病院に着くと、運転手のおじさんに言いたくもないお礼を言いなっつんと降りた。
っというのも、その運転手の顔が明らかになっつんの財産を狙って銃を突き付けて来た男だったからだ。
とはいえ現状証拠はないし、グルであろう弁護士もいない。
トリップ補正で私に何か力とかあるのかもわからない状態では、迂闊に手を出せない。
そんな訳で、大人しくお礼を嫌々言った訳だが、目下の問題は楓ちゃんである。
「夜依こっちだ」
(どうしたらいいんだろうなぁ。多分治療は既にしていないだろうし、他の医者を呼ぼうにも女医が居るからなんでってなるだろうし。)
なっつんに先導されながら、道中ひたすら考える。
案は出て来た。
だが、実行出来る理由がない。
下手に動いて、私を不審がられても困る。
結局自分の保身か。と苦笑いしながら病室までの道のりを思考する。
それと、女医が谷本のおじさんを殺した手段だが、本当に毒だったのか。
現実の学生時代に習ったが、人間の慣れとは恐ろしく
毎週少しずつ塩分濃度を上げていっただけで、人を殺せるそうだ。
それが科学的に証明できるとすると、ホントに毒ではなく仮に女医の手作り料理の塩分濃度をなんとかできれば、おじさんは少しでも長生きするだろう。
長生きしてもらっている間に、万が一自分に何かあった時のことをさりげなく聞いてみるなり、書いておいてもらうなりして
原本をコピーなりで証拠隠滅させられてもだ異常なようにしとく必要もあるだろうな。
(あーもう。考えれば考えるほど課題が山積みだ。それに、万が一楓ちゃんがちゃんと治療を受けていて何の問題もなく退院出来たら?)
それが一番ではある。
なっつんシスコンだしね。
ただ、その場合二次元の掟みたいなので代わりに誰か別の人が死ぬ。または、楓ちゃんが何らかの事故などにより絶対死ぬという二択が発生する可能性はある。
「おい、何難しい顔してるんだ。着いたぞ。」
なっつんの声に我に返る。
「え、あ・・・・・・」
ノックをしてから楓ちゃんの病室に入る。
個室だから、ゆっくり話は出来そうだ。
「あ、夜依ちゃん! 来てくれたの?」
「楓ちゃん久しぶり」
成長した楓ちゃん可愛い。
「調子はどう?」
「いいよ。調子がいい時はねお母さんがコスモスのお世話をさせてくれるの」
(うぅ。そんな嬉しそうに笑われると、その人詐欺師です。なんて言えない。)
「そっか、よかったね。」
「うん。」
多分うまく笑えてなかっただろうけど、楓ちゃんが嬉しそうだからそれが返って切ない。
「あ、そうだ。」
「今度はなんだ」
楓ちゃんが珍しくたくさん話しているからか、なっつんはやれやれしょうがないな。というような表情で見つめている。
「お母さんから聞いたよ。夜依ちゃんとお兄ちゃん結婚するって・・・・・・」
「結婚ってか大きくなったら結婚するって『約束』をしただけだよ」
(もう楓ちゃんまで話が伝わってるのか、ついさっきだよね? 決まったの・・・・・・)
「なーんだ。せっかく夜依ちゃんが本当のお姉ちゃんになってくれると思ったのに。」
「じゃあ、それまでに病気治しておいてよ楓ちゃん。」
「がんばるね。」
もっとも、このまま行けばそんなことは無理なのはわかっている。
ただ、このことが例え治療が受けられていなくても楓ちゃんの延命に繋がればと思った。
苦しむのならいっそ・・・・・・とも私的には思うけど、なっつん的にはたった一人の家族だそういう訳にもいかないだろう。
「とりあえず元気そうで安心したよ。」
「ありがとう。夜依ちゃんまた来てくれる?」
「もちろん。今度はコスモスの写真持ってくるね。」
「わぁ。ありがとう。」
「じゃあ、体に障るだろうしそろそろ行くね。」
「うん。またね」
一段落した私と楓ちゃんの会話をなっつんはずっと黙って聞いていた。
病室を出て、迎えの車を待つまでの間。
「楓があんなに話すのは久しぶりだ。」
「え、そうなの?」
コクリと頷くなっつん。
やはり、お兄ちゃんには遠慮しているのかもしれない。
私が出来ることは限られてるとしても、なんとかしなきゃいけないのかもしれない。
っと言っても、この時色々考えたことは実行したけど、結果上手くいかなかった。
まぁ、今になって思えば10歳程度の子供のした行動なんて、正当なものだったとしても大人が相手にする訳ないんだけどね。
はじめて楓ちゃんのお見舞いに行ってからも色々あった。
谷本のおじさんが、いつの間にやらなっつんと同じ小学校になるように手配していたらしく転校生という扱いで、編入。
なっつんの隣の席になった。
放課後はなっつんと一緒に楓ちゃんのお見舞い。
元々オタクだっただけに、一人に慣れていた私は別に友達なんて作らなくても・・・・・・
というスタンスだったし、それよりも私的に大事なことなので、なっつんがクラスメートとの交流とかしてる時は、代わりに行ったりしていた。
そんなこんなであっという間に1年が過ぎ。
女医を含めた谷本一家との食事会とかあまり気乗りしないイベントもあった訳だが、
婚約者という建前上強制参加せざるを得ず。
でも、こんな生活をしていたらなんだかなっつんへのポイント稼ぎしてるみたいに
見えてきて、どうせ何も出来ないならこんなことしない方がいいのではないか。
なんて思ったりもした。
でも、私は純粋に楓ちゃんが好きだった。
めっちゃいい子なんだもん。