すみません
暗い部屋の中……そこには一人の女性が横たわっている……
よく見ると女性の口の端から血がこぼれ落ちている……女性は咳き込みながら愛する者達の名前を呼ぶ
「ごめんなさい……フェイト、アリシア……」
女性は涙を流しながら愛する二人の娘を呼ぶ、すると女性の体が影に包まれていく……そして、静かな空間の中……低く唸る様な声が響いた気がした……
『契約の通りコイツは貰っていくぞ』
黒い影からニヤリと白い歯だけを除かせながら影に潜む者は言った
「プレシアッ!!」
リニスは勢い良く布団から起き上がる……そして周りを見渡し自分が何処に居るのか気づく。そして少し冷静になったのか軽く息を整えると自分がもの凄い汗かき涙を流している事に気づいた……
「また同じ夢……汗……流さないと……」
涙を拭いシャワーを浴びようと浴室に向かった。
シャワー室でリニスは汗を流すためにバルブを開く……頭(こうべ)を垂れてシャワーから流れる熱い湯を浴びる。そうすれば少しは思考が冷静になるかと思っていたが先ほどから夢の内容が離れない。
すると、不意に目頭が熱くなるのを感じた……
リニスはここ数日同じ夢を見続けている。
シャワー室の中……低くくぐもった嗚咽はシャワーが流れる音でかき消された。
「ふぁあ……眠みぃ……」
あくびをかみ殺しながらキッチンに歩いてくる航。
「おはようございますマスター」
キッチンでは既にリニスが朝食の準備をしていた。テーブルの上には出来たての料理が置いてある。
「おおう、旨そうだな。んじゃあお先に一つだけ……」
そう言ってテーブルにある料理を一つだけ摘んで食べようとするが、それを見ていたリニスに注意する。
「駄目ですよマスター。ちゃんと席についてからにしてください」
面倒くさそうにしながらもリニスに言われたとおりに席に着く航。
「はいはい、んじゃあ頂きます」
そう言って食事を始めた。
「はい、ごちそうさま。旨かったぜ」
そう言いながら両手を合わせた後に食器を片付けキッチンに持って行く。
「おあいそさまです、マスター」
リニスも食べ終わり食器を片付け始める。
「んじゃ俺は部屋に戻るから」
航は自分の部屋に向かおうと扉を開く。
「あのっ、マスターお話が少しあるんですけど……」
リニスは少し下を俯いて話す。
「ん?なんじゃいな?」
航は開けた扉を閉め先ほどまで座っていたリビングにある椅子に腰掛ける。
「まあ座れや」
航はリニスにも座るように促す。リニスは言われたとおりに椅子に腰掛ける。
「で、どうした?」
航がそう聞くとリニスは一段と下を俯く。
「前話したプレシアを助ける話はどうなって居るんですか?」
そう聞くと航はああと呟く。
「まだ待てって昨日も言っただろ」
そう、リニスはここ数日、航にプレシアをいつ助けに行くかを聞いている。
「でもッ、もしかしたら今すぐ助けに行かないと大変な事になっているかもしれないんですよッ!!」
リニスがもの凄い剣幕で話す。
「安心しろ、今はまだ大丈夫だ」
「……わかりました」
渋々といった様子でリニスは納得する。
「わかってくれたなら良い、お前も疲れて居るんだろうし少しは部屋で休め。今日は鍛錬は中止だ」
「はい……」
リニスが小さく頷く
「悪いけど俺はこれから用事が少しあるから昼飯はいらない。午後三時くらいに帰るから」
航は二階から荷物を持ってすぐに家を後にした……
予定より一時間以上早く帰宅した航は屋敷にリニスが居ない事に気づくが、買い物だと思っていたが航だが、携帯に連絡しても繋がらず屋敷を探すとリビングに一通の手がもがおいてあるのに気が付く。
航はその手紙を開く。
「――クソッ、あいつッ!!」
航は走り出した。
手紙には今までのお礼と最後にすみませんと書いてあった……
数十分前
リニスは屋敷を出る為に部屋で準備をしていた……屋敷には書き置きと今まで養って貰ったお礼を書いて……
荷物と言ってもここに来たときは裸だったので持って行くものは何もなくリニスが持っている物と言えば今着ているリニスの服とここで培った戦闘経験だ。
リニスは小さく呟く……
「すみません……マスター……」
リニスの体が淡い光に包まれていく……
――今行きます……プレシア――
リニスが消えた部屋には静寂が訪れた。
彼女は迷走する自分が信じた道を―――
航はリニスの部屋に向かった。
「カナカ、この部屋の魔力残滓を辿ってリニスが行った場所に転移するぞ」
長年連れ添った相棒に話しかける。
「了解。少し待ってね……」
「解析完了、座標が解ったよ」
「よし、行くぞ。カナカ……セットアップ!!」
航の身体にバリアジャケットが展開される。
「この格好も久しぶりだな……座標はリニスが転移した場所だ……」
航の周りに黒い魔力陣が展開され転移する。
転移の時間は一瞬だった。航は周りを確認する……周りは薄暗いまるで夜明けの手前のような暗さだ。
「カナカ……リニスの反応はどこら辺にある?」
「少し待って……2時の方向にあるよ。――ッ!!魔力の反応からして戦闘しているみたい!!」
「急ぐぞッ!!」
男は闇を切り裂き駆け抜け奔走する――――
―――ああ、俺はもう失いたくない……
リニスは転移をしたあとプレシアが住む『時の庭園』に向かった。
「プレシアっ!!」
プレシアと呼ばれた女性は声に気づきリニスの方を向く
「あなた……生きていたの?」
「プレシアっ!!今すぐあなたのしようとしている事を止めてください!!」
その言葉を聞いた瞬間プレシアはリニスを睨む。
「あなたは!!アリシアを見捨てろと言うのッ!!」
――アリシア。本名はアリシア・テスタロッサ、プレシア・テスタロッサの最初で最後の一人娘……過去に事故に遇いその命を失ってしまった少女。フェイト・テスタロッサは愛娘アリシアのDNAを元に造られたクローン……プレシアはアリシアを生き返らすためにフェイトに古代の秘奥の技術が眠るアルハザードに向かおうとしている事を……だけど―――
「違います!!そんな事をしなくても貴女にはもっと間近に……すぐそばに手を伸ばせば幸せがあるんですよ!!」
――リニスは続ける
「確かにアリシアの事は悲しい事故でした……だけどフェイトは貴女の事を見ているんです何時か貴女に褒めて貰うために……だから痛いのや辛いのを我慢して……なんでもっとあの子をちゃんと見てあげないんですか!!」
その言葉がプレシアの心を打つ……
「フェイト……」
プレシアが小さくその名を口にした瞬間ソレは動き出した―――
――つまんねえなぁ……本当につまんねぇ―――ー
その声が辺りの空間にゆっくりと染みこむ……
――あと少しだって所で本当につまんねぇ事してくれたなぁ―――
声の主が苛立ちと不快感を強める。
そしてソレは現れた……ゆっくりとプレシアの影から
「やあやあやあやあ、お嬢さん。初めまして」
その影から出てきたのは人の良さそうな男性だった。
男は口を開く。
「まぁ……プレシアには眠って貰おうかな」
そう言うとプレシアの身体から力が抜けてその場に倒れそうになるところを男に支えられて近くにあるイスに座らせる。
「ええと……あらためまして、初めましてお嬢さん……」
男は人の良さそうな笑みをしながら手を差し出す、リニスは怪訝に思いながらその手を見つめ身構える。
「そしてさようなら!!」
「――ッ!!」
リニスが避けられたのは航との日頃の訓練で身についた条件反射と言っていいだろう……
リニスが居た場所の地面だけ何も無かったかの様にくり抜かれていた。
「っち、避けやがったか……テメェのおかげでコイツ揺れていやがる、……余計な手間かけさせやがって」
そのセリフにリニスは背筋を振るわせながら身構える
「どういう事ですか?プレシアに何をしたんです!!」
リニスが男に問いたださす
「何って趣味だよ趣味。いや、お互いの利益が一致した利用関係ってやつだ」
男はヘラヘラ笑いながら言うその瞬間リニスの中のなにかが切れた。
「――ッ。ハァァアアアア」
足下に魔力をまとい男に向かい拳を振りかぶる。しかしその拳は男に当たることなく空を切る。
男はこちらに手を向ける。そしてその瞬間空間が揺らぐ。リニスの背筋に寒い物が走りリニスはその場を飛び退く。するとリニスが居た場所が陥没する……いや、正確に言うのならリニスの居た場所が喪失する。
「(空間が圧縮された?いや、私の居た場所が丸ごと切り取られ――ッ!!)」
リニスが考えているとリニスの腹部に衝撃が走る。数メートル吹っ飛ばされてリニスは自分が殴られた事に気づく。
「何でかなぁ…空間攻撃だけが避けられるな……」
男は訝しげに呟く。
そしてまたリニスに殴りかかる……
ソレは一方的なワンサイドゲームだった……殴る蹴るそしてまた殴る。
ついに立てなくなり膝をつく……
「仕方ない、それじゃあ普通に殺すか」
男は近くにあった木に手をかけ力任せ折る、先端はそれなりに鋭い
「これで串刺しにするか」
男は呟きながらリニスを見る。そして持っていた木を動けないリニスに投擲した。
――プレシアすみません……そしてマスターも――
リニスは自分の死を覚悟して目を瞑る……そしてこれから自分の身体に来るであろう衝撃に身体を強張らせる……
しかし、いつまで経っても衝撃が来ない事を不思議に思い瞼を開ける。
するとそこには自分に向かって投擲されたであろう木が粉々に砕け、男が居た場所に数本のナイフが刺さっていた。
「ちッ、邪魔しやがって。誰だ……」
男は苛立ちながら周りを見るが誰も居ない……、リニスも周りを確認するが誰も居ない、そんな中どこからともなく幾つかの丸い球状の物が自分の近くに向かって飛翔するのが見えた。そして球状の物は勢いを失い地面に落ちると鈍くくぐもった音と共に白い煙が一瞬で辺りを埋め尽くし数メートル先すらも視認が出来なくなる。
リニスが混乱しているといきなりリニスの身体に衝撃が走った。
それは、赤褐色のコートを着たマスターが私を担いでいました――
「ふう、間に合ったか……」
航は肩にリニスを担ぎながら呟く……
「マ、マスター!!どうしてここに?」
航はリニスの口を塞ぐ。
「あんまり大きな声を出すな、こっちの場所がばれる……何のために煙幕を張ったかわかるだろ?」
無言でリニスは頷き、今度は小さな声でリニスは聞いた。
「何でマスターがここに?」
「そりゃあお前を連れ戻しに来たに決まってるだろ」
それを聴きリニスが身体をばたつかせる
「放してくださいマスター、私はプレシアを助ける為に――」
「今は諦めろ……」
それを聴きリニスはまた身体をばたつかせる
「それじゃあプレシアが――」
「――二週間だ、いや十日。あと十日間待て。それにお前の身体もボロボロだろ」
そう言って航はリニスに手をかざすとリニスは自分の意識が遠のいてくのを感じた。
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