どんっ!と執務室の壁が音を立てた。提督の目と鼻の先に端正に整った高雄の容貌があった。燃えるような赤眼は潤み、思わず触れたくなる濡れたように光る唇の間から赤い舌が覗いていた。黒のボブヘアーからは硝煙の臭いがした。
前方に高雄。背後には壁。提督の頭部の左右は高雄の腕で塞がれ逃げ場は何処にもなかった。壁ドンである。
「……高雄、まず入渠だ。体を休めて……」
「提督……高雄は今日轟沈しそうになりました」
高雄は提督の声に自分の声を被せた。
高雄は執務室に来るまで、一緒に艦隊を組んだ他の艦娘に借りた上着を羽織っていた。執務室の扉を開くなり、羽織っていた上着を脱ぎ捨て戸棚で書類を整理していた提督目掛けて壁ドンした。
報告で聞いていた通り大破寸前の中破で、高雄の身を包む群青色の軍服にも似た装甲艤装は深海棲艦の攻撃でズタズタに引き裂かれていた。艤装がダメージを引き受け高雄自身の体には煤がこびりついた跡はあるが提督が見る限り重大な損傷は見当たらなかった。当然高雄の肌は申し訳程度に張り付いた装甲艤装の隙間から覗き見える。故に艦娘の中でもトップランクに入る豊かな母性の象徴が否が応でも提督の眼に入った。
艤装はある程度艦娘の自由になる。胸の大部分が曝け出されている状況で両の乳首部分に装甲艤装が申し訳程度に張り付いているのは高雄が提督を煽る為に狙ってしている事だろう。白いシャツは跡形もなく吹き飛び、しかし胸元を飾るふちの部分に装飾が施された白いスカーフが綺麗に残っているのも同じ理由だろう。全てをさらけ出すより扇情的だった。提督は自分がそういった性癖を持っていることを自覚している。そして高雄もそれを知っている。
高雄のタイトスカートも装甲艤装だ。ミニ丈の上、左右に深いスリットが入り、半分以上スカートの体を成していない。タイトスカートの奥から伸びたガーターベルトが太腿の中ほどまで覆ったニーソックスを繋ぎ止めている。それがアクセントとなり、高雄が顔以外でさらけ出す肌がこの付近だけであるため非常に扇情的であった。
そのタイトスカートも、今は破れ、可愛い臍と言わず、くびれた腰までさらけ出していた。しかし高雄の絶対領域には、乳首同様装甲艤装が僅かのみ張り付き、提督の心臓のリズムを早める要因となっていた。
提督はごくりと唾を飲み込んだ。
「……知っている。だからまず入渠で体を休め…」
「ヒトは死の淵に立たされると。種を残そうと生殖欲求が高まるそうです」
「……お前はヒトじゃない。艦娘だ」
高雄が提督に身を寄せた。提督の軍服越しに高雄の肌の熱が伝わってくる。高雄の胸が提督との間に挟まれ形を変えた。提督の左足が高雄が軽く開いた両足の間に挟まれた。身を寄せた高雄は提督の耳元で囁く。
「艤装を解けば生理はヒトと殆ど変わりません……私の生存本能が…提督の子種を…求めて…います…」
徐々に小さくなる声で囁かれ提督の背はぞくぞくと震えた。既に提督は身動き一つ出来ない。艤装を展開した艦娘に人間が力で敵うはずがない。巨像の足で押さえられている蟻も同然だった。
「……職務時間中だ。やるべき事は残っている」
「
提督は勃起していた。体を密着させその上股の間に太腿を差し込まれているのだ。当然高雄に知られていた。
「……まだ日が高い…」
提督も陥落したかった。だが中破の高雄を早く入渠させたかった。泊地に深海棲艦が攻めてくる事は滅多にない。だが絶対ではない。万が一の可能性を考え、高雄を失いたくなかった。
「ふふふ…明日の朝まで…たくさん…愛して…もらえ…ますね…」
高雄は提督の股の間に差し込んだ足をゆっくりと揺らし、提督の耳をぞわりと舐め優しく食んだ。
硝煙の臭いの中、高雄の体から甘い香りが届いた。提督は陥落寸前だった。もういいじゃないかと提督の頭の中から声が聞こえる。
高雄はセックスを始める前までは飢えた獣のように積極的だ。しかし艤装を解き、提督に抱かれる段になるとそれまでの積極性が嘘のように提督に従順になる。提督の求める行為に全て応え、提督の喜ぶ行為を率先して行う。
『艤装を解けば生理はヒトと殆ど変わりません』
その通りだった。逆立ちしても絶対に敵わない艦娘との力の差も艤装を解けば提督でも押さえつけれるまでに力は落ちる。艤装を解除すれば摂れない食事も摂れる。排泄も可能だ。潮も吹く。壁に手をつかせ、背後から突けば立っていられない程に足を震わせる。腰を抱え支える事で無理矢理突き上げれば、普段の凛とした高雄とは思えない、すすり泣きにも似た喘ぎ声を上げもっともっととおねだりをするのだ。それは提督の獣欲と征服欲を高め、高雄の中をさらに激しく蹂躙してしまう。その結果、絶頂で大量の潮を吹き、筋肉が弛緩しシーツを小水で濡らしてしまう事もあった。
提督は女性の体を高雄しか知らないが、人間と艦娘の両方を知っている提督は、艦娘を抱くと人間はもう抱けないという。きっとそうなのだろう。提督も高雄を抱くといつも夢中になる。時間の経過も忘れお互いの体液でどろどろになり、最後は意識を失うように眠ってしまう。
『殆ど変わりません』
艦娘は顕現してより若々しい姿を変えることがない。提督は九年で少年から青年に変わった。高雄は出会った時の姿のままである。装甲艤装を操作し、提督以外には絶対に見せない絶対領域の奥にある高雄の女性器も、提督が初めて高雄と繋がった時と形を変えず綺麗な色を保ったままだ。提督のペニスはすっかり黒光りするほど使い込まれているのに。
艦娘と人間でも子は成せる。だが深海棲艦との戦いが始まって九年。艦娘が産んだ赤子は一人としていない。ヒトと殆ど変わらないという生理は艤装を展開すると失われてしまう。着床した受精卵も失われてしまうのだ。
日々深海棲艦と戦い続ける艦娘が一年もの間、前線から離れ続けることは不可能だ。これまでにも提督と高雄の子として生まれるはずだった形になってすらいない我が子がいたかもしれない。
『ヒトと殆ど変わらない生理』とはそういう事だ。
提督は高雄の痴態に欲情しながらも眦から涙を流していた。
「……高雄……頼む…お前を…失いたくない…」
可能性は低い。だがその低い可能性で死神に出会ってしまった提督と艦娘を何人も見た。死神は戦いをなめた者に容赦なく襲ってくる。
提督の涙に気がついた高雄は、ひとつため息をつくとゆっくりと体を提督から離した。床に投げ捨てた上着を羽織り、破れた装甲艤装から覗く肌を隠した。
潤んだ瞳と上気した肌はいつもの慈悲深い高雄のものになり、先程までの淫靡な雰囲気は微塵もなかった。高雄も提督の気持ちは理解していた。
提督一人、艦娘一人。お互いを失うことは精神の死を意味する。命があったとしても何の意味もない。僅かな可能性でも高雄の死を恐れる提督は鏡合わせの自分だった。高雄は身も心も提督を深く愛していた。
「ありがとうございます、提督。ただいまから入渠してきますね」
「ゆっくりしてこい。それと艦隊を組んだ提督には俺からクレームを出しておく」
提督の艦娘は高雄一人だ。戦歴も最古参であり練度もトップクラスだ。高雄がこれほどの被弾を受けたのは、艦隊を組んだ艦娘が下手を打ったのだろう。つまり相手の提督の指揮が艦娘の足を引っ張り、高雄は艦娘を護るため被弾したのだろう。艦娘同士の仲間意識は強い。やり場のない思いと久方ぶりの中破が高雄の精神を高揚させ、提督に慰めてもらおうと突発的な行動を取らせたのだろう。
「はい。では行ってきますね。でもその前に…」
高雄は提督に唇を合わせるだけのキスをした。
「今夜は沢山愛してくださいね」