「っ!」
(あれだけ絶頂して立ち上がれるはずが……)アーチャーの驚嘆が思わず溢れる。
四つん這いになって立ち上がろうとするほむらの全身から黄金の魔力が漲る。魔法少女の魔法は例外なく一つだけ。それは契約時の希望と束ねられた因果で魔法回路が構築されるからだ。
しかしほむらは束ねられた因果を材料に自力で新たな魔法回路を構築している。(マズい……!)一目見てその異常を覚ったアーチャーは慌てて二刀の小太刀クリトリスをほむらに投擲してトドメを刺そうとする。
「体はマドクリでできている……!」
ほむらの全身から雷のような魔力が放出され髪が逆立つ。彼女の両手にはそれぞれこの世のものとは思えない美しい小太刀のようなクリトリスが握られている。
「お前には、負けられない……!」
脳天に突き刺さるはずだった二刀の小太刀クリトリスをほむらは両手の小太刀クリトリスで弾く。ほむらの小太刀には刃こぼれ一つ見られない。先程までの模倣とは比べ物にならない強度。新たな魔法として成立した証だった。
「他の誰かに負けるのはいい。でも自分にだけは負けられない!」
「……ようやく入口に至ったようね。でもそれがなに? 実力差は歴然だと骨の髄まで理解させたはずだけど?」
「手も足もまだ動く! 負けていたのは私の心よ! お前を正しいと受け入れていた私の心が弱かった!」
「……なに?」
「お前の正しさは絶望に屈して諦めただけの負け犬の正しさよ! そんなもの私はいらない! お前が私という過ちを否定するように! 私も死力を尽くしてお前という絶望に屈した未来を打ち負かす!」
「やれるものならやってみろ!」
激昂するアーチャーが突貫し、風を切るように鋭利なクリトリスの刃をほむらの脳天めがけて振り下ろす。力任せの太刀筋をほむらは冷静にいなして受け流し、生じた刹那の隙を見逃さずアーチャーの鳩尾めがけて刃を突く。
「!!?」
迫りくる刃。アーチャーは驚愕に目を剥き済んでのところで小太刀で防ぐ。アーチャーの背筋に冷汗が伝う。危なかった。癖で型を取っていなければ防御が間に合わなかっただろう。ついさっきまでのほむらならば反撃する余裕など生じるはずがない。身体捌き、魔法強度、膂力、そのすべてがさっきまでとは段違いだ。
油断していたら足元をひっくり返されかねない……? 屈辱に歯噛みする。いいや、そんなはずはない。たった数十回の打ち合いだけで英霊に追いつくなどありえるはずがない。
「諦められるはずがないでしょうっ!」
「くっ!?」
今度は突貫してきたほむらをアーチャーが受け止める。なんという重い一撃。アーチャーの二刀の刃が衝撃に耐えきれずひび割れる。アーチャーは間髪入れずに修復する。(英霊ですらないただの魔法少女に魔法強度で撃ち負けるなんてあるはずないのに、なんなのこれは……!?)
「あなたもよく知っているはずよ! 今まで私が一体どれだけの世界を見捨ててきたか! 一体どれだけ失敗してまどかを苦しめてきたか!」
アーチャーはほむらの胴めがけて小太刀を薙ぎ払う。彼女はアーチャーの動きを読み切っていたのか身を捻り空中で回避しながら脳天めがけて小太刀を振り下ろす。アーチャーは難なく受け止めるもほむらの連撃は止まる気配がない。
「潔く自決しろですって? そんな私だけ楽になるような最後、今まで見捨ててきた人達が許すはずない! たとえ誰に憎まれようと呪われようと、まどかが日常を取り戻すまで戦い続けなければ罪を償う事すらできないじゃない!」
鬼気迫る勢いで繰り出される剣戟をいなしながらアーチャーは歯が軋むほど歯ぎしりする。(なにを馬鹿正直に付き合ってるんだ私は……!)あと数歩退いて距離を取り、クリトリスの剣弾幕で圧倒すれば片が付く。だが一歩でも退けば決定的なものに敗北する予感がある……!
「いいえ、ここまでよ!」
「ぐあっ!?」
剣を振るのに必死なほむらの脇腹を蹴り飛ばして距離を稼ぐ。奴はすでに死に体。
「これが最後の――」
(間抜けか私は! これが最後を何度見せつけられればいい! こいつは止まらない! 限界は訪れない! そんなものとっくに通り過ぎている! なぜならこいつが切り伏せようとしているものはとっくに私ではなくなっている……! 知っている! その無様さを! 私はよく知っている! 心は折れない! ただの一度の絶望を、諦めることをしなかった魔法少女をよく知っている! ただ一人の親友を救おうと足掻き続け、幾千と時を遡行したその醜悪な妄愛をよく知っている!)
ほむらが切り伏せようとしているのは己を阻む自分自身。ただ一人の親友の平穏を勝ち取る為に。アーチャーが亡き者にしようとしているのは己を生み出す自分自身。この先繰り返される過ちを消し去る為に。
(勝てぬと知って、意味がないと知って、なお挑み続けるその姿。それこそが私の過ちに他ならない。なのに、どうして……!)
「いいえ、同じよ……! お前も私と同じように絶望する!」
三本のクリトリスの剣を生成し、銃弾の如き高速で射出する。小太刀とは段違いの重みと長さを有する剣による三撃の高速連射。ほむらは軌道をずらすのが精一杯で力を受け流しきれず両手の小太刀の刃が割れる。彼女は悔し気に歯噛みして、折れかけの小太刀を修復するわけでも生成するわけでもなくただ握りしめるだけだ。
「はっ! 皮肉ね! 心よりも先に魔力が尽きたようね! お前に残されたのはみすぼらしいその武器だけよ! どうあれ暁美ほむらの戦いはこれで終わりだ!」
今度は数十を超えるクリトリスの剣を生成し、射出の準備をする。
「……お前の言う通り、私はこれからもまどかを苦しめるのでしょうね」
ここまで来てようやく心が折れたのかほむらはそう言い、拍子抜けしたようにアーチャーは眉をつり上げる。
「でも、好きだったの、あの子の笑顔が。もっと見ていたいと思ったの。あの子の笑った顔も、怒った顔も、泣いた顔も……だから私は諦めない、愚かでも引き返す事なんかしない! この愛は決して、私が最後まで疫病神であったとしても決して、間違いなんかじゃないんだから!」
ほむらの激昂を聞いたアーチャーは忘れていた何かを思い出しそうになる。アーチャーは頭痛を堪えるように顔を顰め、頭を振る。今更こんな綺麗事で言い包められるくらいならそもそも英霊になどなっていない!
「消えなさい!」
目の前にいつまでも立ちはだかる過ちを消し去るべく、数多のクリトリスの剣がほむらめがけて高速射出される。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ほむらは雄叫びを上げながらアーチャー一直線に突貫してくる。音速すら振り切る速度で射出される剣を次々と折れかけの小太刀でいなして軌道をずらしていく。少しでもいなすタイミングを誤れば抗う術を失い、ショック死するほどの絶頂を受けることになる。
ほむらはそれがわかっていてなお臆することなく踏み込んでいく。ガス欠を起こしていた魔力炉を、命を燃やして無理やり稼働させ、なけなしの魔力を振り絞って小太刀のクリトリス強化に回し、降りかかる剣の嵐を紙一重で軌道をずらしながらアーチャーに差し迫っていく。
手数では意味がないと覚ったアーチャーは巨大クリトリスの大剣を四本生成し射出する。
「……じゃない!」
ほむらは減速しないままクロスオーバーステップで二本のクリトリスの大剣を避け、残り二つを最後の魔力で強化した小太刀で弾き軌道をずらす。そしてついにほむらはアーチャーの眼前にまで辿り着く。
「この愛は間違いなんかじゃない――――ッッ!!!」
だが咆哮空しくあと数歩足りない。ほむらの間合いよりも、アーチャーの間合いの方がほんの少し広い。ここからではどんなに無茶をしてもほむらの折れかけの小太刀ではアーチャーにまで届かない。
対してアーチャーはすでにクリトリスの小太刀を生成し、いつでも間合いに入ったほむらを迎撃できるよう腕を高々と振り上げている。ほむらはそれでも前進する。たとえこのまま串刺しにされようと、絶対に一矢報いてやると眼光が語る。
ほむらがアーチャーの間合いに足を踏み入れる。このまま脳天に刃を突き立ててやろうと手に力を込めた時だった。懐かしいあの子の声が聞こえたのは……。
『……ほむらちゃん、過去に戻れるんだよね? ……こんな終わり方にならないように、歴史を変えられるって、言ってたよね? ……キュウべえに騙される前のバカな私を、助けてあげてくれないかな……?』
『約束するわ!! 絶対にあなたを救ってみせる!! 何度繰り返す事になっても、必ずあなたを守ってみせる!!』
(……ああ、そうだった……この約束があったから私は何度挫けても立ち上がる事ができたんだった……)
アーチャーにはすでに失ってしまった熱く燃え滾る眼光が差し迫ってくるのを漫然と眺めて微苦笑する。
(ひどい話ね。古い鏡を見せられている。こういう魔法少女がいたんだったわね――……)
アーチャーは終ぞその小太刀を振り下ろすことができなかった。永遠にまで圧縮された時間の中アーチャーの間合いを数歩駆け抜けたほむらは、折れかけの小太刀の刃をアーチャーの脇腹に突き立てることがようやくできたのだった。
固有結界は完全に解け、周囲は見知った見滝原の町の風景が広がる。アーチャーの脇腹に深々と突き刺さった折れかけのクリトリスの小太刀がこの戦いの勝敗を静かに物語っていた。
「私の勝ちよ、アーチャー」
「ええ、そして私の敗北よ」
いっやー、どうもどうもダル神ですー、お久しぶりですー。
もうね、絶対誰も覚えてないと思うんですけど、今更続き書いちゃいます。
これにはですね、ふっかい訳があるんですよ。
まず結論から言わせてもらうとですね、もう虚淵玄には奈須きのこしかないかなって。
もともとFate作品は大好きだったんですど、最近FGOにドハマりしまして、もうこれいけんじゃね? 聖杯設定あればいい感じの話になるんじゃね? みたいな。
えー、それにつきまして、今回まどか☆マギカに無理やり聖杯をぶち込んだわけですが、もうオリジナル設定ぶっこまなければどうしようもなくなりました。
えー、なので申し訳ないですが聖杯とは名ばかりで聖杯とかサーヴァントとかゼルレッチとかそういうお名前だけお借りしてやれせていただければと思います。
ですので型月設定と全然違うじゃないかと怒らないで頂きたいというわけです。
まあ何はともあれこれで前半戦終了です。
後半戦はついにセイバーとの対決ということで、あれやりたいです。
他の女神が相手ならこんな世界用意したところで歯が立たなかったでしょうね。でもまどかが相手ならすでにクリトリスを用意している私が一歩先を行く!!!!