「優太っ、とっとと起きやがれこの野郎!!」
ブボオォォォォッ!!
大声と屁臭に聴覚と嗅覚が刺激され、まどろみの中から目覚めを余儀なくされてしまう。
「うぐぐっ、臭ぇ……」
合宿2日目。俺はウンザリ気味に体を半分だけ起こすと、目の前にどどんと構えている赤Tバックのデカ尻をペチペチと叩きながら先ほどのオナラの主――桃美ちゃんに抗議した。
「アンタ大概にしろよ。いくら相部屋と言ってもそれが昨日会ったばかりの相手に対する起こし方か?」
「何だよ、たかが屁ぐらいでガタガタ言いやがって。それにお前、チンポが勃ってるぞ?」
真上に乗っかっていた桃美ちゃんが俺から離れて立ち上がり、股間のデリケートな問題に突っ込みを入れてくる。
「うっせえなぁ、こんなの健全な男の生理現象だろうが。うちの二従妹(はとこ)じゃあるまいし変なところに口挟むなっての」
「へえ、お前そんな二従妹がいるのかよ。初耳だな」
後に続くように体を起こした俺は、うまい具合に二従妹に話題をすり替えながら身支度を整える。
「これが贔屓目抜きで可愛い子なんだけど、よせばいいのに夜食で大盛りラーメン食って後で盛大に戻しちまう絵に描いたような残念系美少女ってヤツでさ」
「何だそりゃ。俺としちゃあ残念どころかますます親近感が湧いてきちまったぜ」
二従妹をダシに盛り上がりながら俺たちは着々と支度を進めて特訓の方へと気持ちを向けて行く。
「よし、今日も頑張るぞ!」
「おう!」
朝の起こし方はどうあれ、今の俺にとっては桃美ちゃんこそがこの合宿において最も頼れる最大のパートナーだった。
「行くわよ~。チョーレイ!」
「わっとっとっ、スライディングトス!」
「あはっ、薙回廊ひり出しアタックですっ☆」
合宿地『春野温泉』にある体育館を思わせるような地下練習場。本日の特訓もやはり数グループでの模擬戦をメインに繰り広げられていた。
「…………」
そして、案の定俺は昨日に引き続き一人での球拾いを余儀なくさせられていた。
――ドンッ!
「優太君、駆け足っ!」
「はいっ!」
昨日と全く同じような光景に辟易しながらも俺は新しいボールをコートの中に投げ入れてからこぼれ球を拾いに行く。
――くそっ、酷い臭いがプンプンするぜ……
だが嗅覚だけは昨日との明らかな違いを俺の中にもたらしていたのである。
――つーか、俺も含めて臭すぎるだろ!
そう、あろうことか昨日はこの合宿の責任者にして排球部顧問――江上コーチの方針で、誰一人入浴をすることが許されなかったのである。
「いいか? 合宿の最終日である5日目まで、私はもちろんお前らも全員フロは禁止とする。それまでは絶対に入らんようにな!」
聞くところによると、宿泊費を減額させるための交換条件として温泉の利用制限を申し付けられたということらしい。
――いくら経費節減のためとはいえ、ロクでもないことを考えついたもんだな……
ムンムンと漂ってくる汗の臭いに顔をしかめながら俺は腕組みをしている江上コーチを一瞥する。彼女はこのムワムワとした空気を鼻腔に受けて何も感じていないのだろうか。
――全く、灰皿でテキーラを飲まされているような気分だぜ!
俺がそんなことを考えながら完全に注意散漫となっていたその時だった。
「優太さん、危ないですっ!」
背後から合宿に招待されていた排球部OB――奈美子ちゃんの声が聞こえてきて、俺は反射的に振り返る。
「えっ……?」
しかし、それはあまりにも手遅れな対応となってしまったのである。
――ボゴオッ!
全速力で飛んできた白い弾丸が顔面に直撃する。
「がはっ……」
俺はその殺人スパイクとでも呼ぶべき流れ弾にはじき飛ばされると、そのまま床に沈んでしまったのである。
「おい、大丈夫か優太!」
すぐさまミスショットをした張本人である桃美ちゃんが俺のところへ駆けてくる。
「ああ、大丈夫だ。骨は折れちゃいねぇ……」
痛む鼻を手で押さえながら桃美ちゃんに無事をアピールする。だけど、鼻の下に伝わってくる妙な違和感は否定出来なかった。
「優太さん、鼻血出てますよっ!」
「やっぱりな……」
奈美子ちゃんに言われて薄々感づいていた違和感の正体を理解する。どうやら完全に無事とは行かないということみたいである。
『…………』
俺の容体が気になるのか、他の部員たちも練習を中断してこっちに集まってくる。だが、そんなことを江上コーチが黙認などするはずもなく――
「何をしている、まだ休憩時間ではないのだぞ! 彼のことなど構わず練習を続けんか!!」
『は、はいっ!』
江上コーチの鶴の一声で部員たちがあわててコートに戻り模擬戦を再開する。
「桃美、お前もだ。さっさとコートに戻れ!」
「で、でもよぉ」
「お前は必要ない、彼の手当ては奈美子に一任させる」
俺を心配してくれている桃美ちゃんに江上コーチが冷たく言い放つ。だけど、当事者という負い目を感じているであろう彼女にフォローもなしというのは流石に頂けない。
「気にすんな、桃美ちゃん。別にビール瓶で殴られたわけでもアイスピックで刺されたわけでもねーんだ。この程度のケガなんて屁でもねーよ」
俺は顔を上向きにさせながらゆっくりと立ち上がる。既に痛みは引いていたものの、鼻血だけは延々と出続けていたのである。
「優太……」
「良いスパイクだったぜ。今度はしっかりコートの中に叩き込んでくれよ!」
浮かない顔の桃美ちゃんに向けてビシリと親指を立ててやる。少なくとも、今の俺にはこうすることが彼女への精一杯のフォローというヤツだった。
「けっ、だったら手当て済ましてとっとと戻って来いよ!」
ギュム!
桃美ちゃんは俺のチンコを一握りすると、子供っぽく舌を出した後で背を向けてコートに帰って行った。
「さあ優太さん、手当てをしに行きますよ」
「あ、ああ」
奈美子ちゃんに連れられて、俺は顔を上向きにさせたまま地下の練習場を後にする。
「優太君。くれぐれも奈美子とのツーショットを週刊誌にスクープされるんじゃないぞ」
「その時は釈明会見でも開いて肉体関係を否定してやるまでのことさ」
途中で江上コーチに変な冗談を言われたものの、その辺りは無難な言葉で切り返しておいてやった。
奈美子ちゃんがようやく鼻血の止まった俺を連れ込んでいたのは、1階の奥にあるトイレの中だった。
「その……やっぱりここが救護室代わりになっちゃうわけ?」
「当たり前じゃないですか。練習場で手当てしていてまた流れ弾の餌食にでもなったら目も当てられませんよ?」
奈美子ちゃんが緑色の軟膏薬を腫れてしまった俺の鼻に塗りたくる。
「うっ……」
その薬はいささか刺激が強かったものの、程良い清涼感をもって傷を塞いでくれているかのようだった。
「ちょっと染みるかもしれないけど、そのぐらいの方が効くと思うので安心して下さい」
「ああ、そうだよね。ありがとう」
俺は心地良いヒリヒリ感に良い意味で苛まれながら奈美子ちゃんに礼を言う。
本来ならば、手当てを済ませたこの時点で俺たちは練習に復帰しなければならないのだが――
「あ。私、ウンチしてから戻るので優太さんは先に行ってて下さい」
ふと奈美子ちゃんがそんなド直球な言葉を残して個室に入って行く。
「…………」
このトイレの個室は木製のドアと仕切りに囲われた和式便所である。そして、そのドアと仕切りはあまりにも小さく、下の隙間が丸空きで床に顔をすり付けなくても中が見えてしまう、そんな構造になっていた。
――奈美子ちゃん……!
俺は昨日の江上コーチの時と同様に下の隙間に目を凝らして便器に跨っている奈美子ちゃんの両足を確認する。
「よっと」
そして次の瞬間、俺の視界に見事なまでの桃尻が飛び込んで来たのである。
プシャァァァァァァァ…………
奈美子ちゃんが俺の視線を知ってか知らずか放尿を開始する。その色合いは透明で、送迎バスで出していたものとは明らかに異なる放物線を描きながら便器の中に降り注がれていた。
「う~っ……!」
放尿を済ませた奈美子ちゃんがうめき声を立て始める。すると程なくして彼女の肛門がモッコリと開かれて、その穴から茶色の暴雨が降ってくる。
ブリブリブリブリビリリッ!! ビリビチッ、ビチチッ!! ビリビリビリビリビリビリビリビリッ!! ブブビッ、ビリビチャッ!!
――相変わらず下痢が酷いんだな、可哀想に……
奈美子ちゃんに同情を覚えながらも俺の股間はその光景に熱いものを感じていた。
「……」
そして、気が付けば俺は床に這うようにしてその姿を凝視していたのである。
――今日のオカズは奈美子ちゃんかな……
奈美子ちゃんの尻に顔を肉迫させながら漠然とそんなことを考えてしまう。便器の縁に目を向けてみると、ところどころに彼女の下痢便が茶色の染みとなってその痕跡を刻み残していた。
「はぁ~~……」
奈美子ちゃんがため息を吐きながらペーパーを手繰り寄せ、下痢便に濡れた尻を拭き始める。
「……」
正直なところ臭いがキツくて鼻が曲がりそうだったけれど、俺は彼女が尻を拭き終えて立ち上がるまでずっと見守っていたのであった。
トイレから戻ってきた俺は、自分でも分かるぐらい先ほどまでとは別人のように冴えた動きで球拾いに奔走していた。
「優太君、行ったよ!」
先ほどまでと同様に、指示を受けたコートに新しいボールを投げ入れてはこぼれ球を拾うためにひた走る。
やっていることは一緒ながらも、奈美子ちゃんの排便姿を見たばかりの俺は明らかに士気の上がった状態でこの単純作業に臨んでいたのである。
『…………』
心なしか、桃美ちゃんと奈美子ちゃんだけでなく他の部員たちまでもがそんな俺に驚きながらも感心をしているかのような視線を向けていることを察知する。
――どうだ、これが俺のやる気モードってヤツだぜ!
気が付けば、これまで以上に俺は排球部の中に溶け込んでいた。
――へへ。これでようやく一員になれたって感じかな……
ムワムワと漂い続ける汗の臭いは激しかったけれど、そんなものはもはや苦にもならなかった。
「優太、とっととボールよこしやがれ!」
「おうっ!」
今はただ、みんなと同じ臭いを共有出来るこの空間で少しでも長く過ごしていたい、そんな気分だった。