鎮守府は深海棲艦に対する最終防衛ラインであると大本営は国民向けに公式発表している。近海に攻め入った深海棲艦を迎え撃つ体制を二四時間体制で構築し、国民の生命・財産を日夜護る活動を行っているとも発表し国民の理解を得ようとした。
当初、深海棲艦と同様に謎の存在であり、しかも兵器であると発表された艦娘に国民は不安を覚えた。
意思を持っているらしい。自立行動をすると聞いた。
艦娘の活躍で国土は回復されたが、深海棲艦の侵攻で甚大な被害を受けた記憶は薄れていなかった。人々が深海棲艦を上回る、意思を持った正体不明の人形兵器に恐れを抱く事は無理はなかったと言えよう。
大本営は政府の
リベラルを自認する野党左派政党は、一貫せぬ政治理念で政府の転覆を虎視眈々と狙っている。国民の不安は格好の飯の種だった。
国会で艦娘の危険性を訴え、鎮守府に在籍する艦娘の建造方法の完全公開と一部解体を重要法案そっちのけで連日訴え続けた。政府が具体例を提示し、艦娘の安全性をいくら説明しようと論点を変え続け、最終的には野党連合合同で『深海棲艦にも事情があるに違いない。深海棲艦に特使を派遣し和平を結ぶべきだ。誠意を示すために艦娘は即時の廃棄が必要である』との声明を発表し、艦娘解体法案を国会に提出した。
最初の争点は何であったか。
事態の収束を図るべく大本営が動いたのはこの時だった。大本営が放った起死回生の策。艦娘のメディア露出であった。
その日、国営放送の視聴率は八〇%を超えた。
艦娘と呼ばれる兵器はどれほど恐ろしい姿をしているのだろう。意思を持っているといっても人間と意思疎通など兵器が出来るのだろうか。国民の艦娘への関心は高かった。
モニターの向こうでは笑顔でインタビュアーに受け答えする見目麗しい少女たちが映っていた。自らを兵器であると発言しながらも人間となんら変わらぬ姿で。照れながら、噛みながら、時折頓珍漢な回答をする、愛嬌があり、
凛々しく頼もしい戦艦。
寡黙で魅力に溢れる正規空母。
旧友の如く親しみが湧く軽空母。
愛嬌と色気を振りまく重巡洋艦。
愉快で明るい軽巡洋艦。
元気で庇護欲を誘う駆逐艦。
多種多様な魅力を有するうら若き見目麗しい艦娘達がモニターの向こうで光り輝いていた。艦娘達の一挙手一投足に国民の目は釘付けになった。艦娘の口から語られる深海棲艦との戦い。中には涙ながらに語る艦娘もいた。そしてこの日、歴史は動いた。
超熱い手のひら返し。
応援しますがんばってください。何かお手伝いがしたいです。彼女になって欲しい。息子の嫁になってくれませんか。私のママになって。おじさんと一緒に住まないか?結婚して下さい。はぁはぁはぁ。
様々な意見が大本営に届けられた。その後も大本営は攻勢を続ける。懸命に深海棲艦と戦う艦娘の戦闘映像がニュースに流れた。鎮守府の一部施設を一般開放し、艦娘と触れ合う機会を作った。約一名の艦娘がアイドルデビューし広報戦略を務めた。グッズを販売し、深海棲艦の侵攻で被害を受けた国民の補償に当てた。
提出された艦娘解体法案は
野党連合は、その後も人権派と称する団体と手を組み、艦娘に人権を、と世論の支持を得ようと活動するが、定期的に艦娘がメディアに出演し意見を訴える事で野党連合の声は徐々に小さくなっていった。
そして現在。本土にあるとある鎮守府。
鎮守府には一般見学者向けにお土産が多数用意されている。鎮守府で直売される売上の一部が艦娘のお小遣いになると聞いた見学者達は、一押しの艦娘のグッズを先を争うように購入している。特にデフォルメされた駆逐艦の顔の刻印が押された『駆逐艦の中身たっぷりまんじゅう』の詰め合わせセットは、全国の紳士達が給料をつぎ込む勢いで大量購入していた。同封の『艦娘カード(日常の何気ない一枚:月替り)』も購買意欲を誘っていたのは言うまでもない。
鎮守府は軍施設である。機密も多い。特に艦娘工廠は機密の塊であった。四重の扉で厳重に閉ざされた内部は一部の限られた関係者しか入れない。工廠では様々な施設があった。艤装・兵装の研究・開発施設、艦娘の建造施設、近代化改修施設、改造施設。そして各施設では妖精さん達が楽しそうに走り回っている。
改造施設の前で旗下の艦娘の改造の終了を待つ年若い提督がいた。今年で一四歳になる提督である。旗下の艦娘は六人。提督としては珍しい単独で艦隊を組める提督だった。戦艦一、重巡洋艦二、軽空母一、駆逐艦二、とバランスの取れた艦隊であった。
提督は施設の前で艦娘の改造が終わるのを今か今と待っていた。妖精さん達の動きが慌ただしくなってきた。改造施設から光が溢れた。改造が終わったのだ。
「礼を言おう。筑摩のやつより、また強くなってしまったな」
光が収まり、艦娘が一人現れた。提督旗下の艦娘の利根だった。
「かぁちゃん!なんだよ!その痴女みたいな格好は!?」
利根型一番艦 航空巡洋艦 利根。
重巡洋艦から航空巡洋艦へと改造が完了したのだ。
長く伸びた髪を白のリボンでツインテールに結い、特徴的なグリーンのジャケットを赤の蝶ネクタイが首元をワンポイントで飾っていた。すらりと伸びた両の足には黒のロングブーツ。左足のみ太腿の上部までサイハイソックスで覆っていた。ここまでは重巡洋艦であった改造前とさほど変わっていない。
変わったのは腰から下だった。ジャケットと一体となっていた股下のスカート部がスリットの
「吾輩を痴女とは言うようになったの。これはれっきとした艦娘の装甲艤装じゃ。誰に憚るものではないのじゃぞ」
利根は自慢気に前掛け部分を持ち上げヒラヒラと動かした。当然提督から見える肌の部分が増え、ギリギリチャレンジのように利根の秘部近くまで見えてしまった。
「ちょっと待って!待ってったら!待てっつってんだろ!!下着はいてねぇだろ!マジモンの痴女じゃねぇか!」
提督とて見たくて見たのではない。利根の予測不能な行動に目を逸らす暇もなかったのだ。提督の目からはどう考えても下着をはいているようには見えなかった。
「顔なんぞ赤くしおって。うむ。やっと色気づいたようじゃな。親として感無量じゃぞ。後で皆にも報告してやろうぞ。それと下着については当然じゃな」
はいてるのかはいてないのかどっちなんだよ!いやそんな事は後回しだ。提督は利根の肌を見て赤くなっている訳ではない。利根の痴女っぷりに声を張り上げ頭に血が登っただけだった。提督が利根に性的興奮を覚えるはずもない。提督は頭を抱えた。
「……いいか。よく聞いてくれ。その格好じゃテレビ出演禁止になるぞ……痴女の艦娘なんかテレビに出せるか!」
「それは困るのじゃ!テレビに出てニコニコしているだけで筑摩のやつがアイスとラムネをくれるのじゃ!」
艦娘は国民向けの広報で定期的にテレビに出演している。利根も『極端に口数の少ない可憐な少女』として人気があった。打ち合わせで『絶対にマイクを向けるな』と、司会者に頼み込んではいたが。
「あれは俺が用意してるの!どの道その格好で絶対に出演させねぇから!」
「し、島風はどうなのじゃ!?島風に比べたらこれくらい大したことなかろうが!?」
「
駆逐艦島風。提督の六人の艦娘の内の一人である。スレンダーな肢体にミニスカート。しかも鼠径部を丸出しのウルトラローライズミニ。当然下着は見える。紐の如く見せパンツがはっきりと。上衣も肩部が大きくえぐれた袖のない
確かに島風に比べれば利根の装甲艤装は大したことが無いかもしれない。だが比較対象が間違っている。太陽に比べれば地球は小さい。そう言っているのと同じだ。
艦娘が出演するテレビ局は全て国営放送である。島風は国営放送NGが最初から承認されている。『駆逐艦の中身たっぷりまんじゅう』に同封されている艦娘カードにも島風は首から上しか撮影されていない。ちなみにカードのレア度はSSRである。
「何故そんないじわるを言うのじゃ!筑摩ー!ちーくーまー!アイスが!ラムネが!」
「アイスでもラムネでも後でいくらでもやるから、元の姿に戻してこい!頼むから!この通り!」
提督は利根に頭を下げた。もう利根になんと言っていいのか。もう!もう!である。
「無理なのじゃ!これは艦娘としてあるべき姿なのじゃ!この姿は提督であろうと否定はさせんぞ!」
艦娘としてのアイデンティティ。島風も同じである。利根は誰がなんと言おうと変えるつもりはなかった。そもそも変えられない。意味深に格好良く言いたかっただけである。だが提督にはクリティカルだった。
「……かぁちゃん、ごめん。言い過ぎた。そうだよな。艦娘だもんな」
「う、うむ…分かってくれればよい…」
意外と通じた事に利根の方が驚いた。提督との付き合いは九年だ。
「でもその格好じゃ絶対にテレビに出演させないからな」
「筑摩ー!ちーくーまー!提督が反抗期じゃー!」
提督もいつまでも頭に血が登って居るわけではない。営繕部に頼んで重巡洋艦だった時の装甲艤装に似た衣装を準備してもらおうと考えていた。装甲艤装を解いてもらい着てもらえれば問題ないだろう。後は喋らずニコニコとしてもらうだけでよい。
その時、改造施設が強く光った。改造中だったもう一人の艦娘の改造が終わったのである。光が収まり改造された艦娘が出てきた。
「利根姉さん、騒ぎすぎよ。提督も困ってしまうわ」
利根型二番艦 航空巡洋艦 筑摩。
提督の旗下にある艦娘の一人である。当然提督を育てた艦娘の一人である。ロングの黒髪が特徴的で、利根と同様スラリとした肢体をしている。利根と比べると色んな意味で大きかった。性格は穏やかで姉の利根が好き過ぎる事を除けば人間に通じる常識を持っていた。テレビ出演も利根のカバーを任せ提督は何度も助けられていた。
提督は自分の中で既に笑い話となった利根とのやりとりを筑摩に話してやろうと振り返った。
「お疲れ様、筑摩かぁちゃん。聞いてくれよ。利根かぁちゃんの格好が……」
そして改造前の筑摩の装甲艤装は、利根に酷似していた。
「かぁちゃん!なんだよ!その痴女みたいな格好は!?」