夜明けに目覚めた。だが夢からは解放されなかった。
最初の狩人に挑んだ。月の魔物に囚われた。
月の魔物を狩った。青き血を手に入れ、人類の幼年期を終わらせた。
老いた赤子を弔った。呪いは解かれた。
だが、俺は夕闇に目覚め、夢を見て、夜明けを迎える。
何度も、何度も、何度も。
8回より先は覚えていない。
絶望も、酔いももう十分した。もはや夢も現もない。だがそんな中でどんどん膨れ上がっていく感情がある。
エミーリア。美しい獣。
あれが欲しい。たまらなく欲しい。それは単なる欲情、獣欲かもしれない。
だが、何度もその欲と向き合い、それは偏執と思慕に変化した。
血には十分酔った。そのたぎりをぶつけたい。
人形やエブリエタース。カインハーストに、血の聖女、娼婦、他にもいただろう。だが俺にはあれがいい。
あの女が欲しい。あの獣が欲しい。
最初の狩人が愛しい人を模して人形を作り、この終わらない夜の供としたように。
俺もまた、あれと終わらぬ夢を見たいのだ。
血族の長が、最初の狩人がそうだったように、呪われた不死者は伴侶を求めるものだから。
そうと決めれば俺は準備に取りかかった。その過程で何度も彼女を狩ることにもなった。
そのたびに俺はたまらぬ快楽とますます燃え盛る欲情を感じるのだ。
ヤーナムにおいて男女が血を飲みあうことは性よりも強い交わりを意味する。
娼婦の仕事にそれは含まれるのだから、つまりそういうことだ。
そして血を飲み、自らの血肉とすることはその魂をも混ぜあうことを意味する。
血の遺志によって強くなると言うのはそういうことだろう。血によって相手に染まるのだ。
故に、彼女を狩るときはたまらなくいとおしい。武器を振るい彼女から吹き出す血を飲み、浴びて。
彼女の爪によって俺の血が彼女の中に入る。なんという神秘的な交わりだろうか!
血の遺志によって心も伝わるのであれば、そう思い俺は一念に彼女を狩るときに自らの血に想いを込める。
愛している、愛している、愛している。お前が欲しい。お前の姿だけなく力だけでなく心も知りたい。
何度もその想いを込め、時に彼女の血を採取したり、自らの血の中から血の穢れを取り出したり。
ビルゲンワースやメンシス、カインハーストの書庫から必要な資料を当たったり。
教会の書庫や机から彼女の人となりを知ろうとしたり。
そして、やがて来るその時のために特別な狩り道具を幾つも作ったり。
それは何度も繰り返した夜において新しい刺激、心を保つよすがだった。
やがてこの道具たちを使う日を夢見ていれば、狩りの中で心おれることはなかった。
ああ、そして。とうとう今夜、この周回でこれらを試すのだ。
俺は俺を示すよすがである狩人装束に身を包み、大聖堂を訪れる。
武器は小アメンと杖を選んだ。左手にはこの時のための特別な秘儀と狩り道具たち。
ああ、聖句が聞こえる。その姿が見える。人の姿もまた美しいが、だが俺の求めるお前はそれではない。
甘美な悲鳴と咆哮。ああ、美しい。匂いたつ。
トナカイのような角、美しい腰までとどく銀髪、狼男のような獣らしい姿。美しく白い聖職者の獣。
ああ、愛しい人よ!今夜俺は必ずあなたを手に入れるぞ。
呪われた夢の狩人がそう決めたのだ。我らはやると決めたら必ずやる。なにしろ死んでも死なぬのだから。
まずはただ狩る。ああ、何度味わってもなんと甘美な血であることか!
エミーリアの体力を残り一割まで減らせば特別な狩り道具の出番だ。
まずは輸血液。だがただの血ではない。俺の血に俺自身の血の穢れと遺志を混ぜ混み、何度も濃縮したものだ。
そこに医療教会製の上位者との交わりのために使われる媚薬を大量に混ぜ混んである。
それをまずはエミーリアに三本打ち込む。輸血液を用いての回復は自分の体で数億回はしている。
他人の体であっても問題ない。これでエミーリアの体力は全快したはずだ。傷も問題なく全て癒えている。
わずかにエミーリアが戸惑っている。なぜ狩人が獣を回服させるのかと。
そして万感の想いを込めて俺は言葉でも言う。
「ヴァイカー・エミーリア!俺はお前が欲しい!好きだ!愛している!
その美しい獣である今のお前に惚れた!今夜、ここでお前を抱く!絶対にだ!俺とつがいになってくれ!」
一瞬、攻撃の手が止まる。パリィして内蔵攻撃すれば一撃で殺すに十分な時間。
だが俺はそうしない。今夜は絶対に彼女を殺さない。今夜こそ手にいれる。
彼女が迷う様子が解る。戸惑ったような唸り声が聞こえる。
まだだ、まだ足りない。ここでまずは言葉で俺の思いのすべてを叩きつける。
「俺は本気だ!お前が欲しい!釣り合いとか道徳とか感性など、狩人に今さらそれを求めるか!
ヤハグルもメンシスも見てきた上で、お前が、医療教会が何をしたか全て見た上で言っている!
その全てを勘定に入れてお前が欲しい!お前が好きだ!」
戸惑いは消えて、エミーリアはますます激しい攻撃をしてくる。
だがゴースの遺子や数多の古狩人にくらべれば、まさに女子供の抵抗だ。避けるのは容易い。
「その美しい髪、鋭い牙、細い体、素晴らしい毛並み!ああそうだ、見た目から惚れた!
だがその何が悪い!俺はお前と添い遂げたい!そのためならば何でもしよう!何でも用意してきた!」
輸血液だけではなく、純粋に俺の血の穢れと媚薬を混ぜたものも打ち込む。
獣血の丸薬で獣性を高め、欲情に欲情した状態で一心にエミーリアを想いながら抜いた血だ。
「ああ、俺の事も言わなければフェアではないな。俺はいわば悪夢に囚われた狩人と同じだ。
一夜を何度でも繰り返し、何度死のうとも、何をしようともそこから逃れられない。
だから、その長い永遠の夜には伴侶が必要なんだ。もはや一人では耐えられない。お前が必要なんだ!」
俺はダンジョンで手にいれた婚姻の指輪に鎖を通しエミーリアの体でも手首につけられるようにしたものを見せる。
「遺跡で見つけた由緒正しい婚姻の指輪だ。どうか、受け取って欲しい。頼む、お前が必要だ。お前が欲しい。好きなんだ。どうしようもなく」
また、先程より長くエミーリアが戸惑う。弱気な吠え声が響く。ああ、美しい獣よ。その声のなんと可憐なことか。
まあ、普通であってもいきなりこんなことをしたら戸惑うだろう。どう考えてもぶつける思いが重すぎるし、用意周到すぎる。
だが今夜は獣狩りの夜。常ならぬ事が起こる夜で、ここにいるのは獣と狩人、どちらも人でなしなのだ。
そしてこの夜を何十年と繰り返したこの想いと熱情は、もはやこんな形でしか表せない。
「返答はいかに。この場所が貴女にとって大切ならば、門はすでに貴女が出られるほどに開けておいた。
ヘムウィックでも禁域の森でも、好きな場所に行こう。人払いはすでにしておいた。
邪魔するものはもう誰もいない。何ならば、カインハーストの城もまるごと差し上げよう。
さあ返答はいかに。了承していただけるならば、これを受け取って欲しい・・・・・・!」
しばらく困ったような吠え声が響き、エミーリアが後ずさる。そして大きな咆哮と共に俺の指輪を差し出す手を払い除けるかのように爪を振り回してくる。そしてまた大きく吠えた。
拒絶。まあそうだろう。だが、俺の口から出たのはヤーナムらしい密やかな暗い笑いだった。
「ハハハ・・・・・・まあ、そうだろう。そうだろうともさ。わかっていた。そう言うだろうと思っていた。
だがすまない。俺は諦める気は毛頭ない。紳士の時間はこれまでだ。これよりは狩人らしいやり方でやらせていただく」
俺はステップですばやくエミーリアの背後を取ると、その指輪を狩り道具として使用した。
がちり。
エミーリアが獣となっても大事に握りしめている教会のペンダント。その握りしめた左手の手首に婚姻の指輪をはめてやった。
「OHHHHH!」
エミーリアが激しく吠え、暴れまわる。だがやはり見慣れた動き、対応できる早さだ。
ああ、そうだろう。信仰を欲情で上書きされたような気分だろう。
この指輪、いやブレスレットは優れものの狩り道具だ。今夜のために5年かかって準備した複数の機能を兼ね備えた秘儀だ。
ブレスレットからは鎖が延び、俺の左手にも同じく巻かれた鎖につながっている。
変形機能その1、手錠モードだ。一度装備したらその夜、その周回では決して互いに外せない、どこまでも鎖が延びる手錠となる。もちろん、鎖の長さは俺が調節できる。すばらしい、なんと都合のよいことか。
もちろん、おぞましいほどの手間がかかった末のものなのだが。
「GAAAA!」
エミーリアが飛びかかってくる。俺は軽く避けて背中側に回り、エミーリアの尻を小アメン(つまりでかい棍棒だ)でひっぱたく。ごく軽く、死なぬように。しかし、このレベルのエミーリアには体が吹き飛ばされるほどの衝撃で。
「エミーリア、まず始めにあやまっておく。暴力を持って女を犯す。紳士として恥ずべきことだ。すまない。
だが俺は諦めるつもりはない。そしてここにいるのは獣と狩人だ。狩人が獣を捕らえ、これを犯す。そういうやり方でお前を犯す」
エミーリアが怯えるような、悲しむような、そんな吠えかたをした。
「故にまずはお前を屈服させる。獣としてお前に俺の力を認めさせる」
エミーリアは激しく吠え、暴れ、走り回って逃げる。
俺はゆっくりと歩いてエミーリアに近づく。
エミーリアの足が、爪が地面を蹴るたびに火花が出る。エミーリアは怯え、怒り俺に手を降りまわしたりして攻撃を加えてくる。
その全てを回避し、やはり手足や尻を小アメンで殴る。何度も殴る。ダメージが蓄積したら媚薬入り輸血液で回復させる。
やがてエミーリアは攻撃を捨てて全力で逃げ出す。俺がわざわざ彼女が通れるように大きく開けておいた門を通って。
だが俺は慌てない。ゆっくりと歩き出す。居場所は彼女の血と臭いが教えてくれるし、ここから逃げられる場所などいくつもない。それこそヤハグルか旧市街、禁域の森かヘムウィックの辻くらいしかない。
俺はすでにこの回で邪魔者は全て虐殺しておいた。暴徒や群衆は皆殺しにしてきちんと吊るし、逆さ磔にしておいた。
彼女にもよく見えるように、これからの交わりのために首筋を切って血を流させてもいる。
なお、教会の赤マントの盲人や古狩人デュラといった俺の数少ない友人、その他避難民などには事情をだいたい説明して扉を閉ざした建物に籠ってもらっている。
上位者であるアメンドーズはもういい加減に何度も運んでもらっている顔見知りであるし、上位者になった周回の時に事情を話してある。
だいたいはドン引きされるか呆れられながらも事情は理解してくれた。
まあ、ヤーナムが壊滅状態にあるのは医療協会のせいでもあるとみんなうすうすは知っているから、医療協会の教区長であるエミーリアにはもはやこの街のどこにも味方はいないのだ。
そう、それに俺の友人たちにも俺たちが結ばれる様を見てもらうと言うのも、まあ悪くはない。
多少の気恥ずかしさはあるが、なあに背徳はヤーナムの特産品であるからして。もはやいまさらだ。
だがやはり大聖堂で致したい。教祖であるローレンスの頭蓋の前で。
なにしろローレンスはこの惨状のほぼすべての元凶のひとりであるからして。ああ、想像するだけでたまらない。
ああ、ヘムウィックの方に行ったか。よしよし辻のあたりにいるな。
あそこならば近道がたくさんあるから背後から忍び寄るのは容易い。
「GA,AA・・・・・・GAA・・・・・・」
エミーリアは必死に手錠を外そうと手首の鎖をいじり回している。時に苛立ったのか手首を地面に叩きつけるが、
狩り道具とはそんなやわな出来はしていない。
ああ、なんて可愛らしい人だ。俺は背後に回って背中を優しく触る。
「AHHHHH!!」
エミーリアは屋根の2階分ほど思いきり飛び上がっておどろく。はあ、はあ、と荒い息をして後ずさる。
「A、AH・・・・・・AHH・・・・・・」
狼の顔、髪で目元が隠されていても分かるほどの怯え。
「どうだろう、逆さ磔は気に入ってくれただろうか?あまり空腹ではこの後大変だし、血の酒や獣血の丸薬で味付けして血を撒いておいたんだが。ああ、少しは飲んでくれたようだな。さあ、行こうかエミーリア」
エミーリアは怯えきって過呼吸寸前の早い息をするばかりだ。だが、俺はもっとあなたのいろんな顔が見たい。
まだペンダントは捨てていないのだから、ここで早まっても心が折れきっていない。まだ楽しめるさ。我慢だ。
「大聖堂に戻ろうか。短いデートコースだがね。やはりこういうものは教会でするものだろう?ローレンスにも祝福してもらおうじゃないか」
悲鳴そのものの吠え声。もはや己が強者ではなく食われる側だと思い知った者の全力の逃走。
ああ、すばらしい。そうだ抵抗するあなたの心を折りたいのだ。愛し合うのは前提だが、そのまえに屈服していただきたい。
エミーリアが50歩ほど離れたあたりで思いきり鎖を引っ張る。エミーリアの巨体が飛んで、俺の前に戻る。
「AHHHH----!!」
純粋な恐怖そのものの声。ああ、なんと甘美なことか。エミーリアは地面に爪を立て、全力でその場から動かないように踏ん張る。そこ尻を小アメンで殴る。少しエミーリアが飛び、地面から離れた隙に鎖を引っ張り前に進む。
恐慌状態のエミーリアの声と姿を見ているとたまらなく笑いが込み上げてくる。ああ、すばらしい。なんという至福の時。そしてこれは前戯ですらないのだ。
やがて恐怖の悲鳴からすすり泣き、そして獣の吠え声ではあるが確実に許しを乞う声に変わる。ああ、それだ。それが聞きたかった。
許して、許してください。ごめんなさい。お願いですから許して。懺悔します。おねがいします、おねがいします・・・・・・
そう言う意味のことを吠えているのが解る。
「許す?そういう話ではもうないんだ。俺は貴女を抱く。絶対にそうする。だから遠慮せず好きなだけ泣くといい。
まだ涙が出るうちに。そしてもう俺はあなたを許してるし、歪んでいても愛しているんだ。だから何も気にやむことはないとも。ああ、長い階段だったな。さあ入りたまえ」
「OH・・・・・・OHHHHH・・・・・・」
とうとうエミーリアは嗚咽をもらしながら自ら大聖堂の扉をくぐった。ああ、なんと胸の満たされることか!
この女はようやく俺に抵抗することを一つ捨てたのだ!だがまだまだ染める余地、折れる心はある。すばらしい。
「OHHHHH・・・・・・」
弱々しい遠吠えのようにエミーリアが泣く。その足取りは罪人のように重い。
「もっと前だ。あなたが祈っていた場所辺りがよい」
すすり泣きながらもエミーリアは進む。
「そこだ、止まれ。さあ始めようか。これからいろいろ道具を使うが何も心配はいらない。すべて貴女を傷つけず、できるだけ楽しんでもらえるようにするためのものだ。決して害はない」
俺は秘儀の一つを使う。脳吸いや魔女の使う拘束魔法だ。これも再現にはものすごく苦労した。大変だった。
すべてこの夜のためだった。
エミーリアの手足が泡で作られた輪で拘束され、動けなくなる。これで良い。
「エミーリア、処女をもらうぞ。なに、仮に処女でなくとも失望などしないとも」
返事を聞く前にすばやく内蔵攻撃の要領で、しかしエミーリアを傷つけないように深く谷間に腕をつき入れた。
ああ、この瞬間をどれほど待ち望んだことか!
エミーリアが高く悲しそうに鳴き、俺は全身に破瓜の血を浴びる。なんと甘美な血であることか!
上位者の血ですら、比べものにならない。ああ、お前の感情が、遺志が解るぞエミーリア。その悲嘆の色、なんと美しいことか。
「さあ、楽しもうエミーリア」
ある特殊な処置をした輸血液を処女膜の傷に塗る。それは媚薬。それも遺跡の最深部、トゥメル人が上位者との交わりで使う発狂ダメージがあるほどの快楽をもたらし、しかし回復効果によって決して死なず傷も癒える。そういう極めつけの媚薬だ。処女であってもよがり狂うのが前提のもの。それを大型獣用に加工した。
媚薬の血を塗りたくり、何度も腕をエミーリアの中に入れる。ああ、暖かい。どんな獣より暖かく締め付ける、心地よい肉だ。
やがて膜からの出血はなくなり、透明な欲情の汁が溢れだす。口からも悲嘆の悲鳴から、徐々に熱い吐息と快楽の唸りに変わっていく。
やがて俺も激しく腕をつき入れる。内蔵攻撃になる寸前、傷つけずしかし極めて激しく、何度も。
エミーリアはもはや快楽を隠さず高く、高く快楽の鳴き声を上げる。ああ、すばらしい。胸が熱くなる。
とうとうこの聖女を教会でよがり狂わすことができたのだ!
さあ、いよいよだ。いよいよこの場で婚姻を結ぶのだ。俺は最後の秘儀道具を使う。
それは鐘。メルゴーの乳母を呼び寄せるためだけの鐘だ。そして鳴らす。
やがてそれは闇と共に現れた。烏羽でつくったようなローブ、フードに身を包んだ多腕巨駆の魔性。
上位者、メルゴーの乳母。
エミーリアが怯え、平伏するが俺は安心させるように撫でる。
泡の拘束はすでに解いてある。
「案ずることはない。俺がこの婚姻の立会人として呼んだのだ。これ以上なく上等な仲人だろう」
エミーリアの息から欲情が強く残りつつも、乳母と俺に対する畏怖と崇敬がわずかに感じられる。
良い。これで徐々に態度を軟化させてくれれば良いが。
「さあ、乳母よ。かつての夜で願った通りに。
この大聖堂を悪夢に移し、俺と彼女を永遠にそこに捕らえ、永遠につがいとし、それを祝福せよ。
代償として、我々が産む子らの1匹、そして、子孫のうち子を産むたび複数生まれたうちの1匹を渡そう。
俺の人としての体を供物としてあなたに捧げ、俺に聖職者の獣の肉体を授けてくれ。
だが、俺が彼女を守るために俺が獣となった後もこの一振り、最初の鋸鉈を体に合った大きさで使えるようにしていただきたい。付して頼む。乳母よ」
俺が三本目のへその緒をかかげ、悪夢という特殊な空間を作ることを願う。
儀式素材も供物も聖人のミイラが20体はできるくらいつぎこんだ。
乳母は大きく頷き、俺たちに啓蒙+1と何か神秘的な力、祝福を流し込んだ。
俺の体に引き裂かれるような痛みが生じ、内側から体が爆ぜる。ああ、これが獣化なのか。
ガスコイン、ギルバート。お前たちもこれを味わったのだな。だが、ああ、痛みすら今はいとおしい。
エミーリア、ようやくお前を愛せる体となれた。おお、なんとすばらしい。乳母よ、あなたに感謝を。
かつて上位者となり、そして今はじめて獣となって彼らの言葉がよくわかる。
乳母は上機嫌に、しかし威厳を持って語る。
良い。了承。つがい、なんと久しい。めでたい。すばらく良い。
お前たち、この乳母、血の加護、与える。永遠の夜、生も死も等価、上位者の世界、夢の中、歓迎する。
だが赤子を忘れるな。末永く、我ら、お前たちつがい、共に。
俺は深く頭を下げ、本当の獣の咆哮を天に放つ。ああ、なんという解放感か。
返す。つがい、赤子、必ず守れ。
乳母が大型獣に合った大きさのノコギリ鉈を投げ渡す。
軽く振ってみる。問題なく以前と変わらない力と動きが出せるようだ。
それ、お前と共にある、望む。故におまえ、それ、ひとつ。お前の腕。
右手首の下あたりから何か力を感じる。小アメンの腕が俺の腕と同化したようだ。
しかもエミーリアの調教用に弱体化させていたのが最強の状態にまで戻っている。変形させる感覚で軽く振ると、指がばらけて鋭い鎌のついた触手となってかつてのとおりに動く。すばらしい。
<乳母よ、あなたに感謝を。ここまでしていただいて言葉もない。必ずあなたに赤子を差し上げよう>
声を出してみると多少くぐもっているが喋れる。獣になっても喋れる狩人は複数いた。どうやら俺もそうなったらしい。乳母の厚意だろう。ありがたい。
改めて姿を窓ガラスで見てみるとローレンスや大橋にいた聖職者の獣と同じ、トナカイの頭を持つ獣人のような姿のようだ。
姿も願い通り正確に再現してくれたようだ。それだけ期待が大きいと言うことだろう。
なにしろ上位者という種族はもはや子が成せない種族故に。上位者と獣が強く混じった俺とエミーリアの子ならば上位者も子がなせる可能性がある。それ故乳母は取引に応じたのだ。
乳母が複数ある腕の一つで窓の外を指差す。かすかな揺れと悪夢の気配。
悪夢、成立した。お前たちの巣、ナメクジ、眷属、おまえたち、守る。はげめ。産み増やせ。
どうやらすでに悪夢の中に大聖堂ごと転移させてくれたらしい。場所はアメンドーズの寝所と悪夢の聖堂街の間くらいのようだ。高所にあり、眼下には毒沼と眷属の軟体生物が蠢いている。防衛設備として使えと言うことのようだ。
乳母はひれ伏すエミーリアの頭をそっと撫でて思念を送る。
赤子を産む、すばらしい信仰心。女の喜び、享受せよ。わたしに一人、残りはおまえの赤子。産むがいい。
もっともよい、すばらしい信仰。我ら上位者、総意として望む。上位者たる我々、信徒たるお前、強く命ずる。
つがえ、産め、悦べ。婚姻を受け入れるか、否か。返答せよ。
エミーリアは畏怖の恭順から恐る恐る顔を上げ、やがて救われたように涙を流し、嬉しそうな鳴き声を上げる。大きく何度もうなずき、救いを求めるかのように乳母に触れるか触れないかで手を伸ばす。
乳母はその手を慈悲深く取って、また何かの力を流し込む。
握りしめられたペンダントが床に落ちた。
すばらしい、良い。オドン、乳母、アメンドーズ、婚姻、祝福する。さあ、はげめ、つがえ。さらばだ。
エミーリアがまさに神から啓示を受けた信徒そのものの歓喜で闇に紛れ消え去っていく乳母を見送る。
聖職者たるエミーリアには神である上位者の言葉こそ絶対だ。乳母に演出を頼んでおいてよかった。
<エミーリア・・・・・・>
俺はエミーリアの髪をそっと撫でる。さてうまくいけば良いが。
振り返ったエミーリアの髪に隠れた目には隠しきれない尊敬と欲情の色が見てとれる。
<俺を受け入れるか?>
大きくうなずき、高く吠える。雄を誘う雌の声だ。もはや獣の本能としてその鳴き方がわかるらしい。
万感の思いを込めて言う。
<ありがとう、嬉しく思う、愛しいひとよ。俺を見ろ>
俺は大きく仁王立ちになり、激しく脈打ち、熱く固く、大きくなった肉棒を見せる。てらてらと濡れ光っている。
ああ、はああ、と互いに強い欲情を示す吐息と声を出し会う。ああ、すばらしい。いとおしい。
<股を開け。犬のように>
もはや互いを妨げるものはもう何一つない。欲しい、欲しい。孕みたい、孕ませたい、必ず孕む
互いにその思い一つだけとなるのがわかる。
エミーリアはおお、おおお、と高く媚を含んだ声を上げてその瞬間を待ちわびる。腰を掴み、すべての思いを込めてゆっくりとつきいれる。
熱い吐息、大聖堂を震わせるほどの二匹の歓喜の咆哮。ゆっくりと感触を味わおうと思えたのは最初の3往復だけだった。
ごお、ぐおう、ぐるるるる、とどちらともなく深い快楽の唸り声を上げて二匹の獣として激しくつがう。
高く低く、無人の大草原でするかのように誰にはばかることなくガラスが割れるほどの快楽の吠え声をあげ、ひたすら互いの性器を交わらせる。ひどくいやらしい水音が響き、大聖堂の床にバケツでぶちまけたほどのねばつく水溜まりを作った。
たまらない、すごい、すばらしい、しあわせ、きもちいいきもちいいきもちいい!
孕む孕む孕む、絶対に孕む。欲しい早く欲しい、早く孕みたい!欲しい!ああ、きもちいい!すごい!
エミーリアの意思が伝わる。すばらしい、ああ、幸福を感じるなど、一体いつぶりだろうか。
俺も今は吠え声でしか言えないが同じく伝えたいと必死に思う。
ああ、エミーリア、エミーリア!愛している!すごく良い。ああ、たまらない。愛している愛している愛している!
あなたをやっと手にいれたぞ!ああ、すばらしい。もう、持たない。出す、出す出す出す。孕め、孕め!必ず孕ませてやる!
そして、その瞬間はおとずれた。すべてが真っ白になるほどの絶頂。人のそれではなく、獣らしい長い長い射精。
快楽の塊となった肉の中を熱い子種がとめどなく溢れ出す。射精運動はいつまでも終わらず、互いに微かな恐怖とたまらない期待をもたらした。一体どこまで気持ちよくなってしまうのだろうかと。
ああ、肉が熱い。どこまでも出てくる。一回でなど抜くものか。
孕む孕む孕むきっと孕む、孕んで見せる!だから欲しい、もっともっと欲しい!
互いの気持ちがひとつになるのを感じる。大聖堂の床は風呂を何杯もぶちまけたかのようにどろどろとした精液と愛液の混じりあった淫水がたまりつつある。
俺たちは輸血液を飲み、獣血の丸薬を食べ、やがては外に出て二匹の獣となり何度もただつがった。
そして何日続いただろう。やがてエミーリアが疲れ、気を失って、死なぬように輸血してしばらくして俺も少し落ち着いた。
エミーリアの髪を撫でながら、起きるまで守り続けた。
やがて俺たちは大聖堂上層の星輪草の庭を寝所として暮らし始めた。餌となる古狩人や獣をとってきては食う。時に火で焼いて食べることもあった。獣の身で食べる人肉は人の身で味わう人血の何倍もうまかった。
狩り、食べ、眠り、交わる。
俺たちはすっかりつがいとなった。永遠の夜に安息を得ることができたのだ。
人でなしには人でなしらしい救いがあってもいいだろう。まともな者には悪いが、幸福を願うことは罪ではないはずだ。
願わくばこの夜の永遠につづくことを。そしてまだ見ぬ我が子の生まれる夜が来ることを。
続き書きます。すべて「」のおかげだった
次は聖歌隊×星の娘です