※この作品はR-18です。

【完結】提督と艦娘   作:はのじ

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Welcome,"G.G-F"

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 ――俺は困惑していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 茶室に到着すると黒服は何も言わず去っていった。案内された小さな茶室。入れということだろう。

 

「新海一八です」

 

「……」

 

 人がいる気配はする。しかし応えはない。

 

「入ります」

 

「……」

 

 小さな戸を潜り中に入った。狭い空間だった。二畳の畳の中央に囲炉裏。茶器はない。漆喰壁の一輪挿しには黄色いパンジー。掛け軸が一つ。子供が書いたような崩れた字で『長距離航海』の五文字。それだけだった。

 

 囲炉裏の前で紋付き袴を着た四〇に届いていないだろう男性が瞳を閉じ腕を組んでいた。恐らくはちの父親、網元だ。若いとは思わない。もっと若い父親もいる。

 

 俺は正座をして身を正すと、何も言わず土下座をした。ここに来るまでの間に言葉は無意味であると気づいた。土下座には深い謝罪や請願の意を表す他に、首を差し出すという意味もあると聞いた事がある。これは煮るなり焼くなり好きにしてくれと言う俺なりの意思表示だ。

 

 網元が動いた気配はない。身じろぎ一つしない。俺の土下座など無意味だと言う事だろう。

 

 俺は頭を下げ続ける。網元は動かない。

 

 かぽーん……かぽーんと遠くから鹿威しの音が一定のリズムで聞こえる。

 

 かぽーん……かぽーん。

 

 かぽーん……かぽーん。

 

 かぽーん……かぽーん。

 

 頭を畳に押し付け、瞳は閉じている。感覚が麻痺して時間の経過が分からない。三〇分か一時間か、もしかしたら一〇分位なのかもしれない。語る言葉すら持たない俺は頭を下げ続けるしか無い。例え、踏みつけられ、殴られ、殺されようとも。

 

 痺れを切らしたのか、それとも最初から想定していた事なのか、網元が口を開いた。

 

「土下座一つで許しを得られると思っているのか? 頭を上げろ」

 

「……っ」

 

 その声は決して大きくない。重厚で肉厚の声色は耳朶を叩き、下腹に響いた。網元は自ら船を操船し、荒れ狂う海でも、極寒の厳冬も、集団を鼓舞し、船団を指揮すると聞いた事がある。そうでなければ網元を名乗れないと。漁師五万人の頂点。カリスマを秘めた網元の声に背筋が震えた。

 

 俺は頭を上げ、網元を見た。袴の上からでも分かる盛り上がった筋肉。きっと今日も漁で網を引いたに違いない逞しい体つきだ。

 

「……何か言う事があるのではないのかね?」

 

 はちには似ていない。想像していた厳しい顔つきではない。しかしそこには長年、日本と世界の荒波と戦い続けた漢の顔があった。そこにいるだけで空気が熱を持ち膨張し圧迫されると感じる程の圧倒的な存在感。

 

 俺はこれまで座っているだけで威圧される人間と相対したことがない。これが地域の漁師の頂点。名と実を持つがゆえ網元を名乗れるのだと強く実感した。

 

 ぎりっ!

 

 俺は歯を食いしばった。俺も覚悟を以ってここにいる。黙ったまま殺されるより、心からの謝罪をしてから殺されよう!

 

 丹田に力を入れ気を整えた。眼力を溜めた。限界まで肺に空気を溜めた。

 

「この度は!……」

 

「貴様にお義父さんと呼ばれる筋合いはない!!」

 

「……」

 

「む。違ったか。やり直すぞ。ごほん! 何か言うことがあるのではないのかね?」

 

「えっと……」

 

「貴様の様な男に娘はやれん!!」

 

「……」

 

「……何か言うことがあるのではないのかね?」

 

「あの……」

 

「何度言えば分かる! 駄目なものは駄目だ!」

 

「お……」

 

「貴様にお義父さんと呼ばれる筋合いはない!!」

 

 ――俺は困惑していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

23

 

 そうだ。悪いのは俺だ。性欲に負け、はちを無理矢理手篭めにした。挿入は伴わなかったのは幸いだが、精液まみれにしたのは言い訳のしようもない。罰は受けよう。謝罪も当然だ。賠償もする。刑にも服そう。

 

 でもね。誰か助けて!

 

「『お義父さん』だ」

 

「……お、おとう……さん……」

 

「貴様にお義父さんと呼ばれる筋合いはない!! うむ。次は『娘さんを僕に下さい』だ」

 

「……娘さんを……僕に……下さい……」

 

「貴様の様な男に娘はやれん!! よしっ! 次は『お願いします』だ」

 

「お、おねがい……します……」

 

「何度言えば分かる! 駄目なものは駄目だ! ここは頭を下げた方が良いな」

 

 目の前の網元は、うんうんと頷いている。俺が悪いのか? これが俺が受ける罰なのか? 狭い茶室に大きな男と二人っきり。俺の肝も背筋も冷えまくっているが、網元が段々と熱を帯び、室温は五℃以上は上昇している。

 

 先程からリハーサルと称して網元が何度も何度も同じことを要求してくる。

 

 俺が喋る。網元怒鳴る。俺が喋る。網元怒鳴る。俺が喋る。網元怒鳴る。以下繰り返し。

 

 困惑しているが、負い目がある俺は網元の要求を断れない。

 

「よし。次を最後にするぞ。流れで行くからな。いいな?」

 

「は、はい……」

 

「本番は母屋の応接間で行う。気合い入れておけ。母屋は離れと違って小さな家だ。家族しか入れん。本番が終われば我が家だと思って寛いでくれ」

 

「は、はい……」

 

「まぁ、もう直ぐ本当の我が家になるんだがな」

 

「は、はぁ……」

 

「本番では興が乗って声が大きくなるかもしれん。先に謝っておく。それと即興で手が出るかもしれんが、その時は流れで合わせてくれ。安心しろ。怪我は絶対にさせん。カメラ目線は絶対に避けろ。あくまで自然にだ」

 

「は、はい……」

 

「風呂の用意をしてある。本番が終われば背中を流してやろう。色々と話を聞かせてくれ」

 

 何を言っているか全く頭に入ってこない……誰か助けてくれ……。

 

 祈りは天に通じた。茶室の扉を開けて状況を打開する救世主が現れた。

 

「お父さん、そこまでよ。状況が変わったわ」

 

「む?」

 

 網元が畳に拳を突き、小さな扉ににじり寄った。そこにいたのは一人の女性だ。年齢は二〇代中盤に見える。はちに似てなくもない。しかし黒髪の純日本人顔だ。はちの姉かもしれない。

 

 網元は女性に耳をよせ、ふむふむと頷いている。

 

「なに? ダイヤモンドグループが?」

 

「えぇ。はちから話を聞いて気になって調べてみたの。案の定だったわ」

 

「そうか、仕方がない。プランBだ」

 

「もう準備してあるわ」

 

「流石だな。本番は残念だが諦める事にしよう」

 

「ごめんなさいね。楽しみにしてたのに。別の日を用意するから今は我慢して」

 

「構わん。これから忙しくなる。個人的な趣味は後回しだ」

 

「お父さん、ありがとう」

 

 話が済んだみたいだ。もう状況についていけない。ただ一つだけ分かった事。今までの事は全部網元の個人的な趣味だったって事だ。

 

 話し終えた女性が振り返り俺を見た。

 

「一八さん。先程は連絡ありがとうございます。はちの母です」

 

「え? あ、初めまして」

 

 驚いた。はちは金髪だ。顔つきも日本人離れしている。対してこの人は黒髪の日本美人だ。はちは帰化した移民の家系だと思っていた。それとも養子なんだろうか。

 

「ふふふ。これね。はちは先祖返りなの。ひいお婆ちゃん、はちから見てひいひいお婆ちゃんに当たるご先祖様に生き写しなの」

 

 はちのお母さんは黒髪を指差しながら説明してくれた。ひいひいお婆さんというと漁業で成功したご先祖様の世代だ。それも気になるが。

 

「さっきと話し方が全然違いますが……」

 

 あらあら、まぁまぁを連呼してたのが印象に残っている。

 

「あぁ、あれね。盗聴の可能性があったからよそ行きを演じていたの」

 

 盗聴って、この家は漁師の元締めでしょ!?

 

「さ。準備も出来ているから移動するわよ。説明もそこでするわ」

 

「移動ってどこに?」

 

「決まってるじゃない」

 

 ふふっ、と笑う顔は、はちによく似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

24

 

 俺達が移動したのは離れと呼ばれる豪邸だった。吹き抜けの玄関を抜け、長い廊下を歩き、扉をいくつも潜り、辿り着いた先は大きな和室だった。

 

 床の間があり飾られた掛け軸は、やはり子供が書いたような文字で『20mm連装機銃』。本当にこの家は何と戦っているのか。

 

 手入れの行き届いた大きな庭には大きな池もあり橋がかかっている。

 

 和室の中央には立派な座卓。座布団が上座側に二枚、下座側に二枚。俺は上座に案内され、勧められるがままに座布団に座った。隣に何故が網元が座り、正面の対角にははちのお母さんが座った。ビクトリアンメイドがお茶を注いでくれるが、和室に似合わない事この上ない。

 

 なんだこれ。

 

 状況に流されるがままにここまで来たが流石にこれ以上はいかがなものか。頭が理解を拒否して来たが主導権を握らないとまずい気がする。

 

「あの、そろそろ説明を……」

 

 俺が口を開くと、見計らっていた様に網元も口を開いた。

 

「我が家には言い伝えがある。阿羽戸(あはと)の家を立ち上げた初代の妻が艦娘だと伝わっている」

 

 網元がいきなりぶっ込んで来た。主導権は握れそうになかった。艦娘と今の状況がどう関係しているのか。驚いたがとりあえず話を聞いてみるしかない。

 

「はちのひいひい婆さんが艦娘だったそうだ。儂は違うが、母さんとはちにはその血が流れている」

 

 網元は婿養子だった。

 

「艦娘は深海棲艦に勝利した後、全員が消えたと聞いています」

 

 歴史の教科書で誰もが学ぶ事だ。世界中で知らない人間はまずいない。

 

「うむ。これを見てくれ」

 

 網元が羽織の袖から一枚の写真を取り出した。そこには幼い子供が写っていた。はちによく似ていた。正確にははちの時間を巻き戻し幼くすればと思わせる写真だ。

 

「これは?」

 

「可愛いだろ?」

 

「えぇ……そうですね」

 

 可愛らしい子供の写真だ。これが艦娘に関係あるのだろうか。

 

「うむ」

 

 網元は写真を袖にしまった。網元の頬は緩んでいた。斜向いではちのお母さんがくすくす笑っていた。

 

 ただの子供自慢じゃねぇか……

 

「さっきはちが先祖返りだって言ったわね」

 

「え、あ、はい」

 

 はちのお母さんが話を引き継いでくれるみたいだ。今度は真面目な話にして欲しい。

 

「私のお婆ちゃん、はちのひいお婆ちゃんだけど、はちが産まれた時に驚いてたのよ。お母さんにそっくりだって。はちって名付けたのもお婆ちゃん。お婆ちゃんのお母さんから名を貰ったの。とてもはちを可愛がっていたわ」

 

 つまり艦娘だと伝わっている人の娘さんが証人って事か。

 

「亡くなられたんですね」

 

「二年前にね」

 

 証人はもういない。

 

「当時の写真は残っているんですか?」

 

「それがね、一枚も残ってないの。艦娘を映した昔の映像資料の中には、はちに似ている艦娘はいなかったし、きっと泊地の艦娘ね」

 

 『鎮守府の護り神』と呼ばれた最強の戦艦長門や、利根、鳳翔、謎のモザイク。他に何人もいるが姿形が伝わっているのは日本各地の鎮守府にいた艦娘達だ。泊地で戦っていた艦娘の容姿は殆ど残っていない。

 

 やはり証拠として薄い。日本では今も艦娘に対して尊崇の念は高い。艦娘祭りも毎年各地で開催されている。年に何度か『自称艦娘』や『艦娘の生まれ変わり』、『艦娘の子孫』詐欺は発生している。嘘とは言わないが、信じるには根拠が足りない。

 

「あら? 信じてないって顔ね」

 

「えぇ、まぁ」

 

 はちのお母さんはくすくす笑っている。気を悪くした様子はない。

 

「そうね。だからこの話をする時は『伝わっている』としか言えないのよ。お婆ちゃんが生きている時は断言してたけど」

 

「艦娘の子孫だって言いふらしているんですか?」

 

 網元とはいえ、詐欺師と同じことをすれば信用を失う危険があるのに。

 

「勿論家族になる人にしか言わないわ。ね、お父さん」

 

「うむ」

 

「家族……」

 

「あら? はちの事は嫌い?」

 

 嫌いではない。好きだ。しかし俺ははちの合意なしに無理矢理襲った。心に傷も負わせてしまった。今もはちは自己防衛の為に俺のことを好きだと勘違いしている。それをこの二人は知らないのだ。

 

「……もしかして、はちに暴行を加えたとか勘違いしてる?」

 

「暴行ではなく強姦です……」

 

「残念でした。あの子、貴方の女になる機会を虎視眈々と狙っていたの。時間の問題だったわ。知らなかったでしょ?」

 

「そんなはずは……」

 

「娘の生々しい話は聞きたくない」

 

「お父さん黙ってて。あの子から電車で一目惚れをした話を聞いてけしかけていたのは私。告白して付き合ってるって言ってたけど貴方にその認識はなかったみたいね」

 

 驚いた。はちから話を聞いていればその考えには至らないはずだ。告白された覚えがなければ男女の付き合いをしているつもりもなかった。そこまで分かるものなのか。

 

「網元してるとね、諜報と防諜は必須なのよ」

 

 あなた達は何と戦っているんですか……

 

「あの子、自己紹介で告白したつもりになってたみたいなの。名乗り返されて告白が成功したって舞い上がっていたわ」

 

 はちのお母さんはけらけら笑った。あれは出会って三日目、初日になるのか? そんなの分かるはずないだろう……

 

「はちはセックスの前に同意の意思を示してるはずよ。だから強姦じゃなく合意なの。上手く行けば一年後ね。私もおばあちゃんになるのかぁ。楽しみだわ」

 

「は、ははは……」

 

 乾いた笑いしか出てこない……暴発はばれていないみたいだ。盗聴器の類はないと思いたい。

 

 つまりはちはストックホルム症候群じゃなく、俺のもの宣言もあって素直に好意を示していただけだという事か。嬉しいと思うがやはり罪悪感は拭えない。全てが終わったら、事情は説明しなけれないけないな。

 

「でも親としてアブノーマルなのはどうかと思う所はあるのよ。リアル女子高生だからコスプレじゃないけど、制服にぶっかけるのはどうかと思うわよ?。他に特殊な性癖もってないわよね?」

 

「……黙秘します」

 

 穴があったら入りたい。後で穴に入ることになるんだが。

 

「……娘の生々しい話は……それとコスプレは母さんもノリノリで……」

 

「お父さんは黙ってて。話を戻すわね。お婆ちゃんは初代の二人を見て育ったの。とても仲が良かったそうよ。死ぬまで一緒だったの。初代網元が亡くなったその日に、この世からいなくなるくらいにね」

 

「同時に亡くなったんですか?」

 

 連れ合いを亡くし心労で倒れたんだろうか。

 

「違うわ。忽然と消えたの。お婆ちゃん達(・・・・・・)の目の前で」

 

「消えた?」

 

「そう。この指輪を残してね」

 

 はちのお母さんは、小箱を取り出した。蓋を開き中身を取り出した。指輪だろうか。シンプルなシルバーのリングが二つ。ただお互いの輪を通すように一つに繋がり指輪としては到底使用出来ない。

 

「初代の二人がずっと大事に嵌めていた指輪だそうよ」

 

「輪(リング)が繋がってますね」

 

「見つけた時にはこうなってたみたい」

 

 話の結末が見えない。ここまで俺に好意的な理由。このドタバタ劇。ここからそこに繋がるのか?。

 

「これね、壊れないの」

 

「壊れない?」

 

「そう。阿羽戸家の総力を結集して、可能な限りのありとあらゆる手段を使っても壊れないの。材質も不明だし、傷一つつかない」

 

 今時そんな物があるだろうか。仕事柄材料には詳しい。本当の意味で壊れない物などないし、原子構造も組成も簡単に判定出来る機器もある。

 

 ただの網元だと思っていた阿羽戸の家。今は謎が謎を呼び意味不明な組織だが力を持っているのは間違いない。その阿羽戸の家が不明と言い切る指輪。

 

「私はね、お婆ちゃんの言ってた事、元々信じていたの。孫が信じずして誰が信じるって言うのよ。何より夢があったしね。今はこの指輪のお陰で確信してるわ」

 

 正直俺としては半信半疑だ。御伽話を語られている様でもあり、真実を語られている気分でもある。ただはちのお母さんの目は嘘をついている様には見えない。少なくとも本人は事実だと信じている。

 

「我が家のルーツのお話はここでおしまい。ここからが今日の本題」

 

「はい」

 

  俺ははちに不埒な行為を働いた。この二人はそれを知っている。なのにそれを責めること無く家族に迎え入れようとしている。余りにも不自然だ。そして準備を終えたと移動したこの部屋で何をしようと言うのか。

 

 「お婆ちゃんは、とても大切に育てられたんだって。沢山可愛がられて、いっぱい叱られて。でもたっぷりと愛情を注いでもらったって言ってたわ」

 

 はちも二人に大事に育てられたんだろう。愛情や憎しみは連鎖する。例外はあるが、虐待を受けた子は暴力的な言動を取り易くなる傾向がある。愛情を受けた子は言うまでもない。

 

「両親が大好きで、はちが生まれてからは、受けた分を返すんだってとっても可愛がってくれたの」

 

「その時の写真がこれだ」

 

「いえ、今は結構です」

 

 自然な流れで網元が袖から出した写真を俺は間髪入れず断った。来るならこのタイミングだと予想していた。

 

「おばあちゃんは最期まではちの幸せを考えていたわ。ねぇ、お婆ちゃんが考えていたはちの幸せって何か分かる?」

 

「いえ……」

 

 幸せなんて曖昧だ。他人から見れば不幸でも本人は幸せだったりもする。仕事、勉強、家庭、趣味、考えられることはいくらでもある。人によって千差万別だ。

 

「ひいお爺ちゃんと、また一緒になってもらう事よ」

 

「はい?」

 

 想定しなかった答えに声が裏返ってしまった。はちのお母さんはそれを気にする様子もなく続けた。

 

「はちは成長するほど、ひいお婆ちゃんに似ていったそうよ。容姿は当たり前だけど、話し方、仕草、癖。似ている範疇を超えてそのものだって。お婆ちゃんは生まれ変わりだって信じていた」

 

 宗教観、死生観は人それぞれだ。生まれ変わりを肯定する宗教もあれば、我が子は先祖の生まれ変わりであると説く宗教もある。ひ孫が母に似ていればそう思う事もあるだろうか。

 

「お婆ちゃんが言ってたの。お母さんが生まれ変わったのなら、あれだけ仲の良かったお父さんもきっといるはずだから必ず探してみせるって」

 

 艦娘の子孫だという話よりとんでもな話が出てきた。はちのお母さんの目は、先程までの親しげな色はない。

 

「そんな話を信じたんですか?」

 

「信じる訳ないじゃない。艦娘云々は証拠もあるしね。似ているのは隔世遺伝とかいくらでも説明つく話だし。いくら身内でもそっちの話はちょっとね」

 

 良かった。信じると言われたら戦略的撤退も視野に入れるところだった。

 

  俺は生まれ変わりなんて信じていない。運命もだ。失敗も成功も本人がどう生きたかの一つの結果だ。人の出会いもそうだ。人生は偶然の積み重なりで出来ている。はちと出会ったのも偶然。その偶然が切っ掛けで俺は今ここにいる。

 

 運命なんてその偶然を操作するようなものだ。そんな事が出来る(・・・・・・・・)存在なんていないし(・・・・・・・・)、神なんてものを俺は信じていない。以上、証明終了。

 

「お婆ちゃんが生きている間は見合いの話も断っていたけど、そういう訳にもいかないじゃない?」

 

 一五歳未満での見合いが成立すれば婚約状態となる。環境が許さなかったり、まだ結婚が難しいと判断された場合、結婚まで多少の猶予期間をとる。網元ほどの家格であれば、一五歳の誕生日を迎えると、即結婚も十分あり得る。見合いの打診もひっきりなしだっただろう。

 

「でもあの子、男にも結婚にも全然興味なかったし、無理矢理進めるのもどうかと思ってね。お父さんももう少し娘でいて欲しいって言うし」

 

「うむ。小さい頃はお父さんと結婚すると言ってくれた。その時の写真が」

 

「結構です」

 

 網元が絡むと脱線する。黙ってて下さい。

 

「そんな時よ。はちが貴方の事を楽しそうに話してくれたのは。こんな家だから色々と貴方の事は調べさせてもらったけどね」

 

 それで眼鏡に叶ったって事か? そんな都合のいい話があるはずがない。俺はただの市井の勤め人だ。網元の家が納得するような材料を俺は何も持っていない。調べたのなら分かっているはずだ。

 

「あ、そうそう。言い忘れていたわ。これもお婆ちゃんに聞いた話」

 

 はちのお母さんは、想像もしなかった意外なそれを口にする。

 

「ひいお爺ちゃんって、とっても優しかったけど見た目が凄かったそうなの」

 

 偶然だと口にするのは簡単で、彼女を後押ししたかもしれない不思議な一致。

 

「ゴリラみたいにごっつくて超怖い顔してたって」

 

 笑うと、はちによく似る顔に親しみの笑みを浮かべて。

 

「ようこそおいで下さいました、ひいお爺ちゃん」

 

 

 

 




次が本当に最後。

今E5輸送。
E7突破したら頑張る。
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