「翼さん、一緒に暮らさない?」
いきなり、知らない男性にそう声を掛けられた私。私は羽川翼。新学期から、私立直江津高校で三年生になる。
「あなたは?」
「僕は代羽有栖。羽川翼さんですよね?僕達の家で、一緒に暮らしませんか?」
いきなり、この人は何を言っているのだろう?見も知らない私に…えっ?!私の名前を知っている…
「あなたの事は何でも知っています。あなたの本当の両親の事をお話しましょうか?」
彼は、私の知らない私の本当の両親のことを話し出した。彼の言っていることが正しいかどうか、私の知らないこともあるので、判断はできない。でも、私の知っていることに関しては、彼の言っていることは正しいといえる。
「なんで…私のことを…」
「僕は、翼さんの事ならなんでも知っています。他のことは知りませんけどね」
彼の笑顔…何か心が癒やされる気がした。なんでだろう?彼は、私の置かれている立場も理解してくれていた。
「実は、翼さんの現在のご両親のお許しを、もらっているんです。翼さんの荷物は総て引っ越してあります」
はぁい?何だって?どうして?私の頭の中には疑問符で溢れてきた。
「僕達の家を見てから、判断してください」
彼に手を握られて、エスコートされるように、彼の家に連れ込まれた。そして、私の部屋…もう、用意されていた。彼の言うように、私の私物は総て運び込まれていた。どうやって?
ベッドの上には私の布団と枕があり、クローゼットには私の衣類が丁寧に折りたたまれて、お店の様に整列していた。本棚には私の本や参考書が収まっており、机には私の筆入れや、ノートが整然と置かれていた。
窓を開けると、気持ちの良い風が、私を包み込む。
「気に入って貰えましたか?」
「えぇ…でも、なんで、私の為に?私はあなたを知らないのに?」
「僕は…いや、僕達はの方が正しいかな。僕達は、翼さんのことを良く知っています」
僕達?彼の親御さんかな?
「楽な服装に着替えて、1階のリビングに降りてきてください。この家の住民紹介を兼ねて、僕達のことをお話します」
彼は、私の部屋の出て行った。楽な服装って、何だろう?制服とパジャマしか着たことがないんだけど…クローゼットを開けると、色々な服が入っていた。私が着たかった服だ…サイズは私にぴったりだし。なんで、用意できたのかな?知らない人に家に連れ込まれた恐怖感より、なんでを追求したい興味が勝ち誇っている。とりあえず、スエットの上下に着替えて、下に降りる事にした。
◇
リビングルームに入ると、クラッカーが打ち鳴らされた。
「「バサ姉、いらっしゃい♪」」
って、知らない女の子達に歓迎された。へっ?バサ姉?私の事かな?彼に促されて、テーブルの椅子に腰掛けた。テーブルの上にはケーキやら、料理やらが並んでいた。
「バサ姉の為に、三人で作りました~♪」
ぽっちゃり目の少女が私に言った。
「あの~、あなた達は?私の記憶には、お会いした記憶が無いんだけど」
「あぁ、自己紹介をしないと、小さい方は幼弧の沢渡真琴、大きい方は天使見習いの月宮あゆ、で僕は、鬼と天使と悪魔のクォーターの代羽有栖です。よろしくお願いします」
「「よろしくお願いします~♪」」
見知らぬ三名の正体を知ったが、ピンと来ない。
「あの…皆さんは怪異なんですか?」
「う~、この世界流に言えばそうかな」
この世界流?
「あなた達はこの世界の者ではないんですか?」
「正解です。僕達は違う世界から来ました。時間軸上は大差ないと思うけど」
異世界の人達?なんで、私を知っているの?
「僕達の世界の羽川翼さんは仲間なんです。で、僕達は翼さんに家庭教師してもらっていました」
え…異世界の私…私の理解の範囲を超えるような話だ。担がれているのかな?
「この世界に来た目的なんですが、僕達の世界にちょっかいを出している者が、この世界にいるんです。そいつを懲らしめに来ました。そのついでに…言い方が悪いかもしれませんが、任務遂行している間だけでも、この世界の羽川翼さんが望むような生活をして貰おうと思い、このようなことをしました」
私の望む…確かに、そうだわ。ベッドで寝たい。自分の部屋が欲しい。着たい服をしまえるクローゼットが欲しい。窓から入る風を感じなから、勉強をしたい。などなど…私が望んでいたことばかりだ。そして、一人での食事は嫌…これも今、クリアされようとしていた。
「僕達は見習いですが、それなりに訓練を積んで来ています。人の心を読むことは、必修教科でしたから」
は?心を読まれたの…じゃぁ…アレも?
「ソレは、勝手には出来ないですから、翼さんの望むタイミングで、仕掛けます♪」
顔が紅潮してきたのが分かる。えぇ、そんなことまで知られたの…恥ずかしいなぁ。
「年頃の女性なら、夢見ることだと思います。そこの二人は別ですが…」
少女達は食い気が優先みたいだ。ケーキ以外に手を出していた。
「ケーキは、翼さんが切り分けてくださいね」
そして、私の望んでいた生活が始まることになった。彼らが任務を遂行するまでの間だけだけど。食事を食べ、ケーキを別腹に入れて、紅茶をしながら、談笑をしていた。
「で、有栖君のお父様って何をしているの?」
「こことは違う宇宙を司る絶対神です」
また、私の理解を超える話だった。先程から、何度も私の理解を超える話が、飛び出していた。
「うん?有栖君って、神様のハーフになるの?」
「う~、そこは不正解かな…父様は元々神ではなかったから。鬼と天使のハーフだったんですが、経験を積んで英雄、英霊となり、最終的に神となったんです」
「ふ~ん、お父様はおいくつくらいなの?」
この質問には困ったような表情をした有栖君。
「う~んっと…大体でいいですか?1兆年には達していないけど、何千億年だと思います。父様は歳の話になると、ごまかすから…ははは」
はぁい?なんですか。その歳…
「父様は創造神、維持神を生業としていた時期もあったので、星が誕生して知的生命体が生まれるまで50億年位かかるから…100個ほど新星誕生に携わったって言っていたから…」
それだと5000億年かぁ、単純計算でも…なんか、スケールの大きな話だな。私の悩みなんか、ちっぽけに思えてくる。
「そんな事は無いですよ。人の悩みを解決する方が、大変だって父様が言ってました。星の成長での100年200年なんかカスみたいな物だけど、人の悩みの1ヶ月は重要で大変な物だって、教わりました」
そうなるのか…
「もし、任務が遂行した時に、翼さんが望むのであれば、僕達の世界に、お連れします」
それも、悪くないなぁ。この世界に未練はないし…
◇
翌朝…目覚まし時計のアラームで目が覚める。ルンバに起こされることはもうない。布団から抜け出して、ベッドから転げ落ちる。あぁ、ベッドで寝ていたんだ。部屋には、朝日の陽光がカーテン越しでも差し込んできている。カーテンを開くと、太陽の光が私を包む。こんなに朝日って暖かかったんだ。窓を開けると、朝の空気が気持ち良い。気分を明るくしてくれる。
洗面所に行くと、真琴ちゃんとあゆちゃんが先に洗顔をしていた。
「おはようございます」
二人に朝の挨拶をした。
「「おはようございます~♪」」
二人の元気な声。なんか、嬉しくて涙が…
「バサ姉、どこか痛いの?」
あゆちゃんが心配をして声を掛けてくれた。痛いんじゃないの。朝からこうして会話出来ることが嬉しいんだよ~
「これから、毎日だよ♪」
「ず~っとでも良いよ♪」
二人の明るい声が、私の隙間だらけだった心を埋めてくれるようだった。
三人でリビングに降りると、テーブルには食事の支度が出来ていた。ご飯、味噌汁、焼き魚、漬け物がトレーに載って、私の席にだけ既に置いてあった。
「有栖、私の肉まんは?」
「蒸し器だよ。自分で持っていってくれ、真琴さん」
「ねぇ、私のたい焼きは?」
「僕の今川焼きと共に、電子レンジです、あゆさん」
うん?肉まん?たい焼き?今川焼き?しばらくすると、それぞれが、それぞれの食事を持ってテーブルに腰掛けた。
「「いただきます!」」
「ね、みんな、それが朝食?」
「「そうです♪」」
「なんか、私だけ、豪華なんだけど…」
私だけ和定食である。
「手間はどれも同じです。いや、肉まんが一番大変かな。生地の練り込みがあるからなぁ」
なんか有栖君って凄い…お嫁さんにしたい気がする。
「これって、有栖君が一人で作ったの?」
「そうです。料理は苦ではないですから。父様も和食が好きでしたから、一緒に食事をするときには出来るだけ、僕が調理するようにしていました。漬け物は、父様から預かっているぬか床で漬けました」
会話の弾む食卓、悪くない♪