魔法少女とインキュベーター世界線
→まどかの束ねられた膨大な数の因果律により生まれた莫大な希望の感情エネルギーによりすべてのインキュベーターは魔法少女になる十分量の感情を与えられる。これによりインキュベーターは目減りする宇宙の熱エネルギーを地球の少女たちに頼らずとも補填可能となる。インキュベーターは自前の希望の感情エネルギーであらゆる世界線すべての魔法少女と魔女となってしまった魂達を元の人間に戻す。すべてのソウルジェムは消え、魔法少女達はいなくなり、ただ普通の少女達の日常が続いていく。
叛逆の物語の世界線
→暁美ほむらが円環の理の一部をもぎ取り新たな法則として再臨。数多の並行世界から独立しており、魔法少女とインキュベーター世界線の干渉を受けない。叛逆の物語世界線のまどかが必死の思いで魔法少女とインキュベーター世界線のキューに助けを求める。世界線跳躍の為魂だけとなってまどかの肉体に宿る。まどか、まどかの肉体の中に住むキュー、ほむら、さやか、杏子、マミ、なぎさの力を合わせてこの世界線の魔法少女問題解決に挑む。
暁美ほむら、鹿目タツヤと対面する
「ほむほむっ!」
幼児の呼ぶ声が聞こえる。その舌足らずで無邪気な声を聴くと、冷えていた心にほんの少しの温もりが灯る。
「みて! まろか! まろかっ!」
姉を人じゃなくしてしまった。その崇高な理念に見合う因果を束ねてしまった。この子から姉を奪った張本人であることも知らずに、この幼児は無邪気に笑いかけてくるのだ。
「ええ、上手、すごく上手よ」
あたたかく、優しく、甘く、胸が痛い。
「いひひ! いひひひひ!」
何がそんなにうれしいのだろう。私は母でも姉でもない赤の他人なのに、こんな過ちだらけの私に褒められて何が嬉しいのか。
「ねっ! ほむほむ! あそぼ!」
「……ごめんねタツヤくん。私、行かないといけないの」
「えー!」
ただ懐かれているのだとは思う。河川敷で一人まどかの絵を描いて遊んでいた幼児。それを目の当たりにして嬉しかったのだ。この世で自分以外にもまどかを知っている人が一人でもいることが、たまらなく嬉しかった。
だからつい声をかけてしまった。上手、すごいねと、心からの賞賛を送った。泣きそうな顔で拍手を送る私を、目を丸くして見つめていた幼児は笑ったのだ。
女神になってしまった彼女を彷彿とさせるすべての魔法少女を救うような、そんな満面の笑みだった。
私はその手を取るのが怖くていつも魔獣との戦いに逃げる。そんな癒しを、そんな幸せを自分が享受してはいけないのだと何度自分に言い聞かせたことか。
そんな後悔と罪悪感を募らせながら魔獣との戦いに明け暮れて、一つの理想に辿り着く。そうして私はまた罪過を犯すのだ。
穢れを限界まで魂に募らせて、臨界を迎えた絶望に飲み込まれるその最中、救済に手を伸ばすその手を取る。概念を捻じ曲げ新たな法則を創造させるだけのその力を奪い取る為に。
純白のその手を取り汚すその刹那、何故か少年の無邪気な笑顔が頭をよぎった。
「はぁー、暁美ほむらさんさぁ、やってくれましたねーこりゃあ」
「黙りなさい、あなたはどこまで愚かなの美樹さやか、死になさい早急に」
「あんたはこの宇宙を壊すつもりなの…!? すべての魔獣が滅んだあとはそれもいいかもね(ドヤっ) その時は改めてあなた達の敵になってあげる(キリっ) ぷーっ! くすくす!」
「美樹さやか、その見るに堪えない小芝居を今すぐやめなさい、凄惨に殺すわよ」
「はいはい、喧嘩はそこまでにして早く座ってちょうだい。紅茶が冷めちゃう」
「チーズ! チーズ! マーミのチーズケーキはせっかいいちー!」
「やれやれ、ケーキ一つでそんなにはしゃげるなんてお子様ってのはうらやましいねぇ」
「つまみ食いしてる杏子に言われたくないのですー!」
「ふふっ」
ああ、まどかが慈愛に満ちた顔で微笑んでいる。私はずっとこの光景を見る為に罪を重ねてきたのだ。命拾いしたわね美樹さやか。この女神の微笑に免じてクリトリスを引き千切るのだけは勘弁してあげるわ。
私はすっとまどかの隣に腰を下ろす。美樹さやかが含みのある顔でニヤついている。やっぱり後で腹パンくらいはすると心に誓う。
「まどか、その、ごめんなさい、いっぱい迷惑かけて。でも私はずっとこうしてまどかも一緒になって笑っていてほしかったの……」
みんなが笑っているのを遠くで見ているんじゃなくて、手が届く傍らでみんなと笑っていてほしかったんだ。
「知ってるよ、ぜーんぶね」
まどかは私の手を取って天を仰ぎ、どこか諦念を滲ませて苦笑する。
「ほむらちゃんが無茶するときはいつだって私の為だって、全部わかってた。でもそれじゃあほむらちゃんがどこか遠くに行っちゃいそうだったから全力で阻止しちゃった♡」
「あの、まどかさん、まさかまだオコなんですか?」
「オコもオコだよ激オコですよー。私の前から居なくなろうとするそんな悪い子ほむらちゃんにはきっつーいお仕置きが必要だよね?」
はうっ、やめてまどか、そんな見たこともないような暗い顔で笑って、一体私にどんなお仕置きをするつもりなの? 期待しちゃうじゃない。でも念のため良質な三角木馬を仕入れておかなくっちゃ。
「でもそれって結局私がほむらちゃんにしようとしていたことだったんだよね。私のわがままのせいで、ずっとほむらちゃんにこんな寂しくて悲しい思いをさせてたんだってほんの少しわかっちゃった。だからお相子だね」
「そ、そうね……」
私のがっかりをよそに、まどかはそっと私の手を取って力強く言った。
「ほむらちゃん約束。ずっと一緒だよ。もうどこか遠くに行こうとなんてしないでね?」
「うん、約束。絶対にこの手を放したくない」
まどかの光瞳が私の黒瞳をのぞき込む。お互いの瞳にお互いの瞳が映り込んで、まるで光と闇が交わるようだった。示し合わせることなく同時に笑う。
『うんうん、二人が手を取り合えばきっとできないことはないよ』
「あら先輩まだいたの?」
『いたよ!? なにその嫌そうな顔!? こう見えても僕は成功した世界線の先輩なんですけど!?』
「はいはいはーい! まどかの中の先輩―!」
『はい、さやかさんどうぞ』
「成功した世界線ってどういうことですかー?」
『こことは別の世界線で、僕がいた世界ではこのインキュベーターと魔法少女のすべてが解決している。宇宙に必要なエネルギーを確保して、すべての魔法少女の補填をしてもらえて、インキュベーターは独自にこの宇宙のエネルギーを回収できるようになった』
「それ、どうやったんですか!?」
『いろいろといい条件が重なっていたんだ。まず元人間だった僕が偶然インキュベーターに転生したこと。そして数多の因果を束ね莫大な魔力を保有していたまどかの願いがまだ叶えられていなかったこと。だから僕はインキュベーターとして君たち魔法少女と信頼関係を築いてまどかの願いですべてのインキュベーターに感情を与えてもらったんだ』
「それってもしかしてあいつらが魔法少女になるってこと!?」
『そうそう。ありゃあ見るに堪えない光景だったけどね。とにかく僕の世界線ではインキュベーターはもう少女に頼らなくとも、自前の感情エネルギーで宇宙の熱エネルギーを保持できるようになったんだ。そうしてインキュベーターの数億という願いを叶えることで現存する魔法少女達、魔女となってしまった魔法少女達、不遇の死を遂げってしまった魔法少女達の全員を補填してくれた』
「そりゃあすっごいっすね! そのインキュベーター達に頼んで私達の世界線もなんとかしてもらえませんか?」
『そうしてあげたいのはやまやまなんだけどね。この世界線だけは外部からはどうにもならないんだ。たぶんほむらの概念を捻じ曲げるほどのソウルジェムが関係しているとは思うんだけど』
「あららー、暁美ほむらさんまたまたやっちゃいましたねー」
「ねえまどかお願い、美樹さやかを今から殺すけど見なかったことにして!」
「さやかちゃんちょっとほむらちゃんをからかいすぎだよー。ほむらちゃんも冗談でも殺すなんて言っちゃダメ」
え? まどかには今の殺気冗談に見えたの? マジ天使。
『ただこの世界線は、たぶんどの世界線よりやばい状況にあると僕は確信してる』
「やばいってなにがですー?」
『なぎさにはあんまりピンとこないかもだけど、その、この宇宙のエネルギーが逆輸入されて魔法少女の穢れが浄化されている状態なんだ。そうだよね、ほむら』
「てへ、やっちゃったわ」
「「「ええーっ!?」」」
『まどかは当然としてさやかももうわかってるみたいだね。そう、ほむらはもうこれ以上すべての魔法少女のソウルジェムが濁らないようにする為に、インキュベーターの機能を利用して宇宙の熱エネルギーを魔力に変換してすべての魔法少女達に配っていたんだ。そうすることで円環の理は発動することはなくなった。まどかの付け加えた法則が発動しなければ歪みは発生せず魔獣も生まれない。それこそがほむらの狙いだったんだけど』
まどかは促されるように先輩の話を引き継ぐ。
「宇宙の熱エネルギーが減っていってるの。宇宙全体から見ればほんの一部だけど。でもこれはとても危険なことなの。宇宙中のインキュベーターみたいな知的生命体に目を付けられちゃうから」
「で、結局ほむらは何がしたかったのさ」
皆が杏子に視線を集中させる。それはきっとまだ誰も知らないことだろうから。
「だってそうだろ? いくらまどかを人間に戻して普通の生活を送れるようにしたって、宇宙が崩壊したら結局まどかもろとも世界が終わっちまう」
「ふっふっふ、まさかこの私が自棄になって宇宙もろとも心中しようなんて、そんな短絡的な思考でこんな大立ち回りをしていたとでも思っているの?」
「えっ、違うんですか!? 自棄みほむらさん!」
「美樹さやかに50連腹パンチ!!!!」
「ごぼぇえええええ!!!???? 子宮がぁ!? 子宮が破裂するぅうううう!?」
のたうち回るさやかに唾を吐きかけて話を続ける。今のはさやかちゃんが悪いよーとまどかがさやかの頭をぽんぽんと撫でながら膝枕している。なんて羨ましい。まどかがいないところでもう50連追加しなきゃ。
「コホン、私はとある理由で時間遡行を繰り返した時、ある世界線を見つけたの。その世界にはインキュベーターがいなかったわ。きっとその世界にあった魔術がインキュベーターの侵略を妨げていたんだと思う」
『魔法ではなく、魔術……』
「ふふ、その様子じゃあ先輩もご存じないみたいね。魔術の歴史は凄まじかったわ。根源に至るという目的の為に不老不死、無限の魔力、魂の物質化、様々な奇跡のような事象に発展していったわ」
「それじゃあほむらちゃんはその魔術で私達を助けようとしてくれたの?」
「さすがまどかパーフェクトな回答ね」
よしよしハグハグ。
『こらこらほむらさん、スキンシップが激しすぎて話進まないから』
「このまま話を続けるわ。私はその魔術の中で聖杯に目を付けたの。聖杯の儀式を成功させれば、外の世界に穴を空け無限の魔力を手に入れることができるらしいの」
『そんなことが本当に可能なのかい?』
「成功した前例はないみたいだったけれど他にも無限の魔力の研究はあったから、片っ端から試そうと思っていたの」
『それじゃあほむらはその聖杯が一番手ごたえがありそうな儀式だと思ったわけかい?』
「この街の真下にいい感じの龍脈があったから条件としては悪くないかと思っただけよ。それで見様見真似だけれど龍脈を利用して召喚システムを構築して英霊召喚ができるとこまではいったのだけれどね」
「えいれいしょうかんってなんなのですー?」
なぎさが口のまわりにチーズケーキの食べかすをつけながら首をかしげる。
「聖杯の儀式には器と器の中身が必要なの。七体のサーヴァントの魂が器。外の世界に穴を空ける分だけの魔力が中身。だからこの儀式には英霊召喚はなくてはならないの」
「暁美さん、私もよくはわからないのだけれどそれってかなりいい感じなんじゃないの? ダメもとで試すことはできないのかしら?」
マミさんがなぎさの口元をハンカチでふきながら言う。
「うーん、サーヴァントの召喚は可能なんですけど、この土地の縁では大したサーヴァントは望めなかったの。だから肝心の魔力が不足しているというわけです」
だからまあ私の命と限界まで搾り取った宇宙の熱エネルギーを聖杯にくべて魔力の補填にしようと考えていたのだけれど、あえなくまどかによってその計画は打ち崩されたというわけ。
「ほむらちゃんが犠牲になってみんなが救われても、私絶対に認めないからね?」
「わかってるわ、まどか」
顔を赤らめて甘えるようにまどかにすり寄る。まどかは猫をあやすようによしよししてくれる。これ以上もなく幸せな気分になる。正直今はどうやったらまどかの家の飼い猫になれるか、それしか考えられないわ。
まどかが優しくて温かな微笑を浮かべると、みんなが和むような顔で笑った。その笑みには一切の確執が抜け落ちていて、まるで私がしでかしたことすべてが許されたかのようだった。
私は恥ずかしくなって「何よ、その問題児に向けるような慈悲深い眼差しは」と抗議する。
「べっつにー! ほむらはほんとしょうがないやつだなぁとか思ってませんよぜんぜん!」
いやらしい顔でいじってくるさやかの鼻っ柱を指ではじくと「いてっ!?」と涙目で鼻をおさえる。その様がおかしくてまたみんなで笑った。
いくら笑っても問題は変わらず山積みでいったいどこから手を付けていいのかまるでわからない。全く進展しなかったこの会議を、少し前の私だったら無駄な時間だったと吐き捨てていたのだろうけれど、今はまるでそんな気にならない。それどころか解決の糸口がつかめそうな、そんな何の根拠もない希望が芽生えてさえいた。
「まどか姉、ほむら姉、みんな――聖杯の儀式をしよう」
その子はいつの間にか私とまどかの間にちょこんと座っていて、とんでもないことを口走った。
慌てて周囲を確認しても親御さんはいない……ありえない、この子がこんな時間にこんなところに一人でいること自体がとんでもない異常事態だ。
「タツヤ!? なんでマミさんのうちにいるの!? パパとママはっ!?」まどかがとてつもなく取り乱して叫ぶ。どれくらい取り乱していたかといえば、私に力を奪われたときだってこんな乱れ方はしていなかったといえば想像がつくかしら。
そう、まだ3歳になったばかりの幼児が親御さんもなしにこんな夜中に一人で出歩けるはずがないのだ。ましてや流暢に話しすらできないはずなのに、聖杯戦争という大儀式の名を口にできるはずがない。
一体何が起こっているのか。
「落ち着いて聞いてくれまどか姉。俺は五十年後の未来からタイムリープしてきた鹿目タツヤなんだ」
「ええええええええええええ――――っ!?」
私達の驚愕に満ちた叫びが部屋中に轟いた。
前回今度こそ最終回だと宣たが、あれは嘘だ