今回のターゲットは遠薙深雪さん。
今回は音声作品にまつわるお話です。
作中で説明しきれないところがあったので、そこら辺は後書きで補足します。はい、力不足です←
あと、後半で割とガッツリ……?触手さんの出番があるので苦手な人は注意です。
ASMR。
略さずに言うと、Autonomous Sensory Meridian Response。
人が聴覚、視覚への刺激によって心地良いと感じる感覚そのもののこと。
昨今、自然の中で聴こえてくる環境音や、耳かき、マッサージといった心地の良い音声を楽しむ『ASMR音声』が流行していた。
青蘭学園でもそれは例外ではなく、一部の生徒の中で楽しまれていた。
しかし、その裏では普通のASMR音声に紛れ、悪意のこもった音声が流れている事を知っている者はほとんどいない。
「睡眠誘導音声……ですか?」
水色の長髪をワンサイドアップに纏めている女子生徒──遠薙深雪は、絵筆を洗いながら訊き返す。
「そうそう。深雪さんって、絵を描き始めると止まらなくなっちゃうって聞いたのよ。それで寝不足のこともあるって」
「そうですね……たまに寝るのを忘れてしまう時はありますね」
あはは、と苦笑しながら答える深雪。
絵を描くことが好きな深雪は絵を描いている時の集中力が非常に高く、声を掛けても気付かなかったり、寝ることも忘れて描き続けてしまったりすることがあった。
今も、女子生徒は何度か声を掛けていたのだが、深雪は作業が一段落つくまで気が付かなかったほどだ。
「でしょ? だから一度試してみたらどうかなって。効果は人によるけど、熟睡出来るから寝不足の時なんか疲れが取れていいと思うよ」
「そうですか……? でも、どんなものを聴けばいいか……」
「そこは私のオススメを教えてあげるよ。耳かきと耳のマッサージをしてもらう音声なんだけど……」
女子生徒は深雪にスマホの画面を見せながら音声について説明していく。
深雪は時折相槌をうちながら、興味深そうに聞いている。
やがて説明を終え、部活の後片付けをして、その日は帰宅となった。
女子寮の一室。
部活を終えて寮へ戻ってきた深雪は、食事や入浴、学園の課題などを終わらせ、就寝の準備を始める。
スマホに送ってもらったデータを呼び出し、イヤホンを付ける。
カナル型イヤホンによって周囲の音が遮断され、不思議な感覚に包まれる。
そのまま深雪は布団に潜り込み、音声を再生した。
最初に聞こえてきたのは、優しげな雰囲気の女性の声。
少しの水音がすると、直後に耳を触られるような音が聞こえてくる。
(不思議……音を聞いているだけなのに、なんだか実際に触られているみたい……)
耳を優しく揉んだり、撫でたりする音。
あまりにリアルで、まるで本当に触られているような感覚。
先程の女性の声で、オイルを使ったマッサージであるという説明がなされる。
しばらくマッサージが続き、次いで耳かきに移行した。
耳の中に耳かきが入ってくる感覚がリアルに伝わってくる。
(不思議な感覚……けど、すごく安心する……)
まるで幼い頃に母親にしてもらっていたような、優しく丁寧な耳かき。
心地良い音に、段々と眠気が強くなっていく。
(あ……これ…………だめ、かも……)
そのまま、深雪の意識は沈んでいった。
翌朝。
深雪はスッキリと目を覚ました。
いつも以上にグッスリと、深く眠っていたのか、身体の疲れの一切が消え去ったような、清々しい状態だった。
「半信半疑だったけど、凄い効果……」
疲れている時ほど良いかもしれない、と深雪は思う。
その日から、深雪は定期的にその音声を聞くようになった。
最初は1週間に1度程度、それが次第に多くなっていき、5日に1度、3日に1度……
いつの間にか、毎日聞くようになっていた。
聞かないと、眠れないようになっていた。
そんなある日。
深雪はいつものように音声を聞きながら眠りについた。
『いつも通りだった』。
けれどその日はいつもと違っていた。
「えっ……?」
朝起きると、布団がグッショリと濡れていた。
深雪の下半身を中心に、かなり広い範囲にシミが出来ていたのだ。
深雪の顔がカァッと熱くなる。
この歳になってお漏らしかと、恥ずかしくなってしまう。
しかもかなりの量だったと見受けられた。
「と、とにかく早く片付けないと」
急いでシーツと布団を洗い、干す。
深雪は今日が休みで良かったと心から思った。
休みでなかったなら、確実に遅刻していただろう。
「あまり深く寝過ぎてしまうのも、良くないのかな……?」
深く眠り過ぎて、催したことに気付かなかったのか。
それとも何か別の要因なのか。
それはまだわからなかった。
その日の夜。
今日は音声を聞かずに寝てみようと決めていた深雪だったが、一向に眠ることが出来ない。
時刻は既に午前2時を回るというのに、欠片ほどの眠気すら来なかった。
(どうしちゃったのかな、私……)
段々と不安になってくる深雪。
何か、まずいことになっているような、言い知れない不安。
そんな不安を抱え、眠ることが出来ないまま朝を迎えた。
その日の授業、深雪は全く集中出来なかった。
遅れてやってきた眠気が集中しようとする深雪の邪魔をする。
(どうして、今になって……)
必死に眠気に耐える。
けれどやはり、授業の内容は頭に入ってこなかった。
授業が終わり、寮の自室に戻った深雪はベッドに沈み込んだ。
この眠気なら眠れる。
そう、思っていた。
(なんで……?)
けれど、眠気はあるのに一向に眠ることが出来ない。
今すぐにでも寝落ちしてしまいそうなほど眠いのに、目を瞑っても眠れない。
深雪は、いまはとにかく眠りたかった。
なにも考えずに、深く眠りにつきたかった。
自然と、スマホとイヤホンに手が伸びる。
イヤホンを耳に付け、いつものデータをスマホで開く。
いつもの女性の声。
マッサージの音。耳かきの音。
安心する、その音達を聞いていると、深雪の意識は沈んでいく。
今まで眠れなかった事が嘘だったかのように、深く、深く、沈んでいく。
目が覚めたのは、早朝。
午前4時を少し回ったくらいの時間だった。
いつもより数時間早い時間に眠った事を考えれば、納得の時間。
問題は、そこではなかった。
「また……」
グッショリと濡れたシーツ。
前回と同じかそれ以上に派手に濡れたそれを見て、深雪は確信する。
原因は、この音声。
毎回途中で眠ってしまうから最後まで聞いたことのない、この音声に何かある……
試しにイヤホンを接続せず、スマホのスピーカーで聞いてみようとしたが、何も聞こえない。
どれだけ音量を上げても、何一つ聞こえなかった。
女性の声も、マッサージの音も、耳かきの音も。
これは、どう考えても異常だ。
そう思った深雪は、このデータを調査してもらった方がいいと、Dr.ミハイルに事情説明とともにデータを送信した。
これで何かわかるはず。
そう、思っていた。
夕方。
ミハイルから調査結果が届いた。
結果は「音声データの形式を取っている無音データ」「何の異常も見受けられない」との結果だった。
ミハイルに送ったデータはイヤホンで聞いても無音だったそうだ。
そんなはずはない。
実際に深雪はその耳で何度も音声を聞いた。
しかし、白の世界の技術力を持ってしても異常を見つけられなかったデータを、自分で何とか出来るとも思えなかった。
三日が経った。
その間、深雪は一度も音声を聞かなかった。
そして、一睡も出来ていなかった。
やはりあの音声を聞かなければ眠れない。
けれど、聞いてしまうとまた……
(でも、もう限界かも……)
眠気は強くなる一方で、深雪はすでに何をするにも一切集中出来なくなっていた。
眠りたい。
その思いが日に日に強くなって、限界を迎えていた。
深雪はその日、帰り着いたらあの音声を聞いてしまおうと思っていた。
聞けば熟睡出来る。お漏らしなんて恥ずかしいけれど、この眠気に耐え続けるよりは幾分かマシに思えた。
そんなことを考えながら寮へ向かう道を歩いていると、スマホが震えた。
着信画面。表示された名前は『夏菜』。
通話ボタンを押して、耳に当てる。
『深雪、今どこ!?』
「もうすぐ寮に着くところ、だけど……」
『寮の近くでウロボロスの反応が出てるの!今から急いで向かうから……』
途中までは聞けた。
けれど、深雪の手がゆっくりと下がっていき、スマホも耳から離れていく。
深雪の目の前には、巨大なイモムシのような姿をしたウロボロスの姿。
頭の部分は大きく開いていて、筒のような形状とも言えるかもしれない。
その内側には、粘液を滴らせた無数の触手が蠢いている。
ジュル……ジュル……
ウロボロスの口内から聞こえるその音。
何故だか、聞き覚えがある気がした。
耳の奥に、響くような音。
粘性の高い液体が蠢く、その音を。
深雪は、『何度も聞いていた』。
「あ……」
全て、理解した。
そんな音をどこで聞いたのか。
何故、起きた時にシーツが濡れていたのか。
深雪の口が半開きになり、口の端から涎がツゥっと垂れていく。
その場に座り込み、ウロボロスを見上げている。
その表情は、蕩けきっていた。
あの音声の後半部分。
それは、触手によって耳の中を、奥の奥まで犯し尽くされる音声だったのだ。
あのシーツのシミは、厳密にはお漏らしとは違う。
何度もその音声を聞き、開発された深雪が耳を責められ絶頂を繰り返した際の潮によるものだった。
(ただの音声で、アレなら……)
実際に耳の中を掻き回されたら、どれだけ気持ちいいのだろうか。
ウロボロスの口が深雪に迫っていく。
大きく開いた口から聞こえる音が、段々と大きくなっていく。
深雪の期待感が強くなっていく。
今にも頭から呑み込まれてしまいそうな状況にも関わらず、深雪はうっとりとした表情でウロボロスの口内を見つめている。
『深雪!?深雪っ!聞こえてるの!?』
スマホからは未だ、妹の声が聞こえている。
しかし、深雪の耳にはその声が届かない。
深雪の視界が暗くなった。
同時に、耳の中へと触手が滑り込んでいく。
深雪の待ちに待った、耳への直接刺激。
どんどん耳奥へと侵入する触手。
粘液の粘ついた音と、耳のなかを擦る刺激に深雪は瞬時に絶頂を迎えた。
「〜〜〜〜〜!!」
まだ呑み込まれていない首から下が、ビクンビクンと痙攣する。
深雪の手からスマホが滑り落ちた。
音声だけとは違う、強烈な快感。
深雪はこの短時間で、10を超える絶頂を迎えていた。
(ああ……気持ちいい……)
深雪の頭の中は、それだけで埋め尽くされている。
限界を迎えた精神状態に強烈な快感を流し込まれた事で、それ以外の思考が完全に遮断されている。
ウロボロスはさらに深く深雪の身体を呑み込んでいく。
上半身を呑み込み、下半身も徐々に飲み込まれていった。
それでも、深雪は気にも留めない。
むしろ、直接的な快感が増した事を歓喜しているようにさえ思える。
(もっと……もっと耳の中、ぐちゃぐちゃにして……)
深雪は全身を完全に呑み込まれながら、そう願い続けた。
はい、補足です。
今回のお話は「ヴェノム666みたいに電脳世界で生活するプログレスがいるなら、そういうウロボロスがおってもよくね?」って考えて書いたものです。
深雪のスマホの中に潜み、ASMR音声を別データにすり替え、ASMR動画のフリをして耳を開発しつつ、「聞かないと眠れない」ように催眠を、といった形です。
ミハイルの調査で問題が出なかったのは、問題あったのが音声データじゃなくスマホの方だったからですね。
正直思いつきと勢いで書いたものなので、そのうちリメイクするかもしれません。ちゃんと作中で説明出来る様にね。
次回は相変わらず未定なので気長に待ってもらえればと思います。
ではさいなら