---シュウ---
50階に宿兼売店を作る。アイズ達には51階へ、稼ぎに行ってもらっている。風呂、トイレ完備の宿。流行るかな?少し楽しみだ。
厨房にはミアさんのお店と連絡がとれるインターホンと、ミアさんのお店から品物が送られてくる簡易転移魔法陣を設置した。
昼近くになり、アイズ達が戻ってきた。
「本格的な宿を作りましたね」
アイズが感心している。
「ここの店員はどうするの?」
リヴェリアから質問が出た。
「僕のチームの者にやらせる。手練れでないと、51階以降から昇ってくる魔物に対応できないからね」
建物に看板を取り付けた。
『豊饒の女主人&龍神の宿』
「苦情はミア母さんにいきそうね」
リューが溜息を吐いている。
「ここまで来られる冒険者が、苦情を言うとは思えないけどな。ま、言ってきたら対応はするよ。この建物のスタッフルームに転移陣があるから、今後はそれを使って、帰宅してね」
「どこに出るの?」
「ミアさんのお店の脇道だ」
「あっ、お風呂がある♪」
アイズの喜ぶ声が聞こえた。喜んで貰えて良かったな。でも、まだ開店準備中なので、みんなで地上に戻った。
午後は、アイシャとお出かけ。ガネーシャと会談したいので、アイシャに案内を頼んだ。歩くのがなんかしんどいので、アイシャをお姫様抱っこして、翼を展開して空へと舞い上がった。
「綺麗な翼…えっ?!空を飛んでいる…何時の間に、お姫様抱っこ?恥ずかしいぞ」
僕の腕の中で暴れるアイシャ。
「暴れるなよ。落としちゃうだろ?この高さだと、アイシャは死んじゃうよ」
そう伝えると、大人しくなったアイシャ。
「あの白い塀を目指せばいいんだな?」
アイシャが頷いた。白い塀の内側には、巨人像が鎮座していた。その像の前に降りる。入り口は…胡座をかいて座っている像の股間の中心にあった。なんか痛い神だなぁ。
中に入り、入り口で用件を伝えると、行列に並ぶように言われた。これ、陳情の人の列みたいだ。民衆の為に働く神。民衆からの声を聞き、改善させていくらしい。待つのも仕事のうちなので、順番が回ってくるのを待つことにした。ヒマなので、黙祷を捧げた。すると、僕の前に仮面を装着した男の人が駆けつけてきた。
「俺がガネーシャだ!」
と、口にした。僕は黙祷を止めて尋ねた。
「ここの主神?」
「俺がガネーシャだ!」
「静かな場所で話したいんだけど」
彼は頷いて、僕達をどこかに連れて行った。連れて行かれた部屋は、主神専用ルームみたいだった。
「僕は、オーフィス・ファミリアの団長『神殺し』シュウです。彼女は元イシュタル・ファミリアで、オーフィス・ファミリアに改宗した『麗傑』アイシャです」
「俺がガネーシャだ!」
痛い神様だ…だけど心は透明で、闇は一点も無く、曇りも無い。
「用件は、オーフィス・ファミリアの傘下に入って、フレイヤ・ファミリアのサポートをして欲しいんです」
「傘下に?」
やっと、普通に会話してくれそうだ。
「フレイヤ・ファミリアはすでに傘下に治めています。イシュタル・ファミリアの主神イシュタルを天界に強制送還しましたので、歓楽街がざわついているのを、フレイヤ、ガネーシャの両ファミリアで沈静化して、統治して欲しいのです。いかがですか?」
「…」
「異論、反論があれば訊きますが、その場合、力尽くで傘下に入って貰うかもしれないですが、よろしいですか?」
「…」
「しょうがないですね。塀の内側を平地にしてもいいんですね!」
僕は、部屋一杯の大きさの魔法陣を発現させた。
「広域壊滅魔法陣です。どうします?」
「君には、そんなことできないでしょ?あの黙祷…清らかな心で無いと出来ないはずです。お話はわかりました。微力ですがガネーシャ・ファミリアは、あなた方のファミリアの傘下に入り、街の治安を安定させます」
僕は魔法陣を発動させた。塀の内側だけ桜の花びらが降り注いだ。
「君も粋な事をしますね。心が穏やかになる風景だ」
桜の花びらが舞い散る風景を楽しんでいるガネーシャ。
「私以外にも、ヘルメス辺りを傘下に入れると良いと思いますよ。絶対神の遣い人様」
痛い神様を装っているこの街に必要な神様に、僕の正体はバレていた。こういう神様ばかりだと、良いのだけど。
「ありがとうございます」
僕はガネーシャの心遣いに感謝した。
「俺がガネーシャだ!」
痛くなり始めたので、アイシャと転移して、その場を離れた。
◇
次に、紹介されたヘルメス・ファミリアのホームを目指す。この街は入り組み過ぎて、街自体が迷宮に思えてきた。まぁ、それに意味があるんだからしょうがないけどね。
入り口にいた人に、主神を呼んでもらうように話をした。
「あなたはどなたですか?」
「新参ファミリアの団長です。主神様にご挨拶に参りました」
「隣にいるあなたは、イシュタル・ファミリアの『麗傑』アイシャさんですよね。なぜ、新参ファミリアの団長といるのですか?」
「シュウ。彼女は、ここの団長の『万能者』アスフィだ」
「『万能者』?両刀遣いなのか?」
「いや、そういう意味ではない」
アイシャが否定した。それはノーマルってことかな?ユリってことかな?
「両刀?どういう意味よ!」
アスフィがなぜか怒っている。真面目そうな女性である。今度、虐めたいなぁ♪
「何に万能なの?」
素朴な質問をしてみた。
「新参者なのね、あなたは。私はマジックアイテムを、作ることが出来るのよ」
「たった、それだけで、万能者を名乗れるの?」
「たった?ちょっと失礼でないの?あなたは何様なの」
顔を真っ赤にして怒っているアスフィ。怒る原因がわからない。だって…
「僕は子供作れるけど、アスフィは?」
膜はまだ破れていないようだったので、訊いてみた。交配無しで産めるなら、万能者であるが…
「うぅぅぅ、子供なんか作ったこと無いわよ…」
涙が溢れている。彼氏がいないのか?こんなにも、かわいいのにもったい無い。
「なんだ、万能で無いのね」
アイシャは、僕とアスフィの掛け合いを苦笑して眺めていた。
「マジックアイテムって言ったでしょ?」
立ち直って、力強く声を荒上げているアスフィ。からかいがいが有るなぁ。
「例えば、どういう物?」
「こういうのよ」
いきなりピストルを撃ってきた。僕は弾道を見て、弾の側面を叩いて落とした。
「え?!」
「じゃ、こういうのは?」
僕は手のヒラに炎を発現させた。
「触ってごらん」
アスフィは恐る恐る炎に触れた。
「え?熱くない。逆にひんやりする」
「炎に氷の属性を持たしたんだ。この程度が出来なくて万能なの?」
「あぅ…負けました。しくしく」
アスフィが泣き始めたら、奥から声がした。
「もう、それくらいにしてくれないかな。俺に用があるんだよね」
やっと、主神様の登場だ。
「君が『神殺し』のシュウ君だね」
「ヘルメスだな?」
「おぉ、怖っ。アスフィに向ける視線とまるで違うな。神を憎むような視線とはな」
男は興味無いし…
「じらす神と、理不尽な神は嫌いだからね」
「俺の言葉次第で、天界へ強制送還かい」
「そうなりますね。痛みの伴う送還が良いですか?」
「おいおい、送還ありきで話を進めないでくれよ」
苦笑いしているが、目は笑っていないヘルメス。
「貴方のオーラが黒いですからね。こちらも身構えますよ」
「オーラが見えるのか…それは、強敵だ。ラスボスかな、君は?」
「そうあって欲しいなら、そうしますよ。この街を消滅させれば、任務は即終了になりますからね」
「この街だけで済まないでしょ?神はこの街の外にも、散らばっているんだから」
「強制的に目の前へ、転移させることが出来る能力者がいますから、問題は無いです」
「それは怖いな。遠隔でも送還できるらしいし」
フレイヤに言ったことをなぜ、コイツは知っているのだ?僕は村正を手にした。
「うっ…ちょっと、待て。送還ありきで考えないでくれ」
本気で動揺しているヘルメス。
「この刀なら送還すらしないで消滅させますよ。ふふふ」
「だ、だから、待ってくれ。ファミリア全員で協力する。俺のファミリアは傘下に入る。俺を顎で使ってくれてもかまわない」
「消滅と送還のどちらが良いですか?」
「いや…だ、か、ら、待ってくれ。降参だ」
僕は村正をしまった。
「始めから、その位の灰色なオーラだと話が早かったのにね。裏切ったら、即送還だからね」
「了解しました。全面降伏です」
「フレイヤの部屋に盗聴器をつけて、盗み聞きしたな?」
頷くヘルメス。アスフィの方を見ると青ざめていた。
「盗聴器を作ったのはアスフィか?」
「ごめんなさい。ヘルメス様に頼まれて作っただけです」
アスフィは自分に飛び火しないように、防御線を張っているみたいだ。