※この作品はR-18です。

JoJo 4.5部 オートマチック チェスバトル   作:常時 要

1 / 1
※ 6部で「世界の一巡」が起きなかった、2016年の世界からはじまります。
※ 主人公は 静・ジョースター です。
※ 設定が微妙に異なる場合があります
※ 筆者はチェスのプロではないので、用語は個人の受け取り方になります。
※ テーマは人間賛歌です。人間と、それ以外の生きものについて書かせていただきました。

表題について。
チェスも戦闘開始はオープニングと言います。
まさにピッタリなので名付けました。

プビリウス・テレンティウス・アフェルの言葉は、
検索すると出てきます。
原語はちょっとわかりかねましたが、将棋やチェスはローマ時代より後のことなので、原語は当時ローマでの盤上ゲームを表すものなのかもしれませんね。2200年ほど前の、人生の先輩の言葉をお借りしました。

 つつしんで、この言葉を言わせていただきます。
 それでは、どうぞ。




一話 Opening

「静・ジョースター Automatic Chess Battle」

 

 静・ジョースターは"透明の赤ん坊"だった。

 本人もうすうす気付いている。ストレスを感じると透明になり、周囲の

 

ものまで透明にしたという。機嫌が戻るにつれ、透明になったものも元に

 

戻るそうで、なんでも日本で拾われた時、いまは養父のジョセフ・ジョー

 

スターにしか当時懐かなかったそうで、そのまま自分はジョースター家の

 

養女となった。。

 そう、自分は透明になれた。

 静・ジョースターが他の十七歳の金髪白人女性と違うことはいくつかあ

 

る。1、養父が金持ちではなく、超のつく金持ちで、ニューヨークの不動

 

産王であること。2、あだ名がちょっとだけ人と違う「奇妙な」呼ばせ方

 

をしている。名前が静という日本人名のため、静がじょう、とも読める、

 

だからあだ名はジョジョ。3、当時ストレスが溜まると透明になった。落

 

ち着かせるために波紋法と呼ばれる太陽のエネルギーを生み出す仙道をジ

 

ョセフから教わったこと。だから静は擦り傷はおろか、かろい骨折ならそ

 

の場で治すことができる。格闘技も空手・柔道・剣道、大抵のものはこな

 

せた。そしてその4。

 ――まだ、透明になれるのだ。自分の意志で自由に。触れたものは好き

 

なだけ透明にしておける。

 いつまでだろうか、実験として思いつき、三年前に折り鶴を透明にして

 

机の中に入れておいたがまだ透明だ。チェックで毎日触るので鶴のクチバ

 

シが多少なりともよれている。明日鶴は透明ではなくなるかも知れないし

 

、ずっとそのままかも知れない。

 その能力を、スタンドという。スタンド名は『アクトン・ベイビー』。

 すなわち波紋とスタンド、静・ジョースターはふたつの武器を持ってい

 

た。

 

 

 

 二〇一六年 九月二十四日 ニューヨーク

 

 羽交い締めにされると中々キツイ。息苦しいし、相手はプロだ。

 ドラマやアニメでは見る。だが実際に、悪党が「ヘヘヘヘ」と笑い、そ

 

れが自分だけを嘲笑しているものだと思うとストレスが溜まる。

 静は呼吸を整え、自分の感情をコントロールした。

 五分前のことである。

 世界的な医療財団であるスピードワゴン財団。ジョースター家はこの財

 

団と少なからず縁があるらしいが、どうしてなのかは静は知らない。

 その財団が管理する銀行のニューヨーク支店に、「ジョセフ・ジョース

 

ターを出せ」と言って強盗が入ったとき、透明になって逃げる手もあった

 

し、やっつけても良かった。何しろ何も考えずに発砲した弾が見知らぬ老

 

婆の足に当たり、それを自分の名前が入ったハンカチで拭いたため賊に見

 

つかったのだから始末が悪い。まあ、わざと出したんだけど。でなければ

 

もっと人が撃たれていた。そういう雰囲気だった。

 外に待機していた執事のローゼスに知られなくて幸いだ。お嬢様、もっ

 

とご自分のことを大事にして下さい。

 「こっ、こいつだぜーっ! ジョースター家の一人娘はよぉーッ!」

 ハンカチを見せたのは自分には責任があるからだ。ジョースター家の養

 

女である責任が。それが静にハンカチを見させた。静はいきなり羽交い締

 

めにされた。

「俺たちの目的はふたつよぉーッ お前の養父をおびき寄せて身代金をも

 

らうこと! そして同時に殺してヤツの会社がメタくそになることよ! 

 

おめえも奴が来るまでは生かしておいてやらぁーっ・・・へへへへ」

 賊が胸を揉む感触。ゾワザァ、とすさまじい殺気が起きる。

 でもペンダントに触れられなくてよかった。ジョセフ・ジョースターに

 

送られたペンダントに触れられていなくて良かった。これはおよそ5年前

 

、承太郎叔父さんとその娘、ジョ倫姉さんが刑務所の面会時に事故死した

 

時以来のもの。「何かがあった時のため」だそうだが、実はまだ開けてい

 

ないので中身が何かは知らない。いまはもういない、養母のスージーQと

 

、その娘、つまり自分の義姉であるであるホリィさんも入っている、家族

 

全員集合の写真くらいだろうと勝手に思っている。ホリィさんは自分を良

 

くブルーと呼んでくれた。その代わり聖子と呼ばせられたけど。とても清

 

らかでいい人だった。

「かわいそうに、ヤツは数日後の誕生日パーティーとやらを迎えることな

 

く死ぬわけだ」

 少しの時間が経つ。彼らは甲高い声で防犯カメラは切っただの何だのと

 

話し始めた。その声の位置から、およその人数と、居場所を頭にたたき込

 

む。動きの、予定を、立てる。

 パトカーの音がして君たちは完全に包囲されている、の声が聞こえる。

 その間どさくさに紛れて、またフニフニィ、と胸を揉まれた。静の中で

 

何かのスイッチが切れた。「・・・ちょっ、さわらないでくれる? なん

 

でこんな意味のないことすんの?」

 笑いながら、賊は「スカッとするからだよ! 聖書にもあるだろ、右の

 

胸を揉まれたら左側も・・・」

「図に乗るんじゃないわよ・・・」

 静は「アクトン・ベイビー」を発動させた。

 静の姿が、消える。

 軽く、波紋を流して痺れさせ、腕の中から抜けだし一撃を食らわせ、よ

 

ろめかせる。足を払って転ばせ、銃を向こうへ蹴飛ばす。後は予定通り動

 

く、護身術程度の身のこなしだが、透明になっているメリットと、波紋を

 

流しているのでダメージが強い。連中を次々なぎ倒すのには訳なかった。

 

ほとんど全員が気絶している。

 主犯格の男に近寄る。二度も胸まで触った主犯格の男に近寄る。

 波紋法の呼吸を入れ――。

「あんた・・・銀行強盗で私を人質に取った揚げ句、胸まで触ったわね・

 

・・どさくさに紛れて・・・そーゆー必要から離れた余計かつ卑しい卑し

 

い行為には・・・そう、今からあんたに罰を与える・・・」

 技の名前は何にしようかしら。何色の波紋疾走にしよう。もっともそこ

 

まで修行はしていないのだけれど。

 名もなき波紋キック!

 主犯格の男の股間に、電流が走ったような感覚。すさまじい絶叫が響き

 

渡り、男は泡を吹いて倒れた。この男がいつ目を醒ますのかは知らない。

 

そういえば二回揉んだのだった。 思い出して、「もう一度名もない波紋

 

キック!」

 この男が生きているのかどうかは知らない。男性としては再起不能かも

 

知れないが知ったことではない。右の○○○○を蹴られたら左の○○○○

 

も蹴られるべきであろう。そこまで狙って蹴ってないけど。

 警察が突入してきて周囲を捜索する。スピーカーで人質が、とか言いな

 

がら来ている。このまま消えているとスタンドの存在がばれるとまでは行

 

かなくても、ちと面倒だ。

――静はヒーロー映画のキャラクターよろしく、死角にわざと倒れて姿を

 

現した。

 

 帰りはすっかり遅くなった。車中で会話は少ない。いつもは雑談の場な

 

のだが、何より疲れた。

「すみません、わたしがついていながら」運転しながら執事のローゼスが

 

言う。彼は二代目で、長年ジョースター家に使えてきたローゼスは引退生

 

活を送っている。日系の血が入っており、よく日本人に間違えられる。先

 

代と違い財団に籍を置いており、かなりのエリートで日本支部長を務めて

 

いたこともある。ボディガード程度ならつとまるが、静の方が戦闘力は高

 

いと本人は言う。

 いまは緊張と日常の間の時間だ。「ローゼス、なにか楽しい話をして」

 

ゲームの話でも漫画の話でも映画の話でもいい。静の好きなブロードウェ

 

イなら最高だ。

「そうですね、宇宙人は信じますか?」

 静は笑う。すこし緊張がほぐれる。「・・・いきなりすぎるでしょ」

「突拍子過ぎましたか」

「うーん、でも丁度良いかも」現実離れしていた方がこういうときは良い

 

のかも知れない。「信じる」ネットでたまに見る、神様は宇宙人とかそう

 

いうのはよく分からないけど、いることは信じる。

「おっ、即答ですね」明るい声でさっきまでの物騒な雰囲気を和らげよう

 

と頑張っている。

「目撃情報が多い。写真もある。なにより」静はそこで言葉を切ってロー

 

ゼスを見た。「宇宙から見たら、地球って、奇妙な星でしょ?」

「青くて、綺麗ですよ」

「目立つって意味。太陽系で「一人だけ」青いんだから。絶対目立つよ?

 

 文明の移り変わりはたった二千年で見違えるほど。ちょっと前まで恐竜

 

がいたのよ? 相当目立つと思うの。それも、無茶苦茶。二両先から見て

 

それと分かる漫画家の絵柄くらいにね」クスクス笑った。

「おおッ! お嬢様、それは――」

「そう、岸辺先生の名言!」ふたりは同時に発言した。

 彼女は日本の岸辺露伴という漫画家のファンであり、その著書から来て

 

いる表現だった。彼はアーティストだと静は常々言っている。

「今日のこと、お義父さまも喜んでくれるかしら・・・ローゼス?」

 義父、つまりジョセフ・ジョースターの名が出た途端、ローゼスの表情

 

が暗くなった。ため息をつき、空気のトーンが二段階下がる。

「・・・旦那様は心配しておられます」

「今日のことも?」あれほど活躍したのに。静は信じられない、といった

 

面持ちで流れる景色を眺め続けた。

 これなら、自分の歌手になりたいという希望を伝えるのも難しそうだ。

 

  

 シャンデリアの明かりが暗く感じるとお蔭で二枚の肖像画が目立って仕

 

方がない。

 ジョースター家には二人しかいないからだ。数年前に亡くなったスージ

 

ーQお養母さんの肖像画と、となりの肖像画、自分を良く「静」に青の字

 

が入っているからと言ってブルー、と呼んでくれた義姉(要するにジョセ

 

フとスージーQの娘)のホリィも、去年病気で死んで今はいない。承太郎

 

も五年前に、刑務所に送られた(今でも無実の罪だと信じている)徐倫に

 

面会に行き、そこで謎の死を遂げている。

 少し離れて、一九九九年、エジプト旅行の写真もある。

 一九九九年ごろにはみんないた、がジョセフの口癖だった。静はまだこ

 

の「みんな」の意味を知らない。

 メイド達も下がらされている、ここには親子だけだ。

「ブルー・・・いや、静」

 明日九十六になろうかという歳であるにも関わらず、その視線は鋭い。

 

たまにどう考えてもボケていると思うこともあるが、矜持は失っていない

 

。椅子から杖をついて立ち上がり、ゆっくりと近づいてくる。

 ジョセフ・ジョースター。ニューヨークの不動産王。子供の頃はイギリ

 

スにいたらしいが、アメリカに来て以来、瞬く間にニューヨークの不動産

 

王になった(経歴に一部空白があり、たまにマスコミにそれを詮索する記

 

事が載る)。政界、経済界に知人も多く、なお強い影響力を誇っている。

 

いまは老境に達したが、壮年の頃はその明るく隙のない性格がとても、と

 

ても人気があった。

「お養父さま」静はジョセフに近寄り、抱き合った。

「おお」ジョセフはいつもと違いすぐに身体を離した。「聞いたよ。すべ

 

てな」

 じっ、と見つめ合う。沈黙で充分だ。視線で分かる。それだけで親子の

 

会話は通じた。ハリー・ポッターで一部の魔法使いが詠唱無しで魔法を唱

 

えられるように、既にお互い頭の中で充分すぎるほどお互いのことを考え

 

ている。

「お養父さま、私は――」静は不満だった。すこしは誉めて貰いたかった

 

。

「わかっとる。のぉ・・・だが、スタンドを・・・使っては、ならん」い

 

きなりジョセフは切り出した。

 また沈黙が続く。いままでほとんどこの話はしなかったのに。「なぜで

 

す?」

「お前が巻き込まれるのが怖い」この人の辞書にこんな言葉があったのか

 

というくらいの言葉をジョセフは口にした。

 もう次の会話の展開が読める。だからなのか、ジョセフは驚く言葉を口

 

にした。

「わしは大統領選に出ようと思っておる」

 静は冗談かと思った。どこの世界に不動産王が大統領選に出るなどと言

 

うことがあり得るだろうか。政治家の経験はないはず。ど素人のはずだ。

 

九十六歳の不動産王にいったい誰が投票する? ニクソン大統領に「君は

 

いい大統領になる」とか手紙を貰ったワケじゃないでしょう? 知り合い

 

には政治家はいても、本人が出るなんて年齢も含めてあり得ない。

「今日は私の知っているお養父さまには見えません」静もカードを切ろう

 

と思う。これは誠意のつもりだった。「私、ブロードウェイに出て歌手に

 

なりたいんです」

「わかっておったよ」ジョセフは特徴のあるあのぼやけた中に鋭さを決し

 

て失わない上目遣いで静を見た。

「では、わしが出馬することに賛成してくれるのじゃな」

「それとこれとは・・・はっきり言いますけど、当選するとは思えません

 

」

 ため息をつき、ジョセフは話し始める。

「昔の話をしよう。といっても十五、六年ほど前のある男の話じゃ・・・

 

最初は忠告した。どうなるか結果はわかっておったからの。ここは人種流

 

の"るつぼ"だとは言うが、やはりそこまで目立つ必要は無かった。わしの

 

仕事を継ぎたかったのならな」

 ・・・だれの、なんの話?

 静はいよいよボケたのかと思ったが、ジョセフ目には精気が宿っている

 

。「髪型をけなされると、キレるらしかったんじゃ。ここニューヨークで

 

いきなりキレたらいかん。そう、もちろん、忠告したんじゃよ。わしと、

 

スージーQで、本当に、なんども、なんどもな。・・・水、飲むか」

 静はジョセフが歩くより速く、静は自分からポットに手を伸ばす。ジョ

 

セフにも勧める。ほどよく冷やされたミネラルウォーターが心地よく喉を

 

通る。静は水を全部飲み干して机に置き、ジョセフはまだ両手の中でカッ

 

プをくるくる回している。

「はじめはからかっているような雰囲気だったそうだ。あいつも何度もう

 

まくかわしたらしいが、相手はとにかく執拗だった。そして、悲劇が起こ

 

った。危惧したとおりの事が起き、髪型をからかわれて、ケンカをし・・

 

・自分の傷は治せないからな、そして命を落としたと言うワケじゃ」

 静は黙ってジョセフを見上げた。これは、自分が聞いていない事実だ。

 

今初めて耳にする物語だ。自分の傷は治せない、の部分がよく分からなか

 

ったが、波紋を知らなかったかスタンド能力が他人の治癒に関わるかどっ

 

ちかだろうというのは想像がついた。

「わしはあのころ元気になっていた、若返っていた・・・じゃが、それか

 

らまた一気に老け込んだよ」

 なんどもためらい、横を見たり静を見たりしながら、ジョセフは言った

 

。「そう、お前には兄がいたんじゃ。・・・わしにはわかるんじゃ。承太

 

郎も同じ事を考えておったろう。わしは、お前が今日たった今、逃れるこ

 

とのできない運命に巻き込まれたような気がしてならないんじゃよ、今日

 

のお前を誰かが見ていたかも知れんし、この話を聞いて誰かがお前に近づ

 

くかも知れん。もちろん、スタンド使いがじゃ」こんなに流暢に話す養父

 

を久しぶりに見たかも知れない。

 でも、スタンドを一度人前で使ったからってそんなことがあり得るだろ

 

うか。

「お養父さま、感謝はしています。私、自分の実力で、恩返ししたい。で

 

も、わたしがどうしてここに来たのかずっと知らずじまいでした。でも、

 

これからでも、何かあれば私は自分で身を守ります」

 静はすこし混乱した。いきなりスタンドを使うなと言う。それに兄の話

 

。選挙。いきなりすぎる。人前で少しスタンドを使ったぐらいで、かの不

 

動産王がいかにも大袈裟ではないか。

「お前は何も知らない。知らなさすぎるのじゃ」

「ええそうですね。五年前、承太郎叔父さんのときも何もお前は知らなく

 

ていい、って言いましたね、お養父さま」静は思い出した。嫌な言い方な

 

のは分かっているが語調が鋭くなる。「私を巻き込みたくないのなら、逆

 

に話して下さい。相手がたとえばマフィアでも、ちゃんとお話を聞けます

 

。その上で何もするなと言われればそうします。自分の意志で考えられま

 

す。教えてくれないなんてひどすぎます」

「スタンドを、使うな。ひかれあうんじゃよ。本当に、ひかれ、あうんじ

 

ゃ」

「私はそのケンカで死んだお兄さんの代わりですか?」

「静ッ! 黙っておれッ!」ジョセフは机を叩いた。しばらく沈黙が響い

 

た。

「五年前と同じ・・・もう大人なのに」

「巻き込みたくないだけじゃ」

「何に? 私何も知らない。承太郎叔父さんのことも。お兄さんのことも

 

今知った。そこにある、大事そうに飾ってあるエジプト旅行の写真はある

 

けど、何しに行ったのかも知らない。どうして財団とこんなに深い繋がり

 

があるんです?」

「スタンドは使うな。それだけじゃ」

「・・・おやすみなさい」

 部屋に戻り、なぜか涙が出た。ジョセフが自分のことを気に掛けてくれ

 

ているのも分かる。だがなぜ今、兄の話を聞かなくちゃならないのか。

 食事を採らず、ただその日は眠った。

 静は数日ジョセフに会わなかった。

 

 

 

二〇一六年 九月二十七日 ニューヨーク

 

 

 放課後、チア部の練習を見ている振りをして時間を潰す。

 この前のことを思い出す。いつものジョセフと違った。いきなり大統領

 

選挙とか、兄がいたとか、スタンド使うなとか。

 うしろから人影の気配、だれかは分かっている。

「ここにいましたね・・・ていうより、わざと見つかってくれました? 

 

・・・って、ちょっ、美味しそうですな、皮肉じゃなくて」

 静は販売部で買ったホットドッグとコーヒーを手にしている。

「昼はグリークラブでずっと歌っていたから」

「しまった、それは聞きたかった」静は本気でブロードウェイを目指して

 

いる。合唱部である、グリークラブでは一,二を争うエースだ。ポップス

 

もロックもR&Bもこなす。ラップは聴くけど自分はほとんど歌わない。

 

友人達はビヨンセの大ファンもいれば、レディ・ガガを全て歌える者もい

 

る。だから大会のソロは曲の奪い合いになる。静は八〇年代が好きなのだ

 

が、最近の曲も見つけては歌う。でないと取られるから。ヒットチャート

 

は必見だ。ローゼスに前にカラオケで聞かせたら、それ以来自分のファン

 

だという。ローゼスは静がブロードウェイに行けると信じてくれていた。

「おあいにくさま。それにしても、ホットドッグとコーヒーって楽しいわ

 

よね、食べてて」

「一緒に食べるんですか?」

「不思議と悪くないわ。パンの小麦粉の部分がコーヒーをうまく吸うから

 

かしらね。それにしてもおいしいわ」

「わたしはホットドッグはそれだけ食べて、後で熱々のコーヒーを飲みま

 

すね」

 ふたりは笑い合う。うちに来た時、承太郎叔父さんと徐倫姉さんがたま

 

に遊んでくれたが、それいがいは いつも彼が兄であり遊び相手だった。

 

ローゼスが常に敬語なのを除けば不満はなかった。

「私に兄がいること、知ってた?」

「すみません、話すなと言われてましたから」

 カサカサと包み紙を丁寧に折る。「養女なのは分かっていた。でも、い

 

つか、本当の父娘になれるんじゃないか、って思っていたのよね。でも、

 

昨日の会話で分かった。私は養女なの。贅沢言っちゃ行けないのは分かっ

 

てる。でも、わたしは、養われた、もらわれた、そんざいなのよ」

「旦那様は、心からあなたのことを・・・」ローゼスの言葉を、静は途中

 

で手で遮る

「それはわかってる。でもね、それは円の中の愛なんだな。私の周りにあ

 

る、フラフープみたいな見えない、心の色の輪。いつか消えてなくなって

 

自由になるものじゃなくて、やっぱり、養女っていう、それはなくならな

 

い輪なの。私はこの輪の中で生きていくんだわ・・・違い分かる?」

「いいえ」

「・・・でも、それでも感謝しなくちゃね。そうでしょう?」

「感謝されるお気持ちはとても立派です。そういうお気持ちになることは

 

分からなくもありません。あなたはたしかに、法律上は養女です。でも、

 

家族に迎えられたんですよ。そう、あなたは家族なんです。ジョースター

 

家の一員です。心ない他人が言うならともかく、あなたが自分でそんな風

 

にお考えになるなんて勿体ない」

「もういい。何も言わないで。おねがい」

 ローゼスはため息をつき、話題を変えた。「・・・それにしてもお嬢様

 

、この時間にホットドッグをがっつり召し上がられると、夕食のパーティ

 

ーで何も入りませんよ?」今日はジョセフの誕生日パーティーがある。最

 

後に静が歌を歌うことになっているのだ。

「行かない、つもり、ですね」

「先週のこと覚えているでしょう? こんな大事な日の前に、死んだ兄が

 

いるって聞かされたのよ。17年も・・・行く気になる? 病気だとか何

 

とか言って、うまくごまかして」

「私が叱られます」

「い、か、な、い」

「弱ったなあ・・・それでも、私にはお願いすることしかできません」

「私が透明になればもう行き先が分からない。強引に連れてこようとする

 

より、こうするのが最善だと私も思う。意見が変わるかも。有効な作戦だ

 

わ」ぱちぱち、と手を叩く。その様子にチア部の数人が振り向いた。静は

 

チア部の友人にも手を振った。ローゼスが噂されている。カッコイイアジ

 

ア系。誰アレ? ジョジョの執事よ執事。執事? コーチに怒鳴られて練

 

習が再開される。

「内緒にしていたのはアレですが大統領選には本気で出るようですよ。政

 

治界の大物も来ます。経済界からは、あなたが身につけているもの、使っ

 

たことがある大抵のものを扱っている会社の会長クラスがワンサカやって

 

きます。あと、ミュージシャンが数人。聞いたら腰抜かしますよ」

「音楽関係はうれしいけど、父の人脈を利用していると思われたくないわ

 

」

「お嬢様、人生、人脈は利用したもの勝ちですよ」

「七光りは人脈じゃない」

「それで次の日に大々的に報道されるでしょう。しばらくは身辺も忙しく

 

なるでしょう。場合によっては、私だけでは身の回りをお守りできないか

 

もしれません。それはともかく・・・」憔悴しきった表情でローゼスは切

 

り出す。「妥協案といきませんか」

「・・・わかったわ、遅刻してでも行けばいいんでしょ」

 

 

 ニューヨーク地下鉄駅。

 双方から男達が向かってくる。ホームには眠っている浮浪者が一人。

 片方は信じられないほどの巨漢だった。片方は二人組だ。ギャングかも

 

知れない。

 ぶつかったことに言いがかりを付けようと思っているようにも見えたが

 

、巨漢の方は避けるつもりが見えない。

 巨漢の方は、頭部も含めて体中に紫色の布をまとい、筋肉を露出させて

 

いる。体中にピアスだの、太いマーカーで線を引いたような入れ墨もしく

 

はマーキングのようなものが見える。

 二組の男達はそのまま避ける予定もなくぶつかった。

 とん。

 言いがかりを付けようと思っていた者は、狙い通り腕にぶつかったのだ

 

が、すり抜けた。正確に言うと、ぶつからずに、腕に『取り込まれた』。

「ジョセフ・ジョースター・・・ヤツに引導を渡す・・・それが八〇年前

 

からの因縁・・・」そうつぶやいている声が聞こえる。もっとも男は若く

 

、震動で頭の布が揺れ、まるで角のようなものが見えた。こいつは東洋の

 

『鬼』か。角の生えた人間などこの地球上のどこにもいない。

 気がつくと、ひとりの男の半身が、「なくなって」いた。

 階段をそのまま昇る『男』を見上げながら、半身が無くなった男に感覚

 

が蘇っていく。

 絶叫が響いた。

「て、てめえっ」残った男が銃を手に取る。

 『鬼』の両方の掌から「雷」が出る。ほんの数秒で、二人は感電死した

 

。

 焦げた二人の男の身体を取り上げ、『鬼』は洋服ごとをそれを、身体に

 

、まるで埋め込むように、取り込んでいった。身体にめり込んでいくので

 

ある。それは消化吸収されたがごとく、辺りには何も残らなかった。ニュ

 

ウゥ、と銃が胸から飛び出す。それはいらなかったらしい。投げ捨てる。

 その音を聞いて、浮浪者が目覚めた。

 振り返るが、誰もいない。何も残っていない。血痕だけがペイントのよ

 

うにそこにあった。

『鬼』はまた階段を上っていく。

 独り言を聞く者は誰もいない。

 

 

 

 車はパーティー会場に向かっている。

 さすがにこうなるともう少し早い方が良かったかも知れない。

 化粧の時間、トイレの時間、でもローゼスのことだ、おそらく丁度よく

 

計算しているに違いない。

 会場に向かう車の中で、ローゼスは話す。

「今日はぜひ、フレデリック・ラングブリッジという詩人の言葉を聞いて

 

いただきたいと存じまして」

「聞きたいわね」

 いきなりだと思ったが、ローゼスは居住まいを正して話し始めた。

「『二人の囚人が鉄格子から外を眺めた。 一人は泥を見た。一人は星を

 

見た。』」

 静はしばらく目を瞬いていたが、「なんて素敵な言葉・・・!」

「私もそう思います」

「それを聞いただけで希望を胸に抱かずにいられない。自分も星を見よう

 

と思う。この世に希望を持てる人間、そうでない人間がいるとしたら、自

 

分も希望を持てる側には入れることを確信させてくれる明るく強い言葉だ

 

わ」

 目の前が明るくなった気がした。

「でも、ふと、思うことがありまして」ささやかにローゼスは付け加えた

 

。

「――?」

 少しおどけて、言う。「三人目がいたら、どうするんでしょうね」

「さ、さんにんめ? ちょっ、勝手に他人の名言に言葉を付け加えないで

 

よ」

「そいつは失礼。仮にですよ。だって、この世の中二人っきりじゃないで

 

しょう。三人目はいたらどっちだったと思います?星を見るんですか、そ

 

れとも泥を見るんですか。囚人が百人いたら、偶然1人目だけが、星を見

 

て、後は泥を見るだけだったとしたら」

「そんなの、初めて聞いた」静は呆れた。この男に名言集を渡したら、次

 

の日には赤ペンで追記だらけになって返ってくるのだろうか。

「でも、もし――残り九十九人が、ああ、もう着く」ローゼスは言葉を一

 

度切って真剣に、「お嬢様、かならず、星を見続けて下さい。どんなこと

 

があっても。この世に神様がいるとしたら、星を見続ける人を応援したい

 

と思うはずですから」

 静は車を出て、窓から言った。

「お疲れ様でした、ローゼス」しみいるような笑顔で静は言った。「大丈

 

夫、多いと思いますよ。星を見る人の方がこの世界には、きっと」

 

 

 屋敷に入ってまず気がつく。

 誰もいない。

 ――今日はジョセフ・ジョースターの誕生日パーティーの筈なのに。

 床に血のシミがある。死体がないことだ。

 静は波紋法の呼吸をして、ゆっくりと階段を上がり、パーティー会場へ

 

向かう。

 ホラー映画で二階に上がったキャラは死ぬと言うが、静はかまわず走る

 

。自分を透明にして、ゆっくり歩く。

 扉を開けると、そこには――

「静、逃げるんじゃ・・・」血まみれになって倒れたジョセフ・ジョース

 

ターが、『鬼』のような巨漢に踏みにじられている。

「透明に・・・なる・・・能力・・・聞いたとおりだ・・・」『鬼』がつ

 

ぶやいた。

 異様だった。他の客は一人もおらず、ただ血痕のみがある。

 静は黙って立ち尽くす。

 その間、サイレンの音が近づき、警官隊がこの屋敷に入ってくる。

 こっちだ、とか、いそげ、など声が聞こえる。あまりの急展開に動悸が

 

高まる。

 途端に拳銃をもった警官隊が部屋に入り、銃を構える。

 広間に警官隊が満ち、『鬼』は包囲された。

 どん、と床を蹴り、『鬼』が恐れることなくこっちに向かってくる。

 どういうわけか『鬼』は自分の場所を把握していた。静は蹴り飛ばされ

 

た。バチィ、と反発するかのような音。

「・・・お前もか?」・・・なんのこと? 静はジョセフの元に近寄る。

 『鬼』は舞った。気がつくと、警官隊は一瞬で数珠つなぎのようになる

 

。手が全員、手を繋いでいるかのようにくっついているのだ。一人の額に

 

手が当たると、「吸われる」。警官隊はぺらぺらになった。残った人間の

 

皮と服の部分はそのままサンタナがまとめて、洋服ごと自分の身体に吸い

 

取っていった。それはまさに「取り込む」と言って良かった。あまりに素

 

早く時計のように滑らかな動作のため、静はこれが何かのショーではない

 

かと一瞬思ったほどだ。

 そこでローゼスが入ってきた。

「旦那様ッ!」

「いかんローゼス逃げろォォォォォッ!」

 サンタナの身体から電撃が発せられる。アニメやゲームで見る綺麗な線

 

ではない。ばちっ、と殺人的な流線を描いて瞬時に消える。

 ローゼスは倒れて動かなくなった。

「ローゼスっ!」静は叫んだ。声で自分の場所が分かったかも知れないが

 

どうでもいい。

 クルウゥ、と『鬼』がこっちを向く。

「待てッ! サンタナ!」九十六とは思えない老人の声でジョセフが叫ぶ

 

。

 サンタナと呼ばれた『鬼』はぴたりと止まった。

「静は無関係じゃ! 見逃せ!」ジョセフは、「すまん、静。波紋を切ら

 

すなよ」

 サンタナが近づいてくる。

「そうはいかない・・・ジョジョ、お前は『星の一族』・・・その娘も殺

 

せと言われている」静はジョセフが昔ジョジョと呼ばれていたことを思い

 

出す。

「『星の一族』じゃと? 誰かに頼まれたのか? 静に星のアザはない。

 

見逃せっ」ジョースター家には星のアザが遺伝的にある。静にはそれがな

 

かった。

「『定める者・・・』お前がいる限り・・・何歳でも・・・この地上に希

 

望があることになる・・・だから殺す」

 サンタナの身体の周囲に電気がちりばめられている。

 静はサンタナに向かっていった。透明になり、蹴りを入れる。サンタナ

 

は静が見えていないようだったが、蹴りを入れる時の空気で読まれるかも

 

知れない、事実そうなった。

 静はすさまじい威力で蹴り飛ばされた。肺に当たった。自分が「吸われ

 

ない」のは「波紋」の呼吸があるからだ。肺を蹴られると息が続かない。

 

肋骨も折れてるかも知れない

「静、手を」ジョセフは手を出した。「わしは・・・お前がいて、幸せだ

 

ったぞ。いまから、わしの全てをお前にやる。逃げろよ、静。戦いその者

 

を放棄しなければ、逃げていいんじゃ」ちら、と外を見る。かなり上に窓

 

がある。だが昇るのは無理だ。

 静の手から、まるで海と太陽が同時にエキスになって流れ込んでくるか

 

のような感触を感じた。静はたちどころに骨折が回復し、呼吸も元通りに

 

なっているのを感じた。

「逃げるんじゃあ静アアアアアァ!」

 ジョセフのスタンド、『ハーミットパープル』。手から茨が出てきて、

 

静を遠く、窓の外まで運び出した。外には何人もの警官隊がいた。静は窓

 

から飛ばされながら、心に誓った。

「あいつを・・・倒す。必ず仇を討つ」

 ペンダントの中から鏃の破片ようなものが出てきて、静に突き刺さった

 

。

 自分を貫いたはずなのに痛みはない。静は気を失った。

 目を開けると――そこは上も下もない、紺とも黒とも着かぬ、別の世界

 

が広がっていた。波打つように広がり、くねり、胎動し、それでいて浮遊

 

感や不安定さは感じない。

 そこにはみたこともない異形の者がいた。

 ――静は悟っていた。

 たぶん、これが自分のスタンドなのだと。

 鏃の力で見えなかったものが見えるようになったのだろう。そう冷静に

 

悟る余裕があった。

 そう、アクトンベイビー・・・アクト2。

 静はそれを、アクト・アクトと呼ぶことにした。

 

 

 亜空間と呼ぶべきか。この空間の中で自分はこの赤ん坊とも美女ともつ

 

かぬ、首に数珠のように玉が埋まっているのが印象的な異形のスタンドと

 

二人っきりでいる。

 イカガナサイマスカ、と聞かれている以上、自分が決めなければならな

 

い。でも何を?

「あなたは、私のスタンドなの?」アクトンベイビー・アクト2、すなわ

 

ちアクト・アクトは頷いた。「何ができますか?」

「強ク私ヲ支配シヨウトシテミテ下サイ」

 こんな空間を作れるのだから能力が高いのは分かるが、日本のゲームの

 

ように親切設計ではないのかも知れない。

 スター・ウォーズのオビ・ワン・ケノービのセリフが頭に浮かぶ。

 やってみるのではない、やるのだ。ケノービ役のアレック・ギネスの声

 

まで浮かんだ気がする。

 静は目の前のスタンドの頭のてっぺんからつま先まで、全て自分の思い

 

通りに動かせて当然だと思った。あなたは、わたしのもの。

 何かが頭の中に入り込んでくる。色彩と文字。

「モウ少シデス」なるほど、説明してもらうより早い。静は強く念じた。

 

あなたは私のもの。買ってきた生肉をステーキにして、好きなように火を

 

通して食べて当然と思うように。冷えたスープを温めて当然と思うように

 

。ケーキをオーブンに入れて焼くのが当然の権利であるように。オーブン

 

のクセまでが自分への贈り物であるかのように。

 それは別世界だった。初めて楽譜や、チェスの棋譜が読めた時のことを

 

思い出した。

 静はアクト・アクトを支配した。説明書は入らない。理解すればいい。

「望みを叶えるためなら、どの時代、どの世界にも自由にワープできる。

 

だが目的を果たすまではその時代から基本的には動けない。アクトン・ベ

 

イビーの新能力、"Until the End of the World(夢の涯てまでも)"」

 

「何ヲ、望マレマスカ?」

 

「父を殺した犯人への復讐を望みます。必ずやり遂げます、何をしてでも

 

、どんなことをしても」

 

 

To Be Continued・・・




 ありがとうございました。
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