戦艦ビスマルクがどうしても欲しくてイベント前なのに大型建造を資源が尽きるまで回そうと思いました。
これまで失敗が一二回。手元にはイベント用に貯めた鋼材二〇万を筆頭に潤沢な各種資源。ふ、勝ったな(ピコン!
いくぞ!どりゃー!
結果
陸奥になるビーム ×6
まるゆ ×1
あきつ丸 ×2
ビスマルク ×0
その他 ×いっぱい
おう。鋼材が十五万溶けたぜ。
資源がなくなる前に開発資源が切れるという体たらく。
僕のZ1とZ3は中身が特型駆逐艦なのかもしれない。
これは禿げるっぽい!
改造に設計図が二枚もいる戦艦なんてなくても平気にゃしー(震え声
イベント、みんながんばってね。ねっ!
【注意】
序盤に鬱展開があります。
苦手な方は一個目の■までスルーしてください。ただしその場合、一部ストーリーが「?」になるかもしれません。想像力が豊かな方は大丈夫です。
至近に砲弾が着水し、大きな水柱が次々と上がった。
軽巡洋艦名取を旗艦として以下駆逐艦四人の水雷戦隊で編成された遠征部隊は深海棲艦の艦隊と遭遇戦に突入した。大量の資源獲得と、安全な航路を使っての帰還のみだと気が緩み、警戒を一時疎かにしてしまった事で、T字不利から初撃を許してしまった。結果部隊の全員が大破を含む中破、小破の損害を受けてしまった。現在は獲得した資源を投棄しての撤退戦の真っ只中だった。
「お、追いつかれちゃいます!」
駆逐艦の潮が背後を振り返り警告を発した。
深海棲艦の艦隊は大型戦艦を含んでおり、水雷戦隊が逃げに徹すれば事無きを得ることも出来たかもしれない。だが遭遇戦での先制砲撃で被弾し、一部の艦娘が動力艤装の機能を十全に発揮できなくなった現在、それも難しかった。たった一つの好材料は深海棲艦の編成に空母系が含まれていない事だった。
「あたしが足止めをするからさ、みんなはその間に」
「そんなっ!駄目ですぅ!」
部隊で唯一大破した敷波は名取に肩を預け移動していた。名取を庇い先制砲撃の直撃を受けてしまったのだ。脚部の動力艤装は破壊され単独での移動は困難となっていた。
名取は眦に涙を浮かべて敷波の進言を却下した。もしかしたら応援が間に合うかもしれない。限りなく低い可能性に望みを繋いでいた。
「このままだと全員やられちゃうよ。ここであたしが足止めすれば皆は逃げ切れるしさ」
「それじゃあ敷波さんが!」
名取と敷波を護りながら移動していた白雪も当然反対だった。
艦娘同士の絆は例外なく強い。誰かを犠牲にする作戦など賛成できるはずがない。そして敷波は司令官と文字通り身も心も結ばれている艦娘だ。顔を紅くしていた挙動不審な行動の敷波を部隊全員で囲み根掘り葉掘り問いただしたのだ。敷波の身にもしもの事があれば、彼女の司令官になんと報告すればいいのだ。
敷波を犠牲にするくらいなら……
「……みんな、ありがとうね」
敷波は肩に回された名取の腕を振り払った。破壊され機能しないはずの動力艤装は黒煙を上げながらも敷波の意思を汲み取り急制動をかけた。そして一際大きな火花を発した直後に完全に機能を停止した。艤装に宿っていた妖精さんの気配も同時に消えた。
「進路そのまま!止まるな!」
慌てたのは敷波を除く艦娘達だ。一瞬の間で敷波がとった行動に対応できなかったのだ。急いで旋回し敷波を回収しようとした動きを制するように敷波が大声を上げた。
最大戦速に達せずとも艦娘が全力で撤退していたのだ。わずかな時間でも敷波と艦娘達の距離は大きく開いている。ここから敷波を回収することは、部隊全員を死なせる事になる。
わずかの間に苦渋の判断が出来てしまった名取は、敷波の声にも後押しされ、一瞬だけ振り返り、敷波の離脱に伴い、上がった速度を維持しながら撤退を断行した。
「……ごめんなさい……ごめんなさい……」
涙を流しながら嗚咽する名取の声は敷波には届かない。
「しれいかんにーーー!!」
その場を動けない敷波は掌をメガホンの形にして口元に当て、部隊に最期の伝言を託した。
「今までありがとうーー!!…って……」
司令官は『愛している』と想いを敷波に伝えてくれた。対して敷波は態度では示していたが、性格からか照れもあり言葉に出来ずにいた。そして最期の言葉ですらこれだった。
「……伝えてよね……」
深海棲艦からの砲撃は今も続いている。轟音に遮られること無く最期の伝言は名取達に聞こえただろうか。
様々な想いを断ち切る様に敷波は振り返った。
「敵艦見ゆ!ってか?」
敷波の瞳に迫りくる深海棲艦の艦隊が映った。一人残った敷波に罠を警戒してか足を止め一定の距離で対峙する形となっていた。
「ふん!ボロボロになっても、あたしは負ける気なんて無いからね!」
敷波は自らを奮い立たせる為に気炎を上げた。自身大破し、艤装は殆ど機能せず、機動力が自慢の足も、既に海面から一歩も動けない。連装砲から今にも妖精さんが消え去りそうだった。文字通り満身創痍だ。だがこの時点で目的は十分に達成できた。敷波という重荷が消え、名取達は全速力を出せる。深海棲艦も足を止めた。もう追いつくことは不可能だろう。
膝が震えていた。
深海棲艦に対する恐怖からではない。避けられない轟沈に対するものでもない。艦娘として建造された瞬間から死は避けられないと思っていた。轟沈した艦娘を何人も見てきた。漠然と海の上で死ぬのだととっくに覚悟は出来ていた。
――司令官が最後に見たあたしは笑顔だったかな?
出撃前、他の艦娘に挨拶をする司令官を見て嫉妬してしまった。いつもの様にふてくされて、つっけんどんな態度を取ってしまった。司令官の気持ちなどとっくに知っているのに。
――ふん!いつもみたいに……ちゃんと出迎えてよね
恥ずかしくて、でも自分だけを見てほしくて、言葉を投げ捨て、逃げるように出撃してしまったのだ。
司令官に二度と会えなくなるのが怖い。あたしが死んでも落ち込まないで。本当は嫌だけど、新しい艦娘を迎えて立ち直って欲しい。きっと可愛い子なんだから。ごめんね司令官。いつも素直になれなくて。ごめんね。先に逝く事になって。
敷波が建造されて八年。司令官一人艦娘の一人の二人は泊地で経験と練度を積み重ね、駆逐艦ながら十分な戦力として認められてきた。
敷波の戦果は司令官の戦果だ。特配の甘味を知らずお互いプレゼントし合い、馬鹿みたいといいながら笑いあった。気がつけば、そう気がつけばだ、お互いを異性として大事に思うようになり、思い切って司令官の寝室に飛び込んだ。部隊の艦娘に根掘り葉掘り聞かれた。言わずともよい事を誘導され全て話してしまった。戦う戦士らしからぬ、きゃぴきゃぴと輝いていた日々。
司令官も仲間も大切だった。どちらを選ぶことなど出来るはずがない。
――司令官ならわかってくれるよね……でも…ごめんね…ごめんね……
「砲雷撃戦、はじめるよっ!」
敷波が放った攻撃は砲撃一発と魚雷一発のみ。発射直後、連装砲の砲身と四連装魚雷発射管は破裂した。敷波の瞳に深海棲艦の艦隊から放たれた面制圧とも言える大量の砲弾と魚雷が映った。敷波は一歩も動けない。
「……司令官、だいす……」
幾重にも重なる爆発の轟音に敷波の声は簡単にかき消された。瞬間、敷波の脳裏に司令官の様々な表情、仕草が浮かんでは消えて行く。
最後に浮かんだ司令官の表情は初めて結ばれた翌朝に愛の言葉を囁いてくれた時ものだった。
――綾波型二番艦 駆逐艦敷波 轟沈
「……ごめんなさい……ごめんなさい……」
敷波の司令官の前で涙を流して謝罪する名取がいた。
安全な航路のはずだった。数年前に深海棲艦を駆逐し、資源獲得を目的として遠征を何度も繰り返していたのだ。本土も資源に余裕があるわけではない。大本営から資源の補充はあるが、日々の戦いで、とても足りるものではなかったのだ。
「そうか…」
緊急で応援に向かった艦娘部隊は、該当の海域で敷波を発見出来なかった。深海棲艦も撤退していた。海上には何も残っていなかった。
敷波は公式には
大本営は新たな敷波の建造に司令官を立ち会わせる事だろう。戦力の補充は必要不可欠だからである。そして敷波は司令官に初めて会ったかのように自己紹介をすることだろう。八年前の様に。
「……敷波は最期に何か言葉を残したか?」
「…ぐすっ…砲撃の音で…聞こえませんでした……」
「わかった。ありがとう。下がってくれ」
撤退時、敷波が何か叫んでいたのは知っていた。だが深海棲艦の砲撃が苛烈さを増し、着弾音にかき消され聞こえなかったのだ。名取は敷波の最期の言葉を敷波の司令官に届けることが出来なかった。
泣きながら退出する名取を見送り、司令官は椅子の背もたれに体重を掛けた。
司令官は敷波の最期の言葉を想像した。恐らく感謝の言葉だろうと。決して愛の言葉を口にしなかっただろう。二人で居る時は分かりやすい程好意を態度で示すくせに、口から出る言葉は天邪鬼にも程があった。
照れ屋でやきもち焼き。驚くほど明るい態度を取るかと思えば、寂しがり拗ねてそっぽを向きながらも側から離れない。戦果報告をはしゃぎながらしたかと思えば、照れ隠しでなんでもなかったような態度を取った。
艦娘は帰巣本能があるのか、一時的に行方不明になろうと最終的には司令官の元に必ず帰還する。敷波は未だに帰還しない。それが答えだった。
執務室の扉は閉ざされた。完全防音の室内で何が起ころうと決して外には音は漏れない。
司令官の眦から涙が溢れた。
艦娘不在の司令官は戦闘作戦に参加できなくなったが、後方支援で、前線で戦う提督と艦娘達を支え続けた。
軍令部総長自らが敷波の建造に立ち会うよう司令官に任意の要請をかけたが、司令官は多忙を理由に断り続けた。
三ヶ月後、泊地に深海棲艦が攻勢を仕掛けてきた。非戦闘員の避難誘導を行っている際に、運悪く深海棲艦の砲弾の破片が司令官の腹部を貫通した。司令官は言葉を残すこと無くあっけなく死亡した。
■
ピーヒャラピーヒャラ。トンツクテンテン。
ピーヒャラピーヒャラ。トンツクテンテン。
祭り囃子の音が聞こえる。提灯には灯りが灯り、所狭しと屋台が立ち並んでいた。
たこ焼き。焼きそば。イカ焼き。りんご飴。綿菓子。焼きとうもろこし。お好み焼き。あめ細工。かき氷。金魚すくい。お面屋。射的屋。風船釣り。型抜き。くじ引き屋。輪投げ。
食べ物を片手に食べ歩く大人。お面を被り走って行く子供たち。ベンチに座り雑談に興じる老人。共通しているのは皆、笑顔だと言うことだ。年齢性別に関係なく、皆祭りを楽しんでいた。
深海棲艦の出現後、国内ではあらゆる物資が不足した。人心は疲弊し避難に次ぐ避難で伝統ある祭りが自粛された。そして長きに渡る戦争で多くの祭りが失伝した。
苦労の連続だった。食料は配給制になり多くの生活物資も不足した。インフラは寸断され、計画停電で夜を照らす灯りは蝋燭が主となった。
だが人々に絶望はなかった。何故なら艦娘がいたからだ。たった一つのモニターの前で多くの人が肩を寄せ合い、テレビに映る艦娘に釘付けになった。
一度の出撃で深海棲艦の艦隊の半数近くを撃破する守護神長門。ギターだけの伴奏で楽しそうに歌う那珂。常勝無敗の霧島艦隊。生放送で時々映る高速のモザイク。最近何故か上半身しか映らなくなった重巡洋艦姉妹の利根と筑摩。愛らしい駆逐艦達。そして名前しか伝わらぬ、最前線の泊地で戦い続ける数多くの艦娘達。
陸地から、沿岸から、近海から、深海棲艦は次々と駆逐された。艦娘達の活躍に人々は狂喜した。艦娘が頑張ってくれている。自分たちは?
安全が確保された国内で復興が少しづつ進んでいった。挫けそうになった時はモニターの前で艦娘を応援した。そして迎えた終戦。世界中の海から深海棲艦が消えたのだ。
艦娘達がやってくれたのだ!
歓喜の叫び声が国中に響き渡った。後先考えず、この時ばかりはと豊かとはいえない食料を持ち出し飲めや食えやの騒乱が一週間続いた。
深海棲艦が消えたことで世界中の国々と通信が可能となった。消えた国がいくつもあった。人口も激減した。しかし人類は生き残った。復興に拍車がかかった。
そして艦娘達も消えた。大規模な祝賀祭典に艦娘は誰一人と現れなかったのだ。役目を終えたとばかりにその日から艦娘は世界中から消えたのだった。
祭りは古来から信仰に基づくものと考えられており神事でもある。元々は精霊信仰や豊穣を祈願するものであり、近年は神仏習合も合わさり祭りに参加する人は起源を知ることなくぼんやりと神への感謝を持ちながら伝統的な祭り自体を楽しむ単なるイベントの一つと化していた。
深海棲艦の侵攻に伴い、多くの祭りが失伝したことや、祭りを催す余裕も無かったことで祭り自体が絶えて久しかった。だが長かった戦争も終わり、人々は消えた艦娘達に感謝を捧げたいと思うようになった。
勿論神に感謝を捧げる。そして艦娘にも感謝を捧げよう。一柱の神に縛られないこの国の人々は祭りというシステムに艦娘を組み入れた。年配者から古き良き時代の祭りを聞き出し模した。数少ない専門知識を持った者が見れば眉をしかめるかもしれない。だがそこには感謝の気持ちがあった。笑顔があった。何より参加する人たちが心から楽しんでいたのだ。
名前だけが伝わっている艦娘の名が記された提灯に灯りが灯される。子供が書いたのか拙い文字で書かれたものもある。イラストが描かれたものもある。勿論想像で描かれたものだ。長門や霧島、利根や筑摩、鳳翔といった姿形が分かっている有名な艦娘は精緻に描かれていた。何故か風を纏ったモザイクのイラストが描かれているものある。当然愛らしい駆逐艦も多く描かれていた。
子供はお面を被り、それは艦娘を模したものが多かった。男の子は長門。女の子は駆逐艦や空母が多い。紳士と呼ばれる大きなお友達は当然駆逐艦を被っていた。
祭り囃子とは別に音が聞こえる。櫓が組まれ踊っている人がいる。『艦娘音頭』だ。
屋台を楽しむ者、踊りを楽しむ者、雰囲気を楽しむ者。楽しみ方はそれぞれだ。だが参加する人の顔には笑顔があった。感謝の気持ちがあった。艦娘ありがとうと。
浴衣を来た少女が下駄をカラコロと鳴らしながら弾むように歩いている。今にも鼻歌を口ずさみそうな程に表情は軽やかだった。帯の背にうちわを差し、両手に巾着袋と屋台で購入したのか大量の袋に戦利品を詰め込んでいる。少女の美しさに見惚れた屋台の店主が、豪快にサービスをしてくれたのだ。
年の頃はハイティーンだろうか。童顔に見える容姿を浴衣が大人びて見せているのかも知れない。黒のリボンで後ろ髪を縛り、歩く度に揺れる馬の尾も楽しげだった。
少女とすれ違う度に、見惚れたのか多くの男性が立ち止まり通り過ぎる少女を間抜けな顔で追いかける。女性連れの男性は隣の女性に抓られて正気を戻す者もいた。焼き鳥の串からタレが垂れ落ち服を汚すものもいる。
少女は美しかった。容姿だけではない。明るい性格が内面からにじみ出るような楽しげな表情。やぼったく体型を隠すはずの浴衣の上からでもわかるスタイルの良さ。健康的な肌の色。浴衣効果もあるだろう。少女から大人の女性に変わる端境期の年代の女性のみが持つ色香と、うっすらと施された化粧が少女が持つ元々の可愛らしさを美しさに昇華していた。
「うわっ、君、可愛いね!どう?一緒に回らない?なんでもおごっちゃうよ」
多くの男性が気後れしていたが何事にも例外はある。少女とお近づきになろうと若い男性が声を掛けた。
「ん?あたし?」
「そうそう、うわ!マジで可愛い!」
振り返った少女を間近で見た男性が大げさにおどけ、だが本気で驚いた。
男性の仕草に少女はくすりと笑った。男性は脈ありと喜んだ。そんな男性の目の前に少女は左手を上げ、手の甲を見せた。
「ありがと。でもあたし売約済みなんだ」
「え?」
きょとんとする男性。意味が分からなかった。
「人妻だし。浮気したら怒られちゃうよ。じゃあね」
少し照れた様子の少女はくるりと踵を返し、軽やかにその場を去った。
「え?」
男性が見た少女の左手の薬指には、シンプルなシルバーの指輪が嵌っていた。
「お疲れさん。大漁だな」
甚平を着てベンチに座っていた男性が両手にビニール袋を下げ、戻ってきた少女に声を掛けた。年の頃は二十歳の半ば辺りだろうか。がっしりとした体型と、年齢にそぐわない鋭利な雰囲気を持った男性だった。
「……ただいま」
少女は不機嫌だった。先程までの溢れんばかりの楽しげな雰囲気はなくなっていた。
「どうした?何かあったか?」
少女の不機嫌に気がついた男性が問いただした。
「……ナンパされた」
「やっぱりか。一緒に行きゃあよかったな」
「そうじゃない」
少女は戦利品の入った袋を男性に押し付けるように渡した。
「……今、何見てたのさ?」
「何って……」
男性が目を泳がせた。少女は男性が先程まで見ていた先に視線を向けた。季節柄薄い布地を大きな胸で押し上げた肉感的な女性が屋台の射的をしていた。前のめりになり空気銃を撃つ度に乳房が揺れていた。
「あたしはあんなに大きくないよ。ふん!」
■
敷波が建造された時、目の前に五人の駆逐艦がいた。吹雪、漣、五月雨、電、叢雲の五人だ。目覚めて間もない敷波は意識が混濁していた。何か説明をしている吹雪の言葉が耳に入らなかった。ただはっきりと分かるのは深海棲艦と戦うこと。そして司令官を探す事だった。
――早く行かなきゃ
「ちょっと!どこに行くのよ!」
――そんなの決まってる
「もう!どいつもこいつも!」
遠くで憤慨する叢雲の声が聞こえた。
「違う違う!見てたのはその隣!」
男性が指を差した先に小さな男の子がいた。小さな体を精一杯伸ばし、父親と思わしき男性に体を支えられていた。少年は景品を見事に撃ち落とし、胸の大きな女性に駆け寄り全身で喜びを表現していた。どうやら親子のようだった。
「それに俺はお前ぐらいのがちょうどいいから!」
「ばか!」
少女は頬をを紅く染め、少女は男性の物言いに気を削がれた。
「……じゃあなんで目を泳がせたのさ」
少女の問いに、うっ、と男性がたじろいだ。
「ごめんなさい。胸も見てました」
これ以上怒らせると不味いと思ったのか男性は非を認め素直に謝った。趣味・嗜好に関係なく見てしまう男性の性である。
「ふん……もういいよ」
もういいよと言いながらも少女が拗ねているのは簡単に分かった。男性は、本能に逆らい他の女性の胸を見ないと出来もしない事を心に誓った。
「…やっぱり胸が大きい方がいいの?」
少女は自らの胸を掌で押さえ、大きさを確かめながら答えにくい質問を出した。
「…だってよ。やっと見た目年齢追いついたと思ったら、指輪してからもお前成長ゆっくりだし」
「なんだよ。嬉しくないのかよ。ぴちぴちなのに」
「それはそれで嬉しいけど、一緒に年をとりたかった」
今度は男性が拗ねた口調になった。その姿は男性が幼い時代、少年だった姿を少女に思い出させ、胸がじんわりと暖かくなった。。
「まったく。いつまでも子供だなぁ。赤ちゃんの時みたいにおっぱいあげようか?」
見た目は少女の方が若い。少女の明らかなからかいの発言に男性の方が驚いた。初めて聞いた話だからだ。
「嘘だ!嘘と言ってくれ!」
「嘘だよー。昨日もいっぱい吸ってたじゃん。出なかったでしょ?」
少女は声を上げて笑った。
■
敷波は司令官を見つけた。孤児院だった。戦災孤児。戦争で親を亡くした生後三ヶ月の赤子だった。敷波は優しく抱きしめ呟いた。
「今度はずっと一緒だよ……」
朦朧とする意識の中発した言葉を敷波は覚えていない。
赤子はなにもない場所に何者かが存在するような行動をとっていた。妖精さんが見えていたのだ。
軍令部総長直々の差配で赤子は大本営が引き取ることになった。赤子はそのまま敷波に預けられ、一二歳になるまで鎮守府で育てられた。
「無理して食べなくていいよ。残ったら明日の朝ごはんにするから」
「食べる。っていうか食べれる。これでも元軍人だからな。これくらいは全然大丈夫だ」
少女が購入した屋台の食事を広げ、男性が大きな口を開けて焼きそばを放り込んでいた。他にもたこ焼きやお好み焼き、イカ焼きや焼きとうもろこしといった、屋台の定番の料理が並んでいた。
男性の隣で少女も焼きとうもろこしをちまちまと食べていた。大きくがっしりとした体型の男性は次々と料理を片付けている。荷物になるものを減らしたいという打算もあった。
ソースで汚れた男性の口元を少女が巾着から取り出したハンカチで拭った。男性は当たり前のように少女に身を任せる。
傍から見れば不思議な光景だった。少し年の離れた男性を少女が世話しているのだ。見た目ではあり得ないが、まるで姉が大きな体の弟を世話しているようにも見えた。
■
「
国内は復興が少しづつ進んでいるが道のりは遠い。教育は国が最も力を入れるべき分野であるが、本格始動には程遠く現状は地域の有志が子供の教育を担っていた。
鎮守府は優秀な人財が多い。敷波自身大学レベルの学問であれば過不足無く教えることが出来た。
授業の合間に司令官が敷波の名前の由来を質問し、敷波がそれに答えたのだった。
敷波が司令官の母である期間は短かった。妖精さんと意思疎通が出来る司令官は幼くして聡明だったからだ。今は見た目の年齢差も縮まり、姉に近い関係で接している事が多かった。
「敷波。僕戦う」
敷波が艦娘であることを知った司令官は戦う事を選んだ。一二歳になった司令官は泊地に異動し敷波の指揮を取ることになった。
鎮守府含めて、泊地でも数人しかいないちびっこ司令官の誕生だった。
母から姉に。姉から艦娘に。それでも敷波は精神的に楽だった姉さんとして司令官と接する事が多かった。女性として司令官と向き合うのが恥ずかしかったからだった。
ぽふっと音を立て、黒猫のぬいぐるみの額にコルク弾が当たり、ぬいぐるみは倒れ、床に落ちた。
「まあまあじゃない?」
少女が射的の銃を肩に抱えて自慢げに男性に感想を求めた。
「むしりとった金玉ってやつだな」
「昔取った杵柄ね。今晩むしり取ってあげようか?」
ニコリと笑った少女の笑顔に男性は背筋が震えた。
少女の周りには獲得した景品が並んでいた。妖精さんもいない、命中精度もあったものではない空気銃でよく当てられるものだと男性は感心している。
「これは綾波にあげよう」
たった今落としたばかりの黒猫のぬいぐるみを手にとり、自身の姉の名前を口にした。綾波は比較的近い場所に居を構えている為、月に何度かお互いの家を訪ねあっている関係だった。
全てのコルク弾を撃ち終わり、多くの景品が入った袋を胸に抱えた少女と入れ替えに順番待ちをしていた子供が銃を構えた。母親らしき女性が付き添い、外れても当たっても楽しそうに声を上げていた。
「子供欲しいな……」
その様子を眺めた少女が小さくぽつりと呟いた。男性の耳に小さな声は届いた。
「…もう少しだけ待ってくれ」
男性は小学校すら出ていない。男性と同世代の多くはまともな初等教育すら受けていない者が殆どだった。しかし男性は鎮守府で高等教育を受けることが出来た。
国内は復興が進み、学校の再開が進んでいる。目の前の子供も学校に通っていることだろう。
生活の基盤は軍令部総長と五人の艦娘が用意してくれた。贅沢をしなければ一〇年は食っていける。男性は敷波とやがて生まれる子の為、将来を見据えて大学に進学したのだ。少女との毎日の性行為は鉄兜を付けていた。
「早く卒業してね」
少女は景品の入った袋を男性に預け、指先で男性の甚平の裾をつまんだ。人の流れに従い二人はゆっくりと進んだ。クライマックスの花火の打ち上げはもう直ぐだった。
■
「あなたが噂のちびっこ司令官ね。教育担当の練習巡洋艦、鹿島です。よろしくね」
泊地にも子供の提督は何人か在籍していた。時が経過し現在は大人になっていた。戦況は好転しつつあったがまだまだ人手は足りていなかった。子供でも艦娘を従えるなら戦力として計上せざるを得ない厳しい台所事情をどこの泊地も抱えていた。
「敷波さん。あなたはあっち。香取姉、後はよろしく」
「練習巡洋艦、香取です。心配しないで…。
鎮守府で利根達から話を聞いていた敷波は、優しい笑顔の香取の発言を信じられなかった。それでもやるしかなかった。艦娘として深海棲艦と戦うことは存在意義の一つでもあるからだ。
おぎゃー、おぎゃーと赤子の泣く声が部屋の隅から聞こえた。ベビーベッドに赤子が顔を真っ赤にして泣いていた。鹿島が駆け寄り赤子をあやし始めた。ちびっこ司令官から見えない位置で上衣を肌蹴け、授乳を始めた。
「ごめんなさいね。まだ目を離せなくて」
艦娘は提督旗下で戦う事を義務付ける以外、軍生活に於いても、また私生活に於いても一切の制限をつけられていない。一見場違いな風景に見えても大本営はこれを咎めることはない。
それは敷波にとって懐かしい風景だった。敷波自身授乳ができなかったので、哺乳瓶で人工乳を与える他、貰い乳をしていたのだ。
敷波の目から見て鹿島はとても幸せそうに見えた。
この後地獄の訓練が連日連夜続いた。
人の流れはまばらになっていた。河原で打ち上げられる花火は遠くからでも見える。深海棲艦の侵攻で多くの構造物が破壊され、視界を遮る多くの人工構造体がなくなった現在、花火の穴場スポットはいくらでもあった。
人々はゆっくりと見物出来る思い思いの場所へ移動していた。
男性と少女の二人も事前に調べていた穴場へ移動している最中だった。
男性の甚平の裾を摘んで歩く少女は無言だった。子供発言で照れているのだろう。多くの艦娘がそうであるように、敷波も肌を何度重ねても本来持つ性質・性格を変質させる事がなかった。
「こっちが恥ずかしくなるからなんか喋ってくれ」
男性の方が沈黙に耐えきれず悲鳴を上げた。照れ屋の少女相手だ。同じことは何度も経験しているが、上目で照れる少女の表情は破壊力が抜群で無言でそれをされると男性も居たたまれなくなるのだ。
「……ねぇ、私達ちゃんと夫婦に見られたかな?」
「お前見た目若いし、年の近い叔父と姪って感じじゃないかな」
裾をつまんでいた少女が指を離し、男性の横に並んだかと思えば手をそっと握った。
「これでも?」
「夫婦と言うより恋人じゃないか?」
「んー。ま、いいんだけどさ」
恋人繋ぎで二人はゆっくりと歩いていた。目的の場所はすぐそこだった。
■
「明日大本営に行って
「え?」
司令官は背が伸び二年前に敷波の背を追い越した。顔つきも軍人らしく精悍になったが、敷波と二人きりの時は昔のままの優しい顔つきだ。
司令官の私室のベットの上で裸の敷波は、司令官の腕を枕に余韻に微睡んでいた。
「変な言い方だけど、戦争終わったら敷波を払い下げてくれって
先の見えない深海棲艦との戦争。戦争が終わったらなどと最前線で戦う司令官らしくもない絵空事の口約束。敷波は笑わない。笑えない。これは司令官のけじめなのだから。
司令官には言えない艦娘だけの秘密。司令官はきっと指輪を貰ってくるだろう。それは大本営が二人を認める祝福された指輪だ。
「
司令官はからからと笑った。敷波の眦から嬉し涙が溢れた。司令官は優しく涙を拭った。
「敷波。愛している」
敷波は全身に司令官の熱を感じた。敷波はいつもに増して積極的になった。照れて、司令官に未だに好きと言えない事に焦燥を感じながら。
遠くで花火が上がった。夜空に大輪の花が咲き、遅れて下腹部に響く重低音が鳴り響いた。最初は少しずつ。やがて連続して夜空を様々な色の光が彩っていく。
花が咲く度に光が敷波を闇から浮かび上がらせ、幻想的な美しさを演出していた。
「ねぇ司令官、聞いて」
「元司令官な」
艦娘は今後も艤装を纏い戦う事はない。ならば司令官も戦地に赴く事はない。つまり学生の身の男性は二度と司令官と呼ばれる事はないのだ。今後、もし戦争があるならばそれは人間同士の戦いになるだろう。元司令官は一生分の戦争をした。人間相手の戦争などまっぴらごめんだった。
「あ、ごめん」
「気にすんな」
謝る敷波に元司令官は手をひらひらと振り気にしてないことを強調した。緊張した時に敷波は司令官呼びを今でもする。ベットの中で感極まった時もそうだった。今更である。
どん!と一際大きな花火が打ち上げられ、大輪の花を咲かせた。
「……ずっと言わなきゃって思ってたんだ。でも恥ずかしくて言えなくて。でも言わないと後悔しそうで。なんでだろうね」
「……」
常になく真面目な敷波に元司令官は何も言わず黙って聞き手に回る。祭りという非日常で敷波も何か感じる事があったのかもしれない。
「……うん、よし!」
敷波は振り返り、元司令官の真正面に相対した。背の大きな元司令官を下から見上げる敷波は元司令官が知る中で一番儚く、一番綺麗で、一番華麗だった。
花火、ナイアガラの滝が点火された。花火が放つ光が敷波を暗闇から浮かび上がらせた。光を背景にした敷波は、まるで輝く世界から飛び出して来た天使の様に見えた。
元司令官は敷波の美しさ、愛らしさ、可憐さに息を飲んだ。
意を決した敷波は、微笑みながら元司令官に心のままに言葉を紡いた。それは敷波が元司令官に伝えることが出来る精一杯の愛の言葉。
「ずっと……生まれる前から大好きだよ」
完結で〆た話なので更新する気はなかったのですが、敷波の浴衣姿にやられたのと、ちょこちょこと見てくれている人とブックマークもちょこっと増えてたので書いてみました。
エロについては僕の書くものはどうもエロくないみたいなのでもうぶんなげました。R-18作品なのにエロくないって致命的ですな。
実は少し前に、高雄さんで一話構成して、半分まで書いたのですが、エロくなさそうなので一旦放置しました。自分の中で燃料貯まるのを待ってたんですが、ファイルがどこかに消えて永久のお蔵入りとなりました。
高雄さん農家になってましたわ。
ということで読了ありがとうございました。