※この作品はR-18です。

二次創作SS集   作:夜半の月

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北の告発 ストーキングラブ

メディアミックス様のサクラミステリーデラックス2011年4月号
原作:新津きよみ先生作。作画:秋乃ななみ先生作。
北の告発の二次創作で本作オリキャラの男×佐伯和美の恋愛です。

強姦、恋愛、ストーカー。




北の告発
北の告発 ストーキングラブ


 

 

 

 北の告発 ストーキングラブ

 

 

 

 ウェーブの掛かった腰まで届く長い髪。

 

 その長い髪が彼女の背中で揺れている。

 

 彼女の腰に腕を回して彼女を抱いているこの僕の腕に、彼女──佐伯和美の揺れる長い髪が触れて気持ちいい。

 

「あっ、ああっ、くっ、草木っ、さんっ、わたしっ、わ、わたしっっ、ああ、う──」

 

 草木、草木育雄。それが僕の名前。何処にでも居そうで実際に何処にでも居るくたびれた中年だ。

 

 そんな僕を、僕の名前を和美、佐伯和美が。

 

 あの佐伯和美が僕の名前をこんな形で呼ぶ時が来るだなんて。

 

「か、和美さんっ、もっと、もっと僕を感じろっっ、身体の奥まで僕をっっ、僕をっ、感じるんだっっ、ああ和美っ、和美ィっ」

 

 佐伯和美とセックスを、性交を交わしているだなんて。

 

 この僕が、こんな僕が、佐伯和美とのセックスに及んでいるだなんて。

 

 いま現状でも信じられない。佐伯和美の膣中の温もりを、僕自身の男で感じ、彼女の身体の温もり全てを、味わいながらも。

 

「和美、さん……っ、か、和美っっ」

 

「あっ、ああっっ! 草木さっっ!」

 

 佐伯和美、和美さんと僕の間柄は、所謂ストーカーと、その被害者だった。

 

 もちろん僕がストーカーで、彼女が被害者で、その逆は成立しない。

 

 可能性として、彼女の積極的行動派な性格と男性の好みが、もしも、もしも僕に向いていたら、逆もあり得ただろうが、その場合、僕も彼女に惚れているから、ただ普通に交際が始まるだけのこと。

 

 しかし、僕と佐伯和美の実際の関係は、年齢差も考えない僕の、和美さんへの一方的な恋心に対し。

 

 僕を毛嫌いとまでは行かずとも、気持ち悪いと嫌っているといった、ある種、それが自然となるだろう関係性にあった。

 

 それが、どうしてこんな風に名前を呼び合い、情交を、交接を交わしているのか。

 

 僕という見目も悪く中年の男が、佐伯和美という若々しく美しい女性の身体の奥深くまでをペニスで貫き通し、彼女との熱く切なく深いセックスへと至っているのか。

 

 こんなあり得ないはずの今が、あり得てしまっているのかというと。僕が無理矢理にした訳ではけしてない。ああいや、正確には無理矢理にはした。したにはしたけど。

 

 迫ったのは僕だけど、和美さんは半分合意、ん、いや拒否はしていたが、泣き叫んで助けを求めたりする様な、本当の意味での拒絶はされずして、僕を受け入れてくれているのだ。

 

 何故こうなったか? 

 

 どの様にしてこれを可能としてしまったのか。

 

 気は進まずとも僕を受け入れてくれるのか。

 

 これまでに至る事の始まりはそう、いつものように、僕が和美さんをストーキングしていた時だった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 佐伯和美。彼女は牧野直人という去年のW大学学園祭で、ゲストとして呼ばれていた若手推理作家の講演会にある日出席していた。

 

 牧野の講義、牧野の思想、それらに惹かれたのか。それから牧野に熱を上げるようになっていった彼女は、四月に入って牧野と北海道へ取材旅行に出かけたんだ。

 

 正直この時、『僕がこんなにも愛しているのに和美さん何故?!』そんなどす黒い激情が湧いてきたのを覚えている。

 

 ストーカー特有のというのか、自分も周りも、それこそ愛している相手のことでさえ、その時の僕には、見境が付かなくなっていたのだ。

 

 当然、和美さんの北海道旅行について、僕はそれを事前に調べ上げて知っていた。だから僕も自らの車に乗り、二人の行く先々を隠れ着けて回ってたんだけど。

 

 特に何かをするつもりはなかったんだ。和美さんが牧野と男と女のそういう行為に及んでしまったのなら、その時は流石に僕も自分がどうするのか分からないところだったんだけれども。

 

 特にそういった様子もなく静かに、或いは順調に、彼ら彼女らと、僕の旅程は、過ぎていった。

 

 そして事は四月七日、油断なく二人を追跡していた時に起きた。

 

 四月七日の日に、北海道定山渓山中まで二人は、いや牧野は車を走らせると。

 

 鬱蒼とした山中のほど近くに小屋がある場所まで来たところで自分と、そして彼女にも、車を降りるように促した。

 

 人気の無い山中、車から降りる二人。一体なにをするのだろう……。

 

 単純な疑問と嫉妬渦巻く心中で二人を見ていると、二人は何やら口論を始めだし、なんと牧野はロープを取り出すと、和美さんの首を突如絞めたのだ。

 

 突然の凶行に目を疑い、一瞬だけ硬直するも、愛する和美さんの命の危機に、僕の身体は自然と動き出していた。

 

 僕は、少し離れていた所に停車していた自分の車を降り、大声を上げながら二人の間に走って行った。

 

 そうして有無を言わさず和美さんの傍に駆け寄り直ぐに助けに入る。

 

 その時は大柄、まあかなり肥満な自分自身の体格を活かして牧野にタックルをして、牧野と和美さんと引き離し。

 

 単純な力では僕の方が牧野よりもずっと上だったから、僕は牧野をボコボコに殴りつけた。

 

 当たり前だ、この優男に愛する人を目の前で殺され掛けたのだ。平然となどしていられる物か。

 

 今までの溜まりに溜まった恨みや憎しみ、和美さんを殺そうとした事への憤怒を込めて殴った。

 

 牧野は声を上げて『やッ止めてくれ! たッ助けてくれェ!』そう懇願して叫んだが、それを無視して殴りに殴りつけた。

 

 肥満体型で身体が大きく、体重の乗った僕からの本気の殴打は、少なくない痛みを伴って、牧野を苦しめた事だろう。

 

 だがそんな事、知った事か。

 

 牧野は、この男は、僕の愛する佐伯和美を殺そうとした。

 

 それだけで、自分自身コイツを殺してやりたいという衝動のままに、殴り続けたのだ。

 

 そうして、弱った奴の両手を牧野自身が持っていた、和美さんを絞め殺そうとしていたロープで縛り上げ。

 

 僕は和美さんを介抱したのだ。

 

 和美さんの首には、ロープで締められた痣が付いていて痛々しく、一刻を争う容態の彼女をそのまま、僕の車に乗せて。

 

 序でに縛り上げていた牧野も僕の車に乗せ、僕は自分の車を麓の町まで走らせた。

 

 まず和美さんを病院に運んで、医療関係者に和美さんが首を絞められていたことを伝え、牧野の身柄は警察に突き出した。

 

 今にして思えば、和美さんのストーカーである僕が警察へ駆け込んでっていうのは、相当にリスキーだったと思う。僕も一緒に逮捕されるかも知れなかったからね。

 

 ただ、和美さんは僕からのストーカー被害を警察には相談しておらず、仲間内での相談に留めていたことが、僕にとっての幸いと言えたのだろう。

 

 まあ、例えそうでなくとも和美さんの命には代えられないし、和美さんを殺そうとした牧野を許せるはずもなく、法的機関に身柄を届けざるを得なかったんだが。

 

 個人的に言えば、あの男をこの手で殺してやりたかった。殺人未遂では死刑にならないからだ。

 

 社会的には終わっても、あの男は生き続ける。和美さんを殺そうとしていたあの男が生きている、それだけで腹立たしい。憤りを隠せない。

 

 私刑が許されているならば。僕はあの場であの男を殺して、山中にその遺体を遺棄していただろう。それをしなかったのは、法律の事もあるが、第一に和美さんの治療や安否についてが最優先されたからだ。

 

 仮に、僕の和美さんへのストーカー容疑で、僕自身も逮捕されたところで、和美さんの命を助けることが出来たのなら、僕は喜んで逮捕されようとは思っていたけれど。

 

 伊達にストーカーはやってない、愛する対象のためなら自分の身なんて投げ出すことは簡単にできる。ストーカーの執念を舐めるな。

 

 幸い、和美さんは処置が早く、一命を取り留め、後日目を覚ました。

 

 和美さんの当時の記憶は鮮明で、彼女の証言や牧野自身の自白で牧野の和美さんへの殺人未遂が明らかになった。

 

 それだけじゃなく、牧野がそれ以前に放火までしていたことが発覚して、牧野は逮捕連行されていった。

 

 和美さんは牧野の放火のことを知っていて自首を勧めて、それで牧野に殺され掛けたらしい。

 

 彼女はよく言えば倫理観や正義感、道徳観がしっかりしており。反面、悪く言えば無鉄砲で、考えるより先に行動するタイプ。

 

 彼女のことをよく知る僕はそれも知っていたけど、まさか、放火殺人犯相手にまで、説得なんて事を試みようだなんて。

 

 軽率だし、危険すぎる。僕を頼れとは無論言わないまでも(頼ってくれたなら嬉しいが)、和美さんの親友の景山翔子さんにだけでも、一言伝えておくべきだっただろうに。

 

 しかし、一度に色々と起こりすぎて、自分でも目が回る僅かな期間。

 

 僕は、和美さんの傷が無事完治するまでの間、ずっと彼女の病室に足繁く通い続けた。

 

 もちろん、和美さんとしては、自分のストーカーである僕に、どう対処していいのか戸惑うばかりで。

 

 面会謝絶や、拒絶されなかったことが不思議でしかなく。面会を許されていたことが素直に嬉しかった。

 

 僕からのお見舞いや看病なんて正直悪い思いをさせてしまったって反省はしてるんだけれども、どうしても放っておけなくって。

 

 和美さんの親にも礼は言われた。和美さんの友人達にも。和美さんの親友の景山翔子さんにもね。

 

『ありがとうっっ、わたしの親友をっ、和美の命を救ってくれて本当にありがとうっっ!』

 

 僕が和美さんのストーカーであることを知っているのは、和美さんも所属しているミステリー研究会のメンバー達もだ。

 

 今回ばかりは、そんな僕のストーキングが和美さんの命を助けたからと、僕はお礼を言われる立場となってしまった。

 

 皆口々に礼を述べて、僕としてはどうしたらいいのかオロオロ。

 

 特に、景山翔子さんからのお礼の言葉に、僕は、なにも言えずに黙り込むだけだった。

 

 これまでずっと、ミス研のメンバーから警戒の目で見られていたからね、まあストーカーだし当然だけれども。

 

 そんな何も言えずに焦るばかりな僕を見て、ミス研のメンバーや、それに和美さんも笑っていたのが印象的で。

 

 ストーカーだって言うのに彼らに受け入れられてしまったのだろうかと、鈍い頭でぼんやり考えたりしていた。

 

 そして、和美さんの退院から数日後、僕は和美さんの部屋を訪ねた。

 

 和美さんのアパート、勝手知ったる和美さんのアパート。

 

 なぜか? それはつまり、このアパートの管理人が、僕だったりするからだ。

 

 それは完全なる偶然だったが、和美さんは僕の管理するこのアパートに部屋を借りた。

 

 二年前、法学部一年になったばかりの和美さんとこのアパートで出逢い、僕は彼女に惚れてしまった。

 

 彼女に笑顔で挨拶をされた。ただそれだけで。僕は佐伯和美に一目惚れをしてしまったのだ

 

 

 

 それから、僕の彼女への異様な執着と、遅咲きの恋心を、この胸に抱くようになってしまったのである。

 

 

 

 ともあれ、今日この時、和美さんは今までには見たことが無いほど戸惑いながらではあっても、僕を部屋に入れてくれたんだ。

 

 ストーカーである僕を。デブで不細工、和美さんとは三十歳以上歳も離れてる、彼女の親でも、彼女の友人でもない、このアパートの管理人でしかないそんな僕を。

 

 彼女の部屋へと入り、居住まいを正してからされた話は、和美さんからの改めてとなる、僕へのお礼から。

 

『草木さん、わたしのことを助けてくださってありがとう。あなたが居なければ私、きっとあそこで殺されていたわ』

 

 僕は。

 

『とんでもない、和美さんを助けたいっ、和美さんを死なせたくないっ、和美さんを救ってみせるって、ただその一心でだっただけで』

 

 と、本音で返す。

 

『和美さんを喪ったら……、和美さんが死んでしまったら……、愛する和美さんを永遠に見れなくなってしまっていたら僕は、僕は……っ!』

 

『……草木さん。そんなにも……、わたしのこと……?』

 

『は、はい……和美さんを愛しているんですっ、僕の命を投げ出しても構わないっっ、和美さんだけは死なせたりするもんかって』

 

 彼女は僕に対して少し緊張気味ではあったけれど、その最初の挨拶で少し空気が和らいだ気がした。

 

 それから和美さんは、僕の彼女への想いやらなんやらと、聞き出せることを訊いてきた。

 

 それはそうだ。ストーカーとは言っても純粋に彼女を愛している僕の想いが、彼女としても気にならないって事はないみたいで。

 

 そもそもどうしてわたしを? とそこからだったから、まさしく出逢いの日からのことを事細かく話す事となった。

 

 趣味は? 好きな物は? 学生時代はなにを専攻されていたの? わたしのどこが好きなの? 

 

 根掘り葉掘りと尋ねてくる和美さん。

 

 和美さんは無鉄砲、考えるより先に行動するタイプ。

 

 彼女のストーカーである僕は知っていたけど、まさかその性向が僕へと向いたのだろうか? 

 

 もしそうなら嬉しいなと思った。愛する和美さんから気に入られたのかもって考えると、もう、僕は天にも昇らん気持ちだ。

 

 そんなやり取りが続く中、女性の部屋で男と女が二人きりの状況下。

 

 僕の彼女に対する想いが、劣情が、やや暴走気味に発露して、そんな間柄でもないというのに。

 

 僕がやや無理とに和美さんに迫ったところ、命を救い救われたという特殊な関係性が前提にあったおかげか。

 

 嫌々ながらも彼女は、佐伯和美さんは、この僕、草木育雄の性的アピールを、受け入れてくれたのだ。

 

 それはでも、彼女の衣服を無理矢理脱がせ、下着もブラも強引に剥ぎ取り、彼女の前で裸になってみせ。

 

 そして少し怯えた様子、不安な様子を見せていた彼女を、無理とに犯した。強姦。

 

 紛う事なき強姦だった。

 

 ストーカーを飛び越えて、自身が、性犯罪者にまで墜ちてしまった瞬間だった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「ああ~~ッッ!!」

 

 前戯なんて無く、強引に彼女の両の足を開かせて、下半身を出し、劣情のままに彼女の股の間に身体を割り込ませて、膝を抱えながらの、生での挿入。

 

 腰を前に出し、ゆっくりとだが確実に、僕の暴悪な剛直が、佐伯和美の膣を押し開き、割り裂いていく。

 

 くぱあっと割り開かれていく佐伯和美の膣内、襞が僕の挿入に抵抗する様に締め付け進めまいとしてくるけれども。

 

 僕は躊躇いなくそれを押し切り、襞を擦り上げながら佐伯和美の膣奥へと挿入っていく。

 

「和美っ、さんっっ! 和美っっ!」

 

「ああっ、は、アアっっ、アアぁっっ」

 

 僕の男、先から竿までが肉を割り裂き、挿入っていく。佐伯和美の膣の肉と襞とに強引にこすれ合わせる感触が、男の先から、腹を脊髄背筋を走り抜け、脳を突き刺すような官能性を感じさせた。

 

 初めてだったのだろう、処女らしい引っかかり具合を感じた。

 

 それが処女の証なのか。これが初めてのセックスとなる自分には分からなかったが、彼女は。

 

「いッ、痛ッ、いた、いッ! あッあああ──!!」

 

 痛みを訴えながら叫び喘いだ。

 

 結合部からは鮮血が一筋流れ落ちて、佐伯和美の股間と太股を血で濡らす。

 

 僕の物にも当然付着しているだろう処女の血。

 

「いた、いッ、痛いッ」

 

「我慢するんだッッ!」

 

 湧出し始める佐伯和美の愛液が、僕のペニスと彼女の膣内に潤いを与え始めた。

 

 もうじき痛みは無くなるよ和美さん……だから、だから僕を受け入れておくれ。

 

「ああ~~ッ!!」

 

 その悲痛な叫びを耳にしても僕は止まらなかった。

 

 止められなかったんだ。

 

 それがいけないこと。越えてはならない一線だったのだと、そう自覚しながらも。

 

 彼女がもし、あの時、殺されてしまっていたのならって。

 

 彼女が忽然と居なくなってしまったら。

 

 そう思うと、僕はどうしても彼女の温もりを感じたくなって、佐伯和美の温もりを求めたくなってそれで。

 

 その気勢のままに彼女を抱いてしまった。彼女からすると正真正銘、自分は今犯されているのだと受け取っているだろう。

 

 確かに、強引に衣服や下着を脱がさせたとき、彼女は抵抗らしい抵抗を見せなかった。

 

 こちらに衣服を脱がさせてくれた。その様にも感じさせる有様で。

 

 でもそれは、自分が今、自分自身よりも体格の大きな、牧野よりも大きな体格をした男に襲われようとしているから。

 

 だから、彼女は恐怖して逃げなかった。あるいは逃げられない、逃げさせなかったといった、不完全な合意、合意ですら無い。

 

 僕自身、いま自分が、佐伯和美を犯しているのだという、自覚がある。

 

 命を助けたお礼に抱かせろといった強姦的性質の、強姦その物でしかないのだから。

 

 だから、だから今のこれは、僕が和美さんを犯している。和美さんが僕に犯されている。

 

 僕が佐伯和美を犯しているのだ。

 

 形の上ではそう言った方が適正なのだろう、性交。

 

「和美っっ、和美さんっ」

 

 押し出す腰。根元まで挿入るペニス。佐伯和美の股間の割れ目のその根元まで挿入り、僕は彼女を貫き通す。

 

「あっ、ああっっああ~~~っっ! くさ、きっ、さ──!」

 

 僕に挿入れられる佐伯和美の悲鳴。切ない喘ぎ。可哀想にも感じる。愛する彼女に僕は何をしてしまっているのかと。

 

 それでも僕は止まらない、いまこのときの和美さんを、僕のこの全身で味わいたかったのだ。

 

 彼女への劣情が、彼女が確かに生きているのだという、その証としての、彼女の温もりを、どうしようも無く欲しかったのだ。

 

 暴走した情愛や、今まで抱いてきた彼女への気持ちが、胸の内より溢れ出す。

 

 歯止めは掛けられないし、掛けるつもりもない。

 

 成就した彼女との肉体同士での抱擁が、この僕の全てを、満たしてくれるから。

 

 和美さんの腰と背中に回した腕で彼女を支え、抱き寄せながら、僕は腰を振り、抽挿を始め、佐伯和美を、彼女を味わっていく。

 

 ずるっ、ずぶぅ、ぢゅぶうっ。佐伯和美の膣襞を後ろ前に動く僕のペニスが擦りあげて、素晴らしい触感と、水音を発している。

 

 気持ちいい、気持ちいい、佐伯和美とのセックスが、唯々気持ちいいんだ。

 

「ああっ、あっ、はっ、あっ、くッ、草木ッ、さんっ、や、やめッ、やめッ、てッ、あっ、ああッ……あッ」

 

 和美さんとこういうことができるだなんて、できるようになることがあるだなんて、夢にも思わなかった。

 

 不細工で肥満で五十代後半、その上で、気持ちの悪いストーカー男。そんな僕を、和美さんが受け入れてくれている。二十歳の若々しく、綺麗な和美さんがだ。

 

 それは、悦びよりもある種の非現実的感覚を僕にもたらしていた。

 

 なんだこれは? 今自分は何をしているんだ? 和美を、あの佐伯和美を抱いている。

 

 そんな、そんなことが現実にあり得るのか。

 

 でも、それでもこの僕の腕が抱いているのは和美さんの身体なんだ。

 

 僕がこの手で全裸にさせた和美さんの肉体を、僕は貪っているのだ。男の本能のままに。

 

 美しい女の、佐伯和美の肉体を、僕は僕の意思で思うままに抱いている。

 

 僕の、僕の硬くなった男が、和美さんの秘裂に奥深くまで挿入っているんだ。

 

 確かに、確かに、僕は佐伯和美とセックスをしている。

 

 人生の、全ての幸せが、今此処に凝縮されているかのようだ。

 

「和美さん、和美、さん……ぼ、僕はっ、ああっ和美さんっっ、あなたがッ、あなたが生きていて嬉しいッ、あなたを感じられて嬉しいッ、和美さんッ、和美ッ」

 

 和美さんの長い髪が揺れている。ウェーブの掛かった長い髪が僕との性交により跳ねる彼女自身の身体に合わせて、さらさらと。

 

 撥ねる身体に併せて、彼女の長い髪も大きく揺らぎ跳ねている。

 

「あっ、あっ、ああっ……、こ、こんなっ、こんな、ことっ、あっ、ダメっ、あっ、ああッダメッ」

 

 大きな二つの乳房は僕の胸部と挟まり、その弾力と柔らかさを僕に伝えている。

 

 なだらかな曲線を描く腹部は頬、上半身から流れ落ちてくる汗に濡れ、僕の身体に浮かんだ汗と交配していた。

 

 僕は、僕は佐伯和美と、肉体同士で、結ばれているんだ。

 

 幸せだ。嬉しい。悦びでいっぱいで、もうなにも要らない。

 

 和美さんとセックスをしていることはもちろん感無量の悦びではあるけれど。

 

 僕が本当に嬉しいのは、和美さんが生きて此処にいること。

 

「和美さんッ、生きているッ、生きているんだね和美さんッ、君の温もりをッ、貴女の温もりを感じるッッ、もっと、もっと感じたいッ、佐伯和美という女性が生きていてッ、今此処にいるんだって事をッ、僕は全身で感じたいんだッッ」

 

 もしかしたら、もしかしたら和美さんは、あの時、あの男に殺されてしまっていたかも。

 

 それを考えると、恐怖と、そして、いま生きて僕を受け入れてくれている彼女への感謝と悦びがない交ぜになって、僕の心の内をぐるぐる回っていた。

 

「生きている君をっ、生きている佐伯和美を僕は感じたいっ、こ、これがっ、それがいけない事だって分かっててもっ、僕はっ、僕はいまっ、佐伯和美という女を犯さずには居られないっ、この後っ、僕とのセックスの後っ、この僕に強姦されたっ、犯されたって警察に逃げ込めばいいっ、だけどっ、だけど今この時だけはっ、僕に君をっ、佐伯和美を感じさせてくれっっ」

 

 そんな僕の心の叫びを、魂の雄たけびを聞いた佐伯和美。

 

 彼女は、彼女の反応は、そこで少し、変化を見せた。

 

「くさ、きっ、さん……あなたっ、そんっ、そんなにもっ……わた、しをっ……? ……っそんな、そんなにもっ私を……っっ、好き、なの……? わたし、を? わたし、だけ、をっっ!」

 

 好きなのか? 僕が佐伯和美をそんなにも、これ程までにも愛しているのか? この問いの答えは、決まっている。

 

 一つ、だけだ。

 

「好きですッッ、愛していますッ、僕はッ、僕は貴女を、佐伯和美を愛していますッッ! 貴女が、貴女という女性が居なければ僕は壊れてしまうっ、貴女が殺されていたならば僕は貴女の敵を討って自殺していたっっ、僕に取って佐伯和美さんはそのくらいに大切な女性なのですっっ!!」

 

 思いの丈を解き放つ。佐伯和美という女性に抱いたこの二年の想いを全てぶつけた全力で。もし本当に彼女が牧野に殺されていたのならば、僕は牧野を殺してから和美さんの後を追って自殺していた。それは確信の下にある。

 

「ああっ、アアっ、くさきっ、さんっっ、わ、わたしっ、アアっっ」

 

 それは、それは大きな変化だったのかもしれない。僕の想いの決壊は、それは僕と彼女の関係を根底から覆してしまう呼び水となったのかも知れない。

 

 だって彼女は、佐伯和美は、この瞬間、心を開いてくれていたのだから。この僕を確かに、受け入れてくれたのだから。

 

「くさ、き、さんっ、わたし、わたしはあなたの腕の中に居るわっっ、あなたのっ、腕の中……にっ、私は居るっ、あっ、あなたにっ、命を救われたからっ、わたしはあなたの傍で生きているわっ、あなたと一つになってっっ生きて此処にっっ、あっああ!!」

 

 和美さんが口にする言葉。それは僕へのいたわり。こんなストーカーなんかに対してのいたわり。

 

 彼女を殺そうとした牧野への呪詛と共に奴を殴り、僕がどれほど和美さんを想っているのかを知った、和美さんの僕への気遣い。

 

 でも、でも僕は嬉しかった。和美さんの言葉が。僕の腕の中に居るという和美さん自身の言葉が。

 

「和美さんっ、ああっ……和美さんっっ、生きてっっ、生きているんだっっ、和美さんは生きているんだっっ、う、あああッッ」

 

 大きく腰を引いた僕は、瞬間の後に今度は根元まで男根を挿れてしまう。和美さんの中に根元まで挿れて。

 

 奥の奥まで挿入しきり、佐伯和美との股間部同士を隙間無く重ね合わせて。

 

「あああ~~~~っっ」

 

 背中を大きく反らせて一際大きく喘いだ和美さん。ウェーブの掛かった彼女の長い髪が彼女の背後の宙にさあっと流れ広がった。

 

 そんな和美さんの柔肉に包まれながら、僕は和美さんの身体を強く抱きしめ、そして、和美さんの中に精子を注ぎ込んだ。

 

「和美さん~~~~っっ、中にっ、膣内に出しますっっ、僕は和美さんの膣内にっっ、うくうっ、僕の精子を全てっっ、受け取ってくれェェェ!!」

 

 どくっ、どくっ、どくうっ。

 

「ああああ~~~草木さっっぁぁぁッッ?!」

 

 拒否はさせない、外にも出さない、あくまでも僕は佐伯和美という女の中に全てを出す。

 

 愛情、劣情、殺されてしまっていたかも知れない恐怖、永遠に和美さんと会えなくなる絶望。

 

 混ざりに混ざった彼女への想いと、もう二度とは無いだろう、彼女との性交による興奮が。

 

 彼女の中に出したいという、どうしようもない欲望と結びついて、僕は彼女の膣の奥の奥、子宮口まで貫き通しながら射精を繰り返した。

 

「ああっ、あついっっ、草木さんの熱いものっっ、草木さんの精子がっ、わたしの奥に注がれてっっ、は、あああ──ああ~~~ッッ!!」

 

 出していいか。ダメか。そんなことは訊かない。

 

 本当は訊くべきで、彼女の本音では中出しなんて嫌だろう。

 

 ストーカーに強姦というセックスまでもを行われ、更に中出しまでされる。

 

 女性としては陵辱としか受け取られない行為……、いや、これは凌辱その物。

 

 佐伯和美の女としての尊厳の全てを壊し、踏み潰す冒涜的な行為。

 

 許されざる行いだ。

 

 でも僕は出す。

 

 ありったけの精子を佐伯和美の中に出すんだ。

 

 どくんっ、どくっ、どくっ。

 

「ああッ~~あああ~~~ッッ、まだッ、まだ出てェェッ、あなたの熱い精子がわたしの中に入ってくッッ、あッ、ああッあッ……ダメェッ、ダメよ草木さッ、これ以上ッッ……ッに、妊娠ッ、妊娠しちゃうぅぅぅ~~~──ッああああ!」

 

 出したいから。唯々和美さんの中に出したいから。

 

 愛もある。欲情もある。でも、唯々生きている彼女の全てを感じ、彼女に自分が生きている事を感じて欲しいから。

 

「和美さんっ、和美さんっっ、僕のっ、これが僕の想いですっっ、貴女の中に出さずにはいられないほど僕の和美さんへの愛情は深く大きいのですっっ、生きている貴女を感じたいッ、貴女自身に生きているのだと感じさせたいッッ!」

 

「ああああ~~っっ! なかっ、なかぁっっ、まだ、まだ中に出てるぅぅっっ、ああっっ──!! 感じるっ、わたし、わたしは生きているんだわッ、あなたに助けられてッ、あなたに救われてッッ、ああッ、草木さんッ、わたしを感じてッ、わたしにもっと生を感じさせてッッ、ああッ、あああ~~~ッ」

 

 海老反りの和美さんを僕は抱き締めた。彼女の温もりを全身で求めたいと。

 

 彼女を強く抱き締めながら、股間同士を隙間無く重ね合わせて、僕は白濁を注ぎ続ける。

 

 和美さんの中へ、和美さんの奥へ、和美さんの子宮を僕の精子で満たしてしまうために。

 

「か、和美さんっ、和美ぃぃっっ!!」

 

 ドクっ、どくっ、どくうっ。

 

「あ、ああっはああうっっ、くさき、さんっっ、あ、ああ……っっ!」

 

 僕からの膣内射精を受けて喘ぎながら、和美さんは脚を、身体を、ぴくっ、ぴくっ、と痙攣させている。

 

 体表で混ざる汗とは比べるべくもない、精子と卵子の交配が、きっと和美さんの子宮内では起きていることだろう。

 

 それでもいい、いや、いっそそれで。いっそ和美さんを、このまま佐伯和美を孕ませてしまいたい。

 

 僕は、佐伯和美に僕の子を妊娠してもらいたいと、強く強く願いながら射精を続ける。

 

「か、和美、さんっっ……、全部、出します……和美さんの中に全部っっ……!」

 

 どくっ、どくっ、どくうッ。

 

 和美さんを抱き締めたまま全身を重ね合わせて。

 

「ああ~~~ッッ」

 

 さらり。

 

 喘ぎ叫ぶ和美さんの肩越しに流れるのは和美さん自身の長い髪。

 

 彼女の髪の一房が、彼女の左肩より身体の前へと、流れ落ちた。

 

「和美さん……和美……、今は、今だけは僕の物だ和美っ、僕だけの、佐伯和美なんだっっ」

 

 その長い髪を手に取り、口許に運んで髪にキスを贈りながら、僕は思い出す。

 

「くさ、き、さっっ、あっああっ」

 

 和美さんを初めて見たあの日を。

 

 法学部一年だった和美さんの髪は、その頃既にそこそこ長かったが、もう三年。

 

 アパートの管理人である僕が和美さんに一目惚れをした日から二年。この二年の間に彼女の髪は腰に届くまで伸びた。

 

 変わらないのは一年の時の髪も、三年になった今も、ウェービーヘアだということ。

 

 さらさらで艶めかしい腰まで届く長いウェービーヘアが、和美さんにはとてもよく似合っている。

 

 和美さんのこの長い髪がこの二年の歳月を思わせる。この二年、ずっと彼女を見てきた僕は今日、想いを遂げた。

 

「愛しています……、和美さん……、僕は、草木育雄は、佐伯和美さんを心の底から愛しています……」

 

「くっ、くさ、きっ、さんっっ、わ、わたっ、しっ……、わたし、はっ」

 

 半ば強引に迫り、始めた強姦紛いのセックスを、和美さんは結果として拒絶しなかった。

 

 嫌なら叫べばいい、助けを呼んで大声を出してくれたら、僕もなにもしないし、できなかったんだ。

 

 でも和美さんは、それをしなかった。

 

 抱き締めれば、抱き締め返してくれ。頬をすり寄せれば、同じようにすり返してくれて。

 

 最後は中に出しても内心はどうあれ受け止めてくれた。

 

 そんな和美さんへの一方的な愛の告白。

 

 この時しか無いと、二年分のストーキングで溜まりに溜まった気持ちを、言葉と射精に注ぎ込んだ。

 

 どくっ、どくっ、……とぷ。

 

「ああっあ……とまっ、た……? おわ、ったの、ね……?」

 

 熱い吐息を吐き出しながら、彼女は僕を見て、尋ねた。

 

 僕はこくんと一つ頷いて、彼女の中に、佐伯和美という女の中に、全てを出したと告げ、更なる小さな望みを口にした。

 

「和美さん……このまま、もう少しこのまま貴女と一つになっていたいです……貴女の、和美さんの温もりを、僕はこの肌でっ、この身体でっ。……感じていたいんです……、これが、これが最初で、最後……、ですから……」

 

 射精は終わった。事が終わったのなら身体を離すべきだろう。

 

 これは、この性交は、和美さんの好意でさせてくれた物のはずだから。

 

 否、そも前提が違う。これは、これは強姦。

 

 佐伯和美は僕に犯されたのだ。

 

 でも、本心ではまだ嫌だ。こんな許されない事をして、ただ好きだっただけの想いを劣情に変えてしまって彼女を犯した上で。

 

 それでも、それでもまだ、僕は、僕には──佐伯和美と一つになっていたいという気持ちが、強く、出ていたんだ。

 

「……」

 

 和美さんはなにも言わない。ただ対面座位の体勢のまま。身体を、肉体同士を一つに繋げ合ったまま、交接したままの状態で、僕をじっと見つめていた。

 

「和美さん……」

 

 僕はそんな和美さんに甘え、彼女をもう一度強く抱き締めると、彼女の背中に流れる長い髪に、手指を絡めさせた。

 

 二年分長くなった、彼女の腰まで伸びる髪。僕の二年の、想いと同じ、時間……。

 

「和美さんの長い髪……」

 

 彼女の了承を得ることなくも触る。静かに、優しく、丁寧に。

 

「二年前よりずっと、長くなりましたね……。二年前は上背までだったのに、もう……今は腰まで届いている……和美さんの、髪……、きれいです……二年の月日を感じます……」

 

 僕がそうしている様に、僕の言葉に反応した和美さんが、僕の背中に腕を回してくれた。

 

 何も言わず、拒絶もせず、ただこんな、こんなストーカー男な僕の事を、抱き締め返してくれたんだ。

 

「ああ、和美さん、貴女が好きだ……、僕は貴女を愛しています、貴女だけを、この二年間ずっと」

 

「ん……」

 

 そうして抱き締め合える事の、なんと幸せな事か。

 

 これ以上の幸せなんて、この世に存在しないだろう。

 

 僕は、彼女と抱き締め合ったままに、彼女の髪に、指を絡めて、撫でた。撫で続けた。

 

「和美さんの、長い髪……、二年の、時間……」

 

「ん……草木、さん……」

 

 二年分の時間の流れ、和美さんの長い髪は、僕が彼女を愛した二年間で、ここまで伸びた。

 

 二年という、長くも短くもある時間が、此処には確かにあるのだ。

 

「お好き、なんですか……長い、髪……」

 

 僕に髪を撫でさせてくれている彼女に尋ねられた。

 

 答えなんて決まっている。この、彼女の髪の長さの分だけの時間が、僕の彼女への想いと、重なっているのだから。

 

 二年分の、短くも、長い、想いが。

 

「はい……好きです……。特に、和美さんの長い髪は、僕が貴女を愛してきた時間その物ですので……、僕の想いその物の様な気がして……」

 

 好きだ。僕は佐伯和美のこの長い髪が好きだ。僕の想いと同じくして長く伸びたこの、彼女の髪が。

 

 僕の想いと共に伸びてきた、彼女のこの髪が、僕は好きだ。

 

 そんな僕の想いを耳にした彼女。

 

「ふふ、もしわたしが髪を切ってたら? その想いを切っていたらどうなの?」

 

 いたずら気味に微笑む和美さん。

 

 僕に犯されたばかりなのに、犯されている最中なのに、なんて素敵で眩しい笑顔なんだろう。

 

「ねえ、わたしが髪を切ってショートにしてたら草木さんはどう思うのかしら?」

 

「髪の短い和美さん……、そ、そうですね……」

 

 ショートカット、短い髪なら短いなりに想像すると、それもまた素敵な和美さんの姿が、目の裏に浮かび上がった。

 

 肩の上あたりで切りそろえられた短い髪をした佐伯和美。健康的で、明るくて……。それは……、ああ、それは今と。

 

 髪の長い今と、何も変わらない、素敵な笑顔が、そこにはある。

 

 彼女の眩しい笑顔、思い込んだら一筋な彼女の溌剌とした姿が、髪の短い彼女の姿となって幻視された。

 

「それもまた素敵です……、短い髪が和美さんの溌剌さに磨きを掛けているかの様で、想像しただけで心が温まりますよ」

 

 ただ、それでも。この二年を視てきた。この二年の想いも重なる今の長い髪の彼女の方が、彼女には似合っていると思う。

 

 幻視という想像上の短い髪の佐伯和美じゃない。現実というこの目の前で抱き合っている長い髪の佐伯和美を、僕は。

 

「でも、やっぱり二年の時間を和美さんの髪から感じる僕としては、長い方が──」

 

 そう言いかけた僕を和美さんが遮った。

 

「そういえば、二年間もわたしを……その……」

 

 曇った顔じゃない、何かを思う表情。

 

 この二年を彼女の事ばかり視てきた僕には、彼女の表情で、彼女の感情がある程度読み取れた。

 

 その表情は疑問であり、単純に興味を抱いた時にする顔だ。

 

 僕の前ではきっと初めて見せる表情で、それを視れている今がとても嬉しくて。

 

「ええ、ストーキングしてきました……正直止めようとしても止められない……、貴女を、愛しているから……、どうしようもなく佐伯和美という女性に惚れているから……。今まで本当に、申し訳ありませんでした」

 

 佐伯和美を抱き締めたまま頭を下げる。謝罪を述べる。

 

 未だ彼女と身体を重ね合わせて、彼女の髪を触りながらという。

 

 本当に謝っているのかと思われそうな行為をしながらも。

 

 そんな僕に、彼女は。

 

「……。でも、……そのおかげでわたし……死んでいたかも知れない命を、救われました……」

 

「え?」

 

 思ってもみない返答に、僕は困らせられた。思わず反射的にどうして良いのか分からないと、頭の中が混乱した。

 

 でも、和美さんは僕を視ながら、真剣さと微笑みと、両方を浮かべた表情で、尚も僕を見つめるんだ。

 

「だから……だから、そんなにご自分を卑下されなくても……、わたしは、気にしていないから」

 

「え、ええ、でもあんなに嫌がって、僕は嫌われて気持ち悪がられて」

 

 こんな僕に、彼女はどうして今みたいな表情を浮かべられるのだろう。

 

 この表情は僕は知らない。二年間和美さんを視てきた僕が、初めて見る、顔だった。

 

「今は、よ? 今まではその、嫌だったけれど……気持ち悪かった、怖かった……いつ、何をされてしまうか不安だった……。でも。だけど今は、その、凄い純粋なんだなって、思うの……。振り向いて貰えないこと、わたしが振り向かないことを分かっていながら、わたしだけを見つめていたんですもの。普通、中々できないことだわ」

 

 出来ない事。普通ならばしない事を、僕はしている。この二年間、彼女を執拗に追い求めた。それは、僕がストーカーだから。

 

「あの、ストーカーである僕が言うのも変ですが、ストーカーは普通じゃないから普通にできてしまうのではないかなと」

 

 思った事を口にすると。

 

「……くす。言われてみればそうかも」

 

 和美さんは、性交に赤く色付き、汗の流れる顔を僕に向けたままで、また眩しく微笑んだ。

 

 しかし、凄く色っぽい……な……、綺麗だ、美しい……こんな彼女は初めて見た。

 

 汗だけじゃ無い、目にも生理的な潤いが見て取れる。

 

 それはとても素敵な微笑みで、彼女の為にならなんでもしたくなってしまう。

 

「ねえ、草木さん……、わたしたちってお互いに話し合ったり触れ合ったりするのってこれが……、初めてのこと……、よね。──二年間、お互いを知ってはいたけれど、まともに接したことはなかったでしょ?」

 

 ストーカーと被害者がまともに接していたら、それは親しい知り合いか、それ以上の関係性を築いていないと、不可能だ。

 

 それこそ、既に恋仲やそれに類推する関係でもないと。

 

「まあ、それはその、ストーカーと、その被害者ですから、ね」

 

 親しくしてたらもうそれはストーカーでもなんでもないのでは。

 

 そう考えていると和美さんは予想だにしないことを口走った。

 

「ええ……、だから、ね……。もっと触れ合ってみましょうよ……お互いに」

 

 赤らんだ頬を更に濃く色付かせながら言う彼女。

 

 触れ合うとはきっと今している性交のこと。身体と身体、深く触れ合っている。

 

 それをもっとしようと言っているのか? まだしてもいいと彼女は……。

 

「え、ええ?! それって、そのぅ……せ、セックスを、ですか?」

 

「女の口からそんなこと、言わせないで……」

 

 慌てる僕にうつむく彼女。

 

 あまりにも唐突な話に自分の頭が付いていかない僕は、とりあえず和美さんの背中に流れる彼女自身の長い髪に指を絡めたまま、滑らかな髪の質感を楽しむようにして確かめる。

 

 彼女の腰まで届く長いウェービーヘアは、指を絡ませ通してもするすると毛先へ抜けていく。

 

 首の後ろ辺りから手指を差し入れ、流れる髪の中に指を通し滑らせていきながらその長い髪の触り心地を味わう。

 

 彼女に一目惚れをしてからの二年分長くなった綺麗な髪を。毛髪性愛者のように、僕はただ五本の指に絡めて、撫でながら、梳き通していく。

 

 そして、彼女からの誘いをもう一度呑み込んでから、僕は彼女をベッドに寝かせた。

 

「草木、さん」

 

 ベッドに広がる和美さんの長い髪。扇状に広がった髪にはウェーブが掛かっていて、ストレートヘアが同じように広がったときとはまた違う扇情的な雰囲気を醸し出す。

 

 その美しさに目を奪われながらも、そのまま彼女の両脚を抱え持ち、硬いままの男を彼女に挿入したそのままに腰を前、後ろと動かした。

 

 佐伯和美とのセックスの続きを、僕は彼女に引かれるがままに、始めてしまった。

 

「あっ、ああっ、くさきさんっ、ああっ、ああっ、いいっ、いいのっ、奥まで、きてっっ」

 

「和美さんっっ……、和美っ、ああっ和美ィィっ……、僕はっ、僕は君が好きだっっ、佐伯和美を愛してるんだっっ」

 

「はああっ、んっああ、くさきさ、いく、おっ、育雄っっ」

 

 もう、止まらなかった。佐伯和美に手を引かれた僕には、もう、僕を縛る枷が何も残されて居ないからだ。

 

 理性も、倫理観も、道徳観念も、何も無い。僕はただ佐伯和美という女を求める獣でしか無かった。

 

「和美っ、和美っ、僕のっ、僕の佐伯和美っ、僕だけの和美っっ、僕はっ、僕は君をっ、君を愛してるっっ、君だけをずっと愛しているっ、今までもこれからもっ、僕は佐伯和美を愛するんだっっ」

 

「は、あああっ、ああっ……あっ、アアっ、いく、お、あっ、あっああ……っ、わた、しっ、わたし、はっ、っああ! ──っっああ!!」

 

 和美さんの喘ぎが漏れる。さっきまでよりも更に自然に近い。

 

 抽挿もしっかりと行えている。奥まで、彼女の奥までしっかりと。

 

 上半身を倒し、彼女の豊かな胸を自身の胸板で押し潰すようにして、彼女と身体を抱き締め合い、ベッドに散らばり流れる彼女の長い髪を触りながら、僕は彼女と深く交接を交わし行く。

 

「和美さんっっ、和美っっ、愛しているよ和美っっ」

 

「あッ、ああッ、アアッ、いっ、いく、おっ、育雄さ、んッ、ああッ、んっ、あッはァァっ」

 

 佐伯和美──彼女は、確かに彼女は僕を受け入れてくれている。彼女の身体の奥深くまで。

 

 それが、今この時こそ、きっちりとした合意の上での性交が始まったのだと、その彼女の喘ぎと、僕と彼女のしっかりと交わされているこの交接が、それを示していた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 全ての事が終わったのは夜遅くを迎えてからの事。

 

「こんなに遅くになっちゃったわ」

 

 僕と裸で抱き合ったまま和美さんは呟く。

 

「まあ、わたし、此処の部屋の住人だから、どれだけ遅くなっても大丈夫だけれどね」

 

 かわいげに微笑む彼女は僕の胸にしなだれかかっている。

 

 彼女の長い髪の毛が彼女の左肩口から身体の前に流れ落ちていて、僕の胸板から腹部に掛かっては柔らかく撫で擦れていて、気持ちいい感触だった。

 

 それ以上に、彼女自身の肉体の温もりと感触、髪の香りがいま、僕の全身を包み込んでおり、その香しい匂いに、僕は酔っているんだけど。

 

「ねえ、育雄さん。わたし、今日は離れたくないわ」

 

 胸板にしなだれかかったまま彼女は。

 

 四時間にも及ぶセックスの果てに、僕の名を呼んでくれるようになった和美さんは。

 

「こんなに深く知り合ったんだもの。もっと一緒に居たいの」

 

 そう言うと、少しだけ顔を離して、僕の唇を彼女自身の唇で塞いできた。

 

「んう──」

 

 キス。口付け。甘酸っぱいキスは、セックスとはまた別種の心地良さと気持ち良さ、温かさをもたらしてくれる。

 

「んむ、ちゅッ」

 

 啄まれる唇。擦れ合う濡れた唇同士が粘膜でこすれ合い、優しくも深い口付けを形作っている。

 

 甘く酸っぱい味のする彼女の唾液が僕の唇の中へと入り、僕の方も負けじとして彼女の舌と舌同士で絡め合った。

 

「んッ、んんッ、ん、ちゅうッ、ちゅぱ」

 

 まるでセックスのようないやらしい音。でも心熱くて情熱的な気持ちの良い口付けを、僕と佐伯和美は交わすのだ。

 

 舌を使い、お互いの舌の裏を巧みになめ合いながら、口内同士の交流を図り。

 

 唾液と唾液を交換し合わせては、互いの唇を濡らす行為。

 

 甘く酸い和美さんの唾液を喉に嚥下し、彼女も僕の唾液を飲み下す。

 

 お互いにお互いの唾液の交換を行いながら、数分続いた口付けは終わる。

 

「ん──」

 

 伸びる透明の糸。唇と唇の間を繋ぐ銀の橋が、伸びて、切れた。

 

 眼前にある閉じていた瞳が開いた。彼女の潤いを帯びた美しい瞳を見つめながら、僕は口を開く。

 

「セックスも……、キスも……、こんなに、こんなにも温かくて、気持ちが良いんですね」

 

 僕の正直な感想に。和美さんは応える。

 

「キスはともかく、セックスは私、あなたに犯されたから始まったのよ?」

 

 怒っては居ない。ただ事実だけを述べる彼女に僕は。

 

「す、すみません……、和美さんが生きている事がどうしても抑えられないほどに嬉しくて」

 

「わたしを感じたくなった……でしょ?」

 

「は、はい……」

 

 ストーキングとは訳が違う強姦行為。

 

 直接的被害者である彼女が訴えれば僕は下手をしなくとも前科者だ。

 

 そんな僕の考えでも読み取ったみたいに彼女は言った。

 

「恋人同士なら問題ないわ」

 

「こ、恋人??」

 

 何を言われたのか分からない。

 

 自分でも良く理解できない。

 

「わたしと恋人になりましょう。わたしたち上手くやっていけると思うの」

 

 あっけらかんと言う彼女に驚いた僕は僕で、自分から始めた事を棚上げにし、おかしな正論で返してしまう。

 

「ぼ、僕、ストーカーですよ? 強姦したんですよ貴女の事を?!」

 

 だが彼女はかぶりを振って。

 

「ええ、確かにあなたはわたしのストーカーで、わたしはあなたに犯された……。でも、だけどあなたがわたしを助けてくれた。わたしの命を救ってくれた事実に変わりはないわ。あなたが心の底からわたしの事を、わたしだけを深く愛しているんだって事も十二分に分かったもの……。そんなあなただからこそ、わたしは本当は心根の優しい人だって思うのよ」

 

 綺麗な瞳で訴えてくる彼女に、僕は僕自身を否定した。

 

「……ッ、ぼ、僕なんかただの犯罪者ですよっ」

 

 そうだ犯罪者だ。佐伯和美に、この女性に二年も付きまとって。

 

 挙げ句に強姦までして一線を越えてしまった。それでも彼女は気にしないと明るく返してきた。

 

「ううん、わたしたちがお付き合いすればもう犯罪者じゃないわ。だけど、でも、それでも納得ができないなら、もっとお互いを知り合って、理解を深めていけば良いだけよ。恋人同士としてね♪」

 

 こんな始まり方が世の中一つくらいあっても良いじゃない。

 

 命を助けられたんだから相手がストーカーでも此処まで、命がけで愛してくれるくらい愛されたら好意を抱かせられたりする事もあると思うの。

 

 軽く言う彼女に僕は、はいと、答えるのみ。

 

「じゃあ、わたしとあなたは恋人同士よ。たった今からね。ねえ、今日はもっと愛し合いましょうよ。わたし、もっとあなたに救われた自分の命とあなたからの温もりを感じたいの……ねえ、育雄さん」

 

「か、和美、さんっ──んっ」

 

「んん──」

 

 その言葉に、二年間拗らせていた片想いが実を結んだ感動と嬉しさに、僕は佐伯和美を抱き締め。

 

 彼女の長い髪を撫でながら、自分の側より口付けていた。

 

 ストーキングラブ。とでも呼ぶのだろうか? 

 

 普通では起こりえない恋愛関係が今この瞬間始まったんだ。

 

 

 

 そうして一日を過ごした後。

 

 僕は。

 

「いってらっしゃい和美さん、気を付けてね」

 

 彼女を、佐伯和美を大学へと送り出すのに挨拶をした。

 

 彼女の部屋の中から。

 

「ええ、行ってくるわ。留守お願いね」

 

 結論だけを言えば、僕はあの後、佐伯和美の部屋で彼女と同棲する事となったのだ。

 

 恋人となったからと言って元はただのストーカー。思いが成就した瞬間から少し臆病になっていた僕。

 

 そんな僕に対して真逆で積極的となっていた彼女がすべてを決めてしまったんだ。

 

 恋人同士、いや、結婚しようとまで昨夜一晩中を朝まで愛し合う間で決めてしまった彼女。

 

 若い彼女が僕に嫁入りするのではなく、僕が入り婿として彼女の夫となる。そういう約束を交わして。

 

『育雄さん、あなたずっとわたしの中で出したでしょ? 子供が出来たら産むからね』

 

『え、ええっ!? ぼ、僕と和美さんの子供……で、出来ちゃう事も』

 

『あるに決まってるでしょ? あんなに、こんなにも愛し合ってるんだもの。わたし、あなたの子を……、あなたの赤ちゃんを産むから覚悟しててよね。ア・ナ・タ』

 

『は、はいぃ……ぼ、僕もこの歳で親になるのかぁ……』

 

 僕は、僕は昨日のあの強姦以降の、愛し合うセックスへと変わった自分と和美さんの姿を思い出す。

 

 ああ、そうだ。あの時から僕は……佐伯和美と、彼女とのセックスが、子作りのソレに変わっていたんだった。

 

 ◇

 

 本当に愛して、愛して、愛し合った。

 

 僕と佐伯和美は愛し合って子作りに臨んでいた。

 

 試みる程度では済まない、本当の子作りだった。

 

 深い深い、感じた事の無い深い愛情で満たされた。

 

『あっああァァ──あなたっ、あなたの子が欲しいのっっ、わたしっ、わたしっあなたの子を産みたいの──』

 

 本当に何がどうしてか。和美さんは僕とのセックスのさなかにあって、僕の子を産みたいと言ってくれた。自分の命を救ってくれた男の人の子を産みたいのだと。

 

 こんなにも愛してくれるあなたの子を産みたいと。

 

 僕は応えた。応えないだなんて無い。この二年、ずっと愛し続けていた女性が、僕の子を産んでくれると言うのだから。

 

『和美さんっっ、和美ィィッ、僕のッ、この僕の子を産んでくれ和美ッッ、僕はッ、僕は君とのッ、佐伯和美との子が欲しいんだッッ、前からッ、君をストーキングしていた時からずっとッ、この想いは秘めていたんだっっ、だけどっ、だけどもう我慢はしないっっ! 佐伯和美っ、和美ッ、僕の子を産め和美ィィッ!!』

 

 ストーカーの癖に、恥も外聞も無く彼女に訴えていた。

 

 佐伯和美という女に僕の子を産んで貰いたいと。

 

『あッ、ああッッ、アアッ、ああンッ、い、いくッ、おッ、い、育雄ッッ、わたしッ、わたしはあなたの赤ちゃんを産むッッ、絶対に産むからァァッッ、いく、お、……ッッすべてッ、全部ちょうだいッッ、あなたの全部ッ、わたしの中に出してッッ~~~ッあああ!!』

 

 溢れ出る愛。膨らむ愛情。

 

 これを内包した僕の精が彼女の中へと注がれた。

 

 どくんッ、どぷッ、どぷぅっ。

 

『アッアアアアァァァ──ッッ!!』

 

 力強い押し込み。重なり合う僕と和美さんの股間。

 

 その最奥で僕は彼女の子宮口を、僕自身の切っ先でこじ開け、佐伯和美という女の子宮の中へと、佐伯和美の胎内へと、直接的に、精子を注ぎ込んだ。

 

『和美ッ、和美ィィッ、僕のッ、僕の精子を全部和美の中へ注ぐッッ、全部ッ、ぜんぶッッ』

 

 どくっ、どくっ、どくんっ。

 

『あアァァァァァ~~~ッ!!』

 

 彼女の絶頂の声。とても心地の良い時間。

 

 終わらない。僕と彼女の時間は終わらない。

 

 繰り返し繰り返し愛し合った。

 

 この二年分の溜まりに溜まった想いと劣情を彼女にぶつけ。

 

 また、僕の愛を受け入れてくれた彼女に感謝し、抱き合い続けた。

 

 そうやって何度だろうか。僕は佐伯和美に膣内射精を行い。

 

 彼女もまた僕の精を全て余さずに受け入れてくれ。

 

 絶頂を迎えれば愛し合い。

 

 また絶頂を迎えれば愛を紡ぐ。

 

 そうして僕らは、僕と佐伯和美は、子供を作ろうとして、愛し合い続けた。

 

 夜を跨いで、朝を迎えるまで、執拗に。

 

 僕と佐伯和美の、子作りという名の、愛に包まれたセックスは、続いたんだ。

 

 ◇

 

「子供……」

 

「えッ?」

 

「わたしとあなたの子供、わたし達の赤ちゃん……もう、出来ちゃってたりして?」

 

「ええッ?! でも、一晩ですよっっ?!」

 

「ええ一晩ね。でも、わたしとあなたは一晩中休むことも無くセックスをしたのよ? 子供を作ろうって愛し合ったじゃない」

 

 確かにそうだ。僕は一晩中、佐伯和美と交接を交わして、彼女の中へと精を注いだ。何時間にも渡って。

 

 彼女も自ら望んで僕の全てを受け止めてくれていた。

 

 僕も和美さんも、互いに子供を望んで、愛し合い続けたんだ。

 

 ずっと、ずっと、日が昇るその夜明けまで。

 

 これで、この事で、和美さんが妊娠する可能性も、生まれた事になる。

 

 ああそうだろう。彼女の言う通り、彼女はもう僕の子を受精したかもしれない。

 

 それはまだ分からずではあっても、もう既に、僕の種は、和美さんの中に、確かに植え付けられてしまっているのだから。

 

「ね? 子供が出来ても不思議じゃないでしょ?」

 

 そう言って微笑んだ彼女の笑顔が爽やかで、風が吹いて彼女の長い髪をさらうように靡かせた。

 

 無鉄砲で思い込んだら一筋になる彼女の性向が、僕への愛として向けられた瞬間から、こうなる事は、必然だったのかもしれない。

 

 僕は、このアパートの管理人でもある。

 

 そして、二年間のストーカーの果てに、ストーカーを卒業させられた、一人の男でもあった。

 

 佐伯和美。

 

 彼女と出逢い、彼女を助けることが出来たのは、僕の人生で最も幸せな出来事だった。

 

 それは、これから続く新しい幸せの始まりの時でもあったのだ。

 

「あ、今日は早く帰ってくるからまたたっぷりとお互いを知り合いましょ♪」

 

「え、ええ、はいっ」

 

 知り合うの意味は昨日たっぷりと味わい合った。

 

 今日はまたその続き。

 

 ふと、僕の目に映る、風になびく彼女の長い髪。

 

「和美さん」

 

「なに?」

 

「少し、髪を触らせてください──いい、ですか?」

 

 その風にそよぐ髪を、僕は触りたくなった。

 

「ふふ、ええ、いいわよ」

 

 微笑んで承諾してくれる和美さん。

 

 僕は彼女の傍に寄り、風になびく彼女の髪を抑え、触る。

 

 波打つ長い髪に指を通し、昨日の様に、撫で、梳いていく。

 

「僕の、二年」

 

「そう、ね。二年分よ。たんと味わってよね。あなたの二年の想いの触り心地を」

 

 僕の指に絡まる、佐伯和美の、二年の月日を感じさせる長い髪。二年の想いの実り。

 

 佐伯和美さんの長い髪。

 

「切らないわよ?」

 

「え?」

 

「好きなんでしょうわたしの長い髪……わたしの髪はあなたの二年分の想いの証なんでしょう?」

 

 確かに切ったりされたら嫌だ。この長い髪を切ったりされるのは心苦しい。

 

 それは僕の二年分の想いが断ち切られてしまう様な気がするから。もちろんそんな事は無いのだけれど、視覚的情報が嫌でもそれを感じさせてしまうんだ。

 

 だからと彼女は言う。

 

「気になっていたと思うから伝えておくわ。わたし髪なんか切ったりしないから安心して。だからいつでも好きな時にわたしの長い髪をその手で梳いてね育雄さん。これからは二年じゃない、三年、四年と伸ばしてあげるから、ね?」

 

 和美さんはそれだけ行っていつもの明るい微笑みを浮かべた。僕と近距離の顔の位置のままで。

 

 そうか、和美さんはこの長い髪をこれからもずっと切ったりしないんですね。それはとても嬉しいです。僕の二年、僕の好きな佐伯和美の長い髪はこれからも長いままに……三年、四年と伸び行くのだと、想いはずっとどこまでも、長く伸びるんだ。

 

「あ! でも伸ばしても膝下くらいまでよ? それ以上長く伸ばすとお手入れも生活も大変だからね」

 

「はははっ、まあ確かにそうですね。膝下まででもかなりの長さですけれど」

 

「まあ、それくらいわね。育雄さん長い髪好きだし、そのくらいまでならわたしもいいかなって。まあ腰下から膝下の間くらいの長さが好きでしょ?」

 

「は、はいそうですね。でもまあ、今くらいの長さでも僕は良いですよ」

 

「ふふ、そう?」

 

 僕はそんな和美さんの言葉を受け入れて、彼女の長い髪を丁寧に触り、撫で、梳く。指に絡めて、五指の間に滑りいれ。僕の思うままに佐伯和美の髪を触り続ける。

 

「今週中に籍も入れちゃいましょ。こういうことは早い方がいいわ」

 

 結婚。本当の意味での結婚だ。この話も夕べ深く深く愛し合いながら、話し合っていた事。

 

「僕が和美さんに婿入りする形で、良いですよね?」

 

「それも散々話し合って、あなたが譲らなかったんでしょう? わたしはあなたの籍で良いっていうのに」

 

 いや、和美さんの方がずっと若いんだ。若い和美さんの方の、佐伯家の籍に入れてもらう方が良いに決まっているから。

 

「和美さん──愛しています、二年前からずっと、そして、これからも」

 

 和美さんの長い髪を指に絡ませながら、幾度目となるか分からない愛を伝える。

 

「わたしも愛してるわ──、それと、今日も愛し合いましょ──ね?……──たっぷりと時間をかけて、私を愛して、私に愛を注いで頂戴、ね」」

 

「は、はいっ」

 

 愛し合い、子供を作る続きを今日も、僕と彼女は行う。

 

 彼女の帰宅後すぐに。思い込んだら一直線な彼女の想いに応える為にも。

 

 子を作る為だけじゃなくて、男と女としての愛を、愛その物を、育み合う為にも。

 

 それは、今日も明日も明後日も、いつまでも続いていくのだろう。

 

 これからもずっと変わらずに。

 

 

短編集内の各お話と投稿予定(未定)の続きやお話で読んでみたい作品はありますか?(ご期待に副える事が出来るかどうか分かりませんが、一ご意見としてお伺いしたいと思います)

  • コードギアス
  • コードギアスR2
  • 此花トゥルーリポート
  • FF4×FF6
  • カオシックルーン
  • 学園黙示録
  • ルパン三世 ワルサーP38
  • 幕末風来伝 斬郎汰
  • ニードレス
  • ヨルムンガンド
  • 少女少年
  • 北の告発
  • サラダデイズ
  • クレセントノイズ
  • ひとひら(甲斐×理咲の近親相姦物)
  • ESアザーワイズ(戒×瑠璃)
  • 遊戯王GX(十代×カミューラ)
  • 魔装機神(マサキ×モニカ)
  • 椎名君のリーズニングファイル
  • RAVE(ハル×絶望のジェロ)
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