合宿4日目。俺たちは朝からいきなりグラウンドに駆り出され、どういうわけだか座禅を組まされていた。
「いいか! 今日はまず、精神修養からだ! 今から2時間そこを動くのではないぞ!」
江上コーチの一声で幕を開けた『精神修養』とやらは、思った以上に難儀で面倒な一大行事だった。
「おい貴様! 何を眠っておるかっ!」
――バシッ!
「うっ……」
瞑目の最中、うっかり舟をこいでしまったばかりに喝を入れられたA子ちゃん。
「何だそのだらしない背筋は!? しゃんとせんか!」
――バシッ!
「ぐっ!」
背筋が伸びていないというだけで喝を入れられたB美さん。
「…………」
そんな様子をこっそり薄目で追いながら、俺は右隣に座っている桃美ちゃんに小さな声で話しかける。
――なあ。今時こんなトレーニングをするなんて、江上コーチも大時代な奴だよな。
――言えてる。大体テメエのケツも管理出来ねえ女が俺たちに向かって精神修養とかよ、全くもってお笑い種だぜ。
桃美ちゃんも負けじと小さな声で俺の話に応じてくれる。今さらながら彼女のこういう側面は嬉しい限りである。
――それにしてもお前、さっきオナニーなんぞしてやがったけど、どうしちまったんだ?
――気にすんな。最近ズリネタが多いから、どっかで発散させねーと正気が保てなくなっちまってるだけの話だ。
予想通り下ネタ系の質問が飛んできたので無難な言葉でどうにか取り繕う。もちろん江上コーチとトイレで鉢合わせた件に関しては伏せておくけれど。
――へへ、やっぱり優太も年頃の男の子ってヤツだよな。そういうところは嫌いじゃねーぜ。
――流石は桃美ちゃん、分かってくれて嬉しいよ。
俺たちは江上コーチの目を盗みながらグータッチを交わし合う。
そんな時、左隣に座っていた奈美子ちゃんがこれまた小さな声で俺たちに危機を伝えてくれるのであった。
――優太さん、桃美さん。そろそろ江上コーチがこっちに回ってくるからお口にチャックですよ。
――そうみたいだな……おい優太、静かにしとけよ。
――了解。
俺たちは再び貝のように口を閉ざして心穏やかに瞑目する。
「ほほう……他の誰よりも注意散漫そうな奴らが大人しく集中しているとは、良い意味でサプライズだな」
『…………』
江上コーチが俺たちの前を通りながら挑発的な言葉を吐き捨ててくる。
本来なら言い返してやりたいところだが、状況が状況なだけにここはグッとこらえて我慢である。
「特に誰かさんは下品な小娘が失せたおかげで大分精神を研磨することが出来ているみたいだな!」
「…………」
江上コーチの言葉が刃となって俺の心に突き刺さる。彼女は間違いなく俺を動揺させようとしているのだろうけれど、こんなことで動じるような俺ではない。
――気にするな……こんな時は桃源郷を脳裏に描いて心を清めるんだ!
不穏な言霊を右から左へ受け流し、俺はこれまでに経験してきた甘美な記憶をたどる。
「……」
その大半以上はトイレを覗いた時のものだったけど、それでもざわつく心を鎮めるには十分だったのである。
「……ふむ、流石はサジタリウスの申し子だ。少しは認めてやるとするか」
俺の姿勢に感心したのか江上コーチがそんなことを言いながら俺たちの前を通り過ぎて行く。
――何がサジタリウスの申し子だよ……俺はどこぞの宇宙船じゃねーっての!
心の中で毒づきながら俺は脳裏に延々と甘い記憶を描く。
今現在、頭の中ではちょうど1年前に俺の不手際で従姉妹がパチンコ玉を誤飲して、家中がひっくり返るほどの大騒ぎを繰り広げている光景が映し出されていた。
――あの時は大変だったよなぁ……未衣ちゃんの尻から銀玉ウンコが出てくるまで、本当に生きた心地がしなかったもんな!
そんなことを考えながら徒(いたずら)に時が過ぎて行くのを待ち続ける。しかし、その途中で俺は重大なミスを犯してしまったことに気付く。
――あ、ヤバっ……
あろうことか、排泄絡みの記憶をたどり続けているうちに、俺自身が尿意を覚えてしまったのである。
――どうしよう。俺、すっごくオシッコしてーんだけど……
俺は桃美ちゃんに生理現象を訴える。しかし――
――何だ、お前もかよ。実を言うと俺も今、すっげーションベンがしてー気分なんだよな。
彼女もまた、湧き起こる尿意を堪えていたのであった…………
――なぁ優太、そろそろ2時間経った頃じゃねーのかよ?
――俺が知るかよそんなこと。少なくとも江上コーチが途中退出を許してくれるはずがねーんだから、終わるまで我慢あるのみだな。
――……俺、ぶっちゃけウンコもしてークチなんだけどな。
――マジかよ。
どうやら桃美ちゃんの生理欲求は俺の斜め上を進んでいるようだった。
――あぁ~~腹が痛ぇな、チクショウ。
――全く、いつも脂っこいものばっかり食ってるから下しちまうんだぜ。
桃美ちゃんをたしなめながらも俺は自分に迫り来る尿意を前に膀胱を引き締める。偉そうなことを言いはしたけれど、この状況を思えば所詮は俺も同じ穴のムジナと言うヤツである。
――へへ。この展開なら終わったら俺たち即座に便所ダッシュになっちまうよな……
――ああ、それは間違いないだろうよ。だから今はしっかり耐え忍べって話さ。
――だよな……よし、だったら俺は時間まで好きな男のことでも考えて気を紛らわすとでもするよ。優太、また後でな。
桃美ちゃんはそこまで言うと口を閉ざして完全に黙りこくってしまう。
――けっ、誰だよその『好きな男』って奴はよ……まぁいいけどさ。
少しだけ嫉妬に駆られたりもしたけれど、俺はすぐに気持ちを落ち着けて終了時間までをやり過ごすことにした。
「…………」
そこからは先ほどまでの甘美な追憶から一転、俺は遠い昔に流行ったと言われているビー〇ングのヒットナンバーを脳内再生させながら時が満ちるのを待ち続けたのであった――――
「よし、2時間が経過したのでこれにて終了だ! これより15分ほど休憩時間とする!」
静寂の中で江上コーチの声が大きく響き渡る。悠久のように思えた時間だったけれど、どうやらようやく終わりの時を迎えてくれたみたいである。
「や、やったな、優太……まさしく俺たちの勝利だぜ…………」
「ああ、これは大げさでなく歴史的快挙と呼べるレベルの偉業だぜ…………」
俺と桃美ちゃんは限界が迫っていた下半身を震わせながらゆっくりと立ち上がる。
「……どうしたと言うのだお前たち? ま、聞かなくても見当はついているが」
「あはっ☆ つまり、そーゆーことですよねっ」
江上コーチと奈美子ちゃんに両脇から声をかけられたものの、それさえも耳に入れる余裕がない。
「行くぞ、優太……」
「お、おう……」
俺たちは一つ大きく深呼吸をすると、残った余力を振り絞って執念の全力疾走を披露した。
『うおぉぉぉぉぉ――――――っ!!!!!!』
その先にある、トイレという名のオアシスを求めて………………
合宿地である春野温泉の1階にある男女共用トイレに駆け込んだ俺たちは、我を忘れるほどの勢いで体内の老廃物を便器めがけてぶっ放していた。
「うおぉっ、ケツが爆発しちまうぜ!!」
ブリブリブリブリブビビ!! ビリビチチッ!! ブリュッ、ビリュッ!! ビリビチチッ!!
俺が小便器に放尿しているすぐ後ろで、桃美ちゃんが和式便器に跨って大胆なセリフとともにビチビチの下痢便をまき散らす。
――桃美ちゃん……
言うまでもなく俺は頭を振り向かせ、個室の下の大きな隙間から見えるその光景をバッチリ瞼(まぶた)に焼き付けていた。
「はぁ、はぁ、ひぃ、はぁ…………」
ブリュブリュブリュッ!! ブリビッ、ビリビチチッ!! ブリブリブリブリブッ!! ブババババッ!!
桃美ちゃんの大きな尻からなおも下痢便の豪雨が激しく吹き荒れる。これは察するまでもなく相当に溜め込んでいたみたいである。
「あ~~~~」
ジョロジョロジョロジョロジョロジョロジョロジョロ…………
桃美ちゃんが気だるそうな声を上げながら放尿を開始する。その色合いは黄色がかっていて、昨日にでも彼女が栄養ドリンクかリ〇ルゴールドでも飲んでいたことが窺えた。
「……んっ!」
ブゥ~~ッ、ブリリリリッ!!
放尿の後で桃美ちゃんが間髪入れず大きなオナラをかます。
「うっ……」
それは下痢状態での放屁だったので、臭いはすぐにトイレ一帯を包み込む悪臭と化してしまっていた。
「なぁ優太。お前、さっきからそこで俺のケツを覗き見してチンポ勃たせてるんだろ?」
「野暮なことを聞くなよ。桃美ちゃんみたいな子のトイレを覗いて勃起させるのは男として当然の務めじゃねーか」
放尿を済ませた俺は床に這い、下の隙間から手を伸ばして桃美ちゃんの尻を撫でてやる。
「よ、よせよ。そんな触り方されたら感じちまうだろ」
「何言ってんだよ、感じさせてやろうとしてるに決まってんじゃねーか」
桃美ちゃんがまんざらでもなさそうだったので、俺は一層ねちっこい手付きで尻に手を這わせてやる。
「くそっ、好きにしろ……その代わりケツを拭く邪魔だけはすんじゃねーぞ!」
「分かってるよ、今はお触りだけで満足しておいてやるさ」
こうして、俺は束の間の休憩時間に桃美ちゃんのデカ尻を心行くまで堪能したのであった。
「ゆ、優太さん……大胆な痴漢ですね、いやん」
いつの間にやらトイレに来ていた奈美子ちゃんの存在に、気付くこともなく――――