アンジュ・ヴィエルジュR-18短編集 作:闇のアルドラおじさん二号
・比較的長いです
・その割にはエロ要素が少ないです(全体の1/3もありません)
・本番要素がありません
↑にある通り、今まで書いた話と少し雰囲気が異なると思います。
また、以前上げた兎莉子が獣姦する話とは、一切関係が無い内容となっております。
パラレルワールド万歳。
時系列的には美海世代がまだ1年生の時の話です。
それでは、よろしくお願いします。
空が橙色に染まった夕暮れ時、俺は自分の教室に向かっていた。
これから自分がやろうとしていることを考え、胸の鼓動が早くなるのが分かる。
このまま踵を返してどこかに行ってしまいたいが、そんな訳にもいかない。もう後には引き返せないのだ。
教室の前に着く。
深く息を吐き、意を決して扉を開けると、教室内にはすでに少女が一人居た。というよりも、俺が彼女を呼び出して来てもらったのだ。
俺が来たことに気付いたのか、白糸のような髪を靡かせて少女はこちらを振り向く。
「こんな時間に呼び出して、どうかしましたか?」
言葉に詰まる。なけなしの勇気が今にも消えそうだ。
少女の目の前に立ち、何とか言葉を繋ぐ。
「来てくれてありがとう。あっ、あの」
「はっ、はい」
緊張の為か、声が震えてしまう。
夕日に照らされたのか、目の前の少女の顔にも赤みが帯びる。
「俺、俺は、あなたのことが……ずっと」
ピピピピピピピピピピピピ。
場違いな程にけたたましいアラームの音が聞こえる。
次いで、目の前に写った光景は白い髪の少女ではなく、ただの白い天井だ。
叩きたくなる衝動を抑えつけて、目覚まし時計のやかましいアラームを止める。
そして襲ってくる激しい自己嫌悪。
夢だ。ああそうだ、夢だ。芸の無い夢オチだ。
もう一度眠って夢の続きを見てみたくはあったが、所詮は夢だと空しくなり、諦めて学校へ向かう準備を始める。
制服に着替え、寮の食堂で朝食を取っていると、向かいの椅子に誰かが座りだした。
「おうおう、おはようさん。前に座るよっと」
同じクラスの男だった。名前は大松。
青蘭学園のαドライバーで、一応友人関係である。
別に対面に座ること自体は構わないが、普通は声をかけてから座るべきだろう。
「おはよう」
「何だ何だ。今日はいつにも増して不機嫌だな。何かあったのか?」
朝食とは思えない量の食事を掻き込みながら、大松は話しかけてくる。
「別に不機嫌じゃないよ。まあちょっとした夢を見たというか」
「夢? 夢というとあれか、思春期男子特有のエロスなあれか」
俺はもうほとんど食事を終えているからまだマシな方だが、どうしてこの男は朝の食事中にこんな話が出来るのだろうか?
「まあそんな夢を見るのも仕方ないよな。何せ、俺らの学校は美少女揃いだもんな。くー、たまんねえよなあ」
何も言っていないのに勝手に話を進めてくる。
「なあなあ、夢の相手は誰だったんだ。やっぱ一組の遠薙さんか? それとも隣のクラスのリゼリッタさんか?」
「いや、そもそもそういう夢じゃないんだけど」
「またまた、隠すなって。あっ、もしかして相手はあれか。お前と仲の良い……」
「だから違うって言ってるだろ!」
思わず声が大きくなってしまった。
大松は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしており、周囲からは訝しげな目で見られる。
取り繕うように小さく咳払いをして、表情を柔らかくする。
「悪い。大声出して」
「あっ、いやいやいや。俺も悪かったよ、ごめんな。それで、どんな夢を見たんだよ」
「……髪の長い女がテレビから出てきて追いかけられる夢だよ。じゃあ、俺はもう学校に行くから」
「えっ、ちょっ。ここは友人を待ってくれるとか、そういう心遣いを見せる時では」
「その大量の飯が片付くのを待っていたら遅刻するよ」
後ろから聞こえてくる恨みがましい声を無視して、食器を返却する。
自分の部屋に戻り、細々とした準備を終えて、俺は学校へ向かった。
今朝に見た夢の内容といい、朝っぱらから怒鳴ってしまったことといい、どうにも気落ちすることが続く。
だが、悪いことばかりが続いたわけでも無かった。
若干憂鬱な気分で学校へ向かう道を歩いていると、目の前に見知った少女が歩いていた。
その姿を見ると、鬱々とした気分は消え去っていく。
軽い呼吸を何度か繰り返して、俺は少女に声をかけた。
「やあ、おはよう。生嶋さん」
「ひっ」
ビクッと肩を震わせながら小さく悲鳴を上げ、おそるおそるとばかりに少女はこちらを振り向く。
瞳も怯えた様子であったが、僕の顔を見るとホッと息を吐き、はにかみながら挨拶を返してくれた。
「あっ、えっと。おはようございます」
「ごめんね、驚かせて」
「いえ、大丈夫です。すみません、話しかけてくれたのに怯えちゃって」
「いやいや、気にしないよ」
そうして、俺は少女と並んで学校へ向かう。
彼女の名前は
青蘭学園に通う、同じクラスの女生徒で、例に漏れずプログレスだ。
「動物との会話や、動物に力を与えることが出来る」能力を持つ。
雪のように真っ白な髪に大きな黒いリボン、髪と同じくらいに白い肌をしていて、性格は非常に穏やか。
彼女の右肩には今も小鳥が一羽乗っている。
その容貌や柔らかい雰囲気から、白雪姫や眠り姫などの童話に出てくるお姫様が、そのまま現れたかのような印象を受ける。
そんな動物好きで心優しい生嶋さんは、しかしどうにも引っ込み思案で、いつもオドオドとしている。
俺も初めて話しかけた時は、彼女が途中で逃げ出してしまい、会話が最後まで続かなかった。
しかし、何度も話しかけている内にだんだんと打ち解けてくれたのだろうか。
今では多少ぎこちないながらも、普通に会話が続くようになった。
……そして。この少女は今朝の夢に出てきた少女とそっくりの外見をしている。
いや、違う。夢に出てきた少女が生嶋さんにそっくりなのだ。
はっきり言ってしまうと、俺は生嶋さんに好意を抱いていた。
最初は一目惚れだった。
その外見に惹かれ、何とか仲良くなろうと話しかけていた。
だが、少しずつ彼女のことを知っていく度に、不器用ながらも相手を深く思うことの出来る優しさや、臆病な様子からは想像できない挫けない心。
そういった彼女の内面にも惹かれだしたのだ。
何とかこの思いを告げたいといつからか考え始めたが、今の関係が壊れてしまう可能性を考えてしまい、何も出来ずにいる。
その反動か、あんな夢まで見てしまう始末だ。
生嶋さんにも申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
他愛も無い話をしながら歩いていると、学校に着いた。
「えへへ、今日もお互い良い一日になると良いですね」
「そうだね。それじゃあ」
「はい。また」
教室に入り、俺達はそれぞれの席に着く。
生嶋さんとはクラスメート兼友人として仲良くやれていると思いたいが、教室内で大っぴらに仲良くするほどの関係でもない。
席も離れているので、そこまで頻繁に会話をすることも無かった。
もっと親密になることが出来れば、今のような状況も変わるだろうか。
自分の席で携帯電話でも弄ろうと制服のポケットに手を入れたが、何も入っていない。
朝に色々とあった為か、どうも寮に忘れてしまったようである。
まあ、無いなら無いで別に構わない。
「携帯」電話なのにおかしな話ではあるが、学生にとってはそんなものである。よっぽどのことでも無い限り、緊急性のある連絡など来ないのだ。
俺は鞄に入れていた本を読んで、朝のホームルームが始まる時間を待つことにした。
本を読みながら、目線だけを生嶋さんの方に少し向ける。
彼女は明るいクラスメートの女生徒に話しかけられて、しどろもどろに対応していた。
あれでも、青蘭学園に入学した頃に比べると、随分コミュニケーションを取れるようになっている。
この調子で、上手くやれると良いが。
ぼんやりとそんなことを考えていると、後ろからよく通る声で話しかけられる。
生嶋さんではないけど少し驚いた。今度から、後ろから話しかけるのは控えた方が良いかもしれない。
振り向くと、真っ赤な髪の少女が自らの席に座ろうとしていた。
「おはようございます。今日も良い天気ですわね」
「ああうん、そうだね。おはよう」
生嶋さんと話していた時から二段階ほど声のトーンを落とし、挨拶を返す。
彼女はフェルノ・ガーディーヴァさん。
「赤の世界」からやって来た戦乙女である。
基本的には真面目で良い人ではあるが、色恋沙汰関連の話になると何故か急に盛り上がり、その時は基本的に話を聞いてくれない。
そしてフェルノさんの様子を見る限り、そういった話をしようとしているのが分かる。
「うふふ、見てしまいましたわ。この私、フェルノは見てしまいましたわ」
「えっと、何を」
「ふっふっふ、何を隠すことがありましょう。勿論、あなたと兎莉子ちゃんが仲睦まじそうに登校していたところですわ。私、ずっと後ろから見ていましたわ」
ずっと後ろから見ていたのか。正直怖い。
「声が大きいよ」
「あら、淑女として恥ずかしいですわ。申し訳ありません」
そう言いながらも、彼女の瞳は未だに爛々としている。
俺はそれとなく周囲を観察したが、幸運なことに今の会話を誰にも聞かれなかったらしい。
「それにフェルノさん。別に俺と生嶋さんはそういう関係じゃ……」
「あらあらあら。あなたが兎莉子ちゃんの虜でぞっこんだということは、恋の達人戦乙女と呼ばれたこの私には、まるっとお見通しですわよ」
「いや、だからさ」
彼女の言葉は止まる様子を見せない。
こういった応酬も何度目だろう。妙に話を聞かない人が多いのはどうしてだろうか。
「それなのに。あなたときたら。未だに兎莉子ちゃんのことは名前で呼ばずに名字でお呼びになるのですわね。私のことは名前でお呼びになるというのに」
以前、自分のことは名前で呼べと言ってきたのは、フェルノさんの方では無かっただろうか。
「だから私は思うのですわ。あなた達に必要なのはきっかけですわ。きっかけ一つで距離をぐっと縮められる筈ですわ」
「きっかけ、ね」
恋の達人を自称するだけあって、その言葉にはどこか説得力があった。つい耳を傾けてしまう。
「例えば、不安定な吊り橋に二人で行くですとか。館で起きる殺人事件を二人で解決するですとか。きっかけなんて些細な物ですわ」
「それって些細なのかなあ」
「ともかく、何にせよきっかけですわ。アプローチあるのみですわ」
その言葉には一理あるように思えた。
きっかけを求めてアプローチをするというのも、一つの手かもしれない。
「まあ、頭の隅には入れておくよ。どうもありがとう」
「礼には及びませんわ。このフェルノはいつでも恋する女の子の味方ですわ」
俺は男なんだけどね。
やはりフェルノさんの言うことは、あまり真に受けない方が良さそうだ。
午前の授業が全て終わり、昼休みになった。昼食時だ。
いつものように大松と昼食を取ろうかと考えたが、朝の話を蒸し返されそうな気もしたので、止めておくことにした。
たまには一人で過ごすのも良いだろう。
せっかくなので、外でのんびりと食事をすることにした。
パンの入った袋を片手に、どこへ行こうかと考えたが、すぐに一つのスポットを思い出した。
以前、生嶋さんに教えてもらったことがある。
この学校の校舎の裏側には、やや大きめの小屋があり、その中には何羽かのウサギが入っている。
有体に言ってしまえば、学校が管理するウサギ小屋だ。
だが、ただでさえ広い敷地内の、辺鄙な場所に小屋がある為か訪れる人は少ない。
せいぜいウサギをスケッチや写真の題材にする生徒か、ウサギを世話する教職員くらいしか来ないのだ。
一人でウサギを眺めながら、食事をするのも面白いかもしれないと考え、俺はウサギ小屋の方へ向かうことにした。
ウサギ小屋の前に着くが、やはりというか人は一切いない。かえって気楽である。
小屋の金網越しに見えるウサギを正面に見据え、黙々とパンを食べる。
ここには片手で数えるほどしか来たことがないが、こうして見ているとウサギも可愛いものだ。
じっと小屋を見ていると一羽のウサギと目が合うが、残念ながらウサギが何を思っているのか、俺には全く分からない。
生嶋さんがいれば話は別だろうが。
そんなことを考えていると、足音が聞こえてきたのでそちらを向く。
すると、何と生嶋さんがこちらに向かって歩いてきた。
その手には弁当と思わしき、風呂敷を持っている。
彼女も他に誰かがいると思っていなかったのか、少し驚いたような表情を浮かべた。
「あっ、あれ。珍しい場所で会いますね。どうかしましたか」
「あはは。たまにはウサギでも見てみようかと思って」
一人になりたかったと言うのは気恥ずかしかったので、黙っておくことにした。
「そうなんですか。実は、私もなんです」
生嶋さんは照れくさそうに笑う。
少し頬が赤らんでいることも相まって、可愛らしい笑顔だった。
「あの、良ければご一緒しても良いですか?」
おずおずと尋ねてきた。
勿論、俺には断る理由は何一つない。
「勿論だよ」
「えへへ、ありがとうございます。隣、失礼しますね」
きっちりと確認を取って座る辺り、大松とは違う。
比較するのも生嶋さんに失礼なことではあるが。
隣に座った生嶋さんが薄いオレンジ色の風呂敷をほどくと、小さな弁当箱が出てきた。彼女が自分で作ったのだろうか。
箱の中身も色彩豊かで、あまり栄養などに詳しくない俺でも体に優しそうなことが分かる。
「そのお弁当って自分で作ったの?」
「は、はい。お料理、好きなので」
「凄いなあ。俺はパンとか寮の食堂の食事しか食べないからさ。きちんとお弁当を作る人を尊敬しちゃうよ」
この言葉は嘘ではない。
住んでいる寮に台所がないこともあるが、仮にあったとしても、俺が料理を自分で作るとは思えないからだ。
「そ、尊敬なんて。私にそんな、勿体ないですよ」
そう言いながらも、どこか嬉しそうに顔をほころばせる。
その可愛らしさに、俺も思わず顔を緩ませると、生嶋さんが弁当箱をこちらに付きだしてきた。
「あ、あの、良かったらこれ、少し食べませんか?」
「い、いやそんな。悪いよ。何より、俺は箸を持ってきてないし」
とても魅力的なお言葉ではあったが、彼女の弁当を手づかみで食べるのも悪い気がしたので、泣く泣く断ることにした。
だが、生嶋さんは思いもよらない行動に出た。
「でしたら。その、お口を開けてください」
意図は不明だが、言われるがまま口を開ける。
すると、生嶋さんは箸で卵焼きを一つ掴み、俺の口元へ寄せた。
これはまさか、あれであろうか。
「これで、だ、大丈夫です。食べてください」
「いやいやいや、大丈夫じゃないよ。だって、これってその……」
断腸の思いで断ると、生嶋さんは大きな青い目をゆっくりと下に向けた。
「やっぱり、私とじゃ嫌ですよね。ごめんなさい」
参った。こんな悲しそうな顔で言われ、これを断ることが出来る男は果たして世に何人といるだろう。
「嫌じゃない、嫌じゃないから! えっと、では、いただきます!」
なるべく箸に俺の口が付かないようにしながら、慎重に卵焼きを咥え、口に入れた。
ふわふわした卵焼きを噛むと、中から甘い味のだしが口に広がり、噛めば噛むほどうま味がほとばしる。
あっという間に腹に入ってしまったが、もっと味わえばと後悔する程だった。
贔屓目を除いても、本当に美味しい。これはそこらの卵焼きでは太刀打ちできないだろう。
「お味はどうですか?」
「美味しい。本当に美味しいよ。こんなに美味しい卵焼きを食べたのは初めてかもしれない」
「お、大げさですよ。でも、喜んでくれたなら、良かったです」
生嶋さんははにかみながら視線を地面の方にそらした。
緊張のせいか、言葉が上手く出てこない。
生嶋さんも同じなのか、恥ずかしそうに俯いて弁当を食べていて、一言も喋らない。
お互いに微妙な雰囲気になり、それから中々会話が起こらなかった。
俺は沈黙を誤魔化すように小屋のウサギを見つめ続ける。
……それにしても、妙に目が合うな。何か言いたいことでもあるのだろうか。
「あの。あの……」
ふと気が付くと、生嶋さんから声をかけられていた。
どうやらしばらく呼びかけられていたらしい。慌てて彼女の方を見る。
「ウサギさんのこと、ずっと見ていますけど、どうかしましたか?」
「あー、うん。あのウサギとずっと目が合うから、何か言いたいことがあるのかな、なんて思ってね」
「良ければウサギさんに聞いてみましょうか?」
どうやら、エクシードを使って翻訳してくれるらしい。
「良いの?」
「勿論です。任せてください」
自分のエクシードを活かせるからか、生嶋さんの声にはどこか自信がこもっていた。
そのままウサギ小屋に近づき、金網越しに話しかけ始めた。
幸運にも、ウサギのおかげで気まずい雰囲気も何とか拭えたようである。
「ウサギさん、どうしたの?」
生嶋さんは普通の日本語で喋りかける。
対して、ウサギはぷうぷうと笛のような音を鳴らしている。
これだけを見ると、全く意思が通じているとは思えない。
だが、実際にこれで会話が出来ているのだから、エクシードとは不思議な物だと改めて思う。
しばらくそんなやり取りを繰り返すと、会話が終わったのか、生嶋さんはこちらに戻ってきた。
さっそく、ウサギ語(?)の翻訳結果を聞いてみる。
「あの、ウサギさんに餌や水をあげる人が、最近小屋を全然掃除してくれないみたいです」
うん、うんと相槌を返した。
「小屋が汚くて落ち着かないから、掃除をしてほしいって言っていました」
「へえ、ウサギもそういうことを気にするんだ」
「はい、ウサギさんって実はとっても綺麗好きなんですよ」
知らなかった。
生嶋さんのこういった知識の豊富さは、流石と言うべきだろう。
「今からはちょっと時間がありませんから、難しいですけど。放課後になったら小屋を掃除することにします」
「ここを?」
「はい。時間はかかっちゃうかもしれませんけれども、ウサギさんの頼みですから」
ウサギに頼まれた(生嶋さんがそう言っているのだからそういうことにする)からとはいえ、率先して掃除を引き受けようとする辺り、やはり彼女は心優しい人なのだろう。
掃除を……と言いかけたところで、改めて小屋を見る。
確かにウサギが入っているからウサギ小屋ではあるが、数羽のウサギを飼う為の物にしては、無駄に広さと高さがある。
これを一人で掃除しようとするのは大変ではないだろうか。
「ここを掃除するのは大変そうだし。良かったら、俺も手伝おうか?」
フェルノさんの言葉を全面的に信じるわけでは無いけれども、これが生嶋さんとの関係において、何かのきっかけになることも否定できない。
それに、そんな損得勘定を抜きにしても、流石に放っておくにはしのびなかった。
「ええっ、良いんですか。でも、ご迷惑じゃないでしょうか……」
「いいよいいよ。さっきお弁当を貰ったし、生嶋さんはブルーミングバトルでもいつも俺とチームを組んでくれるしね」
「そんな……チームを組んで貰っているのは私の方で……」
「とにかく。困ったときはお互い様だからさ、手伝わせてよ」
少し大げさな身振り手振りを交えながら、助けになりたいという意思を示す。
「そう言ってくれるのでしたら、その、お願いします。あの、ありがとうございます」
生嶋さんは花が咲いたような、ぱあっとした笑顔を浮かべる。
打算込みの提案をしたこちらが申し訳なくなるような、明るい笑顔であった。
まあ、喜んでくれているのだから、問題ないだろう。
放課後にウサギ小屋の前に集まることを約束して、俺達は教室に戻った。
今日の最後の授業とホームルームが終わり、放課後の時間になった。
教科書やノートの類を鞄に詰めていると、大松がこちらへやってきた。
「よう、やっと終わったな。帰ろうぜ」
いつもならこのまま帰りながら、どこかへ寄り道をするのであるが、あいにく今日はそういう訳にもいかない。
「ああ、悪い。今日は用事があるんだ」
「えー、何だよ、その用事って。まさか女の子と約束があるとかじゃねえだろうなあ」
「あーっと……」
上手い言い訳が思いつかず、言い淀んでしまう。
すると、フェルノさんがこちらに話しかけてきた。
「あら、大松君。彼は先生に職員室へ呼び出されていましたわ。先生は怒っていらっしゃるみたいでしたから、長くなりそうですわよ」
何故かフェルノさんが助け舟を出してくれた。
意図は不明だが、ありがたく俺はその嘘に乗らせてもらう。
「そうなんだよ。さっきの授業で寝てたからかな、ははは。そういうことだから、待たせるのも悪いし、先に帰っていてくれよ」
「そうなのか。お前も運の悪い奴だな。だったらフェルノさん、一緒に帰ろうぜ」
「申し訳ありませんが、私にも用事がございますので一緒に帰れませんわ。それに、大松君と帰ったら、お友達に噂をされてしまいますわ」
この戦乙女はどこでそんな言葉を覚えたのだろう。
「どういう意味だよ。二人に振られちまったよ、チクショー。それじゃあ俺は一人で寂しく帰りますよっと」
不貞腐れたように教室を出て行った。
俺はフェルノさんに助け舟を出してくれたことに感謝をする。
「さっきはありがとう。でも、何で俺が先生に呼ばれた、なんて嘘を言ったの?」
「礼には及びませんわ。あなたは何か大切なご用事があるみたいでしたし、たまたまですわ。それでは、私もこれで失礼しますわ」
そう言って、フェルノさんも教室を出て行った。
弓の稽古でもするのだろうか。
少し気になるが、俺も早くウサギ小屋へ向かわないと、生嶋さんを待たせてしまう。
すぐに目的地へ行くことにした。
トイレで体操服に着替え、ウサギ小屋へ行くと、生嶋さんはすでにジャージ姿で小屋の前に立っていた。
どうやら待たせてしまったらしい。小走りでそちらへ向かう。
「お待たせ。ごめんね、待たせちゃって」
「大丈夫ですよ、私も今来たところです。では、始めましょうか」
小屋の扉に付いている金具で作られた閂を動かし、中へ入った。
中に入ると、フンや毛、エサの残りカスなどがあちこちに落ちていた。
外からは分かり辛かったが、これは確かに綺麗とは言い難いし、ウサギも落ち着かないかもしれない。
中が広いので作業量はそれなりにありそうだが、二人いることだし、二時間もあれば綺麗になるだろう。
ウサギを小屋のケージ内に入れて、俺達は掃除を始めた。
掃除を始めてから一時間くらい経っただろうか。
元々慣れているのか、生嶋さんの指示を仰ぎながら掃除をしていると、スムーズに作業が進行した。
これならば、後一時間もしない内に終わりそうだ。
袋に入れ集めたフンなどを、学校のゴミ捨て場へ持っていく。
小屋に戻り、中に入ると生嶋さんが一羽のウサギを抱いていた。
「……せつな……もだちで……さしくて……」
内容はよく聞き取れないが、どうやら何かを話しているらしい。
生嶋さんはジャージ姿だというのに、その光景はまるで童話のお姫様の登場シーンを切り取ったような、そんな印象を受けた。
とても絵になっている。
ついついじっと見つめていたが、俺が帰ってきたことに気付いたのか、小さな悲鳴を上げた。
「わっ、ご、ごめんなさい。手伝ってもらってるのに、私がサボってるなんて……」
別に生嶋さんがここを掃除をすることは義務では無いのだから、そこまで申し訳なさそうにしなくても良いのだが。
「気にしなくて良いよ。ところで、何か話しているみたいだったけど、何を話していたの?」
「えっ、そ、それは……こ、小屋が綺麗になって、ウサギさんが喜んでくれているのか聞いてみました」
「そうなんだ。それで、どうだったの?」
「は、はい。とても喜んでくれているみたいです」
それは良かった。
まあ、様子を見る限り、他に別のことも話していたみたいだが。
本人も言いたくなさそうなので、あまり突っ込むのも野暮だと思い、それで話を打ち切って掃除を始めることにした。
……俺の悪口ではないことを祈りたい。
さらに三十分ほど経った。
小屋はすっかり綺麗になっている。
後は、今集めているゴミを袋に詰めれば終わりだ。
結局、フェルノさんが言うところのきっかけは全く無かった。
とはいえ、生嶋さんと二人きりの時間を長く過ごせたし、多くを望むのも贅沢だろう。
そんな、ちょっとした幸せを噛みしめていると、生嶋さんがおそるおそるといった様子で話しかけてきた。
「あっ、あの、えっと、その……」
「ん、どうかしたの?」
「あの……」
妙に声が小さい。顔もどこか苦しそうで、足をもじもじと動かしている。
その様子に思い当たることがあったので、俺は一つの提案をすることにした。
「あー、生嶋さん。さっき、ウサギの水を入れる容器を見てみたら、空になってたんだ。エサやりの人がいつ来るか分からないし、このまま喉を乾かせるのも気の毒だから、申し訳ないんだけど水を貰ってきてくれないかな」
実際のところ、水はまだ少しあったし、仮に無くなっていたとしても生嶋さんが気づかない筈も無いだろう。
まあ、建前という物は大事だ。
「あ……分かりました、行ってきますね。その、ありがとうございます」
「別にお礼を言われるようなことじゃないと思うけど」
そう言って、小屋の扉を開けようとする。
その時だった。ゴオオオと激しい音が聞こえ、すぐさま凄まじい突風が巻き起こった。
頑丈に作られていそうな小屋も、ミシミシと音を立てている。
「止めて止めて止めて止めてー」
そんな声が一瞬だけ聞こえてきた。
声が聞こえなくなってからも、しばらく風は吹き続けていたが、やがてそれも収まった。
「今のは美海ちゃんでしょうか」
「うーん、そうかもね。またエクシードが暴走してるのかな」
苦笑いを浮かべながら、再び扉を開けようと手を伸ばした。
ガッ、と音を立て、扉はびくともしない。
「は?」
つい、声が出てしまった。
開け方を間違えたのだと思い直して、扉を引いてみたが、開くことは無い。
そのまま前後に動かすも、やはり扉はガチャガチャと音を立ててびくともしなかった。
まさか、さっきの突風で閂がかかってしまったというのか。
いくら風が強かったからと言って、閂がかかることなんてありえるのだろうか。
だが、実際にかかってしまったのだから、そんなことを考えても仕方がない。
「あ、あの、どうかしましたか?」
俺の様子を見て、不安そうに生嶋さんが尋ねてくる。
「いや、扉が開かなくて……」
え、と呟く生嶋さんの顔に陰が帯びる。
俺は慌てて微笑み、大仰に振る舞った。
「ははは、まあ大丈夫。携帯電話で誰かを呼んで、開けてもらえば良いよ」
大松でも呼んで、助けを願えば良いだろうと考え、ポケットに手を入れる。
だが、ポケットには何も入っていなかった。
そういえば、今朝は携帯電話を忘れたから本を読んでいたのではないか。
大丈夫と言った手前、携帯電話が無かったと告げるのは少々気が引けたが、仕方がない。
生嶋さんの携帯電話で誰かを呼んでもらえば良いだろう。
「ごめん、生嶋さん。携帯電話を忘れちゃったみたいでさ、悪いけど生嶋さんの携帯電話で誰かを呼んでくれないかな?」
「……てないです。」
その声はか細く、聞き取れなかったので、もう一度聞き返す。
「その、本当にごめんなさい。私、携帯電話を持ってきてないです」
「も、もしかして生嶋さんも家に忘れちゃった?」
「……携帯電話を持ち歩く習慣が無くて。私、こんなですから、連絡先を知っているのがお父さんとお母さんしかいなくて。ごめんなさい、ごめんなさい」
そう言って、俯いてしまった。
生嶋さんは引っ込み思案ながらも、本人なりに一生懸命、何とか人と接しようとしていた。
だが、彼女にとって人から連絡先を聞くことは、まだまだ大変なことだったようだ。
何とか彼女を慰めようとする。
しかし。ここには人も滅多に来ない。
そして、外部に連絡を取る手段も無い。
生嶋さんの不安をこれ以上煽らないようにする為、口には出さなかったが。
これは、閉じ込められてしまったということだろうか。
それから三十分くらい経つ。日も傾いてきた。
結局、閉じ込められてから、誰一人としてここに来なかった。
何度か大声を出して助けを求めてもみたが、人は一向に現れない。
また、声が生嶋さんのお腹に響いて苦しそうだったので、声を出すのは止めた。
小屋を蹴破って、外に出ようともした。
しかし、小屋の耐久性が高いのか、何度試しても一向に破壊できそうに無かった。
結局、万策尽き、俺達はじっと誰かが来るのを待つことにした。
小屋の壁にもたれかかって座っている生嶋さんの顔は、見ているこちらが辛くなるほど蒼ざめている。
言葉を発しようともしない。そろそろ限界が近づきつつあるのだろう。
何とか、小屋を出る方法は無いだろうか。必死に考えるも、全く考えが思い浮かばないでいた。
非常識的なことが立て続けに起こるのは、そういう日だからなのか、それともここが青蘭学園だからなのか。
頭を捻っていると突然、爆発音にも似た轟音がどこかから聞こえてきた。
音の大きさだけならば、先ほどの突風が吹いた時よりも遥かに大きい。
驚いて、反射的に音が鳴った方向を向く。
「セニアーどうしてなのでございますかー」
そんな声も聞こえてきた。
俺の全く知らない所でも、何かが起こっているらしい。
「ははは、何があったんだろうね」
気休めがてらに呟き、生嶋さんの方を向く。
だが、見えたのは、予想通りとも予想外とも言える光景だった。
生嶋さんのお尻の周りは水でいっぱいになっていた。
顔を上げている彼女の顔は、起こってしまった事態に呆然となっている。
おそらく、轟音が引き金になったのだろう。
「私、音に驚いて。それで、それで……うう、うう」
途端に彼女の目に涙が浮かぶ。恥ずかしさで涙が出てしまったのだろうか。
「あ、ああ、えっと。とりあえずさ、濡れた所を拭こうよ。寒くなってきたし、濡れたままだと風邪を引いちゃうよ。俺、ティッシュなら持ってるからさ」
ティッシュを差し出しながら、なるべく普段通りのトーンで言う。
だが、彼女は一向に泣き止む様子を見せない。
「ううっ……ヒック……えっぐ……」
また顔を俯かせてしまう。
「ズッ……あなたにこんな姿を見られて……」
「俺は全然気にしてないよ。ずっと我慢をしてたんだから、仕方ないさ」
「えぐ……せっかく仲良くなれたのに。嫌われちゃう……ひっぐ」
「これくらいで生嶋さんを嫌いになんてなる訳ないじゃないか」
青蘭学園に来てから、ずっと好きだったのだ。
その言葉に嘘は無いつもりだ。
「でも、あなたは優しいから……こんな私とも仲良くして、友達になってくれようとするくらい、優しい人だから……そう言ってくれるんですよね……」
声は途切れ途切れで、視線を全く合わせようとしてくれない。
生嶋さんと初めて出会った頃のようだ。
……いや、その時ですら、ここまで卑屈ではなかった。
「私なんて、弱くて、一人じゃ何も出来なくて。エクシードだって大したことなくて、臆病で……」
生嶋さんは、自分を卑下する言葉を延々と呟く。
本人に悪意は無いのだろう。
ただ、自分を呪いたくて仕方がないだけだろう。
俺は。
俺は。
筋違いなことだとは思うけれども。
無性に腹が立って仕方が無かった。
「いい加減にしろよ!」
怒りが口に出てしまう。
生嶋さんはぽかんとしている。
そういえば、生嶋さんに怒鳴ったことなど一度も無かった。
「何で俺が生嶋さんを嫌いになるなんて決めつける。どうして生嶋さんはそんなに自分のことを卑下するんだ。君みたいな優しくて可愛くて素敵な女の子、好きになっても嫌いになることなんてないに決まってるだろ!」
言葉が止まらない。
感情の堤防が決壊してしまったような錯覚を覚える。
生嶋さんの涙はいつの間にか止まっていた。
「生嶋さんは自分の素晴らしさを分かっていない。ウサギにお願いされたからって、放課後の時間を誰もやりたがらない掃除に使う女の子なんてどこにいる。それに、たしかに生嶋さんは人と接するのが苦手みたいだけど、その苦手を何とか克服しようとしてる強い女の子じゃないか。俺と話してる時だって、いつも俺のことを立ててくれる。知ってる? 他のアルドラはどうか知らないけど、俺と生嶋さんのリンク率は他のプログレス達よりもずっと高いんだ。そういえば、料理も上手かった。何て家庭的なんだ」
「あ、え……」
生嶋さんの顔はどんどん真っ赤になっていく。
「大体、俺のことを優しいと言ってくれたけど、俺はそんなに善人じゃないぞ。掃除を手伝っているのだって、生嶋さんと二人きりになりたかったからだ。ブルーミングバトルの時だってそうだ。会ってから一目惚れだったんだ。ずっとずっと悶々としてたんだ。今朝なんて生嶋さんが夢に出てきたくらいだ」
頭に登った血がだんだん下りてきた。
話が脱線しているのが分かる。俺は何を言っているんだろう。
が、この機会を逃してしまったら、多分もう思いを告げる機会は無いだろう。
どうせ後悔するならば、やって後悔した方が良い。
勢いに任せて最後まで言ってしまうことにした。
「そんな生嶋さんが俺は大好きなんだ。だから、だから。そんな悲しいことは言わないでくれよ。お願いだから、生嶋さんが生嶋さん自身のことを悪く言わないでよ」
捲くし立てていたせいで喉が痛い。
全てを言い切ってしまった後、居た堪れなさから、俺は生嶋さんから目を背けた。
そして襲ってくる激しい自己嫌悪。
今日だけで二度目である。学習をしていない。
無言の時間が続き、時折ウサギの鳴き声だけ聞こえてくる。
見ないようにしていたけれども、生嶋さんは渡したティッシュでちゃんと濡れた部分を拭きとったようだ。
今、彼女は何を考えているのだろう。
やはり、拒絶の言葉だろうか。
「本当に、私のことが好きなんですか?」
突然、生嶋さんは小さく呟いた。
俺はすぐに首を縦に振る。
「でしたら、こちらに来てくれませんか」
ゆっくりと近づき、体育座りをしている生嶋さんの目の前に座る。
すると、彼女は手を俺の肩の辺りに回し、そのまま俺を自らの体に抱き寄せた。
体の柔らかさにドキリとなる。
「ふふふ、あなたも怒ること、あるんですね。私、知りませんでした」
「俺は怒鳴ってばかりだよ。ごめんね、あんな大声出して」
生嶋さんはゆっくりと首を横に振った。
「ううん、良いんです。私と真っすぐ向き合おうとしてくれて、本当に嬉しかったんですよ。だから、私もちゃんとあなたと向き合いますね」
少しの間が空いた。
生嶋さんの視線は俺の目を捉え続けている。
「私も、あなたのことが好きです。こうして、あなたの傍にいたいんです。一緒に、いてくれませんか?」
「うん。生嶋さんがそう言ってくれるなら、俺は傍にいるよ」
俺も彼女の背中に手をやった。
体を密着させ、そのまま抱き合う。
そして、どちらからということもなく、唇を重ね合わせた。
しばらく、俺達は抱き合っていた。
その間、誰一人としてこちらには来なかった。
生嶋さんの顔はどこかうっとりとしている。
俺も、憧れの女の子に近づくことが出来て、幸せな気分だった。
だが、困ったことがあった。
生嶋さんの息遣いや匂い、体の柔らかさをはっきりと感じ取れるくらいに体を密着させているせいで、俺の一物が反応してしまったのだ。
ズボン越しとはいえ、はっきりと生嶋さんの膝から太股にかけて当たってしまっている。
そして悪いことに、当たっているという事実がさらに俺を興奮させてしまい、縮む様子は一向に無かった。
生嶋さんも異物に気付いているようで、時々目線が下の方にチラリと動いている。
「あああ、あの、足の方に当たってる物って……その……」
やがて、耐えきれなくなったのか、顔を真っ赤にして尋ねてくる。
純粋そうな生嶋さんのことだから、異物の名前を口に出せないのだろう。
「ごめん、そんなつもりは無いんだけど。とりあえず離れるよ」
少々名残惜しかったが、すぐに生嶋さんから離れた。
一度大きくなってしまった一物は、中々治まりそうにない。
距離をとってからも、生嶋さんの視線は俺の顔と、股間の辺りを上下している。
そんなにまじまじと見られると、治まる物も治まりそうにない。
「お、男の人がそこを大きくするのって、興奮したからなんですよね?」
「そうだけど。これは生理現象だし、俺は生嶋さんに嫌らしい気持ちを持ったことは決してないから……」
つい嘘を吐いて見栄を張ってしまう。
勿論、生嶋さんを安心させようとしたということもあるが。
「私に、興奮したんですか?」
「ま、まあそうといえばそうなんだけど」
生嶋さんから責められているような感覚を覚える。
実際、抗えない生理現象の一環とはいえ、責められても仕方のないことではあるのだが。
だが、生嶋さんの反応は、俺が予想した物と全く異なる物であった。
「えっと、一度大きくなってしまったら、出さないと男の人は苦しいって聞いたことがありますし……私で良ければ、出すお手伝いをしましょうか?」
一瞬、頭が真っ白になった。
何を言われているのか、全く理解出来なかった。
生嶋さんは立ち上がり、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
対して、俺は彼女に射竦められたかのように、動けないでいた。
「生嶋さん、落ち着いて。別に、苦しくて仕方が無いという程でもないよ。何より、生嶋さんだってそういうことをするのは嫌だろう?」
「え、遠慮しなくて良いんですよ。あなたが苦しくなっているのは、私にとっても辛いですから」
俺の話を全く聞いていない。
異常な事態が続きすぎて、正常な判断が出来なくなってしまっているのだろうか。
そうこうしている内に、生嶋さんは俺のすぐ目の前に来ると、そのまましゃがみ込んだ。
「脱がせるのは恥ずかしいですから、ズボンを脱いでくれませんか?」
「こんな所、誰かに見られたらまずいよ」
「でも、今まで人は全然来ませんでしたし。それに、誰かが来たら二人ともここから出られるんですから、大丈夫ですよ」
それは確かにそうなのだが、それを大丈夫と言ってしまって良いのだろうか。
万が一誰かに見つかったら、間違いなく二人とも処分が下るだろう。
俺はともかく、生嶋さんが罰せられるのはよろしくない。
けれども、ここに全然人が来ないのは事実だ。
来てもおかしくない、ウサギの餌やり当番の教職員すら来ない。
生嶋さんの言う通りかもしれない。
何よりも、「そういうこと」を彼女が拒絶しないならば、俺の方に拒む理由は存在しないのだ。
状況や性欲も絡んだ様々な感情、それに生嶋さん自身に流されていることを自覚しながらも、俺は下着ごとズボンを下ろした。
一物が現れる。
少々冷たい外気に触れたせいか、ピクンと跳ねた。
「こ、こ、これが男の人の……」
顔を赤くして、しかし視線は目の前にある反り立った肉棒から逸らすことなく、生嶋さんは呟く。
亀頭や浮き出た血管、睾丸などを舐めるように観察している。
吐き出す息が肉棒にかすかに当たり、くすぐったくなると共に、興奮をさらに高めてくる。
「それで、どうすれば良いですか?」
「手で握って、動かしてくれないかな」
了承の返事をすると、生嶋さんは手を震わせながら肉棒に近づかせ、包み込むように両手で掴む。
「わっ、温かい……じゃあ動かしますね」
そうして手を上下に動かし始めた。
手の動きは非常にぎこちない物だったが、生嶋さんの顔は真剣で、懸命にやってくれていることが伝わってくる。
また時折、無意識に手に力が入るのか、両手の掌が肉棒の根元部分を圧迫してくる。
それが、柔らかい手によってゆったりと与えられる刺激と対照的になり、結果的にメリハリが付いている。
生嶋さんの手の動きは確実に俺の肉棒に快楽を与え、それに応えるように肉棒はますます固くなっていった。
「おちんちんがビクビクってなって……どんどん固くなってきて……」
慣れてきたのか、手の動きは徐々にスムーズになっていき、さらに快感が高められていった。
シュコ、シュコ、シュコ。
生嶋さんはしばらく俺の肉棒を扱き続けていたが、突然動きを止めてしまった。
腕が疲れてしまったのだろうか。
そう考えていると、生嶋さんは顔を肉棒に近づける。
そのまま舌を出すと、ペロリと肉棒の先端を舐めた。
「うああっ」
痺れるような、予期せぬ刺激に思わず声が出てしまった。
「ご、ごめんなさい。痛かったですか?」
「いや、突然で驚いたのと、気持ち良かったからつい」
「気持ち良かったなら、もっとやってみますね」
そうして、再び舌を伸ばして肉棒に当てる。
先端、亀頭、カリ首から根元まで、舌を這わせていく。
これに手の動きも加わり、今まで受けたことのない刺激に翻弄されていた。
「うっ……あっ……」
「気持ち良いですか? おちんちん、凄くビクビクしていますよ。もっともっと気持ち良くなって、いっぱいあなたの声を聞かせてください」
チロチロと鈴口の辺りを重点的に責められ、背中がゾクゾクとなる。
精液が上りつめてきたことが分かった。このまま責め続けられれば、遠くない内に果ててしまうだろう。
「生嶋さん……そろそろ出そうだよ」
「んっ……本当ですか、良かったです。最後まで気持ち良くなって、出しちゃってくださいね」
小鳥のついばみのように、肉棒の先端に軽く唇を重ねると、より一層激しく肉棒を扱き始めた。手も肉棒を強く圧迫する。
シコシコ、キュ、キュッ。
目の前がチカチカし始める。
肉棒の中では精液がマグマのようにグツグツとなっている。
「出してください。私で、気持ち良くなってください」
「出る……出るっ!」
叫ぶと同時に精液が肉棒から飛び出した。
なるべく勢いを付けないようにしたつもりであったが、意思とは無関係に体は精液を激しく放出させる。
吐き出された精液は生嶋さんの顔やジャージにかかり、白く汚していった。
「ご、ごめん、顔にかけちゃって」
急いでティッシュを取り出し、生嶋さんに付いた精液を拭き取ろうとする。
だが、生嶋さんは顔に付いた精液を人差し指で掬い取ると、それを口の中に入れた。
「しょっぱいような、苦いような、よく分からない味です……喉に絡みつきますし……でも、これがあなたの味」
その顔は恍惚としていた。
普段の生嶋さんからは想像出来ない淫靡な表情を見て、俺の喉がゴクリと鳴る。
ティッシュで精液を拭き取る。
その間も、生嶋さんはどこか夢を見ているかのように顔を緩ませていた。
これまで、生嶋さんには好意を寄せてはいたが、劣情を抱いたことはほとんど無かった。
だが、その顔を見て、初めてはっきりと彼女に対して下卑た感情を抱かされた。
もっと生嶋さんを貪りたい。そんな強い欲求に駆られたのだ。
「ねえ、生嶋さん」
「は、はい。何ですか?」
夢から覚めたかのように、はっと顔をこちらに向けた。
「生嶋さんが俺を気持ち良くしてくれたように、今度は俺が生嶋さんにしてあげたいんだ」
「え、えっと。それって」
困惑した様子を見せる。
まさか、人を興奮させておいて、自分がされる側になるとは思っていなかったのだろうか。
そんな責任転嫁を脳内で押し付ける。
「俺も生嶋さんのことを触りたいな。良いよね?」
「えっ、えっと……その」
「乱暴には絶対にしないよ。生嶋さんも一生懸命、優しくやってくれたしね。それだけは約束する」
「だ、だったら……その、お願いします」
生嶋さんも俺の劣情を感じ取ったのか、積極的ではないにせよ、俺の欲求に応じてくれるようだ。
「じゃあ、服を脱がせるね」
「そ、それは恥ずかしいから駄目です。自分で脱ぎますから」
服を脱いでいる姿を見られるのも恥ずかしいから、という生嶋さんの要望により、俺は一時的に後ろを向いている。
本当は見たかったが、そうしているといつまでも服を脱いでくれそうになかったので、大人しく要望に応じることにした。
ジャージのファスナーを動かす音や、衣服が擦れる音が聞こえてくる。
その音が、すぐ後ろで生嶋さんが裸体を晒そうとしていることを印象付け、俺の興奮をどんどん高めていった。
「脱ぎましたから、こっちを向いても大丈夫ですよ」
消えそうな声が聞こえたので、俺はゆっくりと振り返る。
そこには、一糸纏わぬ姿になった生嶋さんの姿があった。
色白だからか、まるで雪原を見ているような気分になった。
真っ赤になった顔が、さらにその白さを引き立たせている。
そして右腕で胸を、左腕で女性器を隠すようにしていた。
「うん、脱いでくれてありがとう。でも、隠しちゃ駄目だよ。俺も隠さなかったでしょ?」
「は、はい」
右腕がゆっくりと動かされる。だんだん彼女の乳房が露わになっていき、そして最後にピンク色をした小さな乳首が現れた。
「左腕もだよ」
「うう……」
中々動かそうとしなかったが、意を決したかのように左手を少しずつ動かしていった。
現れた女性器の周りには、彼女の髪と同じ白い色の毛がうっすらと生えていた。
やはり、彼女の真っ白な髪は地毛らしい。
「綺麗だね。他に見たことは無いんだけど、女の子の体って皆こうなのかな? それとも、生嶋さんの体だからかな?」
心の底から湧きあがった感情をそのまま口に出す。
「綺麗だなんて、そんな」
「恥ずかしそうにする生嶋さんも可愛いよ。ずっと見ていたいな」
「あ、あんまり、見ないでください……は、恥ずかしい、です」
「生嶋さんだって、俺のモノをじっと見ていたじゃないか。おあいこだよ」
「そ、それは……うう」
俺の言葉にいちいち反応を返してくれる生嶋さんの姿に、愛しさを感じた。
このまま続けていたかったが、あまりやりすぎて涙を流させたりしたら本末転倒だ。
彼女を悲しませる気は、毛頭ないのだ。
「じゃあ、触るね」
「は、はい」
右手の指先を彼女の下腹部に当て、そのままおへそに向かうように撫でる。
左手は猫に触る要領で、喉や首元を下に向けて撫でた。
「んっ……んんっ」
小さく声を出し始めた。
なるほど、確かに好きな人が自分の行為で声を出す姿を見ると、言い尽くせない気分になる。
もっと声を出させてみたくなった。
先ほどの生嶋さんも、そんな感情に取り付かれたのかもしれない。
「痛くない?」
「は、はい。何か変な気分になってしまって」
どうやら嫌がってはいないみたいだ。
右手の方はそのままに、左手の方をだんだんと胸に近づけた。
改めて見ると、結構な大きさがある。
普段の生嶋さんは体の起伏が小さく見え、童顔も相まって、どちらかと言わなくても幼く見える。
だが、現在の生嶋さんの胸は、はっきりと自身を主張していた。
着痩せするタイプなのだろうか。
左手を胸に当て、片方の乳房を力を入れすぎないように気を付けながら、揉む。
「あっ……」
明らかに声色が変わった。どうやら胸が感じやすいらしい。
そのまま胸を揉み続け、時折つまむように乳首の部分を軽く弄る。
繰り返していると、だんだんと乳首が固くなってきた。感じてくれているのだろうか。
「気持ち良いかな?」
「あんっ……まだ、よく分からなくて。でも、嫌じゃないです」
「そう、じゃあ続けるね」
左手の動きを一旦止め、右手でもう片方の乳房を揉み、時々乳首の方を責めた。
舌を出し、反対側の脇腹を這うように舐める。桃のような匂いと、動物のそれなのか、どこか獣の様な匂いが混ざった独特な香りが鼻に入ってきた。
相反する二つの匂いが俺の性感を高める。
「良い匂いだね」
「わ、私、いつも動物と体をくっつけていますけど……臭くないですか?」
「動物の匂いも含めて、良い匂いだと思うよ。俺は好きだな」
「うう……恥ずかしいですけど、ありがとうございます」
再び、愛撫を続ける。
今度は両手で、両方の乳房を責める。
力を入れすぎないように加減しながら、なるべくメリハリが付くように調整をする。
勿論、乳首を触るのも忘れない。
「あっ、ああっ……」
声にさらに熱が帯び始める。
順調に快感が高まっているようだ。
「そろそろ、下の方も触って良いかな?」
愛撫は休めず、許可を求める。
「んんっ……はい、大丈夫です。あっ……優しくしてください」
「それは勿論」
愛撫の手を止め、俺の服を申し訳程度の敷物のようにして、生嶋さんを仰向けに寝転がせる。
「ごめんね、こんな物しか敷けそうな物が無かったからさ」
「気にしないでください。私の為に服を敷いてくれてありがとうございます」
「俺がやりたくてやったんだから、礼には及ばないよ」
生嶋さんに足を広げてもらい、女性器がよく見えるようにする。
割れ目を開いて彼女の陰唇を見てみると、鮮やかなピンク色をしていた。
中指を割れ目と平行になるように当てると、わずかに粘着いた液体が指に付いた。
「濡れてる」
「ひっ、い、言わないでください」
「いや、気持ち良くなってくれたんだろうなって」
「そ、それは……」
生嶋さんは黙りこくってしまった。
俺は気にせず、当てた指を上下に動かす。
「ふあっ……」
途端に声を上げ始めた。
もしかしたら、生嶋さんは全体的に感じやすい体質なのかもしれない。
一通り割れ目をなぞると、粘液はさらに分泌され、トロトロになっていた。
そのまま割れ目を開く。
中の陰唇はうっすらと開いており、ひくひくとしていた。
クリトリスが赤くなっていたので、何気なく軽くつまむ。
「ひいっ」
すると、これまでよりも一回り大きい声を上げた。
反応が気になったのでさらにクリトリスを指で擦り、断続的に刺激を与える。
「あっ、あっ、あっ……」
その度に生嶋さんは嬌声を出す。
どうやら、ここが一際弱い性感帯のようだ。
「ここが一番弱いんだね。じゃあ、もっと触ってみるよ」
「えっ、それは……あんっ」
右手でクリトリスを弄りながら、左手で乳房を責め、さらに舌でもう片方の乳房の乳首に吸い付く。
生嶋さんが特に感じていた部分を重点的に責めているのだ。
「そっ、そんな三つも……あんっ、赤ちゃんみたいに吸っちゃ駄目です。ああっ……」
生嶋さんの言葉を無視して、俺は責め続ける。
乳首を吸っても、勿論母乳は出てこないが、しかし何故か甘い味がしたような気がした。
「んっ……ひっ……駄目です、頭がボーっとしてきて、キちゃいます、ああんっ……」
叫び声にも似た、嬌声を上げる。
そろそろ限界が近づきつつあるのだろう。
俺は責めを続けた。
「あんっ……頭が真っ白に。イっちゃいます、あなたの前でイっちゃいます」
「ちゅむっ……良いよ、気持ち良くなって。我慢しないでイくんだ」
「んっ……あっ、あぁっ!」
そう叫ぶと、生嶋さんの股の辺りから大量に液体が吹き出した。
所謂、潮吹きという物だろうか。どうやら、無事絶頂したらしい。
生嶋さんは身体をビクビクと震わせながら、力が抜けたかのようにだらんとしている。
「その……凄く気持ち良かったです。ありがとうございます」
「ぐったりしてるけど、大丈夫?」
「はい、ちょっと驚いてしまっただけなので。あの、落ち着くまで手を握っていてくれませんか?」
「分かった」
言われた通り、彼女の手を握り締める。
手は少し汗ばんでいて、とても温かかった。
そのまま、落ち着くまで見守ることにした。
やがて、生嶋さんに力が入るようになったので、体を起こす。何ともないならば安心だ。
「ありがとうございます、ずっと手を握ってもらっていて」
「いやいや、気にしないで。やっぱり生嶋さんの手って柔らかいよね」
「あれ、私の手を触ったことありましたっけ?」
「あっ、ごめん。さっき、アレを触ってもらった時にそう思って、それで」
途端に生嶋さんの顔が赤くなり始める。
「も、もう。恥ずかしいじゃないですか。って、あっ……」
目線を俺の股間にやると、そのまま言葉が途切れた。
生嶋さんが喘ぎ、乱れている姿を見ている内に、一度出したというのにまた一物が大きくなってしまったのだ。
「また、大きくなっていますね」
「ごめん、生嶋さんを見てたらつい」
「そ、そんなに良かったんですか。でしたら、その……最後に……」
言葉は途中で止まってしまった。
もしかしたら、「本番」を口に出そうとしたのかもしれない。
だとしたら、大変魅力的でありがたいお言葉ではあるのだが。
「いや、それは止めておこう。俺だってそうしたくないと言ったら嘘になるけど、コンドームも何も持ってないしね。生嶋さんがもし妊娠しても、責任が取れないから、今日はやれない。ごめんね、せっかくそう言ってくれたのに」
「あっ、いえ、私のことを気遣ってくれたんですよね。私の方こそ、何も考えていなくてごめんなさい」
生嶋さんは申し訳そうに項垂れる。
「据え膳喰わぬは男の恥」という言葉もあるように、明らかに俺の甲斐性が無いだけのような気もするが。
早いところ肉棒を縮ませて、それで終わりにしようと考えていると、何かを思い出したかのように生嶋さんは顔を上げた。
「で、でしたらその、擦ってみますか?」
「えっ?」
どういうことだろうか。
「そ、その、本で読んだことがあるんですけど。男の人のおちんちんをその、お股の方にすりつけてお互いに気持ち良くなる方法があるって……」
所謂、素股を提案してくれているらしい。
確かに、それだったら、妊娠することもまず無さそうだ。
それにしても。
突然肉棒を舌で舐め始めたことや、素股が頭に浮かんだことからして、生嶋さんは俺が思っていたよりもこういったことの知識が豊富らしい。
そう考えると、ちょっとした嗜虐心が再び湧きあがってきた。
「へー、なるほど。確かに良いアイディアだね。ところで生嶋さん、さっき本で読んだって言ってたけど、生嶋さんも意外とそういう本を読んだりするんだね」
「へっ」
「生嶋さんって、そういうことは全然知らなさそうだと思ってたんだけどな」
生嶋さんはあたふたとしながら、視線を左右に動かしている。
「さっきもよく声を出していたし、生嶋さんって、結構エッチな女の子なんだね」
「わ、私えっちなんかじゃ。でも、でも……」
明らかに狼狽し始めた。
セクハラもこれくらいにしておいた方が良いだろう。
「なんて冗談だよ、ごめんね。それに仮に生嶋さんがエッチだったとしても、俺はそんな生嶋さんが大好きだよ」
「えっ、あっ……」
今度は困惑の表情を見せた。
表情がコロコロ変わって、可愛らしさを覚える。
「じゃあ、始めて良いかな。もう、我慢できないんだ」
「は、はい。お願いします」
そうして、再び生嶋さんを服の上に仰向けに寝転がせる。
俺の肉棒はすでにぬめっていたし、生嶋さんの方もそれは同じだった。
これならばスムーズに動かせるだろう。
肉棒を生嶋さんの性器に当て、動かす準備を整える。
「じゃあ、動かすよ」
「はい、来てください」
そうして俺は腰を動かし始めた。
ぬっちゅぬっちゅと卑猥な音を立て、俺と生嶋さんの性器同士が擦れ合う。
ぬるぬるとした感触と、生嶋さんの二つの太股に挟まれる感触が合わさって、絶妙な快感が体を駆け巡る。
「あっ……硬くて熱い物が擦れて……気持ち良いです」
生嶋さんも同様のようで、声には初めから淫らな物が含まれていた。
ぐちゅ、ぐちゅ。
ウサギ小屋の中は嬌声と、肌が擦れ合う音でいっぱいになっていた。
それ以外には、ウサギの鳴き声ですら聞こえない。
あたかも世界が二人だけで作られているような錯覚さえ覚えた。
「んっ……あっ……あっ」
生嶋さんの顔は快感の為か、緩みきっていた。
その顔を見ていると、えも言えない気持ちがこみあげてくる。
生嶋さんもそれを察したのか、俺の首元に手を回すと、自身の顔の方へ近づけた。
そのまま、どちらからということもなく唇を重ねる。
「ちゅっ……んむっ……」
舌を入れたりはしない。
お互いの存在をより強く確かめ合うような、唇と唇を重ね合わせるだけのキスだった。
だけど、それでも興奮はどんどん高まってくる。
「あの、ちょっと止まってくれませんか?」
唇を離し、生嶋さんは言う。
本当は、このまま最後まで続けていたかったが、そう言うのであれば仕方がない。
「た、体勢を変えてみませんか。もっと近くに寄りたいので」
「う、うん」
言われるがまま、俺は服の上に胡坐をかくような形で座り込んだ。
すると、生嶋さんは俺の太股に跨り、俺を抱きしめながら性器を肉棒にあてがった。
所謂、対面座位のような体勢になる。
「こうすれば、もっとあなたの近くにいられますから」
確かに、より生嶋さんとの距離が縮まった。
俺も彼女を抱きしめ返す。
「じゃあ、今度は私が動きますね。一緒に気持ち良くなりましょうね」
そうして、生嶋さんは腰を振り始めた。
一歩間違えたら、肉棒が女性器に入ってしまうのではないかという不安感があったが、器用にお互いの性器を擦り合わせるだけに留まっている。
ぐちゅ、ぐちゅ。
「これ、良いです。あなたを近くに感じられて。全身が私の近くにあって」
上半身を俺の方に預けてきた。
俺はより強く生嶋さんを抱きしめる。
「あんっ……あんっ……おちんちんが、気持ち良いとこ擦れて、ぬるぬるで」
お互いに息遣いがだんだん激しくなっていった。
俺は限界が近づきつつあった。
おそらく、生嶋さんの方もそうなのだろう。
「お願いします。今だけで、今だけで良いですから。名前だけで私を呼んでくれませんか?」
突然の言葉に驚く。
だが、その目は真剣で、言葉にも切実さがこもっていた。これを無下には出来ないだろう。
「分かったよ、兎莉子」
「んっ……ありがとうございます。あっ……あっ……」
彼女の腰つきはさらに激しくなり、つられるように俺も腰を動かし始めた。
性器が擦れ合う。
その度にどちらかが声を出す。
永遠に繰り返し続けると思った営みにも、ついには終わりが近づきつつあった。
「兎莉子……俺、もう出してしまいそうだ」
「あんっ……わ、私ももう……一緒にイきましょう」
ぐちゅ、ぐちゅ。ぬち、ぬち。
淫猥な音が激しく鳴り響く。
二人で肌と肌をぶつける。
自分がいて、相手がいて。
お互いの存在を深く実感して。
興奮と幸福感が俺の中で最高潮に達した。
「兎莉子、出る!」
「わ、私も。あ、あぁぁ、あぁぁっ!」
そうして俺達は同時に果てた。
肉棒からは白濁液が飛び出し、兎莉子の腹を汚していった。
兎莉子も愛液を大量に出し、それはほとんど俺の肉棒にかかった。
「あっ、はぁ、はぁ。お疲れ、様です」
「はぁ、はぁ、うん。お疲れ様」
全てを出しきった後も、俺達はしばらく体を離さないでいた。
ティッシュでお互いの体を拭き取る。
流石にもう二人とも体力が尽きていた為、まぐわいを終えて、服を着ることにした。
それから、俺達は横並びになって座っている。
「あの、その、やっちゃいましたね」
「うん、その、ごめんね」
最後まで行っていないとはいえ、こういうことの初めてを屋外ですることになって、申し訳なさがあった。
「あ、謝らないで下さい。そもそも、始めたのは私からですし」
「それを言ったら、そもそもアレを大きくしたのが原因だし」
「で、でもそれは私が抱き着いちゃったからで」
「それは」「だから」
俺達は同時に言う。
そして、可笑しくなって、一緒に吹き出した。
「お互い様、ということにしておきましょうか」
「そうだね、兎莉子。あ、いや、生嶋さん」
慌てて訂正をする。
流石に、さっきのように名前で呼ぶのは気が引けたのだ。
「名前で、呼んでくれないんですか?」
すると、拗ねたような声で尋ねてくる。
「その、終わったけど、良いの?」
「あなたが嫌じゃなかったら、私は、名前で呼んでほしいです」
生嶋さん……いや、兎莉子は小さく、だがはっきりとそう言った。
「うん、分かったよ。これからは改めて名前で呼ばせてもらうね、兎莉子」
「えへへ、そっちの方があなたと仲良くなれたような気がして、嬉しいです」
日は落ちて、辺りはすっかり暗くなっていた。
「それにしても、誰も来ないね」
「そうですね。ウサギさん達にご飯をあげる人が来てもおかしくないはずなんですけど」
「本当にね」
不自然さすら感じる。
流石に一生ここから出られないということは無いだろうが、もしかしたら今晩はここで過ごさなければならないかもしれない。
「でも、あなたが傍にいてくれれば、私は平気です」
「ははは、ありがとう。俺もだよ」
それでも、この言葉に嘘は無かった。
二人で肩を寄せ合い、じっとしていると、ガサッという音が聞こえた。
まさか、とうとう人がやって来たのだろうか。
俺は音が鳴った方向を見る。
「ワン、ワン」
一頭の犬が茂みの方から出てきた。
動物一匹すらウサギ小屋の周辺に現れなかったので、動物が来るという可能性を完全に忘れていた。
「犬じゃ、流石にどうにもならないよね。閂を動かせるとは思えないし」
俺は肩を落としながら言う。
「待ってください。ワンちゃんだったら、もしかして」
そう言い、兎莉子は犬に話しかけ始める。
「ねえワンちゃん、ちょっと聞いて」
「ワン」
どうやら、エクシードを使って助けを求めるようだ。
返事をするかのように犬が吠える。
「あのね、私達ここに閉じ込められちゃったの。だから、お願いだから人を呼んできてくれないかな?」
「ワン、ワン!」
犬は吠えると、そのままどこかへ駆け出して言ってしまった。
「えっと、何て言ってたの?」
「任せろ、って言ってました。誰かを連れてきてくれると良いんですけど」
どうやら、犬は俺達に協力する意を示してくれたらしい。
だが、どうやって人を連れてくるというのだろうか。
十分程が経った時だった。
何か、物音が外から聞こえてくる。
見ると、さっきの犬が黒い何かを咥えてこちらへ走ってきた。
「ぜえ、はあ、はあ。こ、コラ、待て。私の財布を返せ」
息絶え絶えの声と共に、犬の後ろから懐中電灯の明かりと共に中年の男性がやってきた。
よく見ると、俺達の担任の教師だった。
「先生!」
「ぜえ、やっと追いついた。って、ん? 何でウサギ小屋から声が……」
懐中電灯で俺達の方が照らされる。
「あれ、お前達は何をしているんだ?」
そうして、俺は小屋の掃除をしていたこと、閂が突然閉まったこと、外部に連絡を取る手段が無くて出られなくなったことなどを説明した。
勿論、先ほどまでやっていたことは省略する。
「そうか、お前達も災難だったな。とにかく、今すぐ開けてやる。待っていろ」
ガシャン。
閂の動く音がして、先生が扉を開けてくれた。
こうして、俺達は無事にウサギ小屋を出ることが出来たのだ。
小屋の外に出ると、犬が兎莉子の足下に寄ってきた。
「ワンちゃんが先生を呼んできてくれたんだね。ありがとう」
「ワン!」
犬を撫でながら、兎莉子が微笑む。
撫でられて気持ち良いのか、犬も尻尾を千切れんばかりに動かしている。
「もう大丈夫だから、お財布は先生に返してあげて」
「クゥーン」
犬は財布を口から離すと、そのままどこかへと行ってしまった。
「そうか、生嶋が私を呼ぶようにしたんだな。だったら、これも仕方がないな」
先生は財布をポケットに入れる。あれを犬にスられたのだろう。
「じゃあ私は仕事があるからもう行くぞ。暗いから、お前達も気を付けて帰れよ。それにしても、また日向が問題を起こしたのか……はぁ」
そうして、先生は去っていった。
去り際にお礼を言うと、右手だけを上げてそのまま姿は見えなくなった。
「色々あったけど、俺達も帰ろうか」
「そうですね。あっ、私は保健室に行って、その、下着を借りてきます」
「じゃあ校門で待ってるね」
小屋の外に置いてあった鞄を持ち、俺達は歩き始めた。
保健室に行く為に、兎莉子は俺よりやや前を歩いている。
「あっ、そうだ。兎莉子」
「どうかしましたか?」
兎莉子は振り向いて、こちらを見つめる。
「あの時、兎莉子は自分のエクシードのことを、大したことないって言ってたけどさ。やっぱりそんなことないよ」
「どうして、ですか?」
不思議そうに首を傾ける。
「だってさ、君のエクシードのおかげで、こうして二人とも助かったじゃないか。二人の人間が助かるって、凄いことだと思うよ」
「あっ……」
「まだお礼を言ってなかったよね。助けてくれて、本当にありがとう」
「は、はい!」
兎莉子は嬉しそうに目一杯の笑顔を浮かべた。
その美しさに思わずドキリとしてしまうような、綺麗な表情だった。
校門で兎莉子と落ちあい、俺達は帰路につく。
他愛の無い話や、動物の話をしていると、一件のコンビニが目に付いた。
青蘭島以外にも全国各地にあるチェーン店だ。
すると、兎莉子が寄って行きたいと言う。
着いて行こうかと言ったら、待っていてほしいとのことだったので、俺はコンビニ前でボーっとしていた。
やがて、兎莉子が店から出てきた。
コンビニのビニール袋を持っている。
「こ、これを買ってきたんですよ」
兎莉子が袋から取り出した物はアイスだった。
より正確に言えば、アイスモナカと言うべきか。
「アイス? そういえば、前にアイスが好きって言ってたね」
どうしても食べたかったのだろうか。
まあ、閉じ込められていたことだし、好きな物を欲しがる気持ちは分かる。
「はい、私、アイスクリームが大好きで。それで、私に夢があって」
そう言うと、モナカを半分に割り、片方を俺の方に差し出してくる。
「こうやって、大切な人とアイスを半分こしてみたかったんです。誰かと分かち合いたかったんです」
「夢」ということは、きっとこういった機会が今まで無かったのだろう。
その夢を叶える相手に俺が選ばれたことは、光栄なことではないだろうか。
「えっと、貰って良いのかな?」
「はい、一緒に食べましょう」
兎莉子と一緒に、アイスモナカに口を付ける。
シャクシャクシャク。
バニラの味が口に広がる。甘い。
「美味しいね」
「はい、美味しいです。誰かと一緒に食べるアイスって、また味が違いますね」
「……そうなのかもしれないね」
アイスを食べ終え、俺達は再び歩き始めた。
そして、今朝出会った場所に差し掛かる。
ここからは家の方向が異なる為、お別れの時間だ。
別れの挨拶を言う前に、やっておきたかったことがある。
それをやってしまおう。
「あっ、兎莉子。良かったらさ、連絡先を教えてくれないかな?」
「へっ。あ、も、勿論です」
俺は紙とペンを取り出し、兎莉子に連絡先を書いてもらう。
「絶対に連絡するからさ。携帯電話は持ち歩くようにしてほしいな、なんてね。それに、多分他の人だって、兎莉子と連絡を取り合ったりしたいと思ってるんじゃないかな」
「で、でも私、人とお話しするのが苦手で。あなたとお話しする時も、少し言葉が詰まるくらいで」
「その辺は少しずつ変わっていけば良いさ。それに、完全に変わらなくたって良い。多少ぎこちないのも個性だし、受け入れてくれる人もいるさ」
なるべく高圧的な言い方にならないように、笑顔を浮かべながら言う。
「あ、が、頑張ります」
「大丈夫、兎莉子なら変われるよ。少しずつ、人と話せるようになってるみたいだしね」
「ありがとうございます」
恥ずかしそうに、紙を渡してくる。
これは絶対に失くさないようにしなければならない。慎重に鞄に入れた。
さて、それでは帰ろうと別れの挨拶を言おうとすると、今度は兎莉子が俺を引き留めた。
「あ、あの」
「どうしたの?」
「その、私のこと、好きって言ってくれてありがとうございました。私も、あなたのことが大好きでしたから」
改めてそう言われると照れくさいし、ウサギ小屋で起きた様々な事を思い返すと、過ぎたこととはいえ少し気恥ずかしくなる。
「私、色々迷惑をかけちゃうと思いますけど、その」
「お互い様じゃないかな、それは」
「はい。私、あなたの傍にいますから。だから、これからもよろしくお願いします」
そうして、頭を下げられる。俺も反射的に頭を下げ返す。
「それにその、また今日のアレみたいなことをするの、私は構いませんから。えっと、準備が出来たら、最後までやっても大丈夫ですよ」
顔を真っ赤にして、早口で答える。
恥ずかしいなら、そういうことまで無理して言う必要も無いと思うのだが。
「ありがとう。でも、したいって、やっぱり兎莉子はエッチな女の子なんだね」
「も、もう。したくないわけじゃないですけど、えっちじゃないです」
ぷりぷりと怒り出す。
うん、怒った兎莉子も可愛い。
「まあエッチかどうかは置いておいてもさ、俺達もまだ互いのことを全然知らないと思うし、これから少しずつ知っていければ良いよね」
「はい。今日は、あなたが意外と意地悪だということが分かりました」
「根に持ってるなあ……」
俺は苦笑する。
「でも、言う通りだと思います。私もあなたのことをもっと知って、仲良くなっていきたいです」
「俺もだよ。だからさ、最初に戻るけど。これからもよろしく」
「はい」
そうして、お互いに微笑みあう。
「兎莉子の傍にいる」という約束をした。
約束をしたからには果たさなければならないだろう。
プログレスもαドライバーも、まだまだ未知の存在だ。
今の日常が、もしかしたら明日にも壊れてしまうかもしれない。
兎莉子と共に過ごすことが困難になる日が来るかもしれない。
それでも、この笑顔を見ていたら。
根拠は無いけれども、大丈夫だろうという奇妙な自信が生まれた。
まあ、回り道でも険しい道でも、二人なら何とかなるだろう。
俺達はそれぞれの家の方へ向かい始めた。
街頭の灯りが、道先をしっかりと照らしていてくれていた。
きっと、兎莉子の方もそうなっているに違いない。
おまけ
現在、早朝のホームルーム前。
俺は教室で頭を捻っている。
昨日の夜、寝る前に携帯電話を見ると、一通のメールが来ていた。
差出人はフェルノさんからだった。
「後は託しましたわ」
本文はこれだけで終わっている。
メールの意図がさっぱり分からなかったので、フェルノさんにメールをして尋ねようとした。
だが、夜遅くだったこともあって気が引けた為、結局聞いていない。
しかし何を託されたのだろうか。
もしかしたら、何かとても大事なことなのであろうか。
「おはようございます。今日も良い天気ですわね」
突然、よく通る声で後ろから声をかけられる。
やはり、急に話しかけられると驚く。俺も気を付けるようにしよう。
振り向くと、やはり声の主はフェルノさんだった。
待ち人来たり。
「やあ、おはよう、フェルノさん。ところで聞きたいことがあるんだけど……」
「聞きたいことといえば、私にもございますわ」
話を途中で遮られる。
これは今日も話を聞いてくれそうにない。
「昨日は兎莉子ちゃんとどこまで行ったのですか? 何のイベントがお起こりになったのですか?」
猛烈な勢いで捲くし立てられる。
何のことを言っているのかは察しがつくが、何故この人がそれを知っているのだろうか。
「えっと、何のこと……」
「とぼけないでくださいませ。この私は知っていますわ。あなた達二人がウサギ小屋に閉じ込められていたということを」
ちょっと待て。
どうしてそんな具体的なことまで知られているのか。
俺は昨日の一件は誰にも話していないし、多分兎莉子も同じだろう。何故だ。
「あのさ、何で昨日のことを知ってるの?」
「へ? それはそうですわ。だって、小屋の閂を閉めたのは私ですもの」
「え?」
何を言っているのか、理解するまで少し時間がかかった。
「あれは風で閉まったんじゃ……」
「流石に金属の閂は、あれくらいの風では閉まりませんわ」
その通りだ。
昨日の風は確かに強烈な物ではあったが、それでも閂を動かせる程かと言われると、否定せざるを得ないだろう。
「あなたがゴミを捨てに行って、帰ってきた辺りで閂を閉めたのですわ。小屋の傍であなた達を閉じ込める隙を伺っていましたから、間違いありませんわ」
この人は何をやっているのだろう。
「それに、ちゃんと私が閂を閉めたと連絡はしましたわ」
「もしかして、これのこと?」
俺が件のメールを見せると、フェルノさんは得意気に頷いた。
……分かるか。
「それに人払いをしたのも私ですわ。あなた達を閉じ込めた後、ウサギ小屋近くの屋上から監視して、小屋に近づく人がいたら追い返しておきましたわ。それと、ウサギ小屋に餌を与える先生には、私が代わりに餌と水を与えると伝えておきましたわ」
そうか、やけに人が来なかったのも、この人が動いていたからか。
「……連絡が来なかったから、様子を見に行くとかはなかったのかな?」
「そうですわね。流石に日が沈んでも連絡が来なかったので、私も不安になってあなた達の様子を見に行きましたわ。ですがこっそり中を覗いてみましたけど、そこには長年連れ添った夫婦のように肩を寄せ合う、あなたと兎莉子ちゃんがいらっしゃいましたわ。これは邪魔をしてはいけないと思って、その場からすぐに離れましたわ」
「……気配がしなかったんだけど」
「一流の戦乙女たるもの、気配を消すくらいは朝食前ですわ」
何というか、ツッコミを入れたいことが多すぎてむしろ言葉に出来ないでいる。
「それにしても、お帰りになったなら帰ったと告げてほしかったですわ。次に様子を見に行った時は、すでに誰もいらっしゃいませんでしたし。ああ、ご安心ください。餌と水はちゃんと私がやっておきましたわ」
さよですか。ウサギもさぞお喜びでしょう、ええ。
「そんなことはどうでも良いのですわ。それでそれで、あなた達はどうなったんですか?」
もうツッコミを入れることは諦めることにした。
色々言いたいことはあったけど、言っても無駄だろう。
「うん、まあ何というか、告白したら受け入れてもらえたよ」
投げやり気味に答える。
「まあ何と! また一つの恋人達が生まれてしまったのですわね。恋の達人戦乙女の冥利に尽きますわ」
頭痛がしてきた。
一応、フェルノさんのおかげで昨日の一件が起こったようなので、そこにだけ礼を言っておく。
俺はもう、さっさと会話を打ち切ってしまうことにした。
「ははは、ありがとう」
「礼には及びませんわ。このフェルノはいつでも恋する女の子の味方ですわ」
昨日と全く同じことを言われる。
流石に、これくらいは言っても良いだろう。
「うん、俺は男なんだけどね」
「? 勿論分かっていますわ。だから、このフェルノはいつでも恋する女の子の味方ですわ。さあ、何と告白したのかお教えくださいまし」