「聖杯の儀式っていうのはわかりやすく言えば、根源の渦へと至る為にこの世界の外側に穴を空ける『方法』なんだ。普通の魔術師なら穴を空けた後が最重要になってくるんだけど、生憎俺達は根源の渦ってのに興味がない。俺達は空いた穴から漏れ出る無限の魔力がいただければそれでいいんだから」
インキュベーターが興味深そうにタツヤに問いかける。
「にわかには信じがたい話だね。仮に僕達ですら観測しえないこの世界の外側に根源の渦っていうのがあったとして、どうしてそこに無限の魔力があるなんて言えるんだい? だって根源の渦にまで至った魔術師は一人もいないんだろう?」
「根源の渦まで至った奴がいないってだけで、その手前くらいなら結構いるらしくてね。無限の魔力って話は手前まで行った人から直接聞いたことだ」
「ふーん、まあ僕にはどっちでもいいけどね。ほむらが宇宙の熱エネルギーを逆輸入さえしないなら僕達は何も言わないよ」
こいつらからすればこれはダメ元の実験に過ぎない。成功すればラッキーくらいにしか思ってないのか特に興味を示さない。そもそも科学の奴隷であるこいつらからすればただの迷信程度の認識しかないのかもしれない。ほんとムカつくわねこいつら。
「……タツヤくん、私も似たようなことを考えていたのだけれど、ここの土地の縁ってそんなに大したものじゃないわよね? 召喚されるサーヴァントがしょぼかったら大聖杯の顕現はできても起動させることはできないんじゃない?」
「そこは安心してほむら姉。俺にはとっておきの秘策があるから」
「秘策……?」
「俺はあの魔導元帥と名高いキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグから魔術を学んできたんだ。そりゃあ秘策の一つや二つ用意しているさ」
その名前には憶えがある。たしか聖杯の成り立ちに深く関係している魔術師の第一人者。第二魔法・並行世界の運営……いわば彼に観測されたからこそこの世界も、そしてタツヤくんの時間軸も存在しているとさえ言える法則のような存在。
「さすがほむら姉、よく知ってるなぁ。俺はタイムリープの試運転中に師匠に見つけてもらえて、事情を説明したら魔術の弟子入りを許してくれたんだ。口は悪いし偏屈な爺さんだったけど兄貴肌っていうのか、面倒見がよくて魔術の神髄を叩き込んでくれただけじゃなく、最後に餞別として宝石剣ゼルレッチっていう並行世界から一時的に無限の魔力を引き出す礼装ももらえた。だから大聖杯さえ顕現できれば中身の心配はしなくていいんだよ」
「……タツヤくんって本当にすごいのね」
魔法少女でさえない彼がここまで至るのに、いったいどれほどのものを犠牲にしてきたのだろうか。
「それよりほむら姉これを見てよ! 俺は一足先にサーヴァントと契約したんだ! ほむら姉驚くぞきっと! セイバー姿を現してくれ!」
「ほむらちゃんやっほー! みんなも懐かしいなー!」
「ぐあああああああああああああああああああ!? 目がぁ! 目が潰れるぅうううう!?」
「「どうしたのほむらちゃん!?」」←美声がハモってる(歓喜)
突如目の前に究極の美を携えた女神が降臨されたあまりのショックで視神経に激痛が走り地面をのたうち回る。
「えっ、どういうこと? なんで私が……?」
まどかが狼狽えるのも無理はない。だって突然目の前に全盛期だったアルティメットまどかが降臨されたのだから。
「タツヤくんっ! まさか、まさかそういうことなのねっ!?」
「そうだよほむら姉! この町には確かに英霊といえる魔法少女が存在したんだ! そして俺はその英霊と血を分けた姉弟! 地と血の縁に導かれてアルティメットまどか姉と契約することができたんだ!」
それはなんて夢のある話なの!! だって私の中にはまだ円環の理の一部が残っている。この縁に導かれて、タツヤくんが召喚したまどかとはまた違う世界線のアルティメットまどかを召喚できる目がある!!
「ねえ! 早く始めましょうよサーヴァント召喚! ここは私からいかせてもらうわ!!」
「おお、ほむら姉気合十分だなぁ」
「あったりまえよ!」
どんなまどかでもいいから絶対にまどかを引き当てたい! このガチャに全身全霊を懸ける!
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。 繰り返すつどに五度。 ただ、満たされる刻を破却する。
――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ 誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
魔力が小聖杯の中を満たし起動する。聖杯は眩い輝きを放ち、左手の甲に令呪が浮かび上がる。私の足元に突如現れた魔法陣から稲光が走る。魔力の衝撃からボンっと爆音を轟かせ、粒子となった魔力が霧のように周囲を白く染め上げる。その霧が晴れそこに現れたのは……
「サーヴァント、ランサー。召喚に従い参上したよ。君が僕のマスターかい?」
一角獣のような角をはやしたインキュベーターが召喚された。くず折れる。
「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「わー! すごいねほむら! 大当たりのサーヴァントだよ! 彼の英雄は僕らインキュベーターの創始者にして原初の存在! 見てみなよあのユニコーンのような立派な角を! 僕達はユニコーンのように処女性を宿した少女達と共にある覚悟であのフォルムに――」
「ちょっと黙れナマモノ魔女化するだろがあああああああああああああ!!!!!」
「訳が分からないよ」
「はいはいたっくんが困ってるのでそこどいてどいてー」
さやか、なんなのそのにじみ出る余裕……はっまさか!?
「おっと気づかれたとあっちゃあ仕方ない! なんたってさやかちゃんはちょっと前まで円環の理の一部! つまりはまどかの一部だったわけ! 刮目するがいいほむら! これが私とまどかの絆の力だ! 素に銀と鉄。(略)汝三大の言霊を纏う七天、 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
「サーヴァント、キャスター。召喚に従い参上したよ。君が僕のマスターかい?」
「知ってたよクソ!!! いいからその意味のないローブを脱げバカ!!!」
アホのさやかには最初から期待してないわ。お願いみんな! 私の希望を託すわ!
「素に銀と(略)! くっそーアタシもはずれかー。なんか腹立つなこれ」杏子、異様に毛深いインキュベーターを召喚する(バーサーカー)
「素に銀(略)! 私もダメだったわ」マミさん、ローラースケートを履いたインキュベーターを召喚する(ライダー)
「素に(略)! なぎさもなのですー」なぎさ、骸骨の仮面を被ったインキュベーターを召喚する(アサシン)
くっ、ぞくぞくとハズレサーヴァント(英霊インキュベーター)が排出されていく。残されたクラスはアーチャーのみ。
「お願いまどか! あなただけが頼りよ!」
「うん、がんばる! 素(略)―――!!」
さすがまどか。私達とは桁違いの魔力が小聖杯に注がれ、あまりの輝きに目がくらんで腕で光源を遮る。
「この時を、待ってた」
「え?」
まどかが目をむいて私を見る。私はとっさに首を振る。だって私は何も言っていないのだから。じゃあ今のは……? 一瞬濃霧の奥で翼が羽ばたいたような気がした。
「まどかっ!?」
一瞬で暗黒の翼がまどかの全身を包み込んで見えなくなる。私は咄嗟に魔法少女に変身し、時間を停止させる。
「っっっ!?」
とてつもない殺気を浴びせられ思わず飛びのく。ついさっきまで私が立っていた地面が根こそぎ消滅して歪なクレーターが出来上がっている。
な!? これも敵の攻撃なの!? どうしてっ? 私の魔法は確かに発動してる! 今この世界で動けるのは私だけのはずなのに!
「……ああ、本当にこの時をどれだけ待ち望んでいたことか……」
暗黒の魔力が竜巻のように渦を巻いて濃霧を吹き飛ばす。そこには私が……いや、この先ありえたかもしれない未来の私が立っていた。
「過去の私を殺せるこの日を……!!」
幾重にも織り込まれた幾何学模様の魔法陣が私を呑み込む。数えきれない魔法陣から超高密度の魔力が雷のように迸る。強烈な殺気が死を想起させる。もうダメだ、逃げ場なんてない。私を隙間なく取り囲むこの陣一つ一つが防ぎようもない大魔法だ。
「そこまでだよ、アーチャー」
アルティメットまどか、いいえ、セイバーがすべての魔法陣を魔力の剣で切り払い私を庇ってくれたおかげで何とか助かった。絶望的な魔力に当てられて呼吸すらもままならなかったことに今更気づいて、膝をついて懸命に呼吸する。全身から噴き出す冷汗が地面を濡らす。数秒でもセイバーの介入が遅ければ私は確実に死んでいた。
「お願いよまどか、そこを退いて」
「退けるわけないじゃない」
「なんでっ! なんでわからないのまどかっ! そいつがすべての元凶じゃない! そいつが余計なことをしなければ、そいつさえいなければあんな酷いことにはならなかった! あんな酷い結末にはならなかったのよ!」
絶望が、激怒が、憎悪が呪いのように私に纏わりつく。
「……落ち着いてアーチャー。今ここでほむらちゃんを殺しても私達の未来が変わることなんかないよ。ここの世界線と私達の世界線は繋がってなんかいないんだから」
「それでもいい! この世界線が私によって歪められないなら! せめてこの世界線だけでも成功してくれれば私はそれでいいの!」
「ほむらちゃんが死ぬことなんて誰も望んでないよ! ほむらちゃんが死んで何が成功するっていうのっ?」
「……何もかも私のせいじゃない……いいわまどか、そこをどいてくれないなら今度こそ私を殺してよね」
暗黒と純白の魔力がぶつかり合う。これがサーヴァント。これが英霊。私程度の魔法では何の影響も与えること適わない超常的な存在。
眼前に広がる壮絶な光景に思わず息を呑む。まるで神々の最終決戦を彷彿とさせる凄まじい攻防が繰り広げられていた。衝撃波で町が破壊されないのは世界が静止しているからだろう。
初めこそアーチャーは捨て身で私を殺そうとするそぶりを見せていたけれど、暗黒の翼によって囚われてるまどかを解放しようとセイバーが魔法を繰り出してからは顔色が一変。必死にセイバーの対応に集中している。どうやら今まどかを解放されるのはアーチャーにとってかなりまずいことのようだった。
セイバーと目が合う。その曇りのない眼を見て希望に気づく。私の中には円環の理の力の一部がある。この力を全部使えばまどかを覆うあの暗黒の翼に切れ目くらいは入れることができるのではないか。
「大技いっくよー!」
それはまるで私に向けて放たれた言葉のようだった。
――ドクンッ! 心臓がひときわ大きく脈打つ。思考するよりも早く身体が動いた。
「くっ、体はマドクリでできている! 熾天覆う七つの性感帯(マドクリー・アイアス)!」
アーチャーの全身から膨大な魔力が放出され、この世のものとは思えない美しいクリトリス型の七重高密度結界が展開される。剣の暴風雨を彷彿とさせるセイバーの広範囲攻撃魔法を何とか凌ぎ切る。セイバーが放った大魔法の一つ一つがワルプルギスの夜でさえ一撃で屠るに余りある威力があった。その多連撃を受けてなお原形をとどめてみせたマドクリー・アイアスなる結界はアーチャーとっておきの防御魔法だったのだろう。
だから地を這う虫に気を割く余裕なんて一切なかった。
「うおおおおああああああああああああ!」
私はまどかから奪った円環の理の力に全魔力を載せて生成した巨大クリトリス(まどかの)でまどかを覆う暗黒の翼に切り込みを入れる。少女の細腕が入る程度の小さな隙間しか作れなかったけれど今はそれで充分。隙間に手を突っ込み中で拘束されているまどかの手を掴む。私が触れたことで魔法によって時間停止した世界にまどかを招くことができた。
「令呪を持って命ずる!」
まどかは状況を説明されるまでもなく的確に動く。
「ほむらちゃんに酷いことしないで!」
真紅の魔力光が隙間から迸る。
「重ねて令呪を持って命ずる! ほむらちゃんを殺さないで!」
三画あるサーヴァントを律する絶対の命令権を私の為に二画も使ってくれた。
「…………」
その甲斐あってかアーチャーが消沈したように項垂れてゆっくりと着地する。まどかを覆っていた暗黒の翼も塵となって消滅した。私とまどかは互いの顔を見合わせて安堵のため息を吐く。あと少しでまどかと永遠に離れ離れになってしまっていたかもしれない恐怖に今更震えが止まらない。それはまどかも一緒だったみたい。泣きそうな顔で懸命に笑おうとするまどかを抱きしめる。
「ふぅ、どうするアーチャー? まだ続ける?」
「……まどかも、いいえ、セイバーも意地悪ね。ここまで雁字搦めに縛られたらどうしようもないわ……」
覇気のない声で、されど一縷の望みにかけるようなどこか必死さを滲ませてアーチャーは言う。
「それとも今ここで私に引導を渡してくれるのかしら?」
「笑えない冗談禁止ー」
項垂れるアーチャーの顔は長い黒髪に隠れて見えない。そんなアーチャーを背中からそっと抱きしめて苦笑いするセイバー。
「昔のあなたとうまく折り合いがつく日が来るといいね」
「それこそ笑えない冗談だわ」
「それはどうかなー?」
「……どういう意味?」
「サーヴァントとマスターは契約で魂の深い部分まで繋がってるの。あなたのマスターの『ほむらちゃん大好き』って思いが、もしかしたらその憎しみをなんとかしてくれるかも」
「……いくら私のマスターがすごくても、それだけはないって断言できるわ」
アーチャーはどこか亡霊のような足取りでセイバーの腕から逃れ、まどかの背後に移動する。やっとあらわになった顔は無表情で生気が感じられない。抜け殻と言ってもいいくらい。セイバーはため息を吐いて私の方に来てそっと耳元で囁く。
「ごめんねほむらちゃん、ホントはもう少し見守っててあげていたいんだけどもう私のマスターがいろいろ限界なの」
まどかはそれを見てなぜか頬を膨らませている。
「そうだタツヤくんは大丈夫なの!?」
あれほどの激闘、いったいマスターにどれほどの負担がかかっていたっていうの!? あんな幼い身体なんて一瞬で干からびてしまうんじゃない!?
「ううん、さっきの戦いは自前の魔力でなんとかしたからそういうことじゃなくて、単純に眠気が限界って意味ね」
「それはそれで一大事じゃない!」
もう深夜三時過ぎ、三歳児にこんな夜更かし拷問もいいところじゃない!
「セイバー一刻も早く寝かしつけてちょうだい!」
「りょーかい」
うとうとしているタツヤくんを抱き上げて浮遊するセイバーが振り返る。その顔は不安と罪悪感に苛まれているようだったけれど、私をじっと見つめて何かを決意したように首を振って言う。
「……ほむらちゃん、本当にやばい時は私を呼ぶんだよ?」
「??」
私はセイバーの言っている意味がわからずに首を傾げる。セイバーはそのあとは何も言わずに飛び立ってしまう。さっき以上にやばいことなんてこの先あるのかしら?
「まどか、とりあえずこれからのことを話し合いましょうか」
「そうだね、みんなにもさっきあったことを説明しなきゃ」
「………ふふ、ふふふふっ」
さっきのがトラウマになっているせいだろうか、アーチャーが不気味に笑っているだけで全身が泡立って臨戦態勢を取ってしまう。それはまどかも同じで、アーチャーから私を庇うように立ちはだかって私の手を強く握る。
「アーチャー、大人しくお茶でもしながら私達と話し合えないかな?」
「あはははは……! まどかは本当に優しいね……残酷なくらい」
アーチャーから禍々しい魔力が噴き出す。あれほどの激闘を繰り広げて、まどかからの魔力供給もなしにこんな魔力が放出できるなんて英霊っていうのはどこまで化け物なの!?
「なにをするつもりなのアーチャー!? だってアーチャーはもう令呪で縛られているからほむらちゃんには手出しできないはずだよっ!」
「まどか、私を本当に止めたかったならその令呪で自害しろって命じればよかったのよ。一画程度なら何とか持ちこたえられても、二画も使われたら即座に自害するしかなかったでしょうね」
アーチャーは邪悪に顔を歪めて嗤う。
「でももう遅い、もう何をしても私は止められないわ!」
「なんで! なんでそこまでするの! どうしてそんなに自分のことを憎むの! ほむらちゃんはただ私を助けようとしてくれただけじゃない!」
「私のしてきたこと全部がまどかを苦しめることにしかならなかったからよ」
まどかは黄金の魔力を漲らせ私の手を取ろうとする。一か八かの賭けをするようなその必死な形相を見て、まどかの円環の理のほとんどの力を私に託そうとしているのがわかった。
「熾天覆う七つの性感帯(マドクリー・アイアス)……鳥かごバージョン」
セイバーの大魔法ですら凌ぎ切ってみせた最強の防御魔法がまどかを四方八方から取り囲む。まどかは円環の理と再接続し、アルティメットまどかとなって全力で結界を攻撃するもヒビすら入りはしない。
『体はマドクリでできている。
血潮はまどかで、心はクリトリス。
幾たびのまぐわいを越えて不感。
ただの一度も絶頂はなく。
ただの一度もイかせられない。
彼女は常に独り、まどかの丘で愛に酔う。
故に、生涯に意味はなく。
その体は、きっとマドクリでできていた』
アーチャーの呪怨のような詠唱が私にまとわりつく。私は成す術なく衝撃に備える。
『無限の愛製(アンリミテッド・マドクリ・ワークス)』
気づけば荒野の中私は一人佇んでいた。この世のものとは思えない美しいクリトリスが墓標のように反り立っている。クリトリスの墓標は一つや二つではない。この果てのない荒野を埋め尽くすほどの膨大な数のクリトリスが突き刺さっている。
あるのは墓標と暗黒に嗤うアーチャーだけ。
「やっと二人きりになれたわね?」
その強烈な憎悪にたじろいで足が勝手に退いてしまう。
「ふふ、無駄よ、逃げ場なんてない。だってここは私の心象世界なんだから」
こんな凍てつく程殺風景な世界が未来の私の心の在り方だっていうの?
「ああ、もしかしてマスターの令呪があるから油断しているの? だとしたらどこまで愚かなのかしら」
目の前に瞬間移動したアーチャーはいつの間にか手に持つクリトリスの小太刀で私を袈裟斬りにした。
「あっ!? がああああああああああああああああああああああ!?」
私は膝をついて全身を痙攣させて失禁する。何が起こった? 突然高圧電流を流されたような逃れようもない刺激が全身を駆け巡る。とても顔を上げていられない。地面に顔をこすりつけて悶え苦しむ。
「どう? 気持ちいい? ねえ?」
容赦なく何度もめった刺しにされる。
「ひぎぃいいいいい!! あああああああああああああああああ!」
泣きながらのたうち回る。魔法で生成されたクリトリスにいくら刺されても肉体的損傷はない。ただ激痛と言っていい絶頂だけが全身を駆け巡っている。
子宮が股間からはみ出てきそうなほど痙攣しているのがわかる。膀胱の中が空になるくらい失禁が止まらない。涙も鼻水も涎も汗も垂れ流し状態だ。
「見苦しい。まるでナメクジね」
私の顔が地にめり込むほど強く踏みつけて吐き捨てるようにアーチャーは言った。私は虚ろな瞳が裏返りただ痙攣するだけで何も言い返せない。アーチャーは私の前髪を掴んで持ち上げ狂気に歪んだ顔で笑う。
「安心しなさい。私はあなたを殺せないわ。あなたに酷いこともできない。ただあなたを悦ばせることはできる。こんな風にね」
私の股間にクリトリスの小太刀がねじ込まれる。
「――――っっっ!!!???」
あまりの絶頂に大痙攣を起こしてエビ反りになる。ショックで一瞬心臓が止まったのか唾液が泡となる。反動で天を仰いで倒れそうになる私をアーチャーは掴んでいた前髪を引っ張ることで定位置に引き戻し、白目を剥いて痙攣する私の顔を間近で観察し嗤っている。
「今みたいに何度も絶頂させれば身体は無傷でも精神が持たないでしょうね。あなたの心を滅茶苦茶に壊して廃人にできればミッションコンプリートよ?」
意識が覚束ない中セイバーの言葉を反芻する。ここで一言でも「助けて、セイバー」と言えばあの女神は言葉通りすぐに駆け付けてくれるだろう。でも何かが引っかかっていてそれができなかった。
「じゃあ全力で行くから思う存分よがり狂いなさい!」
容赦なく額めがけて振り下ろされるクリトリスの小太刀を漫然と眺めて思い至る。セイバーのあの顔だ……私を信じようと決意したあの顔が「こんなのまだまだ全然いける」って私を強がらせるんだ!
「ふざけんなぁああああああああああ!!!!」
咄嗟にアーチャーが振り下ろすクリトリスの小太刀を魔力で複製して受け止める。
「!?」
アーチャーが目を剥くのとそれは同時だった。アーチャーの魔法と私の魔法が衝突し魔力衝撃で私は吹き飛んだ。私が複製したクリトリスでは一撃を防ぐのがやっとだったようで粉々に砕け散る。対してアーチャーのクリトリスの小太刀は刃こぼれ一つない。力量差は明らかだ。それでも一撃耐えれた事実が大きな自信となって笑わずにはいられない。
「……ふふ、そうよ、お前は未来の私なんだもの、私がお前に追いつけばいい話じゃない……!」
「たった一撃防げただけで随分と思い上がれるものね! まぐれはそう何度も続かないわよ!」
アーチャーが一心不乱に突撃してくる。奴の魔法をよく見ろ。構造理解に全神経を集中させ、精密に複製。
「っしゃおらああああああああああああああ!」
今度はさっきよりも精巧に複製できた。一撃を受け止めようともひび割れるだけで原形を残し、二撃目で粉砕。魔力衝撃で私は吹き飛ばされるが今度は受け身が取れて地面に着地し態勢を崩さない。
「……………」
「ふふ……!」
私が得意げに微笑するとアーチャーは苛立たし気に顔を顰める。
「……いいわ、そんな猿真似でどこまでやれるか試してあげる!」
奴の身のこなし、魔力の流れ、魔法理論、魔法構成の解明に全神経を集中し忠実に再現する。魔法の強度がどんどん向上していく。数度の打ち合い。両手のクリトリスが粉々に崩れようとも間髪入れずに複製、アーチャーの猛攻を何とか防ぎ切る。
斬撃を防ぐのが精一杯で反撃する余地はまるでない。それでもさっきまでの一方的に蹂躙される状況に比べれば大分マシ。
このまま打ち合いを続けていけばいつかは追いつく……いや、追いついて見せる! こいつに勝って帰るんだ!
「おらあああああああああああああああ!」
まどかとの約束を守るために!