※この作品はR-18です。

Ange Vierge SS集(R-18)   作:咲月蒼華

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久しぶりの更新がこれでいいのかぁ!?!?
リリンクサ終直後、メモリアルアプリ開始直後の更新がこれでいいのかぁ!?

いいよね、別に!!!

ということで、試験的に書いてみた臭い責め作品です。
ヒメ様には臭い目に遭ってもらいます(無慈悲)
相手は人じゃなく、ウロボロス(という便利な言葉を用いたただのスライム的存在)です。


今回珍しく、性的行為は愛撫すらありません。
ホントに終始臭い責めですので今まで以上に人を選ぶと思うので、少しでも「無理かも……」と思ったら読むのはやめた方がいいかも?
読んだ後でのクレームは受け付けませぬ。


PG.45 ヒメガミノミコト 臭い責め

 

月明かりの差し込む廊下。

そこに並ぶ扉の1つが、静かに開いた。

 

「ふぅ……思ったよりも時間がかかってしまったね」

 

開かれた扉から現れたのは、胸元を大きく露出したドレスのような服を纏った女性。

ヒメガミノミコトは困ったように口をへの字に曲げ、曖昧に笑っている。

 

「こんな事なら、彼にも残って貰えば良かったかな」

 

時刻は既に19時を回り、校内に人の気配は無かった。

ヒメガミノミコトと同じ生徒会に属するメンバーの、ナクル=クルルシファーは寮の門限の関係で、ヒメガミノミコトと恋人でもあるαドライバーはウロボロス討伐があるため、先に下校していた。

お付きのシンシアは赤の管理区での別件の仕事を頼んだので、これまたいない。

 

「夜の校舎というのも中々いいものだけれど……やっぱりこの雰囲気は誰かと味わいたいものだね」

 

長い仕事を終えてようやく下校出来るようになったヒメガミノミコトは、窓の外の夜空を眺めながら校舎の出入口へと向かう。

その途中。

 

「…………! ……!」

 

前を通りかかった女子トイレの中から、くぐもった声のようなものが聞こえてくる。

 

「……?」

 

人がいなくなり静まり返った廊下に漏れ聞こえてくる声は、女性の声のように聞こえる。

しかし、なぜこんな時間に、トイレからそんな声が聞こえるのか?

ヒメガミノミコトにはそれがわからない。

 

女子トイレの扉の前に立ち、扉に手をかける。

意を決してその扉を開け放つと、むわっとした臭気が溢れ出してきた。

 

「うっ、臭っ……!?」

 

ヒメガミノミコトは、その臭いに近しいものを嗅いだ事があった。

この世界に来てから、祭りの屋台で見かけたイカ焼きに近い臭い。

初見の時、嗅いだ事のない臭いに驚き、食べ物であると思わなかった。

 

しかし、今のこの臭いは、それを何倍にも濃く強くしたような不快感があった。

熱すらも感じる臭気。

 

手で鼻を押さえるヒメガミノミコトの視線の先には、白く濁った半液状のスライムのような何かに纏わりつかれている女子生徒の姿があった。

口元をドロドロの液体で覆われ、焦点の合わない目の端に涙が浮かんでいる。

 

(助けなきゃならない……けど、『アレ』が全身液体だった場合、私のエクシードは相性が悪いね……)

 

糸を生み出し自在に操るヒメガミノミコトのエクシードでは、完全に液体の相手は相性が非常に悪い。

液体は糸の隙間を抜けてヒメガミノミコトにまで至ってしまう可能性が高いからだ。

 

(応援を呼ぶ? この時間に……?)

 

目の前のスライムからは、警戒しているような様子が伝わってくる。

ヒメガミノミコトの存在には既に気付いているのだろう。

果たして、応援要請をする暇を与えてくれるか。

応援が来るまで、時間を稼げるか。

 

(考えてる暇は無いね)

 

ヒメガミノミコトは通信端末を取り出し、メッセージアプリを開く。

その瞬間、女子生徒に纏わりついていたスライムが2つに分離して片方がヒメガミノミコトへと飛び掛かる。

 

「くっ……!」

 

エクシードを発動させ、糸を格子状に組んで網を作るヒメガミノミコト。

糸同士の隙間を出来る限り狭めていくが、隙間を埋め切る前にスライムが網に接触。

より細かく分割され、網の隙間からヒメガミノミコトの身体へと降り注いだ。

 

ボタボタと音を立ててヒメガミノミコトの身体を汚していく白濁スライムは、その全てが酷い悪臭を放っている。

その臭いに顔を顰め、ヒメガミノミコトは衣服や素肌に絡みつくように付着した白濁スライムを払いのけようとする。

しかしそうしている間にも追加の白濁スライムが降り注ぎ、それぞれがくっついてヒメガミノミコトの身体を覆い隠していく。

 

先程まで女子生徒がされていたように口を塞がれ、鼻の曲がる臭いが至近距離からヒメガミノミコトの鼻へ流れ込んでいく。

 

「んー!!」

 

頭をブンブンと振る事で強烈な臭いから逃れようとするが、顔に密着したスライムはそう簡単には離れない。

次第に、目元に涙が浮かんできた。

その時。

 

「ヒメ様ー? いらっしゃいますか?」

 

廊下から、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

ヒメガミノミコトのお付きであるシンシアの声だ。

頼まれた仕事を終え、遅い時間にも関わらず帰っていないヒメガミノミコトの事を探しに来たのだろう。

声の聞こえ方からして同じ階、しかもかなり近くにいる。

 

ヒメガミノミコトは力を振り絞りエクシードを発動、1本の糸を生み出して廊下へと伸ばす。

 

「ヒメ様のエクシード……!?」

 

それに気付いたシンシアの声と、廊下を走る足音が聞こえてくる。

するとどうだろうか、白濁スライムはあっさりとヒメガミノミコトを解放し、排水口へそそくさと逃げていった。

スライムのいた痕跡が全て消えたタイミングで、シンシアが女子トイレへ到着した。

 

「ヒメ様っ!? 大丈夫ですか!?」

 

仰向けで倒れ込むような体勢のヒメガミノミコトに駆け寄り、身体を支えるシンシア。

その腕の中で、ヒメガミノミコトの身体から力が抜けていき、瞼がゆっくりと落ちていく。

 

「ヒメ様!? ヒメ様っ!」

 

そのまま、ヒメガミノミコトは意識を失った。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

ヒメガミノミコトが目を覚ますと、まず目に入ったのは白い天井だった。

 

「ここは……」

 

身体を起こして辺りを見渡すと、特に医務室というわけでもなく、ごく普通のワンルームのように見えた。

ベッド以外には机くらいしか見当たらない、殺風景な部屋。

 

「目が覚めましたか?」

 

部屋の扉が開かれ、姿を現したのは長い銀髪と頭部の2つのガジェットが特徴的な女性。

 

「ここは青空寮の空き部屋の1つです。昨晩シンシアさんから連絡を受けてからすぐに現場に駆けつけました。状況から見て、犯人がウロボロスの可能性を考慮して校内の医務室ではなく、こちらへ運ばせていただきました」

 

女性──コードΩ00ユーフィリアは、そう説明する。

聞けば、あの後シンシアがすぐに青空寮へ連絡を取り、総出で駆けつけたらしい。

ヒメガミノミコトと現場の様子から、ただの侵入者ではなさそうという意見が総員合致し、ウロボロスの存在を知るメンバーしかいない青空寮へ運び込んだとの事。

 

「詳しい状況を知りたいので、体調が問題無いようでしたらみなさんを呼んできますが……」

 

「ああ、大丈夫。呼んできてもらえるかい?」

 

ヒメガミノミコトの言葉に頷くと、ユーフィリアは部屋を出ていく。

少しして、青空寮のメンバーが続々と部屋に集まって来た。

 

「最初に言っておくけれど、私自身何が起きているのか正確に把握は出来ていない。あの場所で何が起こったのか、事実をそのまま語るしかないけれど、それで構わないかな?」

 

「構いません。お願いします」

 

ユーフィリアの返答と、他のメンバーが頷く事を確認してヒメガミノミコトが語り始める。

 

「いつも通り生徒会の仕事をしていたんだけど、遅くなってしまってね。ナクルは緑の管理区の門限があったから先に帰していたし、シンシアには別件の対応をお願いしていたから、珍しく私1人だったんだ」

 

「そのようですね。シンシアさんから事情は伺いました」

 

「それで、仕事が片付いたから帰ろうと思ったら、遅い時間なのに人の声みたいなものが聞こえてきてね。おかしいとは思ったけど、確認しないわけにもいかない。声の発生源が女子トイレなのはすぐにわかったから、様子を見ようと思って扉を開けたんだ。そしたら……」

 

「そ、そしたら……?」

 

ヒメガミノミコトが少し言葉を詰まらせる。

話を聞いていたメンバーの一員、久遠空が恐る恐ると言った様子で聞き返す。

 

「まず最初に驚いたのは、臭いだったんだ。鼻が曲がるかと思って思わず鼻を手で覆ったくらい。次いで驚いたのは、なんて言うのかな……ドロドロの液体みたいなものに、女子生徒が包み込まれているのが見えたんだ」

 

「ドロドロの液体に包み込まれている、ですか」

 

「ちなみに、どんな感じの見た目だったか覚えている範囲で描いてもらう事は出来るかしら?」

 

ユーフィリアが内容を繰り返し、ソフィーナが紙とペンを差し出して問う。

それを受け取りながら、ヒメガミノミコトは少し苦笑する。

 

「絵心にはあまり自信がないのだけど……なんとなくのニュアンスが通じればいいかな?」

 

言いながら、すでにヒメガミノミコトは紙にペンを走らせている。

数分で描き上がったそれは、まるで何かの表面を液体が流れているような、そんな風に見える絵だった。

 

「最初は、この液体の内側に何か物体があって、その表面を液体が覆っている感じだと思ったんだけど……実際は全て液体だったみたいなんだよね」

 

「…………ベ○ベター?」

 

「あ、それちょっと思った!」

 

絵を見た空がボソッと呟いたのを聞き、日向美海がその言葉に同調する。

しかし、他のメンバーはピンと来ていないような反応。

 

「あの、空さん。その、ベ○ベターというのは?」

 

「ああ、すみません。青の世界の有名な作品に登場するモンスターで、えっと……これです」

 

代表してユーフィリアが訊ねると、空はスマホで検索した画像を見せる。

確かに似ていますね、と呟きながら、ユーフィリアはその画面をヒメガミノミコトに見せる。

 

「確かに、雰囲気はこんな感じだったね。ただ、私が見たやつには顔が見当たらなかったのと、色が濁った白みたいな色だった、かな」

 

「濁った白で、この外見で……臭い……?」

 

「どうしたの、空。また何か心当たりでもある?」

 

ヒメガミノミコトの言葉を確認するように繰り返す空の様子に、ソフィーナがその顔を覗き込む。

 

「えっと……心当たりがあるというか……ちなみに、どんな臭いだったかってなんとなくわかりますか?」

 

「そうだね……ああ、そう。こっちに来てからお祭りで嗅いだことがあるような臭いだ。イカ……だったかな? イカ焼き」

 

「イカ臭い濁った白いドロドロの液体!?」

 

「ど、どうしたの空。さっきから何か変よ?」

 

過剰とも言える空の反応に、本気で心配そうな表情をしたソフィーナが言う。

 

「だって、その……」

 

「空さん。何か思いついたことがあるなら言ってください。現状では情報が少ないので、少しでも情報が欲しいんです」

 

「……その、実際に捕まった人の前だと凄く言いづらいんですけど……今まで聞いた要素が、男の人の、その……せ、精液と似てるなぁ、なんて……」

 

言いづらそうに顔を逸らして言葉に、美海は顔を赤くしているが、青の世界のメンバー以外はよく分かっていないような表情。

 

「検索。男性の精液──青の世界において、子を成すために必要不可欠なもの。女性の体内で生成される卵子と融合する事で子となる、精子が含まれた液体。白濁色をしており、ドロドロとしていて、イカに似た匂いがすると言われている。……確かに、類似点が多いようです」

 

そんな中、白の世界のアンドロイドであるコードΩ46セニアがデータベースにアクセス、検索した内容を列挙していく。

それを聞いて、ヒメガミノミコトが抱いた疑問を投げかける。

 

「どうして言いづらかったの? 別に気にするような事でも無いように思ったけど……」

 

「恐らく、精液を排出するのが男性器からであるため。小水を排出する器官から排出されるものと類似したものであるため、嫌悪感を抱く可能性を危惧したものと思われます」

 

「だ、男性器って……」

 

セニアの説明を聞いて顔を真っ赤にする、ソフィーナをはじめとする数人。

そんな中、ユーフィリアは何か納得したような表情をしていた。

 

「空さん。ありがとうございます。1つ謎が解明されました」

 

「え?」

 

「今回被害に遭われたもう1人の女子生徒ですが、数時間前に目を覚ましていました。しかし1つ、異常行動が見られたんです」

 

「……その異常行動というのは?」

 

「男性の股間の臭いを、執拗に嗅ぎたがるんです」

 

「…………は?」

 

誰がこぼしたのか。

しばしの沈黙の後、気の抜けた声が響いた。

 

「言った通りです。最初に様子を見に行った際、αドライバーさんが一緒にいたのですが……正気を失っている様子で、執拗にαドライバーさんの股間に顔を埋めようとして、鼻を鳴らしていたんです」

 

「……ということは、ウロボロスの体臭には依存性に似たものがある可能性がある?」

 

「その可能性は高いかと。長時間拘束されて、依存性の高い臭いを強制的に嗅がされ続けた。それによって、目を覚ましてから類似する臭いに執着を見せたものだと思います」

 

そこまで話して、全員の視線がヒメガミノミコトに向く。

この中で唯一、その臭いを嗅いでいる人物であるヒメガミノミコトに。

 

「今のところ、わたしは大丈夫そうだよ。彼がいても特にそういった症状は無い。捕まっていた時間が短かったからかな」

 

言いながら、部屋の入口付近に立っている、この部屋唯一の男子へ視線をやる。

ヒメガミノミコトと恋仲であるαドライバーは、ホッとしたような表情を見せた。

 

「けど、どうしよっか? 臭いを長時間嗅いだらマズいなら、長期戦はダメだよね? でも全身液体だとすると通じる攻撃も限られちゃうし」

 

「そうね。私の炎で蒸発させられるようなら良いけれど、粘度が高い液体となるとその耐性も高そう」

 

美海とソフィーナは、対策を考え始めている。

特殊な個体故に、事前準備は必要不可欠だと言えた。

 

「臭いの対策については、白の世界で開発された防毒マスクが有効と推測。通常はイヤホン程度の大きさで、起動すると口と鼻を覆い、外気を浄化した上でマスク内に取り入れます。テストでは毒性の他、臭いなども消えていたとデータにあります。ここにいる人数分の使用申請を提出──承認されました」

 

「でしたら、後はどう倒すかですね。確実なのは凍らせる事でしょうか」

 

セニア、ユーフィリアの2人が対抗策を詰めていく。

 

「白の世界の収納技術を使って隔離出来たりしない? セニアの武装みたいに」

 

「一時的な隔離であれば有効と推測。しかし相手の能力の詳細が分からない以上、長期的に隔離するのはリスクが高いと思われます」

 

「じゃあ、ひとまず見つけたら一時的に隔離して、対処出来そうなエクシードを持つ人に協力してもらって倒す、って感じかな?」

 

美海のその言葉に、全員が頷く。

基本方針は確定。

あとは実行に移すだけだが……

 

「白の世界に問い合わせましたが、隔離に使える持ち運び可能な装置は現状1つしか用意出来ないようです。全員が持つことはできません」

 

「とはいえ、急いで対処しなきゃならないので手分けしたいところではあります」

 

「なら、機動力の高い人に持ってもらって、他のメンバーは見つけ次第その1人に連絡、で良いんじゃないかな。交戦は避けて、でも出来るだけ逃げられないように」

 

「それなら、装置を持つのは美海さんですかね?」

 

「うえ、私!? 大丈夫かな、機械の扱いとか……」

 

「操作自体は非常に単純なものですので、大丈夫だと思います。収納したい物に向けてスイッチを押すだけですから」

 

「それなら大丈夫、かな……?」

 

不安そうにする美海だったが、周囲の面々は1人も不安そうな表情を見せない。

それだけ信頼しているのだろう。

 

「では、捜索は明日から開始ということで。今日はみなさん、ゆっくり休んでください」

 

ユーフィリアのその言葉を最後に、会議はお開きとなった。

ヒメガミノミコトは一晩青空寮に泊まることになったため、部屋を出ていくメンバーの後ろ姿を見送る。

 

「ゴクッ……」

 

最後に部屋を出ていくαドライバーの背中を見送り、ヒメガミノミコトは1人密かに、唾を飲み込んだ。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

翌日。

セニアから防毒マスクを受け取り、各々が装着する。

耳に引っ掛けるような形で、本当にイヤホンのようなコンパクトさと軽量さ。

 

「使用する際は、装置上部にあるスイッチを押してください。解除する際も同様に。スイッチにセンサーが付いていて、起動時にスイッチを押したのと同一人物以外がスイッチを押しても解除はされませんので、ウロボロスに解除されることはありません」

 

試しに美海がスイッチを押すと、鼻と口をスッポリと覆う金属質のマスクが現れる。

美海のマスクのスイッチをソフィーナが押してみるが、解除されない。

美海自身がもう一度スイッチを押すと、瞬時にマスクが解除された。

 

「何度見ても白の世界の技術は凄いね。マスクを展開していても重くないし、これは便利だ」

 

ヒメガミノミコトが関心したように溢す。

 

「最終確認です。手分けしてウロボロスを捜索し、見つけた場合はすぐにマスクの展開と美海さんへの連絡。その後はなるべく交戦はしないようにしつつ、ウロボロスを監視してください。美海さんは連絡を受けたらエクシードで飛んで現場に急行。隔離装置でウロボロスを隔離します」

 

ユーフィリアが作戦の最終確認を行う。

全員が真剣な表情で頷き、その場で解散。

各自でウロボロスの捜索を行う。

 

ヒメガミノミコトは校舎に入り、下の階から順に校舎内を見回っていく。

時折生徒とすれ違っては、軽く挨拶をする。

特に異常は見られない。そう思って階段を登ろうとした時、上階から男子生徒が降りてきた。

話した事は無いが、αドライバーなのだろう。

顔は見た事があった。

 

「…………っ!」

 

男子生徒とすれ違う際、ヒメガミノミコトは咄嗟に鼻を手で覆った。

昨日の時点でも思っていた。

 

(男の子の臭いだけ、異様に強く感じる……)

 

その男子生徒は、特段不衛生的には見えなかった。

身だしなみはしっかりしていて、髪もセットされていてむしろ衛生的に見える。

だというのに、男子生徒から感じる「男の臭い」だけ異様に強く感じる。

 

(それに、なんだか……)

 

ヒメガミノミコトはすれ違う男子生徒の方へ横目で視線を送る。

その視線は、自然と下半身へと移動していってしまう

 

(下腹部が疼く……)

 

いつの間にか足を止めていたヒメガミノミコトをその場に残し、男子生徒は階段を降り切って廊下へと姿を消していった。

 

「はぁ、はぁ……これ、思ったよりマズイかもしれないね……」

 

昨日は強がっていたヒメガミノミコトだったが、ウロボロスの臭いによる影響は確かにあった。

衝動に任せて飛びついてしまうほどではないが、臭いを強く感じ、溢れるほどに唾が分泌され、下腹部に強い疼きを感じる。

 

「早く、見つけて……なんとかしないと」

 

階段を登り、2階へ。

階段から左右に伸びる廊下をどちらへ向かおうかと見回すと、左の廊下にある扉の下の隙間へと液体のようなものが入り込んでいくのが見えた気がした。

 

「……気のせい……ではないよね」

 

ヒメガミノミコトは足早にその扉の前へ。

本当にウロボロスだったのか確認してから美海に連絡を入れるべきか、それとも今のうちに連絡を入れるべきか。

悩んだその一瞬が、致命的だった。

 

天井からトロリと垂れてくる液体に、気付くのが遅れた。

 

「しまっ……」

 

咄嗟にマスクを起動する。

ヒメガミノミコトの鼻と口がマスクに覆われるが、遅かった。

タッチの差でウロボロスの身体の一部である液体が、展開されるマスクの内側に入り込んでしまっていたのだ。

 

鼻から、口からヒメガミノミコトの身体に取り入れられる空気が、全て悪臭に汚染される。

 

(ダメだ、一度マスクを解除しないと……)

 

マスクを解除しようと、スイッチに手を伸ばす。

その手が、粘性の強い液体に絡め取られてしまう。

 

「っ!?」

 

いつの間にか扉の隙間から外へと出てきていたウロボロスの身体に両腕を絡め取られ、身動きが取れなくなるヒメガミノミコト。

両腕を後ろ手に拘束され、足も足首辺りまでをウロボロスの身体に飲み込まれる。

そうしている間にも、マスクを通して浄化された空気が、再び汚染されてはヒメガミノミコトの身体へと取り込まれていく。

 

(あ……この臭い、ダメだ……♡)

 

マスク内に充満したウロボロスの臭いが、鼻からヒメガミノミコトを犯していく。

昨日は嫌悪感しか無かった臭いだというのに、嗅ぐほど思考が蕩けていく。

気付けば、ヒメガミノミコトはマスク内で無意識に鼻を鳴らしていた。

 

(ダメなのは分かっているのに……♡ 嗅ぐの、やめられない……♡)

 

このまま嗅ぎ続ければ、戻れなくなってしまう。

それは本能的に分かっているのに、ヒメガミノミコトはその行動を止める事ができない。

 

そんな時、先程ヒメガミノミコトが登ってきた階段から足音が聞こえてきた。

しめた、とヒメガミノミコトは思った。

あの日、ウロボロスはシンシアの接近を察知してヒメガミノミコトの拘束を解き、逃亡した。

今回も解放されるだろう。逃げられてしまうかもしれないが、このままの状態が続くよりはずっと良い。

そう、思っていた。

しかし、そうはならなかった。

 

ウロボロスは目の前の扉を開け放つと、その中へとヒメガミノミコトを引き摺り込む。

 

(待って、ここって……)

 

壁に取り付けられた乳白色で陶器性の物体。

一定間隔で並んだそれが何か、それがわからないヒメガミノミコトではない。

 

(男子トイレ……!? だめ、意識しちゃだめ……!)

 

そこがどこなのかを理解してしまうと、鼻から流れ込んできている臭いをより一層意識してしまう。

これが何に似ている臭いなのか、それを思い出してしまう。

 

男子トイレに入って扉が閉まったのを確認すると、ウロボロスはヒメガミノミコトの腕を絡め取ったまま無理矢理に動かし、その指を防毒マスクのスイッチに当てる。

防毒マスクが解除される。

そしてヒメガミノミコトを襲う、ウロボロスの体臭とトイレから漂うほのかなアンモニア臭。

 

「っはぁ……♡ くっさぁ……♡」

 

しかしヒメガミノミコトの様子はと言うと、歓喜するかのような蕩けた表情。

スンスンと鼻を鳴らしてトイレ内の臭いを肺いっぱいに吸い込んでいる。

 

(こんな、トイレの臭いなんて……絶対臭いのに♡ なんで♡)

 

下腹部が疼く。

身体中が切なく熱くなってくる。

 

ヒメガミノミコトが抵抗しないことを確認すると、ウロボロスは足元だけを飲み込んでいた身体を徐々に持ち上げ、ヒメガミノミコトの身体を飲み込んでいく。

腰までを完全に飲み込まれ、ヒメガミノミコトの美しい金髪も白濁に犯される。

 

「止まらないっ……!? いや、それだけは……!」

 

口ではそう言うものの、ヒメガミノミコトの表情は緩んでいた。

腹部を通過し、その豊満な胸も完全に飲み込まれる。

 

「ああっ……♡ やめ……」

 

どこか嬉しそうなその声が、ウロボロスの身体によって口が塞がれ消える。

鼻の下で侵食が止まったかと思うと、ウロボロスはそのまま男子トイレの個室へ入り、扉を閉めた。

 

(ああ、このまま時間をかけて、私をおかしくするつもりなんだ……それは、それはなんて……)

 

恍惚とした表情で、ヒメガミノミコトは天を仰ぐ。

 

(素敵なんだろう♡)

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

通信端末に連絡が入り、美海は指定された場所へとエクシードで飛んで向かっていた。

連絡をしてきたのはヒメガミノミコト。

ウロボロスを見つけたとのことで、至急来て欲しいとのこと。

 

捜索開始から、もう数時間経っている。

被害者が出てしまう前にと、美海は急いでいた。

廊下に窓から入り、ヒメガミノミコトに指定された場所の前に辿り着く。

 

「着いた、けど……」

 

目の前の扉は、紛れもなく男子トイレの扉。

躊躇する様子を見せる美海。

 

「き、緊急事態だから! し、仕方ない……よね……?」

 

自分に言い聞かせるように頷くと、扉を開ける。

ヒメガミノミコトがドロドロの姿をしたウロボロスと向かい合っている後ろ姿がそこにはあった。

 

「うっ、臭っ……!」

 

美海は防毒マスクを展開し忘れていたことを思い出し、スイッチに手を伸ばし……その手が何かに引っ張られた。

両手が何かに縛られ、頭の上へ引っ張り上げられる。

その拍子に、預けられていた隔離装置を取り落としてしまう。

腕に絡みついていたのは、緑色に光る糸。

 

「これって……ヒメ会長の!?」

 

「ごめんね。けど、分かってほしい」

 

ヒメガミノミコトが、振り向く。

エクシードで作り出された糸が、徐々に紫色に染まっていくのが見えた。

目を閉じたヒメガミノミコトは、何の躊躇いもなくその身体をウロボロスのドロドロの身体へと預ける。

 

「この香りは、何物にも代え難いって事を」

 

ゆっくりと開かれたヒメガミノミコトの瞳には、赤黒い光が混じっていた。

恍惚とした表情のヒメガミノミコトを抱き抱えるように包み込んだウロボロスが、その身体を美海に向かって伸ばしていく。

美海の視界が、濁った白で埋め尽くされていく。

 

 

 

「さあ、一緒に堕ちよう。この泥沼のような快楽に」

 




美海編の予定はありません(おい
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