---イッセー---
アジュカさんの所から帰宅した僕達。僕は紅子に、どんな顔をして、会えば良いかわからず、散歩という名の街中を放浪していた。
何かに誘われるように、古びた教会の前に出た僕。その教会に入っていく。真っ先に目に飛び込んできたのは、とても美しいマリア像だった。僕はその像を見入っていた。
どの位、時間が経ったのであろうか?窓の外は、万華鏡のように煌めいていた。
「君の望みを叶えてあげようか?」
って、声が聞こえてきた。声を出した人を探す。その人は僕の真後ろにいた。天使の翼を持つ、目つきの鋭い男性。
「君の大切な人達から、起爆装置を取り出してあげるよ。そして代わりに、君達を護ってくれる人の駒を入れてあげよう♪」
「本当ですか…お願いします」
本当ならば、是非そうして欲しい。藁にも縋る想いだ。
「ただね。君という存在は消えてしまうけど、それで良いかな?」
僕が消えてしまう?なんで?どうして?
「君が鍵なんだよ♪未来を良い方向に導くカギだからさぁ。今という時間軸から消えるだけで、未来の時間軸には君がいるよ」
転生?
「そうだな。ある意味転生だ。ただ、記憶は失わない転生だ。ドライグが君の記憶をサポートしてくれる」
ドライグとず~っと一緒にいられるの?
「そうだ。ドライグの願いは、次世も君を宿主にしたいだ。僕は、なるべくみんなの願いを叶えてあげたい。どうする?」
「僕の未来は、どうなるんですか?」
「君の未来は、大事な者の子供として産まれ、大切な者と一緒に添い遂げるんだ。ただ、何年先になるかはわからない。何十年、何百年先になるかもしれない。こういうのは、タイミングが大事なんだよ♪」
「今、決めないとダメですか?」
「そうだよ。今で無いとダメだ。今夜中に、この世界は滅亡するから」
「滅亡?なんで?」
「君の大事な紅子さんのお兄様がね、口を滑らして、紅子さんに本当の事を言ってしまう。それにより、紅子さんの感情は暴走して、滅の力が途轍もない魔力に増大して暴発し、この世界を半壊させてしまうんだ。その後、君の両親が冥界のグレモリー家に特攻をかけるのだが、サーゼクス・グレモリーは『王』の駒を自分に入れて、魔力を暴走させて、君の両親を迎え撃つ。しかし、彼自身にも制御できない量の魔力が暴走して、この世界、いや、この星は消滅させる。それにより、星間の均等が壊れ、並行世界に歪みが生じ、他の世界も巻き込む大惨事になるんだ」
「見てきたような事を言うんですね」
なんか夢物語のようだ。信用出来るのかな?
「見てきたよ。僕は歪みの生じた並行世界から、ここにやってきた。崩壊が止められる最後の時間軸にね」
彼の目つきは鋭いままだったけど、視線はとても暖かだった。
「ウソでないんですね?」
「ウソ付きは、天使の翼を持てないんだ」
目の前の天使はそう言った。
「あなたの名前は?」
「僕の名前は…悪夢の道化師バイパーと言っておこうか♪」
「悪夢の道化師?」
「神様によって、いつも悪夢になりそうな場所ばかりに、派遣されるんだよ」
彼は苦笑いしているようだ。
「どうする?君が僕の提案を飲んでくれないのであれば、この世界を今の時点でリセットする」
「リセット?」
「破壊神に頼んで世界を破壊して、創造神に世界を1から作ってもらう。そして毎回、君が協力してくれるまで、この時点でリセットを繰り返すんだ。僕はどちらでもよい。世界の命運は君が決めてくれ」
そんな重大の決定を、僕がしないといけないの?困ったなぁ…でも、何度も繰り返すなら、ここで止めるのが良いかな。
「わかりました。協力します。提案を飲みます」
「そうか、では、紅子さんから駒を取り除いて、ヴァイラの駒に入れ替えるんだ。君の姿はヴァイラにしか見えない。君の事はヴァイラにしか記憶がない」
目の前が明るくなったと思ったら、僕はヴァイラの部屋の前にいた。ドアをノックして、部屋に入った。
「ヴァイラの駒を、僕に託してくれないかな?」
すぐに本題に入った僕。僕の姿を見て驚いているヴァイラ。
「イッセー…なんで、透けて見えるの?」
「時間が無いんだ、早く…」
ヴァイラは僕に言われるまま、駒を僕に託してくれた。僕はソレを持って、みんなの部屋に向かい、天使さんの協力で駒を入れ替えて行く。紅子には、僕の代わり、『兵士』の駒を4つ入れた。
『王』の駒セットを総て回収して、天使さんがそれらの駒を使用禁止にした。それから、ヴァイラの元に戻った。
「『王』の駒は回収して、使用出来なくしてあるから。もう、この世界は大丈夫だよ」
ヴァイラの目の間に駒を置いた。彼女は僕を抱きしめようとするが、僕の身体をすり抜けてしまう。
「イッセー、どうしたの?何をしたの?」
ヴァイラは少し取り乱し気味になっている。
「僕はいなかったことになる。でも、僕の記憶は残るみたいだ。ドライグがねぇ、一緒に転生してくれて、僕の記憶を保持してくれるみたいなんだ」
「転生?イッセーは死んだの?」
ヴァイラは驚いた顔をしていた。あれ?死んだのかな?死んだ記憶は無いけど。
「わからない。でも、転生した僕を見つけたら、優しく接してね。ドライグが目印だよ」
僕はヴァイラの唇にキスをした。僕の行動はすり抜けないみたいで、ヴァイラの唇の感触が伝わってくる。このまま、ずっとしていたいけど…徐々に感覚が無くなってきた。
僕は彼女の唇から離れて、彼女の顔見つめた。そして…
「いってきます!」
と、彼女に言って…無になった。
---シーグヴァイラ---
いつもと変わらない朝。でも、何かが違う。昨日までと違う世界のようだ。何が違うのかがわからない。
兵藤家に居候している私。家族はサタン様、ガブリエル様、私、私の眷属である紅子、朱乃、祐斗、祐子、儀助、春子である。
一人足りない気がする。とても大切な人が…
思い出せない。何かを忘れてしまったみたいだ。
何かを失った喪失感はあるものの、無情にも時は流れていく。私のチームはレーティングゲームで良い成績を収めていった。眷属とは家族として接しているので、気心がわかるので、特に指示はしなくても、思っている通りに行動してくれている。
高校を卒業して、大学に入学して、大人の悪魔の仲間入りをすると、縁談話が湧き出してきた。大公家次期当主の私。私の夫になれば、それなりの地位に就けると、こぞって縁談話が舞い込んできた。でも、私は誰とも結婚する気はなかった。いずれ、迎えに来てくれる王子様がいるような気がしたから。
大学を卒業すると、紅子は結婚をすることになった。相手は、名門フェニックス家の三男坊ライザー。周囲の反対を押し切って、兵藤家に婿入りするという。家督は長男のルヴァルが継ぐので家的には問題ないみたいだった。
月日は流れ、紅子が懐妊をした。そして、どこかで見覚えのある男の子を出産した。名前は『一誠』とサタン様が名付けた。由来を聞いたのだが、真っ先に浮かんだのが、その名前だったらしい。
『イッセー』という言葉の響きに、家族は皆、懐かしさを感じていた。なんで、懐かしいかはわからないけど。そんな名前を持つ子供を、家族みんなで可愛がり、育てていく。
そして…更に月日は流れていった。
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一誠が中学生になった、ある日。彼は私の部屋をノックして入って来た。
「ヴァイラ、遅くなってごめん。やっと、ドライグが目覚めてくれたよ」
『ドライグ』という言葉に反応して、私の記憶に掛かっていた封印が解けた瞬間だった。ようやく、喪失感の原因が分かった。記憶から抜け落ちていた断片が、そこにはあった。私が一生護ると約束した、男の子の顔が、目の前にあった。
忘れていた記憶が、勢いよく湧き出て来た。涙と一緒に。私は彼を抱きしめた。あの日はすり抜けてしまったが、今はしっかりと抱きしめられた。
「お帰りなさい」
彼の唇にキスをした。何十年かの時を重ねるように。
「ねぇ、シーグヴァイラ。どういうことよ!」
紅子が部屋に入って来た。
「突然、イッセーがあなたと一緒になりたいって…え?ドライグ…」
紅子も、イッセーの左手に発現したドライグを見て、記憶が蘇ってきたようだ。子供を見る目から、懐かしい家族を見る目に変わっていく、紅子の表情。
「イッセー…あなた、イッセーなの?今までどうしていたのよ」
泣き崩れる紅子…いや、リアス。
「今まで、ずっと、みんなの傍にいたよ。この家の座敷童子になって、転生出来る時が来るのを待っていたよ」
「いつ、死んだの?」
たしか、アジュカ様の所から帰った後だったはず。
「死んだ記憶が無いんだ。でも、願いを叶えるに、命は供物として捧げたかも」
「願い?」
「家族が幸せになって欲しいってね」
そうだ、『王』の駒セット、あれの取り出しと引き替えに、命を供物にしたのね。
イッセーは、リアスに向かって正座をして
「紅子母さん、僕はヴァイラと結婚して添い遂げたい。良いよね」
リアスは満面の笑みで、イッセーの顔を見つめて
「当たり前でしょ。イッセーにも幸せになって欲しいわ♪」
冥界を追放されて以来、見た事のなかった、紅髪の少女の笑顔が、そこにあった。
---エピローグ---
絶対神の間。
「すまなかった。今回は緊急事態じゃったからのぅ」
「緊急事態で無い事案の方が、少ないでしょ?」
「そうじゃったかな?」
「ボケないでよ。僕はまだ継ぐ気は無いんだから」
「まぁ、今回はうまく未来を導けたのぅ」
「聖杯で紅子を人間にして、イッセーにドライグを持たせたからね。また行って、悪魔に戻さないといけないけど」
「それでじゃ、また緊急用件が発生してな」
「また?カンベンしてください。たまには、家に帰りたいよ~」
凹む悪夢の道化師…