合宿当日。朝食を軽く済ませた俺は、荷物一式をつめ込んだバッグを肩に集合場所となるN高校を目指していた。
――へへ、何だかワクワクして来たぜ。さっさと着いて江上コーチの尻を堪能してやるかな……
だが思いとは裏腹にそれらしい建物は見つからず、俺は似たような道ばかりを右往左往してしまう。
――おいおい。まさか俺、迷子になったんじゃねえだろうな……?
師走の冷たい風に吹きつけられながら、自分の置かれている状況が少しずつ見えてきて危機感を募らせる。
――マズいな。江上コーチたちの携帯番号なんて知らないから連絡も取れねえし……
かじかむ指に息をかけながら危惧すべき現状に表情が澱んでくる。
そんな時、俺の不安を吹き飛ばすかのような大声が路地裏から響いてくるのであった。
「いい加減にしろよ! テメエの糞イラストのせいで健全なユーザーが大迷惑してるんだぞ!!」
力強さとたくましさを感じさせる声質ながらも女性と思しき声に興味を抱いて俺は路地裏へと足を運ぶ。
「あっ……」
すると、そこにいたのは声音通りの気丈そうな女性と見るからにチャラ男を思わせる軽薄そうな男だった。
――何だろう……どっかの投稿サイトでトラブルでもあったのかな?
俺が原因を聞く暇もなく女性の拳が男の右頬に炸裂する。
――ドゴオッ!
男が見事なまでに殴り飛ばされて背中を電柱に打ち付ける。
「…………」
だけど不思議と俺は女性を止める気にはなれなかった。あくまで推測だが、きっとこの軽薄男がろくでもないイラストを投稿して数多のユーザーの怒りを買ったということなのだろう。
「バカヤロー! 今さら削除なんて出来るかよ! 俺、本当にフォロワーたちから逃げられちまうよ……」
男が自分は絶対悪くないと言った具合に見苦しく言い訳のような物を展開する。しかし、それは女性の怒りにさらなる燃料を投下する行為に過ぎなかったのである――
「けっ、テメエに人間的な気持ちを期待した俺がバカだったぜ! そんなに凌辱絵が描きてえんなら……」
「ひっ!」
女性が座り込んでいる男の胸ぐらをつかみ上げ、渾身のストレートを左顎へと喰らわせる。
――ボゴオォォォッ……!!
「ぐはぁっ……」
男は絵に描いたように弾き飛ばされると、ブロック塀に体をぶつけて見事なまでに崩れ落ちてしまった。
「そのツラを引っ下げて描くんだな! ……って」
女性が吐き捨てるかのようにそう言い放ってからようやく俺に気付く。
「何だお前? 見世物じゃねえんだからさっさと失せやがれ」
「……アンタすげえな。凌辱ゲス野郎を2発KOとかビックリしたぜ」
女性から手で追い払われるような仕草を受けるも俺は率直な気持ちを彼女へと伝える。
「へえ。俺の拳に興味を持つなんて、お前なかなかイケてるな」
すると気を良くしたのか女性が俺に好意的な目を向けてくる。
ギュム!
「えっ?」
だが次の瞬間、女性は唐突に俺のチンコを握りしめると出し抜けにこんなことを言ってきたのであった――
「おい、この先にある公園の便所で俺と連れションしようぜ」
女性と一緒に入った公園のトイレは完全な個室型で、中は段差型の和式便所になっていた。
「何だお前? まだ毛も生えてねえツルツルチンポじゃねえか、可愛いもんだなぁ」
「別に良いだろ、放っといてくれ」
女性に横からガン見されながらも俺は放尿を終わらせる。そうすると、次は彼女の番である。
「よし、じゃあ今度は俺がションベンすっぞ」
「お、おう」
女性が当然のように便器に跨りピチピチの半ズボンをパンティと一緒にずり下ろして巨尻を露にする。
「アンタ大きな尻してるんだな。まさに安産型ってヤツだぜ」
「けっ、俺なんかおだてても屁しか出ねえぞ」
ブウゥゥゥゥッ!!!
女性が特大のオナラをしてから便器の上に屈む。
「うっ……」
ただでさえ臭いが強い上に完全な密室なので俺はその異常なまでの臭気で今にも倒れそうになる。
「あぁ~~…………」
だが女性は俺の事情などお構いなしと言った具合に気持ち良さそうな吐息を漏らすと、その局部から盛大に蓄積していた尿を噴き出したのである。
ジョロジョロジョロジョロジョロジョロジョロジョロジョロジョロジョロジョロ………………!
「随分と溜め込んでいたんだな。もしかして膀胱がパンパンになってたんじゃねえのか?」
俺は臭気に顔をしかめながらも身を乗り出して女性の局部をガン見する。言うなれば、先ほどのお返しというヤツである。
「おっ、アンタのマ〇コは毛が生えそろってるじゃねえか。そんだけボーボーならワカメ酒プレイが出来ちまうぜ?」
「うっせえな、そんな気持ち悪いことするわけねえだろ。あんまりジロジロ見んなっての」
「そうかい。それじゃ……」
俺は再び女性の背後に回って視線をその巨尻に注ぐ。それは色も形も大きさも申し分なく、お世辞抜きで和式便器の上に浮かんでいる姿がサマになっている代物だと言えた。
「ところでお前、そんな大荷物下げてどこに行こうとしてたんだ?」
女性が局部を拭きながら、顔も向けずにそんなことを聞いてくる。
「……」
とりあえず隠すことでもないので俺は正直に答えることにした。
「N高校さ。あそこの排球部にちょっと用があってな」
「え、N高の排球部だと!?」
すると女性が急に拭いている手を止めて俺の方へと振り返る。
「ああ。何と言うか、あそこのコーチから合宿に誘われてな。それで現地に向かおうとしていたら道に迷ってアンタたちに出くわしたって流れさ」
「おいおいおいおい……」
女性が手早く局部を拭き終え立ち上がり、水を流した後でズボンを穿き直しながら唐突に詰め寄ってくる。
「ど、どうしたんだよ急に」
「お前……本当にN高の合宿に参加するんだよな?」
女性が俺の両肩に手を添えてキスされそうな距離まで顔を近付けてくる。
「だから言ってるだろ。いちいち聞き直さなくたってそれぐらい――」
「だったら一緒にN高に行こうぜ。実を言うと俺も合宿に呼ばれているクチなんだ」
「えっ?」
いきなり予想すらしていなかった言葉が飛び出してきて思わず目を丸くする。だが女性はそんな俺に構うことなくなおも続ける。
「とりあえず自己紹介しようぜ。お前、名前は?」
「ま……間瀬優太。近所の小学校に通っている6年生だ」
戸惑いながらも俺は無難な自己紹介をする。
「へえ、優太か。俺が知ってる男の名前の中じゃ2番目に好きな響きだな」
そして、女性もまた屈託のない笑顔とともに名乗りを上げるのであった。
「俺は丸尻桃美。近所の工場で惣菜作ってる派遣社員の端くれってヤツさ」
桃美ちゃんに導かれるようにN高へとたどり着いた俺を待っていたのは誘った張本人である江上コーチただ一人だった。
「全く、いつまで人を待たせるつもりだ。既に他のメンバーはバスに乗って待機しているぞ」
「す、すみません……」
こればっかりは言い返しようがなかったので素直に頭を下げておく。
「おおかた君は道に迷ったクチで桃美は寝坊した上にどこかでケンカでもして遅くなったというところであろう?」
『げっ、図星じゃねーか』
俺と桃美ちゃんはハモリながら同じ言葉で驚きを口にする。その的を射るかのような鋭い直感は流石は射手座ということか。
「ふん、まぁいい。それよりも早く乗らんか!」
「は、はい」「だよな」
俺たちは江上コーチに急かされながら送迎用のバスへと乗り込む。これで後は出発を待つばかりである。
「優太、良い合宿になるように頑張ろうぜ」
「ああ、お互いにな」
相席となった俺と桃美ちゃんはグータッチをしながら互いの健闘を誓い合う。
「よし、これで全員集合だ。走らせてくれ」
そして、最後に乗り込んだ江上コーチの一声とともに俺たちを乗せたバスは合宿地へと出発したのであった――