期待していた通りだった。
冷めやらぬ興奮が神経を駆け巡り、視界を埋める白いキャンパスへペンが走り出す。
繊細な濃淡で立体が浮出し、大胆な螺旋の軌跡が花模様に変わる。
もっとドレッシーに、もっとコンテンポラリーに。
コルワの体は今、脳髄から沸き起こるアイディアを世界に体現させるためだけの一機関に過ぎない。
工房を介して女性騎空士向けドレスのデザインを依頼されたのは、行き先を失っていた飛矢に的が突っ込んできたようなものだった。
「ふふ……」
安穏と島のアトリエで暮らしていたかつての自分だったら、空と船、騎空士たちへ手探りの取材から始まっていた。
夕暮れを過ぎた空を静かに進むグランサイファーの中で、コルワの部屋の床は描きとめられたデザインで足の踏み場もない。
ぎらついたオレンジ色のドレスには丸みを帯びた紋様で太陽の暖かさを内包し、青空色のドレスには白い直線を斜めに走らせ静謐な緩急をつける。
深い夜の蒼をしたナイトドレスに、他の色は必要ない。浅く入れたスリットから始まる脚線と、レースから覗かせる上腕とデコルテで、優美と妖艶の狭間を漂わせる。
人はなんのためにドレスを着る? 自分を煌びやかにするために。誰かの視線を釘付けにするために。
依頼した女性騎空士と、コルワの年齢はそう変わらない。ならば、コルワがこの船で過ごした喜びに、同調できるところがきっとあるはずだ。
(私の中にある騎空士、騎空団)
時に誰かのために、時に自発的に。時に危機に陥っても、同じ方向を向く仲間がいる。明暗激しい日常、千変する景色、文化、人、生き物……。
見聞き、味わい、体感して、混ざり合ったものが、光輝いているのは何故だろう。コルワが蓄積してきたプールの中心に、一人の男がいる。
「……やっぱりキミって、最高ね……」
この世に生を受けたアイディアに囲まれながら、コルワはベッドへ身を投げ出した。聞こえてくるのは、コルワが長く吐き出す一息。
ルーチンワークからとっくに外れた時間だったが、楽しくて仕方がなかった。
しばし豊かな達成感と興奮に包まれていたが、コルワの切り替えは早かった。体を起こし、床に散らばった紙を一つにまとめる。
片づけを終えた。かすかな眠気があったが、このまま一日を終わらせるのは、どこかもったいない気がした。
コルワは口に人差し指を当て、現時刻を確認。笑顔で思考を終える。
コルワが身に着けているのは、いつもの白鳥のような魅惑的なドレス。廊下に繰り出し、船の食堂へと向かう。
夕食の時間を終えた食堂には淡く明かりがついており、席は半ば埋まっている。奥で竪琴を奏でるニオの音色を邪魔しないように、けれどもバックミュージックにはして、皆はささやかな会話に花を咲かせていた。
(いい時に来たみたいね。さて……)
コルワの手には一本のワインボトルが握られている。以前、顧客から頂いたものだった。食器棚からグラスを拝借、席には馴染みの女子もいたが、今日は声をかけずに一人晩酌をするつもりだった。
特段、コルワはお酒が好きという訳ではない。味のいい赤ワインを選んだのも、少量で満足するためだった。
淡い光の中で赤ワインが注がれたグラスに口をつけるコルワの姿は、劇のワンシーンのように絵になった。物語が進むなら、ここで主役の男が声をかけにくるだろう。
「隣り、いい?」
コルワはしたり顔で、声の方へ流し目を送った。
ルリアとビィは既に夢の中。しかし、壁の厚い食堂でニオが夜日課をし始めると、グランも他の団員と同様足を運ぶことが多くなっている。
コルワに声をかけたのは、単純に彼女が席を一人にしている光景が珍しかったからだ。
グランにとっての、コルワという女性。
ドレスデザイナー。とはいえ属性力の扱いは団内でも群を抜いており、荒事も得意。
ロゼッタほど魅力と母性を振りまかず、カタリナほどたくましさと信念を前面に出さない。しかし洗練された美貌に男は振り向き、確かな技術と妥協しないプロフェッショナリズムに門前市を成す。
そんな彼女がメーテラやクロエなどを――クロエはこの時間大体就寝しているが――を伴わずにグラス片手に一人でいる。
「どうぞ。なにか用?」
「いや、珍しかったから。何かいいことあった?」
(あら)
言い当てたグランに、コルワは少し目を丸くした。
「正解。どうしてわかったの?」
「いつもより綺麗だったから」
(ぶふ)
コルワは口内の液体を飲み込んでいた幸運に感謝した。グランの脊髄反射の発言に対し、食堂の雑音にならぬよう笑いを口元で止める。
「……ふふ、なにそれ? もしかして口説いてる?」
「え!? いや、そんなつもりじゃ……その、嫌だった?」
(自分がおかしなことを言ってるなんて、微塵も思ってなさそうね)
コルワが微笑ましい瞳でグランを見ると、当の本人は少しバツが悪そうに頭を掻いている。
「別に。少し時間あるかしら?」
「ん? あるよ」
「それじゃあ、あなたも飲み物を」
グランはミルクをつぎに行く過程で、ニオと目が合い微笑みかけられる。グランがコルワの対面に座ると、軽妙だった音の粒にテヌートが付き始めた。
「当ててみて」
「え?」
「私がどうして、機嫌がいいのか」
「……デザインの仕事が、うまくいった?」
「ふふ。あたり。君にも礼を言わないとね」
「どうして?」
「今度のデザインは、騎空士をイメージしたものなの」
「ああ」
グランは得心したように声を弾ませる。彼女がグランサイファーの部屋を間借りしたときのことを思い出す。
「一緒に旅をしてることが、役に立てたのかな?」
「そういうこと。もちろん、今回の仕事に限った事ではないけどね。本当、この騎空団はネタの宝庫よ。みんな個性が強すぎるもの」
「あはは……そっか、そっか……本当によかった……」
するとグランは少し目線を伏せた。顔は微笑んでいるが、言葉尻がつたない。
「どうしたの? いつもの明るい団長さん、って感じじゃないわね」
「え、そう、かな」
「なにかあった? 話してみなさいよ。気分もいいし、相談くらいのってあげるわよ。それとも私じゃ、あなたの力になれない?」
小首を傾げるコルワに、グランは慌てて首を振った。
「そんなことはないよ。……えっと、じゃあ、いいかな」
「ええ、教えて」
グランは頬を掻き、少し恥ずかしそうに口を開く。
(ふーん。暗い悩みってわけでは、なさそうね)
「えーと、実は友達の友達の騎空士の話なんだけど……」
(グランの事ね)
グランが言うには、その友達には好きな人がいるという。
年上で、綺麗でかっこよくて頼りになる女性。しかし、おそらく相手は自分のことを異性として見ていない。
「仲間として依頼を共にすることはあるし、信頼はされていると思うんだけど……。今告白しても、多分断られる。だから、もっとその人に、男として見てもらいたいんだ、てね」
「ふーん。そのお友達って、女性をデートに誘ったりはしたのかしら?」
「……いや。中々忙しい女性だから」
「ダメね」
「え」
「全然ダメよ、今告白しても断られるからしない? まあ千歩譲ってそれはいいとしても、そう考えてるならどうして成功率を高める努力をしないの? デートに誘って女性をエスコートして、いつもの自分とは違うところを見せてときめかせないでどうするのよ。論外だわ。女々しくてしょうがない」
酒の入ったコルワのスイッチを入れてしまったと、グランは思ってももう遅い。
「そもそも成功が保証されている告白なんてないんだから、その女性の好みを把握して気分を高め合って告白を演出する努力をしなさいよ。自分のことを理解してくれて努力してくれる異性なら、よっぽど外見や性格に問題がない限り邪険になんてしないわ。異性として見られていないなんて何の問題でもない。告白されて始まる恋なんて全空にあふれているわっ。そうっ、そうよ、いつもは頼りになる仲間としか見ていなかった相手が急に自分を女性として見てくれて、"もしかしたら"と女性も気付くのよ。今まで男と女なんて考えてもいなかった関係が、これから始まるのではないかと想い始めたところで素敵なデートをエスコートされて、"まだ一緒にいたい"ってところで花束と一緒に告白されたら、コロコロっと完全無欠のハッピーエン」
「コルワ、声、声っ」
「あっ」
と、食堂の雰囲気を壊す寸前でコルワは声のトーンを落とし、軽く咳払いをする。
「とまあ、こんなところかしら。そのお友達と女性の特徴を教えてくれればもっと突っ込んだアドバイスができるけど、どうかしら?」
「あはは、いや、今ので十分だよ、ありがとう」
グランは憑き物が取れたような顔をしている。コルワも相談相手がグランだから、多少の星晶獣くらいどうにかしてしまう彼だから、これ以上は言わなかった。
「もっと開き直って行動するように……友達に言っておくよ。悩むのもいいけど、勇気を持って行動しないとね」
「そうね……はい」
コルワがグラスを持ち、グランへ向ける。グランはきょとんとしていたが、
「そのお友達に幸運を、乾杯」
はっとしてグラスを持ち、合わせてチンッと音を鳴らした。
お友達、いや、グランが好きな相手とは、誰だろうか。
年上で、綺麗で格好良くて頼りになる。
(中々絞られてくるわね……)
魔物討伐をグランに誘われたコルワは、最後尾から先頭のグランを眺めている。
年上で綺麗となれば候補は数多だが、格好良くて頼りになるとなれば限定しやすい。
「来たよ、皆! コルワ!」
「は~い! もうちょっとドレッシーにしてみよっか!」
白い糸に載せて放つ風の属性力で、前方2人の身体能力を強化していく。
「団長さん、背中は任せてください!」
例えばリーシャなどどうだろう。剣技と統率力は団内でも随一で、騎空団の運営統制にも深くかかわっていると聞く。
グランとの相互信頼は見るだけでわかる。背中あわせになりながら敵を排除し、リーシャが突出すればグランが全体を見、逆にグランが前に出ればリーシャが号令する。
(でもどっちかというと、リーシャの方がグランの行動にドギマギしてるわね)
戦闘中だったが、コルワは集中していないわけではない。元来感情に左右されやすい魔法強化術、鼻歌を歌うぐらいの心情の方が本領を発揮しやすい。
ゴブリンの拳がコルワへ迫る。属性力の障壁で防御したが弾き飛ばされる。しかしコルワは舞姫のように回転しながら着地し、空中で編み込んだ属性力を皆へ送る。
「華やかに彩るわ! ブランシェ・フィル!」
光を纏ったグランがゴブリンを武器ごと斬り伏せ、回りを見渡し緊張を解いた。
「これで終わりだね。お疲れ様」
「やったな相棒!」
「無事に終わってよかったですー!」
ビィとルリアが笑顔をグランに向け、リーシャも剣を収めてグランへ歩み寄っていく。
しかしグランの視線は、一歩引いた位置にいるコルワに向いた。
「いつもありがとう。怪我はなかった?」
「あれぐらいなんてことないわよ。お陰でいい案が浮かんだわ。ありがとね、団長さん」
言いながら軽くウインクすると、グランは返事をしつつ少し頬を染めながら目線を横にした。ビィが腹を抱えて笑っている。
(ふふっ本当免疫ないんだから。メーテラの気持ちがわかるわ)
騎空艇に戻れば、別行動していたカタリナが出迎えた。ルリアが嬉しそうに駆け寄る。
「お疲れ様グラン、ルリア。そちらも無事終わったようだな」
微笑み合うグランとカタリナ。さて、カタリナも候補に入るだろう。
(付き合いとしては一番長いのよね。もしそうだとしたら、障害は多そうね)
カタリナの隣では、ヴィーラが笑顔でビィを牽制している。
(けどこうして改めて注視してみると、彼、本当に人気があるのね)
カタリナ以外眼中無しと団共通認識のヴィーラですら、グランの前では表情が柔らかく感じる。
(ルリアちゃんも、イオちゃんも……)
常に傍を離れないルリアはもちろん、イオやロゼッタもグランが船に戻ると駈けつけてくる。グランへの態度はそれぞれ仲間の域を出ないが、果たして彼以上に心を寄せる男性が、彼女たちの心の中にいるかどうか。グランがその事実に気付いているかどうか。
コルワはそう思うと、先ほどのウインク程度で頬を染めるグランが中々かわいく見え、次いで優越感もわいてくる。グランの年相応の、少年としての表情を垣間見ることができた。
(ふふ、またしてあげようかしら? さて……)
コルワのやることは変わらない。船の部屋を借りている者としての務めを果たし、今頭を駆け巡る衝動をキャンパスに描き出す。
グラン達と別れ、部屋に戻り、ペンは進む。
アトリエに常駐していた頃と比べ、工房との情報伝達には大きな差がある。しかし、そんなデメリットを物ともしない創作意欲と成果物が、今の騎空団のコルワにはある。
(本当に、正解だったわね)
小休止、スピンドルを回し、細長い綿を糸にしながらコルワは想う。
この部屋を借りてから、様々な地域、仲間と出会い、大切な友人もできた。仕事も予想通り、今まで以上の充実ぶりを見せている。
(これ以上の幸せってあるのかしらね。団長さんは、新しい幸せを見つけたみたいだけど。て、まだ早いかしら)
コルワは目を細めて、昼間行動を共にした少年団長を思い浮かべた。
(よっぽど見込みのない相手でない限り、そう悪い結果にはならないでしょうね。そもそも皆、君に惹かれてこの騎空団に入ってるみたいだし。恋人、か……)
コルワは純度100の初心な乙女、とは言い切れなかった。人間観察を趣味としている故、人の悪意や偽心は見極めできるつもりだったし、人の情は時に、本人ですら理解しきれない複雑怪奇なものだと理解している。
しかし、ふと思うことはある。いずれコルワも、終生の伴侶を得るときが来るだろう。どんな人物なら、いいだろうか。
まずは、コルワの仕事に理解がある男性だ。地域によって女性は家内にて、なんて考えがあるが、コルワの価値観からすればありえなかった。それを受け入れている他人を殊更に否定する気はないが、ドレスデザイナーをしていない自身など想像ができなかった。
とはいえ、女性的な幸せは思い描く。そもそもコルワの心の根底には、ウェディングドレスを着て幸せな笑顔をする花嫁がいる。
(いずれデザインして、私も着る時が来るのかしらね。その相手は……)
花嫁姿のコルワの手を取る相手、逆光から解放されて浮かぶその相手は、
『いつもありがとう、コルワ』
「……うわ」
コルワは手芸具を置き、眉間に人差し指を当てた。もっと年頃も近くて、美形の男性は団にいるだろうに。十歳近く年下の少年が浮かぶのは、レディとしてどうだろう。
(さすがに、ねえ……それに彼には、もっと相応しい女性がいるでしょう。共に空を股にかけ、彼の隣で剣を握る、そんな女性が――)
ペンを手にとり、キャンパスに線を描く。これ以上ないほどに集中できる。何枚もの紙が輝く価値を持って部屋へ舞う。
幾多のドレスを書ききり、ペンが止まる。コルワの唇が空き、そしてまた閉じた。
(ハッピーエンド……ね)
夜が来た。また夕食の時間を過ぎてしまった。コルワは今日の仕事を終え、食堂に向かう。扉を開けると、またハープの音色がする。
コルワは目線を横に動かした。いない。いや、いた。音色の発生源、ニオの隣で、グランは気持ちよさそうに弾いている。今日は二重奏だった。
(そうね、彼女もまた……)
今日はメーテラとスーテラ二人に付き合ってもらおう。コルワは微笑みながら歩き出した。
また大きな依頼を終えた。グランサイファーを遥に超える体躯の星晶獣を相手に、グランは真っ向から立ち向かい、黒銀の翼をもって文字通りねじ伏せた。
同じことができる騎空団がこの空にどれだけいるか、依頼主らの報酬は、団員全員がバカ騒ぎしても有り余るほどだったようだ。
星晶獣の脅威によって閉鎖されていた交通も解放され、今グラン達が宿泊する街はお祭り騒ぎになっている。
コルワもその渦中にいる。コルワが見ていたグラン達と星晶獣との戦いは、それだけで劇場の演目になるほどの大活劇だった。
グランは今日眠れぬ夜を過ごすだろう。いやらしい意味ではなく、平和を取り戻した要因である彼は、仲間と街人から送られる、祝福の中心に居続けるだろう。
コルワは渦から外れ、一人街を歩いている。目当ての住宅を見つけるとノックして名乗り、扉が開くのを待つ。
出てきたのは若い男だった。コルワの顔を見て驚いている。
コルワは男に頭を下げ、謝罪する。この若い男は、コルワを指名してウェディングドレスの依頼をしていた。まさか星晶獣騒ぎの同日にコルワが来るとは思わなかった若い男、また島を跨いで直接謝罪しに来たコルワへの対応は柔らかい。
コルワは謝罪を終え、家を後にする。特に観光する予定もないので、騎空団が泊まる宿に戻ることにする。
道中は緩やかな登り坂になっており、コルワはふと横に広がる景色を見た。夕暮れが終わろうとしている空の下、活気ある街並みが広がっている。
「あ、いたいた。おーい」
「? わっ」
景色の上から降りてきた声に、コルワは驚いた。メーテラだった。
「なーに一人で黄昏てたの? いい男にでも振られたのー?」
「残念、お仕事よ。もう終わったから、行く?」
「あー……今日は先約があるのよ。コルワにね」
「そう……え? 私?」
「そ。このまま坂を上って、宿とは違う道に行ってあげて。男の純情、ちゃんと受け止めてあげるのよー。じゃ、また後でね」
「え、ちょ、メーテラ……行っちゃった」
有無を言わせずメーテラは飛んでいき、コルワはまた一人。
(男の純情? ……メーテラを言伝に使うなんて、誰が……)
男の純情とはなんだろう。コルワの予想の中に、その光景はいやおうなく沸き起こった。
『友達の友達の騎空士の話なんだけど……』
坂を上がる。宿とは違う道へ。街を一望できる丘に、彼はいた。
「……コルワ」
「……どうしたの?」
グランは笑みを作っていたが、わかりやすく緊張していた。肩が強張っている。服や仕草を見るに、慌てて取り繕った節がある。グランが宴から出るには、多くの障害があったに違いない。
メーテラ以外にも、コルワを探すように彼が頼んだ団員がいるかもしれない。そこまでして、コルワをここに呼んだ理由とは。
コルワはもてるし、人の色恋は何度も見てきた。今グランが瞳に宿している色もまた、何度も。
グランは両手を背中に回している。まるでコルワに見られたくないものを隠しているように。赤い花びらがはみ出ている。
「ずっと……言いたかったことがあるんだ」
「……」
「綺麗で、芯が通っていて、自分がやっている仕事に誠心誠意で、いつも皆を気にかけてくれる。いつからか、そんなコルワのことが……」
星晶獣を倒したグランの声が、震えている。彼にとっては、人生で初めての経験なのかもしれない。
「コルワのことが、す」
パァーンッ!!
「「……!?」」
グランの背後の街並みから、花火が上がった。何度も断続的に上がり、夜の空をカラフルな光が彩る。
瞬間、コルワの心の中が真っ白になった。一人の男の純情に集中していた神経が、爆音に麻痺する。
逆にグランは、心臓の波が穏やかになった。意欲的で、活気ある笑顔に変わる。
グランは花火の音に負けないよう、バラの花束を差し出し、叫ぶように言い放った。
「コルワが好きだっ! 付き合ってください!」
コルワから見える光景。花火が上がる街の夜景をバックに、花束を差し出すグラン。
至上の喜びとは、なんだろう。刺激のある毎日、満足のいく達成感。
そのどれとも違う、今コルワの神経を駆け巡るのは、一瞬の鼓動。刹那の静寂。
全ての現実を承諾したとき、コルワは、
(嬉しいと思ったら、負けね)
花束を受け取り、グランの笑顔に負けぬ笑みを浮かべた。
「お受けします。これから、よろしくね」
花火が上がり続けている。これ以上はないと思っていたグランの笑顔が、瞬く間に色を増していく。
コルワの胸の高鳴りは、収まりそうもない。もっと上に行ける。もっとさらに上のハッピーエンドに行ける。そのために、コルワはグランに歩み寄る。
「え、あ」
コルワが瞳の色がはっきりとわかる距離まで来た。残念ながら、目線は少しコルワの方が高い。
「好きよ、グラン」
囁くような声に、グランは目を見張った。そして覚悟を決め、コルワの背中に手を回す。コルワは花束を持ったまま、グランに身をゆだねる。
互い引き合うように、目をつむり、顔を近づける。
唇が、ゆっくりと触れ合う。心から起こる甘い熱と、相手の体から感じる温もりが混ざり合い、じんわりと、だけど刺激的に、愛おしく幸せな気持ちが広がっていく。
「……はっ、……」
「ん……」
唇が離れる。コルワはうっとりとして、グランは息をコルワに吹きかけないようにして。
グランにとって、あまりに刺激的過ぎた。回した腕に感じるのは、コルワのむき出しの背中。ほんのりと胸板に感じるのは、彼女の柔らかな……。
欲しい、彼女が欲しい。もっと。だけど、告白したばっかりでそんな、いいのだろうか。
紳士的に、勇気をもってそれを言い出せるか。葛藤の中、ある意味で純粋すぎる本能が、グランの背中を押した。
「……もっと、コルワが欲しい。コルワの全部を……」
言いながら、ゆっくりとコルワの髪を上から下へ撫でていく。一度、コルワがぴくりと震えた。
コルワは楽しそうに軽く笑い、
「せっかちね……しょうがないんだから」
そう言いながらグランへさらにすり寄り、グランの唇を人差し指で押す。
人差し指が離れる。
花火の音が消える。素肌の二人は暗い宿の一室にいる。花束が机に置かれている。
グランがコルワを抱きしめ、コルワはグランの首に手を回した。グランはコルワに衝撃がいかぬよう、ゆっくりとベッドへ押し倒す。
「ん…………」
唇が繋がり、柔らかな水音が響く。コルワが少しだけ角度を変えながら、足をグランの足へ絡める。
一度キスを終えたグランの息は荒く、抱きしめた手を放し、コルワの胸へ手を伸ばす。
「あん……♪ ん……」
今度はコルワからキスをする。浅く空いた唇がグランの唇を包み、グランの唇の境目を舌でなぞる。
(コルワの……! 舌が……!)
甘い味を堪能するため、グランも舌を出す。
(うふっ……)
コルワは嬉しそうに舌を絡め、グランと接合を開始する。コルワのねっとりと撫でる舌に、グランは少し緊張しているようだった。
チュル……チュル……レロッ……チュルル……。
「んん……ぷはっ……どうお……?」
「……すごい……」
グランの呆然とした声に、コルワは淫靡に微笑む。グランは無意識なのか、既に陰茎をコルワの下腹に擦り合わせている。
コルワは少し視線を下にして、
「私のも、してくれる?」
グランがごくりと喉を鳴らしながら頷く。グランが下へ移動しようとしたところで、コルワが「待って」と肩を軽く叩いた。
「君のもしてあげる、ほら……」
コルワはグランを横に寝かせるようにして、グランとは体の上下が逆になるように寝転がる。コルワの目の前にグランのそそり立つペニスが。グランの目の前に、コルワの濡れそぼったヴァギナがある。
もう、言葉はいらなかった。グランは口全体で包むようにして、コルワは指先で撫でながらキスをして、互いの愛撫を開始する。
(これが、コルワの……!)
(ふふ……大きいじゃない……!)
ぴちゃぴちゃと、割れ目に沿うように舐め始めるグラン。
コルワは親指と人差し指でわっかを作り、棒を上下にゆっくりとしごき出す。亀頭にキスを繰り返し、時に裏筋のカリ首に舌を這わせて、軽くえぐるように愛撫していく。
(あっ……!)
未知の快感に根を上げそうなのはグランだった。だけど、自分だってコルワを気持ちよくさせたい。どこが感じるのか、痛がらない刺激の強さは、コルワの体の震えを感じながら、徐々にコルワを理解していく。
(グラン……本当に優しくて、激しいわね……じゃあこっちも)
「んもっ……ちゅうう」
コルワは唇で亀頭を包み、吸い出すようにちゅうちゅうと吸引していく。グランの膝が笑う。コルワは指で竿をしごくのをそのままに、グランが分泌する我慢汁を喉へ導いていく。
グランもまた、やられるだけではなかった。目を引き絞りながらも、コルワの硬度を保った陰核を舌で撫で、
(あっ……そこはっ……!)
コルワの体がピクリと震えるのを確かめ、割れ目に浅く舌を入れて、甘い蜜を吸うような吸引と、舐め上げる愛撫を繰り返す。
「じゅるるっ、ちゅる、コルワっ、でちゃっ!?」
「あむっ、ちゅるる、いいわ、らひてっ、わらひもっ……! じゅぶっ、んんんっ!」
……ビュルルル! ビュルルル、ビュルルル……。
ビクビクビクビク! プシュッ……!
絶頂の波を、愛撫としてぶつけ合うように。グランはあふれる蜜を舐め続け、コルワは白濁液を吸い続ける。
「んくっ……んくっ……はぁ……はぁ……」
コルワはグランのものを飲み干すと、絶頂に震える体をベッドに投げ出した。じんわりとかいた汗が、ベッドに染みを作っている。
復活はグランの方が早かった。グランはコルワと同じ体の向きになり、硬度を取り戻したペニスのまま、コルワに覆いかぶさるようにして見下ろす。
コルワは片手でグランの片頬を包みながら微笑み、
「イかされちゃった……やるじゃない」
「!? ……ごめん、もう」
「ふふ、いいわ。来て……たくさん、愛してね」
「……!!」
グランがコルワの股を開き、男根をあてがう。ゆっくりと肉の感触を味わいながら、収めていく。コルワは少し顔を横に向け、目をつぶって耐えるように「んんっ」と喘いだ。
グランは歯を軋ませた。気持ちいい。気持ちよすぎる。コルワの口も天上の心地よさだったが、今感じているのは何だ。ペニスがあらゆる方向から暖かく瑞々しいもので包まれ、くにゅくにゅと柔らかくもみほぐされているかのようだった。これで動いてしまったら、すぐにはちきれてしまいそうだ。
余裕のないグランを、コルワが愛で追い打ちをかける。グランの首を腕で抱き、自身の体へ密着させる。
コルワの色欲にまみれた微笑みが、グランの目の前にある。コルワのおっぱいが柔らかい。胸板に感じるくりっとした感触は、コルワの乳首だろうか。腰が、コルワの足で抱かれている。
「我慢しなくていいわ、私もしないから。大好きよ……ちゅう」
唇が繋がり、舌が絡み合う。もう、グランの腰は我慢しなかった。ペニスも手足も、体のありとあらゆるもの全てで、コルワとセックスする。
カリ首が膣壁を抉りながら入口まで引き、また子宮口まで一気に突き込む。
「ちゅぶっ、んんああぁんっ!」
唇が離れ、コルワの快楽に喘ぐ顔が目の前に。腰が止まらない。気持ちよくて止まらない。早く、早く、もっと、もっと。
「好きっ、好きだっ、大好きだっ、コルワっちゅるっ」
グランからコルワに舌を突き入れ、コルワをきつく抱きしめながら腰を打ち付ける。コルワの腕がグランの背中をきつく抱く。コルワはグランの舌と唾液をじゅるじゅると吸いながらも、瞳は薄く空いて焦点があっていない。
肉のぶつかりあう音と水音が響き、重ねった影が一部分だけ激しく動き続ける。
(我慢も、何も、グラン……私の、グラン……!)
コルワは白黒と点滅し続ける視界の中で、一心不乱にグランを吸い続ける。膣が震え、ペニスが震え、体全体が震え、もう、耐えきれない。
(大好きよ)
ビクビクビクビク! ビクビクビクビク!! プシュップシャアァ……チョロロロ…………。
リズミカルだったグランの体が、ガクガクと不規則に震えた。コルワに包まれたペニスがぐちゅぐちゅと締め上げられ、奥へと導かれ、そして、
ビュウウウウウウッ!! ビュルルルッ、ビュルルル、ビュルルル……。
ゴプッ……ゴポ……。
グランとコルワの繋がれた口と、繋がれた性器の合間から、二人の混じり合った液体があふれだしていく。
世界の全てが壊れてしまいそうな絶頂の中で、グランとコルワはただ相手を締め上げ、すり寄り、吸い上げる。
「……ちゅる……ちゅる……」
コルワはほとんど無意識で、口内でピンと張ったグランの舌先を、舌でゆっくりと撫でた。グランもまた抱きすぎた力をやっと緩める。絶頂の波が緩やかに引いていき、思考力が戻ってくる。
「ちゅぷ……はぁ……。ふふっ、壊されるかと思っちゃった」
「ごめん……凄すぎて、やめられなかった……」
「謝る必要なんてないわ。最高だったもの……でも」
「うっ!?」
コルワが腰をくねらせる。グランは陰茎を刺激されぴくりと震える。
未だ膣内は確かな感触、コルワはグランの若さに、発情した笑みを隠さない。
「まだまだ、夜は長いわよ」
「……もちろん」
グランからキスをして、コルワは唇の角度を変えながら舌を絡めて応える。
互いの腰がまた、官能的な音を奏でていく。しゃぶり味わいつくし合うような愛情表現を、二人は夜が白みだしても、飽きることなく続けていた。
コルワの軽やかな鼻歌で、グランはゆっくりと覚醒した。薄目を開け、歌の方に視線をやると、コルワは上体を起こして、スケッチブックを手にペンを走らせている。
「ふあ……おはよう」
「あ、おはよ。ちょっと待ってね。今いいところだから」
(……コルワらしいな)
グランも上体を起こし、コルワの横顔を見つめた。真剣で楽しそうで美しく、かわいい。
「あ、そうだ。ちょっとそのままでいて」
コルワはそう言うと、グランの下半身を覆う毛布を剥いだ。グランが「え」と声を出している間に、グランの足の間に背をむけて座り、グランへ軽く体重をかけて背もたれにする。お互い生まれたままの姿だったが、コルワはまた「ふんふーん♪」と歌い出してドレスを描いていく。
コルワの尻がグランの陰茎へ押し当てられていたが、コルワは気にしないようだ。グランはいやらしい気持ちをあきらめ、コルワのお腹に手を回して抱きしめ、コルワの肩の上からブックを覗く。
「いいアイディア沸いた?」
「ええ。でもまだ、足りないものがあるわね」
「なに?」
「んー……」
コルワはペンの羽先を口で咥え、離すとグランへ顔を向けた。
「素敵なデート。アドバイス通りだと、これが足りなかったわ。あ、友達の友達の話だったかしら」
グランは顔を赤くし、少し目を伏せてしまった。それが面白いコルワは、唇を尖らせてグランの頬に吸い付いていく。
「ちゅ……団長さんの今日のご予定は?」
「あ、えっと、明日まで空けてもらったよ。ルリアもカタリナと観光しにいくし」
「そ。じゃあ、しばらくは、私のグランね。それじゃあ、さっそく街へ行きましょうか。でも、その前に……」
「うっ」
ペンとスケッチブックを置いたコルワが、尻でグランのペニスを撫で上げる。
「……ね?」
コルワの甘美な囁きに、グランは口づけと、激しい純情で応える。
「んっ、さっきの何のドレス?」
「秘密♪ ちゅる、あん……ふふ、あなたを喜ばせるための秘密は、してもいいでしょ?」
彼とこれから紡ぐ物語の結末は、どれほどのものか。きっと予想から大きく外れ、期待を遥かに上回るものだと、コルワは確信している。