---レイナーレ---
「レイナーレは生き返ると分かっていても、死ぬのは嫌かな?」
決まっているじゃない。死ぬまでの痛さがイヤなのよ!
「あぁ、死ぬまでの過程は嫌だよな」
相手の心が読める彼、シュウは何かを悩んでいた。
「じゃあ、出来るだけ、アーシアがレイナーレに接触する前に、こっちで確保してみるよ。確保出来なかったら、ごめんな。天野の姿で死んでくれ」
お願いします。確保して下さい。しくしく…
「ディオドラが裏で動いている証拠は、集めておいてくれるかな?」
え?もう話題が変わっている…
「話題?レイナーレの死に方か?」
いや、死なない方向で…思うだけで会話が成り立つのもおかしなものだ。
「アーシアと不自然に出逢うのは避けたいんだ。どうしようかな?」
考えてくれている。少しありがたい。
「こちらで確保出来ないで、レイナーレの処に来たら、連絡くれるかな?攫いに行くから。それで、ディオドラには、はぐれ天使に攫われたって報告すれば、レイナーレは安全かな?どう思う?」
「そのシナリオでお願いします」
私は彼に頭を下げた。
---イッセー---
クリス先輩は朱乃さんの淹れてくれた珈琲を、おいしそうに飲んで帰って行かれた。
「さて、イッセー。悪魔のお仕事をしてもらうわよ」
クリス先輩がいなくなったことで、威厳さが有る表情になられたリアス部長。うん?悪魔のお仕事?
「それって、何ですか?」
「リアス、あなたは昨晩、何も教えなかったんですか?」
朱乃先輩が頭を抱えている。
「うん?昨晩?寝心地をチェックしただけよ」
真顔で朱乃先輩を見ている部長。クリス先輩の読みは正しい。部長は何も教えてくれない…
「う~、悪魔稼業をして、経験や実績を積むのよ」
朱乃先輩が講義をしてくれるようだ。
「クリスのところは、悪魔稼業をしていないから、イッセーに教えられなかったんだけど」
クリス先輩のチームは、悪魔稼業が免除なのか?
「クリス先輩の眷属は、されていないんですか?」
「クリスのとこは特別なの。イレギュラーな存在ばかりで、別に悪魔で無くてもやっていけるからなのよ。ただ、それぞれが暴走して、好き勝手に何かをしないように、一応クリスの眷属にいるような感じ、って言えばいいかな」
朱乃先輩は説明しづらそうだ。クリス先輩のチームは特別編成ってことなのか。
「で、悪魔稼業とは、何ですか?」
「リアスの元に、色々な人々からのお願い事が届くので、それを叶えていくの。仕事の成果の代わりに報酬を貰って来るのよ。まず契約を取らないと、ダメですけど」
悪魔の報酬って命?
「命を貰って来るんですか?」
「命なんか滅多に貰って来ませんよ。成果に見合う報酬、お金だったり、物だったり、情報だったり、色々よ。リアス、イッセー君には、どんな仕事があるの?」
部長の方を振り向く朱乃先輩。
「イッセーには、話相手から、やってもらおうかな?」
リアス部長は、紙の束から1枚を抜き出して、俺に手渡してきた。
「まず、この人。再度呼んでもらえるように、契約を取ってきてね」
俺は魔法陣の上に連れて行かれた。
「魔力を魔法陣に注入して!」
うん?意味が分からない。なので、何も起きない。
「リアス、イッセー君に転移の仕方、それ以前に魔力の注入方法を、教えてあげたの?」
笑顔が素敵だけど、視線が冷たい朱乃先輩が、リアス部長に問うている。
「…」
能面のように表情が変わらないリアス部長。固まっているのかな。
「はぁ…、クリスの眷属になりたいなぁ」
溜息を吐いた朱乃先輩が、リアス部長にダメ出し?
「朱乃先輩、抜け駆けはダメですよ。私も祐斗先輩もギャーくんも移籍したいんですから」
小猫ちゃんが真顔で朱乃先輩に言っている。木場は苦笑いしている。リアス部長って、教えるのが苦手なのか?
「あなた達は、私の眷属なのよ!クリスのところに行ったら、上級悪魔になれないわよ。いいの?」
「私達は別に上級悪魔になりたくて、あなたの眷属になった訳では無いのを忘れないでね、リアス。私達はただ生きたかっただけ。悔しい思いを晴らす為に、生きたかっただけなんだからね」
え?納得して眷属になった訳ではないって…まさか、死に際に『もっと生きたい』って願っただけなのか?俺も死んだけど、クリス先輩のチームに助けられて、今後どうしたいかを選択させてもらった。けど…そうだよな。普通はクリス先輩のようなチームに守られている訳ではないんだから、死に際に願いを、生き返った報酬に、眷属になるという選択しかないのかもしれない。
「私達の心を開いてくれたは、シュウさんなのを忘れないでください。リアス部長。私の場合は黒歌お姉様の問題を解決してくれた恩人でもあります。朱乃先輩、祐斗先輩もシュウさんに希望を教えてもらって、こうして明るく生きられるようになったんですから」
シュウさん?クリス先輩のチームにいた人だ。あの人のおかげで俺も生き返ったものな。その後の人生の選択を提示してくれたもの、あの人だったし。
「ここで、リアス部長に言ってもしょうがないよ、小猫ちゃん。シュウさんの言う通り、明るく、毎日を過ごそう。その時が来るまでね」
木場の目つきが一瞬だったけど、すごく怖かった。
「イッセー君は、転移が出来ないみたいだから、走って行ってきてね。住所と依頼内容は紙に書かれているので、大丈夫だからね。あと、魔法陣についてはシュウさんに訊くといいわよ。新しい魔法陣を作れるくらい、知識がある方だからね」
俺は、笑顔の朱乃先輩に背中を押されて、初仕事に向かった。
---クリス---
街中を徘徊していた。レイナーレに会う為に。彼女の住処は分かっているのだけど、教会は悪魔である僕が行って良い場所では無い。僕のせいで、レイナーレに迷惑を掛けられないし。
そんな徘徊中の僕の目の前に、突然人が降ってきた?僕は咄嗟に手を出して、その者を抱きかかえた…はずだったけど、キラキラ星が見えて、勢いに負けて尻餅状態に。口に何か柔らかい物が触れている。身体には柔らかいんだけど、ぴりぴりした刺激を感じる。なんだろう?目を開けたら、目の間に、どアップの女の子の顔があった。口と口が触れているんだって思ったら、その子から離れた。初対面でいきなりソレはねぇ。
「大丈夫ですか?怪我は無いですか?」
金髪でかわいい女性だ。顔は真っ赤だけど、たぶん僕もだろう。
「大丈夫です。ありがとうございました。階段を踏み外して、落ちちゃいました」
少し涙目だ。僕は彼女の頭を、優しく撫でて上げた。
「どこか痛い場所ある?」
あっ、星が見えたなぁ。おでこ同志が出会い頭に、ぶつかったかもしれない。僕は迷わず、シュウさんを召喚した。
「おっ、アーシアがいる。クリス、ナイスだよ♪」
何の事か分からない僕。たぶんこの女性を、シュウさんが探していたのだろうことは、分かる気がする。
「シュウさん、回復魔法をお願いします」
「まかせろ!」
僕と彼女は暖かいオーラに包まれている。コブのあったおでこの痛みは無くなっていた。治療が終わると、シュウさんは彼女に近寄り
「僕はシュウ・ヨハネ、彼は弟子のクリス・グレモリー。あなたを探していました。聖女のアーシア・アルジェントさん」
シュウさんは笑顔で天使の翼を展開している。僕も負けずに天使の翼を展開していた。
「あなた方は天使様でしたか」
目を見開いた彼女の表情から、不安による陰りが消えたような気がした。