---阿良々木暦---
どうにか家庭崩壊はしなかったようだ。両親の職業柄、世間体を気にしての配慮のようで、家の中ではギスギスとした、心が決して休まらない空気が充満していた。
妹達の俺に対する態度も変わった。阿良々木家の朝の風物詩といって良かった、妹達の襲撃は無くなり、俺は「遅刻魔」という二つ名を得た。そして、月火ちゃんの俺を見る目は、怯えていた。火憐ちゃんの俺の見る目は、恐怖に満ちあふれていた。父さんの俺を見る目は、汚い物を見るような感じになり、母さんは俺を見ようともしなくなっていた。
家族って何だろう。家庭って何だろう。そんな基本的な事すらmわからなくなった俺。そして、学校では…
代羽の周りに羽川と、あいつは誰だったかな?そうだ戦場ヶ原か。その二人が代羽の傍にいた。羽川からの希望で、俺は副委員長の座を降ろされ、クラス内で一人でいることが殆どであった。まぁ、群がっても人間強度が落ちるだけだから良いか等と、かっこよいと思える気持ちでいたのだが、孤独感に苛まれていく。
学校の帰り道で、忍を見つけた。ミスタードーナッツの袋をぶら下げている…あれ?昼間なのに大丈夫なのか?
「おい、忍。どこに行っていたんだ?」
俺は声をかけたが、スルーされた。
「おい、てめぇ~、いい加減にしろよ!」
忍が手にしていた袋を奪う。
「何をするのじゃ?」
俺のことを睨む忍。やっと、口を開いたか。
「俺の質問に答えたら返してやるよ」
忍に対して優位に立った俺に、攻撃が放たれてきた。身体中が蜂の巣にされていく。痛みが激しい。が、再生治癒能力により、何も無かったような身体になる。
「フェニックスの能力か、やっかいだな」
忍の後ろに女性が立っていた。細身で胸はそこそこで、かわいい。
「誰だ?お前は?」
名前を尋ねた。
「答える義務はない」
俺は、素早く動き、目の前の女性に襲い掛かる。が、
『吸血鬼ぱんち!』
忍にカウンターをもらった。昼間なのに、ほぼ全力で殴れるのか。何故だ?
「おい、主様の姉に手を出すのは、許さない」
うん?忍の主の姉?俺の姉か?なら問題ないじゃないか…うん?俺に姉はいない。
「おい、俺が主だろ?忍、違うのか?」
「はぁ?もう、お前とはリンクが切れておるのじゃ。いつまでも主面するなよ、人間」
リンクが切れている?なんで?ふと、気づくとドーナツの袋は奪われていた。
「もう関わるなよ、人間。その面はもう見たくない」
そういうと、目の前の二人は、忽然と姿を消した。
◇
と、ここまでの話を忍野に話した。
「それは…忍ちゃんはディウォーカーになったんだ」
「忍野、ディウォーカーって何だ?」
「太陽の下でも活動できる吸血鬼だ。太陽の下で活動できる以外は、なんら吸血鬼と変わりはない。言うなれば…吸血鬼の進化版だ。で、今の主は忍ちゃんを進化させた人物だと思うよ」
「そんな事が出来る奴がいるのか?」
「いるよ。心当たりがある。まぁ、もう忍ちゃんには関わらないことだ、阿良々木君」
「おい、忍野!そいつは誰だ?」
「阿良々木君、もう、関わらない方が良い。これより先の領域は、人間では無理だよ」
「その言い方だと、代羽か?アイツなんだな?おい、忍野!」
「阿良々木君、僕は君の事を心配して、言っているんだよ。これ以上、踏み込むなら、僕は君をかばえなくなるが、良いかな?」
忍野の言葉に対して、俺は何も言い返せなかった。俺には忍野以外、おしゃべりの出来る相手がいなくなったのだから。
「わかった。もう踏み込まない。忍野…また、来るよ」
「阿良々木君、約束だよ。僕の友人の一人を消したくないからね」
俺は、忍野の居城を後にした。
◇
そして、母の日…朝、起きると、家の中は静かだった。俺の部屋以外、家具やら電化製品やら色々な物が消えていた。家の中を調べて見ると、俺以外誰もいなかった。なんで?そういや、昨晩父さんと母さんが何かを話し合っていたよな。何を話し合っていたのか、聞き耳を立てずに、自分の部屋に籠もった俺。う~ん、どういうことだ?取り敢えず、自分の部屋に戻ると…
俺の部屋のドアに張り紙があり
『協議した結果、火憐は俺が、月火は母さんが引き取ることになった。あれ以来、お前の心は閉じたままで、何を話しかけても無視されっぱなしだったな。なので、書き置きでの報告にした。お前はお前で生きてくれ、その家は高校卒業まで住んでよい。学費と生活費は母さんと折半で振り込むから、心配をするな』
最後に、父さんと母さんと妹達の名前が記されていた…はぁい?俺以外の家族は引っ越したと言うことか?聞いていないぞ!
そう言えば、父さんは俺に何かを言いたげで、話しかけようとしていたな。それに対して、俺は睨みを入れてスルーしてしまった。反抗期なだけだよ、父さん…
頭の中が真っ白になった俺は、どこをどう歩いて、何をしたかを思い出せないが、浪白公園のブランコに座っていた。そんな俺の目に、道に迷っているような女の子の姿が入った。本能で動いたようで、意識が戻ると、その女の子を抱きしめて、キスをしていた。
「やめてください…あなたは誰ですか?なんで、いきなりこんなことをするのですか?」
女の子がわめき立てていた。
「かわいい女の子に対しての挨拶だよ。僕は阿良々木暦。君は?」
「私は八九寺真宵です。ありゃりゃぎさん」
「僕は、阿良々木だ!」
「ごめんなさい。噛みまみた♪」
かわいい…言い方も素振りも…いやっほ~♪
「で、どこに行きたいのかな?」
「母の日なので、父さんと離婚してしまった母さんの家に…」
離婚したのか、この子の両親も…会いたいよな。今の俺には良く分かる。
「よし、僕も一緒に探そう。住所は分かるのかな?」
八九寺が住所をメモした紙を見せてくれた。う~、この辺ではあるが、再開発もあって、住所表記が今と違うかもな…そうだ!抱きしめている八九寺を家にお持ち帰りした。
「阿良々木さん…これって?」
がらんとした室内に驚く八九寺。
「協議離婚したそうで、俺以外の家族は離散したんだ。今は家には俺一人だ。八九寺、好きなだけ居ていいぞ」
俺は、自分の部屋に行き、地図を探した。愛用のマウンテンバイクでサイクリングするのに、買っておいたはず…おぉ、エロ本の間に…地図を持って八九寺の待つ場所に向かった。
「八九寺、地図を持って来たぞ。さっきのメモを見せてくれ」
八九寺からメモを渡されて、場所を探す。あぁ、あった。ここに行くには…行き方を頭に入れていく。これでも記憶力は良い方である。
「あの~、阿良々木さん。実は私…母さんに会う為に家出をして来たんです。母さんに会えたら、ここに一緒に住んでも良いですか?」
ウエルカムだ。
「もちろん、良いよ。部屋は一杯ある。好きな部屋を使っていいぞ」
そして、八九寺の母親の家を目指した。
◇
しかし、なかなか辿り着けない。地図を見ながら進むが、再開発によって、道路の位置と形がまるで違っていた。しかも、同じところをグルグル回っているようだ。なんでだ?
パニくっていた俺に声がかかった。
「阿良々木…何してんだ?」
振り向くと、代羽と羽川と戦場ヶ原がいた。
「いいだろう?俺が何をしていても」
八九寺を後ろに隠す。
「で、その子はどうしたんだ?」
えっ…見付かっていた。
「何のことかな?」
「その怪異の子はどうしたんだと、訊いているんだけど」
怪異?えっ?!
「その子は、僕の目で姿を捉えられるけど、翼さん、ひたぎさんの目には映っていないんだよ」
「ウソだろ?おい、羽川!」
「ウソじゃないわ、阿良々木君。一人芝居をしている君を見つけて、私達は観察していたんだよ」
一人芝居…俺は八九寺を抱き抱えた。
「なんで抱き抱えるのに、女の子の胸を揉んでいるのだ?」
あっ…代羽には見えたんだ…しまった。
「ねぇ、貴方にも見えるの?」
八九寺が代羽に尋ねた。え?「見えるの?」って…その質問って…
「見るよ。阿良々木の下心もね」
おい、それは今言わなくていいだろう!
「ねぇ…」
「わかった、連れて行ってあげるよ」
八九寺は俺の元から離れ、アイツの元に…そして、アイツは八九寺を抱えて、飛んだ。アイツの背中には天使のような翼があり、それを使い上空へと飛来していった。
「なぁ、羽川…アイツって、天使なのか?」
「正確に言うと違うけど、天使の血も入っているよ」
そうなのか…
---代羽有栖---
八九寺真宵を抱き抱え、彼女の持っているメモの住所を探す。地表に昔の地形の残像を映し出して、場所を特定して、急降下していく。
「うわぁ~、ジェットコースターみたい♪」
そして、地表近くで速度を落として、ゆっくりと地面に足を着けた。
「ここだよ」
彼女に母親の住んでいた場所を指し示した。それから、上に向かって信号弾を放った。翼さん達に場所を知らせる為に。
彼女の母親の住んでいた場所は、既に更地になっていた。
「どうする?母親の居場所を追うかい?」
彼女に問いかけた。母親の残留オーラから、現在いる場所近くに転移が出来そうだった。
「できるの?」
「できるけど…」
「うん…」
彼女と彼女の母親の場所に転移した。しかし、彼女は事実を知ってしまう。母親は再婚して、彼女の弟、妹をもうけたようだ。家の中には彼女の写真はなかった。彼女には言わなかったけど、彼女の母親の記憶にも、彼女の事はもう…
「どうする?」
「阿良々木さんの家に帰る」
「その状態で?」
「だって、これが今の私…」
「阿良々木好みに出来るけど、どうする?」
「うん?どういう意味ですか?」
彼女の耳にゴニョゴニョと…
「それは、サプライズですねぇ。でも本当に、できるですか?」
暗い顔だった彼女の顔が、ぱっと明るくなった。
「うん、父様なら確実にできる。相談してみるよ」
「是非、お願いします♪」
---阿良々木暦---
信号弾の上がった場所に、羽川達と向かうと、
『彼女の母親の現在いる場所に行ってきます』
っと、メモが貼られていた。そうか、帰れたのか。良かったな、八九寺。
羽川達と別れ、家に帰ると…俺の知らない可愛い歳上な女性が、俺を待っていた。彼女の背負っているリックは見覚えがある…え?なんで?どうして?戸惑う俺…
「あれれれぎさん、お帰りなさい♪」
「俺はレレレのおじさんじゃない。阿良々木だ」
「ごめんなさい。噛みまみた♪」
代羽が、アイツの父親…神様に頼んで、八九寺を現在の年齢換算の姿にして、生き返らせたそうだ。後日、代羽から聞いたのだが、八九寺は母の日に母親に会う為に家出をして、交通事故に遭い、命を落としたそうだ。しかし、母親に会いたいという一心で魂は地縛霊となり、この地を彷徨っていて、毎年、母の日には実体化をして、家に帰りたくない者を迷わせて、1日つきあわせていたようだ。
こうして、戸籍には載らない家族が出来た俺。八九寺とは、この先一緒に生きて行こうと思う。ちなみに今回の件に対する供物は無しで良いらしい。俺の家族が離散したことで、罰に対するお釣りが発生したと思えって。今の俺にとっては充分すぎるお釣りだ。