※この作品はR-18です。

魔法少女と孵卵器(インキュベーター)   作:ダル神

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暁美ほむら、未来を知る

 五十年後の未来から来たタツヤくんは魔法の力でタイムリープしてきたわけではない。彼は純粋に科学の力で意識だけを過去の時間軸に飛ばしているのだという。

 

 魔法でも魔術でもない科学によるタイムリープ。機材も科学力も追いつかないこの時間軸では当然帰る手段もなければ、失敗したからといってやり直すこともできない。私の魔法とは比べ物にならないリスク。どころか自殺行為に等しい。彼はこれからまどかを含めた魔法少女達全員に起こる悲劇と絶望を回避する為に文字通り命を投げうってここまできてくれたのだ。

 

 タツヤくんは言った。一か月後この地球は異星人に侵略される、と。インキュベーターではなく、もっと別の、地球よりもインキュベーターよりもずっと科学が進んでいる星の知的生命体に。

 

 原因は単純明快で、どっかのアホな悪魔が宇宙の熱エネルギーを逆輸入していたせいで、宇宙の熱エネルギーが加速度的に目減りし、インキュベーターのような宇宙の運営を任された知的生命体たちに目をつけられてしまったというわけだ。

 

 そいつらはインキュベーターよりも科学が進んでいて、狡猾で理不尽で暴力的で残虐で、何よりも圧倒的に強かった。

 

 女神も悪魔も力でねじ伏せて、利用価値のある人類を熱エネルギー発生装置の薪とした。

 

 少女どころか赤子さえ苗床を彷彿とさせる機械でがんじがらめにして、生かさず殺さず希望と絶望を延々と繰り返すおぞましいオブジェを数えきれないほど生産していった。魂が感情によって摩耗し崩壊するまでずっと飼殺される。それはもう絶望でさえないただの地獄だ。

 

 この星は侵略されて、すべての人類が家畜になった。

 

 まどかと私はその強大な存在故に五十年もの間死ぬこともできず悲惨な実験を繰り返された。感情エネルギーを効率よく回収する為に拷問という言葉でも生易しい凄惨な責め苦を強いられた。そんな私達を見ていられなくてタツヤくんはタイムリープ装置開発に人生のすべてを懸け、今こうして私たちの前に立っている。

 

「インキュベーターにも話はつけてあるよ。この儀式がうまくいけば無限の熱エネルギーが手に入るわけだから、準備も快く協力してくれたよ」

 

「あたしはたっくんに文句はないんだけどさ、どーもインキュベーターが絡んでくると胡散臭くなるというか、信用ならないというか、うまいこと言いくるめられてまた騙されるんじゃない?ってなる」

 

「さやか姉、全面的に信用しろとは言わないけど魔法少女みんなが日常に帰る為にはインキュベーターの協力は必要不可欠なんだ。さっきも言ったけど宇宙の運営を任されている知的存在で、ここまで地球人に譲歩してくれる奴なんていないんだよ。どの異星人も問答無用で侵略して、利用価値があるなら赤子の魂だって蹂躙してくるんだから」

 

「うう、たっくんに理詰めで諭されるとなんかヘコむなぁ……」

 

 まあ見た目三歳児だから。私は眉根を寄せてタツヤくんを見つめるまどかに話を振る。

 

「まどかはどう思う?」

 

 ついでにまどかの中の先輩も。

 

「うーん、私はタツヤがこんな時間まで夜更かししていることがもうすでに許せないよ」

 

「だからまどか姉! 見た目はこんなんだけど中身は五十三のおっさんだから!」

 

 あら、取り乱すタツヤくんはどこかまどかに似ている。やっぱり姉弟ね。かわいい。

 

「あー! ほむらがたっくんにお熱な眼差し送ってるー! まどか! これは浮気案件ですぞ!」

 

「美樹さやか、やっぱりあなたは私の敵なのね」

 

「ねえ、ほむらちゃんどーゆーことかなー?」

 

「違うのよ! 誤解よ! まどかとタツヤくんが似てるからちょっとかわいいなって!」

 

「それは私が可愛いの? それともタツヤが可愛いの?」

 

「そりゃあまどかが一番かわいいけど! ……でもタツヤくんもちょっとかわいいなって……」

 

「うん、有罪」

 

「いやー! 許してまどかー!」

 

「とりあえずほむらちゃんの断罪は寝る前にねっとりするとして」

 

「ねっとり!? ねえ、まどか? どんな刑に処されるのかだけでも教えて! 心の準備が必要だから!」

 

 まどかは縋りつく私の顔をぐいぐい押しのけながら話を続けようとする。そんな! 私のこと見捨てないで!

 

「あはははは! まどか姉とほむら姉はほんとに仲良しだなぁ!」

 

 私たちのやり取りを見てタツヤくんが腹を抱えて笑っている。タツヤくん笑いごとじゃないんだけど!?

 

「こんなに仲良しだったんだな……そりゃあそうだよなぁ」

 

 慈しむような眼差しに浮かぶその涙は、笑い過ぎのせいだけじゃないような気がした。

 

「俺、まどか姉とほむら姉にはずっとそのままでいてほしいんだ。だから頑張らせてくれよ。頼む、まどか姉」

 

 優しいだけじゃない。芯の籠った覚悟の眼差しを受け止めたまどかは渋々折れるように言った。

 

「ねえ、タツヤ? タツヤが私たちの為にすっごく頑張ってきてくれたこと、なんとなくわかるんだ。お姉ちゃんの親友もそうだったから。でもね、あんまり無茶するんだったらお姉ちゃんは協力できない」

 

 まどかはタツヤくんを愛情いっぱいに抱きしめる。

 

「いくつになってもタツヤは私の可愛い弟なんだから、お姉ちゃんの言うことは絶対聞くこと。いい?」

 

「……恥ずかしいって、まどか姉」

 

タツヤくんは頬を赤らめてむず痒そうに、まどかの腕の中でもぞもぞしている。こう見ると中身が五十歳越えなんてとても信じられない。

 

「私達と同じくらい自分のことも大切にするって約束できる?」

 

「……わかった。そこそこ頑張ることにするから」

 

「それじゃあお姉ちゃんもそこそこ頑張って協力しないとね!」

 

 まどかはティヒヒっと笑って私達に向き直る。

 

「みんなお願い、タツヤのことを信じて一緒に聖杯の儀式を手伝ってくれない?」

 

「私は初めからそのつもりよ」

 

 私はそっとまどかの隣に寄り添う。この子を誰よりも近くで守るのは私。これだけは絶対に誰にも譲れない。

 

「よっしゃあ! そういうことならこのさやかちゃん全力で頑張っちゃうよー! ねえ杏子もそう思うでしょ!」

 

「ったくテメェはほんと調子だけはいいんだからさ。はいはい、しょーがねーからアタシも付き合ってやるよ!」

 

 さやかに無理やり肩を組まれた杏子は、お返しだといわんばかりに強引にさやかの肩を抱き寄せてむき出しの八重歯を隠さずさやかの耳元に唇をそっと寄せる。「あんまりほむらばっかかまってっとアタシ拗ねるからな?」と小声でつぶやいたのをこのほむらイヤー(地獄耳)は聞き逃さない。

 

「あらあらまどかさん、あのさやかが生娘みたいに真っ赤になって静かになっちゃったわ。これはどういうことかしら」

 

「ふむふむほむらさん、私の見識ではあれはもう何度か営まれた後じゃないかなって思います。証拠にさやかちゃんはさっきからはひはひとしか言えてません」

 

「まあまあまどかさん、これは私達も負けていられないんじゃないかしら?」

 

「いやいやほむらさん、さっきのタツヤへの問題発言忘れていませんからね? このあとねっとりお話があります(#^ω^)」

 

「……ひゃあい(´・ω・`)」

 

マミさんは杏子とさやかの関係がなぎさの情操教育上よくないと判断したのか、なぎさの目を両手で覆っている。「マミーおかしいです、突然目の前が真っ暗になったのですー。なにごとですー?」と手をパタパタするなぎさ。

 

「コホンっ、えー、鹿目さんがそういうなら私も一肌脱いじゃおっかな?」

 

「なぎさはチーズがあればいくらでも頑張れるのですー!」

 

 何事もなかったようにマミはなぎさを抱きしめながらガッツポーズを作る。

 

「ありがとう、まどか姉、みんな」

 

 タツヤくんが頭を下げるとインキュベーターが物陰から湧いて出る。殺虫剤はどこに収納していたっけ。

 

「やっと話がまとまったみたいだね。それにしてもリスクも何もないこんないい話に手放しで乗っからないなんて理解に苦しむなぁ」

 

「「「「「それあんた達のせいだから!」」」」」

 

「訳が分からないよ」

 

 インキュベーターは相変わらず無感情に肩をすくめるのだった。

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