迷宮はハーレム王国(Make your harem kingdom!!) 作:五十貝ボタン
「おら、ちゃんと握れ! 手で扱くんだよ!」
ナズナの左右両側を山羊頭が挟み、醜悪な男根を突き出している。両方が乱暴にナズナの手を掴んで、とても指が回り切らない肉棒を握らせている。
「へへへ、騎士ならいつも剣を握ってんだろ。それと同じように俺たちのチンポも扱いてくれりゃあいいんだよ」
グチャ、グチャ、グチャ……。
女のにおいだけで興奮したのか、山羊頭の肉棒からはどろどろと先走りがこぼれている。白く濁った先走りは凶悪な臭気を漂わせ、ナズナはもはや自分の鼻がにおいを感じるのをやめているのが分かった。
「人間の女ってのは、なんでこんなにきれいな毛が生えてるんだろうなあ。ひ、ひひ、たまらねえぜ!」
ナズナの後ろに立った山羊頭は、肉棒にナズナの長い黒髪を巻き付け、ごしゅごしゅと音を立てて扱いていた。
強さと同じように、美しい髪はナズナの誇りだった。それを、獣の肉棒などに犯されている。屈辱で気が遠くなりそうだった。
「さーて……それじゃあ、口を使わせて貰うぜ」
ナズナの正面に立った山羊頭……最初にナズナを捕まえたやつだ……が、凶悪な男根を自分の手で扱き、精液を塗りつけながらにやにやと笑みを浮かべる。
「や、やめろ! そんなもの、入るわけが……」
「うっせえ! 死にたくなけりゃ、咥えるんだよ!」
山羊頭が手を伸ばし、ナズナの小鼻をつまむ。両腕を掴まれ、肉棒を扱かされているナズナはやがて、口を開けざるを得ない。その美しいピンク色の唇に、亀頭がぐり、っと押し込まれる。
「……ふ、ぐううっ!」
大きな肉塊を口の中にえぐり込まれ、ナズナが悲鳴を上げる。ぶよぶよの肉がみっちりとつまったような亀頭が、ナズナの口内をいっぱいに広げさせる。
グポッ! グポッ、グプッ、グポッ!
山羊頭はナズナの歯が肉竿にこすれるのにも構わず、腰を振り始めた。
「ふっぐ……ううっ!? うっぐ、っふんん!?」
一気に喉の奥まで犯されて、ナズナは悲鳴を上げることもできない。異様な臭気に頭の中を侵されるようだ。
「いいぞ、このまま俺たちの精液便器にしてやるぜ!」
グプッ! ジュボ、ジュボ、ジュボッ……!
ナズナの喉を壊そうとするかのような、強引な獣の腰の動き。
「そりゃいいぜ。このまま体じゅう精液まみれにして俺たちのものだって分からせてやるよ」
「この女、臭いのが大好きみたいだからなあ!」
山羊頭たちはナズナを囲み、下卑た笑いを浮かべる。
あまりのはずかしめに、ナズナは舌をかみ切って死にたいと思ったが、口の中を肉棒でかきまわされていて、顎が痺れたように動かない。両手はナズナの意志にかかわらず、手の上から山羊頭が握り、強引に扱かせている。
「っふ、うううっ! っふ、ん、っぐ、ぐううう!」
嗚咽にも似た声は必死に抵抗だ。しかしそれも、山羊頭たちを興奮させるだけの結果にしかならない。
「おおおっ! いいぞ、たまらん! おら、口の中に出すぞ!」
「こっちもだ! このきれいな髪をぐしゃぐしゃに汚してやる!」
「おおおおっ! おっ! おおおおっ!」
山羊頭たちの体が一斉に跳ね上がる。
ビュビュビュビュビュ! ビュブ! ビュボ、ビュブブブブっ!
「んんんんんーっ!? んんっん、んンー!」
口の中に。頭に顔に、髪に体に、黄色く濁った精液がぶちまけられる。バケツの中身をひっくり返したような量を浴びせられ、体じゅうがそのにおいにまみれていく。
「おらっ、おら、まだ出るぞ!」
前後左右から、途方もない量の精液を浴びながら、ナズナの頭は痺れ始めていた。
(ああ、これは夢に違いない……)
自分が獣のような肉棒を両手で掴み、咥え、髪でまで扱かされてるなんて、現実であるはずがない。
本当の自分は今頃、宮廷の騎士団詰め所にあるベッドで寝ていて、もう少しすれば星が明るくなって、目を覚ますのだろう。いや、もしかして昨日の修練の疲れでなかなか目が覚めず、ペティコートが起こしに来るかも知れない。それとも、気を利かせたメロンボールが起こさないように言ってくれるかもしれない。配下の七草騎士団には、巡回の指示を通してある。たまに寝坊するくらいは許されるだろう。ああ、こんな風に言い訳して寝ていたら、まるであの怠惰な国王ではないか。まったく、あの国王には困ったものだ。いつも、ひとりで寝ているか女と寝ているかで……。
「なんだ、ぶつぶつ呟いて。とうとう気が狂ったかあ?」
「ま、いいじゃあねえか。死ぬまでなら穴が使えるだろ」
ブビュ、ブビュ、と尿道に残った精液をナズナの顔に吐き出しながら、山羊頭たちがげらげらと笑う。
「どら、それじゃあ残りの穴を使うとするか」
はじめにナズナを捕らえた山羊頭が、力の抜けたナズナの腕を掴んで持ち上げる。
「おいおい、いいのか? こんな状態で入れちまったら裂けちまうぜ」
「いやいや、この女、かなり丈夫そうだぞ。ほら、持ち上げてろ」
山羊頭たちが左右からナズナの体を抱え上げる。両足を広げさせ、
「布っきれが邪魔だな。破れ」
「なんでてめえが命令するのが当然みてーになってんだよ」
「いいだろ、順番だ、順番。早くしろ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ山羊頭たち。ナズナはぼんやりと上を見上げ、宮廷でのいつもの生活を幻視していた。
「……騒がしいな。何事だというのだ」
その視界に、ぬっと大きな影が見えた。その影を見ると山羊頭達は恐れるようにひれ伏し、何事かを叫ぶ。巨大な影は、彼らに何事かを告げた。
「その娘は……にする。ちょうどいい。お前達の……で、契約を果たそう……」
しかし、ナズナがその声を聞き取ることはできなかった。
●
「ナズナぁっ!」
街道の最深部に踏み込んだパトリオット達が見たのは、水たまりのように広がった白濁に浸かるように崩れ落ちたナズナの姿だった。
「おお? なんだ、この女の仲間か?」
ナズナを囲んでいた山羊頭の一体が、振り返って一同に目を向ける。
「残念だったな、この女はすでにマアナ様に捧げられた」
「……どういう、こと?」
その異様な風景と臭気から目を反らしたくなる衝動を必死に抑えて、マユが問う。
「ひひひひ! お前たちは知らないだろうが、我らが主、マアナ様は強大な魔力の持ち主」
「俺たちの精液を媒介にした魔法で、たった今、この女の魂を我らの奴隷とする契約を結びなさった!」
ゲラゲラと、声を合わせて山羊頭たちが笑う。
「あ、主やなんて、そんなやつがどこに居るっちゃううんや!」
「我が実存を疑うか。人間とはかくも愚かなものだったのか」
街道の奥から声。暗闇から、巨体が這いだしてきた。2mほどもある山羊頭に倍するような体格。分厚い筋肉に覆われた体を、毛皮でところどころ飾っている。鼻は鋭く曲がって、上唇にかかるほどに垂れている。
「……鉤鼻鬼(トロル)!」
「鉤鼻鬼って、乱暴で頭が悪いはずですよう。なんか様子が変ですよう」
ペティコートの言うとおり、その鉤鼻鬼は異様な雰囲気を身に纏っていた。目はどこを見ているのか判然としない、超然とした目つきだ。
「我が名はマアナ=ユウド=スウシャイ。万物を作りし原初の神。人間たちよ、私が眠っている間にこの世界を楽しんでいたようだが、それがどうしたというのだ」
一同を見下ろし、鉤鼻鬼マアナが告げる。
「俺たちは大バナナ王国宮廷だ。こちらの要求は二つだ。第一に、この街道を占拠するのはやめろ。第二に、俺たちの騎士であるナズナを返してくれ」
「人間よ。我々がここに居て、貴様らに何か関係があるのか?」
「当たり前や! あんたらがこんなところにおるせいで、ウチらの王国に甚大な被害が出とるんや!」
「だが、それがどうしたというのだ。いずれ、この世界は滅びるのだぞ」
マアナが冷然とした声で告げる。
「この女はお前達の仲間だか、家臣だか、そういった存在のようだが、それがどうしたというのだ。この女の魂はすでに我がものとなった」
「どういうことだ。まさか、本気で言ってるのか?」
パトリオットは、見下ろすマアナをにらみ返すように目を向ける。その手にはすでに、だんびらが握られている。
「むろんだ。すでにこの娘は、我なくしては生きていけない」
バナナ王国の宮廷は各々が武器を構え、マアナと山羊頭達に向かい合う。誰かの喉が、こくりと鳴った。
「血液を媒介にして使う魔法もあるくらいだから、精液を使って魔法を使うこともあるかもしれないわ。……でも、本人の同意もなしに、主従の契りなんて……」
白い額に汗をにじませながら、メロンボールが呟く。
「この女、もう正気をなくしてるみたいだからな。マアナ様が『下僕になれ』とささやいたら、あっけなく『どうにでもしてくれ』って答えやがったぜ」
「夢なんかどうなってもいい、とか言ってたな」
山羊頭達が笑いながら、手に手に斧や鎚を構える。
パトリオットのこめかみが、びくびくと震えた。
「メロン。……その契約を解く方法は、あるのか?」
口から炎となってこぼれそうな怒りを抑えこみながら、呟く。
「たぶん……ナズナちゃんが本心からそう言ったんじゃなければ、契約を上書きして……」
「あるんだな?」
低く抑えた声。パトリオットの問いかけに、メロンは思わず口をつぐんで頷いた。
「なら、やるぞ」
ぴりりとした空気が周囲に広がる。宮廷と、配下たちが手に手に武器を構えた。
「……こういうときくらい、本気出さなきゃ普段サボってる意味がないからな」
●
マアナの巨体が、山羊頭二体を引き連れてのそりと前に立つ。その背後、血吸い葛の密集した位置に残りの山羊頭が立ち、援護に当たる陣形だ。
「パトリオット、マユ! あんたらが前に出て、ナズナを助けるんや。ペティ、二人を援護しぃ!」
作戦を告げるユナに答えて、パトリオットが前に出る。
「マアナとやらは後回しだ! 山羊頭の数を減らせ!」
剣を手に構え、山羊頭達の元へ突っ込んでいく。いかにも強大なマアナよりも、先に山羊頭たちを倒して力を削ぐ作戦だ。
「おああっ!」
気合いとともに山羊頭に切りつける。が、その威力は微々たるもの。山羊頭の薄皮を切り裂いただけに過ぎない。
「うおっ……!?」
それでも、山羊頭を驚かせる効果はあったらしい。体勢を崩したところに、
「ナズナ様ほどではないですけど、ペティだって!」
パトリオットの背に隠れるように進み出たペティコートが鑓を突き立てる。
「ぐおおおっ!」
山羊頭は怒りの声を上げる。その脇をマユがすり抜けようとするが、
「誰が通すか! おらあああっ!」
腕を振り回す山羊頭を前に、さすがにナズナの元へ駆け寄る事ができない。
「気をつけて! その血吸い葛も敵の命令に従ってるわ!」
「く……」
メロンボールの注意に答え、マユはナズナを囲む血吸い葛に向けて手裏剣を放つ。それはツタのごく一部を断ち切るが、大量の血吸い葛の群れを駆除しきることはできない。
かえって、それは血吸い葛の意識をマユに向けることになる。ツタが蛇のように閃いたかと思うと、マユの足首に絡みついた。
「きゃ……!」
マユが短い悲鳴を上げ、血吸い葛にその全身を絡め取られる。服の裾からずるずるとツタが潜り込み、肌に吸い付いて締め上げていく。
「あ、うく……!」
ぎりぎりと締め上げられ、マユの顔が苦悶に歪む。じんわりと葛のツタが赤くなるのは、彼女の血をすすっているからだろう。マユと配下のくノ一たちは、血吸い葛の密集する地帯へ、ずるずると引きずり込まれた。
「マユちゃん! ……みんな、信仰を! ナズナさんとマユちゃんのために、祈りましょう!」
メロンの声に応えて、神官たちの祈りの言葉が響く。それは宮廷に力を与え、みるみる傷を塞いでいく。
「ナズナさん!」
「あ……く……」
メロンボールの呼びかけにも、ナズナは答えない。うつろな瞳を中空に向け、意味を為さない言葉をぶつぶつと呟いている。
「そんな、傷は癒したはずなのに……」
「だったら、直接たたき起こすしかないだろ!」
「やれるものならやってみろやぁ!」
パトリオットの目の前に飛び出した山羊頭たちが、腕に掴んだ斧を振り上げる。
「っ……!」
しかし、山羊頭の投げた斧はパトリオットの頭上を通り過ぎ、その背後のペティコートの体を引き裂く。
「あぁぁあう!?」
ざく、ざく、と二つの斧がペティコートのメイド服を引き裂く。悲鳴を上げて、ペティコートが後ろに倒れる。
「ははは! 女の悲鳴はいいなあ! 最高だぜ!」
「ペティ!」
思わず振り向くパトリオットの背に、ぬうと巨大な影が落ちる。
「お前がこの者たちの主か。だが、それがどうしたというのだ」
鉤鼻鬼の冷然とした瞳がパトリオットをにらみつける。その丸太のような腕が無造作に突き出され、パトリオットの体を吹き飛ばした。
「っぐ……!?」
どうと地に倒れるパトリオットに、さらに血吸い葛のトゲの着いたツタが伸びる。ぎりぎりと締め上げられ、肌が裂けて血が噴き上がった。
「……王……!」
痛々しい光景に、マユの目元がぴくりと震える。その背に、2体の山羊頭が迫る。
「おっと。お前もいい声で鳴いてくれよ!」
山羊頭の大ぶりの鎚は、いつものマユならばかわせるはずだった。しかし、血吸い葛に両手足を絡め取られ、力の抜けた状態だ。一方がかわしきれず、がつりと脇腹を打たれた。
「……ぐうっ!?」
少女らしからぬ低い悲鳴は、訓練のたまものだろう。だが、それでも山羊頭の嗜虐心をくすぐるらしく、下卑た笑いが戦場に響いた。
●
メロンボールたちの必死の儀式が続いている。倒れたペティコートの傷を癒し、マユの傷を塞ぎ、パトリオットに再び立ち上がる力を与える。しかしそれでも、ナズナは白濁にまみれて倒れたままだ。
「あんたら、気合い入れや! ナズナを助けるんは、この戦いにかかっとるんや!」
ユナが本陣で指示を飛ばしながら、悔しげに唇を噛む。劣勢なのは明らかだ。すがる思いで、ユナはこう続けた。
「パトリオット! あんたがサボっとるせいでこうなったんやから、責任ぐらい取ったりい!」
「わあってる……よ!」
剣を杖代わりに起ち上がり、パトリオットが山羊頭に斬りかかる。その一撃も、しかし山羊頭の命を奪うには及ばない。
「はははあ! なんだ、国王さまは口だけかあ!?」
「そ、そいつの言うとおりや! あんた、ここで男見せられへんのやったら、ほんまに口だけになってまうで!」
その背にユナが罵倒を浴びせる。その姿を目で捕らえ、山羊頭が好色で残虐な笑みを浮かべた。
再び、山羊頭が斧を投げる。倒れたままのペティコートではなく、思わず前に飛び出したユナの体を、斧ががつりと打つ。
「うあぁあっ!?」
癖のついた赤毛よりも、さらに赤い血で服を汚しながらユナが悲鳴を上げる。
ランドメイカーは通常の人間が即死するようなダメージでも、強じんな生命力で耐えることができる。しかし、それは痛みを感じなかったり、傷ついても平気だったりという意味ではない。
鉤鼻鬼マアナの拳が、パトリオットの体を吹き飛ばす。
「あっぐぅ……!」
その体は突き出した岩に打ち付けられ、パトリオットの意識が遠ざかる。
「下らん。お前達が私に挑んだからといって、それがどうしたというのだ」
パトリオットが吹き飛ばされたことで、山羊頭達が戦場を斬り進んでくる。
陣の中央に居るユナへ。さらに本陣に居るメロンボールへ。怪物達の行進は、地響きと共に宮廷を飲み込んでいく。
「……ナズナ、様……」
血吸い葛の群れに引き寄せられたマユが、白濁にまみれたナズナの手を掴む。そのナズナの手がぴくりと震えた。
「マユか。はは、変な夢だ。パトリオットはともかく、どうしてみんなまで傷ついているのか……」
うつろな瞳を戦場に向け、ナズナが呟く。
「……違う、夢じゃない」
マユがささやくように言う。
「バカ言わないで。こんなのが、現実のはずがないだろう」
ナズナはうつろな笑いを浮かべる。その青い瞳は、小さな涙の粒をぽろりと落とした。
ぶんぶんと大きく首を振り、マユがその体に細い両腕を回す。
「……逃げちゃ、ダメ。……みんな、王も、ユナ様も、メロン様も、ペティコートさんも、ナズナ様を助けるために来た。……だから」
マユはぼろぼろと大粒の涙をこぼす。その瞳は、ナズナと同じ青い色。首元にかじりつきながら、吠えなれない犬が上げるような声で叫んだ。
「……だから! ナズナ様が夢だなんて言っちゃ、ダメ……! みんなの、やってきたこと、無駄になる、から……!」
ふれあいを恐れる小動物のように震えながら、マユが叫ぶ。はっとナズナの目が見開かれた。
ザバっ。
二人の頭から、大量の水が滝のように落ちる。まるでオチをつけるような水流が、ばしゃりとナズナの体を覆っていた白濁を押し流す。
「水遁です。お二人とも、戦いの準備を」
進み出てきたのは、マユの配下、鬼蜘蛛忍軍のくノ一だ。その隣に、ナズナ配下の七草騎士団が駆け寄る。
「ナズナ様、これを」
差し出されたものをずぶ濡れのナズナが見つめる。
急展開についていけなかった頭が、あっという間に引き戻されてきた。これは現実なのだ、という知覚がわき上がってくる。同時にこみ上げてくる先ほどの記憶を、別の感情が押し流していく。
戦いへの渇望。
ナズナの口元にわずかに笑みが浮かんだ。
●
「花散里ッ!」
ナズナの気合いに答え、七草騎士団が一斉に剣を振るう。ただ剣士としてではなく、騎士として、部下さえも武器として操る奥義。本来なら鑓や鎚を使って、ひとつずつ駆除される血吸い葛を、一斉に吹き飛ばした。
ばたばたと破片となった血吸い葛を踏み越え、両腕で大剣を構える。
「この女! まだ動けるか!」
山羊頭が怒りに声を上げながら、ごうと鎚を振り下ろす。
「ナズナ!」
ユナが声を上げる。しかし、ナズナはあえて甲冑で受けながら、彼女に笑みを向ける。
「仲間が起こしてくれたからな。さあ、ゆくぞ! 我が王国を倒したければ、我が剣を折って見せろ!」
「よっしゃあ! メロンボール、回復や! あのアホをたたき起こして、戦わせるんや!」
「任せて。さあみんな、信仰を!」
メロンボールが両手で掲げた星が戦場を照らす。鉤鼻鬼マアナが疎ましげに顔を細める。が、宮廷の仲間達には光が癒しを与える。倒れていたパトリオットとペティコートの傷がふさがり、勢いよく起き上がる。
「マユ! まずはナズナを助けるんだ。こいつらと戦えるのはナズナだけだ!」
び、っとパトリオットが剣を敵の陣中に示す。が、その先にはむろん、起き上がって剣を振るうナズナと、肩を並べるマユが居る。
「……やっておいた」
「何ぃ!? 俺が気絶してる間に終わらせるなんて、マユはなんて優秀なんだ!」
「普通、こういう時は国王がみずから助けに来るんじゃないか?」
「バカを言うな。自分より適任が居るのに自分がやるんじゃあ、成功の確率が下がるだけだろう」
「アホ、喋っとらんで、戦うんや!」
「ああ!」
ユナの叫びに、皆が答える。
「花散里っ!」
ナズナの猛攻が、2体の山羊頭を攻め上げる。ざくざくと無数の切り傷を山羊頭の皮膚に刻んでいく。
「残念だったな! 雑魚と違って、俺たちぁ一撃で倒せるほど弱かないんだ!」
「……そう」
その首もとで声が響く。とす、と同時に聞こえた小さな音にかき消されるようなわずかな声量。
「……ごめんなさい。二撃で倒してしまった」
頸動脈を切断され、派手に血を噴き出す山羊頭に背を向け、マユはナズナと頷きあった。
「ちっ、使えないやつ! 俺みたいに敵を追い詰めろってんだよ、なあ!」
ユナに向けてぶん、ぶん、と斧を振り回しながら、別の山羊頭が叫ぶ。ユナはちらと後ろを振り返り、ここで止めなければメロンボールの居る本陣へと踏み込まれてしまう、と考えた。
「そんなこと言うて、あんた、ぼろぼろやんか! そろそろ、休んだ方がええんと、違うか!?」
斧から逃げ惑いながら、ユナは叫ぶ。山羊の顔に下卑た笑みが浮かぶ。
「バカ言うな! 俺たちぁ、女の悲鳴を聞くためなら痛みなんか感じないんだよ! だいたい、お前らみたいな戦えなさそうなやつが、おれさまを倒せるわけねえだろうが!」
山羊頭が斧を振り下ろす。その一撃は迷宮の床を砕き、地面に突き刺さる。
「ちっ……!」
舌打ちする山羊頭が、力を込めて斧を引き抜く。勢い余って、斧を引き抜いた腕が頭の上魔で掲げられる。
「やああっ!」
ドッ。
ユナの袖に隠れていた短剣が、その胸を貫いた。山羊頭が、声もなく血を吐き出して倒れる。
「悲鳴は聞かせてやれんかったから、痛みは感じるやろ。ウチの親友にあないなことした罰や、苦しんで死にい。……それから、倒せるかどうかは気力次第やな。こういうとき、小さくて鋭いのは怖いんやで。剣も、女もな」
「ったく、使えないやつだぜ。怪我させられてるくせにうかつに踏み込むからだぜ」
ペティコートに相対した山羊頭が、苛立たしげに呟く。
「あなたたちは、味方に文句ばっかり言ってますよう」
「あったりまえだろうが! クズにクズと言って何が悪い!」
「そんなだから、やられるんですよう!」
「俺はまだやられてねえし、無傷だろうが!」
斧を振り上げ、山羊頭が斬りかかる。気迫で風が巻き上がるほどの勢いの乗った、思い一撃だ。
「きゃあー!」
叫んだペティコートが、鑓を突き出す。
その穂先は、寸分違わず、山羊頭の額に突き刺さった。
「きゃー! きゃー! きゃー……って、あれ」
「お、俺の攻撃の勢いを利用して、一撃で……な、なんて技、だ……」
血の泡を吐き出しながら、山羊頭は倒れる。ペティコートはハッとした表情で死体と化した山羊頭を見下ろし、
「ら、ラッキーヒットですよう……」
なんとなく、申し訳なさそうに呟いた。
立ち上がったパトリオットが、片手に剣を構えて鉤鼻鬼マアナと向かい合う。
「形勢逆転、だな。あっという間にお前達の軍は二人きりだ」
「……それがどうしたというのだ」
「その言葉ぁ、聞き飽きた! 喰らえ!」
パトリオットが剣を振りかざす。ナズナのように洗練されては居ないが、力強い型だ。刃がマアナの分厚い腹に深々と刺さる。
「避けられないのか? はん、大したことはないな」
「それがどうしたというのだ。この程度の攻撃、わたしには通用しない」
マアナが冷然と呟く。見る間に、深く剣で刻まれた傷の表面が泡立ち、ぐずぐずと傷を塞いでいく。数秒と経たず、傷はさっぱりと消え去った。
「何……っ!?」
ごっ!
驚愕するパトリオットの体へ、思いものが横からぶつかった。
「っ!」
ナズナだ。山羊頭の腕力に押され、ここまで追い詰められてしまったのだ。
「まずい、あたしから離れろ!」
「なんだと、なんで……っ!?」
振り返ったナズナに理由を問いただす前に、マアナの大ぶりの一撃が二人の体を吹き飛ばした。
「くっ……!」
ナズナは甲冑でなんとか受け止めながらも、さらに後方へと押しやられた。隣ではパトリオットが鼻血を噴き出して倒れている。
「役立たず……いや、戦うのはあたしの役目だったな」
両手で構えた剣を腰だめに構える。七草騎士団と共に、気合いの声を上げる。
「ゆくぞ、マアナ=ユウド=スウシャイ!」
解説編
○支配者について
迷宮キングダムの1回の探索には、1体の支配者が設定されます。
支配者とは、そのマップ、迷宮を支配しているモンスターです。支配者を倒すことで、宮廷はそのマップを奪い取ることができ、探索を終えることができるのです。
なお、支配者は普通よりもかなり強力なモンスターを配置することができます。
○絶対成功について
「迷宮キングダム」では、判定を行ったとき、出目によっては[絶対成功]という結果が出ます。
これは、判定が必ず成功する上に、気力を2点も得られるというありがたい効果があります。
さらに、戦闘中の命中判定で[絶対成功]が発生した場合、[痛打表]を振って、その効果を適用します。今回、ペティコートが一撃で山羊頭を倒したのはその効果です。
○今回登場したモンスター
【鉤鼻鬼】:小鬼の40倍の《HP》を持つ鬼族。英語で言うとトロル。強力な膂力と、ヒュドラ並みの回復能力を持つ鬼。なお、普通、【鉤鼻鬼】は精液魔法なんてものは使えません。
○今回登場したアイテム
【だんびら】:パトリオット、ナズナが所持している武具アイテムです。百万迷宮でもっともポピュラーな武器で、片手で使う刀剣なら何でも【だんびら】です。
【鑓】:ペティコートが所持している武具アイテムです。ひとつ先のエリアに攻撃できることから、前衛と後衛の間に立つキャラクターに重宝されます。
【手裏剣】:マユが所持している武具アイテムです。ダメージは少し低めですが、射撃武器としても使える上、トラップの解除判定に効果がある便利な武具です。
○今回登場したスキル
【巻き付く】:血吸い葛の所持しているスキル。射程内のキャラクターを自分のいるエリアまで移動させ、さらに回避値を下げるというニンジャ殺しのスキルです。
【好色】:山羊頭の所持しているスキルです。女性キャラクターへのダメージを上昇させます。
【鉄腕】:山羊頭、鉤鼻鬼の所持しているスキルです。ダメージを与えた敵キャラクターを、一つ後ろのエリアに移動させる効果があります。
※この作品はあくまで『迷宮キングダム』を下敷きにした小説であり、作中のすべてが原作のルールで再現できるわけではありません。