---闇雲那魅---
二人をホテルの一室へと連れて行った。私の昔の同僚二人が、ヤマト君達を笑顔で出迎えてくれた。大魔導士ギゲルフ・リキュールの娘、香津美・リキュールと元刑事のキディ・フェニルだ。
「お久しぶりです。香津美さん、キディさん」
「那魅、お久しぶり」
「昨晩、お話したのは、この子達です」
香津美さんは、分厚い本と一振りの剣をヤマト君に手渡した。
「悪魔と戦うのに役に立つと思う。しっかりと勉強しなさいよ」
香津美さんは母親のように優しくヤマト君を激励してくれている。香津美さんの厚意で彼女の魔力と身につけている魔術をヤマト君にコピーさせてくれた。
「今も悪魔と戦っているのは、那魅だけだものね。困ったらまた、連絡を頂戴ね。いつまでも私達は、あなたの仲間だから」
香津美さんが、私に優しい言葉をかけてくれる。
「ヤマト君とヴァーリちゃんが、今の私の心強い仲間です。またご連絡いたします」
私達は闇雲神社に戻った。
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「那魅さん、今日は、ありがとうございました」
ヤマト君とヴァーリちゃんが、私に土下座をしている。
「頭を上げてね。私はあなた達に、命を救われました。それもあるけど、あなた達の為になりたいと思ったのよ。あなた達なら、より多くの悪魔を倒せると思う。あと、一つだけ覚えておいてね、悪魔でも良い者には手を掛けてはダメよ」
「禍々しい気を放っているヤツと紅髪しか狙いません」
「紅髪の情報は、レビアさんに頼んである。分かり次第、情報が送られて来るわ」
二人は根城にしている姫島神社に戻って行った。姫島家の娘、姫島朱璃。堕天使バラキエルと結ばれて、姫島家から追放された。彼らの育ての親は、禁じられた愛を貫いた夫婦である。彼らの姉、姫島朱乃のことを調べてみようと思う。誰が彼女を殺したのか…
---ヤマト---
那魅さんと悪魔を屠る日々。でも、中には良い悪魔もいる。そういう場合は、問題を解決して、殺さないようにしている。那魅さんから学んだこと、悪魔と共存も出来るということ。お父さんとお母さんは、人間と堕天使が共存できる証拠だと言う。二人から産まれた姉ちゃんは、堕天使と人間のハーフだということも教えてもらった。
でも、紅髪の悪魔だけは許せない…
ある日、ヴァーリと散歩をしていると、紅髪の悪魔を見つけた。男性であったが、横に女性を従えていた。僕達は紅髪の男性を睨み、禁手して鎧を発現した。そんな僕達に、男性は声をかけてきた。
「君達は?」
「紅髪の悪魔よ、姉ちゃんを返せ!」
ヴァーリは相手の力を減らしていく。僕は聖なる霧で紅髪の悪魔を囲む。相手は最上級悪魔なのか、聖水の霧でも怯まない。聖水を満たした結界に閉じ込めようとしたが、弾かれた。ものすごく強敵だ。
僕は光の矢を四方八方から撃ちこむ。相手からも攻撃が…強力な魔力弾がいくつも飛んでくる。僕はサマエルの剣を振りかざして、禍々しいドラゴンの形をした気を連れの女性に放つ。禍々しい気は、女性の身体を貫き、女性は地面に倒れた。
残るはあの紅髪の男性のみ。でも、周囲から複数の相手の援軍のような気を感じ、僕達は女性を人質にして逃げる。去り際に、男性に言葉を残す。
「この人質は、姉ちゃんと交換だよ!いいな?紅髪よ!」
---サーゼクス---
久しぶりにグレイフィアと散歩をしていたら、少年と少女に睨まれて、突然攻撃を受けた。二人共、神器を持っているようで、禁手して鎧を着込んでいた。
たぶん、以前アザゼルに教えてもらった朱乃君の弟達だろう。攻撃も凄まじいものだった。最上級悪魔なら屠られていただろう。この僕が怪我をしたくらいだし、グレイフィアは完全にやられてしまった。この先、脅威の存在になりそうだ。早く和解をしないと。
僕達をガードしていた悪魔達が、グレイフィアの行方を追っている。見つけたら、攻撃をしないで、僕に知らせるように命じた。この件はリーアに非があるのが明らかだし。
以前、朱乃君と会話をしたことがある。弟達の事をすごく心配していた。朱乃君も、自分の願いの後半部分しか叶えてくれなかったリーアを恨んでいる。早く弟達を、母親がしていたように、優しく抱きしめたいといっていた。でも、彼女の願いは僕には叶えられない。朱乃君はリーアの眷属なので、例え魔王の僕にも、どうする事もできないのだ。
---ヤマト---
僕達は姫島神社に逃げ込んだ。人質にした女性を神器の力で癒していく。ヴァーリには女性が攻撃できないように能力や魔力の威力を減らしてもらった。
「大丈夫ですか?傷は治しました。申し訳ないけど、攻撃力だけは奪わしてもらいました」
意識が戻った女性に声を掛けた。
「あなたたちは?私の名前はグレイフィア・ルキフグス」
銀髪の女性が名乗ってきた。
「僕は鷲尾ヤマト、妹はヴァーリです。すみません。巻き込んでしまって」
僕とヴァーリは、グレイフィアさんに謝った。
「なんで攻撃してきたの?私達が悪魔だから?」
「違います。連れの男性が、紅髪の悪魔だったからです。僕達の姉、姫島朱乃を攫った悪魔と、髪の毛の色が同じだったから」
「あなた達が朱乃さんの弟さん達なのね?」
「姉を知っているんですか?」
グレイフィアさんは頷いた。彼女は姉ちゃんを知っていた。
「彼の…サーゼクスの妹の眷属なのよ」
「やはり、あの男、姉ちゃんを殺して攫った、あの悪魔の関係者なんですね」
その時、無数の魔力弾が、ここへ向けて飛んでくる気配を感じた。僕はグレイフィアさんを庇いながら、地下室に逃げ込んだ。
---那魅---
いきなり、ヤマト君たちが転移してきた。ヤマト君は銀髪の女性を庇って怪我を負っている。ヴァーリちゃんもだ。
式神を召喚して、姫島神社に向かわせる。しかし、姫島神社は跡形もなく吹き飛ばされていた。神社にあった神木の残留思念から、神社の周囲を悪魔に囲まれて、魔力弾を一斉に撃ち込まれたことによる爆発だったようだ。
ヤマト君が庇った女性は無傷だった。その代わりにヤマト君の怪我が酷い。ヴァーリちゃんは軽い怪我で済んだのは幸いである。ヤマト君が庇った女性、銀髪の悪魔、グレイフィアさんは、ヤマト君を介抱している。
「那魅さん、グレイフィアさんは悪い悪魔では無いから…」
ヤマト君は力のない声で、譫言のように言い、意識を失った。ヴァーリちゃんは心配そうに、そんなヤマト君の手を握りしめていた。
---サーゼクス---
彼らを根城ごと葬り去ったと報告を受けた。攻撃をせずに報告をしろと命じたのに。これが悪魔なのだろうか?自分の良いように、相手の言ったことを変えてしまう。リーアがそうしたのと同じように。
彼らの根城、姫島神社が爆発する様子を記録した映像を、僕とリーアと朱乃君とで見た。朱乃君の絶望に染まった瞳、僕は忘れられない。リーアは悪魔に楯突いた人間の末路よと笑って見ていた。そこにグレイフィアもいたことを知らないで。
朱乃君には、重ね重ね申し訳ない事をしてしまった。リーアの代わりに、僕が彼女を支えてあげようと思う。
---アザゼル---
珍しく、サーゼクスから連絡があった。
「よっ、どうした。お前から連絡があるとは」
「すまない。彼らを殺してしまった」
「彼らって?」
「朱乃君の弟達だよ」
おぃおぃ…なんてことを…そういえば、バラキエルが血相を変えて出て行ったなぁ。
「どうしてだよ?」
「昼間、彼らから攻撃を受けてね。僕が怪我をしてしまったんだよ」
「お前に怪我を負わすくらいの、力をつけていたのか?」
俺は驚いた。サーゼクスは最強の魔王といわれている人物だ。ソイツに怪我を負わすって。
「あぁ、僕達も全力で応戦をしたんだけど、グレイフィアを人質に取られてしまった」
アイツは、最強の女王といわれたグレイフィアを捕まえたのか?
「で、どうしたんだ?」
「グレイフィアと朱乃君を交換だって言われた」
「それで、お前が殺したのか?あの二人を??」
「違う。僕はその交渉を、成立させようと思っていたんだけど、僕の側近たちが先走って、彼らの住処の姫島神社ごと吹き飛ばしてしまった」
「……おぃおぃ、問答せずにか?」
「あぁ、悪魔に楯突いた人間に、思い知らせてやるって…」
「俺、お前に言ったよな?ボウズの素性をさぁ」
「あぁ、聞いていたよ。だから、アザゼル、君にどうしたらいいのかを聞きたくて…」
トップが思いやりがあっても、部下がそうだとは限らないってことだな。
「今、言えるのは、天界と最高神を敵に回したかもしれないなってことだ」
「そうなるよな、やっぱり…」
「浮かばれないなぁ、ボウズは」
---バラキエル---
膨大なエネルギーを観測して、急いで向かうと、目の前には何もなかった。そこには古びたとはいえ、姫島神社という神社があったはずなのに。
朱璃との想い出が詰まった場所…
朱乃が大きくなったら巫女になるって言っていた場所…
ヤマト達が今も住んでいる場所…
その場所が、無くなっていた。無数の魔力弾を受けたのだろう、地面がそこら中えぐれている。瓦礫さえも残っていない。ここに住んでいたヤマトとヴァーリが、絶望的なのは見て明らかだ。俺に残された最後の希望、ヤマトとヴァーリ。誰がこんなことを…許さない。許せるはずがない。
---グレイフィア---
私を庇って大怪我を負ってしまったあの子、ヤマト。人質の命を優先するって、優しいすぎるのが弱点かもしれない。彼はまだ目覚めない。怪我は除々に良くなってきているけど。
闇雲家当主の那魅さんの提案、冥界で私は死んだ事になっているので、このまま彼らのメイドとして支えてもらえないかという。那魅さんとの生活では普通の生活は出来ない。彼らには、普通の生活をして欲しいと言う。まだ、幼い故、人格が形成しきれていないので、色々な経験が出来る普通の生活を経て欲しいと言う。
私は提案を受け入れた。私を含めて殺しにきた、愛しかったサーゼクスの手下の悪魔達。私は朱乃さんの哀しみも、知っている。私も悪魔なので、悪魔の傲慢さはわかっているけど、交渉せずにいきなり攻撃なんかあり得ないと思う。
交渉の余地はあったのでは?サーゼクス…
リーアに拒否されたのかしら?サーゼクス…
私よりも、リーアを取ったのね、サーゼクス…
私はサーゼクスへの想いが薄れて、ヤマト、ヴァーリへの想いが濃くなっていく。この子達を、真っ直ぐな人間に育てて、殺戮に染まらないようにしてあげたい。那魅さんも同じ考えのようで、ここで生活したら、悪魔退治ばかりの生活で、殺戮に染まりそうで怖いって言っている。いつか朱乃さんが取り戻せるように、あの二人を助けてあげたいと、心に誓った。