---シュウ---
夕日で茜色に染まる商店街に戻ってきた。すると、僕の方に走ってくる少女がいた。
「祐一君、助けて~!悪人に追われているんだよ」
へっ?誰?この子は?
僕の腕を掴み、一緒に走るハメになった僕。どこに行くんだ?悪人?念話で、ギャスパーに悪人の正体を、確認してもらうことにした。
しばらく走ると、ポプラ並木の道路に出た。ここはどこだ?
「ここまで来れば大丈夫かな?ねぇ、祐一君も食べるでしょ?たい焼きを」
手にした紙袋から、たい焼きを1匹くれた。
「ここのたい焼きって、おいしいんだよね」
たい焼きを頬張る少女。ギャスパーから念話が入った。悪人の正体は、たい焼き屋のおじさん。お金を払わないで持ち逃げした少女を追いかけていたそうだ。ギャスパーに代金を払ってあげてと頼んだ。
「なぁ、お前。誰だ?」
「え?何言っているんだよ。祐一君、ボクを忘れたのか?」
キョトンとした表情の少女。忘れた?少女をマジマジと見ると、羽の付いたランドセルを背負っていて、ダッフルコートを着ていて、髪には紅いカチューシャ…えっ?まさか…なんでランドセル?
「月宮あゆだっけ?同い年の?」
「そうだよ。祐一君が覚えていてくれて、ボクは嬉しいよ」
「で、このたい焼きのお金は払ったのか、あゆ?」
テンションが落ちた声になった。
「うぐぅ…ちょっと、お財布を忘れてね…」
「払っていないんだな?」
「次行ったら、払うよ。もう、祐一君の意地悪…」
少し涙目の少女。
「で、あゆ。ここはどこだ?僕は7年ぶりにこの街に来たので、土地勘がまるでないんだけど」
「えっ?!」
周りを見渡すあゆ。そして、なんか俯いていて、顔を上げないんだけど
「もしかして、あゆもわからないのか?」
「うぐぅ…祐一君の意地悪…」
顔を上げたあゆは、2匹目のたい焼きをほおばっていた。
「あゆ…」
僕は拳であゆのこめかみ辺りをグリグリしてあげた。
「痛っ、痛いよ、祐一君」
「はぁ?迷子になったかもしれないのに、のんきにたい焼きを食べているから」
「うぐぅ…だって、食べたいんだよ。暖かいうちに食べないと、おいしく食べられないから」
「はぁ…」
溜息をもらすと、クスクス笑う声がした。後ろを振り返ると、あゆよりも細くて、青白い顔の少女が笑っていた。この子…
「あゆのせいで、笑われただろう?」
「うぐぅ…そんなこと、言われても…」
グリグリしたこめかみを摩っているあゆ。
「あっ、ごめんなさい。笑ってしまって。あなた達の会話が、楽しそうだったから」
「僕は相沢祐一、このへんちくりんは月宮あゆ、君は?」
「へんちくりんじゃないよう」
って、あゆが抗議しているがスルー。
「私は、美坂 栞です」
「栞ちゃん、商店街って、どう行けば良いのかな?」
商店街への戻り方を訊いた。
「ありがとう、栞ちゃん。このお礼は、いつかするからね」
「このくらいの事で、お礼だなんて、大げさ過ぎますよ。祐一さん」
「じゃぁ、またね!」
栞ちゃんと別れて、商店街に戻った、僕とあゆ。
「そうだ。ボク、探している物があるんだ。祐一君、またね♪」
あゆは、夕闇が迫る商店街の奥の方に消えた。
◇
名雪の家に戻る途中、物見の丘という場所で、ギャスパーと白音と合流した。
「どうしようかな」
「どちらを先にこなしますか?」
白音が尋ねてきた。
「あゆは、まだ不明な点がある。あの子は何だろう?人間ではなかった。魂もなかった。でも、実体はある。何者だろうか?」
「シュウさんと別れた後の彼女を追ったのですが、途中で見失いました。転移とかそういうのじゃなくて、闇に溶け込んだというか」
闇の力を使えるギャスパーでも、よくわからない現象のようだ。
「そうだ。魂を無くした兵藤君と同じオーラかぁ。そうなると、本体はどこかにあるんだろうな。白音、生き霊って探索できるか?」
「難しいです」
「あゆの探索は?」
「先程からしているのですが、わからないです。こんな事は初めてです」
「そうなると、あの月宮あゆは、僕達の知らない存在ってことだな。厄介だな。紅いカチューシャはプレゼントしていないはずなのに、既に装着しているし。何者だろうか?」
「この街は、なんらかのパワーで覆われているみたいです。あの幼弧にしても、普通は命と引き替えで、あのような姿にはならないんです。誰かと契約したならともかく」
「オリジナルの祐一君かな?」
「普通の人間ですよね?」
「のはずだ。もらった資料によると。でも、ねぇ…援軍をもう少し呼ぼう。誰が適任かな…」
「椿姫さんとかは?」
「退魔系は逆効果かもしれない。退散させるのではなく、情報を探れる者だ…シャボン玉使いの兄ちゃんならどうだろう?」
「あぁ、過去の記憶を呼び覚ませますね。でも、オリジナルの祐一さんがいないとダメでは?」
「いや、もう一人事情を知っていそうな人がいるんだ」
僕はデュリオ兄ちゃんを召喚した。
「え?僕で出来ることってあるの?」
突然、赴任地に召喚されて、驚いているデュリオ兄ちゃん。
「今夜、水瀬秋子さんが寝ている時に、過去の記憶を探ってきて欲しいだ」
「そこに、今回の案件を解く鍵があるのかい、シュウ君」
「たぶん…まぁダメ元だよ」
「わかった。やってみよう」
デュリオ兄ちゃんがこの場を後にした。僕は分身の術で、僕の分身を1体創り出した。
「君は、先に帰って、名雪達を心配させないようにしてくれ。僕は用事を終えたら帰宅するからね」
「了解!」
僕の分身も、この場を後にした。
「さてっと、白音とギャスパーで、この辺りのパワースポットを探してくれるかな?たぶん、思い入れとか念とかの系統のパワーだと思うんだ」
「「了解!」」
二人は探索に出かけた。さて、僕も出掛けるか。
◇
僕は、栞ちゃんの部屋に着いた。僕を見て、驚く栞ちゃん。
「どうやって、ここに来たの、祐一さん?」
彼女の問いはスルーして、
「お礼に、君の病を治しに来ました」
僕の言葉に驚く、栞ちゃん。
「私の病気は原因不明で、治らないのよ」
哀しそうな顔をする栞ちゃんを、僕は天使の翼を展開して、彼女を翼で包み込む。一瞬、彼女は驚いたが、すぐに平常心になっていった。
「祐一さん、あなたって、天使なの?えっ…暖かい…ここはどこ?」
「あなたが病んでいる原因がわかりました。これから、あなたの病の元を取り除きます」
僕は、祝福の聖剣を掲げた。
「この少女に取り憑く心の闇よ、彼女から消え失せろ!彼女の身体よ、細胞の再生力を上げたので、彼女の生きたい願望に従え給え!」
そして、黙祷を捧げて彼女の身体にエールを送る。
次第に、顔色が良くなり、笑顔で眠りにつく栞ちゃん。そして、彼女の記憶から、僕の記憶を取り除き、この場を立ち去った。