「うわ、くっさ。何かアンモニアを撒き散らしたような悪臭だよな、これ」
「そうだな。……ったく、人がいなくても管理ぐらいしとけよって感じだぜ」
建物の内部から漂ってくる臭気に顔をしかめがら俺たちは口元に手を添える。
俺は今、休日を利用してクラスメートの元気系女子――羽月翔真と一緒に、彼女に付き合わされる形で空き家散策を余儀なくされていた。
「なあ優太。確かここって、前に漫画家たちが暮らしていた共同住宅だったって言うんだよな?」
「ああ、そうらしいぜ。詳しいことはよく知らねーけどさ」
翔真の質問に無難な返答で受け答えておく。正直なところ全く何も知らないわけではなかったのだけど、一応は女の子である彼女の手前、あえて不必要な知識は伏せておいたのである。
――とりあえず……この空き家が昔『望気荘(のぞけそう)』とか言う名前のアパートで、暮らしていた作家陣が全員エロ漫画家ばかりだったってのは聞いたことあるけどな!
鼻腔を責め立ててくる刺激臭に段々と鼻を馴染ませながら俺はキョロキョロと辺りを見渡してみる。
「…………」
見たところ、人気どころか猫の子1匹潜んでいる気配すら見受けられそうにない。
「……何か気味悪いな。昼間だってのに妙な悪寒がするぜ」
「おいおい、どうしちまったんだ優太? まさか急に怖気づいたって言うんじゃねーだろうな?」
ギュム!
ネガティブ気味な言動が気に食わなかったのか、翔真の手が俺のチンコに伸びてくる。
「何だ、別にビビってチンポが縮んでたわけじゃねーのかよ。だったら大丈夫だよな?」
「と、当然だろ。これぐらいのことで委縮するほど俺のタマはヤワじゃねーんだよ」
「よしよし、それでこそ優太だ。それじゃあ僕について来な」
翔真が親指で部屋の一室を示しながら俺を先導する。
「あ、ああ……」
本当は一抹の不安を感じていたものの、翔真の勢いに完全に呑まれてしまった俺は、結局そのまま彼女について行ったのであった――
漫画家たちが使っていたであろう部屋たちは鍵がかかっておらず容易に入ることが出来たものの、その中には何もなく、どこの部屋も空洞状態だった。
「チェッ、どこもかしこも『もぬけの殻』ってヤツかよ。期待して損しちまったぜ」
「まさかどこの空き部屋にも掘り出し物の一つすら置いてないとはな」
予想以上の期待外れっぷりに俺と翔真はこの上なく落胆する。まるで、どこぞの塔の最上階まで行って見つけた宝箱の中身がカラッポだった時のような気分である。
「で、どうするんだ? まだこの中を見て回るつもりか?」
「いや、ここはもういいだろ。とっとと出ちまおうぜ」
どうやら翔真の方も興味が尽きていたようだった。
「全く、面白くもない空き家のせいで無駄な時間を過ごしちまった……」
そして、軽いノリで毒づいていた、その時――――
――グルルルルッ、ギュルギュルギュルギュルゥ!!!
ふと、彼女の腹部から警告音が響いて来たのである!
「う、嘘だろっ!? くそっ、腹痛ぇ……」
翔真が腹痛に顔を歪めながら前屈みの体勢を余儀なくされる。見たところ、これは相当の波が押し寄せていると考えて間違いなさそうだった。
「大丈夫か? お前、脂汗が流れちまってるぞ」
「と、当然じゃねーか……こんなの全部出しちまえば屁でもねーよ……」
翔真が苦笑いを浮かべながらよろよろと階段を下ってトイレの方に歩みを進めて行く。
「おい優太。ボサッとしてねーで、僕について来いよ……」
「お、おう……」
俺は翔真の表情に心中を察しつつ、そんな彼女を見守るかのように後に続いたのである…………
3階まである空き家の中で唯一1階に存在していたトイレは男女別々に分かれていたものの、男子側の入り口ドアが完全に施錠されていたので俺たちは止む無く女子トイレの中にいた。
「うわっ、マジぃ!? 聞いてねーぞ、こんなの……!」
「そうか? 俺としては、このあばら家にしちゃあ結構マシな造りになっていると思うぞ」
内装に仰天する翔真とは対照的に、俺は好意的な見解を口にする。
「見ろよ。少し錆びついてはいるけど、床も壁も天井も思ったよりキレイだし、水も使える上に消毒液とエアーシャワーまで付いているみたいだぜ」
ピンクを基調とした空間の中で手洗い場の水を流しながらありのままを翔真に告げてやる。
「……」
だが、彼女が見ていたのがそういう部分ではなかったのは、火を見るよりも明らかなことだった。
「そうじゃねーだろっ!その辺りは良いとして、なんで和式便所なのに個室のドアがこんなに小さいんだよっ!」
「ああ、そっちか……」
俺は少し目を逸らしがちに個室へと歩み寄る。
「なんと言うか、こんなんじゃあ見る気がなくても目に付いちまうよな」
そのドアは仕切りと呼ぶにはあまりにも小さくて、使用時に下の隙間から尻が丸見えになることは想像に難くなさそうだった。
――誰が作ったのかは知らねーけど、全くもって良い趣味してやがる!
俺は口元を緩ませながら限界が迫っていた翔真に一刻も早く使わせてやろうと試みる。
「だけどお前、もう腹ヤバいんだろ? だったら四の五の言ってねーでとっとと使っちまえよ、ほら」
俺は両手を小さく振りながら翔真に前衛的なトイレの使用を促してやる。
「くそっ、分かってるよ……分かってるけどさ…………!」
すると次の瞬間、全力の蹴りが俺の股間に飛んで来たのである。
――グジャリッ!!
「ぐあぁっ!?」
ズボン越しながら靴の先端がタマにめり込む感触に、思わず声を上げながらうずくまってしまう。
「あーあ。こんなトイレ使っていたら誰かさんに僕のお尻を覗き見されちゃうぜ」
「えっ……」
「ま、全力で金蹴りした詫びの意味でお尻ぐらい見せてやっても構わないかな」
だが、蹴りを見舞った張本人である翔真はそんな俺に目もくれず意味深な言葉を残すと、当然のように個室へと入って行ったのである。
「ちくしょう! もう限界だってーの!」
便器に跨った翔真が大あわてでズボンとパンツをずり下ろし、その体を屈めて排泄の体勢に入る。
「…………」
気が付くと俺は床に這い、その光景を逃すまいとしっかり個室の向こう側に目を向けていた。
――プリッ……
すると、すぐに引き締まりながらも丸くて官能的な翔真の尻が視界に飛び込んでくる。
――へへ。スポーティなコイツらしい良い形の美尻だぜ……
その尻に興奮を覚えながら俺はチンコをビンビンにたぎらせる。
「うぅっ……!」
一方の翔真は俺の視線など気にかけている余裕もないと言った感じのうめき声を上げると、その美尻の穴を大きく開いて豪雨のような糞便をひり出したのであった。
ブリブリブリブリブビュルッ!! ビリビリッ、ビチチィッ!! ブリビリブリビリブビビビッ!!
――すげーな……まるで便器の中に茶色のシャワーが降り注がれているみてーだ…………
翔真の排便ぶりに感心しながら俺はなおも至近距離からその尻の膨らみに目を凝らす。
「ふぅ……」
ジョロジョロジョロジョロジョロ…………
おそらく翔真は俺が覗き見していることに勘付いてはいたのだろうけど、それでも構うことなく放尿を開始する。
――よし、今だ……!
俺はすかさず手鏡を取り出して隙間から忍ばせ、上手い具合に翔真のマ〇コが見える位置へと調整する。
――おっ、見えた!
そして、鏡が黄色いオシッコを放出している翔真の局部(剃毛済み)を映し出したその時であった。
「あらよっと!」
ブウゥゥウ~~ッ、ビリビビッ!!
凄まじい爆音の放屁が俺の顔面に浴びせかけられる。
「ぐはっ」
俺はあわてて顔を背けて立ち上がると、激しく咳き込みながら嗅覚に残っている刺激臭に涙した。
「決まったね!」
個室の中からオナラを見舞った張本人である翔真のドヤ顔ならぬドヤ声が聞こえてくる。
「おい、いくらなんでも酷いじゃねーか。下痢状態の時にオナラを浴びせてくるなんてうちの従姉妹みたいなことしてくるんじゃねーよ」
「ふん、人がウンチしてるところを見ながらチンポ勃たせてるような奴に言われたくはないね!」
翔真が悪びれることなくそんなことを言い放って尻を拭き始める。
「……」
流石にそれを再び這ってまで見てやろうとは思わない。
「……もういっちょ嗅ぐかい?」
「いや、嗅覚を壊したくないから勘弁するぜ」
俺は翔真の誘いをやんわり拒絶すると、少し離れた位置から彼女が尻を拭き終えるまでの姿をじっと眺め続けていた。
――翔真。俺……
未だムクムクとそそり立つチンコに手を添えて、今夜のオカズを何にするかをハッキリと決めながら――――
帰り道。近くの食堂で遅めの昼食にあり付いていた俺たちは、テーブル席で互いの頼んだメニューを見やりながら皮肉を飛ばし合っていた。
「おい翔真……さっき腹を下した奴がそんなもん食うとか、正気なのかよ?」
「うっせーよ。お前だってイカれたようなもん食ってんじゃねーか」
俺が翔真のチョイスした『大盛り天ぷら定食(スイカ半玉付き)』に対して横槍を入れたなら、翔真の方も俺の頼んだ昼飯に手厳しい突っ込みを入れてくる。
「はは。何だかんだ言っても僕たちはお互いさまってヤツだよな」
「そういうことだ。ほら、早く食わねーと冷めちまうぞ」
「ああ、そうだな」
それでも俺たちは見つめ合いながら微笑むと、空腹を満たすべく互いの昼食に全神経を集中させる。
「いただきます」
俺は柄にもなく食前の挨拶をすると、迷うことなくスプーンを手に自分の頼んだ昼飯を食べ始める。
それは、和式便器の形をした皿に盛られた究極の嗜好品――『ブリブリハヤシライス』という名の素敵な代物だった。