かなり簡素ですが、寿海和尚と闇呪羅の出逢いの場面です。某所掲示板に投稿していたSSです。
短いですがどうぞ。
初めて知る暖かさ
初めて知る暖かさ
四呪士との戦いを終えて解放された魂たち。その中には四呪士ただ一人の生き残りである闇呪羅の魂も含まれていた。
なぜ彼女の魂までが?
その答え、それは四呪士の頭である死呪羅に彼女が魂を抜き取られていたからに他ならない。
所詮闇呪羅は死呪羅に取り単なる使い捨てのコマでしかなかったのだ。
しかしながら前鬼との戦いの末に敗れた死呪羅が死に、利用されていた闇呪羅は肉体も無事であるお陰で魂が戻り、四呪士でただ一人生き延びるといった皮肉な結果生むとは誰に予想できただろう。
「う、うぅ……」
そんな風に運良く生き延びた彼女だが、無論前鬼との戦いで受けた身体の傷は決して浅いものではなく、式神町のとある寺の近くまで落ち延びてきたところで気を失い倒れてしまった。
◇
「ふぅ」
長い顎髭を持つ袈裟を着た老人がため息をつきながら自宅である寺への帰路に付いていた。
「やれやれ、あのような邪術師共にしてやられるとは、邪術師バスター役寿海の名が泣くわい」
老人、役寿海は不意を付かれたとはいえあっさりと魂を抜き取られ人質にされてしまった己の不甲斐なさに苦虫を噛み潰す。
「わしもまだまだ未熟であるということか」
還暦を過ぎ、豊富な経験を持つ身なれども、邪術師に遅れを取るようでは……。
自らを戒める寿海。この経験をこれからに活かさねばと。
「ん……?」
そんな彼は、ふと前方に人の気配を感じ立ち止まる。
「誰じゃ?」
視線を上げてみる。するとそこには地に倒れ伏す一人の女性の姿があった。膝下まで届く長い髪を持つ色気のある整った容貌の妖艶な美女だ。
ハイレグボンテージの衣服を身にまとうその女は身体中に傷を負い、深紅の口紅が塗られた口許には血の後が付いていた。
「こ、こやつは……!」
見覚えがある。自らが遅れを取った邪術師の一味の女だ。
「生きておったのか……」
寿海は女の側に屈み込むと、その身体を抱き上げて再び立ち上がる。
「なぜこやつがこのような場所に倒れておるのかは分からぬが、如何に人の道を外れた邪術師と言えども傷付いた女人を放っておくわけにも行かぬ」
邪悪であろうとも傷付いた者、とくに女人を捨て置くことなどできるはずもない寿海は、彼女を手当てするべく自らの寺へ運ぶ為に歩みを進めるのであった。
◇
「う……」
閉ざされていた視界。朦朧とする意識を覚醒させた闇呪羅は身体を起こし辺りを見回す。
見知らぬその部屋、彼女の視界には一人の老人が映り込む。
「ここは……?」
誰か? ではなく、どこか? という疑問を投げ掛けていたのは、老人から敵意を感じないが故になのだろう。
「おお、気がついたか」
彼女の問いかけに老人は笑顔を見せて彼女のすぐそばまで歩み寄ると腰を下ろした。
「わたくしは確か……、お頭に魂を抜き取られて……気が付けば身体に戻っていて……、わたくしはどうして布団の上にいますの……? あなたは誰ですの?」
前後の状況からして気を失ったのだろうことはわかったが、なぜ布団に寝かされているのか? 老人は誰なのか?
矢継ぎ早な質問を受けた老人は答える。
「わしは役寿海じゃ。この寺の住職を務めておる」
「役寿海……?」
「お前さんが戦った前鬼殿や小明の身内のものじゃ」
「……っ?!」
その言葉に身構える闇呪羅であったが、感じた傷の痛みに思わず表情を歪める。
そんな彼女の身体に触れて気遣う寿海は彼女を落ち着かせようと話を続けた。
「無理をせんでいい。わしはお前さんをどうこうしようとは考えておらん」
「……」
敵意はないとでも言うように彼女の頭を優しく撫でる。
「寺に帰る途上にて倒れておったお前さんを運んだのじゃよ。怪我をしておったし女人を捨て置くことなどわしにはできんからの」
髪に触れる手の感触に彼女も次第に落ち着きを取り戻してきた。
「お前さん名は?」
「…………闇呪羅。わたくしは闇呪羅ですわ」
◇
その日より始まった奇妙な同居生活。
怪我の具合から思うように身体を動かせない闇呪羅は、ときに寿海に衣服を脱がされて、身体の隅々までをお湯で濡らせたタオルで拭かれたり。
また寿海の手で食事を食べさせられたり。
邪術師であると知りながら罪を憎んで人を憎まずとばかりに献身的な介護をする寿海に、彼女は触れたことのない人の暖かみに触れ、居心地の良さを覚えた。
仲間などではなかった四呪士同士の間柄、それは実の兄である魔呪羅でさえも例外ではない。利用するか利用されるか。使うか使われるか。
それが四呪士の関係だった。
そんな殺伐とした彼女の人生にはなかった愛情や暖かみ。知るつもりも求めてもいなかったそれは、以外と悪くはないと思えるもの。
教え与えてくれる老紳士の存在はより強く思う。
「寿海和尚。わたくしは……」
「よ、よさんか闇呪羅、わしはそういうつもりで招き入れたのではないぞっ」
だからだろう。傷も癒えたある夜のこと、ハイレグボンテージの衣服を脱ぎ捨てた闇呪羅が寿海の寝所に忍び込み、彼と身体を重ねようとしたのは。
身体を重ね合わせて更に大きな暖かみを得たいと考えてしまったのは。
「んっ……和尚……」
「闇呪羅……、わしは……」
重なる唇。湿った粘膜同士の、甘く、酸っぱい、触れ合い。
「ん……、ちゅる……、んっ」
唇を重ね。
「あっ……、あぁ……っ」
肌を重ね。一線を越えることとなったのは、今にして思えば、一つ屋根の下で床を共にする男女の自然な行為だったのかもしれない。
二十代の年若い闇呪羅と、老人である寿海。
年齢の差は大きくとも、一人の男と、そして一人の女である。
それは確かなことなのだから。
そうして怪我が癒え、密やかなる関係が築かれゆく中で、彼女は今まで磨きあげてきた呪術の大半が使えなくなっていることに気づく。
暖かみなどを受けてしまったからか?
邪術師たる自分が、愛を知ってしまったからか?
いやそうではない。原因は到って簡単なこと。
前鬼の祓いの力を受けた反動により邪悪な力の類いを失ってしまったことによるもの。
闇呪羅が寿海和尚に師事し、正道の術を学ぶ切っ掛け、それはそんな数多の事情が重なりあったがゆえの必然であった。
あとがき
注意点として全員が死んだように思われる四呪士のなかで、実は闇呪羅だけは本当に生きていて無事なようです。
過去に黒岩先生とファンの方の間で語られていた、ファンの方からのご質問にて闇呪羅が生きている旨の先生ご自身がされていました。
闇呪羅さんは、この手の悪の敵の女性では珍しく生き残った貴重な方ですよね。
短編集内の各お話と投稿予定(未定)の続きやお話で読んでみたい作品はありますか?(ご期待に副える事が出来るかどうか分かりませんが、一ご意見としてお伺いしたいと思います)
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