場違いの者来(きた)る
迷宮都市オラリオ…迷宮の入り口に蓋をする形で、出来た都市である。主神と言われる神をトップにした組織、ファミリアというものが、主神より迷宮冒険の際の恩恵を受けていた。
迷宮を冒険する者はファミリアに属し、ギルドに登録してから潜るルールになっている。ファミリアは冒険系だけでなく、医療系、農業系、鍛冶系など、様々な系統に特化している。
この都市にいる神々は、天界での仕事を放り出して、地上に居座った者達で、天界では人員不足から、過労死が流行っているようであった。この状況に、地上で役立たない神の送還を望む声が多いが、天界の状況を無視して、帰還する神は一柱もいなかった。
そこで、天界は地上で役立たない神の強制送還に、踏み切ることになった。天界の神々は最高神達に相談をした結果、白羽の矢が、ある人物に立った。
◇
「オーフィス、今日からこの都市が、僕らの仕事場だよ」
「我 シュウと一緒ならば、どこでも良い」
青年の言葉に、黒髪の少女が返事をした。
「お兄様、まず住む場所を探さないといけませんね」
白髪の少女が青年に声を掛けた。
「そうだな。白音。リア、何か情報は入って来ないかな?」
「シュウさん、『豊饒の女主人』という酒場の2階が空き室のようです」
紅髪の少女が青年に情報を伝えた。
「リア、案内して」
「了解です」
この街にそぐわない一行が下宿探しをしていた。黒髪で黒いゴシック系のドレスの女の子を肩車している青年。その青年をお兄様と呼ぶ白髪の少女、その3名とは場違いの、凛々しい紅髪の少女の4名だった。
「ここのようです」
入り口から入って、一番年長と思える女性に声をかけた。
「空き室があると聞いてきたのですけど、借りられますか?」
青年が女主人に声を掛けた。
「うん?この街の者では無いようだが、この街で何をするつもりか」
ドワーフ族と思われる女性。ただならぬ威圧感が青年を襲うが、彼はどこ吹く風で、平然としている。
「掃除かな?」
逆に彼から発する、ただならぬオーラを読み取り、店員の一人が、女主人の前に出て身構えた。
「この店では、客にケンカを売っているのか?」
「あんたら、何者だ?そのオーラは尋常ではないぞ」
「殺気を感じれば、即対応できるようにするのが、長生きする秘訣では?」
青年の言葉にニヤリとする女主人。
「そうとも言える。わかった。2階を貸そう」
「前金を払いたいけど、この世界に来たばかりで、無一文です。ダメかな?」
「訳ありのようだな。2階の部屋に案内しよう。そこで詳しく話を聞きたい。大家としてね。私は、この店の主人でミア・グランドだ。よろしく」
「僕はシュウ・ヨハネです。よろしくお願いします」
女主人と4名は2階へと向かった。
◇
「リュー、あの者達は何者かしら?一般人の私でも解る程の、尋常ではないオーラだったけど」
リューと呼ばれた女性は、元冒険者のエルフだ。
「シル、久しぶりに恐怖を感じたよ。何者だろう?」
シルと呼ばれた女性は、ヒューマンの一般市民である。
「なぁ、止めておいた方が良いぞ」
ヒューマンのルノアが、2階に登って行くキャットピープルのアーニャとクロエに声を掛けた。
◇
「広くて良い部屋ですね」
「そうかい?4人では狭いのではないか?」
「大丈夫です。部屋を拡張しますから」
「拡張?」
シュウは何かを念じ、手を壁に翳すと、壁にドアが出来た。
「このドアで、僕らの本拠地に行けます」
青年がドアを開くと、緑の鮮やかな草原が広がり、草原の先に家が見えた。
「ミアさん、僕らの家で話しましょう。ここでは、お茶も出せないから。さぁ♪」
シュウはミアの手を引き、ドアの向こうの世界へ誘(いざな)い、5人がドアの中に入ると、ドアは自動で閉まった。その光景に呆気に取られるミア。
「あのドアは、僕らにしか開けられません」
ミアは誘われた世界を見渡した。綺麗な花が咲く花壇もある。草原は結構広いみたいだ。家も見た目よりも大きい感じだ。家の中には、上に昇る階段と下に降りる階段もある。
「ここはどこなんだ?」
「次元の狭間と呼ばれている空間です」
ミアはテーブル席に腰を下ろした。一番年上に見える紅髪の少女が、お茶を淹れてくれた。
「彼女はリア。サイボーグで、僕の秘書兼ボディーガードをしてくれています」
「サイボーグとは、どんな種族なのだ?」
ミアの世界にはいない種族であった。
「サイボーグはマシンヒューマノイドって感じかな?」
「彼女は機械なのか?」
「端的に言えばそうなります」
滅多なことでは驚かないミアだったが、驚愕な表情を浮かべた。
「そうそう、僕は鬼と天使のハーフです」
「鬼?天使はエンジェルかい?」
聞いた事の無い種族のハーフである彼。今までに数々の修羅場を渡ってきたミアでさえ、背筋に冷たい物が蠢きだしていた。
「鬼は…そうだな、ギガンデスといえばわかりますか?あんな感じです」
さらなる驚愕の事実に、血の気が引いてきたミア。それは実在しない伝説上の魔物であったからだ。
「あと、肩に乗っているのが、龍神のオーフィス。彼女に主神をしてもらおうと思っています」
「龍神とは?」
「ドラゴンの神様と、言えばいいのかな?」
「はぁ?…」
この世界では、ドラゴンは破壊の象徴であったから。
「で、腿に跨っているのが猫しょうの白音です」
「猫しょう?」
「お店にいらしたキャットピープルの親戚になるかな?」
ミアは、開いた口が塞がらない状態だった。彼らは、元冒険者であったミアですら知らない種族だけで構成されたパーティーであった。
「一応、この4名が先遣隊みたいなものです。状況によっては、援軍が来てくれます」
出されたお茶を飲み、心を落ち着けるミア。
「それで、この世界には何をしに来たんだ?」
「現在、天界では人員不足で過労死が、流行しているんです。そこで、地上にいても役立たない、地上に悪影響を与える神々の送還を承りました」
「神以外に神は送還できないはずでは?」
「僕の二つ名は『神殺し』です。絶対神以外の者に対してのマーダーライセンスを持っています」
「えぇぇぇぇ…」
ミアは生まれて以来一番の驚き、そして恐怖心を憶えた。それは、この世界での一番の頂点にいる神々を、殺しに来た者であったからである。
「神様発行のマーダーライセンスって…」
「これです」
シュウの額に紋章が現れた。
「神様なら意味の解る紋章のようです。こんな感じの目的です。ミアさん、この街の事を色々教えて下さいね」
彼に逆らえば死ぬと実感したミア。ただ、頷くだけであった。
◇
アーニャとクロエは2階の空き部屋にいた。
「どこに行ったのかな?」
「この壁にドアがあるけど、壁の向こうは外だよね?」
不思議がっていた二人の目の前で、ドアが開いた。中から、ミアを背負ったシュウと、3名の仲間が出てきた。
「「えっ!」」
シュウはミアを部屋にあるベッドに下ろした。
「驚くことばかりだ。この私が驚きすぎて腰が抜けるとはねぇ」
「では、オーフィスと二人でギルドへ行って、ファミリアを登録してきます。リアと白音は、迷宮に行かない時は、お店でバイトさせてくださいね、ミアさん。家賃を稼がないとダメだし」
シュウは笑顔でミアを見た。
「あぁ、家賃分は働いてもらうよ。あんたら、無一文なんだろ」