---代羽有栖---
父様のおかげで、翼さんと目が合う度に、耳が熱い。僕と末長く生きてくれるって…父様は、一緒になる時の祭司をやると言い始め…もう、先走りだよ、父様は。
父様が帰られた後、今回の件の首謀者である、臥煙伊豆湖という人が訪ねて来て、僕に身を捧げてくれた。今後も好きな時に呼び出して、また身を捧げても良いと、携帯の番号を教えてもらった。
翼さんも良いけど、伊豆湖さんも良いなぁ。プレイするだけなら。
そして、月曜日、学校に登校した。阿良々木君は怪我をした為に入院したそうだ。父様は何をやらかしたんだ?たぶん、入院しても治らないようにしてあるはずだ。
放課後、学校内を翼さんに案内してもらった。転校して日が浅いので、学校内で迷子に成りかねない程、この校舎の構造は良くわからない。この校舎の特徴の1つ、螺旋階段で階層を繋げるって、どうなのよ。1段1段の高さが低い上、半径も大きいことから、普通の階段を昇るよりも、距離が長い。普通の階段もあるみたいだけど、なんでこんな造りにしたんだろうか?
ふと、見上げると誰かが降ってきた。身投げか?僕は咄嗟に翼を展開して、降ってきた者を空中で抱き抱えた。
「えっ?!」
降ってきたのは女生徒だった。僕が空中で受け止めた事に驚いている。いや、普通驚くよな。でも、この子、やけに軽い気がするけど…それに怪異が憑いているみたいだし…僕は彼女を抱き抱えたまま、翼さんの傍に着地した。
「戦場ヶ原さん、大丈夫?」
翼さんが、彼女の名前を呼び、呼びかけた。
「大丈夫…バナナの皮を踏んで、滑って落ちたのよ」
戦場ヶ原さんを床に降ろして、翼を閉じた僕。他の人に気づかれなかったから、良しとしようっと。
「階段にバナナの皮?危ないなぁ。風紀委員会に問題を提起しておくわ」
翼さんは、僕達のクラスの委員長だ。どうでも良いことだが、副委員長は阿良々木暦である。クラスの委員長は、学内の委員会に問題を提起できる権限があるようだった。
「代羽君だよね…ありがとう…」
なんで、僕の名前を知っているんだ?僕が不思議そうな顔をしたのだろうか、翼さんが、
「戦場ヶ原さんは同じクラスなんだよ」
っと、耳元で呟いてくれた。そうなのか、同じクラスだったのか。全然、記憶になかったよ。
「ねぇ、代羽君、不思議な力を持っているの?」
不思議な力と言えば、不思議なんだろうな、人間から見れば。
「持っているけど…戦場ヶ原さんの重さの問題?怪異が関係しているみたいだけど」
はっとした表情の戦場ヶ原さん。
「見えるの?」
心当たりが有りそうだな。
「直接は見えてはいないけど、気配は感じる」
手の平を戦場ヶ原さんの頭にかざして、気を読む。
「八百万の神みたいだ。神になりかけの怪異かな?これなら、取り除けるかな?」
「ねぇ、憑き物を祓ってもらえるかな?何でもするから…」
僕に縋り付く戦場ヶ原さん。
「有栖君、出来るのであれば、お願い。戦場ヶ原さんを救ってください」
翼さんからも頼まれた。う~ん、やるだけやってみるか。ダメでも、父様に頼めば、大丈夫かな?
戦場ヶ原さんを僕達の家に、連れ帰った。彼女と翼さんをリビングで待っていてもらい、儀式ができる部屋で準備をしていく。
悪魔成分の濃い僕は、お祓い系は苦手である。一応お祓い系も習ってはいる。が、苦手なものは苦手なのだ。
「手助けしても良いぞ、有栖」
忍さんが声を掛けてきた。あぁ、そうそう。僕の術で忍さんをディウォーカーに種族変更をしてあげた。ディウォーカーというのは、太陽の下で活動できる吸血鬼の亜種である。これにより、昼間でも忍さんはミスタードーナツに、一人で買い物に行けるようになった。その代わり、阿良々木君とのリンクは切れている。これに関しては、僕にとってはどうでも良い問題なのでスルーした。
「怪異を彼女から分離できますか?」
「できるぞ」
忍さんが口から一降りの刀を取り出した。
「怪異殺しの妖刀『心渡』じゃ。怪異だけを斬れる」
僕は、忍さんから妖刀を借りた。妖刀は、僕でも使える。父様の妖刀で素振りなどの練習をした経験があるし。まぁ、分離できれば、僕の能力でもどうにかなるかな?
真琴さんに、リビングで待っている戦場ヶ原さんを呼んで来てもらった。
「ここは?」
まぁ、見た目が不気味な部屋である。
「術をかける部屋だよ。ドアを閉めれば、この部屋に結界が張られて、ここからは出られなくなる」
「そう…お願いします」
彼女を部屋の床に描かれた魔法陣の中央に立たせた。
僕は魔法陣をいくつか発現させて、彼女に術を施していく。除霊能力のない僕は、魔法の組み合わせで対処できるように、魔法の先生に習っていた。
徐々に、彼女から怪異が離れていく。完全には無理みたいだな。忍さんからお借りした妖刀に念を込めて、怪異に向けて斬りつけると、怪異は真っ二つになり、彼女の身体から、総てが抜けていった。
再度、彼女に怪異が取り憑かないように、防御系の術をかけていく。
そして、儀式と言えるかわからないが、除霊の儀は無事に終わった。妖刀を忍さんにお礼を言いながらお返しした。僕は、その場にへたりこんだ。
「エネルギー切れか?」
「忍さん、正解です。もうヘロヘロです」
部屋に怪異の残り滓がいないことを再度確認して、部屋のドアを開けた。張り詰めていた空気が一気に和む。
「ありがとう~」
戦場ヶ原さんが泣きながら抱きついてきた。彼女の重みで押し倒される僕。成功したみたいだ。重さが感じられる。僕を押し倒すような動きになった彼女は、
「ごめんなさい。うれしくて…」
「良かったね。重さが戻って…」
え?心が病んでいるみたいだ。あれ?お祓いをする前に、こんな症状は見受けなかったけど…なんで?少し考える。記憶の引出の中を探していく、何かをヘマしたのかもしれない。なんだろう?
部屋を出て行こうとする彼女を呼び止めた。
「待って!まだ終わっていない。真琴さん、ドアを閉めて」
真琴さんがドアを閉めてくれた。
重さを取り戻したってことは…身体の重さ、心の重さ、責任の重さ、事の重さ…記憶にのし掛かる重さ…彼女の頭に手をかざして、彼女の記憶を読み解いて、原因を探す。
これかな…どうすれば良いんだ?
僕の隣に光り輝く転移陣が出現した。これはアガレス家の紋章…僕と同じ…だとすると…予想していた人物が転移してきた。僕と双子である妹のシーナだ。
「有栖、これ以上はあなたには無理よ。わかっているでしょ?」
「わかっているけど…でも…」
「ここは私にまかせて」
妹のシーナは僕とは違い、天使成分が多い。なので、治癒系、お祓い系のスキルや術が得意である。
シーナが戦場ヶ原さんの頭に手をかざして、心の傷を癒やしていく。
「完全には消さないよ。あなたのお母様の記憶も消えちゃうから。でも、心を痛めないで良いくらいまでは消すからね」
戦場ヶ原さんの身体から、闇のモヤが湧き出し、光の粒子に昇華されていく。
「これでどうかな?」
シーナが戦場ヶ原さんにきいてみた。
「うん、ありがとう。あまり気にならないよ」
そして、みんなでリビングに戻った。
そうそう、みんなにシーナを紹介しないと。
「彼女は僕の双子の妹のシーナです」
「よろしくお願いします。兄とは双子ですが、性格も能力も違います」
「で、いつまでいるの?」
「有栖が撤退するまで」
「え?なんで?」
「愚問だ。有栖は治癒能力ないでしょ?再生は出来るけど、再生速度は遅いし。父様が、有栖が撤退するまで、サポートして来なさいって」
父様…
「心配しないでも、有栖の恋のジャマはしないわ。そんなことをしたら、父様に躾けられちゃうもん」
父様の躾け…怒りのオーラを拳に纏わせて、こめかみにグリグリと押し付けてくる。とっても痛い。特に、僕を含む父様の子供にとっては、一番痛い攻撃でもある。
「それよりも、有栖。くず餅食べたいんだけど…」
は?それは、家で作るのは無理…
「作れないよ~作れるものにして」
僕とシーナのやりとりを、クスクス笑いで見守っている翼さんと戦場ヶ原さん。
「有栖君って、本来表情が豊かなのね」
って、翼さん。あぁ、僕のクールなイメージが…
「はぁ?クール?有栖にはほど遠いよ」
って、シーナ。
そんな時、また転移陣が発現した。今度のはシトリー家の紋章だ。僕とシーナは嫌な予感がして身構えた。そして、
「シルキー・鬼門・シトリー参上♪」
「「姉さん…」」
「父ちゃんがねぇ、火力アップの為に行って来いって。ははは」
最悪な姉だぁ~どうせなら、兄さんの方が良かったよ~
「うん?有栖。ガイアの方が良かったのか?ガイアじゃ、抱いてくれないぞ。私なら思いっきり抱ける♪」
僕に力強く抱きつく姉シルキー。
「痛いよ~姉さん…これじゃ虐めだって…」
姉の腕をタップする。我が家のトラブルメーカーな姉。妹のシーナとは仲がよろしくない。どうしろと言うのさ、父様…僕に試練ですか…一応、注意も兼ねて、姉をみんなに紹介をする。
「僕の姉さんのシルキーです。火力は兄妹の中で一番高火力です。戦闘バカな上、男女関係ない両刀遣いですので、ご注意ください」
翼さんと戦場ヶ原さんは「両刀」という部分で驚いたような表情だったが、あゆさん、真琴さん、忍さんは意味がわからないようだった。まぁ、あの3名は狙われないと思うけど。
そして、益々我が家は賑やかになっていくのであった。