内容に変更はありません。
本の表題について正式な名称ありまして、数文字変更しただけです。
06
暗闇にぽつりぽつりと灯りが灯った。それは夜間の滑走路のように二本の筋となり、地平線に向かってパース線を描いていた。目を凝らせば灯りは松明だ。松明を手にした小さな女型をした無数の人形。いや、人形ではない。三頭身で古めかしい衣装を着た小さな小さな生き物だ。ある者は踊り、ある者は歌い、ある者は寝ている。お喋りに夢中になる者もいた。だが皆、一様に手にした松明を掲げ、道を照らしている。松明は小さな者の動きに合わせてゆらゆらと揺れる。それは早く、早くと誘っている動きにも見えた。
よっ、久しぶり。お帰り。お腹減った、なんかくれ。元気? 変わらないね。
声なき声が頭に届いた。一八は小さき者を知らない。だけど知っている。触れない、見えない、聞こえない。小さき者たちが存在することを小さな頃から確信を持っていた。苦しい時、悲しい時、寂しい時。小さき者たちは影から一八に知られることなく、励まし助けてくれた。昔だけではない。今もだ。順調に進む仕事。到底一人で達成可能な仕事量ではない。そうだ、小さき者たちが影から支えてくれていた。いや、もっと昔、この愛しくも頼もしい小さき者たちと共に……
これは夢だ。目覚めてしまえば一八は彼女達の事を忘れてしまう。一八にとって核心的な事を思い出しても現実には何一つとして持ち帰れない。それでもこの小さき者たちは、時には文句をいいながらも影から支え続けてくれるのだ。
これまでも夢は見ていたが、もっと曖昧で意味不明でふわふわとしたものだ。小さき者たち一人一人、顔のディテールまで詳細に見えるこの夢とは異にするものだ。
この夢を見始めるようになったのはこの数ヶ月だ。一八は切っ掛けを思い出した。
はち。
松明で出来た道の先に一際大きな光が灯った。光は明暗を繰り返しやがてひとつの造形を形作った。
水兵帽。リボン。洋書。弾薬ベルト。水着。ニーソックス。そして、はち。
そうだ。これは小さき者を見て郷愁に浸る夢ではない。主役は二人。一八とはちだ。だってこれはいつもの淫夢なのだから。
小さき者たちがやんややんやと囃し立てた。手にした松明で二人を照らし、闇の中に裸体のはちが浮かび上がった。はちの形のよい大きな乳房がふるりと揺れた。その大きさにも関わらずつんと上を向いた乳房の先端の突起が桃色に色づいている。白い肌は羞恥の為か僅かに紅潮し、松明の灯りに灯され隠しようもない。可愛い小さな臍の下、下腹部の更に下の女陰は淡い陰影で隠され、造形をはっきりと映し出さない。一八は女を知らない。見たこともない物の細部を夢とは言え再現するのは不可能だということか。
普段は制服の下に隠れた胸元から鎖骨。肩口から上腕。臀部と鼠径部を含む下腹部の造形。淡い陰影の下、両足の付け根から足首に至る滑らかなライン。
小柄で華奢に見えるはちの体には要所要所にむっちりと肉が付き、一八の興奮を掻き立てる。メリハリのついた体は抱き心地がよく、一八の与える快感に応え、支配欲を満たしてくれることだろう。
はちが大きく形の良い乳房を両腕で隠した。上気したのか眼鏡のレンズが僅かに曇っていた。はちの顔は羞恥で歪み震えていた。だがそれだけではない。これから二人に訪れる快楽を期待して淫靡な熱を孕んでいた。
気がつけば一八も一糸まとわぬ裸となっていた。股間の男根は怒張し、先端は精液の雫で濡れていた。現実ではあり得ないサイズの男根が一八の股間から天に向かって屹立していた。
――……とく
はちが乳房を隠す腕を解き一八を包容しようと腕を開いた。はちの内腿から一八が見たことがない体液が幾筋も流れ松明の光をてらてらと反射していた。一八同様はちも興奮を抑えきれないのだ。
一八は獣の雄叫びをあげた。これは夢だ。一八を縛り付ける理性の鎖は最初から存在しない。はちを組み敷き唇を強引に奪った。
小さき者たちが踊り始めた。一つに繋がる二人を祝福する舞踏だ。太鼓を打ち鳴らし横笛の軽快な音が奏でられる。
力の加減など最初から出来ない。乳房に爪を立てて掴み、思うがまま揉みしだいた。肌に噛みつき白い肌にいくつもの歯型でマーキキングを繰り返す。お前は俺の物だと支配欲を満たしながらはちに理解させる。噛み付く度に唾液の糸が飛び散りはちの肌を汚していく。唇からはじまり肩、腕、鎖骨、乳房。唾液と歯型で犯しながら、指は桃色の乳首を千切れても構わないとばかりに捻り上げる。
巨大な男根の先端は、はちの腹部でちろちろと精液の雫を垂らし続け、白い細やかな肌を外側から犯している。精液の雫は支配域を広げながら臍の窪みに侵入した。やがて溢れた精液が下腹部から淡い陰影へ流れ出す。流れとなった精液は、はちの淡い陰影から溢れる愛液と混じり合い、さらなるぬめりを生み出した。
巨大な男根の竿がぬめりを使い、女陰があるべき場所を上下に擦った。その暴偉にふさわしくストロークは大きい。下から上へ、上から下へ。はちは必死に喘ぎを我慢する。一際強く長いストロークがはちを襲う。耐えきれなくなったはちが悲鳴をあげて一八の背に腕を回して爪を立てた。爪が肌に食い込み血が流れる。一八は悲鳴をあげた。痛みであげたのではない。深く食い込んだ爪が一八に大きな快楽を与えたのだ。爪が食い込む度、脳と脊髄が官能に震えた。
悦楽の咆哮をあげる一八の体は少女の細腕ではあり得ない剛力で締め付けられた。乳房が二人の体に挟まれ、マシュマロの如く押し出された。
抱きつかれ自由にならない体。もう乳房にも鎖骨にも歯は届かない。自由になるのは、はちの女陰の上で蠢く巨大な男根と両の
指先が尻たぶの隙間に滑り込み、小さなすぼみを探る。
――……とく……そこは……
アナル。老廃物の排泄の為の器官。不浄の穴。純粋な生殖行為にアナルは全く意味を成さない。だが女性を知らない一八でも知っていた。アナルの周辺には神経が密集し、条件次第では性感帯となりうる事を。厳格なイメージを持つ西欧教で、禁止令が出るほど快楽を求める行為として使われていた事を。
見えるはずがないのに見えている。ひくひくと動くアナルを確りと見定め、指の尖端は簡単にそこを探り当てた。周囲を撫でるように撫で、押し、撫でる。はちの首が仰け反り、男根に女性器の裂け目が食らいついた。潤滑剤は不要だ。秘部から流れ出る愛液がアナルまで伝わり、指と手掌はとっくに濡れていた。
――きゃうん
背中の爪が更に深く食い込んだ。はちは強く強く一八に抱きついた。アナルを貫かれた刺激に我慢できなくなったはちが、突き上げる未知の快感から逃げるように一八の肩の肉を噛んだ。痛みすら快楽になる一八は中指を根本まで躊躇せず差し込んだ。
――ひうっ
中指を直腸内で動かす度に背中の爪と肩の歯が深く深く食い込む。
本来なら、ただの指一本であろうが事前準備なしに受け入れられるはずがない。しかしはちは、初めて迎え入れた指をあっさりと受け入れ、自らも腰を動かし、中指をきゅっきゅと締め付けている。腰が動く度、指の抽送が繰り返される。はちの嗚咽にもにた喘ぎ声が大きくなる。そして溢れるほどに耐えきれなくなったアナルの快感をを逃がすために爪と歯を何度も何度も一八の肌に食い込ませる。
、一八ははちの顔を見た。はちの顔は大きく歪んでいた。悦楽に歪んでいた。汗と涙とよだれで金の髪が肌に張り付き、上気した肌が湯気をあげている。嗚咽をあげ、すすり泣き、よだれに塗れた唇から舌尖が何かを求める様にちろちろと動いていた。はちの淫蕩に歪んだ容貌が男根を更に膨張させる。
俺の物にする。
巨大な亀頭の先端が、はちの女陰があるべき場所に押し付けられた。尿道口からは精液がしどしどと流れ、時折少量の精液が勢い良く飛び出し女陰を汚す。
本来、抱き合う二人に間に挟まれているべき男根が挿入の準備を完了させていた。これは夢だ。物理法則など意味を成さない。
はちと視線が絡んだ。はちは涙を流しながら頷いた。ちょうだい。お願い、早くちょうだいとアナルを犯されながら叫んだ。はちの口元から溢れる唾液を無理矢理ずずずと音を立てて吸い、舌尖が耳朶、耳孔、瞼、瞳、鼻梁、鼻孔と顔の孔という孔を犯した。唇を食み、大量の唾液をはちの口腔に流し、飲み込ませた上で舌で喉の奥を犯した。
男根が予告もなく女陰を強引に割り開き侵入した。一八の足より太く長い男根が小さく華奢なはちの中に入れるはずなどない。だが亀頭はいとも簡単にはちの膣口に侵入し、処女膜を破り、膣を通り抜け、子宮口を突き破り、子宮壁に到達した。
にゅるりと何かが裏返った感覚。同時に二人は獣の咆哮をあげた。体中の穴から体液という体液を吹き出し、口からは人間のものとは思えない、ぐおうぐおうと悲鳴とも嗚咽とも喘ぎとも言えない音を奏でた。
びしゃりびしゃりと尿道口から億を超える精子を内包した精液が子宮へと直接送り出された。子宮壁を精液が叩く度に、はちの体が痙攣し紅潮した肌が赤く紅く染め上がる。よだれを垂らし歯をぎぎぎと食いしばるはち。違う。音は一八の口から出ていた。歯を食いしばり射精の脈動の度に押し寄せる快楽の大波に耐えていたのだ。はちの声が聞こえた。孕むの孕んじゃうのと頭を振り乱していた。
歯を食いしばりながらはちの口腔を蹂躙していたはずが、蹂躙されていたのは一八だった。口腔とアナルと子宮を同時に汚し、犯していたはずが、犯されていたのは一八だった。巨大な男根は膣壁にすり潰され、口腔ははちの指で満たされていた。組み敷いていたはずのはちが、一八の上に乗り、悪夢の様に巨大な男根を、小さなヴァギナに挿入し、精子もっとちょうだいもっとちょうだい孕むの孕んじゃうのと腰を振り乱していた。
はちの小さな下腹部は男根の形状にぽっこりと膨らみ、腰の動きに合わせて膨らみもぐぽぐぽと音を立てて動いていた。
犯される一八の腹筋に汗と唾液の雫がぼたぼたと落ちてきた。はちの体液だ。一八は顔をあげた。
容貌を悦楽に歪ませたはちが眼鏡のレンズの向こうで幸せそうに微笑んだ。
遠くで祭り囃子が聞こえた。
07
布団を跳ね上げた。途端に冷たい外気が大量の汗で湿った一八の肌を急速に冷やした。ぐっしょりと湿った肌着も気化熱で冷やされていく。
はぁはぁと激しい息遣いが聞こえる。一八の喉から出ていた。
触らずとも分かった。下着は大量の精液で汚れていた。脊髄中枢を巨大な快楽の波が駆け抜けたのだから。夢精で汚れた下着はぐっしょりと濡れ不快だった。処理をしなければならない。ただ注意が必要だった。下着が信じられないほど大量の精液で溢れているからだ。気をつけないと布団も汚してしまう。
いつもの淫夢だ。内容はおぼろげだ。ただ相手が誰だったかのかだけははっきりと覚えていた。意識が覚醒するほどに夢の残滓は急速に失われていく。趣味に合わない行為をしていたような気がする。一八には嗜虐趣味はなく、特殊性癖もない。だが心の奥底ではそれらを求めているのだろうか。
頭は冴え、体もスッキリしていた。ただ下着が不快なだけだ。今の一八は賢者だ。冷静に下着を洗濯することが出来る。
夢精は仕方がない。ただ回数が問題だった。今週は二度目だ。自己処理の回数を増やしてもコントロールが出来ない。
一八は暗がりに目を向けた。
いる。誰にも理解されない一八だけの感覚。嫌な者ではない。不快な気配は全くない。むしろいてくれたという安堵感がある。
笑っているような気がするし、褒めて欲しそうにしている気もする。考え込んでいるような気もするし、何も考えてないような気もする。
「はぁ」
賢者でもため息はつく。通常ではあり得ない量の精液を零さないよう一八は風呂場に向かった。
08
「はいこれ。お返し」
一八は電車内のデッキで丁寧に包装された小箱をはちに渡した。
今日はホワイトデイーだ。細かな謂れは失われたがバレンタインの風習は残っていた。小箱の中身はクッキーだ。有名ブランドのお菓子で多少値は張るが目玉が飛び出る程でもない。社会人の一八にとって大した額ではない。二月の一四日に貰った義理チョコレートのお返しだった。
はちにもらった義理チョコはシュトーレンにチョコレートをコーティングしたものだった。シュトーレンはドイツの菓子パンで伝統的にクリスマスに食べられる。発祥の地にはいくつか説があり、ドレスデンもナウムブルクも一〇〇年前、深海棲艦に徹底的に破壊された。正式な発音はシュトレンとなるが、はちのゆっくりとした口調では少々間延びした発音となっていた。
はちからシュトーレンを貰っ時、ドイツ系の移民の家系かな? と思ったが結局は聞けずじまいだった。その他にも聞いていないことは多い。はちは本名なのかだとか、何故本をいつも抱えているのかだとか、誕生日や趣味、家族の事。そして何故あの時、唐突な自己紹介で声をかけてくれたのかと。だが尋ねようとして躊躇ってしまう。そこまで踏み込んでいいのだろうかと。
いつもの二人の会話は差し障りのないものが殆どだ。電車内で向かい合って静かに知ていることが多い。電車内で騒ぐ訳にもいかない。会話がなくても間が保たないということもなく、それが会話の切っ掛けを無くしてもいた。
お返しのクッキーにしてもそうだ。装飾品など身に付けるものも考えたが、付き合ってもいないのに流石に重いと感じた。クッキーは無難な選択の結果だ。
二人が会うのは電車のみ。これまでどこかに出かけた事もなく、静かに揺れる電車内、お互いが思う距離感ではちの腕が胸に触れるだけの関係だった。
「ありがとうございます。とっても嬉しいです」
クッキーの入った小箱を本と一緒に胸に抱えてはちが幸せそうに微笑んだ。
はちの笑顔を見た一八の心臓がどくんと跳ねた。デジャブだ。最近この笑顔をどこかで見た気がした。思い出そうとするが既視感は正体を掴めないまま急速に消えていった。
「あ、あぁ……喜んでもらえたなら嬉しいよ」
同時に罪悪感も沸いた。この子で夢精しているのかよ、と。
電車が駅に停まろうとしていた。
「あのっ! 実は今日! 家族が……」
「あ、ごめん。降りないと。また今度聞かせて」
一八は、じゃあ又明日と声をかけてデッキを後にした。
はちはデッキの壁に背中を預けた。電車はリニア駆動だ。発進も停止も騒音は少ない。騒音より小さな声で呟いたはちの言葉は、小さくなっていく一八の背中に届かず、最後は音にすらならず虚空に消えた。
「……旅行で家に誰もいなくて……少し寂しいので……」
――……家に……遊びにいっていいですか?
「……ばか」
誰に向かって言った言葉なのか。それははちにも分からなかった。
エロくねぇな。
どうしたものか。
次の次の次くらいのピースがあって、次と次のピースが見当たらない。
どう繋るべきか。