小林さんちのバレンタイン 作: 池田
「たーだいまーぁ……」
両手に大量のお土産を引っさげて、私はやっとの思いで帰宅した。
ぶら下がっているのは、袋いっぱいのチョコレート。
ちょっと高級そうなものから市販のスナック菓子まで、玉石混淆と言った具合で詰め込まれている。
もうおわかりだろうが、今日はバレンタイン。
本来はカップルの愛の誓いの日なのだが……少なくともこの国では女性が男性にチョコを渡す、と言うのが恒例となっている。
はず、なんだけど……。
「なーんで私なんだろね」
特に普段から何をしたというわけでも無いんだけれど。
毎年毎年、女子社員からはもちろんのこと、どういう訳か男性諸君もチョコを渡してくる始末。
滝谷くん曰く、普段のお返しがどうたらと言う話みたいだが。
こうも大量に貰うと、業務用サイズのチョコ菓子をまるごと職場に放置する私のバレンタインスタイルが少し申し訳なく思えてくる。
まぁ、それはともかく。
「こんなに食べきれないって……」
一番の問題は、その量であった。
大きめのビニール袋が二つ。
下手すればキログラム単位でありそうな。
一人で一度に食べようとすれば鼻血は出ないにしても、確実に何かしらの悪影響を体に及ぼすであろう量。
かと言って捨てるのもいかがなものか。
なので毎年、その処理に悩むのが私の恒例行事だったのだけれど。
「ま、今年はその心配もないか……」
そんな風に独りごちていると、可愛らしい足音が聞こえてきた。
そう、今の私には同居人が二人いる。
彼女たちに手伝ってもらえば、ある程度楽に消費できるだろう。
「コバヤシー」
「はいはい、ただいま」
「おかえりなさいー」
そのうちの一人、私はカンナちゃんと呼んでいる。
フルネームは、カンナカムイ。
それともう一人……。
「……ってあれ?トールは?」
の姿が見えない。
奥に引っ込んでるのかと思ったが、その気配も感じない。
「トール様は買い物、カンナはおるすばん」
「あぁ、なるほど……」
「多分まだ帰ってこない。出ていったばかりだから」
そうか、もうすぐ夕飯の時間帯だしな。
もしかしたら私と入れ違いになったのかも。
どうせそのうち帰ってくるだろうし、特に気を揉む必要もないだろう。
「……コバヤシ」
「ん、どうかした?」
「チョコ、たくさん。もらったの?」
「これか……うん、職場の人達がね」
「食べてもいい?」
「あまりたくさん食べちゃダメだよ。夕飯前だしね」
「わかったー」
差し出された手に袋を一つ渡すと、彼女は少し重たそうにしながら来た道を引き返していく。私もそれに続いてリビングへ向かうと、テレビから聞こえてくるご機嫌な音楽が私を出迎えた。
画面を見ると某チョコレート工場の映画が流れている。
なるほど、バレンタインにはお似合いだ。
そしてその横では、カンナちゃんが袋の中身をひっくり返していた。様々な色、形状のパッケージに包まれたチョコが机の上にぶちまけられる。
「うわ……改めて見るとすごい量だな……」
「コバヤシ、人気者?」
「人気、かぁ……ある意味ではそうかもね」
「カンナは一個しかもらえなかった……才川から」
「あぁ、あの子……」
そう言って、少ししょんぼりする彼女。
そもそも学校ではお菓子禁止だろうし、才川さんから貰えただけでも儲けものだと思うけど……。
しかし私が言うのも何だが、確かに貰った数の差と言うのは気になるかもしれない。
「じゃあ……これは私からカンナちゃんへのバレンタインチョコ、ってことでどうかな。好きなの選んでいいからさ」
「……ほんと?」
「もちろん」
それを聞いたカンナちゃんの表情がぱぁっと一気に晴れていく。
よかった、少しは機嫌が良くなったかな。
身も蓋もない言い方をすれば、私はただチョコの横流しをしただけなのだが、こういう反応をされるとやはりちょっと気分が良い。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
目を輝かせながら、散らばるチョコを一つ一つ吟味していくカンナちゃん。彼女は一応ドラゴンだけど、こう言った仕草は子供そのもので見ているこっちもなんだかほのぼのしてくる。
子供が出来たらこんな感じなのかな、とか。
「これにする」
「おっ……」
彼女が手にしていたのは、貰った中で一番高そうなものだった。カンナちゃん、なかなか目ざといな……。
それを知ってか知らずか彼女は容赦なく包装を剥いでいき、その下にある可愛らしい中身が姿を表した。
「おいしそう……」
美味しそう、と言うか実際べらぼうに美味しいはずである。
それは同時に、べらぼうに高いと言うことも示しているのだが。
……お返し、どうしようかなぁ。
来るべきホワイトデーのことを考えて顔をしかめる私をよそに、カンナちゃんはチョコを口いっぱいに頬張ってもぐもぐやっている。
その様子を見ていると、なんだか悩んでいるのが馬鹿らしく思えてきた。
「……おいしい?」
尋ねると、カンナちゃんは咀嚼しながら何度も首を縦に振った。
そう言えば、向こうの世界にはこう言う甘味の類はあるんだろうか。
あったとしてもドラゴンに縁があるかは微妙なところだが。
「コバヤシ」
「なに?」
「これ……お返し」
そんな考えを巡らせていると、カンナちゃんが少し照れくさそうにしながら私にチョコを一粒差し出してくる。
ありがとう、と彼女に告げてそれを口に含むと、心なしか普通よりも更に美味しい気がした。
「おいしい?」
先程私がした質問を、彼女がそっくりそのまま返してくる。
なので私も、咀嚼しながら首を数回縦に振った。
しかしそれにしたって、カンナちゃんはかわいいなぁ。
一見無表情ながら、思いやりのある心根が生み出す健気さとか。
色んな物に好奇心旺盛なところとか。
さらさらの髪とか。
柔らかそうなほっぺとか。
少しむっちりした太腿とか。
あぁ、触ったら気持ちが良さそうな……。
「……なに?」
思わず手を伸ばしかけたその時、彼女の声で私は我に返った。
「はっ……!?」
わ、私は今一体何を……!?
こんな無垢な子供相手に、あんなことを考えるなんて……。
思わず彼女と距離を取ろうとして、私は一歩後ずさった。
「あ、れ……?」
はずだったのだが。
二歩、三歩と私の足は勝手に空回りして、制御が効かない。
幸い進路上にソファがあったので、私はそこに思い切り突っ込んだ。
何だ……なにかおかしい。
突然の事に戸惑っていると、私の異変に気がついたらしいカンナちゃんが駆け寄ってくる。
「コバヤシ、なんか変……」
「な、なにこれ……ん?」
心配そうに顔を覗き込んでくる彼女の向こう側。
先程まで二人でパクついていたチョコの残骸がテーブルの上にたくさん転がっている。
そこで私は気が付いた。
カンナちゃんにあげたのとはまた別の、開封されたチョコレートが存在することに。
私はあんなのもらってない。
と言うことは、だ。
まさか。
「カンナ、ちゃん……」
「なに?」
「さっき私にくれたヤツ……もしかしてトールから?」
「うん、トール様からもらった」
「あぁ……」
悪い予感が見事に的中した。
一度ならず二度までも、トールの媚薬入りチョコなんて代物を食べる羽目になるなんて……。
「コバヤシ顔赤い……大丈夫?」
「大丈、夫……」
しかも効き具合から察するに、前より薬の量が増えているような気がする。
前回はなんとか耐えきったが、今回ばかりは……。
しかし状況がどうであろうと、いたいけで無垢な幼女に手を出すわけにはいかない。
「うぁ……」
手を出す、わけには……。
頭ではもちろんわかっているのだが、彼女の微かな香りが鼻をくすぐる度に私の体から力が抜けていってしまう。
このままでは、立ち上がるのもままならない。
「カンナちゃん……悪いけど、ちょっと肩貸してくれる……?」
「うん」
彼女の肩につかまって、やっとの思いで私は二足歩行へと移った。
この状態で彼女の体に触れるのはなるべく避けたかったが、しかしソファの上でずっと伸びているわけにもいかない。
いつもは十秒とかからない寝室までの道のりを、えっちらおっちらとおぼつかない足取りで進んでいく。
結局いつもの四倍ほどの時間をかけて、私はベッドへと転がり込んだ。
「ごめん、カンナちゃん……ちょっと体調悪いから少し寝るよ……」
ちょうど映画もやっているし、トールが帰ってくれば彼女がカンナちゃんの相手をしてくれるだろう……。
そんなことを考えながら、寝る支度をしていたのだけども。
「……カンナちゃん?」
「……ぅ」
「どうしたの?」
どういうわけか、彼女は私の横でずっと立ち尽くしている。一体どうしたんだろう。
よく見ると、足をもじもじさせている。
「こばや、し……」
「か、カンナちゃん?」
ぞっとした。
その声はあまりにも、普段の声とくらべて艶っぽさを含みすぎていたからだ。
「なんだか私も、体熱い……」
頬を赤く染め、悩ましげな表情で。
完全に「女」の顔になったカンナちゃんが、こちらへ近づいてくる。
しかも服のボタンを外しながら。
もしかして、彼女にも媚薬の効果が出ているというのか?
だとしたら一体どれだけ入れたんだトールのやつ……!
彼女を制しようにも、一度横になった体はベッドにぴったりとくっついて起き上がろうとしてくれない。
しゅるり、という音と共に彼女の肌が露わになった。
ブラジャーなんて物を付けているはずが無いので、その小さな胸も一緒にさらけ出される。
「一緒に、寝る……」
「だ、ダメだって……!ほら、服ちゃんと着て……」
口だけで最後の抵抗を試みるが、そんなもの気休めにもなりゃしない。
それに彼女をどうにかする前に、自分で自分の中の劣情を抑え込むのに精一杯なのだから。
「薬を盛ったトールが悪い。」
「私はむしろ被害者だ。」
「だったら、やっちゃってもいいだろ?」
私の耳元で悪魔が囁く。
苦しい。
切ない。
本能が、刺激を求めて喚き散らしている。
体の底から突き上げられるような衝動が襲ってくる。
そうやって私が内なる欲望と戦っている間に、カンナちゃんはベッドに上がり込んできて。
私の上に、ストンと乗っかった。
ショーツ以外、何も纏っていない姿の彼女。
下から見上げるその体は、とてもなだらかで綺麗な曲線を描いていて。
白い肌は所々少し赤みを帯びていて、皮膚の下を流れる血流の存在を感じることが出来た。
彼女の顔が、だんだんと近づいてくる。
「こばやし……」
「カンナちゃ……んっむ」
とうとう、柔らかな彼女の小さな唇が私の唇と重なった。
私の中の常識も理性も何もかもがどろどろに溶けて本能に取り込まれていく。
そしてその瞬間、私の野生が目を覚ましたのだ。
「んっ、ふぅんっ……」
「う……んっ、ぅっ……」
口腔に舌をねじ込んで、彼女の舌と絡ませ合う。
さっきまで彼女が食べていたチョコの微かな味と香りがする。
甘い。
甘くて、気持ちが良い。
あぁ、私こんな小さな娘と何やってるんだろ……。
頭ではおかしいってわかってるはずなのに。
けど体が勝手に、彼女の唇を貪ってしまう。
「っぷぁ」
「はぁっ」
「こばやし、顔真っ赤……」
「カンナちゃんも……」
彼女の肌に、手で触れる。
想像していた通りだ。
少ししっとりしてて、柔らかくて。
けれど、しっかりと跳ね返してくる弾力も持ち合わせていて。
本当にこれがドラゴンの皮膚なのかと疑ってしまう程だ。
「ふぁっ……」
「カンナちゃんの肌、すごく綺麗……」
背中、腰、腿、腹、胸。
軽いキスを繰り返しながら、彼女の全身を撫で回した。
体の奥にある物を感じながら、私は彼女の形を確かめていく。
「……乳首も、こんなに」
「や、ぅっ……!」
絹のような手触りの中に、引っかかる二つの突起。
それは目一杯に大きくなって、重力に逆らうようにぴんと上を向いている。
私は迷わず、そこに食いついた。
「あ、んっ!やぁっ……!」
「ふぁ、んむ……っ、んっ」
舌で舐め転がしてやると、カンナちゃんの体がびくんと跳ね上がった。
こりこりした不思議な感触が、舌を伝わっていく。
汗のせいだろうか、少ししょっぱい。
「気持ち、いい?」
「喋るの、だめぇっ……」
「ん、あむ」
「ひぁぅっ!」
普段の彼女からは想像も出来ないような嬌声が、寝室に静かに響き渡る。
カンナちゃん、こんな声出せたんだ……。
もっと、聞いてみたい。
もっと、喘がせたい。
もっと、乱れさせたい。
彼女の表情が、快感に歪んでいくのを。
もっと、見てみたいな。
「む、あぐ。ん……ぅ」
「こばやしっ……そこ、やぁっ……」
「んっ、はぁ……んむ」
「だめ、こばやしぃっ……だめ、ぇっ……!」
そんな懇願も無視して、私は無心で彼女の乳首を弄び続ける。
相変わらず硬く直立したそれは、私の口内でその存在を主張し続けた。
はっきり言って、薬の効果はかつてないほどに絶大だった。
だって、未成熟なはずの彼女の体からこれほどまでに雌の匂いが溢れ出ていて。
私はそれが欲しくて欲しくてたまらなくなってしまっているのだから。
年も、生まれも、種族も違う私達を。
たった一つ、女としてこんなにも結びつけてしまっているのだから。
「ぅあむっ」
「ひぁ……ぁっ!」
「……ぷぁっ」
軽く乳首を甘噛みしてやると、これ以上無いくらいに甘く切ない声を絞り出して彼女は絶頂した。
直後、崩れ落ちるように私に体を預けてくる。
津波のような快感を受け止めた小さな体が、まだ微かに震えていた。
まだ絶頂の余韻が抜けきっていないらしい。
だけど私はさらに、彼女の体を責め立てた。
「きゃうっ!?」
ぐしょぐしょになったショーツの中に手を突っ込んで、彼女の割れ目を指でなぞり上げる。
完全に無防備だった彼女は突然の奇襲に悲鳴をあげた。
近所に聞かれてはたまったものじゃないので、私はキスをしてその声を無理やり封じ込める。
「ふぅぐっ……!んっ、んぅっ!ん、ふぅっ……!」
「んっ……ふぅ、ぅっ……んっん……」
指を中に押し込んで激しくかき混ぜながら、私は彼女の舌を再び絡め取った。
やっぱりだめだ。あんなものじゃ物足りない。
人の形の更に最奥からやってくる、更に暴力的で強烈な快感を。
それに体を貫かれて、更に激しく絶頂する彼女のあられもない姿を。
私はこの手で、この目で、この耳で、この鼻で。
自分の中に、収めたい。
私のものに、したい。
「カンナちゃ、んっ、うっ……」
「ふぇ……んぁっ、むぅっ」
「んんぅっ……」
だんだんと彼女の体から力が抜けてきた。
そろそろ、かな。
しかしそう思った次の瞬間、唐突にカンナちゃんの小さな手が私の股の間に挿し込まれた。
思わず声が出そうになって、彼女を拘束していた口が離れてしまう。
同時に少し冷静になった私を、彼女が抗議するような目で見つめていた。
「か、カンナちゃん……」
「……えし」
「え?」
「……お返し」
ぼそっと呟いて、ぷいと視線を逸らすカンナちゃん。
恥ずかしそうにするその仕草が、なんだか普段の彼女と重なって見えたのが少し可笑しかった。
「ごめん、少し……調子乗りすぎた」
「やっぱりこばやしは、淫乱メガネ……」
「……きっと薬のせいだよ」
「……私も、そう思う」
一体、誰に対しての言い訳をしているのかわからなかったけど。
私たちは二人揃って確認するように小さく頷いて、三度目のキスをしながらお互いの秘部をかき混ぜあった。
吐息と、水音と、ベッドが軽く軋む音で部屋が満たされる。
「はぁっ、んむ、んっ……ぅ」
カンナちゃんの指使いは、少しもどかしかったけど。
「ひぁ、んっ」
それでも確実に、私を絶頂へと導いてくれている。
「カ、ンナ、ちゃんっ……」
指先に感じる彼女の体温と、私をかき回す彼女の指先を感じながら。
「こばや、しぃっ……」
お互いの形を確かめながら、私たちは。
「んっ、ああっ、あああああっ……!」
「はぁっ、あ、ふぅ、うぁっ……!」
二人で一緒に、峠を越えた。
「……最初は」
「え?」
疲れ果てて、二人仲良くベッドに寝転がっていると、カンナちゃんがぽつりと呟いた。
「最初は、人間なんて……脆くて、小さいだけだと思ってた」
「……うん」
「だけど、今は……ちょっと違う、かも」
「……そうなの?」
「人間も、私達と同じ生き物なんだって、ちょっと感じた」
「……そっか」
「だか、ら……」
そこで、彼女の言葉が途切れてしまう。
「……カンナちゃん?」
呼びかけてみても、返事はない。
「カンナちゃ……あぁ」
その先の言葉を本当は聞いてみたかったけど、今回はやめにしておいた。
だって、こんな安らかに眠る彼女の邪魔をするのはいくらなんでも申し訳ない。
「……おやすみ、カンナちゃん」
私は風邪をひかないように彼女に布団をかけてやると、シャワーを浴びに寝室を後にした。
ちなみに浴室へ向かう道中、私達の匂いで発情したトールに襲われたのはまた別の話になる。
おわり。