闇呪羅と寿海
寝所、畳に敷いた布団の上で仰向けに寝るのは丸めた頭に白い髭が似合う老人、役寿海。
老齢ながらも引き締まった筋肉質の身体は一糸纏わぬ裸体を晒しつつ、ひやりとする空気に触れても萎縮することなく。
ただ静かに。それでいて力強く。腰だけを突き上げ続けている。
彼の腰が突き上げる先は、行き止まり。
しかしそれは同時に寿海の腰の、彼の身体の上に何者かが存在していることを意味する。
その何者かとは……女。
見目麗しい。男ならば誰しもが見惚れる妖しい美しさを誇る女。
膝の下へと届くほどの艶やかな長い髪をその背で揺らせながら、女は寿海の突き上げと息を合わせて自らの腰を落とす。
寿海と同じくして布きれ一枚纏わぬ女は、やはりひやりとした寝所の空気に、熟れに熟れた肢体と、大きく実る豊満な乳房を惜しげもなく晒していた。
女、その名を闇呪羅。
故有って縁を結び、愛なる感情を抱き合った果てに寿海と祝言を挙げた、若く二十の代という女盛りの妻。
その年若く蠱惑的な妻の秘めたる陰へ、寿海の男たる根は突き立てられている。
ふかく深奥に至るまで貫き入り、また貫き入られ。そうして寿海と闇呪羅は体を一つにしていた。
「ふっ……はっ、ああっ……っ、あ……ぁぁ──」
女陰へと突き入る根。胎内へと至る道の間で触れ擦れ合う逞しき寿海の猛りに、闇呪羅は熱く切ない声音を漏らし。
「どうじゃ、闇呪羅。まだ、いけそうか?」
突き上げる寿海は、既に三の刻を過ぎ去ろうかという長丁場となった伽に、妻を案じ言葉をかけた。
「もう休み無きまま三時間は交わっておろう。わしは心底惚れとる主を抱いておると、不思議と体が若返ったかのようにいつまでも性の交わりを保たせる体力が沸いてくるのじゃが」
愛故に、闇呪羅との契りにおいて体力は尽きない。無論それは言葉と想いの上での心情的なものであり、けして無尽蔵の精力があるわけではないのだが。
「ん、あ……ぁあっ、優しい……和尚様……っんは、ああ──!」
瞬間、女陰の内側が引き絞られ、寿海の逞しき猛りを掻き抱く。
「うおっ──あ、闇呪羅っ!」
急なる締め付けは、されど突きを怯ませることなく、猛りの根までをしっかりと闇呪羅の中へ収めた寿海は、その熱く濡れる女陰の中で己が精を弾けさせた。
「ああっ──! 和尚様ぁぁぁぁ~~~~!!」
幾度もの精の迸りが、子を宿さんと、胎へと注がれていく。
ひとたび跳ねるごと、億を数える子種が解き放たれ、幾度目かもわからぬ精の注入をその身に受けた闇呪羅をより一層に火照らせる。
絶頂の叫び。嬉しい悲鳴が木霊する寝所。頬を流れ落ちる玉の汗。 彼女の長い髪は反り返る背中を撫でながら離れ、寿海の膝や脚へ落ちる。
膝の下にまで届かん髪は、その長さが故に騎乗位で膝立つ態勢にありながらも、床に敷かれた布団と寿海の脚に落ち届きつつとぐろを巻くほどの余裕がある。
艶やかさを湛えてはしっとりと濡れ、脚にべったりと触れるその濡れ髪の肌触りの良さが、寿海の更なる射精を誘った。
「あ、あ……あ……、和尚様のこだねが……、わたくしの中を満たしていく……感じ、ますわ……、命の……、芽吹きを……、わたくしと、和尚様の子を……授か……ぁぁ──」
瞳を瞑り、下腹の奥へとくとくと注がれ来る精の種を感じながら、瞳を瞑った闇呪羅。
蕩けるような恍惚の表情が浮かび、薔薇色に染まる頬の下方では艶を讃えた唇が開かれ。
『あっ、あっ』と、喘ぎと悦びの声が熱い吐息に混じり吐き出されていた。
「そうじゃな……。わしと闇呪羅の子を……、ここへ──」
体を跨ぎ座る闇呪羅。下ろされた尻と、肉付きの良い両太腿の内側が、寿海の腰を挟み込み、そして抑えている。
そんな彼女の腹部へ手を伸ばし、汗に濡れたその肌に優しく触れながら寿海は云う。
「ここへ、わしらの子を……、宿さねばならぬな……」
しかし、と彼は続ける。
「本当に休憩を入れんでもよいのか? 主が構わぬと申すなら、わしも未だ抱き足りぬ故に遠慮無く続けてしまうことになるぞ?」
「はぁっ……、はぁっ……、確かに、多少の疲れはございますけれど……、ご心配には……及びません、わ……」
婚姻を結んでより早三月。初めての契りを交わしてより過ぎたる時は暦一つを刻み、共に幾たびもの性の交わりを持った。
それが故にわかる。老齢とは思えぬほどの漲る精の猛りを持つ寿海に、だが闇呪羅もまたその若さ故に食らい付いていけるのだと。
「年若いわたくしが……、和尚様よりも先に果ててしまうわけには……、まいりません……もの」
寿海の姉──今小角と呼ばれるほどの呪術者たる役小鬼の孫にして、寿海と夫婦となったことにより闇呪羅にとり姪孫となった役小明と口喧嘩になった際など度々年増扱いされる彼女だが、実年齢は未だ二十と少し。
祖父と孫ほどの年齢差を持つ寿海より早々先んじて果てるほど、性の営みにおける体力が無いわけではなかった。
ましてや度重なる愛の時間、寿海との夫婦生活で未だ先に果てたことがない彼女が今日この場にて先に音を上げるのは、彼女自身の性格とプライドが許さない。
「抜かしおったな?」
これを受け、寿海は己も休息という提案を取り下げる。
妻が、闇呪羅が望むのだ。
夫としては抱き続けてあげるのが務めというもの。
「老いたりとはいえこの寿海。若いもんにはまだまだ負けぬわい」
「ホホホホ……お歳も考えてくださらないと、腰を痛めてしまわれますわよ旦那様……んん──」
軽く寿海の唇に自らの瑞々しい唇を押し付ける闇呪羅。
「あ、ん……ふう、ンっ……」
こじ開けられる寿海の唇に舌を差し入れ、一つになった体と同調するかの如く絡み合う二人の口内。
「ちゅぱ……、くちゅ」
唾液を塗り込め、隅々まで触れ合いながら、お互いの唾を飲ませる熱の込められた接吻。
それはまさしく愛情の深さが紡ぎ出す、男と女の語らい。
「甘い唇じゃわい。いつまでも飽きぬ。どれほどに交わしても足りぬ」
糸を引き離れる薔薇の唇に称賛を贈った寿海は、愛しい妻へ抱く率直な感想を伝えた。
答える闇呪羅は微笑み返す。その涙を浮かべて潤む瞳に、愛する老人の姿を映しながら。
「今更ですわ。満ち足り“きった”ことなどございまして? わたくしと和尚様の夫婦生活に」
ない。満ち足りた瞬間こそあれ、満ち足りきったことなど一瞬たりと。
「この歳になってこうして熱く交わり接吻を交わせる嫁と過ごせるのは、きっと何物にも代え難き幸せなのじゃろうな」
「それはわたくしも同じですわ……、こんなにも深く、わたくしを愛してくださる殿方に抱かれて……、女として、これほど悦ばしいことはありませんもの……」
全身で伝わる愛。全心で伝え合う愛。
年齢差も、出逢い方も、この世に生を受けたのも。
きっとこの人と巡り会い、結ばれるため。
「使い古された言い回しじゃが、愛しておるぞ闇呪羅よ。たとえこの世での寿命を迎え、輪廻転生を繰り返そうとわしは主だけを愛し続けていく……もう決めておる」
「ホホ……、女冥利に尽きるお言葉ですこと」
火照りと疲労が本来持つ妖艶さを覆い隠し、その妖しい美貌を可愛らしさへと変化させていた闇呪羅は、ゆるりと腰を上げた。
「わたくしも愛しておりますわ和尚様……。輪廻の果てまで、永久に和尚様だけを……そして、変わらぬ愛をこの身に受け、いつの世においても和尚様の子を授かり、──ああっ」
寿海は闇呪羅を永遠に愛する。
闇呪羅は寿海を永遠に愛する。
「運命は自らの手で切り開くものじゃが、わしらが結ばれる運命だけは変えてはならぬし……変えられてもならぬ」
祝言の時に交わした確たる約束は、破ることなど出来ようか。
否、もはや魂に刻まれた想い、魂に刻み込んだ互いの愛が二人の運命を一体のものとしていた。
寿海の体も魂も、存在その物が闇呪羅だけの物。
闇呪羅の体も魂も、存在その物が寿海だけの物。
「ん、あはぁ……、護ってまりましょう……、わたくしと、和尚様の……、二人……で……、っぁ、ぅぅ」
「互いの背を預け、護り合う……理想の夫婦じゃなわしらは」
「んっああ──、ホホ……ですが、先に召され、転生を果たす和尚様は……、いつの世も……お歳を……、んんっ……、そして今は、わたくしが和尚様を見下ろす位置に……、おりますのよ……?」
「ほお」
夫の上に座る自分が主導権を取りたい。そんな意思が見え隠れしている。
「なるほどのう確かにそうじゃ。今は闇呪羅がわしを見下ろしておる」
だが、年齢を持ち出されては黙っては居られないのが老人の性というもの。
夫婦であるから等、関係無い。いや寧ろ夫婦という愛し合う仲にあるからこそ孫ほども歳の離れた若い妻に、ひとこと言ってやろうと思った。
たとえ尻に敷かれることが多い夫婦関係であっても、決めるところは決める。
寿海にも夫としての、男としての矜持があるのだ。
「じゃったらその都度教えてやるわい。わしから主導権を奪おうなどと半世紀以上早いとのっ!」
寿海は力強く突き上げた。
「ああっ──!!」
自らの子種を内包した闇呪羅の胎へ続く道、その行き止まりを突き上げ、そして。
強い衝撃に反り返った肢体と、宙に靡き広がり舞う長い髪を視界に収めながら。
寿海は再びとなる新たな子種を闇呪羅の奥へと注ぎ込んだ。
***
「だから無理するなって言ってるじゃない!」
二つ結びにした長く艶やかな黒髪、十人に聞けば十人全員が美少女だと答えること請け合いな少女、役小明。彼女は、不本意ながら大叔母となった妖艶な女性を叱り付けていた。
「まったく人のいうこと聞かないんだからこのオバサンは」
肌にぴったりと張り付く露出の多い衣装は、それ自体が呪術的な護りの力を内包した霊装。
しかし薄手も薄手、お腹が冷えること確実と云える衣服を着て、魔の物を退治するため闘おうとする女性、闇呪羅を押し止めていたのである。
「今回は前鬼の力さえ必要としない程度の依頼だし、そもそも和尚様や闇呪羅が受けた仕事でもないんだから手出ししないでくれない?」
それでも一人より二人の方がいいと思う、どんなに弱い魔物や妖であれ、確実に安全というものはないだろう。
確かに前鬼の力を借りるまでもないかも知れないが、応援を断る理由なんてないはず。
「いいから年増のオバサンは静かにしてる! わかった?」
そう言いながら、彼女は闇呪羅の手を引いている。
「変な感じですわね。こうして小明ちゃんに手を引かれているなんて」
「それはこっちの台詞よ、だいたいそんな寒そうなかっこで出歩くなんて馬鹿じゃないの?」
「あら? 小娘ちゃんには刺激的すぎたかしら?」
「あたしはそんな恥ずかしいかっこ最初から興味有りませんので、ごめんあそばせ」
かつて邪術師だった闇呪羅。当然小明とは敵同士で、その頃より続く憎まれ口の叩き合いこそがある種の挨拶みたいなものとなっていた。
しかしいま、その小明にこうして手を引かれているのだ。
(相も変わらずの優しい子……)
聞いても解を得ない答えは実に簡単な事なのだが。
闇呪羅は敢えて礼も言わず、また彼女に訊ねたりもしない。
呪術の世界では先達である闇呪羅は、これでそれなりに小明の姿や在り方を見ては、時に彼女を励ますような言葉を投げかけてきた。
反発は多くとも、敵から仲間。そして初めて出来た気兼ねなく接することが可能な友人。
邪術に身を染めていた頃も仲間はいた。しかし所詮気の置けない食うか食われるかの間柄であり、友人とは到底呼べないもの。
実の兄である死んだ魔呪羅でさえも、心の奥底では信用などしていなかった。
だが、この役小明は違った。小明は親しい者の為に自分の身を投げ出すような、邪術界では考えられない清らかな魂の持ち主。
反発し合っていたとしても自然、信頼していく……。そういう相手であった。
なんでこんなオバサンと──寿海と闇呪羅が恋に落ちたとき、そう愚痴を吐露した小明。
しかし本心では大叔父が愛した女性と大叔父の仲を、上手く行けばいいのにと不器用ながら応援してくれていたように。
信頼の置ける少女なのだ。
(これが本当の友達、なのですわね……)
闇呪羅はつい先週体調を崩した。兆候はあった。ずっと以前より。そう、二週間ほど前に寝所にて寿海の熱き愛を受けていた時よりも以前に、闇呪羅の胎内には命が宿っていたのだ。
正式な検査を受けて発覚した妊娠は、寿海と祝言を挙げた前後のもの。ともすれば初夜の日に受けた精が胎内にて受精したかもしれないようで、現在妊娠三ヶ月という話だった。
見た目にはわからずとも、未だ膨らまぬお腹であったとしても。
闇呪羅はいま、確かに寿海の子を身籠もっていた。
無論、妊娠発覚後より寿海が身の回りの世話を甲斐甲斐しくしてくれていたが、それは小明も同様だったのだ。
ふらつけば支えてくれ。重い荷物は代わりに持とうとする。
憎まれ口を叩いていても、小明が闇呪羅の身を案じてくれていることは手に取るようにわかった。
「小明ちゃん」
「なによ」
「…………なんでもありませんわ」
いつか言おう、この礼を。
そう、遠くない日に。
心に秘めた御礼の言葉を飲み込んだ闇呪羅は、小明に連れられ寿海の寺、寿海と自分の家へと入っていった。
短編集内の各お話と投稿予定(未定)の続きやお話で読んでみたい作品はありますか?(ご期待に副える事が出来るかどうか分かりませんが、一ご意見としてお伺いしたいと思います)
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コードギアス
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コードギアスR2
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此花トゥルーリポート
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FF4×FF6
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カオシックルーン
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学園黙示録
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ルパン三世 ワルサーP38
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幕末風来伝 斬郎汰
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ニードレス
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