小林さんちのトールさん 作: 池田
鳥が鳴き。
朝日が差し込む。
頭が痛い。
「小林さん?」
そして彼女の声がする。
目を開けると、いつもの光景が目に飛び込んできた。
ここは私の寝室。
それはわかる。
そして私は今ベッドにいる。
それもわかる。
だが一つだけ、わからない。
「小林さぁん」
トールがほぼ素っ裸で私の上に乗っている。
これが、わからない。
「……何してる」
「乗ってます」
「何に」
「小林さんに」
「降りろ」
「いやです」
なんだこれ。
夢か、幻か。
それにしちゃ状況も感触も何もかもがリアル過ぎる。
と言うか、私はいつの間にベッドに……?
「そもそも小林さんが言ったんじゃないですか」
「言ったって何を……」
「メイドなら夜伽の一つや二つやってみやがれー……って」
「あー……?」
んなこと言ったつもりは、と言いかけて言葉を飲み込んだ。
無論、そんな記憶はない。
そしてこれから言う気もこれっぽっちもない。
だが、これは『普段なら』の話だ。
「大変だったんですよ、昨日は小林さん酔っ払って」
「あぁ……」
記憶が再構築されていく。
そうだ、昨日は飲み会だった。
ビールだの日本酒だの紹興酒だのあれだのこれだの。
とにかく、浴びるように飲んでいた気がする。
週末だと思って、いつもより調子に乗っていたことも思い出した。
つまりそこから導き出される答えとは。
泥酔した私がまた余計な事を口走ったということだ。
あぁ、もう……。
どうしてこう、いつも私は……。
でも飲まないとやってられないんだよなァ……。
「小林さんがそこまで言うならと私も覚悟を決めました!」
後悔する私などお構いなしに、トールは私の上に居座り続ける。
「だけどこうしてベッドに潜り込んだら……どうなったと思います?」
「知らん、どいて」
「あろうことか小林さん熟睡じゃないですか!もぉー!」
「そうか、どいて」
「私の昂ぶった体はどうしたらいいんですかぁー!」
「無視すんな」
で、今に至ると。
とりあえず、寝てる私を襲わない程度の理性は残っていたらしい事に感謝しよう。
しかしそれにしたって……どうしよう……。
「あ、でももう朝だから夜伽にはなりませんね……」
「いや、そう言う話では無いかと……」
「でもめんどくさいので襲っちゃいます」
「おい!」
ダメだ、この状況に追いつくには二日酔いの頭じゃ分が悪い。
ついでに体勢的にも分が悪い。
と言うか今襲うって言わなかったか?
「大丈夫です!優しくしてあげますから!」
「だからそう言う問題じゃない!どーけー!」
「いー!やー!でー!すー!」
今更言わなくてもわかると思うが、当方処女である。
恋愛経験も、はっきり言ってほぼ無い。
小学生時代の甘酸っぱい思い出……なんてのはこの際除外だ。
しかも相手は竜。
竜。
竜!
私より胸でかいけど竜!
人ですら無い!
つまりピンチ。
大ピンチ。
貞操の危機だ。
「一生添い遂げますからぁー!」
「だーからそう言う問題じゃないと言ってるんだぁー!」
服を脱がそうとする彼女。
それを阻止せんと全力で抵抗する私。
しかし悲しいかな、こちらは下等で愚かな人間風情。
対する相手は異世界の怪物である。
力の差は歴然だ、比べるまでもない。
という訳で、哀れ私の纏うシャツは一瞬で布の破片と化した。
誰かたすけて。
「ふふぅ……前から思ってましたけど綺麗な体してますね小林さん」
恍惚とした表情で私を見下ろす彼女。
その目は完璧に狩る者のそれである。
「どこから行きましょうか?やっぱり胸?それとも首……いや、もういきなりあそこから……」
「ちょっと聞いて……ひっ!」
「やっぱり、じっくり慣らしてからですよね」
私の都合など全く意に介すること無く、彼女は私の首に舌を這わせた。
ぞくり。
今まで経験したことのない感覚が、体の底から駆け上がる。
「ちょっ、ほんとに、やめっ」
「やめません」
「ひぁっ……!」
喉を。
下顎を。
彼女の舌が何度も皮膚の上を往復していく。
振り払おうとしても、体に力が入らない。
「ついでに耳も……」
「~~~っ!?」
耳の穴に、トールの長めの舌が侵入してくる。
瞬間、とてつもない快感が私を貫いた。
それはもはや衝撃と言って良かっただろう。
中で彼女の舌が動く度に、ぐちゅ、ぐちゅと淫靡な音が頭に直接響き渡る。
脳を直接犯されているような、そんな感じ。
一瞬で私の体は彼女に支配された。
「や、やめっ……!」
「こばやひ、ひゃん……耳が弱点れふね……」
「だ、だめ、本当に、トールッ、ぅ……!」
あぁ、耳ってこんなにすごいのか。
この切迫した状況にも関わらず、どこか変に冷静な自分がいた。
「だめ、なんて言ってても体は正直ですよ小林さん」
「い、まなら……まだ、許してやるから……やめ」
「はむ」
「ひゃんっ!?」
「もう諦めてください小林さん……私、もう止まりません」
私の耳を口に含みながら、彼女が喋るものだから。
言葉を発する時の、その不規則な口の動きに私の全身が翻弄されてしまう。
あぁ、もうダメだろうな。
私はいよいよ諦め始めていた。
だって、こいつが本気出したら私なんか。
私なんか、簡単に食われてしまう。
策を弄する暇もなく。
抵抗する力もなく。
絶対的な暴力に、飲み込まれていく。
「ん、小林さんの味……」
「あ、ぁっ……!」
そうか、私は大きな勘違いをしていたんだ。
私は彼女の主人で、彼女は私のメイドだけど。
それもやはり普段の話。
今、彼女は捕食者で。
私は獲物なんだ。
目をつけられた時点で、雌雄は決していた。
私に残された選択肢は一つだけ。
食べられるしか、ない。
「あはっ、やっと力が抜けてきた」
「は、ぅ……」
「じゃあ、そろそろ……」
火照った私の体を、彼女の指が滑っていく。
胸を通り過ぎ、腹を撫で回し。
一旦足の方へと行き過ぎて、太腿のあたりを何回か往復した後。
とうとう、私の大事な場所へと到達した。
濡れそぼった襞の上を、彼女の指がゆっくりとなぞっていく。
「もうこんなに濡らして……」
「あんなの……んっ、誰だっておかしくなる……」
「私の舌、そんなに気持ちよかったですか?」
「それは……」
「ね、教えて下さい」
「そ、の」
言葉に詰まる私の顔を、まっすぐ覗き込んでくる彼女の目。
不思議な色をした、爬虫類のような、目。
私の全てを見通すような、その視線は。
最後に残された私の僅かな理性を、全てぶち壊していった。
これも、ドラゴンの能力だったりするんだろうか。
まぁそんなことは、最早どうでもいいんだけど。
「……トール」
「はい?」
「……おいで」
「……っ小林さん!」
覚悟を決めた、と言うと少し変だけど。
もうここまで来たら、私だって治まりがつかない。
どうせ今日も明日も休みだ、こうなったらとことん。
いけるとこまで。
いってしまえ。
「ん……は、んぅっ」
「ふぁ、んっ、こばやひ、しゃんっ」
彼女を抱き寄せて、深い口付けを交わす。
さっきまで私の耳を犯していた舌が、私の口内を蹂躙するように暴れまわる。
「こばやし、ひゃん……」
「んっ……ぅあっ……!」
「なか、んっ、あったかい……」
そして彼女の指が、私の中に挿し込まれた。
細長いのが二本、中でピストン運動を繰り返す。
私の女を、突き上げてくる。
「ふぅっ、んっ……むぅっ」
「ぅっあ、トール、んぅっ……」
中を激しくかき回されて、何もまともに考えられない。
絶え間なく脳を刺激する快楽が、思考回路をショートさせる。
かろうじて認識できるのは、今目の前にいる彼女の事だけ。
彼女の胸。
彼女の指。
彼女の腹。
ついでに尻尾。
そして、彼女の表情。
全身で、トールを感じている。
あぁ。
今のトール。
「こばやしさぁんっ……」
すごく、嬉しそうな顔してる。
「トールぅっ……!」
「こばやし、さんっ……!もう……ぅっ!」
「私……もっ、あぁ……っ!」
そこには、二つの生き物がいた。
ドラゴンとか、人間とか関係なく。
ただ、お互いを求め合う二つの生き物が。
「こばやし、さぁぁぁんっ……!」
「トールぅっ、あ、はぁっ……!」
そして、二人で一緒に絶頂を迎えた。
快楽の波がゆっくりと、引いていく。
「小林、さん……」
折り重なるように、トールが私の上に倒れ込む。
私はそれを、全身で受け止めた。
相変わらず、顔は近い。
吐息も、近い。
「……ん?」
息が……酒臭い……。
「おい、トールお前まさか」
「頭、痛い……です……」
「……どれくらい飲んだ」
「長いのを、五本くらい……」
こいつは……。
「……もう勝手に飲んじゃダメだぞ」
「ふぁい……」
まったく、酒で失敗するところまで真似なくてもいいのに。
まぁ、私も酔っ払った時は色々しているらしいし。
今日は、お互いさまって事で……。
「小林さん……」
「あ……」
彼女の指が、優しく私の手を握ってくる。
なんだかそれがとても心地よくて、私も静かに握り返す。
「なぁ、手……」
「……もうちょっと、握ってましょう?」
「……そうだね」
なんだか、勢いでとんでもない事をしてしまったような気がするけど。
彼女がこれで喜んでるなら。
もう、それだけでいいかな。
なーんて。
その後現場をカンナちゃんに目撃され、更にとんでもないことになるのは別の話。
おわり。