---ソーナ---
永い旅から帰って来たと思ったら、休む暇なく依頼をこなしに、次の旅に行ってしまったシュウさん。週末には帰って来るみたいだから、その時に、私達の学園を見てもらおうと思う。シュウさんの育てた、イッセー君や椿姫やヴァイラが教鞭を執っている姿を、見て貰わないとね。
シルキーも立派になっちゃって。私も頑張らないといけないなぁ。
---アイズ---
目が醒めると、疲れが残っておらず、晴れやかな朝を迎えられた。こんな朝は、何年振りだろうか。入浴剤というものは、疲れが取れやすいのだろうか。着替えて、1階に降りて行くと、彼が声を掛けてくれた。
「アイズさん、おはよう。眠れたかな?」
「はい。後ですね…私の事はアイズと呼んでください。シュウさんは団長さんなんですから」
「わかったよ。アイズ。朝食を食べたら、出かけるよ」
私は頷き、テーブルの傍の椅子に座り、朝食を取った。どれも美味しい。食べたことが無い食材、料理ばかりだけどね。
「シュウさん、今日の予定はどうします?」
ヤマトさんが、シュウさんに声をかけた。
「ヤマト達は1000階を目指して。僕は、アイズと街を探索するよ。で、明日、2つ目の用事を済ませてくる予定だ。少し戦力が要るかもしれないから、今日中により深く潜ってみて欲しい」
「わかりました」
「問題は、昨日開けた穴が残っているかだな」
「その辺りを調査してみます」
「リア、ヴァリ、調査をよろしく」
「「了解!」」
食事が終わり、彼と私で街に繰り出した。
-----
「どこに行きますか?」
「豊饒の女主人に行きたい」
うん?なんで?
「ちょっと、商品を売り込みにね」
あぅ、そうだった。心が読まれるんだ。声に出さずに、会話が成立するって不思議だ。
「アイズは声を出さなくても会話が出来るよ。僕らのファミリアで、お店を出せないって、話しをしたでしょ?なので、代わりに売ってくれるお店の開拓なんだ」
「団長さんのする仕事では無いと思いますが」
そういうのは営業担当とか、副団長とかの役目だと思う。
「僕は雑用係で良いんだ。皆が担当している仕事をやってくれてるし」
話している間に、豊饒の女主人に到着。店内に入ると、ヘスティア・ファミリアのベルとロキ・ファミリアのリヴェリアとフィンがいた。
「ミアさん、これを味見してください」
彼は、飲み物と焼き菓子を差し出した。この店の女主人のミアさんが、見たことのない飲み物、焼き菓子を試食した。
「美味しいねぇ。この店で売りたいのかい」
「食材が集まり次第、ある程度の量を持込ますので、売っていただけますか?」
「この味なら、売れるよ。じゃ、頼んだよ」
商談が成立して、私達がお店を出ようとした時、フィンが声を掛けて来た。
「昨晩はすまなかった。生き返らせたもらったのに、暴言を吐いてしまって」
フィンとリヴェリアは頭を下げて謝ってきた。
「いいですよ。僕は新参者ですし、彼のお気に入りを、手に入れたから」
え?それって、私の事?彼の言葉が続いた。
「それに、新参ファミリアの傘下になるっていうのは、屈辱でしょうし」
「いや、新参であっても、実力は一番だと思う」
リヴェリアは経験したから。
「アイズ、あの子は?」
彼が指差したのはベル君だった。確か、借金を抱えたファミリアの子だ。
「借金か…。彼の主神に会いたいな」
彼はベル君に近づき、
「君の主神に会いたいのだけど、どこへ行けば会えるかな?」
「なぜ?」
「新参ファミリアなので、ご挨拶に行きたい。君みたいな戦士を抱えている主神なら、間違いないと思ってね」
まさか…
「アイズ、逆だよ。こんな素直で正直なオーラを纏っている戦士のいるファミリアだよ。きっと素敵な神様が主神のはずだ」
オーラの質がわかるの…私もフィン達も驚いている。
「じゃぁ、付いて来て下さい」
フィン達をお店に残して、私と彼はベル君の後を追った。廃墟みたいな教会に入っていくベル君。中にはベル君の主神ヘスティア様がいらした。こんな場所にホームがあるの?
「初めまして、この街に来たばかりのシヴァ・ファミリア団長の『神殺し』シュウといいます。貴方のファミリアの借金を肩代わりしようと思います」
「え?なんで?」
驚くヘスティア様とベル君。
「彼のような戦士が仕える女神様なら、間違いなく地上に必要な神と判断しました」
ヘスティア様はシュウさんの顔を見て、
「その紋章…」
ヘスティア様の顔が青ざめていく。
「そういうことです。したがってもらえますね」
「借金を返してもらった見返りは、何を差し上げれば良いですか?ベル君だけはダメですよ」
彼に恐怖を抱いているのか、オドオドしている女神様。
「シヴァ・ファミリアの傘下に入ってください。あなた方の新しいホームも差し上げます」
「え?」
再び驚くヘスティア様とベル君。彼が、懐から扇を出して、広げて振ると私達は光に包まれて…光が消えると、廃墟だった教会が、新設した教会のように綺麗になっていた。ヘスティア様は、彼に跪き、
「ありがとうございます。最高神様の遣いの方よ」
と、お礼を言った。
「で、借金はどこにいくら返せば良いのかな?」
「バベル内にあるヘファイストス・ファミリアの店舗で、2億ほど…」
「アイズ、バベルってどこ?」
私の方を見て、尋ねてきた。
「迷宮の蓋になっている塔のことです」
「じゃ、ギルドのいつもの部屋に移動だな」
私達は、ギルドのいつもの部屋に転移した。突然の転移魔法に、ヘスティア様とベル君が驚いた。私も初めての時は驚いたもの。
「ここはどこですか?」
女神様が彼に聞いた。
「ギルドのシヴァ・ファミリア専用の部屋だよ」
部屋にある呼び鈴を鳴らすと、担当者の方が出てきた。
「ミカエルさん、3億ほど欲しいだけど」
「いきなり言われても出せませんよ。用意していないし。何に使うんです?」
「ヘスティア・ファミリアの借金を、利子を付けて返済するんだよ。どうしようかな…ギルド発行の約束手形を作ってくれるかな?」
「どこのファミリアへの返済ですか?」
「ヘファイストス・ファミリアだ」
「では、支払ってもらう税金から差し引くように、ヘファイストス・ファミリアには伝えます。それで良いですか?」
「書面でそれらのことを書いてください。口約束は怖いですからね」
担当の人が奥へ行ってしまった。
「あのう、新参のファミリアでそんなに大金があるんですか?」
女神様が心配そうに、彼に尋ねてきた。
「たぶん、今日の分を計上すると兆に届くと思うよ」
女神様とベル君が桁違いの額に驚いて、私の方を振り向いた。私は頷いた。
「私も昨日経験したんだけど、初日で900階層まで潜るファミリアですもの…」
女神様とベル君は、開いた口が塞がらない感じだった。
「もう、ウチの傘下だから、一緒に潜ってもいいよ。ベル君」
笑顔でベル君に話し掛ける彼。
「今日の目標は1000階だから。もう先遣隊は向かっているよ」
女神様とベル君の顔色は悪い。ウンウン、私もそうだったもの。
奥から担当の人、ミカエルさんが戻ってきた。
「ヘファイストス・ファミリアとは話がつきました。これ、ヘスティア様の証文です。お渡しします。あと、ヘファイストス・ファミリアと交わした証文です」
ミカエルさんより2枚の羊皮紙を受け取って、1枚をヘスティア様に渡し、もう1枚に目を通す彼。
「これで、問題が起きたら、ギルドで対処してくださいね」
頷くミカエルさん。
ギルドを後にする私達。
「やっぱり、日銭を稼がないとダメだな」
彼がポツリと漏らす。
「でも、大金があるんですよね?」
女神様が彼に尋ねた。
「ギルドの金庫を空にしちゃて、大半がまだ換金出来ていないんだよ。だから、あぁいう形での決済しか出来ないのが難点だ」
凹んでいるみたいな彼。
「こんなにいっぱい助けてもらったのに、申し訳ないんですが、もう1つ、ファミリアを助けていただけないでしょうか?」
「どこのファミリアかな?」
「私のファミリアと親交があるミアハ・ファミリアです」
「連れて行ってもらえるかな?」
「はい、喜んで」
女神様を先頭にミアハ・ファミリアのホームへ向かう。ミアハ・ファミリアと言えば、回復薬などを扱う薬局系のファミリアである。そんなに貧窮しているのかな?
「ナァーザ、ミアハはいる?」
ナァーザは犬人の女性でミアハ・ファミリアの団長ある。男神のミアハが、奥から出てきた。
「ヘスティア、どうしたんだ?珍しいなぁ」
「ミアハさんですか?新参のシヴァ・ファミリアの団長『神殺し』シュウです。よろしくお願いします」
彼が頭を下げた。
「挨拶回りかい?ご苦労様」
「ミアハ、借金の額って、後どれくらい有るの?」
女神様が本題に切り込んだ。
「なんだよ、藪から棒に。膨大な額だな」
「100億で足りるかな?」
彼が具体的な数字を出した。
「うん?足りるけど…新参のファミリアじゃ、用立ては無理だよ」
「シヴァ・ファミリアが助けてくれるって」
女神様がミアハ様に告げた。
「まさか…」
ミアハ様は彼を見つめた。
「本当みたいだな…その紋章…まさか…」
ミアハ様も顔色が悪くなっていく。
「借金はシヴァ・ファミリアで返済する。その代わり、傘下に入って欲しい。悪い話じゃないでしょ?」
「傘下に入ると、何かあるのかな?」
「傘下以外の神を送還していくつもりだよ」
「「……」」
ミアハ様と女神様は開いた口が塞がらないようだ。傘下に入らないと、大変なことになるもの。さすが、『神殺し』…言葉だけでも殺せそうだ。
「異論、反論は認めないけど、いいかな?」
ミアハ様は頷いている。
「では、ギルドに行こう」
ミアハ様と彼と私でギルドへと転移した。
-----
ヘスティア様とだいたい同じような手順で、事を進めて無事に返済できたミアハ様。
ミアハ様は彼に跪き、感謝の意を言葉にしていた。
「傘下になったらから、協力して欲しい時はお願いしますね」
「わかりました。何なりと、おっしゃって下さい」
彼の転移魔法で、ミアハ・ファミリアに戻ってきた。
「じゃ、アイズ、ベル、ヘスティアで潜るか」
顔色の悪いベル君と女神様。異論、反論を言う機会も無く、私達4名は光に包まれて、ヤマトさん達に合流した。
「ヤマト、ここ何階かな?」
「あっ、シュウさん。まだ500階です。予想通り穴は塞がっていましたよ」
「え?500階層?」
ベル君と女神様が驚いている。
「アイズ、翼を使う練習しようか。危なくなったら、助けるからね」
私に笑顔を向ける彼。
「リア、ヴァリ、新しい仲間を頼む」
「「了解!!」」
「何階まで抜けるかな?」
昨日よりも大きな石を、昨日より高く投げた。彼が呪文を唱えると、石は見えない速度で落下して地面に穴を開けていく。
「よし、降下するぞ。クリス、ガイア、シルキー、ガードを頼む」
「「了解!」」
次々に穴へとダイブしていくメンバー。私が躊躇していると、誰かに背中を押されて、穴にダイブしてしまった。背中に意識を集中して翼を展開するイメージをすると、展開できた。
「アイズ、その調子だ。翼の角度を調整出来るようにしてみて」
目の前に彼。同じ速度で降下してくれているみたいだ。
「少し速いな。今日はここまでだ」
彼に抱かれて、着地する私。耳が熱い…
「前方に敵の群れだ。シルキー、撃ち込め!」
前方で血煙が上がっているが、何かの群れが近づいてくる。
「固いなぁ。ヤマトはまだかぁ…」
クリス君、ガイア君も光の矢を撃ち込んでいるけど、まだ近づいてくる。彼は空中に魔法陣みたいな物を幾つか発現させると、ドラゴンが多数出てきた。彼はドラゴンを仲間にしているの?
「シルキーはガードだ。ガイア、クリス後退しろ。チームドラゴンを投入したから」
目の前で魔獣の群れとドラゴンの群れが戦っている。
「まずいなぁ、ここはモンスターハウスか?」
ヤマトさん、ベル君、女神様が到着した。
「ヤマト、後方から来る群れを頼む」
「了解!」
「リヴァさん、ガブ、右からの群れをやるぞ」
彼は刀を構えて、突入していく。
私とベル君と女神様は、あまりの大群の攻撃を前に、何も出来ずにいた。左からも敵の大群が押し寄せて来た。私も戦おうと剣を構えた。
「アイズさんは下がっていて。アイズさんを怪我させたら、父ちゃんに怒られるから」
シルキーさんから注意された。シルキーさんは壁を作って敵の大群を足止めし、上からダイヤモンドダストの雨を降らせていく。
「アリス、下がれ、お前じゃ無理だ」
ガイア君がアリス君の前に出て、光の矢を撃ち込んでいく。どの位経ったであろうか。彼らが戻ってきた。全身血まみれだ。怪我?私は心配で、彼の元へと駆け寄ると、
「大丈夫、返り血だよ。これくらい、トレーニングルームに比べたら、なんでもないよ」
そういって、怪我をしているアリス君に回復魔法を掛けていく。
「チームドラゴンは撤収して。また、呼ぶかもしれないけど」
あの魔法陣のような物へ、ドラゴン達が戻ると消えていった。
「アイズ、あれは龍門っていう物だよ。ドラゴンを召喚するのに使うんだ。あと、魔獣を召喚する獣門っていうのもある」
あっ、そうだった。心が読まれちゃうんだ。ドラゴンだけでなくて、魔獣も呼べるのかぁ、彼は…
「リア、ここは何階だ?」
「1000階です」
「この下にも階層は有りそうかな?」
「この地点では、ここが底みたいです。全体を調査しないと、わかりませんけど」
「ここに転移陣をおいて、明日からこの階層を調査するぞ」
彼が魔法陣を地面に書いた。
「明日、シュウさんはアレですよね?」
ヤマトさんがシュウさんに言葉を掛けた。
「そうだった…僕抜きだと、つらいかな?」
「つらいというより無理です。指揮官不在で、チームドラゴンが使えないんじゃ、このモンスターハウス状態は、しのげません」
「たしかに、シルキーの攻撃が効かないほどの強度だものな。明日は皆であそこに行こうか」
「そうしましょう」
魔石を全て回収して、地上に転移した私達。