---シュウ---
レフィーヤとティオネは、思っているほど精神ダメージは酷くなく、記憶操作と癒やしで徐々に「そういうこともあったね」と思える状態になってきた。
でも、リヴェリアは…僕は決断しないとダメなことがある。でも…それは、僕からは言い出せない。
「フィン、ちょっと、最高神と善後策を協議してくる。僕のいない間、指揮を執ってほしい」
「了解だ。リセットするのかい?シュウ」
「いや、ロキは真面だから、このまま、時を刻ませたい」
「そうか…わかった」
僕は、後の事をフィンにまかせて、最高神の間に転移した。
---フィン---
お店での定例会議。シュウから指揮を任されたことを、みんなに伝えた。
「今回はリセットしない方向だそうだ。シュウのいない間は、なるべく出歩かないようにしてほしい。何かがあっても対処が出来ないからな」
ティオナが挙手をした。
「なんだい、ティオナ」
「フィン…ティオネがねぇ…フィンに会いたいって…」
あ?!僕との記憶も戻ったのか?そうだな、会えない理由は無いけど…
「わかった。時間を見つけて、お見舞いに行く。あと、連絡事項のある者は?」
いないようなので、会議はお開きになった。それぞれが決められたルーティンをするために散った。
僕は、お店の在庫管理を始めた。リヴェリア達、怪我人の看病は、アストレア・ファミリアの二人が受け持ってくれた。パス・パレードで多くの仲間を失った彼女達は、人ごとではないのだろう。まして、リヴェリア達は、同じ眷属内で、パス・パレードより酷い仕打ちを受けたのだから。
女心が分からない、僕が口を出すより、彼女達にまかせた方が良いと判断した。これにシュウも賛成していくれたし。
---オッタル---
ヘルメス・ファミリアから人材は派遣されなかった。さすが、腹黒主神だ。請け負ったクエストをガネーシャ・ファミリアとフレイヤ・ファミリアに丸投げしてきた。シュウと俺達が繋がっていることを知らずに。
ガネーシャ・ファミリアが先に出発し、続いてフレイヤ・ファミリアが出発した。
18階で落ち合えるはずと、踏んでいるのだが、他の階層にいるファミリアの女性メンバーを狩る可能性があるので、もっと深い階層で落ち合いたい。
シュウの転移魔法が使えれば、早くケリが着くのだが、治療に、気力、魔力などを殆どつぎ込んだ結果、俺達を転移させるだけの力が残っていなかった。それほど、被害者の怪我は酷いようだ。
前にシュウに言われたな、一人を救うより、敵を全滅させる方が楽だと。ふと、そんなことを思い出した。
18階に着き、ヘスティア・ファミリア経営の宿屋に宿泊した。ここで少し、休むことにしていた。ベートが暴れた場合を考えて、戦えるだけの力を蓄えておく必要があるから。
ここで情報を仕入れる。女性のいるパーティーがいくつかあるな。情報を仕入れていて、耳を疑う情報があった。ガネーシャ・ファミリアの部隊は女性メンバーがいたと目撃証言が…事態を軽く見たのか?
俺達も先を急ぐことにした。更なる被害を防ぐ為に。
---シュウ---
「今回はロキは真面なのか…」
目の前にいるこの世界の維持神に、今回の周回の情報を伝えた。
「その代わり、ベートいう奴が大罪を犯した。原因は分かっている。団長であるべき者を、僕のチームにいれたため、抑えられなかったんだ」
もし、フィンが団長であれば、この事態は避けられたと思う。その代わり、フィンに丸投げして、ロキは禄でもない神のままだったろう。2択なのかな…クソっ!
「シュウ様。心がまる見えですよ。2択…そうかもしれませんね。どちらを選択しても、厄は避けられないと言うことでしょうか。シュウ様を呼ばれたことも、選択肢に入っているかもしれません。どう、あがいてもロキ絡みの厄災からは、逃げられないのかもしれません」
そうかもしれない。ロキ自体を消せないということは、ロキが何かのフラグになっているのだろう。宇宙を司るシステムとかに、アクセス出来ないと変更は出来ないなぁ。
「そのシステムは、絶対神様でも弄ることはできません」
「宇宙を統括する神レベルじゃないとダメってことだよな」
絶対神はこの宇宙を司る神で、更に上に、複数の宇宙を統括する神がいるらしい。僕の想像の範疇を超えている。
「現状では、ベートをどうするか、なんだけど…」
「何もしないといのも選択肢の1つですよ」
それはわかっている。この世界の者達だけ、問題を解決してもらう。この世界の維持神がそれで良いなら、それでも良い。
「それで良い訳ではありません」
「一番の解決策は、オラリオ自体を無くして、リセットだ。神々が地上に遊びに行けなくなれば良いんだから」
「でも、シュウ様は、それで納得は出来ないですよね?」
「維持神が決めることだよ。僕は雇われた者だ。依頼者の意向に沿うように、働くだけだ…」
「そうです…よね…今回は、何を持ち帰るのですか?」
「彼女が望めばだけど…リヴェリアの魂…たぶん、僕でも治せない…無力さを感じたよ。僕はもっと強くならないといけない」
「…心中をお察しいたします…ベートは、どうします?」
「何度も食べられる恐怖を抱かせたい。食用の生き物にしようと思う」
「わかりました。そのようにします。手を貸したサポーター達も同じ運命にします。今後の周回があるのであれば、その設定で転生をさせます」
僕は、リヴェリアの元に転移をした。
---ベート---
18階を目前にして、22階で休憩となった。魔物が襲ってくるといけないので、メンバーの半分ずつで休む事になり、俺達、怪我人組も見回りをすることになった。うん?女性の匂いが近づいて来る。狩りの仲間に声をかけて、見回りという名の狩りをする。
風下から、獲物を狙う。ガネーシャの処のシャクティとイルタのようだ。罠を仕掛けて、嵌まるのを待つ。
魔物は罠などを仕掛けないから、罠などに注意を払っていないようだ。そして、獲物が罠にかかった。悲鳴を上げられる前に、口を塞ぎ、手脚の自由を奪い、そして…
宿営地に戻り、食事の支度を始める。
「ベートさん、どちらに行かれていたんですか?」
ラウルが質問してきた。
「戦えない分、狩りをしてきた。男の手料理をする、ちょっと、待ってくれ♪」
食べられる野草や根菜類も取ってきている。生で喰ってみたが、アマゾネスは旨いなぁ。ティオネはもったいないことをした。
用済みになった獲物の肉を細かくして、鍋に入れて出汁を取る。う~、旨そうな匂いだ。匂いに釣られて、他のファミリアの一団が近づいてきた。身構える、ラウル達。
---ラウル---
ベートさん達の料理の匂いに、誘われたように、他のファミリアの一団が近寄って来た。うん?ガネーシャ・ファミリアのイブリ・アチャーさんだ。
「ガネーシャ・ファミリアが潜るなんて、珍しいですね」
俺は彼に声をかけた。
「いや、君達に用があったのだ。ギルドから帰還命令が出ている。早急に帰還してほしい。その際に、ベートを拘束して来いと言われている」
「なんでですか?」
「他のファミリアを襲ったからだそうだ」
「逆です、襲われたのはベートさん達です。現に団長のリヴェリアさん達が拉致されたようですし」
怪訝そうなイブリさん。
「どこのファミリアにだ?」
「アストレア・ファミリアにです」
少し考えこんだイブリさん。
「う~ん、有り得ないな。あそこは、実質2名しかいないぞ。ロキ・ファミリアの方が戦力もある。それにだ、パス・パレードを喰らったことがあり、こんなに深くは潜れないはずだ。誰が言ったんだ?」
「ベートさんと先遣隊のサポーター達です。ベートさんはその戦闘の時に腕を折られたそうです」
「だから、アストレア・ファミリアでは無理なんだ。ベート一人でも駆逐できるぞ、あそこは…」
え?どういうこと?
「食事の準備が出来たぜぇ~!」
ベートさんの声が響いた。鍋に群がるメンバー達。
「これから、食事なんです。一緒にいかがですか?」
「いや、うちの団長が行方不明なんだ」
「ガネーシャさんの処の団長って…女性ですか?」
「そうだが…」
「実は…女性メンバーだけが行方知れずになっているんです。うちのアキも50階で消えました」
「どういうことだ?女性だけを食べる魔物がいるのか?」
---オッタル---
22階で追い付いた。ガネーシャの部隊とロキの部隊もいる。
「おい、ベートはどこだ?」
「おっ、オッタルさん…」
「どこだって、訊いているんだが?」
「どうしたんじゃ、オッタル」
ガレスが近づいてきた。
「大罪を犯したベートとその一味を捕縛しに来た。ロキの依頼だ」
ロキからの書面をガレスと、ラウル、イブリに見せた。
「なんっと…」
「えっ…ベートさんが…」
ロキ・ファミリアの幹部達が驚いていた。
「イブリの部隊でいなくなった女性はいるか?」
「団長のシャクティとイルタが行方不明です」
「どこの階層でだ?」
「ここです」
「そうか…ガレス、ベートが肉料理を振る舞っていないか?」
「今、煮込みを食べさせてくれた。うまかったぞ~♪」
イブリの顔から血の気が失せた。事態を分かってくれたようだ。それに引き換え、ロキ・ファミリアのメンバー達は、のんきにベートの料理に舌鼓を打っていた。
「おい、戦闘準備だ。ベートとその一味を捕縛する。手向かう者は痛い目に遭わせてかまわん」
俺達はベート達の元に、近づいた。
---シュウ---
事態は更に最悪な方向になっていた。オッタルからフレイヤに連絡(二人とも念話のスキルを所持している)が入り、彼女から僕に状況を知らせてくれた。
ここはロキ・ファミリアのホームにある会議室だ。僕の他に、ギルド員が数名、ロキ、ヘルメス、ガネーシャ、フレイヤがいる。
「で、ヘルメスは、ガネーシャとフレイヤに丸投げしたそうだな」
「あぁ、うちは女性メンバーしかいないからな」
ヘルメスは平然と言った。
「その情報をガネーシャに知らせたのか?」
「言ったはずだ!」
「聞いていない!」
ガネーシャは、仮面を被っているので、表情がよく分からないが、怒りで身体が震えているのがわかる。
「フレイヤは?」
「聞いていない。まぁ、うちは男しかいないから、問題はなかったようだ。それに、ロキからの書状も持っていたので、状況は把握できていた」
「ヘルメスの罪は重いと思うが」
「なんでだ?そもそも、お前は何の権利があり、神である俺に意見ができるのだ?」
「権利?義務だ。僕はシュウ・ヨハネ・鬼門。ラキアの軍神だ」
「軍神って名乗っているだけ、神でも何でもないだろ?」
「おい、ヘルメス!私の主神になんて口を利くんだ?」
フレイヤがキレた。
「えっ…フレイヤの主神…」
ヘルメスが驚いた表情をした。ロキとガネーシャは薄々感づいていたのか、驚く素振りを見せない。
「我々、ギルドのトップでもあります」
ギルド員もキレていた。
「えっ…ギルドのトップやと…」
これにはロキとガネーシャも驚いていた。
「ヘルメス、お前のボスであるウラノスと協定は結んである。ウラノスは『君臨するけど統治せず』を謳い、僕は『影からの統治』を掲げたんだ」
「ウラノスが言っていたパートナーとは、お前のことか…」
「まぁ、そういうことは、今はどうでも良い。ロキ、どう処分を科すのだ?」
「どうすればよいんや?」
「取り敢えず、殺さずに、痛めつける。簡単に殺したのでは、苦しみは一瞬だ。それでは、被害者は浮かばれない。ヘルメスも同罪だと思う。ガネーシャの眷属は、お前の行動次第で遭遇しなかったんだからな」
「同罪?だから、なんの権利があるんだ?フレイヤの主神?そんな程度で、俺を裁くんじゃねぇ!」
僕は押し殺した声で呟く。
「僕の二つ名は『神殺し』だ…」
その瞬間、場の空気は張り詰めた。
「か、かっ、神殺しだと…まさか、お前は…」
「あぁ、僕はお前ら神族を殺しても罪を問われない。最凶の殺戮者だ」
ヘルメスはその場で、腰砕けな状態になった。腰が抜けたのか?僕は妖刀村正を手にして、刃先をヘルメスに見せた。
「その刀は…『魂喰者』か…」
「そうだよ。でも簡単に殺すのは、もったいないよな」
僕は妖刀村雨に持ち替えた。
「絶対神の遣い人かぁ…噂で聞いていた。妖刀を携えて、神を殺し歩く殺戮者…」
ガネーシャも腰砕けな状態になった。
「で、この世界の神族は、どう落とし前をつけるんだ?」