4月1日03時14分に少し編集しました。
4月3日に修正しました。
リニスと航は帰宅してすぐリビングでプレシアの自宅に向かう準備をしていた。
「リニスこれをその服の内側に着ろ」
リニスに黒いモノを投げる。リニスはなんとかキャッチしてそれを広げる。
「これは……服ですか?」
渡されたのは黒いインナーのような服だった。
「そうだ、それをその服の内側に来ておけ。一応、防護服のようなモノだと思ってくれればいい」
リニスは渡されたインナーを着込もうと服を脱ごうとするがあることに気付く。同じ部屋に男性が居ることに。リニスは何か言いたげに航の方をチラリと見る。すると航はその視線に気づいたのか目が合う。そしてリニスが言いたい事に気づく。
「俺のことなんか気にすんな。第一お前の裸なんぞ興味ない」
一応、女性なのでその言い方にカチンと来るモノがあるが、リニスは服を脱いでインナーを着る。
「あの……マスターは着ないんですか?」
「俺は元から着ているから着る必要は無い。よしっ、これでこっちは準備は出来た」
航は内側のホルスターにそれをしまう。
「マスターッ!!それは……」
見間違うことはなかった。鈍く黒光るそれ明らかに質量兵器だった。
「これか?武器は多い方が良いからな……」
「まぁ、使わないに超した事は無いけど、万が一って事もあり得るからな……」
胸のホルスターの重みを感じながら航は続ける。
「お前も準備が出来ただろ?予定より四日早いけど行くか……」
「はいッ!!」
「んじゃあ行くよ」
腰に差してあるカナカの声を合図に魔方陣が展開される。
その瞳に決意を灯してリニスは転移した。
「おし、着いたぞ」
転移した先は時の庭園の入り口。プレシアを管理局よりも早く確保しないといけない。
「ちょっと速く移動するからついて来いよ。それと、そこの穴には気をつけろよ。お前なら知っていると思うが……」
「虚数空間ですよね」
航の言葉を遮りリニスは答えた。
「じゃあ行くか…・・」
リニスは静かに頷いた。それを見た航は無言で移動を開始した。
――プレシア、フェイト、今行きます
一匹の山猫と一人の廃人は動き出す。
フェイトは使い魔アルフと一緒にある場所に来ていた。ここに来ることは容易で無いことが彼女たちの服装から見たとれた。服の至る所は破け皮膚のあちらこちらには擦り傷、切り傷ができている。何故少女がこんな姿になってまでここに居るのかと言うと、ひとえに母の為であった。自分の母を救いたいという気持ちだけでここに居た。――そう、プレシアの前に。
プレシアは眼前に居る娘に目を向ける、が咳き込み喉の奥から鉄くさく生暖かい物が込み上げて来るのを感じる、口に当てていた手のひらの中には紅い液体が付着していた。
「母さんっ!!」
フェイトは母を心配して声を上げるが、そんな娘を冷たくあしらうかの様に話す。
「もう何処えでも行きなさい……貴女に用はないわ……」
その言葉を受け、顔を一瞬歪めるが瞳に決意の色を宿して母を見つめる。
「母さん、私は失敗作、ただの偽物なのかもしれません。アリシアになれなくて期待に応えられなくて、居なくなれって言うなのなら遠くに行きます……」
「――だけど、生み出して貰ってから今までずっと、――今もきっと……」
少女は続ける。ただ……ただ……純粋な想いを抱いて。
「母さんに笑ってほしい、幸せになってほしいって気持ちだけは本物です」
少女は手を差し伸べる。
「私の――フェイト・テスタロッサの本当の気持ちです」
プレシアの心にナニカが打ち込まれる、その言葉はとても心に響いた。そしてゆれた。プレシアの口から不意にフェイトと声が漏れそうになった所でソイツが声を上げた。
「――いつまでクソつまらねェお遊びやってんだ」
影から声が漏れる。その声色は明らかに苛立ちを含んでいる。
「まったくプレシアの心が思いっきり揺れているじゃねェか。ホントにここまでするのにどれだけ時間がかかったのか解っているのかねェ」
プレシアの影から男が現れる。男はプレシアに手をかざすとプレシアは音もなく倒れてしまう。
「クソガキてめェのせいだ」
男は近くにあった瓦礫を宙に浮かせフェイトに投擲した。
フェイトは防御が間に合わないと理解し目を瞑る。
『立派に育ってくれましたね……フェイト……』
――声が響く。優しく包み込む様な、遠く、懐かしい声が
「――えっ?」
聞き覚えのある声に驚きフェイトは目を開く。
そこには防御魔法を張っている人影が映る。茶色がかった髪と耳、そして尻尾を持つ、かつての家庭教師がいた。
「リニ……ス?」
「そうですよ。フェイト……久しぶりですね」
二人でやりとりをしていると苛立った声が聞こえる。
「邪魔しやがって……クソが」
男は足下で眠るプレシアを余所にリニスとフェイトを睨む。それと同時に先程より大きな瓦礫を複数宙に浮か投擲する。その数およそ数十。
「――死ねッ!!」
リニスとフェイトはシールド魔法を展開するもやがてピシリと罅が入る。やがてシールドに限界が来る。リニスは駄目かと思うが急遽瓦礫の雨がやむ。
「良くやった、リニスッ!!」
航は地面に伏していたプレシアを担ぎリニスの方向へと駆ける。
「――なッ!!クソがッ」
男はすぐさま航を止めようと瓦礫を投擲する準備をするが、航はそれを見越して手に握っていたスイッチを押す。
「がッ!」
突然男は鈍い声を上げる。男は自分の腕を見つめる。腕に穴が開いていた。腕から血が流れ床に滴り落ちる。
「プレシアを預かってろ」
プレシアをリニスのそばに居た少女に預けるに預けさせる。そして目の前の男に対峙する。
「よくもやってくれたな、下等種」
男は憎しみを込めてこちらを睨む。穴が開いていたその腕からはもう血が流れていない。
「よお、中位種」
俺は目の前の中位種に不適な笑みをみせる。すると男は何かに気付いたかの様に笑う。
「貴様……遭遇者か?」
「気付いたか……まぁ、似たもんだ」
懐かしい言葉だな。
――『遭遇者』
上位種に認められた存在。何かに秀でた者がその称号を貰い、その存在を天界に召し上げられる。稀に、上位の存在に遭遇しただけの者がいる。
「上位種に認められた存在が何故ここに居る」
「遭遇……者?」
リニスは訝しげに聞く
「そうだ女。遭遇者とは俺の様な上位の存在に認められた者だけが得る称号だ。全く、そんなヤツが俺の楽しみを邪魔しやがって」
そのセリフに違和感を覚える。コイツは今なんと言った?その疑問が全てを解決する。成る程……悪趣味なヤツだ。
「それよりも、お前……アイツらに干渉したな」
「だからなんだと言うんだ?」
「それもかなり干渉しているだろ」
「俺の予想だが……コイツはアリシア・テスタロッサの存在に大幅に干渉している。事故で愛する娘が死亡。そこでお前がプレシアに出会う。ずいぶんタイミング良すぎるだろ。性格が悪い俺にはこの関係を疑わずにはいられないね」
「しかもお前、今回が初めてじゃ無いだろ。どうだ上手かったか今まで喰らった魂の味は?」
「ああ、最高だったぜ。精神を弄って兄弟で殺し合わせ、生き残った方の精神を戻した時の魂も、体の病気で手足が動かなかった子供が必死になってリハビリを繰り返してようやく回復の兆しが見えた時に手足を切断してやった時の魂も」
今までの行為を嬉々として語る内容を聞いて顔を青くさせるリニスとフェイト。
「ああ。全部、旨かった。極上だった。最高だった。イヒッ、ヒヒヒ」
顔を歪ませて笑う上位種。気味の悪い笑い声が木霊する。
「残念だったな」
と航が続ける。
「今回でお終いだ。お前を消してやる」
航は中位種の後ろに高速で移動し斬りかかる。
しかし、避けられてしまう。そして中位種が身体をひねって回し蹴りをしてくるが、それを躱す。
「……チッ」
攻撃が当たらない事が頭に来たのか中位種が舌打ちをもらす。
俺も内心舌打ちをもらす。どうやらコイツは能力だけじゃなく体術もかなりの物だ。
いい加減、覚悟を決める。もちろん舐めてかかったてた訳じゃない。俺は頭の中のスイッチを入れ、思考がクリアになって行くのを感じる。
「リニス、そこのガキも、もう少し下がっていろ。邪魔だ」
リニス達を巻き込まない為に少し離れさせる。これで少しは暴れても大丈夫だろう。相手との距離を計算して踏み込む。
複数の魔力弾を生成し撃ち込む。もちろん、これは囮だ。本当は接近戦に持ち込むための布陣にすぎない。
初手の魔力弾は難なくいなせたらしいが、俺が接近戦に持ち込むと、やはり対応が少し遅れたが迎撃しようと拳を出してくる。が、俺は相手の拳の動き、筋肉の動き、重心。全てが頭に入って相手の次の動きが解る。それに合わせて自分は攻撃すればいい。数発の拳と蹴りが入り男は後ずさる。あと一歩。
「ぐッ!!」
男が一歩後ろに下がると苦しそうな声を上げる。それと共にその場から地面と肉が削れる音が炸裂する。
遠距離からの手動で指定した場所を狙撃する装置をセットしといてよかった。
おかげで隙が出来て接近する。カナカを使って一瞬の内に五体をバラバラに切断し間を開けずに肉片に魔力弾をぶつけ粉々に粉砕する。
これで戦いは終結した。
プレシアが使おうとしていたジュエルシードを全て回収してカナカに封印させる。
「よし……これで一段落ついたな。終わったぞリニス。これから家に――」
「マスターッ!!」
あれ?
世界が揺れる。地面が上になり空が下になった。リニスを見る。リニスが逆さに立って居た。……お前、いつの間にそんな変な風に飛行魔法を使ってんだよ。
ザッ、ザッと歩みを続ける。
砂漠の砂を踏みしめる時の独特な音。
『―――やる』
呪詛を呟き続けながら歩みを進める。
砂嵐が強い、口に砂が入ったが関係ない。
少しでも魔力を温存する為に魔法は使わない
『……あと少しだ』
ザッ、ザッ。
ザッ、ザッ。
砂嵐がが止み視界が晴れる。
『――見つけた』
小さく見える人影の集団。
『殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる』
脚を進める。
ザッ、ザッ。
一歩ずつ確実に。
『殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる』
呪詛を呟く。
――――待っていろ。
暗転
意識を取り戻す。
――寝ていたのか。
「あ、ああ」
なんつー夢だ。
――最悪の目覚めだ。
自分が倒れた事に気づいた。下半身の辺りが生暖かい水たまりに浸ったかのような感触。自分の脇腹に穴が開いている。
どうやら空間攻撃で身体の一部を持っていかれたみたいだ。
その事に気付くと途端に激痛が走る。
「――がッ、ぁ」
喉の奥から鉄臭いモノが込み上げて来る。どうやら消化器も傷つけたみいたいだ……
「大丈夫ですかマスター!!」
プレシアを、そばに居た少女に預けリニスが駆け寄って来ようとする。
「来るな!!」
幸い声は出た。
俺は身体に力を込めて立ち上がり、後ろを確認する。中位種が立って居た。
「ゴミの癖によくもやってくれたな……まずは、そこに居る貴様の知り合いから殺してやる」
腕を前に向けてリニス達の方に向けて中位種は攻撃の態勢に入った。
――妨害、間に合わない。――ならッ!!
脚に力を込めてリニス達の方向に駆ける、妨害が間に合わないならば空間に作用する力だけ切り裂けばいい。カナカで空間を斬る、周りの者から見たら何もない所で刃物を振り回しているだけに見えるだろう。
「なッ!!」
中位種は驚愕する。本来自分しか分かり得ない空間を当てそこに作用する力だけ切り裂いたと。そして気付く。目の前の男の瞳が蒼く輝いていたことを……そして空けたはずの脇腹の傷が何事も無かったかのように塞がっていたことを。
――ズキン。ズキン。ズキン。
頭痛がする。頭の中が少しだが痛む。喉が渇く。
『直死の魔眼』
万物は存在している限り壊れる。モノには壊れやすい場所があり、それを視覚情報にする能力。
世界がつぎはぎだらけになる。そのツギハギの先には点もすらもある。
ドクン、ドクン、ドクン。
心臓の鼓動が早まっていく。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。
身体が熱い。
――ああ。喉が渇く、そして目の前の存在を毀(こわ)したい。五体をバラバラにして血を啜りたい。自分が興奮していくのが解る。だから手遅れになる前に命令する。
「カナカ、鎮静剤を俺に投与しろ」
自分の理性が保てる内にカナカに命令を下す。
「りょ、了解」
カナカからの返答と同時に目の前に注射器が現れる。それを掴み首に刺し中の液体を体内に注入する。
「ふう……」
意識が冷めてくる。目の前の中位種に目を向けた。
航は出来るだけ目の前の敵性存在を殺す事だけ考えた。
目の前の男と目が合う、後ろに立っている女がマスターと呼んでいた男。
なんだあれは、なんだあの眼は!!俺の中身(存在)を見透かされるような、この気持ち悪い底冷えするような感覚。気持ち悪い、俺の中の何かが自分に告げる。逃げろと……
中位種は一歩後ずさる。
その瞬間腕を切り落とされる。一瞬で間合いを詰めた航に切り付けられたのだ。そして今度は脚を切り落とす。
航はさらに次の工程に移った。
私は夢を見ているのでしょうか……。確かに目の前でマスターのお腹に穴が空いていたはずなのに先程の出来事が夢のように、何もななかったかのようにマスターは中位種と呼ばれた男性の腕を切り落としていました。それに……あの眼、蒼く輝くマスターの瞳、なにか解らないけど……コワイ。
そんな、底知れぬ恐怖を抱きながらリニスは航がさらに踏み込むのを見続けた。
腕を切り落とした次は脚を狙う。
しかし避けられる、もちろん今ので仕留められるとは思っていない。斬りかかる前に用意していた魔力弾を放つ、しかし寸での所で魔力弾が消える。どうやら魔力弾があった空間ごと消し飛ばしたらしい。今ので相手の注意が逸れたのでさらに接近しつつ攻撃をする。
「ぐッ!」
打撃が入り苦痛の声を上げる中位種。先程の打撃に次いで蹴りも与えるが躱され距離をとられる。
「――チッ!!」
空間攻撃を受けないように動き回りつつ魔力弾と投げナイフで牽制する。迂闊に近づけないな……。
――なら、中距離攻撃に移るまでッ。
魔力弾を撃ち込みながら銃弾もお見舞いする。しかし躱されるが問題は無い。今のは相手を動かす為だけの囮だ。
「カナカッ!!」
「オッケー!!」
カナカの返事と共に中位種が居た場所が爆発する。そこには先程仕掛けた少量の爆薬。勿論、爆破は大きくはない。しかし爆風で飛ばされた瓦礫までは捌ききれなく。中位種の身体には複数の鋭利な瓦礫が刺さっている。
相手が体勢を立て直す前に接近する。接近する此方に気づいたのか中位種は驚愕の色を露わにする。
だが――遅いッ!!
持てる全ての力を使い中位種の残った四肢を黒い線をなぞり切り落とす。これで再生はできないはずだ。
「――でッ――テメェ!!汚ぇ――ぞ!!」
憎々しげに此方を睨む。だが……そんなのは関係ない。
「こんな事が許されると思ってるのかッ!!」
目の前に居る存在が醜くわめく。四肢は既に無く芋虫の様に無様に。
「――許されるんだよ。お前も存分に愉しんだだろ」
静かに言い放つ。無言でこちらを睨みつける目の前の存在を蹴飛ばす。
「――あっ……」
いきなり訪れた無重力に声が出ないようだ。そして自分が現在重力に従って落ちていることに気付く。
「テメェ……絶対に殺してやる!!絶対にだ!!」
必死の形相でこちらを睨みつけながら叫ぶ。
「絶望を与えてやる。何処に居ても絶対に!!」
落ちていく存在に向け投げナイフを投擲する。ナイフは直線に飛んでいき、中位種の黒い線に繋がっている黒い点に吸い込まれていった。
すぐに踵を返し駆け足でリニスとプレシアの所に向かう。
「リニスッ!!」
倒れて居るプレシアの側にいるリニスに話しかける。
「マスターッ!!プレシアがっ……、プレシアがっ……」
意識の無いプレシアの首筋に指を当てる。……脈も薄い。次に瞳孔を確認する為に、カナカにライトを出すように命じる。瞳孔の反応も鈍かった……
「反応が微弱だこのままだと危険だ……すぐに転移すんぞ!!」
魔方陣を展開したときソイツはやってきた。
「管理局だ!!取り敢えずここは危険だ、悪いが着いてきてもらえないか」
有無を言わせない雰囲気。クソッ!!既に職員に囲まれているだろうし、もし囲まれていなくともサーチャーでこっちの様子を見られているはずだ……変身魔法を使わなかったのは痛いな……
「おい、、見ているんだろ」
『あら、気づいていたのかしら?』
何もない空間から画面が現れる。画面に映るのは緑色の髪をした女性。
「確信はなかった。ただ俺なら監視する……だからだ」
『なるほど。時間もないのでこちらに来て頂けますか?』
「こっちにはその言葉に従う義理も義務もない」
『そちらのプレシア・テスタロッサは次元犯罪の容疑がかかって居るのですが。体調の悪い方も悪いようですし。こちらで、しかるべき治療と対応を行う義務があります』
チッ、仕方ない……ここで管理局とやり合うのはマズイ
「……理解した。リニスこいつらに着いていけ。俺もすぐに後を追う」
(リニス、俺たちの情報は言うなよ)
(えっ?ちょっと!!マスターッ!?)
リニスが何か言おうとしたが、その前に転移した。
時の庭園の内部に転移した航は辺りを駆け回った。時の庭園が崩れるまで数分。その数分で探さなければならない、アリシア・テスタロッサの魂を……。あの中位種のことだ、何かしらの工作、又は魂をどこかに捕らえているはずだ。そうでなければならない。肉体は無事なら自然と魂は肉体に引かれなければならない。
直死の魔眼を切らずに走る。
そして遂に最下層の付近にある綻(ほころ)びを感じた。一回魔眼を解く。何もない空間だった。
何もなければ本来そこには線が見えないはずだ。線をなぞる。するとそこから小さな、しかし確かに力強い輝きを持つ光が現れる。
「航?」
「ここにアリシア・テスタロッサの魂が隠蔽されていた。まったく性格の悪いヤツだぜ。殆ど解らないように……というか、俺みたいなへんてこ存在じゃなければ解らなかっただろうに」
「まぁ、目当ての物は手に入れたからリニスの所に行くぞ」
そう言って転移魔法を発動させた。
アースラ内部
「それでリニスさん。アナタはフェイトさん達の家庭教師だったけど契約が切れてしまい、消滅寸前だったけど……彼、現在のアナタのマスターと出会い契約して今に至ると」
アースラ艦長、リンディ・ハラオウンはこめかみを押さえながらリニスに問いかけた。
「ええと、はい」
冷や汗をかきながらも肯定する。周りには管理局の局員が数名、リニスを見張っている。当然だリニスは管理局の警告を無視して事件に介入した張本人の一人なのだから。管理局にとっては犯罪者だ。
「おうおうおう、仲良くやってんな」
そんな緊迫した雰囲気の中に陽気な声がひとつ。
「―ーなッ!!」
「えっ!?マスターッ!?」
リンディ・ハラオウンとリニスだけでなく他の局員も驚く。
「どうもどうも、お邪魔してます。面倒くさいから構えないでね」
そう言いつつ航は手に持ってる酒瓶を呷る。すかさず周りにいた局員達はデバイスを構えようとするがリンディがそれを手で制した。
「初めまして。この艦の艦長リンディ・ハラオウンです」
「どうもどうも。中村航です。どうですか一杯?」
航は手に持っている酒瓶を差し出すが、首を横にふる。
「いえ、職務中なので遠慮しておきます」
「そうかい。じゃ遠慮無く」
そしてもう一度酒瓶に口を付ける。
「すみませんが、あなた達の事情聴取をさせて貰いたいのですが」
「ことわる、悪いけどプレシアのカルテ見せてくんね?つか見せろ」
「お断りしま――」
「あのな、俺はお願いしてるんじゃない。命令してるんだ」
瞬間、夥しい程の魔力弾が現れる。不敵な笑みを浮かべてリンディに話しかける。リンディは適わないと悟る
「マスターッ!!」
「俺も愛と平和を愛する一般市民だ。無駄な争いは避けたいと思っているんだ。なにも無罪にしろなんて言ってない。」
ふてぶてしく自分を一般市民だと言う。
「――わ、わかりました。今すぐに資料を――」
「いや、やっぱり俺が直接出向くから連れて行ってくれ。」
「……では、こちらに」
リンディの後ろについて行く航。リニスの方を向きお前もついてこいと告げる。
案内された部屋は白く清潔を保たれた部屋だった。その中にあるベットの上に横たわる一人の女性。肌の色は血の巡りが悪いのか薄紫色。静かに寝息をたてる。
「ここです。カルテなどはこの艦の医療スタッフの彼に聞いて下さい」
ベットの隣に立つ男性を指し示す。
「どうも」
素っ気ない挨拶をかわしすぐにプレシアの身体を触診する。上から順に胸、腹部と下に続いていく。
「すいません、少し聴診器借りれるか?」
そばに居た男性から聴診器を受け取り、心音、そして各臓器の上を指で叩き音を聴く。
顔は向けずに話しかける。
「病名を聴いてよろしいですか?」
隣に居る船医から病名を聴く。航が予想していた通りの病名だった。
「はいよ、サンキュー。だいたい間違えて無い。進行具合も第Ⅲ期(末期)だな。余命は少なく見積もってあと数日……」
聴診器を外し、船医に渡す。
「ここの設備で後三日持たせてくれ。それさえ出来れば治療の余地がある。艦長さん二日後に有給取ってくれ、お互いサシで話そうぜ。場所はこっちで指定する」
そう言って航は踵を返し転移用の魔方陣を展開する。
「行くぞ、リニス」
「は、はい!!」
リニスが魔方陣の中に入ったことを確認して起動する。次の瞬間、リニスと航は管理局にばれないように複数の場所に転移しながら帰路についた。
自宅に戻ると航はすぐに自室にこもった。リニスが話しかけたがそれにも目もくれずに急ぎ足で自室の扉を閉めるときに「メシは適当に作って扉の所においてくれ」といい扉を閉めた。早速自室に戻った航は隠し部屋に直行した。
「んじゃあ早速コレを培養液に入れますか……」
そう言って手のひらにある物を培養液に入れる。プレシアの髪の毛だ。
「カナカ、遺伝子の解析よろしく。幸い、病は遺伝性じゃないから内臓の細胞だけ培養する」
「了解ー」
「培養は二日目の朝には終わると思うから。そしたら翌日の昼頃には手術をするから、血液型とか麻酔に対するアレルギー反応の有無の確認も任せた」
「はいはいー」
「こっちはこっちで、やることやってるから」
・・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
航が自室に籠もって二日目の朝、リニスは言われたように食事を毎回扉の前に置いている。使い終わった食器は次の食事を持って行ったときには扉の前に置かれている。
今も朝食を作っている最中、朝なのでなるべく重い物は避けて魚を使った料理にしている。香ばしい魚を焼く薫りが鼻孔をくすぐる。焼き魚を裏返し、味噌汁をかき混ぜる。
「はぁー、腹減ったー」
唐突に静かなキッチンに響く声。陽気な足取りで調理場に近づく。
「マスター、何してたんですか?今まで部屋に籠もっていて……」
リニスのたしなめる様な声に、出来たてのだし巻き卵をつまみ食いしている航は顔を向ける。
「んー、プレシアを治療するために色々やってた」
リニスは航の何気ない優しさを嬉しく思ったが。その反面悲しい気持ちになった。
「マスター……、多分プレシアはもう……」
過去にリニスはプレシアのDNAマップを持ってミッドの病院に行ったのだ。そこで医者に回復は見込めないだろう。特効薬もなく合っても全身に腫瘍が転移していて手術は難しいだろうと言われた。
「いや、安心しろって。直せるよ。なんたって俺は無名のブラックジャック(無免許医)なんだぜ?」
「ふふふ、あんまり面白くありませんよ」
うっすらと涙を浮かべながら笑う。
「まぁ、メシ喰おうぜ。その後にやりたいことも有るし」
時刻にして昼頃、リンディ・ハラオウンはレストランに一人でいた。航に言われたとおりサーチャーも付けずに、有給を取り窓際の景色の良い席に座って。
「やぁやぁ、少し遅れましたかな?」
陽気な声を上げながら正面の席に座ろうとイスを引く者が一人。
「いえ、私もそこまで……」
リンディは驚いた。目の前に居る男性はつい二日ほど前に会った航とは全然違う。適度に整った無精ひげ、顔は少し渋く髭と合わさってとてもゴツイ。
「ええと……、席を間違えて無いかしら?」
「いやいや、そんな筈は無いよ。リンディ・ハラオウンさんで合っているかな?」
「ええ、合っているわ。それよりも……」
「あなた……どこかで合ったことない?」
「いや、俺と君は初対面の筈だが……。俺はアイツからある物を君に渡すように頼まれているんだ。俺はショーン・アーチャー俺の事はショーンと呼んでくれ。それはそうと、少し食事させて貰えないだろうか?ここは全て俺が持とう。なに遠慮せず食べてくれて構わない」
「そう、彼が……」
ジョンは近くに居たボーイを呼んでメニューを指し示した。
場所は変わり、リニスは高層ビルにあるホテルの一室に居る。その手には望遠機能のあるカメラ。カメラは向かいのビルにあるレストランを捉えている。
はぁ……、マスターは一体何を考えているのでしょうか……、いきなり男性に変装したかと思うと、女性との食事の風景をカメラに撮れなどと言って。
疑問に思いつつもその光景をカメラにおさえる。小気味の良いシャッター音が数回。リニスが航に言われたのは二つ、楽しそうに食事している風景と茶封筒を渡した瞬間を撮ること。
食事を終え、航が茶封筒をリンディに渡し、航は席を立ってレストランを出て行ったのを確認する。するとすぐにリニスのケータイが電子音を上げる。
「はい」
『ああ、俺だけど写真撮れたか?』
「はい、一応とれましたけど何に使うんですか?」
『それは明日のお楽しみだ、取り敢えず今日は帰るぞ』
「この後会うのでは?」
『あの茶封筒の中には一言だけメッセージを入れておいたんだ。明日会おうって』
「はあ……」
リニスはイマイチ納得のいかない声を上げる。
『まっ、本番は明日だ。今すぐそこから引き上げてくれ。屋敷で落ち合おう』
「わかりました」
翌日
「おじゃましまーす。リンディ・ハラオウンさん居ますかぁー」
時空管理局の次元潜行艇アースラに陽気な声が響いた。
「マスター……いえ、もう何でもありません……」
リニスは溜息をつきつつ、痛くなるこめかみを押さえた。日頃から航に振り回されているせいか、いつもより疲れて居るように見える。
「なんですか?」
リンディは航の来訪に驚かない。なぜなら昨日、ジョンに変装した航が渡した茶封筒に『明日の昼頃におじゃまするわ。』とルーズリーフに書いてあったのが一枚入ってあった。
「どうもどうも、プレシアさんを治療しに来ましたー」
「すみませんがそれは無理です。彼女は先日の事件の重要参考人ですので面会は無理です」
「ええー、そんなこと言っちゃうの?本当に?僕も一般市民として悪い人を通報しようかな……」
「悪い人ですか?」
「そそ、今俺の前にいる、緑色の髪の毛をした人なんだけどね」
「何が言いたいんです?」
いい加減、航の物言いに苛々してきたリンディは語気を強める。
「いやあ、俺カメラが趣味でね。たまたまこんな写真を撮っちゃったんだよね……」
航が持ち出したのは昨日の食事風景を写した写真だった。
「ここに映ってる男性って俺どこかで見たことあるんだよね~。ちょっと疑問に思って調べてみたら……」
そう言って航はリンディに二枚の紙を見せる。するとリンディの顔がたちまち青くなっていく。僅かにリンディの口が震える。昨日リンディと食事をしていた男は次元犯罪者だった。しかも現在も逃亡中(・・・)の。そしてもう一枚ある紙にはリンディ名義の口座にお金が普通では無い金額が振り込まれていた。
「そんな訳で俺たちお友達だよね?」
終わった……。
この写真を公表されればリンディに対して逮捕状がでる。公表はされなくても一生この男に顎で良いように使われるだろう。そんな思考の渦に巻き込まれているリンディに追い打ちをかける。
「そういえば、息子さんも居たよね?」
「なにが望みかしら?」
一瞬で思考を切り替える。
「そう睨まないでくれよ。俺たち仲良しじゃん。安心していいよ。そんなに無理なことは頼まないから。俺が要求するのは二つ、ププレシア・テスタロッサとフェイト・テスタロッサの解放と俺たちの事は口外しないで欲しいな。出来るよね?」
「二つ目はまだしも一つ目は無理よ。あなた達が来る前に事件として本局に指示を問い合わせたの、その時の記録が残っているから……」
「じゃあ、民間協力者として協力したって事で、ロストロギアは危険な物なので偶然その場に居合わせたプレシア、及びフェイト・テスタロッサが回収いしょうとしていたが行き違いがあったって筋書きならいけるよね」
「わかりました。そのようにするわ。この事件についても箝口令を敷くわ……」
「いやあ、持つべき物は友ですな。んじゃあプレシアの所に行きますか……」
プレシアの病室に入るとプレシアは起きていた。
「どうも、元気そうだな」
「あなた……だれ?」
あちゃー、そういえば俺とプレシアは初対面でした。
「ええと、俺は――」
「プレシアっ!!」
俺に続いてリニスが入ってきた。
「貴女……久しぶりね、リニス」
「はい」
「はいはい、感動の再開はここまでだ、どうもプレシアさん。俺はコイツの現マスターってヤツだ。そしてコレからお前の事を手術させて貰う」
「……無理よ。この身体はもう手遅れよ……」
プレシアの顔に陰りがみえる。諦めている目だ。
「なら、僅かな可能性にかけてみないか?俺は自分で言うのもアレだが中々に腕は良いぞ」
「そう……ね。少しでも可能性があるならやってみようかしら……」
僅かにだがプレシアの瞳に光が灯る。
「まかせてくれ」
アースラにある手術室に到着する。手術台の上にはプレシアが横たわっている。周りには数人の手術スタッフがスタンバイしている。
「お願いがあるの……」
プレシアは弱々しく続ける。
「フェイトに伝えたいことがあるの。あの子に伝えておい――」
「そういうのは自分で伝えた方が良いぞ。手術が終わったらいくらでも時間を作れ」
「そうね」
プレシアは僅かに笑う。
「安心してくれ、この手術は絶対に成功させる」
「これより、各幹部にある疾患部移植、及び臓器移植を始める。全身麻酔、導入!!。」
静かに目を覚ます。周りを確認するとリニスが座っていた。
「……生きているのね」
「プレシアっ!!はいっ!!生きています。生きていますよ!!」
リニスは珍しく大きく声を上げる。その瞳には涙を浮かべている。
「母さんっ!!」
その声と共に小さな少女が駆け寄ってくる。この少女も瞳に涙を浮かべている。
「……フェイト」
全身にけだるさが残るが手だけは辛うじて動く、その手で金髪の頭をなでる。
「母さん……母さんっ!!母さん!!」
自分のことを母さんと何度も呼んでくれる。自分はあんなに酷い仕打ちをしたのに。
「フェイト……こんな不器用な母親で……良いの?」
少女は何度もうん、うんうんと首を縦に振る。
「ごめんなさいね、今まで……コレからは良い母親になるように頑張るわ」
母親の頬を涙が伝う。
・・・・・・・・・
・・・・・・・
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・・・・
・・
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「おう、身体の調子はどうだ?」
暫くして航が部屋に入ってくる。
「ええ、調子が良いわ」
「今は傷跡を回復魔法で少しずつ塞いでる最中だから一週間くらいで退院出来るから安心してくれ」
「そう、アナタには迷惑をかけるわね……」
「迷惑じゃないさ、それにコレは俺じゃなくてリニスのおかげだ。礼を言うならアイツに言ってやれ。俺はただアイツからの依頼でやってるだけだ」
ぼんやりと天井を見つめるプレシア。
「覚えて居るか。アイツに出会った時のこと」
「ええ、アリシアが死んでからすぐに、あの男と知り合ったわ」
「アイツは多分、お前に組入りやすい時を狙ってたんだな」
「今、思うとタイミングが良すぎるものね」
プレシアはフッと笑う。それは自分に対しての自嘲。
「これからどうするんだ?アイツから聴いてると思うがお前は無罪だぞ」
「……しばらくは、母親をやろうと思っているわ。前は出来なかったけど、今なら出来る気がするわ」
「……そうか」
「ママー」
「えっ?」
そこには小さな、フェイト……いや、アリシア・テスタロッサ立っていた。トテトテとプレシアに近づいてゆく。
「アリ……シア……?」
「そうだよー、どうしたのママ?」
「ああ、アイツがアリシア・テスタロッサの魂に干渉していたから。肉体は問題無かったから」
「ママ?」
航は持っていたファイルを机に起き、静かに病室を立ち去る。通路を歩いているとリニスに合う。
「プレシアには新しい生活のする為の住所や住民票はアイツの部屋に置いてきたぞ。ほれ、これお前の分のヤツだ」
「ありがとうございますマスター」
「おう、俺も貴重な使い魔のいろいろなサンプルを貰ったからな。んじゃコレで俺がここに居る理由も殆ど無くなったな、お疲れさん」
そのまま通り抜け右手をぶらぶら振る航。
その後ろを着いて行くリニス。
「知っていますかマスター、山猫は案外義理堅いんですよ」
くっくっくとくぐもった笑い声が通路に響く。
「物好きなヤツだな」
一人の山猫と、一人の廃人は帰路についた。
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