「……つまり、ここで人工用の糸を作る機械を組み立てて、あっちの部署に投入します」
『…………』
「それから、一通り使った後で、こっちに戻して分解してから洗浄し、また組み立てて投入という流れの繰り返しになります」
にこやかに説明をしている事務員の言葉を話半分に聞きながら、妙に広々とした作業室をぐるりと見渡してみる。
俺は今、学校の社会見学で近所の紡績工場『ティー・エム・エム』に来ていて、事務員の案内の元で、現場中を見て回らされていた。
「あっ、ヤバそうな薬液使ってる、こえ~~」
「何これ、洗浄用の釜の温度が180℃とか、五右衛門風呂じゃん」
一緒に回っている同級生たちが、邪魔をしない程度に辺りの設備を見ながら、口々に率直な感想を漏らす。俺は口には出さなかったけど、こんな風に思い至っていた。
――何と言うか、どこもかしこも危なそうで、好んで働きたくなるような場所じゃねえな……
何でもここは、大企業がやっている作業の一部を請け負う形で、経営を成り立たせている『下請け』と呼ばれている会社だということらしい。つまり、大企業が自分のところの社員にさせたくないような、汚い仕事や危険な仕事を押し付けられる形で存続をさせてもらっている、明らかな格下企業ということ。
「…………」
正直なところ、面白くもないし見たくもないような会社だったけど、そんな中で一つだけ、俺が興味をひいてやまない部署があった。それは――
「さて、それではそろそろお昼なので、皆さん一度休憩室に戻ってご飯にしましょうね」
『はーい』
事務員の呼びかけで、先導される形で同級生たちがぞろぞろと彼女の後に続き、休憩室へと引き上げて行く。
「……」
時刻は正午、まさにうってつけの時間帯だった。
「すみません。俺、ちょっとトイレに行ってきます」
「あ、どうぞ。ですが、ちゃんと後で戻って来て下さいね」
「はい」
俺は事務員にことわりを入れると、群れから抜け出して、見学時に把握しておいた最寄りのトイレへと直行した。
「おい、迷子のフリして女子更衣室に紛れ込むんじゃねーぞ、優太!」
クラスメートの一人にそんな言葉で冷やかしを受けたけど、それでも俺は振り返ることなくトイレを目指したのであった――――
「よし、噂通りだ……」
通路を抜け、渡り廊下の先にたたずむ「便所」と書かれたプラカードが印象的な建屋を見て、俺は確信する。ここが『ティー・エム・エム』のトイレなのだと。
――それにしても、思った以上に粗末な造りだな。流石は下請け企業と言ったところか……
トイレの中に入り、その質素な内部を見渡しながら別の意味で感心する。ネットの情報である程度知っていたとはいえ、やはり実際に見てみると興奮を禁じ得ない。
――前に、見学に来ていた高校生が覗きをしたという話だが、そりゃあしたくもなるわな!
男女共用は言うに及ばず、左に二つの小便器と、右に石鹸すら置いていない洗面台。そして、正面には下の隙間が大きく開いた和式便所が二つ。もはや、一部のマニアたちに『覗いてね』と言っているかのような造りである。
「…………」
俺は洗面台の前に立ち、鏡を見るフリをしながら獲物を待つ。この会社にはこことは別に、クリーンルーム内と休憩所にもトイレが設置されているのだが、俺にとってそれは好都合だった。
――何たってこの会社、あっちのトイレは野郎とオバサンの縄張りって話だもんな!
クリーンルーム内と休憩所のトイレは男女別々で、衛生面でも比較的行き届いていたので、男尊女卑と年功序列が罷(まか)り通っていると有名なこの会社では『男とオバサンの専用便所』として暗黙の了解がなされていた。
ゆえに、この粗末なトイレを利用するのは自ずと、若い女性限定となってしまうわけである。
――しかし、俺みたいなことをするような奴が、案外近くにいるもんなんだねぇ……
ネットの情報ながら、俺が過去に覗きをやらかしたという高校生の存在に思いを馳せていた、その時だった。
「あれ。君、どこから来たの?」
ふと、ヘルメットをかぶった女性に声をかけられる。見たところ、年齢的には30歳そこそこと言った辺りだろうか。
「あ、はい。俺は今日、学校の社会見学でここに来ていて、今ちょうど休憩時間だからトイレに来ていたところです」
とりあえず、当然ながら本目的を伏せ、無難な言葉を返しておく。
「そうなんだ。だったら、しっかり見て帰りなさいね」
ギュム。
何の酔狂か、女性は俺のチンコを握るとヘルメットを脱ぎ、オールバックにポニーテールというヘアスタイルを披露してから右側の個室へと入った。
――多上(たがみ)……千花子……
俺は一瞬チラリと見えた、ヘルメットに貼られた彼女の名前を脳裏に刻む。そして、周囲に人気がないことを確認すると、速やかに体を屈めて下の隙間を覗き見たのである。
――おおっ……!
すぐに視界に彼女の――多上さんの丸尻がドドンと落ちてくる。
「は~~……」
すると、よほど我慢していたのか、多上さんは噴水のような勢いで放尿を開始した。
ジョロジョロジョロジョロジョロジョロジョロジョロ…………
――こ、これは相当に溜め込んでいたんだなぁ……
多上さんの黄色いレーザービームのような排尿姿を凝視しながら、思わず鼻息を荒げる。無駄に照明が明るく、尻の毛までバッチリ見えるその景観が、俺の興奮をいっそう掻き立てていた。
ジョロジョロ……ジョロッ、チョロッ……
少しずつ多上さんの尿が弱まり、雫レベルに収まって行く。そして、彼女が局部を拭きとろうとペーパーを取ろうとしたその時――
「………………!!」
俺は、興奮のあまり手を伸ばし、下の隙間から多上さんの尻を触って愛撫した!
「キャーーーーーーー!!!」
すぐさま多上さんが大きな悲鳴とともに、ペーパーそっちのけで立ち上がる。
「やばっ……!」
俺はあまりの大きな叫びに(小声で)驚くと、トイレを出て、逃げるかのように休憩室へと戻ったのであった。
「……」
多上さんの尻を触った手を、しっかりと口元に添えて――
見学後。帰りのバスの中で、俺はボンヤリと窓の外、煙突から工場の煙が立ち上っている様を眺めていた。
「…………」
あれから、多上さんとは昼食時間も午後の見学中も顔を合わせることはなく、ただ漠然と時間が過ぎて行った。
――結局、昼飯の味も午後の見学内容も、何一つ頭に入って来なかったな…………
今だって、いつの間にか全工程が終わっていて、気が付けばバスのシートに座している、本当にそんな感じだった。
「………………」
だけど、あの時トイレで過ごした時間と、起こした情事は忘れられそうにない。何故ならば、それこそが今回の社会見学で、俺が手にした唯一にして最高の収穫に他ならないのだから。
――また、どこかで会えますように…………
俺は多上さんとの再会を願いながら、バスの中で浅い眠りに落ちた。彼女の尻を触った手を、そっと口元に添えて――