雪の街
次の案件の資料を貰いに、絶対神の間を訪れた。
「今回の案件は、難しい物ではないが、ちと問題があるのじゃ」
簡単な案件が来るとは思っていない僕。最高神が手に負えない問題が来る訳であるから、それなりに難がある案件ばかりであったし。
「問題とは?」
「本来、奇蹟を起こすべき者が、事故で死んでしまってなぁ…」
あぁ…生き返らせるだけで済まない問題があるのね。
「で?」
「記憶が一部失のうているのじゃ」
最悪…記憶を弄って済まない問題があるのね。
「どうすれば良いのですか?」
「死んだ彼に成り代わって…」
演じるってことかなぁ?
「奇蹟を起こして欲しいのじゃ」
「生き返らせて、記憶を甦らせることは出来ないんですか?」
「できん。ロストしてもうた」
ロスト?それって、時間の歪みの穴に落ちて、どこに行ったかわからないってことかぁ…
「あの穴は、儂の制御外じゃからな」
絶対神が言うには、あの穴は時間の気まぐれであり、偶然の産物であり、神とて手が出せないのだそうだ。
「なので、写真から外見は作れる。残留オーラで少しだけ記憶は取れたのじゃが…」
それって、記憶の一部しか残っていないって…おぃおぃ…
「奇蹟は全部で5つあるそうじゃ。すべてを起こせれば、任務終了じゃ」
はぁ…とても、つらそうな任務だな。
◇
両親の海外赴任に同行しようとして、飛行機事故に巻き込まれたそうだ。本来ならば、日本に一人残り、疎遠になっていた従兄弟の家を下宿にして、生きたはずだったそうだ。この世界の彼、相沢祐一は、人生の選択を誤ったのだ。
飛行機事故で死なないで済んだことにして、従兄弟の住んでいる「雪の街」を目指した。行った事が無い場所は、転移術が使えない為、地味に鉄道移動していた。祐一は小学生の頃は夏休みなどを利用して、従兄弟の家で過ごしていたらしい。ここ7年くらいは、行っていないので、誤魔化しは通じるかもしれない。
従兄弟と待ち合わせた場所に着いた。これからの事を考えると気が重い。バックアップに白音達が付いてくれるようだ。少し力は湧くが…
目の前に、ふくよかで黒髪の少女が立った。
「隣に座っても良いですか?」
少女が僕に声をかけた。
「遅い…遅いぞ、名雪!凍えて死ぬところだったぞ」
少女の口元が緩んだ。
「祐一、それくらいで死なないもん」
相沢祐一の従兄弟の水瀬名雪に出会えた。彼女の記憶を探れば、少しは今後のヒントがわかるのかな?
「久しぶりだな、名雪」
僕は、荷物を持って立ち上がった。
「私の家、覚えているかな?」
「名雪しか覚えていないよ。って、駅前が随分と都会になっちゃって、既に迷子なんだけど」
「だね」
名雪を先頭にして、彼女の後をついていった。駅までの道のりを覚えないとなぁ。商店街を通り抜けて、住宅街に入った。似たような家が多いなぁ。
「ねぇ、祐一。事故の後遺症とかは無いの?」
「記憶が…昔の記憶が断片しか残っていないんだ」
「身体は問題無いの?」
「問題無いようだ」
「そっかぁ」
こじんまりとした一戸建てに着いた。表札には『水瀬』とある。ここだな。玄関に入ると、叔母の水瀬秋子が迎え入れてくれた。高校生の娘がいると思えない程、若く見える。旦那様は単身赴任中で、母娘の二人暮らしだった。
「祐一さん、長旅で疲れていませんか?」
「少し寝たいんですけど…」
「お部屋に、引っ越し屋さんが運んできた荷物を、入れておきましたよ。起きたら、箱から出してくださいね」
「ありがとうございます」
名雪が部屋に案内してくれた。
「私の部屋は隣だよ」
「そっか。ありがとう」
名雪の額に口づけをし、記憶を少し読み取った。それから、僕の部屋に入り、ベッドに倒れ込んで寝た。寝ている間は、違う世界に行ける。そこで、溜まった物を吐き出すようにしよう。
---名雪---
え?祐一のキス…額に…
突然の祐一の行動により、思考が停止した私はその場に立ち尽くした。