木曜日。学校をサボった俺は、自転車を飛ばして隣町のアダルトショップに足を運んでいた。昨日、地元では置いてないような十数年前のお宝DVD(女子トイレ盗撮系)が大量入荷されたらしく、品定めの意味でここに来ていたのである。
――へへ……並々ならぬ期待に、胸もチンコも膨らむってな!
18禁コーナーに足を踏み入れた俺は、怪しげなグッズやPCゲームのコーナーを通り過ぎて、件のDVDが置いてある専用のコーナーへとたどり着く。
「…………」
しかし、そこで俺を待ち受けていたのは、期待の反動で無駄に大きくさせてしまった失望感ばかりだった。
――嘘だろ、おい……! これも、これも……これもかよっ!
パッケージの画像だけで見て取れる、無駄に粗い画質。目線にモザイクをかけていて、容姿の判別も出来そうにない被写体たち。そして『お宝』を理由に、定価よりも高くつけている値段。
――なんてこった……品定めにもなりゃしねえ、最悪の遠征になっちまったぜ!
俺は全商品のチェックを終えて、落胆のため息を吐きながらDVDのコーナーを後にする。
――やれやれ。こうなったら、せめて記念にスカトロ漫画の一冊ぐらいは買って帰るかな……
そして、戦利品代わりに何か買おうと同人コーナーに足を向けたその時だった。
「あと20分ぐらい、残っとるどすな?」
「そうですね。でも、余裕を持つ意味で5分前ぐらいには準備お願いします」
売り場の奥の方――ちょうど『SUTEKI』と呼ばれているメーカーの作品が置かれているコーナーのところで、浴衣姿の女性と店員の話している姿が目に留まる。
――あの人……女優さんみたいだな。
ふと、売り場のあちこちに女性のポスターが貼られているのに気付く。
「……」
ポスターによると、彼女の名前は『和島雪子』といって、二つ名は『浴衣の似合う女』ということである。どうやら、今日はもうすぐこの店で、彼女の撮影会が開かれるということらしい。
残念ながら、それは彼女のDVD(非スカ)を購入した人限定の特典であって、無料参加は出来ないみたいだけど。
――雪子さん、か……確かに、浴衣から覗いている太ももが魅力的で、綺麗な人だよなぁ……
ポスターと現物の彼女――雪子さんを交互に見やりながら、その艶めかしい姿に刺激され、股間が少し熱くなる。
そんな時に何の気まぐれか、幸運の女神が俺に幸せを運んできてくれたのである。
「……ほな、今の間にうち、トイレに行ってきますわぁ」
雪子さんが店員にそんな言葉を残して、店の奥にあるトイレへと消えて行く。
――ト……トイレッ!?
その言葉を俺は聞き逃しはしなかった。
「…………」
俺は店員に悟られないよう売り場を物色するかのように練り歩くと、さり気なく雪子さんの後を追ってトイレに続いたのであった――
このアダルトショップのトイレは男女共用で、小便器が一つと個室が二つという構造になっていた。しかし片方の個室――エメラルドグリーンの温水洋式トイレは『従業員専用』で、客は使用不可という、きわめて理不尽なルールが強いられていた。
そうすると、自ずと雪子さんはもう片方の個室――サーモンピンクの和式トイレを使うことを余儀なくされてしまう、という話である。
「……」
既に和式の個室には鍵がかけられていて、雪子さんが入っている真っ最中のようだった。
「…………」
何の意図かあるのか、この個室は下の隙間が40cm近く空いていて、覗き見が容易に出来る形になっていた。
――このシチュエーションで覗かなきゃ、いつするんだって話だよな……!
俺は大きく深呼吸をすると、迷うことなく床に這って大きな隙間からその先を覗き見た。すると、視界には雪子さんの局部がくっきりと飛び込んできた。
――おおっ……!
剃毛の後がうかがえる、便器の色に負けず劣らずの桃色ぶりに思わず瞠目する。
――すごい……これが、現役AV嬢の生マンか……
考えるまでもなく、雪子さんは便器を逆に跨いで使用しているみたいだったが、そんなことがどうでも良くなってくるほどに、俺は彼女の局部に魅せられていた。
「はぁ~~ん……」
プシャァァァァァァ…………
雪子さんが艶めかしい声を上げながら放尿する。その尿は黄色くて、彼女が穿いているパンティとほぼ同じ色合いだった。
――いいな、この隙間、このアングル……! まるで、雪子さんのオシッコが俺の顔に飛んできそうだぜ!
いつもと異なる桃源郷の景観に、俺はすっかり我を忘れて見入ってしまう。だが、それが思わぬハプニングを招いてしまうのであった……
「……やらしいわぁ、和式がお好きですのん?」
「!!」
トイレの中からそんな声が聞こえてきて、雪子さんが跨った態勢のまま、体を屈めてこっちを覗き返してくる。
「あ、あの……その…………」
「あやまぁ、子供やないどすか。こないエッチなことしぃはって、チンポ勃たせてますのんな?」
「いや、いや、いや」
俺はすっかり固まってしまった体で無理やり立ち上がろうとする。しかし……
「逃げても無駄やわ。うち、店員さんに報告しますさかい、あんさん防犯カメラですぐにバレてまうどすえ」
「うぐっ!」
雪子さんにはんなり口調でいとも簡単に退路を潰されてしまう。こうなってくると、もはや謙虚に振る舞う以外に術はない。
「ご、ごめんなさい……俺、根っからの女子トイレ覗きマニアで、雪子さんを見て抑制が出来なかったんです……」
俺は観念して、正直な気持ちを伝える形でどうにか許しを得ようと試みる。
「ふんふん。それは嬉しい反面、迷惑極まりない感情どすなぁ」
「面目ない……本当に、面目ない限りです……」
俺はとにかく反省を全面に押し出すかのような口調で、ひたすら雪子さんに申し訳ない気持ちを伝える。
「……ほな、お互いが納得出来そうなうちの折衷案で、手打ち言う形にしましょか」
すると、雪子さんは俺の意思を汲んでくれたのか、ようやく条件付きで折り合ってくれたのであった――
「はぁ……」
帰り道。自転車をこぎながら、重くなったカバンと軽くなった財布を思ってため息を吐く。
――結局、高い代償が付いちまったな……
トイレでの一件を経て、雪子さんは『所持金で自分のグッズを可能な限り購入する』ことを条件にして、口外しないことを約束してくれた。その結果、俺は有り金をはたいて彼女のDVDを3本と写真集を1冊、果てはエッセイ集まで買わされてしまったのである。
「…………」
残念ながら、事件の直後だったこともあって、それだけ買いながらも撮影会には参加しなかったのだけど。
――あ~あ。ここに来て、ヤキが回っちゃったかなぁ……
撮影会の直前になってわらわらと集い、雪子さんのDVDを買いながら嬉々として撮影に臨んでいたカメラ小僧たちを思い出しながら、俺はもう一度ため息を吐く。
「…………」
間違いなく俺は彼ら以上に大きなものを得たのだろうけど、同様に間違いなく彼ら以上に大きな何かを失った、そんな気分だった。
「……ま、別に良いんだけどね!」
俺は誰に聞かせるでもなくそうつぶやくと、自転車を加速させながら、少し暑い帰り道を風とともに駆け抜けた。
甘い記憶と苦い記憶を混在させて、心の中に焼き付けながら――