合宿1日目。俺は目的地に向かっているバスの中で漫画を読んでいた。
――おっ、同級生のトイレを盗撮するなんて良い趣味してるなコイツ……
股間をビンビンに膨らませるようなサービスシーンへと差し掛かり、俺は鼻息を荒げながら熟読する。
しかし、そんな俺のささやかな暇つぶしに横ヤリが入ってくる。
「優太よぉ……俺、気分悪いんだけどなんとかしてくんねえか……」
声の主は隣の席に座っている、先ほど知り合ったばかりの派遣社員――丸尻桃美ちゃんだった。
「知るかよ。備え付けの袋にでも吐けばいいだろ」
「それがよぉ……このバスってゲロ袋が置いてねえんだよ」
「うわっ、マジかよ」
桃美ちゃんに言われて目の前の荷物入れを見てみると、言葉通りそこには常備されていて然るべきはずのエチケット袋が存在していなかった。
――おいおい、どこの会社か知らねえけどサービス悪いな!
俺は辟易しながらも手を上げて立ち上がり、バスガイド代わりに先ほどから延々と部の方針を熱弁している排球部コーチの江上に桃美ちゃんの危機を申し出る。
「すみません。俺の隣の子が具合悪いんでちょっと止めてもらえませんかね?」
「止める? 馬鹿を言え。目的地までは信号と標識以外の理由で止めるつもりなどさらさらないぞ」
だが江上コーチは当然のように俺の訴えを却下する。
「くそっ、デカ尻ババアめ……うぷっ」
隣では、桃美ちゃんが悪態をつきながら今にも逆流している未消化物たちをぶちまけそうな状況に差し迫っていた。
「なぁ、アンタ鬼かよ。桃美ちゃんが苦しんでるんだぞ?」
『…………』
俺の言葉に車内の空気が一瞬ほど凍り付く。もしかして、俺はとんでもない地雷を踏んでしまったというオチなのだろうか。
「だったらトイレに行けば済む話ではないか。いちいち私に言うことでもないだろう」
しかし江上コーチはそんなことを言いながら俺を鼻で笑う。
「だからそのトイレに行きたいから止めてくれって頼んでいるんだろ。アンタも大概おかしなことを言う人だな」
「……優太君。君たちが座っている席の少し前に大きなスペースがあって、そこに下り階段があるのは分かっているよな?」
江上コーチがため息を吐きながら俺を諭すかのようにそんなことを言い始める。
「そりゃあさっき乗った時に目に付いてるから分かってるけど……だったらどうしたって言うんだ?」
「つまりだ、その先にある個室が――」
そして、俺と江上コーチが噛み合わない押し問答を繰り広げているその時であった――
「江上コーチ! 私、今すっごくウンチがしたいです!!」
いきなり後ろの席から大胆な言葉とともに見覚えのある女の子が手を上げて立ち上がる。
「あれ、アンタは……」
「えへへ。優太君、お久だね」
そこにいたのは、かつて公園で野糞しているところを目撃したことのある野外脱糞女――奈美子ちゃんだった。
「うむ、ちょうど良かった。これ以上話していても埒が明かんからお前が優太君たちをトイレに案内してやってくれ」
「はいっ☆」
江上コーチがこれ幸いとばかりに俺の相手を奈美子ちゃんへとバトンタッチする。
「さて。優太君、桃美さん。私と一緒にトイレにレッツゴーです☆」
「あ、ああ」「何でもいいから早くしよーぜ……」
そして、俺たちはそんな奈美子ちゃんに先導される形でトイレへと向かったのである――
下り階段の先にある個室――バスに備え付けられていたトイレは非常に狭く、閉所の中で段差型の和式便所と洗面台が設置されている典型的な簡易トイレの造りになっていた。
「うぅっ、もう限界だっ!!」
俺と奈美子ちゃんを押しのけるかのように駆け込んだ桃美ちゃんが、小さな洗面台をめがけて顔を埋めるかのように嘔吐する。
「オエェェ~~ッ……グヘッ、ゴヘッ、ウエェェッ!!」
ビシャッ、ビシャッ、ビチャビチャビチャッ!!
桃美ちゃんの吐瀉物が次々と洗面台に降り注がれて黄色い残飯のプールを作り上げる。その中には未消化のラーメンや牡蠣が混じっていて、消化前の出戻りを余儀なくされていたことがうかがえた。
「全く、しょうがねえ奴だなぁ」
俺はそんな桃美ちゃんの背中を愛撫するかのようにさすってやる。その傍らでは奈美子ちゃんが便器の上に跨って、既に排便の準備を整えていたところだった。
「あはっ。ゲーゲーしてる桃美さんのそばでお尻を出してウンチをするなんてすごくエッチな気分です☆」
プシャァァァァァァァ…………
奈美子ちゃんが食前酒と言わんばかりに黄色がかった『うれション』を披露する。もちろん、その後でしっかりと肛門がご開帳されて――
「う~ん……」
ブリブリブリッ! ブリビビビッ! ビリビチャッ、ビチャチャッ!!
「すげえ……」
奈美子ちゃんの尻から豪雨のような下痢便が噴き出され、便器の中に緩くて茶色い山をこんもりと築き上げる。その中には黄色気味の粒が混じっていて、彼女が昨晩にでもトウモロコシを食べていたことがうかがえた。
「おい、くせえぞ奈美子! 人がゲロってるそばで下痢グソひり出してんじゃねえよ!」
ブボオォォッ!!
桃美ちゃんが奈美子ちゃんの便臭に抗議するかのように大きなオナラをかます。
「もう、何ですかその言い方は。桃美さんのゲロの方が私のウンチよりもよっぽど臭いですよ!」
ブゥ~~ッ、ビリリリッ!!
だが奈美子ちゃんの方も負けじとオナラでやり返す。
『…………』
気が付けば、狭い空間の中は便臭と屁臭と吐瀉物の臭いが入り混じった異臭地帯と化してしまっていた。
「おいおい、そんなのお互い様だろ。何でもいいからどっちも早く流してから口とケツを拭けってんだよ」
俺は臭気に顔をしかめながら考えなくても分かるほどの正論を口にする。
「優太……」「優太さん……」
すると、俺の言葉に納得したのか(当たり前だ!)桃美ちゃんも奈美子ちゃんも急に大人しくなってしまったのである。
「それもそうだな。せっかく吐いてスッキリしたんだし、臭いぐらいで騒ぐなんてバカバカしいもんな」
「同感です。気持ち良くウンチを出せたんだから文句は言いっこなしですね☆」
彼女たちが各々ペーパーで汚れた部分を拭いながらいそいそと事後処理に取りかかる。
――……ま、こっちは夜のお楽しみだよな!
そんな中、俺は膨れ上がった股間の処理を先延ばしにしてしまうのであった――
「優太君。先ほどは随分とお楽しみだったみたいだな」
トイレを出てから数十分後。江上コーチは俺の席に詰め寄ってきて、某ラ〇トームの宿屋のようなセリフを吐いてきた。
「そりゃあ狭いトイレで可愛い子ちゃん二人と水入らずで過ごせて楽しくないわけがないでしょう」
俺は再び考えなくても分かるほどの正論を口にする。ちなみに、当の桃美ちゃんと奈美子ちゃんはよほどスッキリしたのか現在自分の席で眠りこけていた。
「ふん、まぁいい。それよりも、あと少しで到着するからいい加減そいつらを起こしておけよ」
「あれ、もうそんなとこまで来てたんですか?」
予期せぬ言葉を受けて俺は反射的に聞き返す。
「ほら、見てみろ優太君。あそこに看板があるだろう? あれが今回の合宿の宿泊先にして、特訓場となる施設だ」
俺に分からせるよう江上コーチが窓の向こうに見える大きな看板を指し示す。
「あ、あれが……」
その先に見える光景にやや懐疑的になりながらも俺は目を凝らす。
そこには『春野温泉』という文字がピンク色の丸い字体でしっかりと刻み込まれていたのである…………