「ここでは話しづらい。夏と共に社長室までおいで」
それを聞いて私の中ではある予感がし始める。
(まさか、まさかね。)
社長室に着くと座るように促された。
「では条件だが、君には是非夏の婚約者になってもらいたい。」
(やっぱりですか。)
「と、父さん!?」
薄々感じてはいた。
女医と恋に落ちた谷本のおじさんのことだ。
やたらとなっつんが話していた(予想だけど)私のことは興味を示していたのだろう。
「私、お嬢様とかどこかの会社の娘とかじゃないですけど」
なっつん大好きな私としては願ってもない提案だが、この会社の今後を考えたりなっつんの意思を尊重するとなると、二つ返事でという訳には行かない。
「構わないさ。私は、君ほど美しい子を私は見たことがないし、何より7歳で一人でここまで来た行動力は素晴らしい。」
谷本のおじさんは気持ち悪いくらい私のことを褒めた。
(まぁ、美人なのはトリップ補正だと思いますけどね。)
「な、なっつんは?」
おじさんがもうこんなにノリノリでは、頼みの綱はなっつん本人しかいないのだが・・・・・・
「ぼ、ボクも・・・・・・賛、成です。」
好いてくれているんだろうな。とは思っていた。
嫌われるような行動は、呼び方ぐらいしかしてなかったし。
「マジ・・・・・・で?」
「楓も夜依が本当のお姉ちゃんだったらよかったのに。って言ってたし」
(あ、コレ。シスコンに助けられたやつ。)
「では、交渉成立だな。」
「あ、でも孤児院に連絡しないと」
「なーに私がしておくさ。ようこそ」
こうして、私はまんまと合法でなっつんの彼女というか嫁にさせられた訳ですが
「さて、では夏。久々の再会だろう。デートも兼ねて早速楓のところまで案内してあげなさい。」
「は、はい。」
耳まで真っ赤状態で、不自然にカチコチした動きでなっつんは歩き始めた。
(婚約者になったからと言って、そんな変に意識しなくてもいいのにな)
エレベーターに乗ってすぐ
「なっつん。変に意識しなくていいからね。婚約者ったって、別に好きな子が出来たらそっち行ってもいいんだから」
緊張ほぐれるかなと思ってわざと目を見て話したんだけど、逆効果だったかな。
「お、おぅ。」
なんか、落ち込まれました。
気まずい沈黙が流れる。
(うぅ。こういう空気苦手。孤児院に居た時は、こんなことなかったんだけど。・・・・・・なんか空回ってばっかだな。)
気持ちばかり焦って、行動がそれに伴わない。
現実ではよく経験したこと。
やはり、中身は変わらないか。
二次元に来たからと言って、そんな簡単に変わるものでもないらしい。
むしろ、未来に起きる出来事を知ってしまっているから、何もできないのが歯がゆいというか。
「あのさ、」
「へ?」
急になっつんが声をかけて来たので、思わず間抜けな返事をしてしまった。
「お前こそ緊張してんじゃん。」
「あ、酷っ。」
馬鹿にするかのような口調なのに、なっつんの楽しそうなクスっという笑いにさっきまでの気まずさはなくなっていた。
「どっちがだよ」
「?」
私が聞き取れないほど小声で何か言ったかと思うと
「ボクはお前のこと好きだよ。初めて会った時から。」
「な、何言って・・・・・・」
急な告白に頭がついて行かない。
生まれてこの方告白なんてしたことも、されたこともないし
そもそもこの告白が、恋愛の告白かもわからない。
でも、これだけは知ってる。
好きな人に何かされた。言われた時の感覚と全然興味がない異性におふざけとかで言われた時の感覚は全然違う。
ましてやその相手が、意図はともかく推しキャラで自称嫁と言ってる相手ならば、なおさら。
本来なら年下、かなり年下。と言い聞かせても顔が赤くなるのを止めることはできない。
「もし、今の状況で信用できないなら中学生になった頃もう一回告白してやるよ。」
「それって・・・・・・・」
マジ、なの? 遊ばれてる?
「だから、これは予約な。」
そう言って、なっつんは私の両手を握り締めるとほっぺにキスした。
「!!??」
(嬉しい、嬉しいけど。悲しいかな中身が成人してる為に犯罪臭しかない。)
その後、なっつんも私も真っ赤でまた別の沈黙が流れる。
でも手はしっかりと握られたままだった。
1階のエントランスに着くまでの間、なだんかホントに告白して付き合いはじめたカップル並みの気恥ずかしさというか、私的には耐えづらい空気が漂っていたのは前述の通りだ。
「楓ちゃんの病室ってどうやって行くの」
先に沈黙を破ったのは私だった。
「あぁ、父さんが車を用意してくれてる筈。」
(車で移動するのか、離れてるのかな?)
「って、リムジン。だと?」
(流石二次元。初めて見た。)
「夜依。ほら早く。」
なっつんに促され、恐る恐る座る。
(ヤバっ。超フカフカ。同じ車と思えない。)
「楓と母さんの病院まで」
「かしこまりました。」
(もう、母さん呼びしている。だと?)
なっつんにバレないよう、顔を引き攣らせる私。
そして、何があってもなっつんを支えてあげようと決意するのだが、その決意が揺らぐのはまだ先の話。