※この作品はR-18です。

【完結】提督と艦娘   作:はのじ

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提督と霞

提督と霞

 

 

「どこに行くつもりよ、クズ司令官」

 

 腕を胸の前で組んだ霞が、廊下を塞ぐように立っていた。提督が執務室の扉を開けて直ぐの事だった。

 

 提督の私室は執務室と繋がっている。就寝中でも緊急の事態に備える為だと大本営から説明されていた。

 

「どこって、割烹鳳翔に……」

 

「それは本土の鎮守府にしかないチェーン店よ。泊地の出店は来月よ」

 

 割烹鳳翔は軽空母鳳翔がレシピを提供して安価で美味しい料理と地酒を提供する本土の鎮守府にしかない小料理屋である。

 

「あっ!そうだった!そうだった!じゃあ偕老同穴でも行こうかな!」

 

「バーテンダーがぎっくり腰で昨日から休業してるわ」

 

 営業時間中に腰を屈めて棚を整理している最中に腰を痛めたそうだ。

 

「えーしらなかったなぁ。じゃぁきょうはおとなしくねようかなぁ」

 

 泊地は灯火管制下にあるため、娯楽施設以外の施設は終業時間が早い。日が沈む頃には店を閉じる。そして娯楽施設も防空壕を兼ねて全て地下に建設されている。この時間に営業しているのは、二四時間営業をしている酒保と数少ない酒場、そして娼館くらいである。

 

 泊地で勤務する人間は殆どが男性だ。慰安を目的に大本営が民間に委託し、どこの泊地にも小規模ながら存在する。艦娘という魅力的な女性が装甲艤装とは言え肌を晒しているのだ。若い男性には刺激的過ぎた。勝てないと分かっていても我慢できず襲ってしまう案件は過去に発生している。

 

 提督は執務室の扉を開き。すごすごと奥の寝室につながる私室に向かおうとした。

 

「待ちなさい」

 

 その提督を霞が呼び止めた。

 

「な、なんでしょうか。か、霞さん」

 

 何人にも恥じる気持ちがない提督はビクビクしている。

 

「し、仕方ないから、そ、添い寝してあげるわ。仕方なくよ!」

 

 霞は枕を片手にホットパンツとフリルをふんだんにあしらったチューブトップのインナー姿で提督に提案した。

 

「結構です」

 

 提督の顔から表情が消えた。

 

「なんでよ!!」

 

「うお!!あぶね!だってよ!明日も早いし!霞寝相悪いし!」

 

 霞が投げつけた枕を際どく避け提督が理由を述べた。

 

 寝ぼけた霞が提督のベットで寝ていた事が何度かある。その度に提督の寝衣代わりのTシャツが大きくはだけ、夜間に何度も目を覚ました事がありゆっくり寝れなかったのだ。

 

 自己申告で『寝ぼけた』だの『実は寝相が悪い』と怒りながら連呼するのでそれ以上は追求はしなかった。

 

 当然艦娘の宿舎は提督の執務室がある棟とは別にあり、建設にあたり大本営は惜しげもなく資金を投入している。

 

「はぁ!?逆ギレ?飲みに行くつもりだったんでしょ!いいじゃない少しくらい!」

 

「何が少しだ。意味わからん。それと逆ギレは霞の方だ」

 

「あーもう!!」

 

 地団駄を踏む霞。艤装を展開していれば床は抜けている。

 

「あー。泣くな泣くな。分かった、分かったから」

 

「泣いてなんかないわよ!」

 

「はいはい。絶対大人しく寝ろよ。寝相は……仕方ないか」

 

 提督は開いた扉の脇に退き、霞に入るように促す。

 

「し、仕方ないから一緒に寝てあげるわよ。手を出すんじゃないわよ!」

 

「誰が出すか」

 

 いつもなら寝ている時間だ。眠気が襲ってきた提督はあくびを一つすると扉をぱたりと閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

■

「お子様ね」

 

「お子様言うな!」

 

 暁を旗艦とする駆逐艦四人の水雷戦隊で構成された部隊は哨戒任務を終え、泊地に帰投している最中だ。泊地を視認し、ここまでくれば深海棲艦に不意を突かれることはない。

 

 昨夜、霞は暁のアドバイスに従い行動を起こした。結果は惨敗。朝まで足を絡めながら提督に抱きつき、提督が襲ってくるのを今か今と待ち続けて気がつけば起床時間(まるごーまるまる)。一睡もできなかったが、艤装を展開すれば疲れなど残らない。気がつけば一人宿舎に戻り、涙を流しながら本日の任務の準備をしていた。

 

 結果を暁に報告すると暁からお子様扱いされた。

 

「ちゃんと言えたのかしら?『司令官のおちんぽ汁を霞の女穴の奥の奥に注入して下さい』って」

 

「そんなの言えるわけ無いわよ!!」

 

 霞の大声を聞いた他の駆逐艦がなんだなんだと寄ってきた。

 

「なんですかなんですかぁー?恋バナですかー?睦月、気になるにゃしぃ、いひひっ」

 

「今は作戦行動中だ。だが話を聞いてやるにやぶさかではない」

 

 睦月と長月だ。二人は他の泊地から移動したばかりでこの一週間完熟航行を兼ねて哨戒任務に従事していた。

 

「なんでもないわよ!あっち行った行った!」

 

 睦月と長月がニヤニヤしながら離れていく。多少の距離があろうとも艤装を展開した艦娘の耳には、この程度の距離は問題とならない。霞も当然知っているが、直接聞かれるよりましである。それに彼女たちから話が漏れるとは思えない。

 

「暁は司令官に……その、言ったの?…お、おち…それを」

 

「一人前のレディが言うわけないじゃない」

 

「何よそれ!!!」

 

「なんですかなんですかぁー?恋バナですかー?気になるにゃしぃ、いひひっ」

 

「今は作戦行動中だ。だがしかし……話を聞いてやるにやぶさかではないぞ」

 

「なんでもないわよ!あっち行けったら行けぇ!あーもう!バカばっかり!」

 

 睦月と長月がニヤニヤしながら離れていく。

 

 都合四度目のやりとりを繰り返した霞の息は荒い。完全に遊ばれていた。

 

「じゃあ、おち、おち…なんでそんな事言えっていったのよ?」

 

「もちろん覚悟を試すためよ。言えなかったって事は本気じゃないって事なのよ」

 

「何よそれ。私は本気よ。本気で司令官が好きよ」

 

 霞は憤慨する。この気持は誰にも否定させない。例え艦娘だろうと絶対に認めない。

 

「司令官に危機が訪れたら体を張って守れるのかしら?」

 

「当然よ」

 

 当たり前の事だ。それをしない艦娘など存在しないと断言できる。

 

「なら『おちんぽ汁ちょうだい』って言えるわよね」

 

「とうぜ……ん?関係あるのそれ?」

 

「ないわよ。当たり前じゃない」

 

 けらけらと暁が笑った。

 

「何よそれは!!」

 

 霞が今日一番の大声を張り上げた。

 

「なんですかなんですかぁー?青春なのですかー?にゃしぃにゃしぃ」

 

「今は作戦行動中だ。だが恋バナ……嫌いではないぞ」

 

「ほんとにもう!もう!もう!」

 

 真っ赤な霞の顔を見てニヤニヤと睦月と長月が離れていく。

 

「暁がみたところ、司令官は唐変木を演じてるだけなのよ」

 

 笑いを止めた暁が続ける。

 

 人間の目から見れば、艦娘は須らく年若く見目麗しい姿をしている。例外はない。だが見た目幼く見えようとも、成長しているように見えようとも、本質は同じ艦娘だ。戦艦や駆逐艦という区分に別れているが年齢とはなんら関係はない。戦艦より就役が早かった駆逐艦などいくらでもいる。その逆も然りだ。全ての艦娘は提督より歳上だ。もとより艦娘に年齢など意味はない。一〇年経とうが一〇〇年経とうが姿だけで言えば変わらないのだから。

 

 固定概念に縛られる人間は見た目に騙される。目の錯覚と同じだ。目の前に無いものを有るものと認識し、自らに課した倫理という鎖で雁字搦めにする。

 

 一〇の言葉を並べても信じず、一〇〇の言葉で説得しても納得しない。人間とはそういう生き物だ。

 

「じゃあ……どうしろっていうのよ……」

 

 霞は暁に縋る気持ちだ。もう自分で出来ることは全てしてきたつもりだ。唐変木を演じているのなら霞の気持ちに気付いているはずだ。その上で司令官は霞を避けている。霞の気持ちに応じる気はないと言うことだ。

 

「本当に出来ることは全てしたと思ってるのかしら。覚悟ってその程度?本気だって嘘なのかしら」

 

「わかんないわよ!何言ってるかわかんない!」

 

「もう答えは言ってるわ。固定概念を壊してあげるの。一〇〇の言葉が駄目なら一〇〇〇の言葉で。一〇〇〇の言葉が駄目なら一〇〇〇〇の態度で。それでも駄目なら一〇〇〇〇〇で。示し続けるの。諦めたらそこで終わりよ」 

 

「え……」

 

「一人前のレディになれるまで六年かかったわ。あなたは何年かかるかしらね」

 

 暁は応援の気持ちを込めて霞にウィンクした。霞が今いる場所はかつて暁が立っていた場所だ。諦めないで欲しい。司令官とは既に心が繋がっているのだ。艦娘は司令官を信じて命をかけて戦っている。司令官がそれを知らないはずがないのだから。

 

 遠巻きにしていた睦月と長月が「おぉ!レディ!」等と言いながら拍手をしている。二人は建造されて四年だ。暁の言葉は今後の大いなる糧になるかもしれない。

 

「……わ」

 

「がんばるのよ」

 

「やってやるわよ!一〇〇〇〇〇だろうと一〇〇〇〇〇〇だろうと!やってやるわ!」

 

 泊地の海に霞の声が響き渡った。迷える艦娘を応援する。一人前のレディとして当然の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■

「で、どうだったのかしら」

 

 あれから三ヶ月。バー『偕老同穴』で暁は霞の報告を受けることになった。暁は驚いていた。真逆これ程早く結果を出すとは思っていなかったのだ。

 

 朝に落ち込み、昼に立ち直り、夕方には気合を入れる。霞のこのサイクルを暁はずっと見てきた。そして昨日の朝は落ち込むこと無く何か手応えを感じていた様子だった。

 

 しかし霞の表情は暗い。どういうことだろうか。

 

「……司令官は私の気持ちに気がついていたわ」

 

「そう」

 

 暁の言った通りだった。人間は霞と同じで時に自分にすら素直になれないのだ。

 

「一杯話をしたの。これまでの事。司令官の気持ち。私の気持ち。司令官の事。私の事」

 

「うん」

 

「司令官、童貞だった」

 

「!!」

 

 霞の司令官は三八だ。しかも夜中に隠れて娼館に通っていたはずだ。これはどういうことだろうか。暁は予想外の展開にレディらしくもなく出歯亀気分だ。

 

「倫理観も(・)あって、手はだせなかったって。でも我慢出来なくて娼館に通ってたって……」

 

 執務室と司令官の私室は霞が居座っていることが多くなっていた。寝室も霞がチャレンジ精神旺盛な姿で添い寝に来る。いつ来るか分からない霞に配慮して司令官は処理出来ない。こっそりと娼館に通っていた。

 

「でも童貞って……」

 

「うん。入らないんだって」

 

「ん?」

 

「手でしてもらうって」

 

「ん?ん?」

 

「見せてもらった」

 

「ん?ん?ん?」

 

 霞が両の掌を上に向け、何かを持ち上げる仕草をした。

 

「ん?ん?ん?ん?」

 

「艦娘の霞でも壊しかねないから無理だって謝られたの……」

 

 霞が上に向けていた掌で顔を覆い泣き出した。

 

 暁は先程の霞の仕草を真似て掌を上に向け何かを持ち上げる仕草をする。これはナニだろうか。ナニなのか。時に人間の可能性は艦娘を驚かせる。しかし諦めてはいけない。必ず解決方法はあるはずだ。艦娘の可能性は無限大だ。そうだ愛の形は様々だ。体を重ねるだけが愛ではない。

 

 暁はさめざめと泣く霞に言った。

 

「これからもプラトニックに生きなさい。ね?」

 

 

 

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