒×瑠璃)
-
遊戯王GX(十代×カミューラ)
-
魔装機神(マサキ×モニカ)
-
椎名君のリーズニングファイル
-
RAVE(ハル×絶望のジェロ)